説明

鉄含有モレキュラーシーブから作製された吸着材料を含んでいる揮発性炭化水素の吸着ユニット

本発明は、炭化水素吸着材料を含んでいる、揮発性炭化水素の放出を制御するための揮発性炭化水素の吸着ユニットに関し、ここで吸着材料は、1価金属イオンで任意に促進され得る鉄含有ゼオライトである。本発明は、さらに、問題の吸着材料の製造手段に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に鉄含有モレキュラーシーブからなる吸着材料を含んでいる揮発性炭化水素の吸着ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
常温始動の炭化水素放出は、いまや内燃機関によって放出される炭化水素の約80%に関与している。これらの放出を減少させるために多くの方法が既に提案されている。これらの方法としては、自動車に装備された触媒が常温で不活性であるときに炭化水素を吸着するための、及び触媒が十分な実用温度に達したときに、その後この炭化水素を高い温度で再び放出するための材料の使用が挙げられ、その使用は、炭化水素を環境面で安全な物質に転換する。今までで最も有望な吸着材料は、モレキュラーシーブ、特にゼオライトである。
【0003】
ゼオライトは常温始動における炭化水素の放出を、例えば、特許文献1に記載されている作用機構によって減少させるべく用いられ得ることが、知られている。
【0004】
モレキュラーシーブ、特にゼオライト材料は、一般的に1:1から500:1のケイ素及びアルミニウムの原子比からなる結晶性無機酸化物材料である。これら材料は、燃焼排ガスの浄化における吸着材として優れており、それは、これら材料がこれら用途において存在する温度条件下で通常安定であるためである。ゼオライトが非常に良好な、Si/Al比に比例する水吸着材でもあることから、それゆえ、異なる多数のゼオライト型が、そのような用途において、特に水に対する安定性に関して研究されている。
【0005】
Higashiyamaら(非特許文献1)は、ゼオライトを銀溶液に含浸させることにより、吸着された炭化水素の脱離温度を上昇させ、さらにそれを常温始動トラップにおいて三元触媒コンバーターのために吸着材料として用いることを提案している。この研究では、11種の金属が促進剤としてゼオライトに対して試験され、また、セリウム、パラジウム、白金及びロジウムなど、試験された他の全ての金属が、銀を除いて不良な結果、即ち、炭化水素脱離の温度に関しては、より低い温度を与えるということが見出された。
【0006】
銀ドープゼオライトの場合に限って、温度は250℃のすぐ上の範囲にあることが見出された。脱離は一般的に、吸着された炭化水素の種類に影響されるが、銀ドープゼオライトのみが、検討された全ての炭化水素(芳香族及び非芳香族の両方)に対して、適度に高い脱離温度を有する。
【0007】
ゼオライトの型が脱離温度に影響することも見出されている。炭化水素吸着ユニットのための多数のゼオライトが特許文献2に記載されており、ここでは優れた水蒸気安定性を特にもたらすべく、ゼオライトが使用前に350〜900℃の水蒸気処理を施されている。ZSM-5 型のゼオライトからの芳香族炭化水素の脱離が、Otremba及びZaydelによって非特許文献2に詳細に記載されており、芳香族炭化水素の脱離がブレンステッドの酸性部位で特に起こることが見出されている。
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0094035号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0226440号明細書
【非特許文献1】Higashiyama et al, SAE Papers 2003-01-0815, page 45〜51
【非特許文献2】Otremba and Zaydel, Reaction Kinetics Analysis Letters, Vol. 51, No. 2473-9 (1993)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の根底にある課題はそれゆえに、従来技術におけるよりもより高い温度でのみ、吸着された炭化水素の脱離を可能にする、炭化水素の吸着のための適当な吸着材料を含んでいる吸着ユニットを提供することにあった。n-デカンがしばしば対照物として用いられる非芳香族炭化水素の場合、“高温”との用語は、少なくとも200℃より高く、好ましくは250℃より高い温度を意味し;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素の場合、300℃より高く、好ましくは350℃より高い温度を意味する。上述した、環境に対して有害な炭化水素の放出に関する内燃機関の常温始動の問題は、このように回避され得る。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、鉄含有モレキュラーシーブである炭化水素吸着材料を含み、且つさらに+1酸化状態にある金属を含んでいる、揮発性炭化水素の放出を制御するための揮発性炭化水素の吸着ユニットの提供によって解決される。吸着ユニットの基本的な原理の説明は、例えば、米国特許出願公開第2004/0094035号明細書から得ることができる。
【0011】
驚くことに、モレキュラーシーブを鉄でドープすることは、吸着される炭化水素、具体的には芳香族及び非芳香族の両方の脱離温度を、従来技術で知られ、例えば銀ドープゼオライトからなる最良の触媒のものより、およそ60〜100℃高めることが見出された。これは、従来技術で知られた銀ドープゼオライトが鉄でさらに促進される場合にも当てはまる。
【0012】
本発明の吸着ユニットにおいては、一般的に優れている実際の金属含有触媒を超えて、炭化水素が脱離される高められた脱離温度において、脱離される炭化水素の実質的に完全な変化があるため、本発明の吸着ユニットは、このように特に高い性能を有し、炭化水素の環境への放出を減少させる。
【0013】
モレキュラーシーブは、SiO2/Al23の比が10:1から100:1である、二酸化ケイ素/二酸化アルミニウム/鉄に基づいたモレキュラーシーブであることが特に好ましい。SiO2/Al23の比の値のこの範囲は、モレキュラーシーブにおけるブレンステッド酸強度およびブレンステッド酸性部位の数が、炭化水素(芳香族及び非芳香族の両方)の効果的な吸着を可能とするほど十分大きいことを確実にする。
【0014】
より好ましくは、モレキュラーシーブは、ZSM-5 型(MFI)、ゼオライトY(FAU)、ベータゼオライト(BEA)、菱沸石(CHA)、モルデナイト(MOR)およびエリオナイト(ERI)、ZSM-11(MEL)、ZSM-12(MTW)、ZSM-23(MTT)のゼオライトから選ばれるゼオライトである。特に好ましい形態は、8、10、又は12の4面体から形成された員環を備えた、ZSM-5 型又はベータゼオライトのゼオライトに与えられる。疎水性つまり親油性で、且つ本発明の目的に適したケイ素の多いゼオライトは、5を超えるSi/Al比を有する。特に高い二酸化ケイ素含量のZSM-5型ゼオライトは、シリカライト(米国特許第4297328号明細書)ともいわれ、本発明の関連で同様に用いられ得る。
【0015】
驚くことに、+1酸化状態の金属をさらに加えることが、芳香族及び非芳香族両方の炭化水素の脱離温度を高温側へ別途約50℃移動させることが見出された。より具体的には、銅、銀及び金の1価の化合物が特に好ましい。最も好ましくは、銀の使用である。
【0016】
特に好ましい実施形態では、鉄の含量は、吸着材料の全重量に対して、0.1〜10重量%である。特に好ましい実施形態では、1〜3重量%である。例えば、米国特許第6887815号明細書又は欧州特許第0955080号明細書に記載されているように、鉄は、含浸又は固体イオン交換のいずれかによって2価鉄の溶液のかたちで導入され得る。
【0017】
+1酸化状態の金属、即ち好ましくは銀の量は、ゼオライトの全重量に対して、0.1〜2%重量%、好ましくは0.1〜1.5重量%である。本発明における+1酸化状態にある金属の量と、本発明における鉄の量との組み合わせは、本発明の特に好ましい実施形態において、吸着された炭化水素の脱離温度を、従来技術の炭化水素の常温開始トラップ又は吸着材料の場合よりも、ある場合には60〜100℃にも高いものに導き得る。前述の脱離温度範囲における上昇の下方値は、好ましい非芳香族、即ち脂肪族の炭化水素に、また、上方の値はオレフィン及び芳香族炭化水素に関する。
【0018】
さらに他方では、本発明は、本発明の吸着ユニットにおいて用いるゼオライトの製造方法を提供し、ここで、
a)アンモニウム塩又はN含有化合物、NH3/NH4ゼオライト、及び鉄化合物、及び1価金属化合物の、乾燥した混合物を準備し、
b)上記成分をミル中でよく混合し、
c)低くとも300℃の温度で加熱処理し、
d)最後に室温へ冷却する。
【0019】
本発明の固体イオン交換は、ゼオライトのブレンステッド酸性内部格子部位における鉄イオン又は1価金属のイオンの正確な配列を可能にする一方で、水相からの鉄の適用は、モレキュラーシーブの外側表面で主に沈殿し、従って、炭化水素の吸着がゼオライトの内部のブレンステッド酸性部位で進むための本発明の目的にとって使用に適さないコロイド状水酸化鉄の沈殿を、より著しく生じさせる。
【0020】
ゼオライト材料は、いずれの場合でも特にアンモニウム態でも用いられ得るZSM-5 (MFI)又は ベータ(BEA)型であることが好ましい。鉄イオン交換反応にとって、アンモニウム態がとりわけ特に好ましい。固体イオン交換反応及びその収率は、加熱処理における窒素含有雰囲気の使用によってプラスに影響される。窒素含有雰囲気は、固体イオン交換反応の収率をさらに高める、さらにアンモニウム含有又はアミン含有である場合がさらにそのうえに好ましい。さらに好ましい実施形態では、固体状態イオン交換反応は、高圧下で影響を受け得る。
【0021】
本発明は、後の図によってさらに示される。
【0022】
測定は、アンモニア昇温脱離法によって実施された。得られた値は、炭化水素の脱離温度の値と関連する。それぞれの曲線は、典型的に2つのシグナル(極大)を有し、そのうち最初のシグナル(極大)を超える総体部は、吸着された炭化水素をしかしながら比較的低い温度で放出する、ゼオライトにおける弱い(ルイス)酸性部位の数の尺度である。2番目のシグナル(極大)は、炭化水素が所望の高い温度で脱離される、ブレンステッド酸性部位の数および脱離温度の尺度である。
【0023】
曲線1は、新たに焼成されたH-BEA25ゼオライトの脱離の分析結果を示す。炭化水素の脱離は、約290〜310℃の温度範囲で生じる。例えば、自動車での三元触媒コンバーターにおいて吸着ユニットの実際の条件に相当するごとく、人工熟成(800℃で24時間)の後では、曲線4は、ほとんど吸着しないこと、それゆえもはや脱離も起こらないことを示している:最初の極大は、曲線1における最初の極大より小さくて3分の1であり、また2番目の極大は、曲線4において事実上完全に消えている。
【0024】
銀の添加(1.5重量%)がある鉄含有ゼオライト(全ゼオライトに対して5.5重量%のFe23)Fe-BEA25は、新たに焼成された状態(曲線2)において、新たに焼成されたH-BEA25と比較して、弱いルイス酸性部位の数が少ない。しかしながら、強いブレンステッド酸性部位で吸着された炭化水素は、約350〜400℃の範囲まで脱離されない。Fe-BEA25ゼオライト(曲線3)の熟成は、熟成されたH-BEA25(曲線4)と対照的に、吸着能又は脱離温度範囲におけるいかなる有意な減少をももたらさない。このように、吸着ユニットにおける鉄含有ゼオライトの使用は、炭化水素の脱離をより高い温度へ移動させること、および非鉄ドープゼオライトに比して長期間の安定性を向上させることの両方を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】銀が添加された鉄ドープセオライト(Fe-BETA25)、及び、非ドープゼオライト(H-BEA25)の炭化水素の脱離温度(温度を因子としてμmolで測定された酸強度)が描かれた図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素の吸着材料を含有しており、
吸着材料が鉄含有モレキュラーシーブであり、且つ+1酸化状態の金属を含んでいることを特徴とする、揮発性炭化水素の放出を制御するための揮発性炭化水素の吸着ユニット。
【請求項2】
モレキュラーシーブが、10:1から100:1のSiO2/Al23の比を有する二酸化ケイ素/二酸化アルミニウム/鉄に基づいたモレキュラーシーブである請求項1記載の吸着ユニット。
【請求項3】
モレキュラーシーブが、ZSM-5 型(MFI)、ゼオライトY(FAU)、ベータゼオライト(BEA)、菱沸石(CHA)、モルデナイト(MOR)、エリオナイト(ERI)、ZSM-11(MEL)、ZSM-12(MTW)、ZSM-23(MTT)のゼオライトから選ばれたゼオライトであることを特徴とする請求項2記載の吸着ユニット。
【請求項4】
ゼオライトがZSM-5 型(MFI)又はベータゼオライト(BEA)のゼオライトである請求項3記載の吸着ユニット。
【請求項5】
ゼオライトが8、10又は12の四面体から形成された員環を有している請求項3又は4記載の吸着ユニット。
【請求項6】
+1酸化状態の金属が、銅、銀および金から選ばれたものである請求項5記載の吸着ユニット。
【請求項7】
鉄の含有量が、吸着材料の全重量に対して0.1〜10重量%、好ましくは1〜3重量%である請求項1〜6のいずれかに記載の吸着ユニット。
【請求項8】
モレキュラーシーブ中の+1酸化状態の金属の比率が、モレキュラーシーブの全重量に対して0.01〜2重量%である請求項1〜7のいずれかに記載の吸着ユニット。
【請求項9】
a)アンモニウム塩又はN含有化合物、NH3/NH4ゼオライト、及び鉄化合物、及び1価金属化合物の、乾燥した混合物を準備し、
b)上記成分をミル中でよく混合し、
c)低くとも300℃の温度で加熱処理し、
d)最後に室温へ冷却する、
請求項1〜8のいずれかに記載の吸着ユニットでの使用のためのゼオライトの製造方法。
【請求項10】
用いるゼオライト材料が、いずれの場合でもアンモニウム態の、ZSM-5 型、MFI 型、又はベータ型のゼオライトである請求項9記載のゼオライトの製造方法。
【請求項11】
混合物が加熱処理中に窒素含有環境に暴露される請求項10記載のゼオライトの製造方法。
【請求項12】
窒素含有環境がさらにアンモニア又はアミンを含む請求項11記載のゼオライトの製造方法。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載のゼオライトの製造方法によって得ることができる改質ゼオライト。

【図1】
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【公表番号】特表2009−520583(P2009−520583A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546190(P2008−546190)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2006/011783
【国際公開番号】WO2007/079852
【国際公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【出願人】(508131358)ズード−ケミー アーゲー (30)
【Fターム(参考)】