鉄筋コンクリート構造へのループアンテナの設置方法及びループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造
【課題】鉄筋コンクリート構造へのループアンテナを設置する方法又はそうした構造であって、格子状鉄筋に対する位置や方位により電磁誘導を低減するものを提案する。
【解決手段】コンクリート構造物内に設置された格子状鉄筋の位置を確認する段階と、少なくとも格子状鉄筋の位置を避けてループアンテナの設置位置を決定する段階とを含み、このループアンテナのうちの少なくとも過半部分が、格子状鉄筋の格子面の法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように設計する。
【解決手段】コンクリート構造物内に設置された格子状鉄筋の位置を確認する段階と、少なくとも格子状鉄筋の位置を避けてループアンテナの設置位置を決定する段階とを含み、このループアンテナのうちの少なくとも過半部分が、格子状鉄筋の格子面の法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように設計する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造へのループアンテナの設置方法及びループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の一部に組み込むループアンテナというと、従来ではTV放送やFM放送を受信するために電波を受信し易いガラス窓に組み込む如きものが知られていた(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、近年ではその用途も広がり、例えば人の移動を検知するために人が携帯する無線タグからの電波を受信するためのループアンテナが良く用いられている(特許文献2の例えば請求項1参照)。こうした用途では、電波の受信し易い場所を選んで設置するという訳にはいかず、例えば通路やドアの近辺など人がよく通る場所にアンテナを普遍的に設置する必要がある。そうすると、アンテナ設置場所として必ずしも好適ではないコンクリートそのものにループアンテナを設置するということも必要となる(特許文献2の段落0104)。
【特許文献1】特開平5−110326号
【特許文献2】特開2007−281877
【特許文献3】特開2002−109680
【特許文献4】特開2005−346521
【特許文献5】特開2003−168913
【特許文献6】特開平05−090820
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献2の如くループアンテナをコンクリート躯体に設置すると、躯体中に埋め込まれた格子状の鉄筋との間に電気的な相互作用を生じ、エネルギー損失を生ずる場合があることが分った。その理由は縦横の鉄筋が相互に接しているために閉ループが形成されるからである。すなわち、図13(A)に示すように格子状鉄筋108のうち格子点110間の鉄筋部分を一つの電線の単位112として、ループアンテナの各部分が偶々格子状鉄筋の各電線単位と重なり、これら電線単位が連続して閉図形が形成されると、閉ループ回路ができてしまう。そして図14に示すループアンテナ116を流れる電流の周りに磁場Mが発生し、この磁場が閉ループ回路118を貫くことで回路内に起電力が発生する。
【0005】
出願人は鉄筋及びループアンテナの重なり具合と電磁波強度との関係のシミュレーションを行い、その結果を図11に示す。図10(B)のようにループアンテナの半分程度が格子状鉄筋と重なっている場合と、同図(A)のように鉄筋がない場合とではエネルギーの損失は殆ど差がないが、同図(C)のようにループアンテナの全体が格子状鉄筋と重なった場合には、電磁波強度が約1/3程度にまで低下してしまうことが判った。
【0006】
電磁誘導を低減する一つの方法は、鉄筋とループアンテナとの間に距離をとることである。周知のように電磁誘導による電力は磁場の大きさに応じて増加し(電磁誘導の法則→数式1)、他方、電流周りの磁場の大きさは電流からの距離に応じて減少する(ビオ・サバールの法則→数式2、アンペールの法則→数式3)からである。これらの所見を元に鉄筋との間に所定の距離を保つようにループアンテナの配置位置を設計することも可能である。
【0007】
[数式1]∫E・cosθds=∫BdS (θは電場(E)と閉回路の微線分sとのなす角度、Bは磁束密度、Sは閉回路の面積)
[数式2]dH=(I/4πr3)dl×r (dHは、閉回路の微線分dlからベクトルrの場所での磁場ベクトル)
[数式3]H=I/2πr
もっともループアンテナというものは、ある程度以上のサイズの場合には、受信機又は送信機から延出した任意形状のアンテナ線を、人が通る特定の場所の周りにループ状に敷設することが多い(特許文献3の図1参照)。こうした敷設作業の現場に適用するアンテナの設置方法は誰でも確実に行える簡単なものである必要がある。
【0008】
また、電磁誘導を低減する他の方法は、鉄筋とループアンテナとの間に磁気的なシールドを設けることである。非接触用通信タグのループアンテナの周囲のうち、金属構造物が存在する側を非導電性磁性シールドですっぽり覆うことは従来から知られている(特許文献4)。しかしながら、アンテナ全体をシールドで覆うことは不経済である。
【0009】
本発明の第1の目的は、鉄筋コンクリート構造へのループアンテナを設置する方法又はそうした構造であって、格子状鉄筋に対する位置や方位により電磁誘導を低減するものを提案することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、上記の方法又は構造であって、簡単かつ確実に実施できるものを提案することである。
【0011】
本発明の第3の目的は、鉄筋コンクリート構造へのループアンテナを設置した構造であって、格子状鉄筋とループアンテナとの間に、非導電性磁性体の磁気シールド片を設置することで電磁誘導の発生を防止するようにしたものを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の手段は、鉄筋コンクリート構造へのループアンテナの設置方法であり、
コンクリート構造物内に設置された格子状鉄筋の位置を確認する段階と、
格子状鉄筋の位置を避けてループアンテナの設置位置を決定する段階とを含み、
このループアンテナのうちの少なくとも過半部分が、格子状鉄筋の格子面の法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように設計したことを特徴とする。
【0013】
本手段では、ループアンテナと鉄筋とが格子状鉄筋の格子面の法線方向から見て重ならないように設置する簡易な方法を提案している。法線方向から見てアンテナ線と鉄筋とが完全に重なっても両者の間の距離(法線方向の距離)を大きくとれれば問題がないのであるが、実際の設計では、コストとの関係で大体2〜4cm程度の距離しかとれない場合が多い。法線方向に距離を確保できないため、格子面内方向でアンテナの位置や向きをずらして、ループアンテナと格子状鉄筋とが重ならないようにすることが発明のポイントである。
【0014】
ここで、「鉄筋部分と重ならない」とは、或る程度の長さを有する線分同士として重ならないことをいう。鉄筋とアンテナ線とが直交する場合のように“点”として重なる場合には、電磁誘導の影響をほとんど生じないからである。もっともアンテナ線も鉄筋もある程度の巾を有するから、浅い角度で交差するときには、その巾方向の一部だけ重なるということが起こりうる(図13(B)の符号Ovで示す部分参照)。そうした場合には、巾方向の一部だけでも重なっている部分は、重なり箇所と考えるとよい。
【0015】
「ループアンテナの対応部分と並行する」の「並行」とは、厳密に平行線(平行直線)でなくてもほぼ平行に並んでいる状態を含む意味である。柔軟な電線を敷設するときには厳密な直線形にはなりにくいからである。
【0016】
そして本発明ではループアンテナの全長のうち過半部分が重複していなければよいとしている。(a)ループアンテナの全体が格子状鉄筋内に設置された場合と、(b)ループアンテナの半分が格子状アンテナ内に設置された場合と、(c)格子状鉄筋のない場所にループアンテナを設置した場合とでそれぞれ電磁誘導の影響をシミュレーションしたところ、(b)では(c)と同程度の結果が得られたからである。
【0017】
「鉄筋の位置を確認する」方法としては、設計図などを用いて確認する方法と、鉄筋の位置を非破壊検査で測定する方法などが考えられる。
【0018】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
上記格子状鉄筋のうち隣り合う格子点間の鉄筋部分を、一つの電線単位として、
また各電線単位を、それら格子点からの一定距離aの範囲にある2つの端部分と、これら端部分を除く中間部分とに区別し、かつ、その距離aを、ループアンテナから格子面までの距離として、
ループアンテナの全周において、ループアンテナが、格子面の法線方向から見て、各電線単位の中間部分を通過するように設計したことを特徴とする。
【0019】
本手段では、格子状鉄筋のうち隣り合う格子点間の鉄筋部分を、閉ループ回路の電線単位として、この電線単位の中間部分をアンテナ線が通るように設計している。端部分を通るようにすると、その格子点で交差する鉄筋にアンテナ線が接近し、電磁誘導の作用が強くなるからである。
【0020】
「格子面」とは、相互に交差する2方向の鉄筋のうち交接点(格子点)で形成される面とよい。ループアンテナとの距離を問題とするときには、正確にはループアンテナと各鉄筋との間の距離を問題とすべきであるが、煩雑である。アンテナに近い側の鉄筋の表面のうちアンテナと反対側部分(交接点がある部分)を格子面とすることで、隙間長に余裕をもたせることができる。
【0021】
第3の手段は、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造であり、
コンクリート躯体中に躯体表面から一定の深さで埋め込まれた格子状鉄筋と、
この格子状鉄筋の格子面と平行にかつ格子面との間に一定の間隙を存して、格子面とコンクリート躯体表面の間に設置されたループアンテナと、を含み、
上記ループアンテナは、格子面の法線方向から見て長方形などのほぼ閉ループ形であり、
かつこのループアンテナは、その全周の過半部を占める2つの長辺又は長辺相当長さ部分が上記法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように構成したことを特徴とする。
【0022】
本手段では、格子面の法線方向から見て、ループアンテナの少なくとも過半部分が鉄筋と重ならないように設置したコンクリート構造を提案している。先の手段で述べた構成に関する説明は本手段に援用する。互いに並行するアンテナ部分と鉄筋とが巾方向に一部でも重複していているときには、重なっているものとする。
【0023】
「閉ループ形」とは、完全なループである必要はなく、図1に示すようにアンテナとしてループ同様の機能を発揮できる形状であれば足りる。本発明では、特に長方形・長円など一方向に長い形のループアンテナにおいて電磁誘導を軽減する構造について詳しく説明している。それは、例えばドアやゲートに設置するアンテナとして有利だからである。長方形や長円であれば2つの長辺が重ならないようにすればよい。長方形や長円以外の形状では、長辺に相当する長さを有する部分(例えば三角形のループでは3辺中の2辺)が重ならなければよい。
【0024】
第4の手段は、第3の手段を有し、かつ
上記法線方向から見たループアンテナの形状を、一方向に長く、当該方向への2つの長辺を有する長方形などの長形状とするとともに、
この図形の2つの長辺を、一つの鉄筋に対して、当該鉄筋との間に格子面の法線方向から見て、面内方向の離間長さaを存して平行に設置し、
この離間長さaは、格子面とループアンテナとの距離dに対して、次の条件を満たすことを特徴とする。
【0025】
[数式1] d/a≦1
本手段では、長方形又は長円の長辺を鉄筋から所定距離を離すことで電磁誘導を軽減している。上記アンペールの法則から判るようにアンテナからの鉄筋の距離を離せば格子状鉄筋中の任意の閉ループ回路を通る磁場が弱くなるからである。簡単に説明すると、鉄筋との距離に比べて十分に長いアンテナ部分の周りに発生する磁場の大きさは、アンペールの法則に従い、アンテナ部分からの距離rに反比例して減衰する。また電磁誘導の法則によれば、ある閉ループ回路を通る磁束密度の面積積分は、その回路の電線方向の電界の線積分に比例する。回路内に作用する電場をE、回路中を流れる電流をI、回路の抵抗をRとすると、消費電力Pは、P=E・I=E2/Rで与えられる。E∝(1/r)であるとすれば、ループアンテナと隣接する鉄筋の閉ループ回路に電磁誘導を生ずることのエネルギー損失はおおよそ距離rの二乗に反比例すると理解される。従って法線方向から見た鉄筋とアンテナの間隙長を、法線方向の格子面とアンテナとの距離と同じにすれば、その間隙長がゼロである場合に比べて、エネルギー損失は半分になると考えられる。
【0026】
ここで「格子面とループアンテナとの距離」とは格子面からアンテナ線の中心までの法線方向の距離をいうものとし、また「(格子)面内方向の離間長さ」とは、アンテナ線及び鉄筋の各中心を通る法線の間の距離をいうものとする。
【0027】
「2つの長辺を有する長方形などの長形状」には、長方形の他に、長円形、高さに比べて横長の台形又は平行四辺形などが含まれる。
【0028】
第5の手段は、第3の手段を有し、かつ
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、長軸方向に長い楕円などの長形図形とし、
かつループアンテナの短軸側の両側部を、法線方向から見て長軸方向の鉄筋と斜交する、短軸方向外側又は内側への少なくとも一つの湾曲部とし、
各弯曲部において、その弯曲部のうち法線方向から見て長軸との角度が10°未満の略平行部分が、それ以外の斜行部分よりも長くなるように設計したことを特徴とする。
【0029】
本手段では、ループアンテナと鉄筋との間の電磁誘導を、鉄筋の向きに対してアンテナを斜交させることで低減することを提案する。鉄筋の方向に長軸を平行させて楕円などの長い形のループアンテナを設置したとする。その場合に、長軸側の両側部に比べて短軸側の両側部は長いし、曲りが緩やかなので、格子面の法線方向から見て鉄筋と交わったときに電磁誘導への寄与が大きい。そこで短軸側の両側部を弯曲させ、鉄筋との間に法線方向から見て角度をつけることで電磁誘導作用を抑制している。電磁誘導の法則(∫E・cosθds=∫BdS)から判るように、ループアンテナの周りに磁場が生ずると、ループアンテナの格子面への射影図形の輪郭線に平行な鉄筋部分(θ=0)は最も強く影響を受け、輪郭線と直交する鉄筋(θ=π/2)は影響を受けない。θ=10°程度である場合には、cosθ=0.98であるから、上記輪郭線と鉄筋とが平行であるのと殆ど同じである。しかもその場合には、θが小さいので交差点を中心としてアンテナと接近する範囲が大きい。そこで本発明では、ループアンテナの短軸側の側端部に湾曲部を形成して、法線方向から見てアンテナを鉄筋と斜交させ、斜行部分が、鉄筋と実質的に平行な部分よりも長くなるようにしたのである。
【0030】
「弯曲部」は、格子面の法線方向から見てある程度の角度(少なくとも10°以上の角度)で鉄筋と交差すればよく、弯曲の向きは任意である。図形の側外方へ膨出する膨出部でも、内方へ凹むくびれ部であってもよい。本発明の構成のうち、長方形などの図形の対向2辺をくびれさせる構造は従来から知られており(例えば特許文献5及び特許文献6)、本発明の特徴はくびれ部を含む弯曲部と鉄筋との相対的な向きの関係にある。
【0031】
第6の手段は、第5の手段を有し、かつ
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、長軸方向に長くかつ長軸方向の両端部が先細となる長形図形であって、
この図形の短軸方向の両端部を、長軸方向と斜交又は直交する2つの傾辺を含む弯曲部に形成し、
この湾曲部の傾辺と長軸とが格子面の法線方向からみてなす角度を25°以上としたことを特徴とする。
【0032】
本手段は、長形図形の短軸側の端部を弯曲部とし、鉄筋と平行な長軸に対してアンテナ線を斜行させることで電磁誘導効果を低減することを提案している。鉄筋に対してアンテナ線を傾斜させることでファラデーの電磁誘導の法則におけるθが大きくなるとともに、鉄筋と接近するアンテナの範囲を小さくすることができる。この構成では、短軸側の両側部に、縦軸に対して斜行する傾辺を含む弯曲部を形成したから、縦軸方向の鉄筋に対して、その位置によらず電磁誘導を生じにくい。また長軸方向の両端部が先細となっているので、短軸方向の鉄筋に対して、その位置によらず電磁誘導を生じにくい。本手段は、格子状鉄筋の方向が分っていれば適用することができるので、より便利である。
【0033】
第7の手段は、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造であり、
コンクリート躯体中に躯体表面から一定の深さで埋め込まれた格子状鉄筋と、
この格子状鉄筋の格子面と平行にかつ格子面との間に一定の間隙を存して、格子面とコンクリート躯体表面の間に設置されたループアンテナと、を含み、
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、ほぼ長軸方向に延びる2つの長辺又は長辺に相当する周辺部分を有する長形図形とし、
上記長辺又は周辺部分の複数個所と格子面との間に、アンテナ線を覆う非導電性磁性体で形成した複数の磁気シールド片を敷設している。
【0034】
本手段では、電磁誘導及び渦電流を緩和する手立てとして、長形図形のループアンテナの各長辺の少なくとも一部を覆うように磁気シールド片を設けることを提案している。シールドの方法として、非対象物全体を非導電シールドで覆ったり、或いは導電体であるメッシュで覆うことは公知であるが、前者は多量のシールド材料を必要とし、後者は必ずしも十分なシールド効果が得られない。本発明では、電磁誘導などの寄与が大きい長辺又は長辺相当の周辺部分にポイントを絞ってシールドをするので、シールド材を効果的に使用できる。本手段は単独で使用してもよいが、先の第3の手段から第6の手段と併用しても効果的である(図5の符号24参照)。つまり鉄筋に対してアンテナ線を離間させたり、傾けたりすることで、電磁誘導などの影響を低減し、それでも影響力の大きい平行部分にシールドを施すのである。
【0035】
「アンテナを覆う」構造の一好適例として、アンテナ線を横切る磁気シールド片をコンクリート躯体とアンテナとの間に設置した構造を図示しているが、例えば電線の長手方向一部の回りに磁気シールドテープを巻きつけてもよい。
【発明の効果】
【0036】
第1の手段又は第3の手段に係る発明によれば、ループアンテナの少なくとも過半部分と鉄筋と重ならないように設計するから、ループアンテナが鉄筋とたまたま重なった場合に比べて両者の間の電磁誘導を抑制し、エネルギーの損失を低減できる。
【0037】
第2の手段に係る発明によれば、ループアンテナが格子状鉄筋の格子点間の鉄筋部分の中間部分を通るように設計したから、さらに電磁誘導を抑制してエネルギー損失を低減することができる。
【0038】
第4の手段に係る発明によれば、格子面の法線方向から見て鉄筋とループアンテナとの間に、格子面とループアンテナとの距離と同程度の隙間長を確保したから、電磁誘導によるエネルギー損失を半分以下に軽減することができる。
【0039】
第5の手段又は第6の手段に係る発明によれば、ループアンテナの湾曲部と鉄筋とを斜交させることで鉄筋内に誘導される電場を弱くしてエネルギー損失を低減することができる。
【0040】
第7の手段に係る発明によれば、長形状のループアンテナの長辺又は周辺部分を隠すように磁性シールド片を設置したから、電磁誘導や渦電流を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
図1から図4は、本発明の鉄筋コンクリート構造の第1実施形態を示している。
【0042】
この鉄筋コンクリート構造は、コンクリート躯体2と、格子状鉄筋4と、ループアンテナ16とで構成される。また、図示例では、コンクリート躯体2の表面から一定の間隔を存して床仕上げ材30が敷設されている。
【0043】
コンクリート躯体2は、図示の例では床スラブとして構成している。床と連続する壁4にドア設置用の通路6が形成され、この通路を介した人の出入りをチェックするために後述のループアンテナを設置する。もっとも床ではなく、壁体をアンテナ設置対象であるコンクリート躯体としてもよい。
【0044】
格子状鉄筋8は、従来公知の構造であり、相互に直交する直行する第1の鉄筋8aと第2の鉄筋8bとで形成されている。これらの鉄筋は拘束線などで結合されている。第1の鉄筋8aは壁体に平行に、第2の鉄筋8bは壁体に直角に配向されている。このため各鉄筋の交接箇所で通電可能となっていることが多い。そこで、本明細書では、この交接箇所を格子点10といい、隣り合う格子点間の鉄筋部分を電線単位12というものとする。また格子点を含む平面を格子面14というものとする。
【0045】
ループアンテナ16は、コンクリート躯体の表面に敷設されている。図示例では、ループアンテナは、不定形で柔軟な電線の一部をループ状にし、コンクリート躯体の表面に接着テープなどの固定具で固定されることで形成される。当該一部以外の電線部分は引き出し線17として、図示しない受信機に接続する。もちろん最初からループ形に付形したアンテナを使用してもよいのであるが、建物の特定個所にアンテナを設置する用途では現場の状況に応じてループの大きさや形を変更できる不定形のタイプの方が有利なことが多い。
【0046】
本実施形態では、ループアンテナ16は、長形図形の一つとして図2に示す如く縦長の長方形とし、その長辺を壁体に平行に壁体の通路に臨ませている。ループアンテナ16を長形図形とする理由は、壁体付きの通路を通過する人を過不足なくチェックするのに有利だからである。例えば真円や正方形であると、通路から離れたところまでアンテナ設置個所が形成されることとなる。そうすると、単に通路の前を横切る人も検出してしまうことになり易い。
【0047】
次にループアンテナと鉄筋との位置関係を説明する。図示例では、格子面の法線方向から見て格子点間の鉄筋部分である電線単位12の中点をループアンテナが通過するように構成している。この中点位置がアンテナ線の通過場所として最適であるが、少なくとも上記電線単位12のうち、端部分12aを除く中間部分12bを通過させるものとする。こうすることでループアンテナの各辺とこれと平行な鉄筋との間に距離をとって両者間の電磁誘導作用を低減することができる。
【0048】
鉄筋の真上にアンテナ線を設置した場合のエネルギー損失をe0、鉄筋からアンテナ線まで法線方向から見た間隙長aをおいた場合のエネルギー損失をe1とし、また格子面からコンクリート表面までの距離をaとする。そうすると、電磁誘導によるエネルギー損失は距離の2乗に反比例するから、エネルギーの損失比に関して次式が成立する。この式より、エネルギーの損失は、a=dのときにa=0のときの約半分程度であり、さらにaが大きくなるにつれて急激に減少することがわかる。
[数式4]e1/e0=1/{1+(a/d)2}
仮にd=50mmであり、鉄筋の間隔が200mmであるとして、a=100の場合(中点位置)にはe1/e0=0.20であり、またa=75mmのときにはe1/e0=0.31となる。従ってアンテナ線を厳密に中点位置に置かなくても、それなりに電磁誘導を減衰する効果がある。
【0049】
また上記の説明では、ループアンテナの長方形状の全ての辺が電線単位の中間部分を通過するようにしているが、2つの長辺だけが対応する電線単位の中間部分(好ましくは中点)を通過するようにしてもよい。2つの長辺だけでもループアンテナの全周の過半部に相当する。全周の過半部について鉄筋から十分に離せば電磁誘導の作用をかなり減衰させることができる。
【0050】
図4は、本実施形態の変形例であり、ループループの形状を長方形から、2つの長辺を有する他の長形図形としたものである。同図(a)は長円形、同図(b)は台形であり、それぞれ電線単位12の中点をアンテナが通るように敷設されている。
【0051】
このループアンテナを設置する手順を説明する。
【0052】
第1に、コンクリート躯体の鉄筋の位置及び被り深さを確認する。そのためには電磁誘導などを利用した既存の鉄筋探査機を利用して鉄筋を検査すればよい。また、設計図面などから鉄筋の位置及び被り深さが分かるときには、上記検査を省略してもよい。
【0053】
第2に、確認した鉄筋の位置から所定の距離を離してループアンテナ16を設置する。最適な施工例としては、格子点の鉄筋部分で形成される電線単位の中点を通るように構成する。
【0054】
以下本発明の他の実施形態を説明する。これらの実施形態において第1の実施形態と同じ構成については同一の符号を用いることで説明を省略する。
【0055】
図5及び図6は、第2の実施形態を示している。第1の実施形態は、一方鉄筋に平行な2つの長辺を有する図形を対象としていたが、本実施形態では、そうした長辺を有しない図形を対象とする。
【0056】
こうした図形では、第1実施形態のようにアンテナの全周の過半部を示す代表的な部分(長辺)とアンテナとの間に距離をとるという方法を適用しにくい。そこで本手段では、楕円などの長形図形の長軸ALを格子状鉄筋の一方鉄筋と平行とし、アンテナ線の各部が鉄筋と斜交するようにすることで、電磁誘導を低減するようにしている。前述の通り相互に鉄筋とアンテナ線とが平行である場合に比べて、斜交する場合の方が、電磁誘導作用が小さいからである。
【0057】
ループアンテナ16の形状を楕円形にすれば、格子状鉄筋と線分として重なる部分は少なくなる。しかしながら、楕円形の扁平性の程度によっては実質的に鉄筋と平行な部分が無視できなくなる。図6(A)〜(D)は、楕円の焦点Fから短軸ASの先端Gまでの線分と楕円の長軸ALとが成す角度をη=15°、20°、25°、30°に変えて様々な楕円を描いたものである。各楕円毎に長軸ALの延長線に対して角度ζ=10°をなす補助線を作図し、ループアンテナの全長のうち長軸方向となす角度が10°以下の部分(同図中のA1〜B1及びA2〜B2)を太線で描いている。この太線の部分は長軸方向との傾斜角度が小さく、長軸AL(および第1の鉄筋)と実質的に平行な部分である。同図(C)や(D)のよう楕円は、長軸ALと実質的に平行な部分が全周の過半部に満たないために格子状鉄筋のどこに設置しても大きな影響がない。しかしながら、同図(A)や(B)のように扁平に近く、長軸ALと実質的に平行な部分が全周の過半部を占める楕円では、その部分がたまたま鉄筋と重なると、鉄筋に及ぼす電磁誘導の作用が大きい。従って同図(A)や(B)のような楕円形では、短径側の側部が電線単位の中点付近を通るようにすることが好ましい。
【0058】
図7及び図8は、本発明の第3の実施形態を示している。本実施形態は、長軸ALに対してループアンテナを斜行させるという考え方を発展させたものである。このために、長軸に長い長形図形のうち短軸AS側の側部を、図形の外方又は内方へ湾曲する湾曲部20に形成している。この湾曲部は、格子面の法線方向から見て25°以上の角度で鉄筋と斜交(又は直交)する2つの傾辺32を含む。
【0059】
図7は、長形図形を、一方向の鉄筋と平行な長軸AL方向に長い菱形としている。そして菱形の短軸AS側の角部を弯曲部20としている。また図8は、中央部がくびれたひょうたん形をしており、そのくびれ部を弯曲部20としている。
【0060】
図示はしていないが、弯曲部が一つである必要はなく、短軸AS側の側部がジグザグ形又は波形になっていてもよい。
【0061】
図9は、本発明の第4の実施形態を示している。この実施形態では、長軸AL方向に長く、2つの長辺を有する長形図形のループアンテナを、その長軸ALを一方鉄筋と平行としてコンクリート躯体の上に配置している。そして、それら長辺の複数個所とコンクリート躯体の表面との間に、アンテナ線を横断する複数の磁気シールド片24を一定間隔を存して設置している。そうすると、ループアンテナの回りに生じた磁場は、一連の磁気シールド片24内に引き込まれるのでアンテナに作用する磁場が弱められる。これにより、電磁誘導の作用が弱まるとともに渦電流も抑制される。
【0062】
上記磁気シールド片24は、例えばフェライトなどの非導電性磁性体で形成するとよい。図示例では、磁気シールド片を板状に形成しているが、その形態は適宜変更することができる。
【0063】
図10及び図11は、本発明の創作の前提となるシミュレーションの説明図である。これらのシミュレーションにおいて、鉄筋の直径は20mm、200mm×200mm間隔の格子とし、格子面とループコイルの間隔を40mmとした。ループコイルは、仮に長辺長(2α)が4200mm、短辺長(2β)が800mmの長方形とし、その図形中心Oを原点として、X軸、Y軸を鉄筋の2方向に一致させた。そして、図10(A)に示すように鉄筋のないコンクリート躯体にループアンテナ16を設置した場合、図10(B)に示すようにループアンテナの設置箇所の約半分にループアンテナ16を設置した場合、図10(C)に示すようにループアンテナの設置箇所全体にループアンテナ16を設置した場合のそれぞれについて原点Oでの磁束密度を算出した。そうすると図10(A)のように鉄筋なしの場合と、図10(C)のようにアンテナ設置箇所の全部に鉄筋を入れた場合とでは、予想通り磁束密度に大きな差異が見られた。ところが、図10(B)のようにアンテナ設置箇所の半分に鉄筋を入れた場合は、鉄筋なしの場合とほとんど磁束密度に差異がなかった。これは、ループアンテナの約半分程度だけでも十分に電磁誘導を抑制することができれば、良好な結果が得られることを示唆している。
【実施例】
【0064】
図12は、本発明を、エントランスに適用した例である。入口である通路6の上部には対人センサ(侵入検知センサ)34が設置されており、かつ通路6形成箇所の床部分には、本発明の方法で設置されたループアンテナ16が設置されている。図12(A)に示すようにIDタグを有する利用者がループアンテナによって形成される電磁波領域に入ると、IDタグがループアンテナによる電磁波信号を検出して起動し、IDタグから利用者の固有ID信号を発信する。IDタグから発信されたID信号は、図示しないIDタグ信号受信機によって受信され、利用者のIDをチェックする。このとき対人センサ34は、通路6を通る人を検知しているが、正しいIDが検知されている間は、警報信号の送信を保留する。この利用者がループアンテナによって形成される電磁波領域を出ると、IDタグは停止し、利用者のIDが受信されなくなるため、上記保留が解除される。その後に、図12(B)のように入場権限のない人物が対人センサ34の下を通過しようとすると、警報信号が図示しない警報機に送られる。これら一連の動作を可能にするには、本発明により電磁誘導などの影響を排した、正確な信号受信が重要となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造の適用例を示す斜視図である。
【図2】図1の鉄筋コンクリートの平面図である。
【図3】図1の鉄筋コンクリートの要部拡大縦断面図である。
【図4】図1の鉄筋コンクリートの変形例の平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造の平面図である。
【図6】図5のコンクリート構造におけるループアンテナの変形例を示す説明図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造の一例の平面図である。
【図8】同実施形態の他の一例の平面図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造の平面図である。
【図10】本発明の設計のためのシミュレーションに用いたアンテナ設置例を示す図である。
【図11】図10のシミュレーションの結果を表すグラフである。
【図12】本発明の実施例を示す図である。
【図13】従来のループアンテナ設置の例を示す図である。
【図14】電磁誘導を生ずる現象を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
2…コンクリート躯体 4…格子状鉄筋 6…通路 8…格子状鉄筋 8a…第1の鉄筋
8b…第2の鉄筋 10…格子点 12…電線単位 14…格子面
16…ループアンテナ 17…引き出し線 20…弯曲部 24…磁気シールド片
30…仕切り材 34…対人センサ
108…鉄筋 116…アンテナ
AL…長軸 AS…短軸
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造へのループアンテナの設置方法及びループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の一部に組み込むループアンテナというと、従来ではTV放送やFM放送を受信するために電波を受信し易いガラス窓に組み込む如きものが知られていた(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、近年ではその用途も広がり、例えば人の移動を検知するために人が携帯する無線タグからの電波を受信するためのループアンテナが良く用いられている(特許文献2の例えば請求項1参照)。こうした用途では、電波の受信し易い場所を選んで設置するという訳にはいかず、例えば通路やドアの近辺など人がよく通る場所にアンテナを普遍的に設置する必要がある。そうすると、アンテナ設置場所として必ずしも好適ではないコンクリートそのものにループアンテナを設置するということも必要となる(特許文献2の段落0104)。
【特許文献1】特開平5−110326号
【特許文献2】特開2007−281877
【特許文献3】特開2002−109680
【特許文献4】特開2005−346521
【特許文献5】特開2003−168913
【特許文献6】特開平05−090820
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献2の如くループアンテナをコンクリート躯体に設置すると、躯体中に埋め込まれた格子状の鉄筋との間に電気的な相互作用を生じ、エネルギー損失を生ずる場合があることが分った。その理由は縦横の鉄筋が相互に接しているために閉ループが形成されるからである。すなわち、図13(A)に示すように格子状鉄筋108のうち格子点110間の鉄筋部分を一つの電線の単位112として、ループアンテナの各部分が偶々格子状鉄筋の各電線単位と重なり、これら電線単位が連続して閉図形が形成されると、閉ループ回路ができてしまう。そして図14に示すループアンテナ116を流れる電流の周りに磁場Mが発生し、この磁場が閉ループ回路118を貫くことで回路内に起電力が発生する。
【0005】
出願人は鉄筋及びループアンテナの重なり具合と電磁波強度との関係のシミュレーションを行い、その結果を図11に示す。図10(B)のようにループアンテナの半分程度が格子状鉄筋と重なっている場合と、同図(A)のように鉄筋がない場合とではエネルギーの損失は殆ど差がないが、同図(C)のようにループアンテナの全体が格子状鉄筋と重なった場合には、電磁波強度が約1/3程度にまで低下してしまうことが判った。
【0006】
電磁誘導を低減する一つの方法は、鉄筋とループアンテナとの間に距離をとることである。周知のように電磁誘導による電力は磁場の大きさに応じて増加し(電磁誘導の法則→数式1)、他方、電流周りの磁場の大きさは電流からの距離に応じて減少する(ビオ・サバールの法則→数式2、アンペールの法則→数式3)からである。これらの所見を元に鉄筋との間に所定の距離を保つようにループアンテナの配置位置を設計することも可能である。
【0007】
[数式1]∫E・cosθds=∫BdS (θは電場(E)と閉回路の微線分sとのなす角度、Bは磁束密度、Sは閉回路の面積)
[数式2]dH=(I/4πr3)dl×r (dHは、閉回路の微線分dlからベクトルrの場所での磁場ベクトル)
[数式3]H=I/2πr
もっともループアンテナというものは、ある程度以上のサイズの場合には、受信機又は送信機から延出した任意形状のアンテナ線を、人が通る特定の場所の周りにループ状に敷設することが多い(特許文献3の図1参照)。こうした敷設作業の現場に適用するアンテナの設置方法は誰でも確実に行える簡単なものである必要がある。
【0008】
また、電磁誘導を低減する他の方法は、鉄筋とループアンテナとの間に磁気的なシールドを設けることである。非接触用通信タグのループアンテナの周囲のうち、金属構造物が存在する側を非導電性磁性シールドですっぽり覆うことは従来から知られている(特許文献4)。しかしながら、アンテナ全体をシールドで覆うことは不経済である。
【0009】
本発明の第1の目的は、鉄筋コンクリート構造へのループアンテナを設置する方法又はそうした構造であって、格子状鉄筋に対する位置や方位により電磁誘導を低減するものを提案することである。
【0010】
本発明の第2の目的は、上記の方法又は構造であって、簡単かつ確実に実施できるものを提案することである。
【0011】
本発明の第3の目的は、鉄筋コンクリート構造へのループアンテナを設置した構造であって、格子状鉄筋とループアンテナとの間に、非導電性磁性体の磁気シールド片を設置することで電磁誘導の発生を防止するようにしたものを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の手段は、鉄筋コンクリート構造へのループアンテナの設置方法であり、
コンクリート構造物内に設置された格子状鉄筋の位置を確認する段階と、
格子状鉄筋の位置を避けてループアンテナの設置位置を決定する段階とを含み、
このループアンテナのうちの少なくとも過半部分が、格子状鉄筋の格子面の法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように設計したことを特徴とする。
【0013】
本手段では、ループアンテナと鉄筋とが格子状鉄筋の格子面の法線方向から見て重ならないように設置する簡易な方法を提案している。法線方向から見てアンテナ線と鉄筋とが完全に重なっても両者の間の距離(法線方向の距離)を大きくとれれば問題がないのであるが、実際の設計では、コストとの関係で大体2〜4cm程度の距離しかとれない場合が多い。法線方向に距離を確保できないため、格子面内方向でアンテナの位置や向きをずらして、ループアンテナと格子状鉄筋とが重ならないようにすることが発明のポイントである。
【0014】
ここで、「鉄筋部分と重ならない」とは、或る程度の長さを有する線分同士として重ならないことをいう。鉄筋とアンテナ線とが直交する場合のように“点”として重なる場合には、電磁誘導の影響をほとんど生じないからである。もっともアンテナ線も鉄筋もある程度の巾を有するから、浅い角度で交差するときには、その巾方向の一部だけ重なるということが起こりうる(図13(B)の符号Ovで示す部分参照)。そうした場合には、巾方向の一部だけでも重なっている部分は、重なり箇所と考えるとよい。
【0015】
「ループアンテナの対応部分と並行する」の「並行」とは、厳密に平行線(平行直線)でなくてもほぼ平行に並んでいる状態を含む意味である。柔軟な電線を敷設するときには厳密な直線形にはなりにくいからである。
【0016】
そして本発明ではループアンテナの全長のうち過半部分が重複していなければよいとしている。(a)ループアンテナの全体が格子状鉄筋内に設置された場合と、(b)ループアンテナの半分が格子状アンテナ内に設置された場合と、(c)格子状鉄筋のない場所にループアンテナを設置した場合とでそれぞれ電磁誘導の影響をシミュレーションしたところ、(b)では(c)と同程度の結果が得られたからである。
【0017】
「鉄筋の位置を確認する」方法としては、設計図などを用いて確認する方法と、鉄筋の位置を非破壊検査で測定する方法などが考えられる。
【0018】
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
上記格子状鉄筋のうち隣り合う格子点間の鉄筋部分を、一つの電線単位として、
また各電線単位を、それら格子点からの一定距離aの範囲にある2つの端部分と、これら端部分を除く中間部分とに区別し、かつ、その距離aを、ループアンテナから格子面までの距離として、
ループアンテナの全周において、ループアンテナが、格子面の法線方向から見て、各電線単位の中間部分を通過するように設計したことを特徴とする。
【0019】
本手段では、格子状鉄筋のうち隣り合う格子点間の鉄筋部分を、閉ループ回路の電線単位として、この電線単位の中間部分をアンテナ線が通るように設計している。端部分を通るようにすると、その格子点で交差する鉄筋にアンテナ線が接近し、電磁誘導の作用が強くなるからである。
【0020】
「格子面」とは、相互に交差する2方向の鉄筋のうち交接点(格子点)で形成される面とよい。ループアンテナとの距離を問題とするときには、正確にはループアンテナと各鉄筋との間の距離を問題とすべきであるが、煩雑である。アンテナに近い側の鉄筋の表面のうちアンテナと反対側部分(交接点がある部分)を格子面とすることで、隙間長に余裕をもたせることができる。
【0021】
第3の手段は、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造であり、
コンクリート躯体中に躯体表面から一定の深さで埋め込まれた格子状鉄筋と、
この格子状鉄筋の格子面と平行にかつ格子面との間に一定の間隙を存して、格子面とコンクリート躯体表面の間に設置されたループアンテナと、を含み、
上記ループアンテナは、格子面の法線方向から見て長方形などのほぼ閉ループ形であり、
かつこのループアンテナは、その全周の過半部を占める2つの長辺又は長辺相当長さ部分が上記法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように構成したことを特徴とする。
【0022】
本手段では、格子面の法線方向から見て、ループアンテナの少なくとも過半部分が鉄筋と重ならないように設置したコンクリート構造を提案している。先の手段で述べた構成に関する説明は本手段に援用する。互いに並行するアンテナ部分と鉄筋とが巾方向に一部でも重複していているときには、重なっているものとする。
【0023】
「閉ループ形」とは、完全なループである必要はなく、図1に示すようにアンテナとしてループ同様の機能を発揮できる形状であれば足りる。本発明では、特に長方形・長円など一方向に長い形のループアンテナにおいて電磁誘導を軽減する構造について詳しく説明している。それは、例えばドアやゲートに設置するアンテナとして有利だからである。長方形や長円であれば2つの長辺が重ならないようにすればよい。長方形や長円以外の形状では、長辺に相当する長さを有する部分(例えば三角形のループでは3辺中の2辺)が重ならなければよい。
【0024】
第4の手段は、第3の手段を有し、かつ
上記法線方向から見たループアンテナの形状を、一方向に長く、当該方向への2つの長辺を有する長方形などの長形状とするとともに、
この図形の2つの長辺を、一つの鉄筋に対して、当該鉄筋との間に格子面の法線方向から見て、面内方向の離間長さaを存して平行に設置し、
この離間長さaは、格子面とループアンテナとの距離dに対して、次の条件を満たすことを特徴とする。
【0025】
[数式1] d/a≦1
本手段では、長方形又は長円の長辺を鉄筋から所定距離を離すことで電磁誘導を軽減している。上記アンペールの法則から判るようにアンテナからの鉄筋の距離を離せば格子状鉄筋中の任意の閉ループ回路を通る磁場が弱くなるからである。簡単に説明すると、鉄筋との距離に比べて十分に長いアンテナ部分の周りに発生する磁場の大きさは、アンペールの法則に従い、アンテナ部分からの距離rに反比例して減衰する。また電磁誘導の法則によれば、ある閉ループ回路を通る磁束密度の面積積分は、その回路の電線方向の電界の線積分に比例する。回路内に作用する電場をE、回路中を流れる電流をI、回路の抵抗をRとすると、消費電力Pは、P=E・I=E2/Rで与えられる。E∝(1/r)であるとすれば、ループアンテナと隣接する鉄筋の閉ループ回路に電磁誘導を生ずることのエネルギー損失はおおよそ距離rの二乗に反比例すると理解される。従って法線方向から見た鉄筋とアンテナの間隙長を、法線方向の格子面とアンテナとの距離と同じにすれば、その間隙長がゼロである場合に比べて、エネルギー損失は半分になると考えられる。
【0026】
ここで「格子面とループアンテナとの距離」とは格子面からアンテナ線の中心までの法線方向の距離をいうものとし、また「(格子)面内方向の離間長さ」とは、アンテナ線及び鉄筋の各中心を通る法線の間の距離をいうものとする。
【0027】
「2つの長辺を有する長方形などの長形状」には、長方形の他に、長円形、高さに比べて横長の台形又は平行四辺形などが含まれる。
【0028】
第5の手段は、第3の手段を有し、かつ
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、長軸方向に長い楕円などの長形図形とし、
かつループアンテナの短軸側の両側部を、法線方向から見て長軸方向の鉄筋と斜交する、短軸方向外側又は内側への少なくとも一つの湾曲部とし、
各弯曲部において、その弯曲部のうち法線方向から見て長軸との角度が10°未満の略平行部分が、それ以外の斜行部分よりも長くなるように設計したことを特徴とする。
【0029】
本手段では、ループアンテナと鉄筋との間の電磁誘導を、鉄筋の向きに対してアンテナを斜交させることで低減することを提案する。鉄筋の方向に長軸を平行させて楕円などの長い形のループアンテナを設置したとする。その場合に、長軸側の両側部に比べて短軸側の両側部は長いし、曲りが緩やかなので、格子面の法線方向から見て鉄筋と交わったときに電磁誘導への寄与が大きい。そこで短軸側の両側部を弯曲させ、鉄筋との間に法線方向から見て角度をつけることで電磁誘導作用を抑制している。電磁誘導の法則(∫E・cosθds=∫BdS)から判るように、ループアンテナの周りに磁場が生ずると、ループアンテナの格子面への射影図形の輪郭線に平行な鉄筋部分(θ=0)は最も強く影響を受け、輪郭線と直交する鉄筋(θ=π/2)は影響を受けない。θ=10°程度である場合には、cosθ=0.98であるから、上記輪郭線と鉄筋とが平行であるのと殆ど同じである。しかもその場合には、θが小さいので交差点を中心としてアンテナと接近する範囲が大きい。そこで本発明では、ループアンテナの短軸側の側端部に湾曲部を形成して、法線方向から見てアンテナを鉄筋と斜交させ、斜行部分が、鉄筋と実質的に平行な部分よりも長くなるようにしたのである。
【0030】
「弯曲部」は、格子面の法線方向から見てある程度の角度(少なくとも10°以上の角度)で鉄筋と交差すればよく、弯曲の向きは任意である。図形の側外方へ膨出する膨出部でも、内方へ凹むくびれ部であってもよい。本発明の構成のうち、長方形などの図形の対向2辺をくびれさせる構造は従来から知られており(例えば特許文献5及び特許文献6)、本発明の特徴はくびれ部を含む弯曲部と鉄筋との相対的な向きの関係にある。
【0031】
第6の手段は、第5の手段を有し、かつ
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、長軸方向に長くかつ長軸方向の両端部が先細となる長形図形であって、
この図形の短軸方向の両端部を、長軸方向と斜交又は直交する2つの傾辺を含む弯曲部に形成し、
この湾曲部の傾辺と長軸とが格子面の法線方向からみてなす角度を25°以上としたことを特徴とする。
【0032】
本手段は、長形図形の短軸側の端部を弯曲部とし、鉄筋と平行な長軸に対してアンテナ線を斜行させることで電磁誘導効果を低減することを提案している。鉄筋に対してアンテナ線を傾斜させることでファラデーの電磁誘導の法則におけるθが大きくなるとともに、鉄筋と接近するアンテナの範囲を小さくすることができる。この構成では、短軸側の両側部に、縦軸に対して斜行する傾辺を含む弯曲部を形成したから、縦軸方向の鉄筋に対して、その位置によらず電磁誘導を生じにくい。また長軸方向の両端部が先細となっているので、短軸方向の鉄筋に対して、その位置によらず電磁誘導を生じにくい。本手段は、格子状鉄筋の方向が分っていれば適用することができるので、より便利である。
【0033】
第7の手段は、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造であり、
コンクリート躯体中に躯体表面から一定の深さで埋め込まれた格子状鉄筋と、
この格子状鉄筋の格子面と平行にかつ格子面との間に一定の間隙を存して、格子面とコンクリート躯体表面の間に設置されたループアンテナと、を含み、
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、ほぼ長軸方向に延びる2つの長辺又は長辺に相当する周辺部分を有する長形図形とし、
上記長辺又は周辺部分の複数個所と格子面との間に、アンテナ線を覆う非導電性磁性体で形成した複数の磁気シールド片を敷設している。
【0034】
本手段では、電磁誘導及び渦電流を緩和する手立てとして、長形図形のループアンテナの各長辺の少なくとも一部を覆うように磁気シールド片を設けることを提案している。シールドの方法として、非対象物全体を非導電シールドで覆ったり、或いは導電体であるメッシュで覆うことは公知であるが、前者は多量のシールド材料を必要とし、後者は必ずしも十分なシールド効果が得られない。本発明では、電磁誘導などの寄与が大きい長辺又は長辺相当の周辺部分にポイントを絞ってシールドをするので、シールド材を効果的に使用できる。本手段は単独で使用してもよいが、先の第3の手段から第6の手段と併用しても効果的である(図5の符号24参照)。つまり鉄筋に対してアンテナ線を離間させたり、傾けたりすることで、電磁誘導などの影響を低減し、それでも影響力の大きい平行部分にシールドを施すのである。
【0035】
「アンテナを覆う」構造の一好適例として、アンテナ線を横切る磁気シールド片をコンクリート躯体とアンテナとの間に設置した構造を図示しているが、例えば電線の長手方向一部の回りに磁気シールドテープを巻きつけてもよい。
【発明の効果】
【0036】
第1の手段又は第3の手段に係る発明によれば、ループアンテナの少なくとも過半部分と鉄筋と重ならないように設計するから、ループアンテナが鉄筋とたまたま重なった場合に比べて両者の間の電磁誘導を抑制し、エネルギーの損失を低減できる。
【0037】
第2の手段に係る発明によれば、ループアンテナが格子状鉄筋の格子点間の鉄筋部分の中間部分を通るように設計したから、さらに電磁誘導を抑制してエネルギー損失を低減することができる。
【0038】
第4の手段に係る発明によれば、格子面の法線方向から見て鉄筋とループアンテナとの間に、格子面とループアンテナとの距離と同程度の隙間長を確保したから、電磁誘導によるエネルギー損失を半分以下に軽減することができる。
【0039】
第5の手段又は第6の手段に係る発明によれば、ループアンテナの湾曲部と鉄筋とを斜交させることで鉄筋内に誘導される電場を弱くしてエネルギー損失を低減することができる。
【0040】
第7の手段に係る発明によれば、長形状のループアンテナの長辺又は周辺部分を隠すように磁性シールド片を設置したから、電磁誘導や渦電流を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
図1から図4は、本発明の鉄筋コンクリート構造の第1実施形態を示している。
【0042】
この鉄筋コンクリート構造は、コンクリート躯体2と、格子状鉄筋4と、ループアンテナ16とで構成される。また、図示例では、コンクリート躯体2の表面から一定の間隔を存して床仕上げ材30が敷設されている。
【0043】
コンクリート躯体2は、図示の例では床スラブとして構成している。床と連続する壁4にドア設置用の通路6が形成され、この通路を介した人の出入りをチェックするために後述のループアンテナを設置する。もっとも床ではなく、壁体をアンテナ設置対象であるコンクリート躯体としてもよい。
【0044】
格子状鉄筋8は、従来公知の構造であり、相互に直交する直行する第1の鉄筋8aと第2の鉄筋8bとで形成されている。これらの鉄筋は拘束線などで結合されている。第1の鉄筋8aは壁体に平行に、第2の鉄筋8bは壁体に直角に配向されている。このため各鉄筋の交接箇所で通電可能となっていることが多い。そこで、本明細書では、この交接箇所を格子点10といい、隣り合う格子点間の鉄筋部分を電線単位12というものとする。また格子点を含む平面を格子面14というものとする。
【0045】
ループアンテナ16は、コンクリート躯体の表面に敷設されている。図示例では、ループアンテナは、不定形で柔軟な電線の一部をループ状にし、コンクリート躯体の表面に接着テープなどの固定具で固定されることで形成される。当該一部以外の電線部分は引き出し線17として、図示しない受信機に接続する。もちろん最初からループ形に付形したアンテナを使用してもよいのであるが、建物の特定個所にアンテナを設置する用途では現場の状況に応じてループの大きさや形を変更できる不定形のタイプの方が有利なことが多い。
【0046】
本実施形態では、ループアンテナ16は、長形図形の一つとして図2に示す如く縦長の長方形とし、その長辺を壁体に平行に壁体の通路に臨ませている。ループアンテナ16を長形図形とする理由は、壁体付きの通路を通過する人を過不足なくチェックするのに有利だからである。例えば真円や正方形であると、通路から離れたところまでアンテナ設置個所が形成されることとなる。そうすると、単に通路の前を横切る人も検出してしまうことになり易い。
【0047】
次にループアンテナと鉄筋との位置関係を説明する。図示例では、格子面の法線方向から見て格子点間の鉄筋部分である電線単位12の中点をループアンテナが通過するように構成している。この中点位置がアンテナ線の通過場所として最適であるが、少なくとも上記電線単位12のうち、端部分12aを除く中間部分12bを通過させるものとする。こうすることでループアンテナの各辺とこれと平行な鉄筋との間に距離をとって両者間の電磁誘導作用を低減することができる。
【0048】
鉄筋の真上にアンテナ線を設置した場合のエネルギー損失をe0、鉄筋からアンテナ線まで法線方向から見た間隙長aをおいた場合のエネルギー損失をe1とし、また格子面からコンクリート表面までの距離をaとする。そうすると、電磁誘導によるエネルギー損失は距離の2乗に反比例するから、エネルギーの損失比に関して次式が成立する。この式より、エネルギーの損失は、a=dのときにa=0のときの約半分程度であり、さらにaが大きくなるにつれて急激に減少することがわかる。
[数式4]e1/e0=1/{1+(a/d)2}
仮にd=50mmであり、鉄筋の間隔が200mmであるとして、a=100の場合(中点位置)にはe1/e0=0.20であり、またa=75mmのときにはe1/e0=0.31となる。従ってアンテナ線を厳密に中点位置に置かなくても、それなりに電磁誘導を減衰する効果がある。
【0049】
また上記の説明では、ループアンテナの長方形状の全ての辺が電線単位の中間部分を通過するようにしているが、2つの長辺だけが対応する電線単位の中間部分(好ましくは中点)を通過するようにしてもよい。2つの長辺だけでもループアンテナの全周の過半部に相当する。全周の過半部について鉄筋から十分に離せば電磁誘導の作用をかなり減衰させることができる。
【0050】
図4は、本実施形態の変形例であり、ループループの形状を長方形から、2つの長辺を有する他の長形図形としたものである。同図(a)は長円形、同図(b)は台形であり、それぞれ電線単位12の中点をアンテナが通るように敷設されている。
【0051】
このループアンテナを設置する手順を説明する。
【0052】
第1に、コンクリート躯体の鉄筋の位置及び被り深さを確認する。そのためには電磁誘導などを利用した既存の鉄筋探査機を利用して鉄筋を検査すればよい。また、設計図面などから鉄筋の位置及び被り深さが分かるときには、上記検査を省略してもよい。
【0053】
第2に、確認した鉄筋の位置から所定の距離を離してループアンテナ16を設置する。最適な施工例としては、格子点の鉄筋部分で形成される電線単位の中点を通るように構成する。
【0054】
以下本発明の他の実施形態を説明する。これらの実施形態において第1の実施形態と同じ構成については同一の符号を用いることで説明を省略する。
【0055】
図5及び図6は、第2の実施形態を示している。第1の実施形態は、一方鉄筋に平行な2つの長辺を有する図形を対象としていたが、本実施形態では、そうした長辺を有しない図形を対象とする。
【0056】
こうした図形では、第1実施形態のようにアンテナの全周の過半部を示す代表的な部分(長辺)とアンテナとの間に距離をとるという方法を適用しにくい。そこで本手段では、楕円などの長形図形の長軸ALを格子状鉄筋の一方鉄筋と平行とし、アンテナ線の各部が鉄筋と斜交するようにすることで、電磁誘導を低減するようにしている。前述の通り相互に鉄筋とアンテナ線とが平行である場合に比べて、斜交する場合の方が、電磁誘導作用が小さいからである。
【0057】
ループアンテナ16の形状を楕円形にすれば、格子状鉄筋と線分として重なる部分は少なくなる。しかしながら、楕円形の扁平性の程度によっては実質的に鉄筋と平行な部分が無視できなくなる。図6(A)〜(D)は、楕円の焦点Fから短軸ASの先端Gまでの線分と楕円の長軸ALとが成す角度をη=15°、20°、25°、30°に変えて様々な楕円を描いたものである。各楕円毎に長軸ALの延長線に対して角度ζ=10°をなす補助線を作図し、ループアンテナの全長のうち長軸方向となす角度が10°以下の部分(同図中のA1〜B1及びA2〜B2)を太線で描いている。この太線の部分は長軸方向との傾斜角度が小さく、長軸AL(および第1の鉄筋)と実質的に平行な部分である。同図(C)や(D)のよう楕円は、長軸ALと実質的に平行な部分が全周の過半部に満たないために格子状鉄筋のどこに設置しても大きな影響がない。しかしながら、同図(A)や(B)のように扁平に近く、長軸ALと実質的に平行な部分が全周の過半部を占める楕円では、その部分がたまたま鉄筋と重なると、鉄筋に及ぼす電磁誘導の作用が大きい。従って同図(A)や(B)のような楕円形では、短径側の側部が電線単位の中点付近を通るようにすることが好ましい。
【0058】
図7及び図8は、本発明の第3の実施形態を示している。本実施形態は、長軸ALに対してループアンテナを斜行させるという考え方を発展させたものである。このために、長軸に長い長形図形のうち短軸AS側の側部を、図形の外方又は内方へ湾曲する湾曲部20に形成している。この湾曲部は、格子面の法線方向から見て25°以上の角度で鉄筋と斜交(又は直交)する2つの傾辺32を含む。
【0059】
図7は、長形図形を、一方向の鉄筋と平行な長軸AL方向に長い菱形としている。そして菱形の短軸AS側の角部を弯曲部20としている。また図8は、中央部がくびれたひょうたん形をしており、そのくびれ部を弯曲部20としている。
【0060】
図示はしていないが、弯曲部が一つである必要はなく、短軸AS側の側部がジグザグ形又は波形になっていてもよい。
【0061】
図9は、本発明の第4の実施形態を示している。この実施形態では、長軸AL方向に長く、2つの長辺を有する長形図形のループアンテナを、その長軸ALを一方鉄筋と平行としてコンクリート躯体の上に配置している。そして、それら長辺の複数個所とコンクリート躯体の表面との間に、アンテナ線を横断する複数の磁気シールド片24を一定間隔を存して設置している。そうすると、ループアンテナの回りに生じた磁場は、一連の磁気シールド片24内に引き込まれるのでアンテナに作用する磁場が弱められる。これにより、電磁誘導の作用が弱まるとともに渦電流も抑制される。
【0062】
上記磁気シールド片24は、例えばフェライトなどの非導電性磁性体で形成するとよい。図示例では、磁気シールド片を板状に形成しているが、その形態は適宜変更することができる。
【0063】
図10及び図11は、本発明の創作の前提となるシミュレーションの説明図である。これらのシミュレーションにおいて、鉄筋の直径は20mm、200mm×200mm間隔の格子とし、格子面とループコイルの間隔を40mmとした。ループコイルは、仮に長辺長(2α)が4200mm、短辺長(2β)が800mmの長方形とし、その図形中心Oを原点として、X軸、Y軸を鉄筋の2方向に一致させた。そして、図10(A)に示すように鉄筋のないコンクリート躯体にループアンテナ16を設置した場合、図10(B)に示すようにループアンテナの設置箇所の約半分にループアンテナ16を設置した場合、図10(C)に示すようにループアンテナの設置箇所全体にループアンテナ16を設置した場合のそれぞれについて原点Oでの磁束密度を算出した。そうすると図10(A)のように鉄筋なしの場合と、図10(C)のようにアンテナ設置箇所の全部に鉄筋を入れた場合とでは、予想通り磁束密度に大きな差異が見られた。ところが、図10(B)のようにアンテナ設置箇所の半分に鉄筋を入れた場合は、鉄筋なしの場合とほとんど磁束密度に差異がなかった。これは、ループアンテナの約半分程度だけでも十分に電磁誘導を抑制することができれば、良好な結果が得られることを示唆している。
【実施例】
【0064】
図12は、本発明を、エントランスに適用した例である。入口である通路6の上部には対人センサ(侵入検知センサ)34が設置されており、かつ通路6形成箇所の床部分には、本発明の方法で設置されたループアンテナ16が設置されている。図12(A)に示すようにIDタグを有する利用者がループアンテナによって形成される電磁波領域に入ると、IDタグがループアンテナによる電磁波信号を検出して起動し、IDタグから利用者の固有ID信号を発信する。IDタグから発信されたID信号は、図示しないIDタグ信号受信機によって受信され、利用者のIDをチェックする。このとき対人センサ34は、通路6を通る人を検知しているが、正しいIDが検知されている間は、警報信号の送信を保留する。この利用者がループアンテナによって形成される電磁波領域を出ると、IDタグは停止し、利用者のIDが受信されなくなるため、上記保留が解除される。その後に、図12(B)のように入場権限のない人物が対人センサ34の下を通過しようとすると、警報信号が図示しない警報機に送られる。これら一連の動作を可能にするには、本発明により電磁誘導などの影響を排した、正確な信号受信が重要となる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造の適用例を示す斜視図である。
【図2】図1の鉄筋コンクリートの平面図である。
【図3】図1の鉄筋コンクリートの要部拡大縦断面図である。
【図4】図1の鉄筋コンクリートの変形例の平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造の平面図である。
【図6】図5のコンクリート構造におけるループアンテナの変形例を示す説明図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造の一例の平面図である。
【図8】同実施形態の他の一例の平面図である。
【図9】本発明の第4の実施形態に係る、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造の平面図である。
【図10】本発明の設計のためのシミュレーションに用いたアンテナ設置例を示す図である。
【図11】図10のシミュレーションの結果を表すグラフである。
【図12】本発明の実施例を示す図である。
【図13】従来のループアンテナ設置の例を示す図である。
【図14】電磁誘導を生ずる現象を説明する図である。
【符号の説明】
【0066】
2…コンクリート躯体 4…格子状鉄筋 6…通路 8…格子状鉄筋 8a…第1の鉄筋
8b…第2の鉄筋 10…格子点 12…電線単位 14…格子面
16…ループアンテナ 17…引き出し線 20…弯曲部 24…磁気シールド片
30…仕切り材 34…対人センサ
108…鉄筋 116…アンテナ
AL…長軸 AS…短軸
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物内に設置された格子状鉄筋の位置を確認する段階と、
格子状鉄筋の位置を避けてループアンテナの設置位置を決定する段階とを含み、
このループアンテナのうちの少なくとも過半部分が、格子状鉄筋の格子面の法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように設計したことを特徴とする鉄筋コンクリート構造へのループアンテナの設置方法。
【請求項2】
上記格子状鉄筋のうち隣り合う格子点間の鉄筋部分を、一つの電線単位として、
また各電線単位を、それら格子点からの一定距離aの範囲にある2つの端部分と、これら端部分を除く中間部分とに区別し、かつ、その距離aを、ループアンテナから格子面までの距離として、
ループアンテナの全周において、ループアンテナが、格子面の法線方向から見て、各電線単位の中間部分を通過するように設計したことを特徴とする、請求項1記載の鉄筋コンクリート構造へのループアンテナの設置方法。
【請求項3】
コンクリート躯体中に躯体表面から一定の深さで埋め込まれた格子状鉄筋と、
この格子状鉄筋の格子面と平行にかつ格子面との間に一定の間隙を存して、格子面とコンクリート躯体表面の間に設置されたループアンテナと、を含み、
上記ループアンテナは、格子面の法線方向から見て長方形などのほぼ閉ループ形であり、
かつこのループアンテナは、その全周の過半部を占める2つの長辺又は長辺相当長さ部分が上記法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように構成したことを特徴とする、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
【請求項4】
上記法線方向から見たループアンテナの形状を、一方向に長く、当該方向への2つの長辺を有する長方形などの長形状とするとともに、
この図形の2つの長辺を、一つの鉄筋に対して、当該鉄筋との間に格子面の法線方向から見て、面内方向の離間長さaを存して平行に設置し、
この離間長さaは、格子面とループアンテナとの距離dに対して、次の条件を満たすことを特徴とする、請求項3記載のループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
[数式1] d/a≦1
【請求項5】
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、長軸方向に長い楕円などの長形図形とし、
かつループアンテナの短軸側の両側部を、法線方向から見て長軸方向の鉄筋と斜交する、短軸方向外側又は内側への少なくとも一つの湾曲部とし、
各弯曲部において、その弯曲部のうち法線方向から見て長軸との角度が10°未満の略平行部分が、それ以外の斜行部分よりも長くなるように設計したことを特徴とする、請求項3記載のループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
【請求項6】
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、長軸方向に長くかつ長軸方向の両端部が先細となる長形図形であって、
この図形の短軸方向の両端部を、長軸方向と斜交又は直交する2つの傾辺を含む弯曲部に形成し、
この湾曲部の傾辺と長軸とが格子面の法線方向からみてなす角度を25°以上としたことを特徴とする、請求項5記載のループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
【請求項7】
コンクリート躯体中に躯体表面から一定の深さで埋め込まれた格子状鉄筋と、
この格子状鉄筋の格子面と平行にかつ格子面との間に一定の間隙を存して、格子面とコンクリート躯体表面の間に設置されたループアンテナと、を含み、
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、ほぼ長軸方向に延びる2つの長辺又は長辺に相当する周辺部分を有する長形図形とし、
上記長辺又は周辺部分の複数個所と格子面との間に、アンテナ線を覆う非導電性磁性体で形成した複数の磁気シールド片を敷設したことを特徴とする、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
【請求項1】
コンクリート構造物内に設置された格子状鉄筋の位置を確認する段階と、
格子状鉄筋の位置を避けてループアンテナの設置位置を決定する段階とを含み、
このループアンテナのうちの少なくとも過半部分が、格子状鉄筋の格子面の法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように設計したことを特徴とする鉄筋コンクリート構造へのループアンテナの設置方法。
【請求項2】
上記格子状鉄筋のうち隣り合う格子点間の鉄筋部分を、一つの電線単位として、
また各電線単位を、それら格子点からの一定距離aの範囲にある2つの端部分と、これら端部分を除く中間部分とに区別し、かつ、その距離aを、ループアンテナから格子面までの距離として、
ループアンテナの全周において、ループアンテナが、格子面の法線方向から見て、各電線単位の中間部分を通過するように設計したことを特徴とする、請求項1記載の鉄筋コンクリート構造へのループアンテナの設置方法。
【請求項3】
コンクリート躯体中に躯体表面から一定の深さで埋め込まれた格子状鉄筋と、
この格子状鉄筋の格子面と平行にかつ格子面との間に一定の間隙を存して、格子面とコンクリート躯体表面の間に設置されたループアンテナと、を含み、
上記ループアンテナは、格子面の法線方向から見て長方形などのほぼ閉ループ形であり、
かつこのループアンテナは、その全周の過半部を占める2つの長辺又は長辺相当長さ部分が上記法線方向から見て、ループアンテナの対応部分と並行する鉄筋部分と重ならないように構成したことを特徴とする、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
【請求項4】
上記法線方向から見たループアンテナの形状を、一方向に長く、当該方向への2つの長辺を有する長方形などの長形状とするとともに、
この図形の2つの長辺を、一つの鉄筋に対して、当該鉄筋との間に格子面の法線方向から見て、面内方向の離間長さaを存して平行に設置し、
この離間長さaは、格子面とループアンテナとの距離dに対して、次の条件を満たすことを特徴とする、請求項3記載のループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
[数式1] d/a≦1
【請求項5】
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、長軸方向に長い楕円などの長形図形とし、
かつループアンテナの短軸側の両側部を、法線方向から見て長軸方向の鉄筋と斜交する、短軸方向外側又は内側への少なくとも一つの湾曲部とし、
各弯曲部において、その弯曲部のうち法線方向から見て長軸との角度が10°未満の略平行部分が、それ以外の斜行部分よりも長くなるように設計したことを特徴とする、請求項3記載のループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
【請求項6】
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、長軸方向に長くかつ長軸方向の両端部が先細となる長形図形であって、
この図形の短軸方向の両端部を、長軸方向と斜交又は直交する2つの傾辺を含む弯曲部に形成し、
この湾曲部の傾辺と長軸とが格子面の法線方向からみてなす角度を25°以上としたことを特徴とする、請求項5記載のループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
【請求項7】
コンクリート躯体中に躯体表面から一定の深さで埋め込まれた格子状鉄筋と、
この格子状鉄筋の格子面と平行にかつ格子面との間に一定の間隙を存して、格子面とコンクリート躯体表面の間に設置されたループアンテナと、を含み、
ループアンテナの形状を、上記法線方向から見た図形中心を通る長軸及び短軸が格子状鉄筋の各方向鉄筋の向きとそれぞれ平行であり、ほぼ長軸方向に延びる2つの長辺又は長辺に相当する周辺部分を有する長形図形とし、
上記長辺又は周辺部分の複数個所と格子面との間に、アンテナ線を覆う非導電性磁性体で形成した複数の磁気シールド片を敷設したことを特徴とする、ループアンテナを配した鉄筋コンクリート構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−109471(P2010−109471A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277083(P2008−277083)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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