説明

鉄筋コンクリート造耐震壁

【課題】鉄筋コンクリート造耐震壁において、煩雑な配筋の施工を要することなく、その靭性能を向上させる。
【解決手段】鉄筋コンクリート造耐震壁1において、平面形状が壁幅方向に凹部2と凸部3とを交互に連続させる波形状に形成されている複数の波形横筋7を備える。この波形横筋7を対とする波形横筋対6を、前記凹部2と凸部3とが対向するように互いに交差させて、壁高さ方向に所定間隔で配置する。この波形横筋対6の対向する凹部2と凸部3とが、表裏面に沿って配置されている2本を含む複数本の縦筋5を囲むように配置する。さらに、上下に隣り合う前記波形横筋対6を、それぞれの前記対向する凹部2及び凸部3の位置を壁幅方向にずらして配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造耐震壁、特に高い靭性能を要する鉄筋コンクリート造耐震壁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋コンクリート造耐震壁の配筋構造として、図3に示す構成が用いられている。図3に示す構造では、鉄筋コンクリート造耐震壁11の表裏面に沿ってそれぞれ立設される複数の縦筋12と、この縦筋12とともに格子状をなし壁幅にわたって配置される複数の横筋13と、両端が曲げ返され縦筋12間に壁厚方向に架け渡される複数の面外補強筋14とが配筋されている。
【0003】
建物が地震力を受け、耐震壁11に曲げ及びせん断力が作用し部分的に圧縮力が入力されると、耐震壁11はその厚さ方向(面外方向)に広がるように変形しようとする。地震力が増加し圧縮力が大きくなってこの変形が顕著になると、耐震壁11は脆性的な破壊に至って水平耐力を失う。面外補強筋14は、この変形を拘束することによって、耐震壁11の変形性能を高める役割をし、その靭性能を向上させている。
【0004】
また、鉄筋コンクリート造耐震壁において、靭性の向上、配筋作業の効率化を図るために、複数の縦筋を囲むように環状補強筋、スパイラルフープ筋又は環状鉄筋を設けることが考えられている(例えば、特許文献1、2又は3参照。)
【特許文献1】特開2002−322751号公報
【特許文献2】特開昭64−75784号公報
【特許文献3】特開平5−71170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の面外補強筋や環状補強筋などを配筋する方法では、以下の理由によりその施工が煩雑となる。すなわち、壁幅方向、壁高さ方向における面外補強筋や環状補強筋などの配筋箇所数が多い。また、その面外補強筋の両端や環状補強筋などの四隅における折り曲げ加工数が多い。そして、このように折り曲げ加工されているため、面外補強筋や環状補強筋などは配筋しにくい。さらに、面外補強筋や環状補強筋などでコンクリートの被り厚さが決定されるため、被り厚さの管理を全ての面外補強筋や環状補強筋などにおいてする必要がある。
【0006】
本発明の課題は、鉄筋コンクリート造耐震壁において、煩雑な配筋施工を要することなく、その靭性能を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、例えば図1、2に示すように、表裏面に沿って壁幅方向に所定間隔をあけて配置されている複数の縦筋5を備える鉄筋コンクリート造耐震壁1であって、平面形状が壁幅方向に凹部2と凸部3とを交互に連続させる波形状に形成されている複数の波形横筋7を備え、この波形横筋7を対として前記凹部2と凸部3とが対向するように互いに交差させている波形横筋対6が壁高さ方向に所定間隔で配置され、この波形横筋対6の前記対向する凹部2と凸部3とが、表裏面に沿って配置されている2本を含む複数本の前記縦筋5を囲むように配置されていることを特徴とする。
【0008】
このように、横筋を平面形状が壁幅方向に交互に凹部2と凸部3とを交互に連続させる波形状に形成し、この波形横筋7を対にしてそれぞれの凹部2と凸部3とが対向するように互いに交差させている。そして、この波形横筋対6の対向する凹部2と凸部3とが、表裏面に沿って配置されている2本を含む複数本の縦筋5を囲むことにより、耐震壁1のコアコンクリートを拘束する。この波形横筋7の拘束効果(コンファインド効果)により、コンクリートの変形性能が向上し、耐震壁1の壁厚方向(面外方向)の変形が抑制され、その靭性能が向上する。
【0009】
また、耐震壁1が水平力を受けると、波形横筋7にはそれに抵抗するように引張力Tが生じる。波形横筋7が引張力Tを受けると直線に戻ろうとするため、波形横筋対6はコアコンクリートに対し面外方向より圧縮力Cを加える。この圧縮力Cにより、コアコンクリートの面外方向の変形はさらに抑制される。
【0010】
このように、波形横筋対6を配置するのみで耐震壁1の壁厚方向の変形を抑制するため、従来のような施工が煩雑となる面外補強筋や環状補強筋などを必要しない。よって、従来に比べ折り曲げ加工する箇所数も少なくて、配筋もしやすいので、配筋の施工性がよく、その工期、コストを抑えることができる。また、コンクリートの被り厚さは、波形横筋7のみにより決定するため、スペーサなどにより容易に管理することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の鉄筋コンクリート造耐震壁1において、例えば図1に示すように、上下に隣り合う前記波形横筋対6は、それぞれの前記対向する凹部2及び凸部3の位置が壁幅方向にずらして配置されていることを特徴とする。
【0012】
このように、上下に隣り合う前記波形横筋対6において、それぞれの前記対向する凹部2及び凸部3の位置を壁幅方向にずらして配置することにより、波形横筋7の壁幅方向の不連続部分を壁高さ方向に連続させず、耐震壁1の靭性能を確保することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、波形横筋対の対向する凹部と凸部とでコアコンクリートを拘束することにより、煩雑な配筋施工を要することなく、鉄筋コンクリート造耐震壁の壁厚方向(面外方向)の変形を拘束し、その靭性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図を参照して本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。図1、2に示すように、本実施の形態は、本発明を、鉄筋コンクリート造柱8(以下、柱8という。)が両側に設けられている鉄筋コンクリート造耐震壁1(以下、耐震壁1という。)に適用したものである。
【0015】
柱8は、その内部に、外周面に沿って所定間隔をあけて配置されている複数の主筋9と、これら複数の主筋9を外側から囲む複数の帯筋10とを備えている。
【0016】
耐震壁1は、その内部に、表裏面に沿って壁幅方向に所定間隔をあけて配置されている複数の縦筋5を備えている。これらの縦筋5は、壁厚方向に所定間隔をあけて対(以下、縦筋対4という。)となっている。
【0017】
さらに、耐震壁1は、その内部に、鉛直方向からみた平面形状が壁幅方向に向かって凹部2と凸部3とを交互に連続させる波形状に形成されている複数の波形横筋7を備えている。具体的には、波形横筋7は、耐震壁1の一方の側面側と他方の側面側とに交互に、壁幅方向に所定間隔をあけて位置する複数の横筋部7aと、交互に位置する横筋部7aの端部どうしをつなぎ、壁幅方向に対して斜めとなって位置する複数の斜筋部7bを有している。つまり、波形横筋7の凹部2と凸部3は、それぞれ連続する複数の横筋部7a及び斜筋部7bとによって台形状に形成されている。また、それぞれの波形横筋7の両端部は、横筋部7aが延長されて耐震壁1の端面から突出して、両側の柱8に定着されている。
【0018】
この波形横筋7を2本で対として、鉛直方向からみてそれぞれの波形横筋7の凹部2と凸部3とが対向するように互いに交差させている(以下、波形横筋対6という。)。この波形横筋対6が壁高さ方向に所定間隔で複数配置されている。具体的には、波形横筋対6は、それぞれの波形横筋7の横筋部7aが対向し、斜筋部7bがX形に交差して構成されている。
【0019】
ここで、波形横筋7は、波形横筋7が2対の縦筋対4ごとに折れ曲がり、隣り合う縦筋対4の間で折れ曲がって形成され、その折れ曲がり点に、縦筋5が配置されている。そして、対向する凹部2と凸部3とが、すなわち対向する横筋部7aとその両側の斜筋部7bとが、表裏面に沿って配置されている2対の縦筋対4(4本の縦筋5)を囲んでいる。
【0020】
また、図2に示すように、波形横筋対6は、斜筋部7bの交差をその上下を壁幅方向に交互に入れ換えて編むように重ねられて構成されている。
【0021】
さらに、鉛直方向において上下に隣り合う波形横筋対6は、それぞれの対向する凹部2と凸部3の位置が壁幅方向にずらして配置されている。具体的には、上下位置にある波形横筋対6の横筋部7aと斜筋部7bとが交互にずらして配置されている。
【0022】
なお、波形横筋7は、鉄筋を波形に折り曲げて加工したもので、あらかじめ工場生産したもの、または現場加工したものである。この波形横筋7と縦筋5とを所定位置で互いに固定して配筋し、その周りに型枠を組み立てた後、型枠内にコンクリート等が打設されて耐震壁1が形成される。
【0023】
本実施の形態によれば、この波形横筋対6の対向する横筋部7aとその両側の斜筋部7bとが、表裏面に沿って配置されている複数本の縦筋5を囲むことによって、耐震壁1のコアコンクリートを拘束することができる。この波形横筋7の拘束効果(コンファインド効果)により、コンクリートの変形性能を向上させ、耐震壁1の壁厚方向(面外方向)の変形を抑制し、その靭性能を向上させることができる。
【0024】
また、耐震壁1が水平力を受けると、波形横筋7にはそれに抵抗するように引張力Tが生じる。波形横筋7が引張力Tを受けると斜筋部7bが直線に戻ろうとするため、波形横筋対6はコアコンクリートに対し面外方向より圧縮力Cを加える。この圧縮力Cにより、コアコンクリートの面外方向の変形をさらに抑制することができる。以上の2つの作用により、耐震壁1の靭性能を向上させることができる。
【0025】
そして、耐震壁1の壁厚方向の変形を抑制するのに、従来のような施工が煩雑となる面外補強筋や環状補強筋などを必要とせず、波形状に折り曲げ加工された波形横筋対6を配置するのみでよく、従来に比べ折り曲げ加工する箇所数も少なくて、配筋もしやすいので、配筋の施工性がよく、その工期、コストを抑えることができる。また、コンクリートの被り厚さは、波形横筋7の横筋部7aのみにより決定するため、スペーサなどにより容易に管理することができる。
【0026】
さらに、上下に隣り合う前記波形横筋対6において、それぞれの前記対向する横筋部7aの位置(交差する斜筋部7bの位置)を壁幅方向にずらして配置することにより、波形横筋7の壁幅方向の不連続部分である無筋部分を壁高さ方向に連続させず、耐震壁1の靭性能を確保することができる。
【0027】
なお、以上の実施の形態においては、両側に柱を有する耐震壁に適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、柱を有さない壁式構造の耐震壁に適用してもよい。また、縦筋の配置は、壁厚方向からみて必ずしも同位置で対になっていなくもよい。さらに、波形横筋対は、2本の波形横筋を必ずしも互いに接触させる必要はなく、鉛直方向からからみて横筋部が対向し斜筋部が交差した状態で、壁高さ方向に隙間を有するようにしてもよい。そして、波形横筋対の対向する横筋部と斜筋部とで囲む縦筋の本数、波形横筋の波形状など、その他、具体的な細部構造等についても適宜に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の鉄筋コンクリート造耐震壁の一実施形態を示す水平断面図であり、(a)と(b)とは鉛直方向に上下に隣り合う波形横筋対の配置を示したものである。
【図2】図1、2における実施形態において要部を示した拡大水平断面図である。
【図3】従来の鉄筋コンクリート造耐震壁を示す水平断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 鉄筋コンクリート造耐震壁
2 凹部
3 凸部
4 縦筋対
5 縦筋
6 波形横筋対
7 波形横筋
7a 横筋部
7b 斜筋部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏面に沿って壁幅方向に所定間隔をあけて配置されている複数の縦筋を備える鉄筋コンクリート造耐震壁であって、
平面形状が壁幅方向に凹部と凸部とを交互に連続させる波形状に形成されている複数の波形横筋を備え、
この波形横筋を対として前記凹部と凸部とが対向するように互いに交差させている波形横筋対が壁高さ方向に所定間隔で配置され、
この波形横筋対の前記対向する凹部と凸部とが、表裏面に沿って配置されている2本を含む複数本の前記縦筋を囲むように配置されていることを特徴とする鉄筋コンクリート造耐震壁。
【請求項2】
壁高さ方向に上下に隣り合う前記波形横筋対は、それぞれの前記対向する凹部及び凸部の位置が壁幅方向にずらして配置されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄筋コンクリート造耐震壁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−177546(P2007−177546A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−378400(P2005−378400)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】