説明

鉄道用レール、及び鉄道用レールの塗装方法

【課題】鉄道レールの上板の上面から太陽の輻射熱を吸収しても、真夏の日中に、鉄道レールを所定温度以下とすることのできる鉄道レール、及び鉄道レールの塗装方法を提供すること。
【解決手段】垂直板12の両側面12aと、底板13の上面13aと下面13b、上板11の下面11cに、遠赤外線放射膜15が形成されているので、上板11の上面11a、上板11の両側面11bから太陽の輻射熱が鉄道用レール10内に入って、鉄道用レール10の温度が上昇した場合に、垂直板12の両側面12aと、底板13の上面13aと下面13b、上板11の下面11cに形成された遠赤外線放射膜15が、加熱され増加した熱エネルギを遠赤外線に変換して、外に放射するため、鉄道用レール10の温度上昇を、真夏の日中においても、50℃以下に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、底板と、該底板上面の中心に立設された垂直板と、該垂直板の上で両側に延設された上板とを備える鉄道用レール、及びその鉄道用レールの塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、夏場の日中において、気温が高くなり、鉄道レールが熱膨張して、鉄道レールのつなぎ目に設けられている間隙がなくなる恐れがある。鉄道レールのつなぎ目の間隙が無くなると、鉄道レール同士が押し合い、全体として鉄道レールが変形する問題がある。この問題の対策として、規定の温度以上になると、保守要員が保守点検のため、鉄道レールの巡回を行っている。具体的には、鉄道レールの温度を常時計測しており、温度が45℃を越えると、巡回を行っている。また、50℃を越えると警戒態勢となり、巡回の頻度を増やすと共に、保線作業がほとんど規制されてできなくなる問題がある。
それを防止するために、特許文献1の技術では、底板と、該底板上面の中心に立設された垂直板と、該垂直板の上で両側に延設された上板とを備える鉄道用レールの全ての面に、遮熱塗装、断熱塗装を行うことが提案されている。遮熱塗料等がレール外面の表面積の多くを覆うため、特に真夏の高温時に太陽の輻射熱等によるレール温度の急激な上昇を緩和することができ、保線巡回を軽減することができることが、記載されている。
一方、断熱材として、中空球状のセラミックビーズを用いるものが、本出願人の一人により、特許文献2として、提案されている。この断熱材は、実用化され、商品名「ガイナ」として広く販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-012000号公報
【特許文献2】特開2002-105385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術には、次のような問題があった。
(1)太陽から輻射熱を鉄道レールに伝熱させないために、遮熱塗装膜を形成しているが、特許文献1にも記載されているように、上板の上面、上板の側面は、車輪と接触するため、基本的には、塗装が禁止されており、また、例え塗装したとしても、車輪との接触により、すぐに塗装膜が無くなってしまう。
上板の上面は、車輪により磨かれており太陽の輻射熱を吸収する。そのため、他の部分を遮熱塗装膜で覆っていても、上板の上面から輻射熱が入るため、真夏の日中における鉄道レールの温度上昇はなくならなかった。
一方、特許文献2に記載された断熱材は、断熱機能が高いため、塗布した部分においては、輻射熱を遮断するため、それなりに鉄道レールの温度上昇を減少させる効果は奏する。しかし、上板の上面は、車輪により磨かれており太陽の輻射熱を吸収する。そのため、他の部分を遮熱塗装膜で覆っていても、上板の上面から輻射熱が入るため、真夏の日中における鉄道レールの温度上昇を大幅に減少させることは困難であった。
(2)また、特許文献1には、塗料の成分が具体的に記載されていないが、通常の有機系塗料では、長時間、太陽や風雨に晒すと、塗料が剥げ落ちるため、長い期間に渡って、降下を持続することが困難であった。
【0005】
本発明は、上記問題を解決して、鉄道レールの上板の上面から太陽の輻射熱を吸収しても、真夏の日中に、鉄道レールを所定温度以下とすることのできる鉄道レール、及び鉄道レールの塗装方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る鉄道レールは、次の構成を有している。
(1)底板と、該底板上面の中心に立設された垂直板と、該垂直板の上で両側に延設された上板とを備える鉄道用レールにおいて、垂直板の側面と、底板の上面と、上板の下面に、遠赤外線放射膜が形成されている。
(2)(1)に記載する鉄道用レールにおいて、前記底板の下面に、遠赤外線放射膜が形成されていることを特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載する鉄道用レールにおいて、前記遠赤外線放射膜の成分が、中空球状のセラミックビーズ、粉末状の角閃石を含むことを特徴とする。
(4)(3)に記載する鉄道用レールにおいて、前記セラミックビーズの直径が10〜20μmであり、前記角閃石の平均粒径が、100μmであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明に係る鉄道レールの塗装方法は、次の構成を有している。
(5)底板と、該底板上面の中心に立設された垂直板と、該垂直板の上で両側に延設された上板とを備える鉄道用レールの塗装方法において、垂直板の側面と、底板の上面と、上板の下面に、遠赤外線放射膜を塗布する。
(6)(5)に記載する鉄道用レールの塗装方法において、前記底板の下面に、遠赤外線放射膜を塗装することを特徴とする。
(7)(5)または(6)に記載する鉄道用レールの塗装方法において、前記遠赤外線放射膜の成分が、中空球状のセラミックビーズ、粉末状の角閃石を含むことを特徴とする。
(8)(7)に記載する鉄道用レールの塗装方法において、前記セラミックビーズの直径が10〜20μmであり、前記角閃石の平均粒径が、100μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
次に、上記構成を有する鉄道レール、及び鉄道レールの塗装方法の作用、及び効果について説明する。
(1)、(2)、(5)、及び(6)の効果
底板と、該底板上面の中心に立設された垂直板と、該垂直板の上で両側に延設された上板とを備える鉄道用レールにおいて、垂直板の側面と、底板の上面と、上板の下面に、遠赤外線放射膜が形成されている。遠赤外線放射膜は、例えば、角閃石で構成されており、熱エネルギを与えると、遠赤外線として外に放射する性質を有している。したがって、上板の上面、上板の側面から太陽の輻射熱が鉄道用レール内に入って、鉄道用レールの温度が上昇した場合に、垂直板の側面と、底板の上面と、上板の下面に形成された遠赤外線放射膜が、熱エネルギを遠赤外線に変換して、外に放射するため、鉄道用レールの温度上昇を、所定の温度以内に抑えることができる。
【0009】
本出願人が行った鉄道用レールを用いて行った実験では、処理しなかった鉄道レールが最高温度で55℃を越えたのに対して、本発明の鉄道レール(底板の下面にも遠赤外線膜を形成した(2)の場合)では、49℃までしか上昇しなかった。すなわち、6℃の温度低下を実現できた。最高温度が50℃を越える場合には、保安要員が警戒態勢をとる必要があるため、鉄道レールが50℃を越えないようにできることは、保安作業にとって、極めて大きな効果をもたらすものである。
また、底板の下面に遠赤外線放射膜を形成しなかった(1)の場合には、処理しなかった鉄道レールが最高温度で55℃を越えたのに対して、本発明の鉄道レールでは、51℃までしか上昇しなかった。
【0010】
(3)、(4)、(7)、及び(8)の効果
(1)または(2)に記載する鉄道用レールまたは鉄道レールの塗装方法において、前記遠赤外線放射膜の成分が、中空球状のセラミックビーズ、粉末状の角閃石を含むことを特徴とする。また、前記セラミックビーズの直径が10〜20μmであり、前記角閃石の平均粒径が、100μmであることを特徴とする。
ここで、実験に使用した遠赤外線放射膜を形成するための塗装材料の成分は、二酸化チタン 12%、体質顔料 6%、中空球状セラミックビーズ(直径10〜20μm) 12.8%、角閃石の粉末(粒径80〜120μm、平均粒径100μm) 5%、水溶性アクリルエマルジョン樹脂 39.1%、添加剤(増粘剤) 5%、水 20.1%である。塗装を行った後、乾燥させることにより、遠赤外線放射膜が形成される。
角閃石とは、鉱物(ケイ酸塩鉱物)のグループ名である。色は、無色、緑色、褐色、青色等で、ガラス光沢を持つ。単斜晶系または斜方晶系で、自然結晶は長柱状である。結晶形は輝石によく似るが、約120度で交わる2方向のへき開で区別される(輝石は約90度)。比重3.0〜3.5。モース硬度5〜6。一般的な造岩鉱物で、安山岩や斑れい岩等の中性〜塩基性岩に多く含まれる。また、変成鉱物として、緑色片岩や角閃岩等の変成岩中にも多く含まれる。
【0011】
角閃石は、熱エネルギを遠赤外線に変換させて放射することが知られており、岩盤浴等で利用されている。
本出願人は、粉末状の角閃石を5%含む遠赤外線放射膜を、鉄道レールの垂直板の側面と、底板の上面と、上板の下面と、底板の下面に形成することにより、真夏の日中でも、鉄道レールの温度が50℃を越えないことを実験により確認した。本出願人は、角閃石の粉末は、熱エネルギを得て、遠赤外線とテラヘルツ線を放射する。テラヘルツ線と遠赤外線とは、互いに干渉し合って共振状態を発生する。共振状態の発生により、遠赤外線の放射量が格段に増加する。
本発明の鉄道レールにおいても、鉄道レールの上板上面、上板両側面は、無塗布の状態であり、そこから太陽の輻射熱が入り、鉄道レールの温度は、50℃以上まで加熱される。しかし、本発明の遠赤外線放射膜は、鉄道レールが加熱されると、熱エネルギを遠赤外線に変換して外へ放射するため、鉄道用レールの温度上昇を、所定の温度以内に抑えることができる。
特に、角閃石を、平均粒径が100μmの粉末としているので、固体の場合と比較して表面積が2倍以上となるため、遠赤外線の放射効率を高くして、鉄道レールに蓄えられる熱エネルギを、効率よく遠赤外線に変換して外に放射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施例の鉄道レール10の断面図である。
【図2】本実施例の効果を示す実験データ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施例について、図面を参照しながら、詳細に説明する。
始めに、使用する鉄道レールに塗布して、鉄道レールの熱膨張を防止するための熱膨張防止塗材の成分について説明する。
熱膨張防止塗材の成分(重量比)は、二酸化チタン 12%、体質顔料 6%、中空球状セラミックビーズ(直径10〜20μm) 12.8%、角閃石の粉末(粒径80〜120μm、平均粒径100μm) 5%、水溶性アクリルエマルジョン樹脂 39.1%、添加剤(増粘剤) 5%、水 20.1%である。
【0014】
ここで、セラミックビーズのセラミック成分は、二酸化ケイ素(SIO2)と酸化アルミニウム(AL2O3)とで90%であり、残りは、酸化第二鉄(FE3O3)、酸化ナトリウム(NA2O)、酸化カリウム(K2O)、二酸化チタン(TIO2)、五酸化リン(P2O5)、酸化マンガン(MNO)が添加剤としてある。
セラミックビーズは、直径が10〜20μmの中空球形状であり、比重が小さいため、容積比では、セラミックビーズが、50%を占めている。
角閃石は、普通花崗岩の粉末を使用している。角閃石の粉末の粒径は、80〜120μmであり、平均粒径が100μmとしている。角閃石は、平均粒径が100μmの粉末とすることにより、表面積が約2倍となり、遠赤外線の放射量も約2倍となる。
【0015】
次に、本発明の遠赤外線放射膜15が形成された鉄道レールについて説明する。図1に、鉄道レール10の断面を示し、熱膨張防止塗材を塗布して、乾燥させて、遠赤外線放射膜15を形成した状態を示す。
鉄道レールは、底板13と、底板13の上面13aの中心に立設された垂直板12と、垂直板12の上で両側に延設された上板11とを備えている。
遠赤外線放射膜15は、垂直板の両側面12aと、底板13の上面13aと底面13bと、上板11の両側の下面11cとに形成されている。遠赤外線放射膜15の厚みは、約0.5mmである。遠赤外線放射膜15の色は、本実施例では白色としている。
【0016】
上板11の上面11aと両側面11bとに遠赤外線放射膜15を形成していないのは、上面11aには車輪が載り、側面11bには、脱輪防止のための車輪凸部が当接するため、遠赤外線放射膜15の形成が認められていないからである。また、例え、それらの部分に遠赤外線放射膜15を形成したとしても、鉄道車両の運行により、直ぐに剥離してしまうからである。側面11bの一方は、車輪凸部が当接しないため、遠赤外線放射膜15を形成しておくことも可能であるが、鉄道レール10は、ある時間使用した後、両側に位置している鉄道レールを、メンテナンス時に入れ替えている。これにより、鉄道レール10の磨耗状態を均一に保持し、長期間使用できるようにしているのである。
そのため、本実施例では、側面11bの両側共に、遠赤外線放射膜15を形成していない。
【0017】
次に、既設の鉄道レール10に遠赤外線放射膜15を形成する方法について説明する。鉄道レール10は、定期的に左右レールの入れ替え等のメンテナンスを行っている。そのときに、鉄道レール10を外すため、遠赤外線放射膜15を形成する作業を行うと良い。
第1の工程は、素地こしらえ工程である。始めに、取り外した既設の鉄道レール10の外周面の汚れ、付着物を除去する。除去作業は、スクレーパ、ワイヤーブラシ等を用いて行う。次に、溶剤により、付着している油類を除去する。次に、研磨紙(P120〜221)を用いて、錆落しを行う。
第2工程は、錆止め塗料を塗布する工程である。
第3工程は、遠赤外線放射膜15を形成する遠赤外線防止塗材を、0.23kg/mの下塗りを行う。乾燥後、同じ遠赤外線防止塗材を、0.23kg/mの上塗りを行う。
【0018】
図2に、本実施例の効果を表す実験結果を示す。図1に示す鉄道レール10と、従来の全く遠赤外線放射膜15を形成していない鉄道レールとを夏に一昼夜屋外において温度変化を測定したものである。同時に、外気温度も測定している。鉄道レール10は、鉄製であり、熱伝導率が高いので、全体のどの位置でもほぼ同じ温度である。この実験は、風のない状態で行われており、空気の流れによる冷却効果は、ほとんど無視できる。
横軸が時間であり、縦軸が温度である。Bは、図1に示す遠赤外線放射膜15が形成されている鉄道レール10の温度変化データであり、Aは、従来の遠赤外線放射膜15が形成されていない鉄道レールの温度変化データであり、Cは、外気温度の温度変化データである。
時間は、夜中の0時から翌日の夜中の0時まで実験している。外気温度は、11時頃から17時頃まで、38℃以上になっている。従来の鉄道レールは、Aに示すように、13時頃から17時頃まで、50℃を越えており、15時頃にはピーク値である55℃まで温度上昇している。それに対して、本実施例の鉄道レール10は、Bに示すように、11時頃から16時半頃まで、45℃を越えているが、15時頃のピーク値においても、49℃以下となっている。
【0019】
すなわち、本実施例の鉄道レール10は、従来の鉄道レールと比較して、ピーク値で6℃以上温度が低下している。ここで、真夏の日中において、鉄道レールの温度が、50℃を越えないことの意義は、極めておおきい。このことを説明する。
鉄道会社の保線部門は、鉄道レールの温度を常時計測しており、温度が45℃を越えると、巡回を行っている。そして、50℃を越えると警戒態勢となり、巡回の頻度を増やしている。また、鉄道レールの温度により、保線部門が行う保線作業の作業規制が決められている。すなわち、40℃を越える第1ランクの場合、45℃を越える第2ランクの場合、そして、50℃を越える第3ランクの場合において、各々のランクで行うことのできない保線作業を決めている。ここで、50℃を越える第3ランクの場合には、ほとんどの保線作業が規制されてしまう。そのため、保線作業を鉄道レールの温度が低下する午前中、または夕方以降に行わなければならず、保線作業の効率が悪かった。
したがって、真夏の日中においても、鉄道レールの温度が、50℃を越えないことは、重要な意義を有するのである。
【0020】
次に、本実施例の遠赤外線放射膜15の作用について説明する。
遠赤外線放射膜15は、成分として、中空球状セラミックビーズ(直径10〜20μm)を12.8%、及び角閃石の粉末(粒径80〜120μm、平均粒径100μm)を5%含んでいる。中空球状セラミックビーズの直径を、10〜20μmにしているので、ナノ結合の作用により、隣り合うビーズがくっつき合おうとするため、密度を高くすることができる。また、中空球状セラミックビーズは、無機質のため、有機系溶剤を用いる通常の塗料と比較して、耐久性を格段に向上させることができる。
【0021】
角閃石は、熱エネルギを遠赤外線に変換させて放射する性質を有している。すなわち、角閃石の粉末は、熱エネルギを得て、遠赤外線とテラヘルツ線を放射する。テラヘルツ線と遠赤外線とは、互いに干渉し合って共振状態を発生する。共振状態の発生により、遠赤外線の放射量が格段に増加する。
本実施例の鉄道レール10においても、鉄道レール10の上板11の上面11a、上板11の両側面11bは、無塗布の状態であり、そこから太陽の輻射熱が入り、鉄道レール10の温度は、従来の鉄道レールと同様に、50℃以上まで加熱される。
【0022】
しかし、本発明の遠赤外線放射膜15は、鉄道レール10が加熱されると、その熱を受けて、上板11の下面11a、垂直板12の両側面12a、底板13の両側の上面13a、及び底板13の下面13bに形成された遠赤外線放射膜15も同時に加熱され、加熱された熱エネルギを遠赤外線に変換して外へ放射する。そのため、鉄道用レール10の温度上昇を、50℃以下に抑えることができる。
すなわち、従来の技術的思想は、如何にして鉄道レールに太陽の輻射熱が入るのを防止するかという点からのみ考えられてきたものである。
本来、鉄道レールは、その使用形態から、上板11の上面11a、側面11bに恒久的な膜を形成することは不可能であり、太陽が最も当たる上板11の上面11a、側面11bからの輻射熱の進入を防止することは不可能である。従来の技術思想は、その不可能なことを実現しようとしたため、有用な効果を得られなかったのである。
それに対して、本発明の技術的思想は、鉄道レールに進入した熱エネルギを積極的に遠赤外線に変換して、外に放射するものであり、従来の技術的思想とは全く異なるものである。
【0023】
また、本発明の効果は、底板13の下面13bに遠赤外線放射膜15を形成しない場合でも、それなりの効果を期待できる。すなわち、本出願人の上記実験と同様の実験によれば、ピーク温度が51℃まで上昇するが、従来の鉄道レールと比較して、4℃の温度低下を確認できた。
底板13の下面13bは、一部枕木と接触しているが、大部分は空気と接触しており、遠赤外線の放射に効果を有しているのである。
そして、角閃石を、平均粒径が100μmの粉末としているので、固体の場合と比較して表面積が2倍以上となるため、遠赤外線の放射効率を高くして、鉄道レールに蓄えられる熱エネルギを、効率よく遠赤外線に変換して外に放射することができる。
【0024】
以上詳細に説明したように、本実施例の鉄道レール10によれば、垂直板12の両側面12aと、底板13の上面13aと下面13b、上板11の下面11cに、遠赤外線放射膜15が形成されているので、上板11の上面11a、上板11の両側面11bから太陽の輻射熱が鉄道用レール10内に入って、鉄道用レール10の温度が上昇した場合に、垂直板12の両側面12aと、底板13の上面13aと下面13b、上板11の下面11cに形成された遠赤外線放射膜15が、加熱され増加した熱エネルギを遠赤外線に変換して、外に放射するため、鉄道用レール10の温度上昇を、真夏の日中においても、50℃以下に抑えることができる。そのため、50℃以上になったときに必要とされる頻繁な巡回を行う必要がなく、また保線の作業規制も減少できるため、保線作業の効率を格段に高くすることができる。
【0025】
本出願人が行った鉄道用レールを用いて行った実験では、処理しなかった鉄道レールが最高温度で55℃を越えたのに対して、本発明の鉄道レール(底板の下面にも遠赤外線膜を形成した(2)の場合)では、49℃までしか上昇しなかった。すなわち、6℃の温度低下を実現できた。最高温度が50℃を越える場合には、保安要員が警戒態勢をとる必要があるため、鉄道レールが50℃を越えないようにできることは、保安作業にとって、極めて大きな効果をもたらすものである。
また、底板13の下面13bに遠赤外線放射膜を形成しなかった場合には、処理しなかった鉄道レールが最高温度で55℃を越えたのに対して、本実施例の鉄道レール10では、51℃までしか上昇しなかった。
これにより、底板13の下面13bまで遠赤外線放射膜15を形成した場合と比較して、程度は落ちるが、それなりの効果を得ることはできる。実際は、夏場でも、最高温度が50℃を越える期間は短かい。そのため、従来より、4℃温度低下すれば、ほとんどの期間において、鉄道レールの温度を50℃以下とすることができるため、効果としては十分な場合が多いと考えられる。
【0026】
また、本実施例の遠赤外線放射膜15の成分がセラミック等の無機材料を主成分としているため、有機材料を主成分とするする従来の塗料と比較して、高い耐久性を持つため、メンテナンスの頻度を大きく低減でき、メンテナンスコストを大幅に削減することができる。
【0027】
以上、本発明に係るについて実施例を示したが、本発明はこの実施例に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、本実施例では、上板11の両側の下面11cに遠赤外線放射膜15を形成しているが、この部分は面積が小さいため、この部分に遠赤外線放射膜15を形成しなくても、十分な効果を奏することができる場合には、下面11cに遠赤外線放射膜15を形成しないことも可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 鉄道レール
11 上板
11a (上板11の)上面
11b (上板11の)側面
11c (上板11の)下面
12 垂直板
12a (垂直板12の)側面
13 底板
13a (底板13の)上面
13b (底板13の)下面
15 遠赤外線放射膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板と、該底板上面の中心に立設された垂直板と、該垂直板の上で両側に延設された上板とを備える鉄道用レールにおいて、
前記垂直板の側面と、前記底板の上面と、前記上板の下面に、遠赤外線放射膜が形成されていることを特徴とする鉄道用レール。
【請求項2】
請求項1に記載する鉄道用レールにおいて、
前記底板の下面に、遠赤外線放射膜が形成されていることを特徴とする鉄道用レール。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載する鉄道用レールにおいて、
前記遠赤外線放射膜の成分が、中空球状のセラミックビーズ、粉末状の角閃石を含むことを特徴とする鉄道用レール。
【請求項4】
請求項3に記載する鉄道用レールにおいて、
前記セラミックビーズの直径が10〜20μmであり、前記角閃石の平均粒径が、100μmであることを特徴とする鉄道用レール。
【請求項5】
底板と、該底板上面の中心に立設された垂直板と、該垂直板の上で両側に延設された上板とを備える鉄道用レールの塗装方法において、
前記垂直板の側面と、前記底板の上面と、前記上板の下面に、遠赤外線放射膜を塗布することを特徴とする鉄道用レールの塗装方法。
【請求項6】
請求項5に記載する鉄道用レールの塗装方法において、
前記底板の下面に、遠赤外線放射膜を塗装することを特徴とする鉄道用レールの塗装方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載する鉄道用レールの塗装方法において、
前記遠赤外線放射膜の成分が、中空球状のセラミックビーズ、粉末状の角閃石を含むことを特徴とする鉄道用レールの塗装方法。
【請求項8】
請求項7に記載する鉄道用レールの塗装方法において、
前記セラミックビーズの直径が10〜20μmであり、前記角閃石の平均粒径が、100μmであることを特徴とする鉄道用レールの塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−12505(P2011−12505A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159687(P2009−159687)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【特許番号】特許第4610663号(P4610663)
【特許公報発行日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(500455032)株式会社日進産業 (1)
【出願人】(591065848)名工建設株式会社 (15)
【Fターム(参考)】