説明

鉄道車輌用制輪子

【課題】制輪子本体に凹状の切欠部を形成したとしても割損を発生させず、十分な摩擦性能を確保することができる制輪子を提供する。
【解決手段】車輪Wと当接する制輪子本体10の摩擦面11に、該制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)に沿うように凹状の切欠部12を形成した鉄道車輌用制輪子であって、前記切欠部12は、幅方向(矢印C−D方向)の一端から他端に向う途中まで形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車輌の制動装置に使用される鉄道車輌用制輪子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道車輌用のブレーキ機構には踏面方式とディスク方式があり、在来線には踏面方式が多く採用されている。この踏面方式は、車輪の踏面に制輪子の摩擦面を押付けることで、ブレーキ力を発生させるものである。
【0003】
そして、このような踏面方式の鉄道車輌用制輪子としては、特許文献1及び非特許文献1に示される技術が示されている。
特許文献1に示される制輪子は、制輪子本体を形成する鋳鉄が合金鋳鉄であって、該合金鋳鉄中に、特別に配合された元素が配合されていることを特徴とする。また、非特許文献1に示される制輪子1は、図5及び図6に示されるように、制輪子本体2の車輪摺動方向に沿う長さ方向(矢印A−B方向)の中央部でありかつ車輪Wと当接する摩擦面3に、制輪子本体2の幅方向(矢印C−D方向)に沿う全幅にわたって、凹状の切欠部4を形成したものである。そして、このような切欠部4の配置によって、車輪Wとの接触性能の安定化及び摩擦性能の向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−287676号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高粘着合金鋳鉄制輪子の開発、電気車の科学551号、1994年3月号、27頁(辻村太郎著他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、図5及び図6に示される制輪子1においては、制輪子本体2に形成された凹状の切欠部4が、摩擦性能向上を図る上で不可欠な存在となる一方で、制輪子の強度上の弱点となっている。このため、衝撃的な外力が作用した場合、切欠部4を起点とした割損が、制輪子本体2に至る可能性がある。このような強度上の問題を解決するために、制輪子本体2に凹状の切欠部4を形成しなければ良いのだが、これによって十分な摩擦性能が確保できないという不具合は解消されなくなる。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、制輪子本体に凹状の切欠部を形成したとしても割損を発生させず、十分な摩擦性能を確保することができる制輪子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。すなわち、本発明では、車輪と当接する制輪子本体の摩擦面に、該制輪子本体の幅方向に沿うように凹状の切欠部を形成した鉄道車輌用制輪子であって、前記切欠部は、幅方向の一端から他端に向う途中まで形成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の鉄道車輌用制輪子では、前記切欠部は複数設けられていることを特徴とする。
また、本発明の鉄道車輌用制輪子では、前記切欠部は、前記制輪子本体の長手方向に沿う一端部及び他端部にそれぞれ形成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の鉄道車輌用制輪子では、前記切欠部は、前記制輪子本体の長手方向に沿う一端部及び他端部に交互に形成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の鉄道車輌用制輪子では、前記切欠部は、幅方向に沿う中央部を越えて配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鉄道車輌用制輪子では、車輪と当接する制輪子本体の摩擦面に位置する凹状の切欠部を、幅方向の一端から他端に向う幅方向の途中まで形成するようにした。すなわち、制輪子の切欠部は、制輪子の全幅に渡っておらず、車輪と当接する摩擦面が、制輪子本体の長手方向に分断されることなく連続していることから、衝撃的な外部からの負荷に対しても、切欠部に応力集中が生じることがない。このため切欠部から制輪子が割損に至ることが防止される。
また、摩擦特性についても、実車輪を使用したブレーキ性能試験の結果、切欠部無しの制輪子と比較して摩擦性能が高く、切欠部が全幅に形成された従来の制輪子に匹敵する性能を発揮することを確認している。
すなわち、本発明の鉄道車輌用制輪子では、制輪子本体に凹状の切欠部を形成したとしても割損を発生させず、十分な接触性能の安定化及び摩擦性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施例を示す鉄道車輌用の制輪子の正面図である。
【図2】図1の制輪子を摩擦面側から見た図である。
【図3】本実施例に係わる鉄道車輌用の制輪子のブレーキ性能を試験した結果を示す棒グラフである。
【図4】本実施例に係わる鉄道車輌用の制輪子の変形例を示す図である。
【図5】従来例を示す鉄道車輌用の制輪子の正面図である。
【図6】図5の制輪子を摩擦面側から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0014】
本発明の実施例について図1〜図4を参照して説明する。本実施例に係わる制輪子100は、図1及び図2に示されるように、車輪Wの外周形状に応じて全体が湾曲し、車輪Wの摺動方向に沿うように長尺(長さ方向を矢印A−B方向とする)に形成された制輪子本体10を有し、車輪Wの路面と当接する該制輪子本体10の摩擦面11に、制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)に沿うように、凹状の切欠部12を複数形成したものである。また、制輪子本体10の外側には、取付部となるコッタ部13が設けられている。
【0015】
前記切欠部12は、車輪Wの摺動方向と同一方向に配置された制輪子本体10の長手方向(矢印A−B方向)に沿う第1長側部10A及び第2長側部10Bを起点として、該制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)に沿うように配置されている。また、前記切欠部12は2箇所に設けられており、一方側の切欠部12は、第1長側部10Aから第2長側部10Bに向う途中まで形成され、また、他方側の切欠部12は、第2長側部10Bから第1長側部10Aに向う途中まで形成される。
そして、このような制輪子の切欠部12が、制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)の途中まで設けられる構成によって、車輪Wと当接する摩擦面11が、制輪子本体10の長手方向(矢印A−B方向)に分断されることなく連続し、その結果、衝撃的な外部からの負荷に対しても、切欠部12に応力集中が生じることがない。
【0016】
また、これら切欠部12は、一定の強度を保つために制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)全幅にわたって設けるのではなく、制輪子本体10の第1長側部10A又は第2長側部10Bを起点として、制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)全幅の30〜80%の長さとしている。また、これら切欠部12は、制輪子本体10の長手方向(矢印A−B方向)の端部(符号10C・10Dで示す)を起点として、該長手方向(矢印A−B方向)全長の10〜45%となる位置に設けられている。
なお、図1及び図2では、切欠部12を2箇所とし、かつ該切欠部12の長さを、制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)に沿う全幅の50%とし、かつ該切欠部12の長手方向(矢印A−B方向)に沿う位置を、該長手方向(矢印A−B方向)の端部10C・10Dを起点として全長の30%とした例を示している。
【0017】
そして、図1及び図2のように構成された制輪子100について、ブレーキ性能を試験した結果を図3に示す。なお、試験条件は、「常温乾燥、φ810mm車輪、車重470000kg相当、初速度135km/h、押付力40kN40両抱方式」である。また、図3では、(a)切欠部が無い制輪子、(b)切欠部を全幅に有する制輪子1(従来の図5及び図6に相当)、(c)切欠部を有する本実施例に係わる制輪子100の試験結果を示している。
そして、図3(c)に示す本発明品の制輪子100は、凹状の切欠部無しの制輪子(図3(a))と比較して摩擦性能が高く、切欠部が全幅にわたって形成された制輪子(図3(b))に匹敵する性能を発揮することを確認している。具体的には、下記の条件で、切欠部無しの場合(図3(a))の平均停止距離が約670mであるのに対して、本発明品である制輪子100(図3(c))では、約550mと大幅に摩擦性能が向上しており、切欠部を全幅に有する制輪子(図3(b))の約500mに近いブレーキ性能を示している。
【0018】
なお、上記実施例に示す制輪子100は、図4に示すように構成しても良い。
図4(A)は、図1及び図2と同様の制輪子100である。そして、このような制輪子100では、制輪子本体10の第1長側部10A又は第2長側部10Bを起点として、制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)中央部まで切欠部12が設けられていることから、車輪Wと当接する摩擦面11に追随しやすく接触性能が安定化されて良好な摩擦性能が得られるとともに、車輪Wと当接する摩擦面11が、制輪子本体10の長手方向(矢印A−B方向)に分断される箇所がないことで、制輪子本体10が衝撃的な外部からの負荷に対しても切欠部12に応力集中が生じさせることなく割損防止効果を得ることができる。
【0019】
図4(B)は、制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)に沿う中央部を越えて切欠部12が設けられた制輪子101を示す例である。そして、このような制輪子101では、制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)両側に位置する第1長側部10A及び第2長側部10Bを起点として、全幅の1/2以上となるまで各切欠部12が設けられており、図4(A)と同様に、車輪Wと当接する摩擦面11が、制輪子本体10の長手方向(矢印A−B方向)に分断される箇所がないために、図4(A)の制輪子100と同様に、衝撃的な外部からの負荷に対しても切欠部12に応力集中が生じさせることなく割損防止効果を得ることができる。また、図4(B)の制輪子101では、図4(A)よりも長い切欠部12を設けることによって、より高い摩擦面11との接触性能、摩擦性能及び放熱効果を得ることが可能となる。
【0020】
図4(C)は、制輪子本体10の第1長側部10A及び第2長側部10Bのそれぞれに2箇所の切欠部12(合計4箇所)を設け、かつ該切欠部12を長側部10A・10Bに対して交互に設けた制輪子102を示す例である。
そして、このような制輪子102では、制輪子本体10の第1長側部10A又は第2長側部10Bのそれぞれに、制輪子本体10を幅方向(矢印C−D方向)に横断しない4箇所の切欠部12が設けられることで、図4(A)と同様に、車輪Wと当接する摩擦面11が、制輪子本体10の長手方向(矢印A−B方向)に分断される箇所がないために、図4(A)の制輪子100と同様に、衝撃的な外部からの負荷に対しても切欠部12に応力集中が生じさせることなく割損防止効果を得ることができる。また、図4(C)の制輪子102では、図4(A)よりも長い切欠部12を設けることによって、より高い摩擦面11との接触性能、摩擦性能及び放熱効果を得ることが可能となる。
なお、図4(C)に示される制輪子102の切欠部12は、4箇所に限定されず、第1長側部10A又は第2長側部10Bの各側にて、4箇所以上設けかつこれらを交互に配置するようにしても良い。また、各切欠部12の長さは、一定のブレーキ性能を維持できるのであれば、制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)両側に位置する第1長側部10A及び第2長側部10Bを起点として、全幅の1/2未満であっても、1/2以上であっても良い。
【0021】
図4(D)は、制輪子本体10の第1長側部10A及び第2長側部10Bのそれぞれに2箇所の切欠部12(合計4箇所)を設け、かつ各側において、2箇所の切欠部12が近接するようにかつ並ぶように設けられた制輪子103を示す例である。
そして、このような制輪子103では、制輪子本体10の第1長側部10A又は第2長側部10Bのそれぞれに、制輪子本体10を幅方向(矢印C−D方向)に横断しない4箇所の切欠部12が設けられることで、図4(A)と同様に、車輪Wと当接する摩擦面11が、制輪子本体10の長手方向(矢印A−B方向)に分断される箇所ないために、図4(A)の制輪子100と同様に、衝撃的な外部からの負荷に対しても切欠部12に応力集中が生じさせることなく割損防止効果を得ることができる。また、図4(D)の制輪子103では、図4(A)よりも長い切欠部12を設けることによって、より高い摩擦面11との接触性能、摩擦性能及び放熱効果を得ることが可能となる。
なお、図4(D)に示される制輪子103の切欠部12は、第1長側部10A又は第2長側部10Bの各側2箇所に限定されず、第1長側部10A又は第2長側部10Bの各側にて、2箇所以上設けても良い。また、各切欠部12の長さは、一定のブレーキ性能を維持できるのであれば、制輪子本体10の幅方向(矢印C−D方向)両側に位置する第1長側部10A及び第2長側部10Bを起点として、全幅の1/2未満であっても、1/2以上であっても良い。
【0022】
以上詳細に説明したように本実施例に示す鉄道車輌用の制輪子100〜103では、車輪Wと当接する制輪子本体10の摩擦面11に位置する凹状の切欠部12を、幅方向(矢印C−D方向)の一端から他端に向う該幅方向(矢印C−D方向)の途中まで形成するようにした。すなわち、制輪子の切欠部12は、制輪子本体10の全幅に渡っておらず、車輪Wと当接する摩擦面11が、制輪子本体10の長手方向(矢印A−B方向)に分断されることなく連続していることから、衝撃的な外力の負荷に対しても、切欠部12に応力集中が生じることがない。このため切欠部12から制輪子本体10の全体が割損に至ることが防止される。
【0023】
また、摩擦特性についても、実車輪を使用したブレーキ性能試験の結果、切欠部12が無い制輪子と比較して摩擦性能が高く、切欠部12が全幅に形成された従来の制輪子に匹敵する性能を発揮することを確認している。すなわち、本実施例に示す鉄道車輌用の制輪子100〜103では、制輪子本体10に凹状の切欠部12を形成したとしても割損を発生させず、十分な接触性能の安定化及摩擦性能を確保することができる。
【0024】
また、本実施例に示す鉄道車輌用の制輪子100〜103では、図4(A)〜(D)に示すいずれかの形態を選択することで、ブレーキ性能を維持しつつ、よりも多くの切欠部12を設けることができ、高い割損防止効果及び放熱効果を得ることが可能となる。
【0025】
なお、上記実施例では、制輪子本体10の第1長側部10A及び第2長側部10Bのそれぞれに切欠部12を設けたが、一定のブレーキ性能を維持できるのであれば、第1長側部10A及び第2長側部10Bのいずれか一方に切欠部12を設ける構成でも良い。
【0026】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、鉄道車輌の制動装置に使用される鉄道車輌用制輪子に関する。
【符号の説明】
【0028】
10 制輪子本体
11 摩擦面
12 切欠部
100 制輪子
101 制輪子
102 制輪子
103 制輪子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と当接する制輪子本体の摩擦面に、該制輪子本体の幅方向に沿うように凹状の切欠部を形成した鉄道車輌用制輪子であって、
前記切欠部は、幅方向の一端から他端に向う途中まで形成されることを特徴とする鉄道車輌用制輪子。
【請求項2】
前記切欠部は複数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鉄道車輌用制輪子。
【請求項3】
前記切欠部は、前記制輪子本体の長手方向に沿う一端部及び他端部にそれぞれ形成されることを特徴とする請求項2に記載の鉄道車輌用制輪子。
【請求項4】
前記切欠部は、前記制輪子本体の長手方向に沿う一端部及び他端部に交互に形成されることを特徴とする請求項3に記載の鉄道車輌用制輪子。
【請求項5】
前記切欠部は、車輪の幅方向に沿う中央部を越えて配置されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の鉄道車輌用制輪子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−228655(P2010−228655A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79880(P2009−79880)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【Fターム(参考)】