説明

鉄鋼スラグからのリチウム回収方法およびリチウム回収装置

【課題】鉄鋼スラグからリチウムを回収する方法およびリチウム回収装置を提供する。
【解決手段】鉄鋼スラグと水とを耐圧密閉容器に装入する装入ステップと(ステップS101)、前記耐圧密閉容器を加温して、収容される水を所定の高温高圧水とする加温ステップと(ステップS103)、前記加温ステップで生成した前記高温高圧水と前記鉄鋼スラグとの接触により前記鉄鋼スラグ中のリチウムを前記高温高圧水中に溶出させる溶出ステップと(ステップS104)、前記溶出ステップ後、リチウムを溶出した高温高圧水を前記耐圧密閉容器からリチウム回収手段に排出する排出ステップと(ステップS105)、前記リチウム回収手段に排出され、収容される処理水中に共存する他の無機成分を除去する除去ステップと(ステップS106)、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼の製造過程で発生する鉄鋼スラグからのリチウム回収方法およびリチウム回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光や風力発電による電力貯蔵や電気自動車・ハイブリッド車の電力供給のために、高性能な蓄電池の需要が増しており、特に従来の蓄電池に比べてエネルギー密度が高く、繰り返し充電も可能なリチウムイオン二次電池の需要が高まっている。リチウム二時電池は、小型の携帯機器用にとどまらず、電気自動車用や電力貯蔵用の大容量二次電池としても注目され、今後も大幅な利用拡大が見込まれている。
【0003】
しかし、日本国内では、電池原料であるリチウム資源が乏しいため、電池原料である炭酸リチウムについては、チリやアメリカ等から輸入されているのが現状である。
【0004】
このため、希少金属であるリチウムを回収して再利用する技術が種々提案されており、たとえば、リチウム電池や冷媒用のリチウム化合物の廃液から、リチウムイオンを選択的に吸着する吸着剤から形成される固定床等によってリチウムイオンを吸着分離し、吸着分離後、該吸着剤からリチウムイオンを脱着させることによりリチウムを回収する回収装置や(たとえば、特許文献1〜3参照)、リチウムイオン二次電池の正極物質を鉱酸およびアルカリ処理した後、蒸発乾固物を非水溶液として陽イオン交換樹脂によりリチウムイオンを分離する方法(例えば、特許文献4参照)、さらには、海水からリチウムを採取するために、船倉部に、海水を導入する海水導入路と、リチウム吸着剤と、海水を循環させる海水循環手段と、海水を排出する排出手段と、リチウム吸着剤からリチウムを脱着させるリチウム脱着液を供給・排出する脱着液注入・排出手段と、前記リチウム脱着液を循環する脱着液循環手段とを備える海中リチウム採取装置が開示されている(例えば、特許文献5参照)。
【0005】
一方、高炉スラグや製鋼スラグ(本明細書および本発明においては、転炉系スラグと電気炉系スラグの両者を含む)などの鉄鋼製造過程で得られる鉄鋼スラグは、路盤材などの土木建築用資材として使用されており、路盤材等に使用する際のエージング方法(例えば、特許文献6および7参照)や、製鋼プロセスにおいて再利用する方法(例えば、特許文献8参照)などの再生方法が開示されているが、鉄鋼スラグに含まれるリチウムを回収し、利用する技術は今まで提案されたことはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−167626号公報
【特許文献2】特開2002−167627号公報
【特許文献3】特開2002−167628号公報
【特許文献4】特許第4217292号公報
【特許文献5】特開2002−88420号公報
【特許文献6】特開平9−118549号公報
【特許文献7】特開平9−118550号公報
【特許文献8】特開2008−308754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みて考案されたものであり、鉄鋼の製造過程で発生する鉄鋼スラグからリチウムを回収する方法およびリチウム回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法は、前記鉄鋼スラグと水とを耐圧密閉容器に装入する装入ステップと、前記耐圧密閉容器を加温して、収容される水を所定の高温高圧水とする加温ステップと、前記加温ステップで生成した高温高圧水と前記鉄鋼スラグとの接触により前記鉄鋼スラグ中のリチウムを前記高温高圧水中に溶出させる溶出ステップと、前記溶出ステップ後、リチウムが溶出した高温高圧水を前記耐圧密閉容器からリチウム回収手段に排出する排出ステップと、前記リチウム回収手段に排出され、収容されるリチウム含有水溶液に共存する他の無機成分を除去する除去ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法は、前記鉄鋼スラグを耐圧密閉容器に装入する装入ステップと、高温高圧水供給手段により、前記耐圧密閉容器に所定の高温高圧水を供給する供給ステップと、前記供給ステップにより、前記耐圧密閉容器に前記高温高圧水を所定量供給した後、前記耐圧密閉容器内の高温高圧状態を保持しながら、前記高温高圧水供給手段と排出手段とにより前記耐圧密閉容器内に高温高圧水を連続的に供給し、かつリチウム回収手段に連続的に排出して、前記鉄鋼スラグ中のリチウムを前記高温高圧水中に溶出させる連続溶出ステップと、前記連続溶出ステップでリチウム回収手段に排出されたリチウム含有水溶液に共存する他の無機成分を除去する除去ステップと、を含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法は、上記発明において、前記高温高圧水は、200〜370℃、かつ飽和蒸気圧以上の高温高圧水であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法は、上記発明において、前記排出ステップまたは前記連続溶出ステップにおいて、前記耐圧密閉容器から前記リチウム回収手段に高温高圧水を排出する際、常圧に噴霧してリチウム濃度を濃化した水溶液を得ることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法は、上記発明において、前記除去ステップの後、リチウム含有水溶液からリチウムを回収する回収ステップを含むことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法は、上記発明において、前記連続溶出ステップにおいて、リチウム回収手段に排出される前の高温高圧水を検液分取手段により所定間隔で分取し、分取した水溶液中のリチウムおよび他の無機成分の溶出量を分析する分析ステップを含み、前記分析ステップでの分析結果に基づき、リチウムを回収する水溶液の分画を決定することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法は、上記発明において、リチウムを回収する水溶液の分画は、最初に排出された分画から、リチウムの高温高圧水への溶出率が極大値比で10〜30%に減少した時点の分画まで回収することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法は、上記発明において、前記除去ステップは、リチウム回収手段に排出されたリチウム含有水溶液に炭酸ガスを吹き込んでカルシウムを分離することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法は、上記発明において、前記鉄鋼スラグは、高炉スラグまたは製鋼スラグであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のリチウム回収装置は、鉄鋼スラグと水とを収容する耐圧密閉容器と、前記耐圧密閉容器を加温して、収容される水を所定の高温高圧水とする加熱手段と、前記耐圧密閉容器中の高温高圧水を排出する排出手段と、前記排出手段により前記耐圧密閉容器から排出されたリチウム含有水溶液を回収するリチウム回収手段と、前記耐圧密閉容器内で前記鉄鋼スラグを前記高温高圧水で所定時間処理後、前記排出手段から高温高圧水を排出する際、常圧に噴霧させてリチウム濃度を濃化した水溶液を得るよう制御する制御手段と、前記リチウム回収手段内に二酸化炭素を吹き込む二酸化炭素供給手段と、前記二酸化炭素供給手段により供給された二酸化炭素を排出する気体排出手段と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のリチウム回収装置は、鉄鋼スラグを収容する耐圧密閉容器と、前記耐圧密閉容器に所定の高温高圧水を供給する高温高圧水供給手段と、前記耐圧密閉容器を加温して、前記耐圧密閉容器内に供給された高温高圧水を所定の高温高圧状態に保持する加熱手段と、前記耐圧密閉容器中の高温高圧水を排出する排出手段と、前記排出手段により前記耐圧密閉容器から排出されたリチウム含有水溶液を回収するリチウム回収手段と、前記耐圧密閉容器内に前記高温高圧水供給手段から高温高圧水を所定量供給した後、前記耐圧密閉容器内の高温高圧状態を保持しながら、前記高温高圧水供給手段により高温高圧水を前記耐圧密閉容器内に連続的に供給し、かつ、前記排出手段から高温高圧水を排出する際、常圧に噴霧することによりリチウム濃度を濃化した水溶液として排出するよう制御する制御手段と、前記リチウム回収手段内に二酸化炭素を吹き込む二酸化炭素供給手段と、前記二酸化炭素供給手段により供給された二酸化炭素を排出する二酸化炭素排出手段と、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のリチウム回収装置は、上記発明において、前記高温高圧水は、200〜370℃、かつ飽和蒸気圧以上の高温高圧水であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のリチウム回収装置は、上記発明において、前記排出手段から排出される高温高圧水を所定間隔で分取する検液分取手段と、前記検液分取手段が分取した水溶液中のリチウムおよび他の無機成分の溶出量を分析する元素分析装置と、を備え、前記元素分析装置での分析結果に基づき、リチウムを回収する水溶液の分画を決定することを特徴とする。
【0021】
また、本発明のリチウム回収装置は、上記発明において、リチウムを回収する検液の分画は、最初に排出された分画から、リチウムの高温高圧水への溶出率が極大値比で10〜30%に減少した時点の分画まで回収することを特徴とする。
【0022】
また、本発明のリチウム回収装置は、上記発明において、前記鉄鋼スラグは、高炉スラグまたは製鋼スラグであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、リチウムを微量に含有する鉄鋼スラグを、200〜370℃、かつ飽和蒸気圧以上の高温高圧水で短時間処理するだけで、選択的にリチウムを高温高圧水中に溶出させ、回収することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係るリチウム回収装置の断面図である。
【図2】図2は、本実施の形態1に係るリチウム回収処理のフローチャートである。
【図3】図3は、水温と飽和水蒸気圧の関係を示す図である。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2に係るリチウム回収装置の断面図である。
【図5】図5は、本実施の形態2に係るリチウム回収処理のフローチャートである。
【図6】図6は、本発明の実施の形態2の変形例に係るリチウム回収装置の断面図である。
【図7】図7は、本実施の形態2の変形例に係るリチウム回収処理のフローチャートである。
【図8】図8は、高温高圧水でフロー処理を行った場合のリチウムの溶出率積算値と処理時間との関係を示す図である。
【図9】図9は、250℃の高温高圧水でフロー処理を行った場合のリチウムおよびカルシウムの溶出率と処理時間との関係を示す図である。
【図10】図10は、図9の結果から算出したカルシウム溶出率とリチウム溶出率との比と処理時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る鉄鋼スラグからのリチウム回収方法およびリチウム回収装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0026】
高炉スラグ、製鋼スラグなどの鉄鋼スラグは、鉄鋼製造過程で得られる副生成物であるが、これらは数〜数十ppm程度のリチウムを含有している。一方、水を液体状態のまま高温高圧状態、いわゆる亜臨界状態にすると、イオン積が増大し、大きな加水分解作用を持つことはよく知られている。さらに、亜臨界状態の高温高圧水は高い浸透性を有することから、多孔質の鉄鋼スラグに高温高圧水を作用させた場合、内部にまで浸透して特定の含有成分を効率的に抽出することが期待できる。
【0027】
そこで、本出願人は、鉄鋼スラグに作用させる高温高圧水の温度、圧力、および処理時間を種々変更して鉄鋼スラグからの高温高圧水へのリチウム溶出率を調べたところ、リチウムは、鉄鋼スラグのマトリックス成分であるカルシウムやケイ素、アルミニウムに比べ、100℃前後の比較的低温域から極めて短時間に高温高圧水に溶出することを見出し、本発明を考案するに至った。
【0028】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係るリチウム回収装置100の断面図である。回収装置100は、鉄鋼スラグと水とを収容する耐圧密閉容器1と、耐圧密閉容器1を加熱し、内部の水を高温高圧水とする加熱用ヒーター2と、高温高圧水での処理後、耐圧密閉容器1内の高温高圧水を排出する処理水排出ライン6と、処理水排出ライン6から排出されたリチウムを含有する水溶液を貯留するリチウム回収容器4と、リチウム回収容器4に回収されたリチウム含有水溶液に二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給ライン9と、リチウム回収容器4内の二酸化炭素等の気体を排出する気体排出ライン11と、各部を制御する制御部7と、を備える。
【0029】
耐圧密閉容器1は、リチウムを微量含有する所定量の鉄鋼スラグと、前記鉄鋼スラグからリチウムを溶出させるための高温高圧水となる水を容器内に収容するための開閉自在の蓋(図示せず)を有する。耐圧密閉容器1は、本実施の形態1にかかる高温高圧水処理を行うために、0.5〜40Mpa程度の圧力に耐える構造を有するものとする。さらに、収容された高温高圧水に加えられた圧力を逃さない程度に密閉される構造を有する。
【0030】
耐圧密閉容器1に装入する鉄鋼スラグと水と量比は、鉄鋼スラグを高温高圧水で処理することにより、鉄鋼スラグから高温高圧水に溶出するリチウムを含む無機成分が飽和せず溶出できる量比、たとえば、水を鉄鋼スラグの3倍以上、好ましくは5倍量以上装入することが望ましい。
【0031】
加熱用ヒーター2は、耐圧密閉容器1を収容するための開閉自在な蓋(図示せず)と、加熱用ヒーター2内の温度を検出する温度センサー19と、を備える。加熱用ヒーター2は、耐圧密閉容器1内に装入した水を高温高圧水とするために、耐圧密閉容器1を所定温度、たとえば、100〜370℃に加熱する。リチウムを他の無機成分より選択的に溶出させるためには、200〜370℃の高温高圧水で加熱することが好ましい。耐圧密閉容器1内には空気が混在するため、耐圧密閉容器1内の鉄鋼スラグは、加熱用ヒーター2による加熱により飽和蒸気圧以上の高温高圧水と接触することとなる。実施の形態1に係る加熱用ヒーター2は、耐熱密閉容器1を収容する構造としているが、耐熱密閉容器1内の水を高温高圧水とすることが可能であれば、耐熱密閉容器1自体に加熱手段を付加したものでもよい。
【0032】
処理水排出ライン6は、処理水排出ライン6の開閉および耐圧密閉容器1内の高温高圧水の排出を調整する圧力調整弁3と、排出されたリチウムを含有する水溶液を貯留するリチウム回収容器4と、リチウム回収容器4から他の無機成分を除去したリチウム含有水溶液の排出を調整する圧力調整弁5と、を備える。
【0033】
圧力調整弁3は、後述する制御部7の制御のもと、耐圧密閉容器1中の高温高圧水を、常圧に噴霧することによりリチウム濃度を濃化した水溶液としてリチウム回収容器4に排出する。リチウム回収容器4に噴霧された高温高圧水は、一部ガス化し、ガス化した水蒸気は後述する気体排出ライン11から排出され、リチウム濃度が濃化した水溶液はリチウム回収容器4に収容される。
【0034】
二酸化炭素供給ライン9は、二酸化炭素供給ライン9の開閉およびリチウム回収容器4内への二酸化炭素の供給量を調整する圧力調整弁8を備える。
【0035】
気体排出ライン11は、気体排出ライン11の開閉およびリチウム回収容器4内からの二酸化炭素の排出量を調整する圧力調整弁10を備える。気体排出ライン11は、圧力調整弁3により、耐圧密閉容器1中の高温高圧水を常圧に噴霧させる際に発生する水蒸気を排出する。
【0036】
制御部7は、加熱用ヒーター2を制御して高温高圧水を精製し、耐圧密閉容器1内の鉄鋼スラグと高温高圧水とを所定時間接触させた後、圧力調整弁3を制御することにより、耐圧密閉容器1内の高温高圧水を、常圧に噴霧することによりリチウム濃度を濃化した水溶液としてリチウム回収容器4に排出させる。また、制御部7は、リチウム回収容器4に排出されたリチウム含有水溶液に、二酸化炭素供給ライン9により二酸化炭素を供給するよう圧力調整弁8を制御する。過剰な二酸化炭素は、気体排出ライン11の圧力調整弁10を制御して排出する。
【0037】
リチウム含有水溶液中には、リチウムの他に、マトリックス成分であるカルシウムやナトリウムが存在するため、水溶液中に二酸化炭素を供給することにより、水溶液中に溶解するカルシウムを難溶性の炭酸カルシウムに変換して沈殿分離する。カルシウムを除去する手法として、硫酸または硫酸塩を使用して硫酸カルシウムに変換したり、アルカリ等により水酸化カルシウムに変換することも考えられるが、薬品コストや、安全性等の面で二酸化炭素を使用した炭酸塩として除去することが好ましい。
【0038】
また、処理水中に共存するナトリウムは、試料とするスラグ種や溶出条件によっては、リチウムの数十〜数百倍程度の濃度で共存する場合もあるが、海水等に比較すると存在比は小さい。ナトリウムを除去する場合は、既存のイオン交換樹脂や吸着剤等による補集法を使用して除去することが可能である。
【0039】
次に、図2を参照して、鉄鋼スラグから高温高圧水へのリチウム回収処理を行う際のフローについて説明する。図2は、本実施の形態1に係るリチウム回収処理のフローチャートである。
【0040】
まず、耐圧密閉容器1に、一定粒度以下に粉砕した鉄鋼スラグと水とを装入する(ステップS101)。鉄鋼スラグの粒径は細かいほど高温高圧水との接触面積を増大させ、鉄鋼スラグから高温高圧水へのリチウムの溶出が促進される。スラグ内部からもリチウムを溶出させるためには粒径が10mm以下のものを用いるのが好ましい。鉄鋼スラグと水との装入質量比は、1:3以上、好ましくは1:5以上である。
【0041】
続いて、耐圧密閉容器1を加熱用ヒーター2内に収容し、処理水排出ライン6と接続する(ステップS102)。
【0042】
接続の後、制御部7は、加熱用ヒーター2を昇温して、耐熱密閉容器1内の水を200〜370℃、かつ飽和蒸気圧以上の高温高圧水にするよう制御する(ステップS103)。所定温度における水の飽和蒸気圧の算出方法は、公知の方法や値を用いればよい。図3は、下記式(2)および(3)で示すWagner式により算出した、水温と水蒸気圧との関係を示す図である。図3によれば、水の飽和水蒸気圧はたとえば150℃では0.48MPa、300℃では8.6MPaとなる。これより上記所定温度における水の飽和蒸気圧以上とは、たとえば150℃では0.48MPa以上、300℃では8.6MPa以上となる。
【0043】
ln(p×[kPa]Pc)=(Aτ+Bτ1.5+Cτ+Dτ)/(T/Tc) ・・・
(1)
τ=1−T[K]/Tc ・・・ (2)
上記式(1)および(2)において、A=−7.76451、B=1.45838、C=−2.7758、D=−1.23303、Tc=647.3K、Pc=22120kPA(使用範囲275K〜647.3K)である。
【0044】
耐圧密閉容器1内の水を所定の高温高圧水とした後、所定時間、鉄鋼スラグを高温高圧水と接触させて、鉄鋼スラグから高温高圧水にリチウムを溶出させる(ステップS104)。200〜370℃の高温高圧水処理では、0.5〜4時間程度で十分溶出可能である。
【0045】
所定時間溶出させた後、制御部7は、圧力調整弁3を調整して、耐圧密閉容器1から高温高圧水を常圧に噴霧させることにより、リチウム回収容器4にリチウム濃度を濃化した水溶液として排出させる(ステップS105)。高温高圧水を常圧に噴霧させずにリチウム回収容器4に排出することもできるが、処理水のリチウム濃度を濃化できるとともに、処理する液量も低減できるので、常圧に噴霧して排出することが好ましい。常圧噴霧によりガス化した水蒸気は、気体排出ライン11から排出される。
【0046】
高温高圧水の排出後、制御部7は、二酸化炭素供給ライン9の圧力調整弁8を制御して、リチウム回収容器4に排出されたリチウム含有水溶液中に二酸化炭素を供給する(ステップS106)。過剰な二酸化炭素は、気体排出ライン11の圧力調整弁10を制御して排出する。処理水中に二酸化炭素を供給することにより、溶解するカルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿させて、処理水からカルシウムを除去してリチウム含有水溶液を得る。カルシウムを除去したリチウム含有水溶液は、圧力調整弁5を介してリチウム回収容器4から排出させる(ステップS107)。
【0047】
上記のようにして得たリチウム含有水溶液は、溶液のまま使用される場合にはこの状態で使用する。また、リチウム含有水溶液からリチウム単体を回収する場合には、処理水を加熱して、水分を蒸発により除去すればよく、あるいは、炭酸塩等に形態制御したい場合には、処理水に炭酸ナトリウムを添加することにより、炭酸リチウム沈殿として回収してもよい。
【0048】
(実施の形態2)
本実施の形態2にかかる鉄鋼スラグからのリチウム回収方法およびリチウム回収装置は、鉄鋼スラグと高温高圧水との接触処理を、高温高圧水を直接耐圧密閉容器に連続的に供給しながら、排出するフロー処理とする。本実施の形態2は、耐圧密閉容器1内への鉄鋼スラグの装入量を実施の形態1より大きくすることができるため、リチウム回収量の増大が見込めるとともに、高温高圧水をフロー処理とすることで、鉄鋼スラグからリチウムをより選択的に溶出させることができる。
【0049】
図4は、本発明の実施の形態2に係るリチウム回収装置200の断面図である。以下、図4を参照して、実施の形態1にかかるリチウム回収装置100と異なる部分のみ説明する。
【0050】
図4に示すように、リチウム回収装置200は、高温高圧水供給ライン16をさらに備える。
【0051】
高温高圧水供給ライン16は、水を貯水する貯水槽12と、供給される水を高温高圧水に変換するコイル15と、コイル15を加熱して高温高圧水を生成させる加熱用ヒーター2と、コイル15を介して耐圧密閉容器1に高温高圧水を送液する送液ポンプ13と、耐圧密閉容器1内の圧力を調整する圧力調整弁14とを備える。
【0052】
コイル15は、耐圧密閉容器1を加熱する加熱用ヒーター2内に収容され、送液ポンプ13によりコイル15に送液された水は、コイル15を循環している間に加熱され、所定の高温高圧水に変換される。送液ポンプ13は、所定の高温高圧水を、コイル15を介して耐圧密閉容器1内に供給するために、所望する圧力以上の最大使用圧力を有するものを使用する。なお、本実施の形態2では、1の加熱用ヒーター2でコイル15と耐圧密閉容器1とを加熱しているが、別々の加熱源を備えていてもよい。
【0053】
制御部27は、各部の処理および動作を制御するとともに、高温高圧水供給ライン16により耐圧密閉容器1内に高温高圧水を所定量供給した後、耐圧密閉容器1内の高温高圧状態を保持しながら、高温高圧水供給ライン16により高温高圧水を耐圧密閉容器1内に連続的に供給しながら、処理水排出ライン6から高温高圧水を排出する際、圧力調整弁3を制御して、常圧に噴霧することによりリチウム濃度を濃化した水溶液としてリチウム回収容器4に排出させる。制御部27の制御のもと、耐圧密閉容器1に高温高圧水を連続供給することにより、鉄鋼スラグから高温高圧水により多くのリチウムを選択的に溶出することが可能となる。鉄鋼スラグを、たとえば、常温の10倍量の水で6時間振とうしてリチウムを溶出させた場合、鉄鋼スラグに含有されるリチウム量の0.5%未満しか溶出できないのに対し、250℃、18Mpaの高温高圧水を、スラグに対してトータル8倍量1時間通液処理(0.6ml/min)した場合、12%のリチウムが溶出する。その際、水溶液中には、カルシウムは0.07%、アルミニウムおよび鉄は0.01%未満しか溶出せず、極めて選択的にスラグからリチウムを回収できる。
【0054】
次に、図5を参照して、実施の形態2に係る鉄鋼スラグからのリチウム回収処理を行う際のフローについて説明する。図5は、本実施の形態2に係るリチウム回収処理のフローチャートである。
【0055】
まず、耐圧密閉容器1に、一定粒度以下に粉砕した鉄鋼スラグを装入する(ステップS201)。実施の形態2では、耐圧密閉容器1内に鉄鋼スラグのみを装入し、高温高圧水を連続的に供給・排出する処理とするため、耐圧密閉容器1内へのスラグの初期装入量を実施の形態1より大きくすることが可能となる。
【0056】
続いて、耐圧密閉容器1を加熱用ヒーター2内に収容し、高温高圧水供給ライン16および処理水排出ライン6と接続する(ステップS202)。
【0057】
接続の後、制御部27は、加熱用ヒーター2を昇温して、耐熱密閉容器1およびコイル15の温度を100〜370℃、好ましくは200〜370℃の所定温度に調整する(ステップS203)。
【0058】
耐圧密閉容器1およびコイル15の温度を調整後、高温高圧水供給ライン16により耐圧密閉容器1内に高温高圧水を所定量供給する(ステップS204)。貯水槽12に貯留された水は、送液ポンプ13および圧力調整弁14によりコイル15に送液され、所定温度に調整されたコイル15内を循環することにより高温高圧水に変換された後、耐圧密閉容器1内に供給される。
【0059】
制御部27は、高温高圧水供給ライン16により耐圧密閉容器1内に高温高圧水を所定量供給した後、高温高圧水供給ライン16により耐圧密閉容器1内に高温高圧水を続けて供給しつつ、処理水排水ライン6の圧力調整弁3を調整して耐圧密閉容器1から高温高圧水をリチウム回収容器4に排出させる。制御部27は、圧力調整弁14および圧力調整弁3を制御することにより、耐圧密閉容器1内の圧力と温度を保持して、収容する鉄鋼スラグを所定時間高温高圧水で処理してリチウムを溶出させる(ステップS205)。200〜370℃の高温高圧水処理では、0.5〜4時間程度でリチウムは十分溶出可能である。
【0060】
リチウム回収容器4への高温高圧水の排出は、圧力調整弁3を調整して、耐圧密閉容器1から高温高圧水を常圧に噴霧させることにより、リチウム濃度を濃化した水溶液として排出させる(ステップS206)。実施の形態1と同様、高温高圧水を常圧に噴霧させずにリチウム回収容器4に排出することもできるが、水溶液のリチウム濃度を濃化できるとともに、処理量も減らすことができるので、常圧に噴霧して排出することが好ましい。常圧噴霧によりガス化した水蒸気は、気体排出ライン11から排出される。また、実施の形態2では、実施の形態1より選択的にリチウムを回収できるため、高温高圧水での処理時間を最適化して、常圧噴霧の際の水蒸気の排出を大きくすることにより、固体のリチウム含有物(一部、リチウム濃度がより高い水溶液を含む)としてリチウムを回収することも可能である。
【0061】
所定時間高温高圧水処理を行った後、制御部27は、耐圧密閉容器1への高温高圧水の供給を停止するとともに、耐圧密閉容器1内の高温高圧水を排出するよう制御する。制御部27は、送液ポンプ13を停止し、圧力調整弁14を閉処理した後、圧力調整弁3を調整して耐圧密閉容器1内の高温高圧水をリチウム回収容器4に排出する。
【0062】
高温高圧水の排出後、制御部27は、二酸化炭素供給ライン9の圧力調整弁8を制御して、リチウム回収容器4に排出されたリチウムを含有する処理水(高温高圧水)中に二酸化炭素を供給する(ステップS207)。過剰な二酸化炭素は、気体排出ライン11の圧力調整弁10を制御して排出する。処理水中に二酸化炭素を供給することにより、溶解するカルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿させて、処理水からカルシウムを除去したリチウム含有水溶液を得る。カルシウムを除去したリチウム含有水溶液は、圧力調整弁5を介してリチウム回収容器4から排出させる(ステップS208)。
【0063】
実施の形態1と同様に、溶液のまま使用される場合には、リチウム含有水溶液はこのままの状態で使用する。また、リチウム含有水溶液からリチウム単体を回収する場合には、処理水を加熱して、水分を蒸発により除去すればよく、あるいは、炭酸塩等に形態制御したい場合には、処理水に炭酸ナトリウムを添加することにより、炭酸リチウム沈殿として回収してもよい。
【0064】
さらに、本実施の形態2の変形例1として、図6に示すリチウム回収装置300が例示される。図6は、本発明の実施の形態2の変形例1に係るリチウム回収装置300の断面図である。
【0065】
変形例1にかかるリチウム回収装置300の処理水排出ライン26は、圧力調整弁3とリチウム回収容器4との間にフラクションコレクター17を備える。フラクションコレクター17は、圧力調整弁3を介して耐圧密閉容器1から排出された高温高圧水を所定間隔で分取する機能を有する。
【0066】
フラクションコレクター17により分取された水溶液は、元素分析装置18により、水溶液中に溶出したリチウムおよび他の無機成分量が分析される。
【0067】
変形例1では、フラクションコレクター17により耐圧密閉容器1から排出された高温高圧水を分取し、分取した検液について経時的にリチウムおよび他の無機成分の溶出量を分析できるため、溶出した無機成分の溶出挙動を把握することが可能となる。本変形例1では、リチウムおよび他の無機成分の溶出挙動に基づき、リチウムを回収する検液の分画を決定することができる。たとえば、後述する実施例で明らかなように、リチウムはマトリックスのカルシウムより早い時点で溶出量が極大値を与える。したがって、カルシウム等の他の成分の溶出を低減してリチウムの溶出率を高めたい場合には、回収する分画をより少なく、例えば、リチウムの高温高圧水への溶出率が極大値比で30%まで減少した時点の分画まで回収する。一方、リチウムの溶出量を大きくしたい場合には、例えば、リチウムの高温高圧水への溶出率が極大値比で10%まで減少した時点の分画まで回収する。
【0068】
次に、図7を参照して、実施の形態2の変形例に係るリチウム回収処理のフローについて説明する。図7は、本実施の形態2の変形例に係るリチウム回収処理のフローチャートである。
【0069】
耐圧密閉容器1に、一定粒度以下に粉砕した鉄鋼スラグを装入し(ステップS301)、鉄鋼スラグを装入した耐圧密閉容器1を加熱用ヒーター2内に収容し、高温高圧水供給ライン16および処理水排出ライン6と接続する(ステップS302)。接続後、制御部37は、加熱用ヒーター2を昇温して、耐熱密閉容器1およびコイル15の温度を100〜370℃、好ましくは200〜370℃の所定温度に調整し(ステップS303)、高温高圧水供給ライン16により耐圧密閉容器1内に高温高圧水を所定量供給する(ステップS304)。
【0070】
制御部37は、高温高圧水供給ライン16により耐圧密閉容器1内に高温高圧水を所定量供給した後、高温高圧水供給ライン16により耐圧密閉容器1内に高温高圧水を続けて供給しつつ、処理水排水ライン26の圧力調整弁3を調整して耐圧密閉容器1から高温高圧水をリチウム回収容器4に排出するよう制御する。制御部27は、圧力調整弁14および圧力調整弁3を調整制御することにより、耐圧密閉容器1内の圧力と温度を保持して、収容する鉄鋼スラグを所定時間高温高圧水で処理してリチウムを溶出させる(ステップS305)。リチウム回収容器4への高温高圧水の排出は、圧力調整弁3を調整して、耐圧密閉容器1から高温高圧水を常圧に噴霧させることにより、リチウム濃度を濃化した水溶液として排出させる。常圧噴霧によりガス化した水蒸気は、気体排出ライン11から排出される。
【0071】
高温高圧水の排出と並行して、圧力調整弁3からリチウム回収容器4に排出される高温高圧水の一部をフラクションコクレター17で分取し(ステップS306)、分取した検液は元素分析装置18でリチウム等の溶出率が分析される(ステップS307)。元素分析装置18は、検液中の元素の含有量を測定できる機能を有していれば、特に規定するものではないが、検液中の無機成分の高感度分析法であるICP発光分析法や原子吸光法、ICP質量分析法などが好適である。
【0072】
元素分析装置18で分析されたリチウムの溶出率は制御部37に送信され、制御部37は、リチウム溶出率が、あらかじめ設定されたリチウム溶出率以下となったか否かを判定する(ステップS308)。設定されたリチウム溶出率は、たとえば、リチウムの溶出率の極大値比で10〜30%であり、オペレータが特定する。
【0073】
制御部37が、リチウム溶出率が設定値以下と判定した場合(ステップS308、Yes)、高温高圧処理を終了する(ステップS309)。制御部37は、耐圧密閉容器1への高温高圧水の供給を停止するとともに、圧力調整弁3を閉処理してリチウム回収容器4への高温高圧水の排出を停止させる。
【0074】
制御部37が、リチウム溶出率が設定値以上と判定した場合(ステップS308、No)、リチウム溶出率が設定値以下となるまでステップS306〜308を繰り返す。
【0075】
高温高圧水処理終了後、制御部37は、二酸化炭素供給ライン9の圧力調整弁8を制御して、リチウム回収容器4に排出されたリチウムを含有する処理水(高温高圧水)中に二酸化炭素を供給し(ステップS310)、過剰な二酸化炭素を、気体排出ライン11の圧力調整弁10を制御して排出する。処理水中への二酸化炭素の供給により、溶解するカルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿させ、処理水からカルシウムを除去したリチウム含有水溶液を、圧力調整弁5を介してリチウム回収容器4から排出させる(ステップS311)。
【0076】
実施の形態2と同様に、溶液のまま使用される場合には、リチウム含有水溶液はこのままの状態で使用し、リチウム含有水溶液からリチウム単体を回収する場合には、処理水を加熱して、水分を蒸発により除去すればよく、あるいは、炭酸塩等に形態制御したい場合には、処理水に炭酸ナトリウムを添加することにより、炭酸リチウム沈殿として回収してもよい。また、耐圧密閉容器1内の鉄鋼スラグを入れ替えて、複数回リチウム回収を行なう場合は、同条件でリチウム回収処理を行うことにより、最初に得たリチウムの溶出挙動に基づき、回収する分画を決定すればよい。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
耐圧密閉容器内に粒径を2mm以下に調整した高炉スラグ約5g(4.8〜5.2g)を収容する。スラグを収容した耐圧密閉容器を加熱用オーブン内で150〜290℃に加熱し、耐圧密閉容器を、高温高圧水を供給する高温高圧水供給ラインと高温高圧水を排出する排出ラインと接続する。ライン接続の後、高温高圧水供給ラインにより、耐圧密閉容器内に150〜290℃、18Mpaの高温高圧水を0.6ml/minで通液する。耐圧密閉容器の前後に設置した圧力調整弁で耐圧密閉容器内の圧力および温度を調整しながら、排出ラインから排出される高温高圧水をフラクションコレクターで10分毎に分取し、分取した検液中へのリチウム溶出量を元素分析装置で分析した。結果を図8に示す。
【0078】
図8は、150〜290℃、18Mpaの高温高圧水でフロー処理を行った場合のリチウムの溶出率と処理時間の関係を示す図である。図8に示すように、高温高圧水の温度が高いほどリチウムの溶出率が大きくなることがわかる。また、高温高圧水の処理温度が低くなるほどリチウム溶出率が極大値を示す時間が遅くなるため、リチウムを選択的かつ十分な量で溶出させるためには、200℃以上の高温高圧水で処理することが好ましいことがわかった。
【0079】
(実施例2)
耐圧密閉容器内に粒径を2mm以下に調整した高炉スラグ4.4g(リチウム含有率10ppm)を収容する。スラグを収容した耐圧密閉容器を加熱用オーブン内で290℃に加熱し、耐圧密閉容器を、高温高圧水を供給する高温高圧水供給ラインと高温高圧水を排出する排出ラインと接続する。ライン接続の後、高温高圧水供給ラインにより、耐圧密閉容器内に290℃、18Mpaの高温高圧水を0.6ml/minで通液する。耐圧密閉容器の前後に設置した圧力調整弁で耐圧密閉容器内の圧力および温度を調整しながら、排出ラインから排出される高温高圧水をフラクションコレクターで10分毎に分取し、分取した水溶液を元素分析装置で分析する。結果を図9および図10に示す。
【0080】
図9は、検液中のリチウムおよびカルシウムの溶出率と処理時間の関係を示す図である。図9に示すように、290℃、18Mpaという条件では、処理時間12分程度の溶出時間でリチウムの溶出率は極大となる。これに対し、マトリックスのカルシウムは極大値を示すことなく溶出し続ける。
【0081】
図10は、図9の結果から算出したカルシウム溶出率とリチウム溶出率との比と処理時間との関係を示す図である。カルシウム溶出率/リチウム溶出率(以下、Ca/Li比という)のグラフからわかるように、リチウム溶出率が極大値近辺の処理時間10分でCa/Li比が0.04の最小値を示し、その後Ca/Li比が直線的に増加する。図10によれば、処理時間を短くするほどリチウム純度が高い回収液を得ることができるが、リチウムの総溶出量は少なくなるため、リチウムの総溶出量とCa/Li比を比較考慮して回収分画を決定すればよい。
【0082】
回収分画の決定は、たとえば、図10のリチウム溶出率(極大値比換算)データに基づき決定することが出来る。図10に、Ca/Li比とともに示すリチウム溶出率(極大値比換算)データは、図9のリチウム溶出率データを、溶出率が極大値となる処理時間10分の溶出率を100%として換算しなおしたリチウム溶出率(極大値比換算)データである。リチウム溶出率の極大値比30%の分画(処理時間40分、溶出水量24ml)まで高温高圧水を回収するものとすると、リチウムは総溶出量の45%を回収することができ、このときのCa/Li比は0.09%である。また、リチウム溶出率の極大値比20%の分画(処理時間55分、溶出水量33ml)まで高温高圧水を回収するものとすると、リチウム回収量は総溶出量の60%で、Ca/Li比は0.1%である。極大値比10%の分画(処理時間100分、溶出水量60ml)までの回収では、リチウム回収量は総溶出量の72%で、Ca/Li比は0.23%、極大値比5%の分画まで回収すると、リチウム回収量は総溶出量の80%で、Ca/Li比は0.38%となる。
【0083】
以上の結果から、リチウム溶出率が極大値比10〜30%まで減少した時点まで処理水を回収することにより、溶出するカルシウム量を低減しつつ、リチウムの総回収量を大きくすることが可能となることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上のように、本発明の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法およびリチウム回収装置は、鉄鋼スラグから希少金属であるリチウムを回収するのに非常に有効であり、また、鉄鋼スラグ以外のリチウムを微量に含有する固形物からのリチウム回収にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0085】
1 耐圧密閉容器
2 加熱用ヒーター
3、5、8、10、14 圧力調整弁
4 リチウム回収容器
6、26 処理水排出ライン
7、27、37 制御部
9 二酸化炭素供給ライン
11 気体排出ライン
12 貯水槽
13 送液ポンプ
15 コイル
16 高温高圧水供給ライン
17 フラクションコレクター
18 元素分析装置
19 温度センサー
100、200、300 リチウム回収装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼スラグからのリチウム回収方法であって、
前記鉄鋼スラグと水とを耐圧密閉容器に装入する装入ステップと、
前記耐圧密閉容器を加温して、収容される水を所定の高温高圧水とする加温ステップと、
前記加温ステップで生成した高温高圧水と前記鉄鋼スラグとの接触により前記鉄鋼スラグ中のリチウムを前記高温高圧水中に溶出させる溶出ステップと、
前記溶出ステップ後、リチウムが溶出した高温高圧水を前記耐圧密閉容器からリチウム回収手段に排出する排出ステップと、
前記リチウム回収手段に排出され、収容されるリチウム含有水溶液に共存する他の無機成分を除去する除去ステップと、
を含むことを特徴とする鉄鋼スラグからのリチウム回収方法。
【請求項2】
鉄鋼スラグからのリチウム回収方法であって、
前記鉄鋼スラグを耐圧密閉容器に装入する装入ステップと、
高温高圧水供給手段により、前記耐圧密閉容器に所定の高温高圧水を供給する供給ステップと、
前記供給ステップにより、前記耐圧密閉容器に前記高温高圧水を所定量供給した後、前記耐圧密閉容器内の高温高圧状態を保持しながら、前記高温高圧水供給手段と排出手段とにより前記耐圧密閉容器内に高温高圧水を連続的に供給し、かつリチウム回収手段に連続的に排出して、前記鉄鋼スラグ中のリチウムを前記高温高圧水中に溶出させる連続溶出ステップと、
前記溶出ステップでリチウム回収手段に排出されたリチウム含有水溶液に共存する他の無機成分を除去する除去ステップと、
を含むことを特徴とする鉄鋼スラグからのリチウム回収方法。
【請求項3】
前記高温高圧水は、200〜370℃、かつ飽和蒸気圧以上の高温高圧水であることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法。
【請求項4】
前記排出ステップまたは前記連続溶出ステップにおいて、前記耐圧密閉容器から前記リチウム回収手段に高温高圧水を排出する際、常圧に噴霧してリチウム濃度を濃化した水溶液を得ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法。
【請求項5】
前記除去ステップの後、リチウム含有水溶液からリチウムを回収する回収ステップを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法。
【請求項6】
前記連続溶出ステップにおいて、リチウム回収手段に排出される前の高温高圧水を検液分取手段により所定間隔で分取し、分取した水溶液中のリチウムおよび他の無機成分の溶出量を分析する分析ステップを含み、前記分析ステップでの分析結果に基づき、リチウムを回収する水溶液の分画を決定することを特徴とする請求項2〜5のいずれか一つに記載の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法。
【請求項7】
リチウムを回収する水溶液の分画は、最初に排出された分画から、リチウムの高温高圧水への溶出率が極大値比で10〜30%に減少した時点の分画まで回収することを特徴とする請求項6に記載の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法。
【請求項8】
前記除去ステップは、リチウム回収手段に排出されたリチウム含有水溶液に炭酸ガスを吹き込んでカルシウムを分離することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法。
【請求項9】
前記鉄鋼スラグは、高炉スラグまたは製鋼スラグであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一つに記載の鉄鋼スラグからのリチウム回収方法。
【請求項10】
鉄鋼スラグと水とを収容する耐圧密閉容器と、
前記耐圧密閉容器を加温して、収容される水を所定の高温高圧水とする加熱手段と、
前記耐圧密閉容器中の高温高圧水を排出する排出手段と、
前記排出手段により前記耐圧密閉容器から排出されたリチウム含有水溶液を回収するリチウム回収手段と、
前記耐圧密閉容器内で前記鉄鋼スラグを前記高温高圧水で所定時間処理後、前記排出手段から高温高圧水を排出する際、常圧に噴霧させてリチウム濃度を濃化した水溶液を得るよう制御する制御手段と、
前記リチウム回収手段内に二酸化炭素を吹き込む二酸化炭素供給手段と、
前記二酸化炭素供給手段により供給された二酸化炭素を排出する二酸化炭素排出手段と、
を備えることを特徴とするリチウム回収装置。
【請求項11】
鉄鋼スラグを収容する耐圧密閉容器と、
前記耐圧密閉容器に所定の高温高圧水を供給する高温高圧水供給手段と、
前記耐圧密閉容器を加温して、前記耐圧密閉容器内に供給された高温高圧水を所定の高温高圧状態に保持する加熱手段と、
前記耐圧密閉容器中の高温高圧水を排出する排出手段と、
前記排出手段により前記耐圧密閉容器から排出されたリチウム含有水溶液を回収するリチウム回収手段と、
前記耐圧密閉容器内に前記高温高圧水供給手段から高温高圧水を所定量供給した後、前記耐圧密閉容器内の高温高圧状態を保持しながら、前記高温高圧水供給手段により高温高圧水を前記耐圧密閉容器内に連続的に供給し、かつ、前記排出手段から高温高圧水を排出する際、常圧に噴霧することによりリチウム濃度を濃化した水溶液として排出するよう制御する制御手段と、
前記リチウム回収手段内に二酸化炭素を吹き込む二酸化炭素供給手段と、
前記二酸化炭素供給手段により供給された二酸化炭素を排出する二酸化炭素排出手段と、
を備えることを特徴とするリチウム回収装置。
【請求項12】
前記高温高圧水は、200〜370℃、かつ飽和蒸気圧以上の高温高圧水であることを特徴とする請求項10または12に記載のリチウム回収装置。
【請求項13】
前記排出手段から排出される高温高圧水を所定間隔で分取する検液分取手段と、
前記検液分取手段が分取した水溶液中のリチウムおよび他の無機成分の溶出量を分析する元素分析装置と、
を備え、前記元素分析装置での分析結果に基づき、リチウムを回収する水溶液の分画を決定することを特徴とする請求項11または12に記載のリチウム回収装置。
【請求項14】
リチウムを回収する検液の分画は、最初に排出された分画から、リチウムの高温高圧水への溶出率が極大値比で10〜30%に減少した時点の分画まで回収することを特徴とする請求項13に記載のリチウム回収装置。
【請求項15】
前記鉄鋼スラグは、高炉スラグまたは製鋼スラグであることを特徴とする請求項10〜14のいずれか一つに記載のリチウム回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−246752(P2011−246752A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−119733(P2010−119733)
【出願日】平成22年5月25日(2010.5.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(304036743)国立大学法人宇都宮大学 (209)
【Fターム(参考)】