説明

鉄鋼中酸素分析方法

【課題】鉄鋼試料を黒鉛るつぼに入れて不活性ガス中で加熱融解し、発生した一酸化炭素または二酸化炭素のいずれかひとつあるいは両方の赤外線吸収度から該試料中の酸素濃度を測定する方法において、高精度かつ迅速な分析を実現する方法を提供する。
【解決手段】試料表面の酸化皮膜を除去、清浄化する前処理として真空アークプラズマ処理をアークプラズマ放電開始時の真空度を5Pa以上35Pa以下かつ、アークプラズマ出力電流を15A以上55A以下とする条件下において、溶鋼から採取した鋼塊に対して、高さ1.5mm以上7mm以下、表面積Sと体積Vの比(S/V)が1.05以上1.30以下となるように機械加工して得た小片を試料とし、前記アークプラズマ放電を前記試料に、合計4回以下であって、かつ合計処理時間として0.2秒以上1.2秒以下施した後、該試料を大気と接触させることなく、直接、分析時の温度よりも高い温度で加熱、清浄化した後、分析する温度に下げて待機させた黒鉛るつぼへ投入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼操業において、精錬途中の溶鋼の一部を採取したものが凝固してなる鋼塊を機械加工することで成分分析用試料を作製した後、試料中に含有される元素濃度を分析し、分析結果を参照して該溶鋼の成分調整操作に反映させる一連の工程に適用可能な、高精度かつ迅速な酸素分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の鉄鋼製品の高強度化、高品質化指向を反映して、鉄鋼中に生成する介在物の種類、組成、形態を制御する試みが多くなされている。例えば、高強度ラインパイプでは、使用環境下における水素誘起割れを回避するため、割れ起点となる介在物の生成を抑制すべく、精錬の最終工程でCaを添加して、SをCaSとして固定化したり、Ca−Al複合介在物化したりする。また、軸受材料等に適用される高清浄鋼では、介在物量自体を極度に低減させる必要がある。前者の場合、Ca添加量は溶鋼中酸素濃度に応じて適正化が必要であり、後者の場合、酸素濃度そのものが材料特性の指標となり得る。従って精錬途中の溶鋼において酸素濃度を高精度に分析することは、今後、鉄鋼製品の高性能化を支える生産技術上、重要な課題と位置付けられる。
【0003】
一方、鉄鋼材料では、所望の性能を得るために鋼中に各種元素を適量添加する合金設計を行っており、その設計に基づき同一性能を有する鋼を実製造する際は、製鋼工程での溶製時に各元素の濃度をある一定の範囲内に管理することで、製品性能の安定化を図っている。さらに、精錬中に溶鋼成分の分析を行い、目的とする元素の濃度を確認し、その結果を見て適宜成分調整を行っているため、正確な分析結果だけでなく、分析値判明まで待つことに起因した生産量低減やエネルギーロスを回避する観点から、迅速な分析が不可欠である。
【0004】
そのため、各種元素を添加して所望の性能を有する鋼を製造する製鋼工程における精錬途中に、含有する元素の濃度を迅速かつ精度よく分析ができれば、その分析結果をもとにして、適切な成分調整を行うことで、安定した性能を有する鋼を、低コストかつ低環境負荷で製造することが可能となる。
【0005】
鋼中の酸素濃度は数ppm〜数百ppmであり、このような濃度域において酸素濃度を正確に分析するため、不活性ガス中加熱融解−赤外線吸収法を動作原理とする酸素分析装置が唯一適用されている。しかしながら、分析試料を得るためには、鋼塊から所定の寸法に機械加工して試料を作製した後、試料表面の酸化皮膜を除去する目的で、化学研磨、電解研磨あるいはグラインダーやヤスリ等を用いた研削などの前処理を施す必要があった。このような加工、前処理は、(1)操作が煩雑であり、時間を要する、(2)試料や処理、作業者毎に酸化皮膜の除去程度が異なり、分析値がばらつく、(3)酸化皮膜が除去された試料表面はすぐに再酸化し、分析値が高くなる、ため、十分な迅速性および分析精度を確保できず、精錬途中の溶鋼の酸素分析方法として適用することが困難であった。
【0006】
特許文献1では、低温での予備加熱を施して試料表面の酸化皮膜を除去することで、試料の前処理から分析までのトータル分析時間を3分とする微量酸素分析方法が開示されている。しかし、前処理におけるベルト研磨処理や予備加熱における脱酸反応の再現性が高くないことから、分析値がばらつくため、従来法と比較して、必ずしも分析精度が改善されないという問題がある。さらに、ベルト研磨に適用可能な試料形状に機械加工する時間を要するため、精錬途中の溶鋼の酸素分析方法として適用することは不可能である。
【0007】
また、特許文献2では、予備処理室から直接に黒鉛るつぼを有する加熱室に試料を落下させて分析することを特徴とする金属中微量酸素の分析方法および装置が開示されている。しかし、予備処理方法として、不活性ガススパッタリングを適用していることから、予備処理室へ試料を導入した後、スパッタリング可能な雰囲気にガス置換するため、一旦、高真空に排気する時間を要する。該公報には、前処理を含めた分析時間は開示されていないが、精錬途中の溶鋼の酸素分析方法として適用することは不可能であることは明白である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−148170号公報
【特許文献2】特開平10−073586号公報
【特許文献3】特開2002−328125号公報
【特許文献4】特開平10−311782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明を検討するに際して、材料特性および精錬工程上の要請を精査した結果、精錬途中の溶鋼の酸素分析に求められる分析値の精度、分析に要する時間は次の通りであることが判明した。
【0010】
(1)分析値の精度
酸素含有量50ppm以下の鋼に対して、誤差が±2ppm以内に収まること。好ましくは誤差が±1ppmに収まること。
【0011】
(2)分析に要する時間
鋼塊試料を受け取ってから、試料加工、清浄化前処理を経て、分析により酸素濃度が判明するまでの時間(以下、「分析所要時間」と称する。)は、5分以下。好ましくは4分以下。
【0012】
従来技術ではこれらの精度、時間に対する要求を満たす高精度かつ迅速な分析は不可能であった。
そこで、本発明は、上記の要求を満たす高精度かつ迅速な精錬途中の溶鋼の酸素分析方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は種々検討を重ねた結果、簡便かつ迅速な試料加工方法と、迅速かつ再現性の高い試料前処理方法、高精度な分析方法を組み合わせ、さらにはそれぞれの条件を最適化することで、精錬途中の溶鋼の酸素分析に適用可能な高精度かつ迅速な酸素分析方法を見いだし、以下の本発明を完成させるに至った。
【0014】
(1)鉄鋼試料を黒鉛るつぼに入れて不活性ガス中で加熱融解し、発生した一酸化炭素または二酸化炭素のいずれかひとつあるいは両方の赤外線吸収度から該試料中の酸素濃度を測定する方法であって、該試料表面の酸化皮膜を除去、清浄化する前処理として真空アークプラズマ処理をアークプラズマ放電開始時の真空度を5Pa以上35Pa以下かつ、アークプラズマ出力電流を15A以上55A以下とする条件下において、溶鋼から採取した鋼塊に対して、高さ1.5mm以上7mm以下、表面積Sと体積Vの比(S/V)が1.05以上1.30以下となるように機械加工して得た小片を試料とし、前記アークプラズマ放電を前記試料に、合計4回以下であって、かつ合計処理時間として0.2秒以上1.2秒以下施した後、該試料を大気と接触させることなく、直接、分析時の温度よりも高い温度で加熱、清浄化した後、分析する温度に下げて待機させた黒鉛るつぼへ投入することを特徴とする鉄鋼中酸素分析方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、製鋼操業において、精錬途中の溶鋼から凝固塊を採取し、機械加工により成分分析用試料を作製した後、試料中に含有される元素濃度を分析し、分析結果を参照して該溶鋼の成分調整操作に反映させる一連の工程に適用可能な、高精度かつ迅速な酸素分析が可能となる。これにより、溶鋼の酸素濃度に応じて精錬条件を調整できるようになり、とりわけ、鋼中介在物の存在量、形態、組成などが性能を支配するラインパイプ用鋼、軸受鋼などの高級鋼の安定製造実現につながる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の鉄鋼中酸素分析設備を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る鉄鋼中酸素分析方法の最良の形態について図面を参照しつつ説明する。
図1に本発明の鉄鋼中酸素分析装置を模式的に示す。本発明で組み合わせる要素技術の内、迅速かつ再現性の高い試料前処理方法として、真空アークプラズマ処理を選択した。例えば、特許文献3に開示された金属中成分分析用試料の調整方法及び装置を適用すればよい。予め真空に保った試料前処理装置1内に、隔離バルブ4を介して、真空度をほとんど変化させることなく、処理前試料投入口3から試料を挿入することができる。その後、真空アークプラズマ処理により、試料表面の酸化皮膜を数秒で除去する。該装置では、試料を自動搬送するため、試料形状を円柱またはブロック(直方体)に限定する。試料は、試料台に載置して処理するため、試料台と接する面は処理されない。そこで、試料を反転させて処理する必要がある。つまり、ひとつの試料に対して、少なくとも2回は放電する必要がある。放電回数が増えると、試料が長時間加熱されることになり、一旦、酸化皮膜除去された試料表面は再び酸化されてしまう。したがって、試料表面の酸化皮膜を確実、正確かつ再現性良く除去し、精錬操業上必要とされる分析精度を確保するため、下記の条件でアークプラズマ処理する必要がある。
【0018】
(1)真空度:5Pa以上35Pa以下。真空アークプラズマによる試料表面酸化皮膜除去反応は真空度が高いほど促進されるが、35Paを超えると、試料温度上昇に伴う再酸化反応が顕著になるため好ましくない。一方、5Paより低いと、酸化皮膜除去反応自体が進行しなくなるため、好ましくない。したがって、最適な真空度が存在する。
なお、処理時に真空度が一定値に保持されるよう、真空排気バルブとガス導入バルブの開閉を制御する圧力制御機構を有することがなお好ましい。
【0019】
(2)アークプラズマ出力電流:15A以上55A以下とする。
(3)処理時間:後述するように、ひとつの試料に対して、合計の処理時間は0.2秒以上1.2秒以下とする。
【0020】
(4)処理回数:後述するように、ひとつの試料に対して、合計の処理回数は4回以下とする。
処理後の試料は、大気と接触させることなく、分析装置2に配置した前処理済試料投入口5を通じて、最終的に黒鉛るつぼに投入する。試料前処理チャンバーと分析装置の試料投入口は真空または不活性ガスで内部を置換した連結管8で連結する。不活性ガス種としては、空気との比重差を考慮して、連結管内を確実にガス置換して、処理後の試料の再酸化を防止する観点、さらには経済的な観点から、Arが好ましい。特許文献3に開示された装置構成では、前処理済試料は払い出された後、別置きの酸素分析装置に移送される。しかし、本発明の目的では迅速性が要求されることから、試料前処理装置1と酸素分析装置2を、それぞれ鉛直上下に配置し、連結管8内を自由落下させて、試料を移送する方法、すなわち図1のような装置構成を採用した。
【0021】
この本発明の装置構成では、酸素分析装置2が床面に近い位置に配置され、分析装置2内部の清掃がガス中の不純物吸着剤の交換等、装置の維持管理作業に支障をきたす。そこで、架台6に組み込まれた装置全体をリフター7に載せて昇降可能とし、当該作業の際には装置全体を上げて、作業性を確保した。このリフター7の駆動方式は特に問わないが、装置全体では相当な重量であることから、操作性の観点で、自動油圧式が好ましい。また、リフター7の可動部は伸縮可能な材料で覆い、作業者が挟まれることのないよう、安全性に配慮した構造を有することが望ましい。
【0022】
さらに、連結した酸素分析装置2が故障して使えない場合や、分析待ちの前処理済試料を別の酸素分析装置で分析する場合に備えて、試料前処理装置1と酸素分析装置2の連結管8途中に、前処理済試料の取出口9を設ける。
【0023】
本発明で組み合わせる要素技術の内、溶鋼から採取した鋼塊より簡便かつ迅速に分析試料を得る方法として、溶鋼から採取した鋼塊を切断して作製した高さ(厚さ)が1.5mm以上7mm以下のスライスに対して、打ち抜いた円柱状小片を試料として用いる。具体的には、例えば、特許文献4に開示された分析試料の調整方法及び装置を適用すればよい。試料表面の酸化皮膜を確実、正確かつ再現性良く除去するためには、試料底面の直径と高さから計算される表面積Sと体積Vの比S/Vが、下記式(1)を満たすような形状を確保する必要がある。
【0024】
1.05≦S/V≦1.30 (1)
この理由は現時点で十分解明できていないが、電極形状などアーク処理部の形状に依存して、アークプラズマの空間分布において効率的な処理に好適な位置が限定されることに対応しているものと推察される。
【0025】
本発明で組み合わせる要素技術の内、高精度な鋼中酸素分析方法として、不活性ガス中加熱融解−赤外線吸収法を動作原理とする酸素分析装置を選択した。この分析法では、試料ホルダと試料の脱酸反応剤(炭素)供給源を兼ねる黒鉛るつぼを使用する。
【0026】
分析に先立って、るつぼ表面に吸着した酸素や汚染を除去するため、分析時よりもやや高い温度でるつぼだけを予め加熱する、いわゆる「空焼き」処理を実施する。「空焼き」処理により、黒鉛るつぼから発生する酸素、一酸化炭素あるいは二酸化炭素が分析値を変動させる影響を低減できる。市販の酸素分析装置で鋼中の酸素を分析する際には、通常、るつぼ、すなわち試料を1800℃〜2200℃程度の温度に加熱する。本発明で要求される高い分析精度を実現するためには、例えば、分析時の温度よりも100℃以上高い温度で、かつ、15秒以上加熱すればよい。
【0027】
また、市販の酸素分析装置では、まず、分析装置内に試料を取り込み、試料周辺の雰囲気をキャリアガスであるヘリウムガスで置換する間に、るつぼの交換、電極の清掃および「空焼き」処理を実施する。したがって、試料を投入してから分析値が判明するまで、比較的長い時間を要する。るつぼの交換および電極の清掃、さらに「空焼き」処理を先行して実施させ、分析装置が分析可能な状態で清浄化前処理した試料を投入することで、要求される分析所要時間に応じた迅速化を実現させることができる。
【0028】
通常、酸素分析に際して、検出したガス量を試料中の酸素濃度に変換するため、試料重量を精密に秤量する必要がある。真空アークプラズマ処理前後での試料重量変化を評価した結果、試料の形状や表面酸化度合いによって多少ばらつきはあるものの、高々1mg程度の減量であったことから、試料重量0.5〜1.0gに対しては実用上無視できる程度の誤差しか与えないことが判明した。そこで、本発明を実施する際には、機械加工して得た後に予め秤量した分析試料を、真空アークプラズマ処理し、大気と接触させることなく、そのまま酸素分析装置に挿入することとした。
【実施例】
【0029】
(実施例1)
日本鉄鋼認証標準物質(JSS)の鋼中ガス分析用管理試料GS−3c(含有濃度[O]:34.6 ppm)、GS−5c(含有濃度[O]:125ppm)を機械加工して、円柱形状の分析試料(S/V:1.07〜1.60)とした。ただし、後者の試料は検量線作成のみに使用した。重量を秤量した後、真空アークプラズマ処理可能な試料前処理装置(エステック株式会社製、型式:AP1)で前処理した後、Arパージ雰囲気で試料を移送し、酸素分析装置(LECO株式会社製、型式:TCH−600)に投入し、試料中の酸素濃度を分析した。なお、るつぼの「空焼き」処理時および分析時の印加電力はそれぞれ5.0kW(約2200℃相当)、4.0kW(約2000℃相当)とし、2回の測定値の平均を分析値とした。また、真空アークプラズマ処理は、それぞれ、特に断った各調査条件を除き、他の条件を以下のように統一して[O]分析を行った。
【0030】
放電開始時真空度:20Pa
処理時間:0.4秒
出力電流:30A
合計処理回数:2回(試料表裏面に対して各1回)
なお、真空アークプラズマ処理において、試料に対して放電を実施する前に、試料を待避させた状態で放電させる、「クリーニング放電」を実施した。クリーニング放電の条件は、上記放電条件に準じた。
【0031】
(1)真空アークプラズマ放電開始時の真空度
試料としてGS-3cを用い、真空アークプラズマ放電開始時の真空度を変えて当該処理を施したものについて酸素分析を行った。その結果、5Pa以上35Pa以下の真空度において、誤差は±2ppm以内となり、要求を満たす分析精度が得られた。
【0032】
【表1】

【0033】
(2)真空アークプラズマ放電時間
試料としてGS−3cを用い、真空アークプラズマ放電時間を変えて該処理を施したものについて酸素分析を行った。なお、放電は試料表裏面に対して、それぞれ同じ時間だけ実施した。その結果、合計放電時間が0.2秒以上1.2秒以下において、誤差は±2ppm以内となり、要求を満たす分析精度が得られた。1.4秒以上では処理後の試料温度が特に高かったことから、試料表面が再酸化したものと考えられる。
【0034】
【表2】

【0035】
(3)放電回数
試料としてGS−3cを用い、真空アークプラズマ放電回数を変えて該処理を施したものについて酸素分析を行った。なお、放電は試料表裏面に対して、それぞれ同じ回数だけ実施した。その結果、合計4回以下では、誤差が±2ppm以下となり、要求を満たす分析精度が得られた。
【0036】
【表3】

【0037】
(4)アークプラズマ出力電流
試料としてGS−3cを用い、真空アークプラズマ処理における出力電流を変えて該処理を施したものについて酸素分析を行った。その結果、15A以上55A以下の範囲において、誤差は±2ppm以下となり、要求を満たす分析精度が得られた。
【0038】
【表4】

【0039】
(5)真空アークプラズマ処理後の試料保持雰囲気
試料としてGS−3cを用い、真空アークプラズマ処理後、酸素分析装置へ投入するまでに、試料を保持する雰囲気を変えたものについて酸素分析を行った。その結果、処理後の試料を大気と接触させた場合、誤差は±2ppmを越え、要求を満たす分析精度は得られなかった。
【0040】
【表5】

【0041】
(6)試料形状
形状、酸素含有濃度の異なる試料を準備し、標準条件で真空アークプラズマ処理した後、酸素濃度を分析した。別途、同じ鋼塊のできる限り近傍から採取した試料を、従来の方法、すなわち試料表面をヤスリで研磨した後、酸素分析に供して得られた分析値を、含有濃度として比較した。
【0042】
その結果、試料の表面積Sと体積Vの比S/Vが本発明の範囲にある場合、すなわち1.05以上1.30以下の場合、含有濃度と良く一致し、誤差が±2ppm以内に収まり、要求を満たす分析精度が得られた。
【0043】
【表6】

【0044】
以上の検討結果により、本願発明の課題のうち、請求項に規定する条件下で試料を処理、分析することにより、分析値の精度に関する課題が解決されることが明らかになった。
(実施例2)
溶鋼から採取した鋼塊を準備し、実施例1で記載した標準条件で酸素分析した。その結果を表7にまとめて示す。
【0045】
条件1は、従来法、すわなち、鋼塊から機械加工により採取した試料表面をヤスリで研磨した後、酸素分析に供する場合であるが、試料加工および前処理に長時間を要するため、分析所要時間は要求を満たさない。
【0046】
条件2、3では、自動機械加工(切断によるスライス片作製および打ち抜き加工)により試料を作製し、前処理には真空アークプラズマ処理を適用した。条件3、すわなち、るつぼの交換、電極の清掃および「空焼き」処理を先行させた場合(表中では「るつぼ等先行操作あり」と記載)のみ、分析所要時間は4分以下となり、要求を満たした。
【0047】
なお、分析に所要する時間は、分析装置(メーカー、型式)や分析条件の詳細設定に依存して多少増減するが、るつぼを先行して交換、空焼きすることにより分析時間の短縮を図る本発明の効果を損なうものではない。
【0048】
【表7】

【0049】
以上より、製鋼操業において、精錬途中の溶鋼から凝固塊を採取し、機械加工により成分分析用試料を作製した後、試料中に含有される酸素濃度を分析し、分析結果を参照して該溶鋼の成分調整操作に反映させる一連の工程に適用するために、酸素分析技術に要求される分析精度の改善、分析時間の短縮に関わる課題を、本発明により解決することができた。
【符号の説明】
【0050】
1 前処理装置 2 酸素分析装置
3 処理前試料投入口 4 隔離バルブ
5 前処理済試料投入口 6 架台
7 リフター 8 連結管
9 前処理済試料途中取出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼試料を黒鉛るつぼに入れて不活性ガス中で加熱融解し、発生した一酸化炭素または二酸化炭素のいずれかひとつあるいは両方の赤外線吸収度から該試料中の酸素濃度を測定する方法であって、
該試料表面の酸化皮膜を除去、清浄化する前処理として真空アークプラズマ処理をアークプラズマ放電開始時の真空度を5Pa以上35Pa以下かつ、アークプラズマ出力電流を15A以上55A以下とする条件下において、
溶鋼から採取した鋼塊に対して、高さ1.5mm以上7mm以下、表面積Sと体積Vの比(S/V)が1.05以上1.30以下となるように機械加工して得た小片を試料とし、
前記アークプラズマ放電を前記試料に、合計4回以下であって、かつ合計処理時間として0.2秒以上1.2秒以下施した後、
該試料を大気と接触させることなく、直接、分析時の温度よりも高い温度で加熱、清浄化した後、分析する温度に下げて待機させた黒鉛るつぼへ投入することを特徴とする鉄鋼中酸素分析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−261743(P2010−261743A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110824(P2009−110824)
【出願日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】