説明

鉄鋼業の焼結工程におけるNOx生成量の評価方法、装置及びプログラム

【課題】フューエルNOx生成の支配因子を数式上で明確化し、燃焼の観点からNOx生成量抑制のための要因を俯瞰的に検討できるようにする。
【解決手段】粉コークス粒子の表面反応2C+O2→2CO、C+CO2→2CO、CaCO3→CO2+CaO、及び、焼結層101内のガス反応2CO+O2→2CO2を含むようにした燃焼反応を対象に、少なくとも焼結層101内のO2、CO2、CO、C、CaCO3の物質収支、燃焼ガスの熱収支及び焼結層101の熱収支を含んで構成される燃焼モデルに基づいて、焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を計算し、これら計算された焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を入力値にして、燃焼モデルに基づいて、コークス粒子のガス境膜内CO濃度及びO2濃度を計算して、燃焼過程にある粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度とO2濃度との比率CO/O2値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼業の焼結工程におけるNOx生成量の評価方法、装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業の焼結工程では、装入した原料層の上部の空気を下向きに吸引して、原料中に混合しているコークスを燃焼させ、ここで発生した熱によって原料鉱石粒子相互の焼結反応及び溶融反応を促進させる。コークスの燃焼過程では、コークス中に含有される窒素が酸素と反応し、フューエルNOxとして燃焼排ガス中に放出される。焼結機から排出されるNOx値には環境規制値が定められており、脱硝機能を有する排ガス処理装置の負荷軽減の観点から、焼結工程のコークスの燃焼過程で生成されるNOx値を、燃焼制御により抑制するニーズは大きい。
【0003】
鉄鋼業の焼結工程での粉コークスの燃焼反応を記述する数学モデルとして、例えば非特許文献1ではC+O2→CO2の燃焼反応を前提としている。
【0004】
また、NOx生成量の評価については、例えば非特許文献2にあるように、NOx転換率が粉コークス粒子近傍の燃焼排ガスを吸引して求めたCO濃度とO2濃度の比CO/O2で、整理できるという報告例がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「冶金反応工学」,鞭巌,森山昭,養賢堂(1972)
【非特許文献2】「コークスの燃焼におけるCO,NOガス生成要因の検討」,肥田行博,佐々木稔,伊藤薫,鉄と鋼,第66年(1980)号13号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載されている燃焼反応は、焼結工程において粉コークスが着火する700℃以上の温度では起きない。このように燃焼の原理原則から外れた仮定で数学モデルを解こうとするため、非合理な補正係数等をモデルに導入せざるを得ず、実機や鍋試験等で計測された実現象を合理的に説明することが不可能であった。
【0007】
また、非特許文献2ではラボ実験結果の記述に留まっており、操業因子を変更した際のNOx生成量を予測するには、その都度、実験を行う必要があり、断片的であり、定量性と予測性の観点で限界がある。
【0008】
本発明は、上述のような点に鑑みてなされたものであり、フューエルNOx生成の支配因子を数式上で明確化し、燃焼の観点からNOx生成量抑制のための要因を俯瞰的に検討できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の鉄鋼業の焼結工程におけるNOx生成量の評価方法は、粉コークス粒子の表面反応として2C+O2→2CO、C+CO2→2CO、CaCO3→CO2+CaO、及び、焼結層内のガス反応として2CO+O2→2CO2を含むようにした燃焼反応を対象に、少なくとも、焼結層内の酸素(O2)の物質収支、焼結層内の二酸化炭素(CO2)の物質収支、焼結層内の一酸化炭素(CO)の物質収支、焼結層内の炭素(C)の物質収支、焼結層内の石灰石(CaCO3)の物質収支、燃焼ガスの熱収支及び焼結層の熱収支を含んで構成される焼結層での燃焼モデルに基づいて、焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を計算する第1の計算ステップと、前記第1の計算ステップで計算された焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を入力値にして、粉コークス粒子のガス境膜内での燃焼モデルに基づいて、コークス粒子のガス境膜内CO濃度及びO2濃度を計算する第2の計算ステップと、前記第2の計算ステップで計算された、燃焼過程にある粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度とO2濃度との比率CO/O2値を求めてNOx生成量を評価する評価ステップとを有することを特徴とする。
本発明の鉄鋼業の焼結工程におけるNOx生成量の評価装置は、粉コークス粒子の表面反応として2C+O2→2CO、C+CO2→2CO、CaCO3→CO2+CaO、及び、焼結層内のガス反応として2CO+O2→2CO2を含むようにした燃焼反応を対象に、少なくとも、焼結層内の酸素(O2)の物質収支、焼結層内の二酸化炭素(CO2)の物質収支、焼結層内の一酸化炭素(CO)の物質収支、焼結層内の炭素(C)の物質収支、焼結層内の石灰石(CaCO3)の物質収支、燃焼ガスの熱収支及び焼結層の熱収支を含んで構成される焼結層での燃焼モデルに基づいて、焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を計算する第1の計算手段と、前記第1の計算手段で計算された焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を入力値にして、粉コークス粒子のガス境膜内での燃焼モデルに基づいて、コークス粒子のガス境膜内CO濃度及びO2濃度を計算する第2の計算手段と、前記第2の計算手段で計算された、燃焼過程にある粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度とO2濃度との比率CO/O2値を求める評価手段とを備えたことを特徴とする。
本発明のプログラムは、鉄鋼業の焼結工程におけるNOx生成量を評価するためのプログラムであって、粉コークス粒子の表面反応として2C+O2→2CO、C+CO2→2CO、CaCO3→CO2+CaO、及び、焼結層内のガス反応として2CO+O2→2CO2を含むようにした燃焼反応を対象に、少なくとも、焼結層内の酸素(O2)の物質収支、焼結層内の二酸化炭素(CO2)の物質収支、焼結層内の一酸化炭素(CO)の物質収支、焼結層内の炭素(C)の物質収支、焼結層内の石灰石(CaCO3)の物質収支、燃焼ガスの熱収支及び焼結層の熱収支を含んで構成される焼結層での燃焼モデルに基づいて、焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を計算する第1の計算手段と、前記第1の計算手段で計算された焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を入力値にして、粉コークス粒子のガス境膜内での燃焼モデルに基づいて、コークス粒子のガス境膜内CO濃度及びO2濃度を計算する第2の計算手段と、前記第2の計算手段で計算された、燃焼過程にある粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度とO2濃度との比率CO/O2値を求める評価手段としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、焼結工程での粉コークスの燃焼反応を、燃焼の原理原則に立脚し、合理的に数学モデルで記述するとともに、非特許文献2のラボ実験結果を数学モデルで再解釈することにより、フューエルNOx生成の支配因子を数式上で明確化し、燃焼の観点からNOx生成量抑制のための要因を俯瞰的に検討することができる。これにより、脱硝機能を有する排ガス処理装置の負荷軽減効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用したNOx生成量の評価手法の概要を説明するための図である。
【図2】本実施形態のNOx生成量の評価方法を示すフローチャートである。
【図3】鍋試験の概要を説明するための図である。
【図4】鍋試験での温度の実測値を示す特性図である。
【図5】鍋試験での温度の計算値を示す特性図である。
【図6】鍋試験での焼結層最高温度の実測値と計算値とを示す特性図である。
【図7】粉コークス粒子近傍のガス濃度の計算事例及びCO/O2値を示す特性図である。
【図8】CO/O2値の計算値と鍋試験でのNOxの実測値(NOx転換率)とを示す特性図である。
【図9】粉コークス粒子の粒径がNOx生成量に及ぼす影響の評価を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用したNOx生成量の評価手法の概要を説明するための図である。焼結工程の反応を一次元モデルで捉えると、下層には装入された粉コークスを含む原料からなる原料層102が、上層には焼結反応の完了した焼結層101があり、焼結層101の下部の燃焼帯103が時間とともに下降するかたちとなる。このときの温度分布は、焼結層101の下部に向かって温度が高くなり、燃焼帯103の下部で最高温度(焼結層最高温度)となる。
【0013】
図2は、本実施形態のNOx生成量の評価方法を示すフローチャートである。なお、図1にも以下に述べる各ステップの符号を付す。
【0014】
粉コークス粒子の表面反応2C+O2→2CO、C+CO2→2CO、C+H2O→CO+H2、CaCO3→CO2+CaO、及び、焼結層101内のガス反応2CO+O2→2CO2、2H2+O2→2H2Oからなる燃焼反応を対象に、焼結層101内の酸素(O2)の物質収支、焼結層101内の二酸化炭素(CO2)の物質収支、焼結層101内の水(H2O)の物質収支、焼結層101内の一酸化炭素(CO)の物質収支、焼結層101内の水素(H2)の物質収支、焼結層101内の炭素(C)の物質収支、焼結層101内の石灰石(CaCO3)の物質収支、燃焼ガスの熱収支及び焼結層101の熱収支を含んで構成される焼結層101での燃焼モデルに基づいて、焼結層最高温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を計算する(ステップS1)。
【0015】
次に、ステップS1で計算された焼結層最高温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を入力値にして、粉コークス粒子のガス境膜内での燃焼モデルに基づいて、粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度及びO2濃度を計算する(ステップS2)。
【0016】
そして、ステップS2で計算された、燃焼過程にある粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度とO2濃度との比率CO/O2値を求めてNOx生成量を評価する(ステップS3)。非特許文献2にあるように、フューエルNOxはコークス表面のごく近傍で二つの反応、コークス表面での反応と、ガス境膜内での反応により生成するが、CO濃度が高くO2濃度が低いほど抑制される。
【0017】
以下、本実施形態のNOx生成量の評価方法を詳細に説明する。
まず、ステップS1の詳細を説明する。
(焼結層101での燃焼モデル)
粉コークス粒子の表面反応は下記の(R1)、(R2)、(R3)、(R6)で表わされる。
【0018】
【数1】

【0019】
焼結層101内のガス反応は下式の(R4)、(R5)で表わされる。
【数2】

【0020】
反応R1〜R6それぞれの反応速度(1つの粒子が燃焼するときの反応速度)w1〜w6は下式(1.1)〜(1.6)で表わされる。rCは粉コークス粒子の半径、rlimeは石灰石(limestone)の半径、B1〜B6は速度定数(添え字は反応R1〜R6に対応)、E1〜E6は活性化エネルギ(添え字は反応R1〜R6に対応)、Rは気体定数、tは固体温度(焼結層101の温度)、Tはガス温度、CO2、CCO2、CH2O、CCO、CH2はそれぞれのモル濃度、CCO2*はCO2の平衡モル濃度である。
【0021】
【数3】

【0022】
次に、全体のマスバランスを表わす連続方程式を考えると、下式(2.1)、(2.2)で表わされる。ρgはガス平均密度、ugは風速、zは高さ方向の位置、MCは炭素のモル質量、MCO2はCO2のモル質量、nCは粉コークス粒子の単位体積あたりの粒子数、nlimeは石灰石(limestone)の単位体積あたりの粒子数、Uは空塔速度、εは空隙率である。nC及びnlimeは下式(2.12)、(2.13)で求められる。下式(2.12)、(2.13)において、rC_0は粉コークス粒子の初期(燃焼前)半径、rlime_0は石灰石の初期半径である。
【0023】
【数4】

【0024】
焼結層101内のO2、CO2、H2O、CO、H2、炭素、石灰石の物質収支は下式(2.3)〜(2.9)で表わされる。θは時間、ρlimeは石灰石の密度、Mlimeは石灰石のモル質量である。
【0025】
【数5】

【0026】
また、燃焼ガスの熱収支は下式(2.10)で表わされ、焼結層101の熱収支は下式(2.11)で表わされる。hpaは総括熱伝達係数、ΔHは生成エンタルピー(添え字は反応R1〜R6に対応)、cgは燃焼排ガスの比熱、csは固体の比熱(焼結層101の比熱)である。
【0027】
【数6】

【0028】
【数7】

【0029】
以上のマクロスケール焼結モデルである偏微分方程式群を連立して、焼結層最高温度、燃焼排ガス中のCOモル濃度CCO及びO2モル濃度CO2を計算する。
【0030】
次に、ステップS2の詳細を説明する。
(粉コークス粒子のガス境膜内での燃焼モデル)
CO、O2、H2O、CO2、H2それぞれの反応速度WCO、WO2、WH2O、WCO2、WH2は下式(3.1)〜(3.5)で表わされる。また、rsは粉コークス粒子の径方向における中心からガス境膜までの距離であり、下式(3.6)〜(3.8)では、反応速度w1〜w3は粉コークス粒子のガス境膜でのモル濃度と距離rsで表わされると仮定している。この下式(3.6)〜(3.8)の固体温度tに、ステップS1のマクロスケール焼結モデルで計算した焼結層最高温度を用いる。
【0031】
【数8】

【0032】
また、1つの粉コークス粒子のマスバランスを表わす下式(4.1)〜(4.5)の常微分方程式群を考える。IはO2、CO2、H2O、H2、COを表わす。uはガスの速度、mはガスの発生量(重量速度)、Dgはガス拡散係数である。この下式(4.5)のCI→CI∞に、ステップS1のマクロスケール焼結モデルで計算した燃焼排ガス中のCOモル濃度CCO及びO2モル濃度CO2を用いる。
【0033】
【数9】

【0034】
式(4.1)の解は、式(4.3)の条件の下で定数aI、bIを用いて下式(5.1)で表わされ、式(4.5)より下式(5.2)となる。また、式(4.2)より下式(5.3)となる。
【0035】
【数10】

【0036】
I=O2の場合、式(3.2)、式(3.6)、式(5.1)、式(5.3)より下式(6.1)が得られるので、式(5.2)と連立させて解くと、定数aO2、bO2は下式(6.2)、(6.3)として求められる。
【0037】
【数11】

【0038】
また、I=CO2の場合、式(3.4)、式(3.7)、式(5.1)、式(5.3)より下式(7.1)が得られるので、式(5.2)と連立させて解くと、定数aCO2、bCO2は下式(7.2)、(7.3)として求められる。
【0039】
【数12】

【0040】
また、I=H2Oの場合、式(3.3)、式(3.8)、式(5.1)、式(5.3)より式(7.1)と同様の式が得られるので、式(5.2)と連立させて解くと、定数aH2O、bH2Oは下式(8.1)、(8.2)として求められる。
【0041】
【数13】

【0042】
また、I=H2の場合、式(3.5)、式(5.3)より4παaH2=w3が得られるので、式(3.3)、式(5.2)と連立させて解くと、定数aH2、bH2は下式(9.1)、(9.2)として求められる。
【0043】
【数14】

【0044】
また、I=COの場合、式(3.1)、式(5.3)より4παaCO=WCO=w1+2w2+w3が得られるので、式(3.2)、式(3.3)、式(3.4)、式(5.2)を連立させて解くと、定数aCO、bCOは下式(10.1)、(10.2)として求められる。
【0045】
【数15】

【0046】
ここで、式(3.2)、式(3.3)、式(3.4)、式(5.3)、式(4.4)より下式(11.1)となり、α=m/4πρgより、式(11.2)となる。したがって、下式(11.3)、(11.4)となり、未知数であるmを含むαを定めることができる。
【0047】
【数16】

【0048】
以上の粉コークス粒子のガス境膜内での燃焼モデルにより、粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度CCO及びO2濃度CO2を計算する。
【0049】
次に、ステップS3でのNOx生成量の評価の一例を説明する。
図3〜図6を参照して、本実施形態の燃焼モデルの精度検証を行った結果を示す。図3に示すように高さ60cmの鍋を用いて焼結工程を再現し、上方から15cmの位置(T1)、30cmの位置(T2)、49cmの位置(T3)での温度を熱電対により測定した。その結果を図4に示す。図4の横軸は時間で、縦軸は温度である。また、上方から15cmの位置(T1)、30cmの位置(T2)、49cmの位置(T3)での温度を本実施形態の燃焼モデルにより計算した。その結果を図5に示す。図5の横軸は温度で、縦軸は温度である。図4、5に示すように、温度の実測値と計算値とは同じ挙動を示しており、本実施形態の燃焼モデルによる温度の再現性が高いことがわかる。
【0050】
図6には鍋試験での焼結層最高温度の実測値と計算値とを示す。粉コークス粒子の重量%(表1)及び粒度(表2)の条件を変えて鍋試験を行い、実測値と計算値とをプロットした。図6に示すように、粉コークス粒子の重量%及び粒度の条件を変えたときにも、焼結層最高温度の実測値と計算値とが略一致しており、本実施形態の燃焼モデルで鍋試験の温度挙動を精度良く説明可能であることがわかる。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
図7は鍋試験での本実施形態の燃焼モデルによる粉コークス粒子近傍のガス濃度(ガス境膜内のCO濃度CCO及びO2濃度CO2)の計算事例及びCO/O2値を示す特性図である。CO/O2値は粉コークス粒子表面のCO/O2値の平均値(0.05cm以内の平均)を示す。
【0054】
図8は粉コークス粒子の重量%(表1)及び粒度(表2)の条件を変えたときのCO/O2値と鍋試験でのNOxの実測値(NOx転換率)とを示す特性図である。図8に示すように、回帰分析を行ったところ、粉コークス粒子の重量%及び粒度の条件を変えたときにも、本実施形態の燃焼モデルにより計算したCO/O2値によりNOxの挙動を説明可能であることがわかる。
【0055】
図9(c)は粉コークス粒子の粒径と、本実施形態の燃焼モデルにより計算した焼結層最高温度と示す特性図である。図9(c)に示すように、粒径が大きくなるに従って焼結層最高温度が高くなる傾向があることがわかった。また、図9(b)は、粉コークス粒子の粒径と、本実施形態の燃焼モデルにより計算したCO/O2値と示す特性図である。図9(b)に示すように、粒径が大きくなるに従ってCO/O2値が大きくなる傾向があることがわかった。
【0056】
そして、図9(a)には、粉コークス粒子の粒径と、本実施形態の燃焼モデルにより計算したCO/O2値に基づいて得られるNOx量と示す特性図である。縦軸は、図8で説明したようにCO/O2値とNOxの実測値との回帰式を求め、その回帰式で予測されるNOx量である。図9(a)に示すように、粒径が大きくなるに従ってNOx量が少なくなる傾向があることがわかった。より詳細には、粒径の小さな微粒域では、粒径が僅かに変化したときにもNOx量が急増するおそれがある。一方、粒径の大きな粗粒域では、粒径の変化によるNOx量の低減効果が飽和状態となっている。こういった観点より、鍋試験で適正な粒径範囲があることがわかった。
【0057】
以上述べたように、焼結工程での粉コークスの燃焼反応を、燃焼の原理原則に立脚し、合理的に数学モデルで記述するとともに、非特許文献2のラボ実験結果を数学モデルで再解釈することにより、フューエルNOx生成の支配因子を数式上で明確化し、燃焼の観点からNOx生成量抑制のための要因を俯瞰的に検討することができる。これにより、脱硝機能を有する排ガス処理装置の負荷軽減効果が期待できる。
【0058】
なお、本発明を適用したNOx生成量の評価装置は、具体的にはCPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータシステムにより構成することができ、CPUがプログラムを実行することによって実現される。また、本発明を適用したNOx生成量の評価装置は、一つの装置から構成されても、複数の機器から構成されてもよい。
【0059】
また、本発明の目的は、上述したように燃焼モデルによりCO/O2値を計算する機能を実現するソフトウェアのプログラムコードを記録した記憶媒体を、システム或いは装置に供給することによっても達成される。この場合、記憶媒体から読み出されたプログラムコード自体が上述した実施形態の機能を実現することになり、プログラムコード自体及びそのプログラムコードを記憶した記憶媒体は本発明を構成することになる。プログラムコードを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
101:焼結層
102:原料層
103:燃焼帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉コークス粒子の表面反応として2C+O2→2CO、C+CO2→2CO、CaCO3→CO2+CaO、及び、焼結層内のガス反応として2CO+O2→2CO2を含むようにした燃焼反応を対象に、少なくとも、焼結層内の酸素(O2)の物質収支、焼結層内の二酸化炭素(CO2)の物質収支、焼結層内の一酸化炭素(CO)の物質収支、焼結層内の炭素(C)の物質収支、焼結層内の石灰石(CaCO3)の物質収支、燃焼ガスの熱収支及び焼結層の熱収支を含んで構成される焼結層での燃焼モデルに基づいて、焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を計算する第1の計算ステップと、
前記第1の計算ステップで計算された焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を入力値にして、粉コークス粒子のガス境膜内での燃焼モデルに基づいて、コークス粒子のガス境膜内CO濃度及びO2濃度を計算する第2の計算ステップと、
前記第2の計算ステップで計算された、燃焼過程にある粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度とO2濃度との比率CO/O2値を求めてNOx生成量を評価する評価ステップとを有することを特徴とする鉄鋼業の焼結工程におけるNOx生成量の評価方法。
【請求項2】
粉コークス粒子の表面反応として2C+O2→2CO、C+CO2→2CO、CaCO3→CO2+CaO、及び、焼結層内のガス反応として2CO+O2→2CO2を含むようにした燃焼反応を対象に、少なくとも、焼結層内の酸素(O2)の物質収支、焼結層内の二酸化炭素(CO2)の物質収支、焼結層内の一酸化炭素(CO)の物質収支、焼結層内の炭素(C)の物質収支、焼結層内の石灰石(CaCO3)の物質収支、燃焼ガスの熱収支及び焼結層の熱収支を含んで構成される焼結層での燃焼モデルに基づいて、焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を計算する第1の計算手段と、
前記第1の計算手段で計算された焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を入力値にして、粉コークス粒子のガス境膜内での燃焼モデルに基づいて、コークス粒子のガス境膜内CO濃度及びO2濃度を計算する第2の計算手段と、
前記第2の計算手段で計算された、燃焼過程にある粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度とO2濃度との比率CO/O2値を求める評価手段とを備えたことを特徴とする鉄鋼業の焼結工程におけるNOx生成量の評価装置。
【請求項3】
鉄鋼業の焼結工程におけるNOx生成量を評価するためのプログラムであって、
粉コークス粒子の表面反応として2C+O2→2CO、C+CO2→2CO、CaCO3→CO2+CaO、及び、焼結層内のガス反応として2CO+O2→2CO2を含むようにした燃焼反応を対象に、少なくとも、焼結層内の酸素(O2)の物質収支、焼結層内の二酸化炭素(CO2)の物質収支、焼結層内の一酸化炭素(CO)の物質収支、焼結層内の炭素(C)の物質収支、焼結層内の石灰石(CaCO3)の物質収支、燃焼ガスの熱収支及び焼結層の熱収支を含んで構成される焼結層での燃焼モデルに基づいて、焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を計算する第1の計算手段と、
前記第1の計算手段で計算された焼結層温度、燃焼排ガス中のCO濃度及びO2濃度を入力値にして、粉コークス粒子のガス境膜内での燃焼モデルに基づいて、コークス粒子のガス境膜内CO濃度及びO2濃度を計算する第2の計算手段と、
前記第2の計算手段で計算された、燃焼過程にある粉コークス粒子のガス境膜内のCO濃度とO2濃度との比率CO/O2値を求める評価手段としてコンピュータを機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−256405(P2011−256405A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129075(P2010−129075)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】