説明

鉄鋼産業副生成物からのマグネシウム及びカルシウム除去回収とA型ゼオライト製造方法

【課題】高炉スラグ等の産業副生成物のみを原料としてA型ゼオライトを合成するために、原料の成分を調整し、ボールミル型反応容器を使用したアルカリ水溶液中で加熱攪拌することによりA型ゼオライトを製造する。また、調整時に発生した物質を回収し、産業副生成物の完全利材化を実現する。
【解決手段】高炉スラグ等の産業副生成物をボールミル型反応容器中でのギ酸またはクエン酸水溶液中で攪拌処理をすることにより、カルシウムやマグネシウムのみを選択的に除去し、A型ゼオライトが製造可能な組成に調整し、合成することができた。また、カルシウムをギ酸カルシウムなどの有用な形で回収できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種酸による鉄鋼スラグの室温におけるマグネシウム及びカルシウム溶出処理を実施し、マグネシウム及びカルシウムのスラグからの除去回収方法を検討し、適した酸種及びpH、溶出時間を明らかにするものである。さらにA型ゼオライト合成に適した組成へ移行させる条件を検討し、組成調整後のスラグを用いたA型ゼオライトの製造方法を提供することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトへの水蒸気吸着に伴う発熱を利用した蓄熱システムは、昼夜間の消費電力ピーク差の平滑化、低温排熱の有効利用などへの適応が可能と考えられる。中でもA型ゼオライトは立方晶系の合成ゼオライトであり、交換カチオンとしてNa+を有するNa-A型の単位胞は(Na12[AlSiO4]12・27H2O)8と表され、ナトリウムはカリウムやアルカリ土類金属で置換されることが知られている。ゼオライトは、シリコン源、アルミニウム源、硬化剤および水を高温高圧下に一定時間置くこと(水熱合成法)で合成される。一般的にはシリコン源としてケイ酸ナトリウム、コロイダルシリカ、煙状シリカ、シリコンアルコキシドなどが、アルミニウム源として水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミニウムアルコキシドなどが使用されている(例えば、非特許文献1)。しかし、蓄熱材料として活用するには合成ゼオライトのコストが非常に高いことが問題である。
【0003】
日本における2004年度の銑鉄生産量は8,289万t、これに伴う高炉スラグの生成量(水分を含まない状態)は2,382万tもあり、このうち水砕スラグは1,860万t、徐冷スラグは522万tである。水砕率(水砕スラグ生産量/高炉スラグ生産量)は78.1mass%である(例えば、非特許文献2)。これらの多くはセメント原料、路盤材、コンクリート骨材などへ資源化されているが、今後の国内セメント需要の拡大が見込めない中で、新規用途の開拓が課題となっている。高炉水砕スラグは主成分が酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウムであり、A型ゼオライト中のナトリウムがマグネシウムやカルシウムで置換可能なことを考えればゼオライト合成の有力な原料候補に挙げられる。ゼオライトと比較的組成が近い鉄鋼スラグからゼオライトを合成できれば低コスト化が可能であるだけでなく、スラグの有効利用の観点からも好ましい。さらに、ゼオライトは蓄熱材料だけでなく、建築用調湿剤や工場排水の浄化、脱臭剤、土壌改質剤など様々な用途に使用することが可能なため、安価で大量に供給できる製造方法の開発が期待されている。
【0004】
これまでの研究(例えば、非特許文献3及び特許文献1)から高炉スラグを原料としてA型ゼオライトを高効率に合成するには、酸化マグネシウム+酸化カルシウム量を15mass%以下に原料組成を調整する必要があることが分かった。そのためにはシリコン源、アルミニウム源を添加する方法とスラグ中のマグネシウムやカルシウムを除去する方法が考えられ、これまでの研究では前者を採用し、シリコン源には非晶質酸化ケイ素、アルミニウム源にはアルミン酸ナトリウムを使用してきた。しかし、これら試薬の大量使用は高コストになるため、発生量が膨大な鉄鋼スラグを利用した合成には適切ではない。一方、後者の方法として高炉スラグからマグネシウムやカルシウムを選択的に除去することができれば、高炉スラグのみからA型ゼオライトを合成することが可能になる。
【0005】
これまでスラグからの金属イオン溶出挙動は海中を模擬した溶液中でのシリコンや鉄の溶出について報告がある(例えば、非特許文献4)。また、シュウ酸、クエン酸、タンニン酸などの有機酸を用いて、鉱物からのシリコン、アルミニウム、鉄、マグネシウムの溶出について検討はされている(例えば、非特許文献5)が、スラグから直接マグネシウムやカルシウムを除去回収するという報告はなく、その方法については検討が必要である。
【0006】
A型ゼオライトを合成するために高炉スラグの予備処理を行った報告として、塩酸または硝酸で全溶解させた後、シリカゲルのみを生成させ、そこにアルミニウム源を加えて水熱合成を行う方法(例えば、特許文献2)や、スラグに炭酸ナトリウムを加えて1023〜1173Kで焼成後、pH4以下で酸処理および水洗し、水熱合成を行う方法(例えば、特許文献3)があるが、これらは高炉スラグ単独原料ではなく、さらに予備処理時に高温熱源が必要といった短所がある。また特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5には、原料粉末を酸水溶液で処理することによって原料中のカルシウム化合物を除去できると記載されているが、そのカルシウム選択性は著しく低い。
【0007】
【特許文献1】特開2005-239459号公報
【特許文献2】特開平8-259221号公報
【特許文献3】特開平7-196315号公報
【特許文献4】特開平7-232913号公報
【特許文献5】特許第3666031号公報
【非特許文献1】小野嘉夫、八嶋建明:ゼオライトの科学と工学、講談社(2000)
【非特許文献2】鉄鋼スラグ統計年報(平成16年度実績)、鉄鋼スラグ協会
【非特許文献3】Y.Sugano, R.Sahara, T.Murakami, T.Narushima, Y.Iguchi and C.Ouchi:ISIJ International, 45(2005), 937.
【非特許文献4】T.Miki, T.Futatsuka, K.Shitogiden, T.Nagasaka and M.Hino:ISIJ International, 44(2004), 762.
【非特許文献5】H.Zhang and P.R.Bloom:Soil Sci. Soc. Am. J., 63(1999), 815.
【非特許文献6】田代健、伊藤公久:鉄鋼スラグの発生量低減と資源化、日本鉄鋼協会、(1997), 183.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ゼオライトへの水蒸気吸着に伴う発熱を利用した蓄熱システムを実現するためには安価で高品質な、例えば水蒸気吸着特性に優れたA型ゼオライトの供給が必要不可欠である。そのためにはA型ゼオライト合成原料に産業副生成物を採用することが挙げられる。また、大量に発生する高炉スラグ等の産業副生成物の有効利用は重要な課題となっており、セメント原料や路盤材等に使用されているが、今後その使用量は低下する傾向にあり、新たな用途開発が必要である。本発明は産業副生成物を原料とした安価で大量生産が可能なA型ゼオライトの合成方法を提供するものである。さらに産業副生成物から合成に不要な物質を除去回収することにより、産業副生成物の完全利材化を実現する方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、鉄鋼スラグ等の鉄鋼産業副生成物からのマグネシウム及びカルシウム除去回収方法において、室温において、ギ酸もしくはクエン酸により溶解させて処理することを特徴とするマグネシウム及びカルシウム除去回収方法が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、前記鉄鋼スラグ等の鉄鋼産業副生成物と前記ギ酸もしくは前記クエン酸の溶解反応において、ボールミル型反応容器を用いることを特徴とするマグネシウム及びカルシウム除去回収方法が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、マグネシウム及びカルシウム溶解溶液を乾燥、硫酸添加もしくは炭酸ガスを吹込むことを特徴とするマグネシウム及びカルシウム除去回収方法が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、前記マグネシウム及び前記カルシウム除去回収処理後の残渣を、アルカリ溶液中で加熱することを特徴とするA型ゼオライトの製造方法が得られる。アルカリ源としては本実施例で示した水酸化ナトリウムのほかに、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物でも同様の効果が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、前記残渣と前記アルカリ溶液を、ボールミル型反応容器中で、加熱処理を行うことを特徴とするA型ゼオライト製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0014】
A型ゼオライトの合成は長時間を要し、高コストである。産業副生成物から様々な方法で合成されるA型ゼオライトも複雑な工程を踏んでいるため、比較的コストが高い。本発明では大量に排出される高炉スラグを原料とし、ボールミル型反応容器を用い、高炉スラグをA型ゼオライト合成可能な組成に制御し、さらに同様の容器を用いたアルカリ水熱合成によるA型ゼオライト合成を可能にした。
【0015】
本発明では適切な酸溶液の選択及びボールミル型反応容器を採用することにより、可溶性マグネシウム及びカルシウム成分だけでなく、高炉水砕スラグをはじめとするガラス状物質からマグネシウム及びカルシウム成分のみを選択的に除去回収可能である。その際の酸種は有機酸、特にギ酸及びクエン酸が有効であることを明らかにするものである。さらに、除去後の溶液からマグネシウム及びカルシウム分を乾燥、硫酸添加及び炭酸ガスの吹き込み処理を施すことにより、回収が可能である。特にカルシウム分を乾燥させた場合はギ酸カルシウムとして回収されるため、摘花効果剤やコンクリート混和剤としての利用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の請求項1に記載の発明は、表1に示す組成に代表される高炉スラグをはじめとする産業副生成物を、図4に示すように初期pH2のギ酸またはクエン酸水溶液中、室温で溶出処理を施すことにより、マグネシウム及びカルシウムを選択的に除去回収するものである。図2に示すように、酸水溶液として、塩酸を用いても選択的除去回収はできず、有機酸の酢酸、乳酸では上記酸ほどの効果は現れない。
【0017】
また、請求項2に記載の発明は、図1に示すように上記溶出処理にボールミル型反応容器を用いることにより、図3に示すようにより効果的にマグネシウム及びカルシウムの選択的除去回収を可能にするものであり、適した酸水溶液はギ酸及びクエン酸である。
【0018】
さらに、請求項3に記載の発明は、上記処理により発生した溶液の乾燥処理、硫酸添加、及び炭酸ガス吹き込みを施すことにより、マグネシウム及びカルシウム源を回収し、再利用可能にする方法である。図7に示すように、ギ酸水溶液で処理した溶液を乾燥させることにより、ギ酸カルシウムが得られる。
【0019】
そして、請求項4に記載の発明は、請求項1および2に記載した発明を施すことにより、非特許文献3で明らかにしたA型ゼオライトの製造が可能な領域まで溶出残渣組成を変化させることができ、その残渣をアルカリ溶液中で加熱することにより、A型ゼオライトの製造を可能にするものである。
【0020】
最後に、請求項5に記載の発明は、上記A型ゼオライトの合成に図1にしめすボールミル型反応容器を使用し、加熱攪拌処理をすることにより、短時間で、且つ図9に示すように粒径4〜5μmの市販A型ゼオライトより微細なA型ゼオライトの合成を可能にするものである。
【実施例1】
【0021】
実操業で得られた42.5mass%のCaOを含有している高炉水砕スラグを原料とした。そのスラグ組成を表1に示す。溶出処理には、塩酸(特級,(株)和光純薬工業)、ギ酸(特級,(株)和光純薬工業)、酢酸(特級,(株)関東化学)、乳酸(特級,(株)和光純薬工業)、クエン酸(クエン酸一水和物から作製(特級,(株)和光純薬工業))、酒石酸(特級, (株)和光純薬工業)を用いた。比較のため、イオン交換水での溶出処理も行った。図1に示す定温乾燥器(DO-300,(株)井内盛栄堂)およびボールミル型反応容器を使用して、各種溶液中、室温での溶出処理により行った。反応容器は、テフロン(登録商標)製容器(内径40mm,容積60ml) をステンレス鋼容器の中に入れた二重の容器になっており、テフロン(登録商標)製容器はO-リングにより密閉される。定温乾燥機は下部のヒーターによって加熱でき、同時に反応容器を回転できるように設計されている。高炉水砕スラグ1.0g、所定pHにした各種酸溶液30ml、直径10mmのSiCボール(SiC11, ニッカトー)30個を容器に投入し、室温にて75rpmで回転させながら一定時間溶出処理を行った。処理後、沈殿物はポリカーボネイト製で孔径0.2μmのメンブレンフィルター(ADVANTEC)を用いて吸引ろ過後回収し、繰り返し溶出処理を行った。比較のため、静置での溶出処理も行った。金属イオンの溶出挙動を把握するために、各溶出段階で発生したろ液中のCa、Mg、Si、Alイオン濃度をICP発光分光分析装置(ICP-8100, (株)島津製作所)を用いて測定した。溶出したマグネシウム及びカルシウムの回収のため、ろ液は硫酸添加、CO2ガスの吹き込み及び343K保持による乾燥処理を行った。その残留物をX線ディフラクトメーター(X’Pert, Philips)を用いて2θ-θ法によるX線回折(XRD)により行った。
【0022】
【表1】

【0023】
pH値を2とした各種酸水溶液による7.2ksの溶出処理後の酸水溶液中のCaイオン濃度を図2に示す。酒石酸を除くと静置させたままの処理よりもSiCボールを入れ、回転させた方が溶出量は多くなった。また、無機酸である塩酸ではCaはほとんど溶出しなかったが、有機酸ではより多くのCaが溶出し、特にギ酸やクエン酸では溶液中のCa濃度が約1100ppmにまで到達し、多くのCaが溶出することが分かった。そこでCa溶出量が最も高かったクエン酸およびギ酸を用いた場合、及び最も低かった塩酸を用いた場合の処理後得られる残渣の組成を高炉スラグの初期組成とともにSiO2-Al2O3-CaO+MgO擬三元系状態図上にプロットし、図3に示す。斜線で示す領域はこれまでの研究でA型ゼオライトの合成が確認されている組成である。塩酸を用いた溶出では高炉スラグからの組成の変化はほとんど見られなかった。一方、クエン酸やギ酸を用いた溶出ではCaO+MgOが49mass%から41~46mass%まで変化した。さらにギ酸水溶液による溶出処理では、Si/Al比がほとんど変化しておらず、A型ゼオライト合成に適した組成へと変化する傾向にあった。
【0024】
ギ酸水溶液の初期pH値を変化させたときのCa溶出量を図4に示す。初期pH値によりCaおよびSiの溶出量は大きく異なり、初期値が2の場合のみCaが1150ppm、Siが80ppmと溶出量が非常に大きくなった。これは7.2ks後のpH値は初期pHを2、3、5としたとき、それぞれ6、10、11となっており、初期pHが高いと水溶液がアルカリ側にシフトしやすくなりCaの溶出が抑えられたためであると考えられる。そのため溶出処理の初期pHは2前後が最も適しているといえる。
【0025】
7.2ksの溶出処理では酸化マグネシウム+酸化カルシウムの量がA型ゼオライト合成可能領域に達しなかった。さらに7.2ks以上の溶出処理でも酸化マグネシウム+酸化カルシウム量は大きな変化をしなかった。そこで1.8または7.2ksの溶出処理後ろ過し、溶液を交換し再び溶出処理を行ったときのサイクル数と各元素の溶出重量の初期重量との比(W/Winitial)の関係を図5に示す。1サイクルの溶出時間の違いではマグネシウム及びカルシウム溶出量に大きな変化は見られなかったが、1.8ks毎に処理を行った場合の方がシリコン、アルミニウム溶出量が大きくなる傾向になった。また、1.8ksの場合、ろ過時にメンブレンフィルターの目詰まりが発生し、ろ過に長時間を要した。田代らは、酸化カルシウム−酸化ケイ素−フッ化カルシウム系スラグの317Kの水中への各金属元素の溶出量の時間変化について調べ、カルシウム、シリコン、ナトリウムは36~54ksで最大値をとり、その後減少することを報告しており、溶出時間の経過とともにスラグ表面に酸化カルシウム−酸化ケイ素―水のゲルが生成し、その後析出するというモデルを示している(非特許文献6)。本実験では、水ではなくギ酸を用いているが、スラグ組成が類似しており同様の現象が起きていると考えられる。さらにボールミルによって溶出が加速されていると考えられ、そのため最大値をとる時間が田代らよりも短時間の1.8~7.2ks間にあると予想される。これらの理由のため、溶液交換は7.2ks毎に行う方がマグネシウム及びカルシウム溶出には適していることが分かった。さらに、7.2ks毎交換ではマグネシウム及びカルシウムの溶出は3サイクルまでに急激に進行し、その後ほとんど変化がなかった。一方、シリコンは3サイクルまではマグネシウム及びカルシウムと同様の挙動を示したが、それ以降も僅かに溶出していた。また、アルミニウムは2サイクルまではほとんど溶出せず、それ以降にゆっくりと溶出が進行した。シリコン及びアルミニウムはA型ゼオライトの構造骨格を形成する元素であり、ゼオライトの合成原料とすることを考えると、可能な限り溶出によるロスを避けることが望ましい。各サイクル時の残渣組成を図6に高炉スラグ組成と共に状態図上に示す。3サイクルの処理によりA型ゼオライト合成が可能な領域に入り、その後更なる溶出処理により合成可能域から逸脱することが分かった。このことから溶出処理は7.2ksを3サイクル行うことが最適である。
【0026】
ここで、1サイクル終了時のろ液を343Kにおいて172.8ks保持し、水分を蒸発させることで白色の粉末析出物が得られた。この粉末は高炉スラグ1gから0.38gを回収することができた。図7に示す析出物のXRDパターンより、ギ酸カルシウム((HCOO)2Ca)であることが分かった。ギ酸カルシウムは摘花効果剤やコンクリート混和剤として用いられており、大量に消費するコンクリート混和剤として安価なギ酸カルシウムを供給できる可能性を持っている。また、硫酸添加、CO2吹込みにおいてもそれぞれ硫酸化物、炭酸化物として回収可能であった。
【実施例2】
【0027】
溶出処理後の残渣を合成原料とし、上記ボールミル型反応容器を用いてNaOH溶液中での水熱処理によるゼオライト合成を行った。合成原料と共に直径の5mmのSiCボールを240個および15mlの1M NaOH(純度 96.0%以上,(株)和光純薬工業)溶液を容器に入れ、343Kにおいて86.4ks直接合成法にて水熱処理を行った。水熱処理中、反応容器は75rpmで回転させた。水熱処理後、沈殿物はろ過後、イオン交換水で水洗し、定温乾燥器中343Kで乾燥させた。合成物の同定はXRDにより行った。さらに、合成物中のA型ゼオライトの定量にはXRDによる検量線法を用いた。標準物質にはMgO粉末(純度99.9%,(株)和光純薬工業)を使用し、添加量を50mass%とした。検量線は市販のA型ゼオライト粉末(268-01522,(株)和光純薬工業)とMgAl2O4粉末(純度99%, Alfa Aesar)を3:7、5:5、7:3の割合で混合した粉末を用いて作成した。さらに、水熱処理後の合成物の表面観察には走査型電子顕微鏡(SEM, XL30FEG, Philips)を用いた。観察試料はろ過、乾燥後は凝集しており、分散させるためにエタノール中で超音波洗浄後に得られた懸濁液を観察用ホルダー上に滴下し、大気中でエタノールを蒸発させ、SEM観察に供した。
【0028】
3サイクル処理後の残渣のみを用いてA型ゼオライトの直接合成を試みた。そのときの残渣の組成は高炉スラグの組成から溶出量を考慮して計算した値であり、22.5mass%SiO2 -11.2mass%Al2O3-3.8mass%CaO-0.3mass%MgOであった。図8-(a)に343Kにおいて1M NaOH溶液中で86.4ksの水熱処理後に得られる合成物のXRDパターンを示す。比較のため高炉スラグに非晶質SiO2、NaAlO2を添加した原料を用い、投入原料組成を含む全てを同じ条件で合成して得られる合成物のXRDパターンを図8-(b)に示す。溶出処理後の残渣のみを用いた場合でも、これまで報告した原料と同様にA型ゼオライトは合成された。しかし、(b)の従来材とは異なりtobermoriteとhydrogarnetのピークは確認されず、Na-P1(Na6Al6Si6O32・12H2O)の生成が確認された。これは原料中のCaO+MgOの割合が10%とこれまでより低いことで、高いCaO組成を持つtobermoriteやhydrogarnet の生成が抑えられ、さらにSi/Al比はこれまでより高いためSiリッチであるNa-P1が生成したと考えられる。A型ゼオライトの生成率は、非晶質SiO2およびNaAlO2を添加した原料からの合成物でおよそ45%なのに対して、溶出処理後の残渣のみからの合成物では51%であった。図9に高炉スラグ(a)、ギ酸処理後の残渣(b)および残渣のみからの合成物のSEM写真を示す。ギ酸処理前の高炉スラグは滑らかな表面形状をしているが、ギ酸処理を行うことにより、その表面の凹凸が増大し、全体的に小さい粒が増加した。合成物はこれまでのA型ゼオライトを含むものとほぼ同じ形状をしているが、小さい粒が多い傾向にあった。
【0029】
A型ゼオライトを合成するために高炉スラグの予備処理を行った報告として、塩酸または硝酸で全溶解させた後、シリカゲルのみを生成させ、そこにAl源を加えて水熱合成を行う方法(特許文献2)や、スラグにNa2CO3を加えて1023〜1173Kで焼成後、pH4以下で酸処理および水洗し、水熱合成を行う方法(特許文献3)があるが、これらは高炉スラグ単独原料ではなく、さらに高温熱源が必要といった短所がある。また特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5には、原料粉末を酸水溶液で処理することによって原料中のカルシウム化合物を除去できると記載されているが、そのカルシウム選択性は著しく低い。
【0030】
一方、本研究では、溶出プロセスが室温で行われる点と、残渣をそのまま水熱合成に用いる点で従来の方法よりも優れている。またギ酸またはクエン酸を用いることで選択的にカルシウム化合物を除去可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】溶出処理及び水熱合成用ボールミル型反応容器の概略図。
【図2】各種酸によるボールミル型反応容器を使用した場合および静置した場合の室温、2時間の高炉水砕スラグの溶出処理後のCa濃度。
【図3】ギ酸、クエン酸、塩酸を用いた室温、2時間の高炉水砕スラグからの溶出処理後の組成をプロットしたSiO2-Al2O3- CaO+MgO系状態図。
【図4】ギ酸の初期pHの違いによる高炉水砕スラグからのCa、Si、Alの溶出量。
【図5】高炉水砕スラグからの初期pHが2のギ酸溶液による室温、2時間の溶出処理回数とCa、Mg、Al、Siの重量減少率。
【図6】高炉水砕スラグからの初期pHが2のギ酸溶液による室温、2時間の溶出処理回数1、3、6回時の残渣の組成をプロットしたSiO2-Al2O3- CaO+MgO系状態図。
【図7】溶出処理後の溶液を乾燥させることにより得た粉末のX線回折パターン。
【図8】高炉水砕スラグからの初期pHが2のギ酸溶液による室温、2時間の溶出処理を3回行った後に得られる残渣を原料とした水熱処理での生成物及び高炉スラグにシリカ及びアルミン酸ナトリウムを添加してSi/Al=1、CaO+MgO=15mass%に制御した原料を使用し水熱処理をした生成物のX線回折パンターン。
【図9】原料とした高炉スラグ、ギ酸による溶出処理後の残渣、その残渣を用いた水熱処理後の生成物の電子顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼スラグ等の鉄鋼産業副生成物からのマグネシウム及びカルシウム除去回収方法において、室温において、ギ酸もしくはクエン酸により溶解させて処理することを特徴とするマグネシウム及びカルシウム除去回収方法。
【請求項2】
前記鉄鋼スラグ等の鉄鋼産業副生成物と前記ギ酸もしくは前記クエン酸の溶解反応において、ボールミル型反応容器を用いることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム及びカルシウム除去回収方法。
【請求項3】
請求項1及び2に記載したマグネシウム及びカルシウム溶解溶液を乾燥、硫酸添加もしくは炭酸ガスを吹込むことを特徴とするマグネシウム及びカルシウム除去回収方法。
【請求項4】
前記マグネシウム及び前記カルシウム除去回収処理後の残渣を、アルカリ溶液中で加熱することを特徴とするA型ゼオライトの製造方法。
【請求項5】
前記残渣と前記アルカリ溶液を、ボールミル型反応容器中で、加熱処理を行うことを特徴とする請求項4に記載のA型ゼオライト製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−222713(P2007−222713A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43979(P2006−43979)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】