説明

鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造

【課題】鉄骨梁に形成するダクト貫通孔の内径を小さくすることができる鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造を提供する。
【解決手段】外周面3aに耐火被覆材2が巻き付けられたダクトが、鉄骨梁4のウェブ5に形成されたダクト貫通孔6に挿通された鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造1Aにおいて、耐火被覆材2は、少なくともダクト貫通孔6の内周面6aとダクト3の外周面3aとの間に配された部分の厚さ寸法が、その他の部分の厚さ寸法よりも小さく形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨梁のダクト貫通部では、所定の材料で所定の厚さに形成された耐火被覆材をダクトに巻き付けることで、2時間耐火や3時間耐火などの国土交通大臣認定としてその耐火性能が認められている。
このため、特許文献1および2には、鉄骨梁のウェブに形成されたダクト貫通孔に、耐火被覆材が巻き付けられたダクトが挿通された鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−150210号公報
【特許文献2】特許第4143846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄骨梁のウェブに形成されるダクト貫通孔の内径(直径)は、耐火被覆材が巻き付けられたダクトを挿通させるために、ダクトの外径に耐火被覆材の厚さを加えた長さに形成される必要がある。
例えば、耐火被覆材をロックウールとし、3時間耐火の性能を確保する場合、ダクトに巻き付ける耐火被覆材の厚さが60mmとなるため、ダクト貫通孔の内径は、ダクト外径+120mmとなる。
【0005】
しかしながら、鉄骨梁によっては、ウェブに対してダクト貫通孔の割合が大きくなるため、強度上、所望の内径のダクト貫通孔を形成することができないことがある。
このような場合は、梁成の大きい鉄骨梁に変更したり、ダクトの内径を小さくしてダクトの設置箇所を増やしたりして対応している。
しかし、梁成の大きい鉄骨梁に変更するには階高を高くする必要があり、また、ダクトの設置箇所を増やすとダクト工事などに手間がかかるため、工期やコストに影響を及ぼすことになる。
【0006】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、鉄骨梁に形成するダクト貫通孔の内径を小さくすることができる鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造は、外周面に耐火被覆材が巻き付けられたダクトが、鉄骨梁のウェブに形成されたダクト貫通孔に挿通された鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造において、前記耐火被覆材は、少なくとも前記ダクト貫通孔の内周面と前記ダクトの外周面との間に配された部分の厚さ寸法が、その他の部分の厚さ寸法よりも小さく形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、耐火被覆材は、ダクト貫通孔の内周面とダクトの外周面との間に配された部分の厚さ寸法が、その他の部分の厚さ寸法よりも小さく形成されているため、ダクト貫通孔の内径を、従来のようにダクトの外径に耐火被覆材全体の厚さを加えた寸法とする場合と比べて小さくすることができる。
【0009】
また、本発明に係る鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造では、前記耐火被覆材は、前記ダクトの外周面に巻き付けられた第1耐火被覆材と、該第1耐火被覆材の外周面に巻き付けられた第2耐火被覆材と、を備え、前記第1耐火被覆材は、前記ダクト貫通孔に挿通されるとともに、該ダクト貫通孔から前記ダクトの軸方向前後の所定範囲に巻き付けられ、前記第2耐火被覆材は、前記ダクト貫通孔に挿通されず、前記所定範囲のみに巻き付けられていることが好ましい。
このようにすることにより、ダクト貫通孔の内径は、ダクト外径に第1耐火被覆材の厚さを加えた寸法とすればよいため、従来のようにダクトの外径に耐火被覆材全体の厚さを加えた寸法とする場合と比べて小さくすることができる。
【0010】
また、本発明に係る鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造では、前記第1耐火被覆材は、セラミックファイバーまたはロックウールを材料として形成され、前記第2耐火被覆材は、ロックウールを材料として形成されていることが好ましい。
このようにすることにより、第1耐火被覆材の厚さを薄くすることができるため、ダクト貫通孔の内径をより小さくすることができる。
特に、第1耐火被覆材が、セラミックファイバーを材料として形成されることで薄くなるため、ダクト貫通孔の内径をより小さくすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ダクト貫通孔の内径を従来よりも小さくすることができることにより、従来のように所望の内径のダクト貫通孔を形成するために梁成を大きくしたり、ダクト貫通孔の数を増やしたりする必要がないため、コストの増加を防止することができるとともに、工期短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態による鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造の一例を示す図で図2のA−A線断面図である。
【図2】図2は図1のB−B線断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態による鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造の一例を示す図である。
【図4】従来の鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態による鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造について、図1および図2に基づいて説明する。
図1に示すように、第1実施形態による鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造1Aでは、耐火被覆材2が外周面3aに巻き付けられたダクト3が、鉄骨梁4のウェブ5に形成されたダクト貫通孔6に挿通されている。
なお、本実施形態による鉄骨梁4のダクト貫通部の耐火被覆構造1Aでは、3時間耐火の国土交通大臣認定の耐火性能を確保可能なものとしている。
【0014】
鉄骨梁4は、本実施形態ではH形鋼で、上方に上階の床スラブ7が配されて、下方および両側方には耐火被覆材8が袋状に巻き付けられている。
ダクト3は、例えば、厚さ0.5mmの鋼板を外径200mmの円筒状に形成したもので、長さ方向(ダクト3の軸方向)の両端部3b,3b(図1参照)に他のダクトが接合可能に構成されている。
【0015】
耐火被覆材2は、ダクト3の長さ方向の中央部3c側の外周面3aに巻き付けられた第1耐火被覆材21と、この第1耐火被覆材21の外周面21aに巻き付けられた第2耐火被覆材22と、の2層構造に形成されている。
第1耐火被覆材21は、厚さt1が25mmのセラミックファイバーのシート(二酸化ケイ素繊維系フェルト)を円筒状に形成したもので、ピンなどの係止具によってダクト3の外周面3aに固定されている。
第2耐火被覆材22は、厚さt2が40mmのロックウールのシート(無機繊維フェルト)を円筒状に形成したもので、第1耐火被覆材21と密着している。
【0016】
第1耐火被覆材21は、ダクト3とともに鉄骨梁4のダクト貫通孔6に挿通されていて、周方向に間隔をあけて固定された振れ止め部材23が鉄骨梁4のウェブ5をダクト貫通孔6の内側から挟持することで、ダクト3および第1耐火被覆材21の位置が固定されている。
また、第2耐火被覆材22は、ダクト貫通孔6に挿通されずに、ダクト貫通孔6からダクト3の長さ方向前後にに配されている。そして、第2耐火被覆材22は、長さ方向に2つに分割され、第2耐火被覆材分割体24,24として配されている。2つの第2耐火被覆材分割体24,24は、それぞれ鉄骨梁4のウェブ5の両側に配されて、ウェブ5側の端部24a(図1参照)がウェブ5と当接するように配されている。
【0017】
このため、耐火被覆材2は、ダクト貫通孔6の内周面とダクト3の外周面3aとの間に配された部分の厚さ寸法(第1耐火被覆材21の厚さt1)が、その他の部分の厚さ寸法(第1耐火被覆材21と第2耐火被覆材22とをあわせた厚さt1+t2)よりも小さく形成されていることになる。
また、図1に示すように、ダクト貫通孔6の内径φ1は、ダクト3の外径φ2に第1耐火被覆材21の厚さt1を加えた寸法(200mm+25mm+25mm=250mm)となっている。
【0018】
また、第1耐火被覆材21の両端部21b,21b、および、第2耐火被覆材分割体24,24におけるウェブ5側と反対側の端部24b,24bは、鉄骨梁4に巻き付けられた耐火被覆材8と当接している。鉄骨梁4に巻き付けられた耐火被覆材8は、ダクト3の第1耐火被覆材21および第2耐火被覆材22が巻き付けられている部分よりも長さ方向の両端部3b,3b側でダクト3の外周面3aと当接している。
【0019】
つぎに、本実施形態の鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造1Aの施工方法について説明する。
まず、鉄骨梁4の製造工場において、予め鉄骨梁4のウェブ5にダクト貫通孔6を穿孔する。また、ダクト貫通孔6に挿通させるダクト3の長さ方向の中央部側の外周面3aに第1耐火被覆材21を巻き付ける。なお、ダクト3への第1耐火被覆材21の巻き付けは、ダクトの製造工場で予め行っておいてもよい。
【0020】
続いて、第1耐火被覆材21を巻き付けたダクト3をダクト貫通孔6に挿通させる。このとき、第1耐火被覆材21の外周面21aとダクト貫通孔6の内周面6aとが当接する。そして、第1耐火被覆材21に固定された振れ止め部材23をウェブ5に挟持して、ダクト3および第1耐火被覆材21の位置を固定する。
なお、本実施形態では、第1耐火被覆材21の下端部側で鉄骨梁4のウェブ5と当接する部分に、スペーサピン25およびケイカルスペーサ26を取り付けていて、このスペーサピン25およびケイカルスペーサ26によって第1耐火被覆材21およびダクト3が下方へずれることを防止している。
【0021】
続いて、第1耐火被覆材21の外周面21aに第2耐火被覆材22を取り付ける。
このとき、第2耐火被覆材22の2つの第2耐火被覆材分割体24,24をウェブ5の両側に位置するように配し、第2耐火被覆材分割体24,24の内周面を第1耐火被覆材21の外周面21aに当接させるとともに、第2耐火被覆材分割体24,24の端部24a,24aをそれぞれウェブ5に当接させる。
【0022】
続いて、鉄骨梁4を覆うように耐火被覆材8を取り付ける。
このとき、鉄骨梁4の耐火被覆材8は、第1耐火被覆材21の両端部21b,21bおよび第2耐火被覆材分割体24の端部24b,24bに当接するように配するとともに、ダクト3の端部側の外周面3aに当接するように配する。
以上のようにして本実施形態の鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造1Aが施工される。
【0023】
次に、上述した鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造1Aの効果について図面を用いて説明する。
本実施形態による鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造1Aによれば、鉄骨梁4のウェブ5に形成するダクト貫通孔6の内径φ1を、ダクト3の外径φ2に第1耐火被覆材21の厚さt1を加えた寸法とすればよいため、図4に示すようなダクト貫通孔6の内径をダクト3の外径φ1に耐火被覆材2全体の厚さt3(図1のt1+t2に相当)を加えた寸法とする従来の耐火被覆構造41よりも、ダクト貫通孔6の大きさを小さくすることができる。
このため、従来のように鉄骨梁4の梁成を大きくしたり、鉄骨梁4のウェブ5に多くのダクト3を挿通させたりする必要がないため、コストの低減と工期短縮を図ることができる。
【0024】
また、鉄骨梁4の梁成が最小限で設計されていて、ダクト貫通孔6の大きさを大きくすることができない場合、鉄骨梁4の梁成を大きくすると建物の階高も高くなり、建築確認申請や材料の変更が生じて手間がかかるため、鉄骨梁4の梁成が最小限で設計されている場合に特に有効な耐火被覆構造とすることができる。
【0025】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、添付図面に基づいて説明するが、上述の第1実施形態と同一又は同様な部材、部分には同一の符号を用いて説明を省略し、第1実施形態と異なる構成について説明する。
図3に示すように、第2実施形態による鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造1Bでは、2時間耐火の国土交通大臣認定の耐火性能を確保可能なものとし、第1耐火被覆材31および第2耐火被覆材32が同じ材料で形成されている。本実施形態では、第1耐火被覆材31および第2耐火被覆材32は、ともに厚さ20mmのロックウールのシートとしている。
【0026】
第2実施形態による鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造1Bでは、第1実施形態と同様の効果を奏するとともに、第1耐火被覆材31がロックウールのシートであることにより、第1耐火被覆材にセラミックファイバーのシートを使用する場合と比べてコスト削減を図ることができる。
【0027】
以上、本発明による鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造1A,1Bの実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施形態では、耐火被覆材2がロックウールやセラミックファイバーで形成されているが、所望の性能を確保できるのであればこれ以外の材料で形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1A,1B 鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造
2 耐火被覆材
3 ダクト
3a 外周面
4 鉄骨梁
5 ウェブ
6 ダクト貫通孔
7 床スラブ
8 耐火被覆材
21,31 第1耐火被覆材
22,32 第2耐火被覆材
23 振れ止め部材
24 第2耐火被覆材分割体
25 スペーサピン
26 ケイカルスペーサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に耐火被覆材が巻き付けられたダクトが、鉄骨梁のウェブに形成されたダクト貫通孔に挿通された鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造において、
前記耐火被覆材は、少なくとも前記ダクト貫通孔の内周面と前記ダクトの外周面との間に配された部分の厚さ寸法が、その他の部分の厚さ寸法よりも小さく形成されていることを特徴とする鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造。
【請求項2】
前記耐火被覆材は、前記ダクトの外周面に巻き付けられた第1耐火被覆材と、該第1耐火被覆材の外周面に巻き付けられた第2耐火被覆材と、を備え、
前記第1耐火被覆材は、前記ダクト貫通孔に挿通されるとともに、該ダクト貫通孔から前記ダクトの軸方向前後の所定範囲に巻き付けられ、
前記第2耐火被覆材は、前記ダクト貫通孔に挿通されず、前記所定範囲のみに巻き付けられていることをを特徴とする請求項1に記載の鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造。
【請求項3】
前記第1耐火被覆材は、セラミックファイバーまたはロックウールを材料として形成され、
前記第2耐火被覆材は、ロックウールを材料として形成されていることを特徴とする請求項2に記載の鉄骨梁のダクト貫通部の耐火被覆構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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