説明

鉗子の鉗子片開閉構造

【課題】 鉗子片の開閉操作時に、鉗子片を開閉させるリンクプレートが外側方向へ突出しない鉗子片の開閉構造を備えることにより、処置作業の際に周辺組織への引っ掛かりを生じないようにして作業性・操作性を向上させた鉗子を提供すること。
【解決手段】 軸方向に可動自在な操作ロッド18と、先端を開閉可能に把持部終端部に形成された回動支持部で支持された一対の鉗子片11、12と、
前記操作ロッド18と前記鉗子片11、12との間に、一方の端部がそれぞれ一対の前記鉗子片11,12の前記回動支持部13aより後方に回動自在に支持され、他方の端部が前記操作ロッド18に互いに間隔をおいて回動自在に支持される少なくとも一対のリンクプレート14、15と、を備える鉗子100の鉗子片開閉構造において、前記操作ロッド18が鉗子片側に移動した位置にあるときに、一対の前記リンクプレート14、15を交差させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡下手術において、生体組織の処理を行う際に使用される鉗子の鉗子片開閉構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外科手術の分野においては、従来からの開腹手術や開胸手術に代わって、患者への負担軽減及び術後の早期回復という利点から、侵襲の少ない内視鏡下手術が行われるようになってきている。この内視鏡下手術においては、生体組織の剥離や把持等の処理の際に、腹腔内に挿入されるシースを備え、この先端に組織の剥離や把持等を行う一対の鉗子片が設けられ、基端には一対の鉗子片の開閉操作を行う操作ハンドルを備えたハンドル部を備えた内視鏡用鉗子が用いられている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
図10には、従来の内視鏡用鉗子における一対の鉗子片の開閉構造が示されている。一対の鉗子片111、112は、支持ピン113によって回動自在に支持され、この支持ピン113を中心にして開閉できるようになっている。さらに、シース110には、その軸方向に進退自在に操作ロッド118が内挿されている。そして、この操作ロッド118と一対の鉗子片111、112との間には、一対のリンクプレート114、115が配設されている。一対のリンクプレート114、115は、それぞれの一端が操作ロッド118の先端にリンクピン116により一点で回動可能に取着され、リンクピン116を中心に略V字をなすように配置されている。一方、一対のリンクプレート114、115のそれぞれの他端は、一対の鉗子片111、112の基端にそれぞれリンクピン117によって回動可能に取着されている。
【0004】
また、シース110の基端には、図示しない操作ハンドルが接続されており、この操作ハンドルを操作してロッド118をシース110の軸方向に沿って移動させることにより、一対の鉗子片111、112の開閉操作をすることができる。具体的には、ロッド118をシース110の先端側(図10(b)に示す矢印Q方向)へ移動させると、一対のリンクプレート114、115は、それぞれリンクピン117を支点として外方(図8(b)に示す矢印R及びS方向)に回動し、これに連動して一対の鉗子片が拡開される。逆に、ロッド118をシース110の基端側へと移動させると、一対の鉗子片111、112は閉塞されることとなる。
【0005】
ここで、一対の鉗子片の拡開・閉塞操作を行うときに、図10(b)及び図10(c)に示すように、一対の鉗子片111、112の基端及びそれと連結される一対のリンクプレート114、115が、それぞれシース110から外方に突出した状態となる。
【0006】
しかし、一対の鉗子片の拡開・閉塞操作は、当然、腹腔内において生体組織の処置の際に行われるのであり、このとき術者は一対の鉗子片の拡開・閉塞操作と同時に、内視鏡用鉗子全体を回転させたり、あるいは前後左右にずらしたりしながら処置を行う。そうすると、拡開状態のときに外方へと突出した開閉リンクが、周囲の生体組織に引っ掛かるといった事態が生じてしまい、これが作業性を悪化させることとなっていた。
【0007】
【特許文献1】特開平8−38494号公報
【特許文献2】特開平8−103449号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するために、鉗子片の開閉操作時に、鉗子片を開閉させるリンクプレートがシースから外方へ突出しない鉗子の開閉構造を備えることにより、処置作業の際に周辺組織への引っ掛かりを生じないようにして作業性・操作性を向上させた鉗子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明が採った手段は、軸方向に可動自在な操作ロッドと、先端を開閉可能に把持部終端部に形成された回動支持部で支持された一対の鉗子片と、前記操作ロッドと前記鉗子片との間に、一方端部がそれぞれ一対の前記鉗子片の前記回動支持部より後方に回動自在に支持され、他方端部が前記操作ロッドに互いに間隔をおいて回動自在に支持される少なくとも一対のリンクプレートと、を備え、前記操作ロッドが鉗子片側に移動した位置にあるときに、一対の前記リンクプレートが交差されていることを特徴とする鉗子の鉗子片開閉構造とするものである。
【0010】
本発明の鉗子の鉗子片開閉構造は、リンクプレートの配置を見直すことによって、従前の問題の解消を図ったものである。すなわち、従前の内視鏡用鉗子では、一対のリンクプレートの操作ロッド側への支点を1点で行っていたのに対し、本発明に係る鉗子の鉗子片開閉構造では、一対のリンクプレートと操作ロッドとの回動支点を、操作ロッドの幅方向へ間隔をおいて2点で行っている点が異なる。また、本発明では、操作ロッドが鉗子片側に移動した位置にあるとき、リンクプレートと鉗子片の後端部(回動支持部より後方)は、リンクプレートが互いに交差するように、回動自在に支持してある。この鉗子片が開閉するときの仮想平面と、リンクプレートが動作するときの仮想平面と、が平行関係となるように支持するのが好ましい。係る構成を採用することによって、リンクプレートを外方向に突出させることなく鉗子片を開閉自在とすることができる。
【0011】
また、鉗子片の拡開量を制限する拡開量制限手段として、リンクプレートの移動を制限するリンクプレート当接部が操作ロッドに設けてもよい。リンクプレートがリンクプレート当接部に当接することにより、鉗子片の拡開量を制限することができる。
【0012】
さらに、内視鏡下手術において、鉗子片が必要以上に拡開する必要はなく、生体組織を把持する最小限の拡開が行われれば十分である。また鉗子片の開閉操作は、操作ロッドにリンクした操作手段を用いて行われるが、医師にとっても鉗子片の拡開量が制限されていれば、鉗子片が拡開しすぎて周辺組織へ接触するリスクを低減できるため、手術時への操作負担の軽減になる。そこで、リンクプレートの回動を制限することによって、鉗子片の拡開量を制限した。
【0013】
さらに、拡開量制限手段として、一方の前記鉗子片の前記回動支持部前方に設けられたカムピンと、他方の前記鉗子片の回動支持部前方に設けられた前記カムピンが沿って移動するカム溝と、からなる前記鉗子片の拡開量を制限する拡開量制限手段を採用してもよい。この場合、カム溝の端部によって、カムピンの回動が制限され、もって鉗子の拡開方向への回動が制限されることになる。尚、中間板をそれぞれの鉗子片の間に別に設け、この中間板の片面又は両面にカムピンを垂直に設けても良い。
【0014】
さらに、本発明は操作ロッドを鉗子片側に移動させた場合に、拡鉗子片が拡開するように構成してもよいし、閉塞するように構成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る鉗子片開閉構造を有する鉗子によれば、鉗子片の開閉動作をそれぞれ担うリンクプレートを操作ロッドの幅方向に互いに間隔を設けてそれぞれ独立して回動自在に支持するとともに、操作ロッドが鉗子片側に移動した位置にあるときに、一対のリンクプレートが交差するように配設した。係る構成を採用することにより、リンクプレートが外方へ突出することない。よって、例えば、腹腔内での処置作業の際に各リンクプレートが周囲の組織に引っ掛かることがなくなるので、術中の操作性を向上させることができる。
【0016】
また、鉗子片の拡開量を制限する拡開制限手段を設ければ、必要以上に鉗子片が拡開するのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本明細書において「前方」、「前」というときは、鉗子片先端側をいい、「後方」「後」というときは、操作ロッド側をいう。
【0018】
本発明は、内視鏡手術等の手術で使用される鉗子の鉗子片開閉構造に係るものである。鉗子片開閉構造は、操作ロッド、少なくとも一対の鉗子片、これら操作ロッド及び少なくとも一対の鉗子片と連結するリンクプレートとを備える。
【0019】
操作ロッドは軸方向に移動自在に配設される。例えば、軸方向に移動自在となるようにシース内に内挿してもよい。後述するが、先端には、リンクプレートを介して鉗子片が接続される。
【0020】
一対の鉗子片は把持部終端部に設けられた回動支持部で支持され、この回動支持部を中心として、先端が開閉可能となる。「把持部終端部」とは、拡開・閉塞し、腹腔内での生体組織の剥離や把持といった各種処置を行う把持部分の終端部を意味し、鉗子片全体の終端部を示すものではない。把持部終端部は鉗子片全体の終端部より前方に位置する。尚、鉗子片の形状や大きさ等は特に限定されるものではなく、例えば、剥離、把持、持針、剪刀等の鉗子の用途に応じて設定することができる。
【0021】
リンクプレートはそれぞれ操作ロッドの軸方向への移動量に応じて鉗子片を開閉作動させる。リンクプレートの各々の一方端部は、一対の鉗子片の開閉を支持する回動支持部より後方で鉗子片と回動自在に支持される。一方リンクプレートの各々の他方端部は、操作ロッドの先端に間隔を空けてそれぞれ独立して回動自在に支持される。操作ロッドが鉗子片側に移動した位置にあるときに、一対のリンクプレートが交差するように設定される。この鉗子片が開閉するときの仮想平面と、リンクプレートが動作するときの仮想平面とは平行関係にするのが好ましい。また、一対のリンクプレートが交差するように回動自在に支持するために、それぞれのリンクプレートの平面は、上下に離間した位置に設けられる。よって、操作ロッド上のリンクプレートの回動支点は上下にずれて配置される。また、操作ロッドの軸中心に対して、リンクプレートの回動支点は対称位置に配置することが好ましい。さらに、操作ロッドの回動支点間の間隔を最大とすることで、より小さい力で鉗子片の開閉を行うことができ、また、少ない操作ロッドの移動距離で鉗子片の拡開量を増やすことができる。一方操作ロッドの回動支点間の間隔を狭くすることで、鉗子片の拡開量を小さくすることができる。また、リンクプレートの長さを調整することによって鉗子片が拡開する程度(角度や速度)を適宜設定することができる。また、一対のリンクプレートは、上下に重ね合わせるようにして複数のペアを配設しても構わない。
【0022】
各リンクプレートの他方端部は、鉗子片を拡開若しくは閉塞させていくときに、リンクプレートが交叉しつつ移動するように鉗子片に回動自在に支持されているので、各鉗子片が拡開・閉塞いずれの状態にあるときでも、各鉗子片の最後端及び各リンクプレートが外側に突出することがない。
【0023】
本発明に係る鉗子を構成する各部材は、耐腐食性、耐薬品性を備えるとともに、加熱滅菌に耐え得るだけの温度耐久性を備える材質(例えば、ステンレス等の金属)から形成することが好ましい。
【0024】
以下、本発明の実施例を図に基づいて説明する。なお、図中の番号は、同様の部材について各図ともに同じ番号を使用している。なお、下記実施例は、本発明の好適な実施形態を示すに過ぎず、本発明の技術的範囲は、本実施例そのものに何ら限定されるものではなく、本発明の構成を備える範囲内において適宜変更することができる。
【実施例1】
【0025】
図1には実施例1に係る鉗子片開閉構造を有する鉗子100の一部断面側面図が、図2には鉗子100のハンドル部の断面図が、図3には図2に示された開口洗浄部24の拡大図が、図4には図1のX方向から見た一部拡大側面図が、図5には鉗子片開閉構造の一連の動きを示す模式図が示されている。鉗子100は内視鏡手術に使用されるものであり、シース10、操作ハンドル20,21及び鉗子片開閉構造を備えてあり、鉗子片開閉構造は、操作ロッド18、一対の鉗子片11、12、これら操作ロッド18及び一対の鉗子片11、12と連結するリンクプレート14、15とを備えている。
【0026】
図1に示されるように、シース10は、細長棒状の中空パイプからなり、切開創から腹腔内に挿入される部分である。シースの長さや外径等は、特に限定されるものではなく、内視鏡鉗子の用途に応じて設定することができる。シースの外周には補強管を備えることもでき、さらにその外周を例えばテフロンチューブ(テフロン:登録商標)などにより被覆することもできる。このような構造を採用することにより落下や衝突に対して対抗するとともに、術中に接触することとなる生体組織との適合性を向上することができる。シース10の先端に以下に述べるリンクプレートを介して鉗子片11及び鉗子片12が配設されるとともに、操作ロッド18が内挿される。操作ロッド18は、シース10の軸方向に沿って移動でき、その後方端は後述する操作ハンドル20、21等のロッド可動手段が設けられている。尚、シース10は、固定操作ハンドル20に対して回転可能となるように、回転ノブ40を備えている。これによって、シース10先端にある鉗子片11、12を固定操作ハンドル20に対して回転させることができる。
【0027】
図2に示されるように、操作ハンドルは、固定操作ハンドル20と可動操作ハンドル21を有する。固定操作ハンドル20はシース10に着脱自在に取り付けられている。固定操作ハンドル20には、可動操作ハンドル21が可動操作ハンドル支持部22を中心として前後方向(矢印C及びD方向)に回動自在に配設されている。そして、この可動操作ハンドル21には、操作ロッドと連結されている連結部材23と回動自在に支持されている。従って、操作ハンドル21を前方(矢印D方向)に回動させたときに、操作ロッド18が鉗子片11,12側へと移動される。
【0028】
図2に示されるように、シース10と操作ロッド18との間を洗浄する洗浄口部24が配設されている。洗浄口部24は、シース10内部に連通した中空の筒状体で形成されており、回転ノブ40を介して筒状体25が外部まで延設されている。この筒状体25の開口から水、熱湯、消毒液等の液体を送り込んでシース10と操作ロッド18との間を洗浄することができる。この洗浄口部24には、開閉自在な蓋部材26を取り付けてもよい。例えば、実施例1では、以下の形態を採用している。図3に示されるように、実施例1の筒状体25は、中位の筒径より大きな直径の上端部27を有している。筒状体25には、リング28が筒状体25の周囲を上下にスライド自在となるように配設されている。上端部27とリング28の間には、ばね29が配設され、リング28は上端部27と反対方向(下方に)に付勢されている。蓋部材26には、筒状体25に適合した蓋体の対向する側に垂直の立設部26aが形成されている。立設部26aは、リング28に回動自在に支持されている。これにより、開口を閉塞しているとき(図3(b)、(c))、蓋部材26はばね29の付勢力によって開口に押しつけられて、開口を確実に閉じることができる。一方開口するときは、蓋部材26をリング体28とともに筒状体25を引き上げることにより、図3(a)に示されるように左右に回動自在となるので、開口から蓋部材26をずらすことによって行う。
【0029】
図4には、シース10の先端を図1の矢印X方向から見た図が示されている。シース10の先端には、鉗子片11と鉗子片12とが、支持ピン13により開閉自在となるように回動支持部13aで支持されている。そして、鉗子片11及び鉗子片12と操作ロッド18の先端との間には、リンクプレート14及びリンクプレート15が配設されている。リンクプレート14の一方端14bは、リンクピン17’によって鉗子片11の回動支持部より後方で回動自在に支持され、リンクプレート15の一方端15bは、リンクピン17によって鉗子片12の回動支持部より後方で回動自在に支持されている。一方、リンクプレート14の他方端14a及びリンクプレート15の他方端15aは、それぞれ操作ロッド18の先端に上下、左右に間隔を開けて(図4及び図5参照)リンクピン16、16’によって回動自在に支持されている。
【0030】
図5には、鉗子片11及び鉗子片12を閉塞状態から拡開状態に至るまでの一連の動作を説明した図が示されている。図5(a)には、鉗子片11と鉗子片12とが完全に閉塞した状態が示されている。このとき、操作ロッド18は鉗子片から離れた位置にあり、リンクプレート14及びリンクプレート15は、それぞれの他端14bと15bとが重なり合って略V字をなしている。そして、鉗子片11と鉗子片12の拡開は、図5(b)に示すように、操作ロッド18をシース10の先端方向(図5(b)に示す矢印E方向)に移動させることによって行われる。すなわち、可動操作ハンドル21を前方(図1に示す矢印D方向)に押すことによって拡開操作が行われる。
【0031】
操作ロッド18を鉗子片側に移動させていくと、リンクプレート14及びリンクプレート15は、それぞれリンクピン16、16’を支点として内側方向(図5(b)の矢印F及びG方向)に回動する。すると、リンクプレート14とリンクプレート15とは交叉した状態となって、鉗子片11及び鉗子片12は、支持ピン13を支点にしてそれぞれ拡開する方向へと回動させられる。そして、操作ロッド18をさらに移動させていくと、図5(c)に示すように鉗子片11と鉗子片12とが完全に拡開した状態となる。このようにして鉗子片11及び鉗子片12を拡開させるとき、リンクプレート14及びリンクプレート15は、シース10の幅の範囲内で回動するため、シース10から外方向へ突出することがない。一方、鉗子片11及び鉗子片12を閉塞させるには、拡開させるときと逆の操作、すなわち、操作ハンドル21を元の位置に戻して操作ロッド18を鉗子片側から離れるように移動させればよい。
【実施例2】
【0032】
図6には、実施例2に係る鉗子片開閉構造を有する内視鏡用鉗子100が示されている。実施例2に係る内視鏡鉗子100は、実施例1と基本構成は共通するが、鉗子片11及び鉗子片12を開閉させる際の操作ロッド18と、リンクプレート14及びリンクプレート15の動作が異なる。すなわち、実施例1においては、鉗子片11及び鉗子片12を拡開操作は、操作ロッド18を鉗子片側へと移動させることよって行われるが、実施例2では、操作ロッド18を鉗子片側とは反対へと移動させることよって行われる。よって、ここでは、実施例1と相違する操作ロッド18とリンクプレート14及びリンクプレート15の動作に関する構成について詳述し、実施例1と共通するその他の構成については説明を省略する。
【0033】
図6には、鉗子片11及び鉗子片12を閉塞状態から拡開状態に至るまでの一連の動作を説明した図が示されている。図6(a)には、鉗子片11と鉗子片12とが完全に閉塞した状態が示されている。このとき、操作ロッド18は鉗子片側に位置し、リンクプレート14及びリンクプレート15は、交叉した状態となっている。そして、鉗子片11と鉗子片12の拡開は、図6(b)に示すように、操作ロッド18を鉗子片側と反対方向(図6(b)に示す矢印方向K)に移動させることによって行われる。すなわち、操作ハンドル21を後方(図4に示す矢印C方向)に回動させることよって鉗子片11及び鉗子片12の拡開が開始する。
【0034】
そして、操作ロッド18を鉗子片側と反対方向(図6(b)の矢印K方向)に移動させていくと、リンクプレート14及びリンクプレート15は、それぞれリンクピン16を支点として外側方向(図6(b)の矢印L及びM方向)に回動していく。すると、リンクプレート14とリンクプレート15とは交叉した状態のまま回動し、鉗子片11及び鉗子片12は、支持ピン13を支点にしてそれぞれ拡開する方向へと回動させられる。そして、可動操作ハンドル21を操作して操作ロッド18をさらに移動させていくと、図6(c)に示すように鉗子片11と鉗子片12とが完全に拡開した状態となる。このとき、リンクプレート14とリンクプレート15とは、それぞれの他端14bと15bとが重なり合った状態となって略V字をなす。このようにして鉗子片11及び鉗子片12を拡開させるとき、リンクプレート14及びリンクプレート15は、シース10の幅長さの範囲内で回動するため、シース10から外方へ突出することがない。一方、鉗子片11及び鉗子片12を閉塞させるには、拡開させるときと逆の操作、すなわち、可動操作ハンドル21を元の位置に戻して操作ロッド18をシース10の先端側へと移動させればよい。
【0035】
上記実施例1及び実施例2に係る内視鏡用鉗子100は、リンクプレート14とリンクプレート15とを、鉗子片11と鉗子片12を拡開させるときにリンクピン16を支点としてシース10の幅長さの範囲内で回動するように配置したので、リンクプレート14とリンクプレート15とをシースから外方に突出させることなく、鉗子片11及び鉗子片12の拡開させることができる。これにより、施術の際に、シース10の先端近傍が処置部の周囲の組織に引っ掛かることがなくなるので、スムーズに施術を行うことが可能となる。
【実施例3】
【0036】
図7には、実施例3に係る鉗子片開閉構造を有する鉗子100が示されている。実施例3に係る内視鏡鉗子100は、実施例2と基本構成は共通するが、鉗子片11及び鉗子片12を開閉させる際の拡開量制限手段を備えている点が異なる。図7では、説明のためリンクプレート15を省略してある。
【0037】
実施例3の鉗子片開閉構造の操作ロッド18は、拡開量制限手段として、リンクプレート14の回動範囲に、回動を制限するリンクプレート当接部19が形成されている。すなわち、リンクプレート14の回動中にリンクプレートの一部をリンクプレート当接部19に当接したときに、それ以上リンクプレートが回動しないように制限したものである。リンクプレート14は、リンクプレート当接部に当接しさえすればその形状は限定するものではないが、図7に示すように、リンクプレート当接部19に一部を切り欠いて広面積で接触できるように形成するとよい。
【0038】
図7(a)には、鉗子片11と鉗子片12とが完全に閉塞した状態が示されている。このとき、操作ロッド18は鉗子片側に位置し、リンクプレート14は、交叉した状態となる。そして、鉗子片11と鉗子片12の拡開は、操作ロッド18を鉗子側と反対方向に(図7(b)に示す矢印方向K)に移動させることによって行われる。そして、図7(b)に示されるように、リンクプレート14の一部がリンクプレート当接部19に当接すると、リンクプレート14の回動は制限され、鉗子片の拡開が制限される。
【0039】
尚、リンクプレート当接部19は、リンクプレート14のみが当接するように形成してもよいが、図8に示されるようにリンクプレート14、15の両方が当接するように2つのリンクプレート当接部19を設けても良い
【実施例4】
【0040】
図9には、実施例4に係る鉗子片開閉構造を有する鉗子が示されている。一対の鉗子片11、12の回動支持部13前方において、一方の鉗子片にカムピン30が、他方の鉗子片に円弧状のカム溝32がそれぞれ設けられ、回動支持部13を支点としてカムピン30がカム溝32に沿って移動するように形成されている。図9(a)には鉗子片11と鉗子片12とが完全に閉塞した状態が示されている。このとき、操作ロッド18は鉗子片側に位置し、リンクプレート14及び15は、交叉した状態で近接されている。鉗子片11と鉗子片12の拡開は、図7(b)に示すように、操作ロッド18を鉗子片と反対方向(図9(b)に示す矢印方向N)に移動させることによって行われる。すなわち、操作ハンドルを後方(前記図4に示す矢印C方向)に回動させることによって鉗子片11及び鉗子片12の拡開が開始する。
【0041】
そして、操作ロッド18を鉗子片側と反対方向に移動させていくと、リンクプレート14及びリンクプレート15は、それぞれリンクピン16、16’を支点として外側方向(図9(b)の矢印O、P方向)に回動する。そして前記実施例2と同様に、鉗子片11及び鉗子片12は回動支持部13を支点にしてそれぞれ拡開する方向へと回動させられる。このとき、前記実施例1又は2と大きく異なる点は、カムピン30の動作が前記回動に連動して行われることである。すなわち、カムピン30が円弧状のカム溝32に沿って移動するので、カム溝32の終端にくるまでは抵抗なく拡開されるが、カム溝32の終端にカムピン30が当接すると鉗子片の支点を中心とする開方向の動作が制限され、拡開された鉗子片11,12に対して、より大きな角度に開かせる力が作用しても、その作用をカムピンによって封ずることができる。
【0042】
なお、鉗子片11および鉗子片12を閉塞させるには、前記拡開とは逆の操作によって、操作ロッド18をシース10の先端側へと移動させればよい。
【0043】
前記例ではカムピンが鉗子片に形成されていたが、カムピンを鉗子片に挟み込まれた中間板に形成しておくことも可能である。
【0044】
いずれもカムピンの形成位置とカム溝との関係および、リンクピンの位置やリンクプレートの長さを個別に調整することで、一方の鉗子片と他方の鉗子片の開く角度に差違をもたせ得る。このような調整は、微妙な部位の手術に際して、様々に使い分けることができる内視鏡鉗子を提供できる点で、好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例1に係る鉗子片開閉構造を備えた鉗子の側面図である。
【図2】実施例1に係る鉗子片開閉構造を備えた鉗子のハンドル部の構造を示す分解側面図である。
【図3】実施例1に係る鉗子片開閉構造を備えた鉗子の洗浄開口部の構造を示す側面図である。
【図4】実施例1に係る鉗子片開閉構造を備えた鉗子のシースの先端部分を図1の矢印X方向から見た図である。
【図5】実施例1に係る鉗子片開閉構造の開閉動作を説明する図である。
【図6】実施例2に係る鉗子片開閉構造の開閉動作を説明する図である。
【図7】実施例3に係る鉗子片開閉構造の開閉動作を説明する図である。
【図8】実施例3に係る鉗子片開閉構造の別実施例を示す図である。
【図9】実施例4に係る鉗子片の開閉動作を説明する図である。
【図10】従来の内視鏡用鉗子の一対の鉗子片の開閉動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0046】
100 鉗子
10 シース
18 操作ロッド
11,12 一対の鉗子片
14,15 リンクプレート
18 操作ロッド
20 固定操作ハンドル
21 可動操作ハンドル
24 洗浄口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に可動自在な操作ロッドと、
先端を開閉可能に把持部終端部に形成された回動支持部で支持された一対の鉗子片と、
前記操作ロッドと前記鉗子片との間に、一方端部がそれぞれ一対の前記鉗子片の前記回動支持部より後方に回動自在に支持され、他方端部が前記操作ロッドに互いに間隔をおいて回動自在に支持される少なくとも一対のリンクプレートと、を備え、
前記操作ロッドが鉗子片側に移動した位置にあるときに、一対の前記リンクプレートが交差されていることを特徴とする鉗子の鉗子片開閉構造。
【請求項2】
請求項1記載の鉗子の鉗子片開閉構造において、
前記操作ロッドに前記リンクプレートの回動を制限するリンクプレート当接部が形成されており、
前記リンクプレートが、前記リンクプレート当接部に当接することにより、前記鉗子片の拡開量を制限する拡開量制限手段を備えていることを特徴とする鉗子の鉗子片開閉構造。
【請求項3】
請求項1記載の鉗子の鉗子片開閉構造において、
一方の前記鉗子片の前記回動支持部前方に設けられたカムピンと、
他方の前記鉗子片の前記回動支持部前方に設けられた前記カムピンが沿って移動するカム溝と、からなる前記鉗子片の拡開量を制限する拡開量制限手段を備えていることを特徴とする鉗子の鉗子片開閉構造。
【請求項4】
前記操作ロッドを鉗子片側に移動させたときに、前記鉗子片が拡開することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の鉗子の鉗子片開閉構造。
【請求項5】
前記操作ロッドを鉗子片側に移動させたときに、前記鉗子片が閉塞することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の鉗子の鉗子片開閉構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−136919(P2010−136919A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316936(P2008−316936)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(390038209)足立工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】