説明

鉛腐食抑制性の低リン潤滑油組成物

【課題】鉛腐食の改善をもたらす低リン潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】
ジチオリン酸亜鉛の混合物を一定の割合で含む低リン潤滑油組成物が、鉛腐食の驚くべき改善をもたらす。この混合物は、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛とを含む混合ジチオリン酸亜鉛の相乗的組合せであり、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比は、リン分に基づき約2:1乃至約1:2で、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比は、約6:1乃至約1:1である。潤滑油組成物に全リン分が潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満で用いる。ジチオリン酸亜鉛の混合物は鉛腐食を大いに低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一部では、潤滑油組成物に関する。特には、本発明は、ジチオリン酸亜鉛の混合物を用いた潤滑油組成物であって、潤滑油組成物の全リン分が潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満である低リン潤滑油組成物に関する。本発明の低リン潤滑油組成物は、内燃機関に潤滑油組成物として使用したときに鉛腐食の抑制に効果がある。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気から生じる排出物が数十年間問題となっていて、この問題を処理しようとする取組みとして、無鉛燃料の利用(部分的に、加鉛燃料から生じる鉛公害に対処することになる)、酸素添加燃料の利用(炭化水素排出物を低減することになる)、触媒コンバータの利用(これも炭化水素排出物を低減することになる)等を挙げることができる。
【0003】
触媒コンバータは今日、例外なくガソリン車に用いられているが、これらコンバータの効率は、燃焼中に発生した未燃焼又は部分燃焼炭化水素を二酸化炭素と水に変換する触媒の能力に直接関係している。そのようなコンバータの使用で生じる一つの問題が触媒の被毒であり、その結果、触媒の効率が低下することになる。触媒コンバータは長期間の使用を意図しているので、触媒被毒により、汚染物が長期にわたって高レベルで内燃機関から大気中に放出されることになる。
【0004】
そのような被毒を最小限にするために、業界は燃料含有物と潤滑剤含有物の両方に標準を設けている。例えば燃料の標準としては、触媒の鉛による被毒並びに環境への鉛の放出を避けるための無鉛ガソリンの使用が挙げられる。例えば、特許文献1を参照されたい。
【0005】
潤滑剤に関しては業界標準で近年扱われている一つの添加剤系として、内燃機関を潤滑に作動させるために用いられる潤滑油組成物に使用される、ジチオリン酸亜鉛摩耗防止剤などのリン含有添加剤がある。つまり、リン含有添加剤は、例えば排出ガス再循環処理および/またはブローバイ処理並びに当該分野で公知の他の方法を介して、触媒コンバータに到達する。例えば、非特許文献1および非特許文献2を参照されたい。いずれにしても、リンが触媒コンバータ内で活性金属部位に蓄積し、これにより触媒効率を低下させ、長期にわたって効力的に触媒を害することが知られている。上記の結果、潤滑油のリンを低減することに新たな焦点があてられた。例えば、潤滑油組成物のドラフトGF−4仕様書は、これまで用いられている量よりも著しく低いリン分を提案している。
【0006】
油溶性のリン含有耐摩耗性化合物を含む潤滑油組成物のリンレベルを下げると、このリン分の減少により耐摩耗性能の著しい低下が生じるという問題が起きている。耐摩耗性添加剤のよく知られた一部類は、金属アルキルリン酸塩類、特にはジアルキルジチオリン酸亜鉛類であり、摩耗抑制に使用される場合には一般に0.1質量%より高いリンレベルで潤滑油に用いられる。これより低いレベルでは、有効な耐摩耗性添加剤とは言えないことが分かっている。例えば、特許文献2に例示されているように、潤滑油組成物中の金属ジチオリン酸塩添加剤の存在によるリンレベルを、0.095質量%から0.048質量%に二分の一に下げると、エンジン摩耗が約7倍も増加する。
【0007】
ジチオリン酸亜鉛類はジアルキル基またはジアリール基を有する。ジアルキルジチオリン酸亜鉛類は更に、第一級アルキルジチオリン酸亜鉛と第二級アルキルジチオリン酸亜鉛に細分される。ペンタン−1−オールおよび3−メチルブタン−2−オールは、第一級及び第二級ジチオリン酸亜鉛を製造するのに使用される第一級及び第二級アルコールの例である。ジチオリン酸亜鉛の様々な化学種は異なる挙動を示す(下記参照)。
【0008】
ジチオリン酸亜鉛種の性能パラメータ
第一級アルキル 第二級アルキル アリール
熱安定性 中位 低い 高い
耐摩耗防護性 中位 高い 低い
加水分解安定性 中位 高い 低い
【0009】
各種類とも近年の添加剤パッケージで重要な用途がある。従って、適切な耐摩耗性能を付与すると同時に、金属ジチオリン酸塩添加剤の存在によるリンレベルを0.1質量%より低く保つためには、如何なる潤滑油組成物でもジチオリン酸亜鉛の適正な混合物を得ることが重要である。なぜならば、リンは触媒コンバータ内に堆積して、それにより触媒効率を低下させ、触媒を害する傾向を示すからである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4975096号明細書(バックリー三世)、「オキシアルキレンヒドロキシ連結基を持つ長鎖脂肪族炭化水素アミン添加剤」、1990年12月4日発行
【特許文献2】米国特許第6696393号明細書、2004年2月24日発行
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】ベック(Beck)、外著、「LEV触媒装置のFTP性能への油誘導触媒毒の影響」、SAEテクニカル・ペーパー(SAE Technical Paper)、972842、1997年
【非特許文献2】ダール(Darr)、外著、「TWC装備車両の排出物への油誘導混入物の影響」、SAE、2000−01−1881、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、適切な耐摩耗性能を付与すると同時に、金属ジチオリン酸塩添加剤の存在によるリンレベルを0.1質量%より低く保つためには、如何なる潤滑油組成物でもジチオリン酸亜鉛の適正な混合物を得ることが重要である。すなわち、リンは触媒コンバータ内に堆積して、それにより触媒効率を低下させ、触媒を害する傾向を示すからである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述したように、本発明は一部では、潤滑油組成物に関する。特には、本発明は、ジチオリン酸亜鉛の混合物を一定の割合で用い、かつ潤滑油組成物の全リン分が潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満である低リン潤滑油組成物に関する。本発明の低リン潤滑油組成物は、内燃機関に潤滑油組成物として使用したときに鉛腐食の抑制に効果がある。
【0014】
従って、最も広義の態様では、本発明は、潤滑粘度の基油を主要量、および第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との混合物を少量含む潤滑油組成物であって、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき、約2:1乃至約1:2であり、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比が、約6:1乃至約1:1であり、そして潤滑油組成物の全リン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満である潤滑油組成物に関する。
【0015】
本発明の潤滑油組成物に用いられる第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との少量の混合物は、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.1質量%乃至約1.5質量%であり、好ましくは約0.3質量%乃至約1.2質量%であり、そしてより好ましくは約0.5質量%乃至約1.0質量%である。
【0016】
本発明の潤滑油組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.05質量%乃至約1.2質量%の第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、約0.05質量%乃至約1.2質量%の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、および約0.02質量%乃至約0.7質量%のジアリールジチオリン酸亜鉛を含む。好ましくは、本発明の潤滑油組成物は潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.1質量%乃至約0.7質量%の第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、約0.1質量%乃至約0.7質量%の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、および約0.05質量%乃至約0.5質量%のジアリールジチオリン酸亜鉛を含む。より好ましくは、本発明の潤滑油組成物は潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.2質量%乃至約0.5質量%の第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、約0.2質量%乃至約0.5質量%の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、および約0.1質量%乃至約0.3質量%のジアリールジチオリン酸亜鉛を含む。
【0017】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の第一級アルキル基は、炭素原子数約C1乃至約C13であり、好ましくは炭素原子数約C3乃至約C10であり、より好ましくは炭素原子数約C6乃至約C8である。
【0018】
第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の第二級アルキル基は、炭素原子数約C3乃至約C13であり、好ましくは炭素原子数約C3乃至約C8であり、より好ましくは炭素原子数約C3乃至約C6である。
【0019】
ジアリールジチオリン酸亜鉛のアリール基は、炭素原子数約C6乃至約C30であり、好ましくは炭素原子数約C6乃至約C24であり、より好ましくは炭素原子数約C6乃至約C20である。
【0020】
好ましい態様では、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比は、リン分に基づき約3:2乃至約2:3である。より好ましくは、比は約1:1である。
【0021】
好ましい態様では、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比は、リン分に基づき約4:1乃至約1:1である。より好ましくは、比は約2:1である。
【0022】
特に好ましい態様では、混合物における第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との比は、リン分に基づき1:1:1である。
【0023】
別の態様では、本発明の潤滑油組成物の全リン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05質量%未満であることが好ましい。
【0024】
また別の態様では、本発明の潤滑油組成物の硫黄分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.5質量%未満であり、好ましくは約0.2質量%未満であり、そして本発明の潤滑油組成物の全硫酸灰分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約1.2質量%未満であり、好ましくは約1.0質量%未満であり、より好ましくは約0.8質量%未満である。
【0025】
本発明の方法の一つとして、本発明は更に、鉛腐食を改善する方法にも関する。本発明の方法は、潤滑粘度の基油を主要量、および第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との混合物を少量含む潤滑油組成物であって、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき、約2:1乃至約1:2であり、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比が、約6:1乃至約1:1であり、かつ潤滑油組成物の全リン分が潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満である潤滑油組成物を用いて、内燃機関を作動させることを含む。
【発明の効果】
【0026】
数ある要因のうちでも、本発明は、驚くべきことに鉛腐食の改善をもたらすことができるジチオリン酸亜鉛の混合物を一定の割合で含む低リン潤滑油組成物を提供する。ジチオリン酸亜鉛の混合物は、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジアリールジチオリン酸亜鉛を含む。第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき、約2:1乃至約1:2であり、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比が、約6:1乃至約1:1である、混合ジチオリン酸亜鉛の相乗的組合せは、潤滑油組成物に全リン分が潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満で用いても、内燃機関を潤滑にするために使用したときに鉛腐食を大いに低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は一部では、潤滑油組成物に関する。特には、本発明は、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛およびジアリールジチオリン酸亜鉛を含むジチオリン酸亜鉛の混合物を用い、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき、約2:1乃至約1:2であり、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比が、約6:1乃至約1:1であり、そして潤滑油組成物の全リン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満である低リン潤滑油組成物に関する。本発明の低リン潤滑油組成物は、内燃機関に潤滑油として使用したときに鉛腐食の抑制に効果がある。
【0028】
以下に、特許請求の範囲に記載した組成物のこれら成分の各々について詳細に記載する。そのような記載に先立って、まず以下の用語について定義する。
【0029】
「アルキル」は、直鎖及び分枝鎖両方のアルキル基を意味する。
【0030】
「アリール」は、置換又は未置換芳香族基を意味し、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基およびクメニル基である。
【0031】
「低リン」は、本発明の潤滑油組成物のリン分を意味する。リン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.005質量%乃至約0.06質量%の範囲にある。
【0032】
「全リン」は、リンが油溶性のリン含有耐摩耗性化合物の一部として存在するか、あるいは金属二炭化水素ジチオリン酸塩を製造するのに用いたP25の存在ゆえに残存する残留リンのように、潤滑油組成物中に混入物の形で存在するかに関係なく、潤滑油組成物中のそのようなリンの全量を意味する。いずれにしても、潤滑油組成物に許容できるリンの量は出所に依らない。ただし、リンは潤滑油添加剤の一部であることが好ましい。
【0033】
特に明記しない限り、パーセントは全て質量%である。
【0034】
[ジチオリン酸亜鉛化合物]
本発明の潤滑油組成物には一部に、ジチオリン酸亜鉛の混合物が用いられる。ジチオリン酸亜鉛類は独立に、I式で特徴づけられる。
【0035】
【化1】

【0036】
Rのそれぞれは独立に、炭素原子約1〜約30個を含む基である。
【0037】
ジチオリン酸塩のR基は独立に、約C1−約C13の第一級アルキル、約C3−約C13の第二級アルキル、および約C6−約C30のアリール基であってよい。好ましくは、ジチオリン酸塩のR基は独立に、約C3−C10の第一級アルキル、約C3−C8の第二級アルキル、および約C6−約C24のアリール基であってよい。より好ましくは、ジチオリン酸塩のR基は独立に、約C6−約C8の第一級アルキル、約C3−約C6の第二級アルキル、および約C6−約C20のアリール基であってよい。R基は、実質的な炭化水素の基であってよい。「実質的な炭化水素」とは、基の炭化水素性質に実質的に影響を及ぼさない置換基、例えばエーテル、エステル、ニトロまたはハロゲンを含む炭化水素を意味する。
【0038】
ジチオリン酸亜鉛のR基は例えば、第一級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、オクタデカノール、プロペノール、ブテノール、2−エチルヘキサノール;第二級アルコール、具体的にはイソプロピルアルコール、第二級ブチルアルコール、イソブタノール、3−メチルブタン−2−オール、2−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、アミルアルコール;アリールアルコール、具体的にはフェノール、置換フェノール(特には、アルキルフェノール、例えばブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ドデシルフェノール)、二置換フェノールから誘導することができる。
【0039】
R基は独立に、第一級アルキル、第二級アルキルまたはアリール基であることが好ましい。
【0040】
本発明のためには、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との混合物が、本発明の潤滑油組成物中にリン分に基づく比で存在すると考えられる。第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比は、約2:1乃至約1:2であり、そして第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比は、約6:1乃至約1:1である。好ましくは、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比は、リン分に基づき約3:2乃至約2:3の範囲にあり、より好ましくは約1:1である。好ましくは、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比は、リン分に基づき約4:1乃至約1:1の範囲にあり、より好ましくは約2:1である。最も好ましくは、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との混合物の比は、リン分に基づき1:1:1である。
【0041】
本発明に使用できるジチオリン酸亜鉛類の多くが市販されている。ただし、ジチオリン酸亜鉛類は当該分野で広く知られていて、本発明の目的に適うそのような化合物を当該分野の熟練者は容易に合成することができる。一般に、五硫化リンと、アルコールまたはフェノールまたはアルコール及び/又はフェノールの混合物、例えばR基について上記に例示したようなものとの初期反応により、ジチオリン酸亜鉛類を製造することができる。反応は、五硫化リンモル当りアルコールまたはフェノール4モルを必要とし、約50℃乃至約200℃の温度範囲内で行うことができる。よって、O,O−ジ−n−ヘキシルホスホロジチオ酸の製造には、例えば、五硫化リンと4モルのn−ヘキシルアルコールを約100℃で約2時間反応させることが含まれる。硫化水素が放出され、残留物がホスホロジチオ酸である。この酸の金属塩の製造は、酸化亜鉛または水酸化亜鉛との反応によって遂行することができて、ジチオリン酸亜鉛が生じる。反応を起こさせるにはこれら二つの反応体を単に混合して加熱することで充分であり、得られた生成物は本発明の目的には充分に純粋である。
【0042】
そのようなジチオリン酸亜鉛類の合成が記載された特許文献としては、米国特許第2680123号、第3000822号、第3151075号、第3385791号、第4377527号、第4495075号及び第4778906号の各明細書を挙げることができる。これら特許文献の各々も全て参照内容として本明細書の記載内容とする。
【0043】
[潤滑油組成物]
本発明のジチオリン酸亜鉛の混合物は一般に、内燃機関に鉛腐食の抑制をもたらすのに充分な量で基油に添加される。一般に本発明の潤滑油組成物は、主要量の潤滑粘度の基油と、少量の本発明のジチオリン酸亜鉛の混合物とを含有する。
【0044】
(潤滑粘度の基油)
基油は、本明細書で使用するとき、各製造者により同一の仕様に(供給源や製造者の所在地とは無関係に)製造され、同じ製造者の仕様を満たし、かつ独特の処方、製造物確認番号またはその両方によって識別される潤滑油成分である基材油または基材油のブレンドと定義される。蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化および再精製を含むが、それらに限定されない各種の異なる方法を用いて、基材油を製造することができる。再精製基材油には、製造、汚染もしくは以前の使用によって混入した物質が実質的に含まれない。本発明の基油は、任意の天然又は合成の潤滑油基油留分であってよく、特には、動粘度が摂氏100度(℃)で約4センチストークス(cSt)乃至約20cStのものである。炭化水素合成油としては例えば、エチレンの重合により製造された油、ポリアルファオレフィン又はPAO、あるいはフィッシャー・トロプシュ法のような一酸化炭素ガスと水素ガスを用いた炭化水素合成法により製造された油を挙げることができる。好ましい基油は、重質留分を含む場合でもその量が僅かである、例えば粘度が約100℃で約20cSt以上の潤滑油留分を殆ど含むことのない油である。基油として使用される油は、所望の最終用途および完成油の添加剤に応じて選択されるかまたはブレンドされて、所望のグレードのエンジン油、例えばSAE粘度グレードが0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30又は15W−40の潤滑油組成物となる。
【0045】
基油は、天然の潤滑油、合成の潤滑油またはそれらの混合物から得ることができる。好適な基油としては、合成ろうおよび粗ろうの異性化により得られた基材油、並びに粗原料の芳香族及び極性成分を(溶剤抽出というよりはむしろ)水素化分解することにより生成した水素化分解基材油を挙げることができる。好適な基油としては、API公報1509、第14版、補遺I、1998年12月に規定された全API分類I、II、III、IV及びVに含まれるものが挙げられる。第1表に、I、II及びIII種基油の飽和度レベルおよび粘度指数を記載する。IV種基油はポリアルファオレフィン類(PAO)である。V種基油には、I、II、III又はIV種に含まれなかったその他全ての基油が含まれる。III種基油が好ましい。
【0046】
第 1 表
I、II、III、IV及びV種基材油の飽和度、硫黄分及び粘度指数
─────────────────────────────────────
種 飽和度(ASTM 粘度指数(ASTM D4294、
D2007で決定) ASTM D4297又は
硫黄分(ASTM ASTM D3120で決定)
D2270で決定)
─────────────────────────────────────
I 飽和度90%未満及び/又は 80以上、120未満
硫黄分0.03%より上
II 飽和度90%以上及び 80以上、120未満
硫黄分0.03%以下
III 飽和度90%以上及び 120以上
硫黄分0.03%以下
IV ポリアルファオレフィン類全部(PAOs)
V I、II、III又はIV種に含まれないその他全部
─────────────────────────────────────
【0047】
天然の潤滑油としては、動物油、植物油(例えば、ナタネ油、ヒマシ油およびラード油)、石油、鉱油、および石炭または頁岩から誘導された油を挙げることができる。
【0048】
合成油としては、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油、例えば重合及び共重合オレフィン類、アルキルベンゼン類、ポリフェニル類、アルキル化ジフェニルエーテル類、アルキル化ジフェニルスルフィド類、並びにそれらの誘導体、それらの類似物及び同族体等を挙げることができる。また、合成潤滑油としては、アルキレンオキシド重合体、真の共重合体、共重合体、および末端ヒドロキシル基がエステル化、エーテル化等によって変性したそれらの誘導体も挙げることができる。合成潤滑油の別の好適な部類には、ジカルボン酸と各種アルコールのエステル類が含まれる。また、合成油として使用できるエステル類としては、約C5−約C12モノカルボン酸とポリオールおよびポリオールエーテルとから製造されたものも挙げられる。トリアルキルリン酸エステル油、例えばトリ−n−ブチルホスフェートおよびトリ−イソ−ブチルホスフェートで例示されるものも、基油として使用するのに適している。
【0049】
ケイ素系の油(例えば、ポリアルキル、ポリアリール、ポリアルコキシ又はポリアリールオキシ−シロキサン油及びシリケート油)は、合成潤滑油の別の有用な部類を構成する。その他の合成潤滑油としては、リン含有酸の液体エステル類、高分子量テトラヒドロフラン類、およびポリアルファオレフィン類等が挙げられる。
【0050】
基油は、未精製、精製、再精製の油またはそれらの混合物から誘導してもよい。未精製油は、天然原料または合成原料(例えば、石炭、頁岩またはタール・サンド・ビチューメン)から直接、それ以上の精製や処理をせずに得られる。未精製油の例としては、レトルト操作により直接得られた頁岩油、蒸留により直接得られた石油、またはエステル化法により直接得られたエステル油が挙げられ、次いで各々それ以上の処理無しに使用することができる。精製油は、一つ以上の性状を改善するために一以上の精製工程で処理されていることを除いては、未精製油と同じである。好適な精製技術としては、蒸留、水素化分解、水素化処理、脱ろう、溶剤抽出、酸又は塩基抽出、ろ過、およびパーコレートが挙げられ、それらは全て当該分野の熟練者に知られている。再精製油は、使用済の油を精製油を得るために用いたのと同様の方法で処理することにより得られる。これらの再精製油は、再生又は再処理油としても知られていて、しばしば使用された添加剤や油分解生成物の除去を目的とする技術により更に処理される。
【0051】
ろうの水素異性化から誘導された基油も、単独で、あるいは前記天然及び/又は合成基油と組み合わせて使用することができる。
【0052】
そのようなろう異性化油は、天然又は合成ろうまたはそれらの混合物を水素異性化触媒を用いて水素異性化することにより生成する。
【0053】
本発明の潤滑油組成物には基油を主要量で使用することが好ましい。主要量の基油は、本明細書で定義するとき、約40質量%又はそれより多くを占める。好ましい量の基油は、潤滑油組成物の約40質量%乃至約97質量%を占め、好ましくは約50質量%より多く約97質量%まで、より好ましくは約60質量%乃至約97質量%、最も好ましくは約80質量%乃至約95質量%を占める。(質量%は、本明細書で使用するとき、特に明記しない限り潤滑油の質量%を意味する。)
【0054】
本発明の潤滑油組成物に用いられるジチオリン酸亜鉛の混合物の量は、潤滑粘度の基油に比べて少量である。一般に、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1質量%乃至約1.5質量%の量であり、好ましくは約0.3質量%乃至約1.2質量%、より好ましくは約0.5質量%乃至約1.0質量%である。
【0055】
本発明の潤滑油組成物は、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛を、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.05質量%乃至約1.2質量%、好ましくは約0.1質量%乃至約0.7質量%、より好ましくは約0.2質量%乃至約0.5質量%含有する。
【0056】
本発明の潤滑油組成物は、第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛を、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.05質量%乃至約1.2質量%、好ましくは約0.1質量%乃至約0.7質量%、より好ましくは約0.2質量%乃至約0.5質量%含有する。
【0057】
本発明の潤滑油組成物は、第一級ジアリールジチオリン酸亜鉛を、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.02質量%乃至約0.7質量%、好ましくは約0.05質量%乃至約0.5質量%、より好ましくは約0.1質量%乃至約0.3質量%含有する。
【0058】
好ましい態様では、本発明の潤滑油組成物のリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.05質量%未満であることが好ましい。
【0059】
別の態様では、本発明の潤滑油組成物は更に硫黄分が、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.5質量%未満であり、好ましくは約0.2質量%未満であり、そして本発明の潤滑油組成物の全硫酸灰分は、潤滑油組成物の全質量に基づき、約1.2質量%未満であり、好ましくは約1.0質量%未満であり、より好ましくは約0.8質量%未満である。
【0060】
(その他の添加剤成分)
以下の添加剤成分は、本発明の潤滑油添加剤と組み合わせて好ましく用いることができる成分の例である。本発明を説明するためにこれら添加剤の例を記載するのであって、これらは本発明を限定しようとするものではない。
【0061】
(A)清浄剤は、酸中和性化合物を溶液状態で油に保持するように設計された添加剤である。清浄剤は通常、アルカリ性であり、そして燃料の燃焼過程で生成して、抑制されないままにしておくとエンジン部分に腐食を起こす強酸(硫酸や硝酸)と反応する。例としては、カルボキシレート類、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルフェネート類、アルキル又はアルケニル芳香族スルホネート類、多ヒドロキシアルキル又はアルケニル芳香族化合物の硫化又は未硫化金属塩類、アルキル又はアルケニルヒドロキシ芳香族スルホネート類、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルナフテネート類、アルカノール酸の金属塩類、アルキル又はアルケニル多酸の金属塩類、およびそれらの化学的及び物理的混合物がある。
【0062】
(B)分散剤は、ススや燃焼生成物を懸濁状態で油本体に保持し、それによりスラッジやラッカーのような堆積物を防ぐ添加剤である。一般に無灰分散剤は、アルケニルコハク酸無水物をアミンと反応させることにより生成する窒素含有分散剤である。例としては、アルケニルコハク酸イミド類、エチレンカーボネート化後処理など他の有機化合物で変性したアルケニルコハク酸イミド類、およびホウ酸で変性したアルケニルコハク酸イミド類、ポリコハク酸イミド類、アルケニルコハク酸エステルがある。
【0063】
(C)酸化防止剤:
1)フェノール型(フェノール系)酸化防止剤:4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)−スルフィド、およびビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)。
【0064】
2)ジフェニルアミン型酸化防止剤:アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、およびアルキル化α−ナフチルアミン。
【0065】
3)その他の型:金属ジチオカルバメート(例えば、亜鉛ジチオカルバメート)、およびメチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)。
【0066】
(D)さび止め添加剤(さび止め剤):
1)非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤:ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエート。
【0067】
2)その他の化合物:ステアリン酸および他の脂肪酸類、ジカルボン酸類、金属石鹸、脂肪酸アミン塩類、重質スルホン酸の金属塩類、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、およびリン酸エステル。
【0068】
(E)抗乳化剤:アルキルフェノールとエチレンオキシドの付加物、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、およびポリオキシエチレンソルビタンエステル。
【0069】
(F)極圧剤(EP剤):硫化油、ジフェニルスルフィド、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、ヨウ化ベンジル、フルオロアルキルポリシロキサン、およびナフテン酸鉛。
【0070】
(G)摩擦緩和剤:脂肪アルコール、脂肪酸、アミン、ホウ酸化エステル、および他のエステル類。
【0071】
(H)多機能添加剤:硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート、オキシモリブデンモノグリセリド、オキシモリブデンジエチレートアミド、アミン・モリブデン錯化合物、および硫黄含有モリブデン錯化合物。
【0072】
(I)粘度指数向上剤(VII):ポリメタクリレート型重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、水素化スチレン・イソプレン共重合体、水素化星形分枝ポリイソプレン、ポリイソブチレン、水素化星形分枝スチレン・イソプレン共重合体、および分散型粘度指数向上剤。
【0073】
(J)流動点降下剤:ポリメチルメタクリレート類、アルキルメタクリレート類、およびジアルキルフマレート・酢酸ビニル共重合体。
【0074】
(K)消泡剤:アルキルメタクリレート重合体、およびジメチルシリコーン重合体。
【実施例】
【0075】
本発明を下記の実施例により更に説明するが、実施例は特に有利な方法態様を示すものである。この実施例は、本発明を説明するために記載するのであって、本発明を限定しようとするものではない。
【0076】
[実施例1]
ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛(0.24質量%、第一級)と、ビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛(0.15質量%、第二級)と、ビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛(0.39質量%、アリール)との0.78質量%混合物を、潤滑粘度のII種基油とブレンドすることにより、本発明の低リン潤滑油組成物を製造した。ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛と、ビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛との比は、リン分に基づき約1:1であった。ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛の混合物と、ビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との比は、リン分に基づき約2:1であった。ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛と、ビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛と、ビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との三元混合物での比は、リン分に基づき1:1:1であった。製造した潤滑油組成物中のリンの質量%は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満であった。さらに、硫黄分および硫酸灰分はそれぞれ、潤滑油組成物の全質量に基づいて0.2質量%、0.8質量%であった。潤滑油組成物%は、分子量(MW)1200のイソブチレンビスコハク酸イミド分散剤、MW2300のイソブチレンビスコハク酸イミド分散剤、中性スルホネート清浄剤、過塩基性カルシウムフェネート、モリブデン酸化防止剤、ジフェニルアミン酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、消泡剤、流動点降下剤および粘度指数向上剤を含んで100質量%の潤滑油組成物とした。
【0077】
[比較例A]
ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との混合物の代わりに、アリールビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛約1.16質量%のみを添加したこと以外は、実施例1に従って比較例Aを製造した。
【0078】
[比較例B]
ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との混合物の代わりに、ビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛約0.46質量%のみを添加したこと以外は、実施例1に従って比較例Bを製造した。
【0079】
[比較例C]
ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との混合物の代わりに、ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛約0.71質量%のみを添加したこと以外は、実施例1に従って比較例Cを製造した。
【0080】
[比較例D]
ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との混合物の代わりに、ビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との混合物約0.81質量%を、約1:1の比で添加したこと以外は、実施例1に従って比較例Dを製造した。
【0081】
[比較例E]
ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との混合物の代わりに、ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との混合物約0.94質量%を、約1:1の比で添加したこと以外は、実施例1に従って比較例Eを製造した。
【0082】
[比較例F]
ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛との混合物の代わりに、ビス(O,O’−ジ−(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオリン酸亜鉛とビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛との混合物約0.59質量%を、約1:1の比で添加したこと以外は、実施例1に従って比較例Fを製造した。
【0083】
実施例1および比較例A−Fに係る各配合物について、モーター油の腐食性能を測定するための業界標準台上試験である、高温腐食台上試験(HTCBT)(ASTM D6594)を用いて、鉛腐食の試験を行った。簡単に言えば、銅、鉛、スズおよびリン青銅の四種類の金属試験片を、計量した量のエンジン油に浸漬する。高温の油に空気を一定時間吹き付ける。試験が終了した時点で、鉛試験片および疲労した油をそれぞれ調べて腐食および腐食生成物を検出する。各試験グループと一緒に参照油も試験して、試験の妥当性を確かめた。
【0084】
第2表に、試験の結果をまとめて示す。
【0085】
第2表
HTCBTの試験結果
────────────────────────────────────
実施例 比較例
1 A B C D E F
────────────────────────────────────
鉛(ppm) 48.4 113.4 93.4 305 64.6 87.3 99.4
────────────────────────────────────
【0086】
これらの結果は、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との混合物を1:1:1の比で含み、かつ潤滑油組成物のリン分が0.06質量%未満である本発明の低リン潤滑油組成物(実施例1)が、三種類のジチオリン酸塩全部の混合物を含まない比較例に比べて、優れた鉛腐食抑制性能をもたらすことを示している。本発明の潤滑油組成物によって、鉛腐食の量を顕著に低減できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要量の潤滑粘度の基油、および少量の第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との混合物を含む潤滑油組成物であって、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき、約2:1乃至約1:2であり、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比が、約6:1乃至約1:1であり、そして潤滑油組成物の全リン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満である潤滑油組成物。
【請求項2】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との少量の混合物が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1質量%乃至約1.5質量%である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との少量の混合物が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.3質量%乃至約1.2質量%である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との少量の混合物が、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.5質量%乃至約1.0質量%である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
該混合物が、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.05質量%乃至約1.2質量%の第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、約0.05質量%乃至約1.2質量%の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、および約0.02質量%乃至約0.7質量%のジアリールジチオリン酸亜鉛を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
該混合物が、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.1質量%乃至約0.7質量%の第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、約0.1質量%乃至約0.7質量%の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、および約0.05質量%乃至約0.5質量%のジアリールジチオリン酸亜鉛を含む請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
該混合物が、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.2質量%乃至約0.5質量%の第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、約0.2質量%乃至約0.5質量%の第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛、および約0.1質量%乃至約0.3質量%のジアリールジチオリン酸亜鉛を含む請求項6に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の第一級アルキル基が、炭素原子数約C1乃至約C13である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の第一級アルキル基が、炭素原子数約C3乃至約C10である請求項8に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の第一級アルキル基が、炭素原子数約C6乃至約C8である請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の第二級アルキル基が、炭素原子数約C3乃至約C13である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の第二級アルキル基が、炭素原子数約C3乃至約C8である請求項11に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の第二級アルキル基が、炭素原子数約C3乃至約C6である請求項12に記載の潤滑油組成物。
【請求項14】
ジアリールジチオリン酸亜鉛のアリール基が、炭素原子数約C6乃至約C30である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
ジアリールジチオリン酸亜鉛のアリール基が、炭素原子数約C6乃至約C24である請求項14に記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
ジアリールジチオリン酸亜鉛のアリール基が、炭素原子数約C6乃至約C20である請求項15に記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき約3:2乃至約2:3の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき約1:1である請求項17に記載の潤滑油組成物。
【請求項19】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき約4:1乃至約1:1の範囲にある請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項20】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき約2:1である請求項19に記載の潤滑油組成物。
【請求項21】
第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との混合物の比が、リン分に基づき1:1:1である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項22】
潤滑油組成物の全リン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき0.05質量%未満である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項23】
潤滑油組成物の全硫黄分が、潤滑油組成物の全質量に基づき0.5質量%未満である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項24】
潤滑油組成物の全硫黄分が、潤滑油組成物の全質量に基づき0.2質量%未満である請求項23に記載の潤滑油組成物。
【請求項25】
潤滑油組成物の全硫酸灰分が、潤滑油組成物の全質量に基づき1.2質量%未満である請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項26】
潤滑油組成物の全硫酸灰分が、潤滑油組成物の全質量に基づき1.0質量%未満である請求項25に記載の潤滑油組成物。
【請求項27】
潤滑油組成物の全硫酸灰分が、潤滑油組成物の全質量に基づき0.8質量%未満である請求項26に記載の潤滑油組成物。
【請求項28】
鉛腐食を改善する方法であって、主要量の潤滑粘度の基油、および第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛とジアリールジチオリン酸亜鉛との少量の混合物を含む潤滑油組成物であって、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との比が、リン分に基づき、約2:1乃至約1:2であり、第一級ジアルキルジチオリン酸亜鉛と第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛との混合物とジアリールジチオリン酸亜鉛との比が、約6:1乃至約1:1であり、かつ潤滑油組成物の全リン分が潤滑油組成物の全質量に基づき約0.06質量%未満である潤滑油組成物を用いて、内燃機関を作動させることを含む方法。

【公表番号】特表2010−500457(P2010−500457A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523982(P2009−523982)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/075507
【国際公開番号】WO2008/021901
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】