説明

鉛蓄電池及びその製造方法

【課題】初期の5時間率容量と高率放電特性とが優れ、正極活物質の軟化を抑制でき、深い充放電を繰り返しても容量が低下し難い鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】鉛蓄電池の正極活物質原料は、鉛丹(Pb3O4)含有量が10〜30質量%で、かつ金属アンチモンまたはアンチモン化合物をアンチモン元素換算で0.01〜0.2質量%含有する。また鉛蓄電池の電解液は、0.02〜0.2mol/Lのリチウムイオンを含有する。更に電解液はアルミニウムイオンを0.02〜0.2mol/L含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉛蓄電池とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池では、正極活物質原料または負極活物質原料と水及び希硫酸とを混練したペーストを正極格子または負極格子にそれぞれ充填し、これらを化成して得た正極板と負極板とを、希硫酸から成る電解液に接触させる。ここで特許文献1:JP2010-67522Aは、低鉛丹化率の鉛丹粉と鉛粉との混合物にアンチモンを添加した正極活物質原料を開示している。そして特許文献1は、この系で初期容量が大きく、かつ正極活物質が軟化し難い鉛蓄電池が得られることを開示している。特許文献3:JP2008-276980Aは、鉛粉中の鉛丹含有量の測定法を開示している。
【0003】
特許文献2:WO2007/36979は、正極活物質を定法で作製し、電解液中に0.02mol/L等のリチウムイオンと0.1mol/L等のアルミニウムイオンとを添加することを開示している。特許文献2は、電解液にアルミニウムイオンを添加することにより、アイドリングストップ寿命が向上し、更にリチウムイオンを加えることにより、5時間率容量が向上することを開示している。
【0004】
これらの先行技術に対し発明者は、
・ 電解液中のリチウムイオンと正極活物質中のアンチモンとの間に相互作用があり、
・ 正極活物質原料に対して所定量の鉛丹(Pb3O4)とアンチモンとを添加し、さらに電解液中にリチウムイオンを含有させることにより、特許文献に開示されている構成以上に
・ 5時間率容量が大きく、
・ 高率放電特性が大きく、
・ 正極活物質の軟化を抑制でき、深い充放電を繰り返しても容量が減少しにくい、鉛蓄電池が得られることを見出した。しかも上記の効果は、所定のアンチモン含有量と、所定のリチウム含有量、及び所定の鉛丹含有量の範囲でのみ得られることを見出し、この発明に到った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】JP2010-67522A
【特許文献2】WO2007/36979
【特許文献3】JP2008-276980A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の課題は、初期の5時間率容量と高率放電特性とが優れ、かつ深い充放電を繰り返しても容量保持率が高い、鉛蓄電池とその製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、正極活物質原料と水および希硫酸とを混練したペーストを正極格子に充填し、これを化成して得た正極板と、希硫酸からなる電解液とを備えた鉛蓄電池において、前記正極活物質原料は、鉛丹(Pb3O4)含有量を10〜30質量%とし、金属アンチモンまたはアンチモン化合物をアンチモン元素換算で0.01〜0.2質量%含み、さらに前記電解液に0.02〜0.2mol/Lのリチウムイオンを含む、ことを特徴とする。
【0008】
またこの発明は、正極活物質原料と水および希硫酸とを混練したペーストを正極格子に充填し、これを化成して得た正極板と、希硫酸からなる電解液とを備えた鉛蓄電池の製造方法であり、前記正極活物質原料は、鉛丹(Pb3O4)含有量を10〜30質量%とし、金属アンチモンまたはアンチモン化合物をアンチモン元素換算で0.01〜0.2質量%添加し、さらに前記電解液に0.02〜0.2mol/Lのリチウムイオンを添加する、ことを特徴とする。
【0009】
正極活物質原料中の鉛丹(Pb3O4)含有量は好ましくは、PbとPbOとの混合物から成る通常の鉛粉と鉛丹粉との混合比を変えて調整する。鉛丹粉は例えば鉛丹化率が30〜80質量%の低鉛丹化率の鉛丹粉であるが、鉛丹化率98質量%等の高鉛丹化率の鉛丹粉でも良い。あるいは鉛粉と鉛丹粉とを混合せずに鉛丹化率が例えば10〜30質量%の超低鉛丹化率の鉛丹粉のみを用いても良い。鉛丹粉は鉛粉を350℃から450℃で焼成することで得られ、鉛丹粉の鉛丹化率は、鉛粉の一部のみを鉛丹(Pb3O4)化することで調整する。鉛丹化率とは、鉛丹粉の総質量に占めるPb3O4の質量の割合(質量%)であり、鉛丹化率の測定法は特許文献3に開示され、鉛丹粉を酢酸−酢酸アンモニウム溶液と0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウムとを加えた溶液中に完全に溶解させ、デンプン溶液を指示薬として、チオ硫酸イオンの残存量を0.05mol/Lのヨー素溶液によって滴定する。ヨー素デンプン反応により紫色を呈するまでに要した空試料でのヨー素溶液の消費量をb’(mL)、鉛丹粉を溶解させた測定用試料でのヨー素溶液の消費量をb(mL)、測定用試料の質量をS(g)、ヨー素溶液のファクターをfとしたとき、鉛丹化率(質量%)は (0.3428(b’-b)f/S)×100 で与えられる。
【0010】
アンチモンは例えば三酸化アンチモン(Sb2O3)もしくは硫酸アンチモン(Sb2(SO4))等として正極活物質原料に添加するが、金属粉として添加しても良い。さらにPb-Sb合金を粉砕して、その一部を酸化した粉末として正極活物質原料に添加してもよい。リチウムイオンおよびアルミニウムイオンは例えば硫酸リチウム(Li2SO4)、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)として電解液に添加するが、例えば水酸化物や炭酸塩などの化合物、あるいはアルミニウムの場合は金属として添加しても良い。
【0011】
この発明で、含有量及び添加量を「A〜B」のように表す場合、下限のAと上限のBとを含むものとする。この明細書で、リチウムイオン,アルミニウムイオンの濃度は電解液1L当たりのイオンの濃度(mol/L)で表す。なおアルミニウムイオンの1モルは、硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)の171.05gに相当する。本発明では正極活物質原料は、鉛粉と鉛丹粉と、アンチモンまたはその化合物とを含む。
【0012】
正極活物質原料に水と硫酸とを加えて正極活物質ペーストとして、正極格子に充填する。正極格子は例えばPb-Ca系、より好ましくはPb-Ca-Sn系の合金である。このように作製した未化成の正極板と、常法により作製した未化成の負極板とを、例えばセパレータを介して交互に組み合わせ、同極性の極板を互いに溶接して未化成の極板群を作製し、次いで未化成の極板群を電槽に挿入した後、セル間を接続、蓋溶着し、端子溶接して未化成の電池を組み立て、希硫酸を注液し、電槽化成する等の方法で本発明の電池が得られる。化成は電槽化成に限らず、タンク化成等でも良い。
【0013】
なお本発明において、リチウムイオンおよびアルミニウムイオンは電槽化成時の希硫酸に添加してもよいし、電槽化成あるいはその他の方法によって化成を行い化成済みの電池を作製した後、電解液に添加してもよい。この明細書において、鉛蓄電池に関する記載はそのまま鉛蓄電池の製造方法にも当てはまり、逆に鉛蓄電池の製造方法に関する記載はそのまま鉛蓄電池にも当てはまる。好ましくは、電解液は更にアルミニウムイオンを0.02〜0.2mol/L含む。
【0014】
表1,表2に示すように、この発明では、鉛丹(Pb3O4)を10〜30質量%含み、アンチモンを元素換算で0.01〜0.2質量%を含む正極活物質原料をもとに作製した正極板と、0.02〜0.2mol/Lのリチウムイオンを含む電解液とを組み合わせる。この範囲でのみ、5時間率容量と高率放電特性とが優れ、しかも深い充放電を繰り返した際の容量保持率が高い鉛蓄電池が得られる。
【0015】
上記の数値限定範囲には各々臨界的意義が有り、例えば鉛丹(Pb3O4)含有率を30質量%から40質量%へ増すと、適正量のアンチモンとリチウムイオンとを加えても、正極活物質の軟化が顕著となり、容量保持率は急減する。アンチモン含有量を例えば0.2質量%から0.3質量%へ増すと、5時間率容量と高率放電特性とが著しく低下する。リチウムイオン含有量を例えば0.2mol/Lから0.3mol/Lへ増すと、高率放電特性が著しく低下する。鉛丹(Pb3O4)及びアンチモン含有量の下限の、10質量%の鉛丹と0.01質量%のアンチモンを含む正極活物質原料を用いて正極板を作製し、電解液中に下限濃度の0.02mol/Lのリチウムイオンを含有させた鉛蓄電池でも、5時間率容量と高率放電特性は大きく改善し、深い充放電の繰り返しに対する容量保持率を増すことができる。
【0016】
正極活物質中のアンチモンと電解液中のリチウムイオンとの相互作用の詳細は不明であるが、放電により正極に生成する硫酸鉛粒子の凝集化をリチウムイオンが阻害することと関係しているものと推定できる。図1はリチウムイオンを0.2mol/L添加した電解液中で、5時間率容量試験と満充電とを4回繰り返し、5回目の5時間率容量試験後に、正極活物質側に生成した硫酸鉛の電子顕微鏡写真であり、図2はリチウムイオンを含まない電解液中で、同じ試験後に正極活物質側に生成した硫酸鉛の電子顕微鏡写真である。図2に比べ、リチウムイオンを含有する電解液中では、硫酸鉛粒子の凝集が抑制されている(図1)。
【0017】
アンチモンを正極活物質に添加する意義は、活物質の軟化を抑制することにあるとされている(特許文献1等)。ところで正極活物質は、PbO2の1次粒子が凝集した2次粒子のネットワークで構成され、2次粒子間のポアをミクロ孔、ネットワークの骨格間の大きなポアをマクロ孔と呼ぶ。アンチモンの効果は、PbO2が硫酸鉛に還元された際に、アンチモンがミクロ孔に留まって初めて生じる。PbO2が硫酸鉛に還元されるとき、アンチモンはその一部がSbO2+等のイオンとなって電解液中に溶出する。このとき、硫酸鉛粒子の凝集が大きいと、ミクロ孔が圧縮されて失われ、溶出したアンチモンはマクロ孔へと押し出されるため、充電によって再び硫酸鉛をPbO2に酸化しても、アンチモンによるPbO22次粒子間を結合する効果が得られず、活物質の軟化が進行する。ここで図1のように硫酸鉛の凝集を抑制できると、PbO2から硫酸鉛に還元されるとき溶出したアンチモンはミクロ孔に留まり、PbO22次粒子間の結合性が損なわれにくいため、活物質の軟化が抑制でき、容量が低下しにくいと考えられる。
【0018】
アンチモンとリチウムイオンとの組合せの効果は、正極活物質原料が鉛丹を10質量%以上含有する際に生じ、例えば鉛丹を含有しない場合は生じない。さらに鉛丹とアンチモンとリチウムイオンとの組合せの効果は、特定の数値範囲でのみ生じ、その原因は不明である。
【0019】
電解液に更にアルミニウムイオンを含有させると、深い充放電の繰り返しに伴う容量の減少を小さくでき、この効果はアルミニウムイオン含有量が0.02mol/L以上で顕著になり、0.2mol/L付近で飽和ないしは最大となり、0.3mol/Lでは高率放電特性が著しく低下する。なお0.02mol/L未満しかアルミニウムイオンを含まないこと及びアルミニウムイオンを含まないことは有害ではなく、例えば実施例の多くはアルミニウムイオンを含んでいない。アルミニウムイオン含有量は0〜0.2mol/Lとし、好ましくは0.02〜0.2mol/Lとする。
【0020】
アルミニウムイオンが容量の減少を小さくする効果を示す理由の詳細は不明であるが、SbO2+等のイオンの拡散を阻害するものと推測される。PbO2が硫酸鉛へと変化する際、電解液中の硫酸イオンが消費されて、一時的にミクロ孔内の硫酸鉛表面における電解液のpHが中性に近づく。この際、Al3+イオンはAl2O3・3H2O等に変化してゾル状の物質を生成するため、これがSbO2+等のイオンの拡散を妨げていることが考えられる。この結果、適正量のアルミニウムイオンにより、容量保持率を改善できると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】リチウムイオンを0.2mol/L添加した電解液中で、正極活物質側に生成した硫酸鉛の電子顕微鏡写真
【図2】リチウムイオンを含まない電解液中で、正極活物質側に生成した硫酸鉛の電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術に従い、特許請求の範囲内で実施例を適宜に変更できる。
【最適実施例】
【0023】
鉛蓄電池の製造
JIS D 5301に準拠した、34B19L形鉛蓄電池を製造した。公称電圧12V、5時間率定格容量は27Ahである。正極格子材料として、0.07質量%のCaと1.5質量%のSnと不可避不純物とを含み、残余がPbであるスラブを圧延し、厚さ1.0mmとしたシートを用い、ロータリエキスパンド法により正極格子を作成した。正極格子は高さが115mm、幅が100mm、厚さが1.4mmである。また正極格子はメッシュ以外に上下の縁と耳とを備えている。正極格子のPb-Ca-Sn系合金の組成は適宜に変えることができ、正極格子のサイズ等は任意である。負極格子として、0.05質量%のCaと0.5質量%のSnと不可避不純物とを含み、残余がPbであるスラブを圧延し、厚さ0.8mmとしたシートを用い、ロータリエキスパンド法により負極格子を作成した。負極格子は高さが115mm、幅が100mm、厚さが1.2mmで、同様に耳と上下の縁とを備えている。正極格子と負極格子の材質、構造は任意であり、エキスパンド法に代えて、鋳造法で製造しても良い。
【0024】
正極活物質原料として、ボールミル法により作製した鉛粉を空気中等の含酸素雰囲気下で例えば450℃で焼成し、鉛丹化率50質量%の低鉛丹化率鉛丹粉を得た。低鉛丹化率鉛丹粉とボールミル法により作製した鉛粉とを混合し、鉛丹(Pb3O4)含有量を調整した混合粉にSb2O3を混合し、正極活物質原料とした。正極活物質原料の組成は、鉛丹(Pb3O4)が10〜30質量%、Sb2O3が0.012〜0.24質量%(アンチモン元素換算で0.01〜0.2質量%)、残余が鉛粉と鉛丹粉のうち鉛丹化されていない部分である。また正極活物質原料100質量部に、バインダとしてアクリル繊維を0.1質量部混合し、さらに水13質量部と20℃で比重1.40の希硫酸11質量部を混合し、正極活物質ペーストとした。なお鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良い。また、アンチモンは硫酸アンチモン(Sb2(SO4)3)等の形態で添加しても良い。またバインダの種類はアクリル繊維に限らず任意であり、バインダを添加しなくても良い。
【0025】
本発明においては、正極活物質原料に占める鉛丹の割合が重要で、鉛丹粉の鉛丹化率自体は重要ではないことを確認した。即ち、後記の電池No.13(表1)は鉛丹含有量が20質量%、アンチモン含有量が0.2質量%、リチウムイオン含有量が0.2mol/Lである。正極活物質原料中の鉛丹含有量を20質量%に保ったまま、鉛丹化率50質量%の低鉛丹化率鉛丹粉を、鉛丹化率30質量%、及び80質量%の低鉛丹化率鉛丹粉に変更したが、結果は同等であった。さらに鉛丹化率98質量%の鉛丹粉と通常の鉛粉とを混合し、鉛丹含有量が20質量%の正極活物質原料としたが、結果はほぼ同等であった。また本発明においては、正極活物質原料に占めるアンチモン元素の割合が重要で、添加するアンチモン成分の組成自体は重要でないことを確認した。即ち、後記の電池No.13(表1)における正極活物質原料中のアンチモン含有量をアンチモン元素換算で0.2質量%に保ったまま、Sb2O3を金属アンチモン及びSb2(SO4)3に変更した。アンチモン成分の分子量の違いによって、正極活物質原料のうち鉛丹(Pb3O4)とアンチモン成分を除く鉛粉の割合が、金属アンチモンの場合は0.04質量%増加し、Sb2(SO4)3の場合は0.2質量%減少するが、総質量に占める変化は僅かであり、電池の性能は同等であった。そこで以下には、鉛丹化率50質量%の低鉛丹化率鉛丹粉とSb2O3と鉛粉との混合物から成る正極活物質原料について、結果を示す。
【0026】
負極活物質原料として、ボールミル法で作製した鉛粉に、リグニン0.15質量%、カーボンブラック0.2質量%、硫酸バリウム0.5質量%を加え、鉛粉との合計を100質量%とした。この混合物100質量部に、0.1質量部のアクリル繊維と水11質量部と20℃で比重1.40の希硫酸7質量部とを混合し、負極活物質ペーストとした。鉛粉はボールミル法に限らず、バートン法等によるものでも良く、負極活物質ペーストの組成自体は任意である。
【0027】
正極格子1枚当たり正極活物質ペーストを70g充填し、負極格子1枚当たり負極活物質ペーストを57g充填し、各々40℃相対湿度50%で48時間熟成し、次いで50℃の乾燥雰囲気で24時間乾燥させることで未化成の正極板および負極板を得た。袋状のポリエチレンセパレータ内に未化成の負極板を収納し、正極板4枚と負極板5枚とを交互に積層し、同極性の極板を互いに溶接して極板群とした。得られた極板群6個を隔壁によって隔てられたポリプロピレン製の電槽に収納して、6セル直列に接続するように溶接し、蓋を溶着し、端子を溶接して未化成の電池を得た。この未化成の電池に、リチウムイオンの含有量が0.02〜0.2mol/Lとなるように、所定量の硫酸リチウムを20℃で比重が1.230の希硫酸に溶解させて得た電解液を注入した。あるいは上記の未化成の電池に、リチウムイオンおよびアルミニウムイオンの含有量がそれぞれ0.02〜0.2mol/Lとなるように、所定量の硫酸リチウムと硫酸アルミニウムとを20℃で比重が1.230の希硫酸に溶解させて得た電解液を注入した。電解液の注入後、25℃の水槽内で電槽化成を行って、34B19L形の鉛蓄電池とした。なお化成後の正極活物質のアンチモン含有量を測定したところ、0.009〜0.18質量%であった。
【0028】
なおリチウムイオン源とアルミニウムイオン源の種類は任意で、炭酸リチウムや水酸化リチウム等のように、希硫酸に溶解してリチウムイオンとアルミニウムイオンとに解離する物質で有ればよい。また、リチウムイオン源、アルミニウムイオン源を含まない希硫酸で化成し、化成後にこれらを加えてもよい。
【0029】
上記と同様の方法にて、正極活物質原料中の鉛丹含有量およびアンチモン含有量、電解液中のリチウムイオンおよびアルミニウムイオン含有量がそれぞれ異なる比較例の電池を作製した。
【0030】
試験法
各鉛蓄電池に対し、5時間率容量試験(JIS D 5301:2006の9.5.2b))、高率放電特性試験(JIS D 5301:2006の9.5.3b))を行った。また5時間率容量試験と満充電を5回繰り返し、1回目に対する5回目の5時間率容量の比を、容量保持率とした。容量保持率は深い充放電に対する耐久性を表し、容量保持率が低下する主因は正極活物質の軟化である。試料数は各3で、結果は平均値で示す。
【0031】
表1〜表3に結果を示し、鉛丹、アンチモン、リチウムイオンの何れも加えない電池No.1(比較例)を基準とし、高率放電持続時間、1回目の5時間率容量、容量保持率の全ての点で電池No.1を上回るものを実施例とした。高率放電持続時間は電池No.1を100%とする相対値で示し、5時間率容量は電池No.1の1回目の容量を100%とする相対値で示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
表1から明らかなように、
i 正極活物質原料中に10〜30質量%の鉛丹を含有させ、
ii 正極活物質原料中に、アンチモン元素換算で0.01〜0.2質量%のアンチモンを含有させ、
iii 電解液中に0.02〜0.2mol/Lのリチウムイオンを含有させると、
高率放電持続時間が長く、5時間率容量が大きく、容量保持率が高い鉛蓄電池が得られる。
【0036】
これに対して、上記i〜iiiのいずれかの条件を欠くと、いずれかの点で比較例の電池No.1と同等もしくはそれ以下の鉛蓄電池となる。例えばアンチモンを0.3質量%添加した電池No.14,15は、鉛丹含有量が30質量%と適正で、リチウムイオン含有量が0.02または0.2mol/Lと適正でも、高率放電持続時間と5時間率容量とが低く、アンチモン含有量が0.2質量%と0.3質量%の間に臨界的な変化がある。鉛丹を含有しない電池No.24〜26は、アンチモン含有量およびリチウムイオン含有量を変化させても、良い結果は得られなった。アンチモンを欠く電池(電池No.27,29)は、他の条件が適切でも、低い容量保持率しか得られなかった。また、特許文献1の構成に相当するリチウムイオンを欠く電池(電池No.28,30)は、他の条件が適切でも、低い容量保持率しか得られなかった。鉛丹過剰の電池No.31でも、低い容量保持率しか得られなかった。鉛丹含有量が40質量%(電池No.31)と30質量%(電池No.16〜23)との間にも、臨界的な差異が有る。さらにリチウムイオンが過剰な電池No.32,33では高率放電持続時間が短かった。リチウムイオン含有量が0.2mol/L(電池No.13等)と0.3mol/Lの間にも臨界的な差異がある。
【0037】
電池No.9(実施例),電池No.28(比較例)を5時間率容量試験と満充電とを4回繰り返し、5回目の5時間率容量試験後に分解し、正極活物質中に生成した硫酸鉛の電子顕微鏡写真を撮像した。実施例では硫酸鉛中に多数のミクロ孔が観察されるのに対し、比較例ではミクロ孔は僅かである。リチウムイオンを有する実施例ではミクロ孔が維持され、正極活物質間の結合を強めて軟化を抑制するアンチモンがミクロ孔に留まり、充電後に再度機能するのに対し、リチウムイオンのない比較例ではミクロ孔が維持されず、アンチモンがミクロ孔からマクロ孔へと押し出されて、機能を失うと考えられる。
【0038】
容量保持率は電解液へのアルミニウムイオンの添加により、更に改善できた。結果を表3に示す。広範囲の鉛丹含有量、アンチモン含有量、リチウムイオン含有量に対し、0.02〜0.2mol/Lのアルミニウムイオンを電解液中に含有させることにより、容量保持率を改善できた。しかし0.3mol/Lのアルミニウムイオンを含有させると、高率放電特性が低下した。
【0039】
アルミニウムイオンの役割を定量的に説明することは難しいが、定性的には次のように推定できる。PbO2が硫酸鉛へと変化する際、電解液中の硫酸イオンが消費されて、一時的にミクロ孔内の硫酸鉛表面における電解液のpHが中性に近づく。この際、Al3+イオンはAl2O3・3H2O等に変化してゾル状の物質を生成するため、これがSbO2+等のイオンの拡散を妨げていることが考えられる。この効果によって、正極活物質の軟化を防止するアンチモンの効果を持続させると推定される。
【0040】
負極活物質、負極格子の材料は任意である。また電解液は、硫酸、リチウムイオン、アルミニウムイオンに加えて、負極活物質中のリグニンに由来するナトリウムイオン、およびリチウムイオン源、アルミニウムイオン源の不純物として含まれるカリウムイオン、マグネシウムイオン等の第3成分を少量含んでいても良い。正極活物質は、PbO2等の鉛化合物と、アンチモン、バインダの他に鉛粉の不純物として含まれる鉄、ニッケル、ビスマス、スズ等の第3成分を少量含んでいても良い。
【0041】
実施例では、
i 正極活物質原料中に10〜30質量%の鉛丹を含有させ、
ii 正極活物質原料中に、アンチモン元素換算で0.01〜0.2質量%のアンチモンを含有させ、
iii 電解液中に0.02〜0.2mol/Lのリチウムイオンを含有させることにより、
高率放電持続時間、5時間率容量の初期値、容量保持率を向上させることができる。また0.02〜0.2mol/Lのアルミニウムイオンを電解液中に含有させることにより、容量保持率を更に改善できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質原料と水および希硫酸とを混練したペーストを正極格子に充填し、これを化成して得た正極板と、希硫酸からなる電解液とを備えた鉛蓄電池において、前記正極活物質原料は、鉛丹(Pb3O4)含有量を10〜30質量%とし、金属アンチモンまたはアンチモン化合物をアンチモン元素換算で0.01〜0.2質量%含み、さらに前記電解液に0.02〜0.2mol/Lのリチウムイオンを含む、ことを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記電解液は更にアルミニウムイオンを0.02〜0.2mol/L含むことを特徴とする、請求項1の鉛蓄電池。
【請求項3】
正極活物質原料と水および希硫酸とを混練したペーストを正極格子に充填し、これを化成して得た正極板と、希硫酸からなる電解液とを備えた鉛蓄電池の製造方法であり、前記正極活物質原料は、鉛丹(Pb3O4)含有量を10〜30質量%とし、金属アンチモンまたはアンチモン化合物をアンチモン元素換算で0.01〜0.2質量%添加し、さらに前記電解液に0.02〜0.2mol/Lのリチウムイオンを添加する、ことを特徴とする鉛蓄電池の製造方法。
【請求項4】
前記電解液に更にアルミニウムイオンを0.02〜0.2mol/L添加することを特徴とする、請求項3の鉛蓄電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−79431(P2012−79431A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220912(P2010−220912)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】