説明

鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法及び前記ペーストを用いた鉛蓄電池用正極板

【課題】鉛粉と希硫酸と鉛丹とを含む鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法において、前記希硫酸の添加量によっては鉛丹と硫酸の反応が進み過ぎて硫酸鉛が過大に生成してしまい十分な化成効率を得ることが困難であると共に、密着性の問題も生じるため、化成効率及び密着性を改善した鉛蓄電池用正極活物質ペーストを提供する。
【解決手段】少なくとも一酸化鉛を主成分とする鉛粉と希硫酸と鉛丹とを含む鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法において、鉛粉に対する硫酸の割合が2質量%以上、7質量%未満であることを特徴とする鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛粉と鉛丹を用いて作製する鉛蓄電池用正極活物質ペーストであり、前記鉛蓄電池用正極活物質ペーストを用いることにより高い化成効率と極板強度を有した鉛蓄電池用正極活物質ペーストと及び前記ペーストを用いた鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、一酸化鉛を主成分とする鉛酸化物の粉体(以下、単に鉛粉と言う)を水と希硫酸で混練し、活物質ペーストとした後、該活物質ペーストを鉛合金などの集電体に充填し保持させ、活物質ペーストを充填し保持された充填板を、活物質の結晶の成長、ペーストの強度アップ、格子表面と活物質との化学的な結合力の増加、水分の除去などを目的とした熟成・乾燥を行い、この後、熟成・乾燥工程を経て作製された未化成の正・負極板をセパレータを挟んで交互に積層することにより極板群を形成し、この極板群を電槽に収納し、注液口を設けた蓋と熱溶着をし、この鉛蓄電池内に電解液である希硫酸を注液して、通電し電槽化成を行い製造される。
【0003】
正極板の化成は、負極板の化成と比べて化成充電効率が悪く(負極板の約2倍以上の電気量を必要とする)、一般的に正極の正極活物質ペースト中に鉛丹(Pb3 4 )を混ぜ合わせることが行われている。これは、鉛丹と硫酸が反応して良伝導体の二酸化鉛を生成することが知られており、未化成極板は殆どが絶縁体の酸化鉛と硫酸鉛から生成されているため、電気導電性が悪く化成効率が低いが、鉛丹を加えることで未化成極板中に二酸化鉛が存在することとなり、電気伝導性が向上し、化成効率が上がるからであると推測される。
【0004】
しかしながら、鉛粉と鉛丹とを混合し、希硫酸で錬って正極活物質ペーストを作製する方法では満足できる化成効率向上の効果が得られなかった。この理由は定かではないが、式1に記載するように、鉛丹と硫酸とが反応し良伝導体の二酸化鉛が生成されるが、その他、絶縁体の硫酸鉛も生成するからではないかと予測される。
【0005】
(式1)
Pb+2HSO→ PbO+2PbSO+2H
【0006】
また、鉛丹を添加して得られた正極板は、鉛合金格子から活物質の剥離や脱落が発生しやすいという欠点を有していた。そのため、未化成正極板を扱う際に鉛合金格子から活物質が脱落して作業環境を悪化させたり、特に高温条件で充放電を繰り返す寿命試験において正極活物質が軟化脱落し易くさせたりしていた。
【0007】
そこで、化成効率を向上させる方法として、鉛丹(Pb)を用いて作製した二酸化鉛(PbO)を正極活物質とする鉛蓄電池において、前記鉛丹の平均粒子径が1μm〜15μmであることを特徴とする鉛蓄電池(特許文献1)などが種々提案されている。
【0008】
【特許文献1】特開平2000−331676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載の方法は、鉛粉と平均粒子径1μm〜15μmの鉛丹とを85:15の割合で混合し、これらに対して0.01質量%の硫酸ナトリウム及びカットファイバーを添加し、鉛粉に対して13質量%の希硫酸と、鉛粉に対して12質量%の水と、を混練して正極活物質ペーストを作製するとで、鉛丹と鉛粉との反応による体積変化が小さく、化成後の活物質の体積変化による活物質の正極板からの剥離、離脱を抑制できるとしている。
【0010】
しかしながら、前記方法は過剰に希硫酸を添加(鉛粉に対して13質量%)しているため、鉛丹と硫酸の反応が進み過ぎて硫酸鉛が過大に生成してしまい、十分な化成効率を得ることが困難である。
また、過剰に希硫酸を添加すると、活物質ペーストのpHが低くなり、熟成中の水酸化鉛の生成が抑制され、熟成中に塩基性硫酸鉛のネットワークが成長せず、極板強度の低下を引き起こすため、活物質同士、あるいは活物質−格子の密着性が弱く、充放電を繰り返すことにより活物質が軟化・脱落し、充分な寿命性能が困難である。
【0011】
そこで、本発明者等が種々検討を重ねたところ、鉛丹を用いて鉛蓄電池用正極活物質ペーストを作製するに当り、鉛粉に対する希硫酸の割合によって化成上がりや極板強度が左右されることを知見した。
従って、本発明は鉛粉に対する希硫酸の割合を2.0質量%以上、7.0質量%未満とすることで、化成上がりを良好にすると共に、極板強度を改善し、正極活物質同士および基板−正極活物質ペーストの密着性を良好にすることを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、一酸化鉛を主成分とする鉛粉と希硫酸と鉛丹とを含む鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法において、鉛粉に対する希硫酸の割合が2.0質量%以上、7.0質量%未満であることを特徴とする鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法を提供するものである。
また、前記鉛粉に対する希硫酸の割合が3.0質量%以上、6.3質量%以下とするものである。
また、前記正極活物質ペースト中の鉛粉と鉛丹との合計量に対する鉛丹の量を5質量%以上、40質量%以下とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鉛蓄電池用正極活物質ペーストは、鉛粉に対する希硫酸の割合が2.0質量%以上、7.0質量%未満とすることで、熟成反応も充分に進み、且つペーストのpHも低下しないことに加え、硫酸鉛の生成も抑制できるので、高い化成効率得ることが可能である。また、正極活物質同士および基板−正極活物質ペーストの密着性が良好な正極板を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
一酸化鉛を主成分とする鉛粉と鉛丹、更に要すればポリエステル繊維(例えば、テトロン(登録商標))とを混合(以下、乾式混合と称する)し、次いで、所望量の水を添加し練合わせ(以下、水練りと称する)、その後、所望量の希硫酸を添加して、再度練合わせて(以下、酸練りと称する)作製した正極活物質ペーストを作製する。そして、該正極活物質ペーストをPb−Ca系やPb−Ca−Sn系の鉛合金からなる格子基板等の集電体に充填して保持させた充填板を、活物質の結晶の成長、ペーストの強度アップ、格子表面と活物質との化学的な結合力の増加、水分の除去などを目的とした熟成乾燥工程を経て未化成の正極板を作製する。また、公知の方法により未化成負極板を作製し、夫々作製した未化成の正・負極板をセパレータを挟んで交互に積層して極板群を形成し、この極板群を電槽内に収納し、注液口を設けた蓋と熱融着し、注液口より電槽内に電解液である希硫酸を注液した後、化成工程で充放電され化成し、鉛蓄電池を製造する。
本発明は、酸練の際に添加する希硫酸の添加量を、鉛粉に対し希硫酸の割合を2.0質量%以上、7.0質量%未満とすることが従来と相違する。
【0015】
本発明において、希硫酸の添加量を鉛粉に対し希硫酸の割合を2.0質量%以上、7.0質量%未満とするのは、熟成反応も充分に進み、且つペーストのpHも低下しないことに加え、硫酸鉛の生成も抑制できるので、高い化成効率と極板強度を併せ持った正極板を得ることが可能であるからである。
しかし、希硫酸の添加量を鉛粉に対し希硫酸の割合を2.0質量%未満の場合、酸練り後のペースト中の塩基性硫酸鉛生成量が少ないので、極板強度が著しく低下する。加えて未反応の金属鉛が多いため、熟成中にそれらが酸化されることにより異常に極板温度が上がり、極板に多数のひび割れが入ってしまう。
また、希硫酸の添加量を鉛粉に対し希硫酸の割合を7.0質量%以上の場合、酸練りにおいて鉛丹と硫酸の反応が進み過ぎてしまい、硫酸鉛が過大に生成するため、化成効率が思うように上がらない。また、硫酸過剰によりペーストpHが低くなるので、熟成中の水酸化鉛の生成が抑制され、熟成中に塩基性硫酸鉛のネットワークが成長せず、極板強度の低下を引き起こす。
なお、好ましくは鉛粉に対する希硫酸の割合を3.0質量%以上、6.3質量%以下とすることで、更に化成効率の向上させることが可能である。
なお、化成上がりのみを考慮して正極活物質中への鉛丹添加を行う場合は、添加量を多くすることで化成上がりを良好にすることが可能であるが、鉛蓄電池の寿命が短くなることが知られており、正極活物質ペースト中の鉛粉と鉛丹との合計量に対する鉛丹の量は40質量%以下が好ましく、特に5〜20質量%が好ましい。これは、鉛丹の添加量が過度(40質量%超過)であると鉛蓄電池のサイクル寿命特性が低下するためであり、また、添加量が少ないと化成効率や極板強度の改善があまり見られないためである。
【0016】
なお、正極活物質ペースト中の硫酸量を変化させると正極活物質ペースト中の総水分量も変化し、その後の基板への充填性も変化してくるので、正極活物質ペースト中の総水分量は、水練り時の注水量を変化させることで正極活物質ペースト中の総水分量を調整するのが望ましい。例えば、正極活物質ペースト中の硫酸量が多い場合は添加水量を減らし、逆に、正極活物質ペースト中の硫酸量が少ない場合は添加推量を増やすなどして調整を行う。
【実施例1】
【0017】
まず、ボールミル法により得られた一酸化鉛を主成分とする鉛粉85.0kgと、鉛丹15.0kgと、ポリエステル繊維としてテトロン(登録商標)1.0kgとをミックスマラー(新東工業株式会社製)を用いて5分間乾式混合を行った。次いで、水17.0kgを添加し3分間の水練りを行い、その後、濃度47.5%の希硫酸2.6L(鉛粉に対する希硫酸の割合2.0%)をゆっくり加えながら20分間の酸練りを行い、正極ペーストを得た。なお、ペースト中の総水分量は18.9kgであった。
そして、該正極ペーストをPb−Ca−Sn系合金鋳造格子に所定量充填し正極板を作製し、正極板を横にして水平状態とし複数枚重ねた極板束とし、この極板束を断熱された乾燥室内に入れ、180℃で2分間予備乾燥を行い、次いで、この極板束を断熱された熟成室内に入れ、室内温度が40±3℃、相対湿度が95±3%となる様に温湿度の制御行い、18時間熟成させた。熟成完了後、極板を十分乾燥させ未化成正極極板を作製した。
次に、この正極未化成極板5枚と常法により作製した負極未化成極板6枚とをポリエチレンセパレータを挟んで交互に積層し組合わせ、COS方式(キャストオンストラップ方式)で同極性極板同士を溶接して極板群とし、これをPP製(ポリプロピレン製)の電槽に入れ、ヒートシールによって蓋をし、電槽化成を行い55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明1)。
前記電槽化成は、鉛蓄電池の注液口から濃度33.5%の希硫酸を所定の液面まで注入し、40℃一定に温度調節した水槽に、鉛蓄電池内部に水が入らない程度に電槽を浸漬させた。
なお、電槽化成は、正極の理論電気量に対して1.5倍の電気量を、10時間通電して行なった。この条件は鉛丹を用いない場合に比較して15%削減した充電時間である。
【実施例2】
【0018】
添加水量を16.1kg、濃度47.5%の希硫酸3.9L(鉛粉に対する希硫酸の割合3.0%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明2)。
【実施例3】
【0019】
添加水量を13.9kg、濃度47.5%の希硫酸6.5L(鉛粉に対する希硫酸の割合5.0%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明3)。
【実施例4】
【0020】
添加水量を13.0kg、濃度47.5%の希硫酸8.2L(鉛粉に対する希硫酸の割合6.3%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明4)。
【実施例5】
【0021】
添加水量を12.4kg、濃度47.5%の希硫酸9.0L(鉛粉に対する希硫酸の割合6.9%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明5)。
【実施例6】
【0022】
一酸化鉛を主成分とする鉛粉50.0kgと、鉛丹50.0kgとし、添加水量を16.3kg、濃度47.5%の希硫酸3.6L(鉛粉に対する希硫酸の割合5.0%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明6)。
【実施例7】
【0023】
一酸化鉛を主成分とする鉛粉60.0kgと、鉛丹40.0kgとし、添加水量を15.6kg、濃度47.5%の希硫酸4.6L(鉛粉に対する希硫酸の割合5.0%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明7)。
【実施例8】
【0024】
一酸化鉛を主成分とする鉛粉80.0kgと、鉛丹20.0kgとし、添加水量を14.5kg、濃度47.5%の希硫酸6.1L(鉛粉に対する希硫酸の割合5.0%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明8)。
【実施例9】
【0025】
一酸化鉛を主成分とする鉛粉90.0kgと、鉛丹10.0kgとし、添加水量を13.9kg、濃度47.5%の希硫酸6.9L(鉛粉に対する希硫酸の割合5.0%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明9)。
【実施例10】
【0026】
一酸化鉛を主成分とする鉛粉95.0kgと、鉛丹5.0kgとし、添加水量を13.6kg、濃度47.5%の希硫酸7.3L(鉛粉に対する希硫酸の割合5.0%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(本発明10)。
【0027】
[比較例1]
添加水量を17.0kg、濃度47.5%の希硫酸2.5L(鉛粉に対する希硫酸の割合1.9%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(比較例1)。
[比較例2]
添加水量を12.4kg、濃度47.5%の希硫酸9.1L(鉛粉に対する希硫酸の割合7.0%)としたこと以外は本発明1と同様に未化成正極板を作製し、55D23型の鉛蓄電池を作製した(比較例2)。
【0028】
表1に、上記方法で作製した種々の未化成正極板(本発明1〜10、比較例1〜2)の、鉛粉、鉛丹、注酸量、添加水量、硫酸由来の水分量、ペースト中総水分量、鉛粉に対する希硫酸の割合、化成後の正極活物質ペースト中に含まれる硫酸鉛量の割合を示す。
なお、化成後の正極活物質ペースト中に含まれる硫酸鉛量の割合の測定は、夫々の鉛蓄電池(本発明1〜10、比較例1〜2)を解体し、正極板を取り出し、該正極板を5時間程度水洗して、その後、60℃で5時間程度乾燥させ、正極板からの水分が無くなったことを確認し、基板から活物質を落とし、乳鉢を用いて充分に粉砕・混合して粉末状とし、得られた種々の粉末を化学分析し硫酸鉛量を測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
予備試験の結果より、化成後の正極活物質ペースト中に含まれる硫酸鉛量の割合が4質量%以下となっていると化成がほぼ完了しており、鉛蓄電池の初期性能に悪影響を与えないことが確認されている。
表1に示すように、本発明1〜10および比較例1は化成後の正極活物質ペースト中に含まれる硫酸鉛量の割合が4質量%以下となっており、化成がほぼ完了しており良好な結果であった。しかし、夫々同一化成条件で試験を行ったため、鉛粉に対する希硫酸の割合7.0%とした比較例2は、化成後の正極活物質ペースト中に含まれる硫酸鉛量の割合が4質量%以上であり、化成上がりが悪い、即ち、化成が完了していないものであった。
なお、例えば本発明1〜5及び比較例2の結果に示されるように、鉛丹添加量を一定とし、鉛粉に対する希硫酸の割合を2.0〜7.0質量%とした場合、前記割合が増加するにつれて化成後の硫酸鉛量が増加していく傾向があり、鉛粉に対する希硫酸の割合が3.0質量%以上、6.3質量%以下が、特に化成効率が優れていることが分る。
また、例えば本発明3と6〜10の結果に示されるように、鉛粉に対する希硫酸の割合を一定(本発明では5.0質量%一定)とした場合、鉛丹の添加量を減少させるにつれて化成後の硫酸鉛量が増加していく傾向があり、鉛丹の添加量を5質量%以上とすることで特に化成効率が優れていることが分る。
しかし、鉛丹の添加量が5質量%未満である場合は硫酸鉛量が4質量%以上となり、鉛丹の添加効果が少なかった。また、表中に記載していないが、実施例1において鉛丹を添加しなかった場合は、化成後の硫酸鉛量が10質量%以上であった。
【0031】
また、夫々の未化成正極板(本発明1〜10、比較例1〜2)の極板強度を調べるため落下試験を行った。
落下試験は、夫々の未化成正極板の水平に落下させ、地面から高さ30cmの地点から所望回数自然落下させ、10回毎に正極活物質ペーストの脱落率の測定を行った。
図1は、未化成正極板の落下回数の違いによる活物質の脱落率を示したものである。図中の横軸、縦軸は夫々落下回数、活物質の脱落率を示している。
なお、正極活物質ペーストの脱落率は、初期の未化成正極板の重量から事前に測定しておいた正極基板の重量を差し引いた値から真の正極活物質ペーストの重量を算出し、同様に落下試験後の未化成正極板の重量から正極基板の重量を差し引いた値から正極活物質ペーストの重量を算出し、初期の正極活物質ペーストの重量に対する落下試験後の正極活物質ペーストの重量を比率で表したものである。ここで、初期の未化成正極板は活物質の脱落が無いので、夫々の未化成正極板(本発明1〜10、比較例1〜2)の脱落率は0%と表記した。
【0032】
図1に示すように、鉛粉に対する希硫酸の割合が2質量%以上、7質量%未満とした本発明の未化成正極板(本発明1〜10)は、落下試験を120回繰り返しても活物質の脱落率が50%程度であり、他の未化成正極板(比較例1〜2)と比較して活物質の脱落率が少ないことが分る。これは、正極活物質ペーストを作製する過程で、酸練り後の塩基性硫酸鉛が十分生成されることに加え、鉛丹と硫酸の反応による硫酸鉛の過剰生成が抑制され、活物質同士、あるいは活物質−格子の密着性が向上したためであると考えられる。
【0033】
また、夫々の鉛蓄電池(本発明1〜10、比較例1〜2)について軽負荷寿命試験(JIS D5301)を行った。
なお、軽負荷寿命試験は75℃一定に温度調節した水槽に、鉛蓄電池内部に水が入らない程度に電槽を浸漬して行った。
図2は、軽負荷寿命試験の結果を示したものである。図中の横軸、縦軸は夫々サイクル数、30秒目電圧を示している。
なお、軽負荷寿命試験は480サイクル毎に行い、30秒目電圧が7.2Vをきった時点で寿命とした。
【0034】
図2に示すように、鉛粉に対する希硫酸の割合が2質量%以上、7質量%未満とした本発明の未化成正極板(本発明1〜10)は、寿命サイクルが2500回を上回る良好な結果であったが、他の未化成正極板(比較例1〜2)は2500回を下回る結果であり、本発明3と6〜10の結果より、鉛丹の添加量が少ない方がより寿命性能に優れている傾向にあるということが分る。
軽負荷寿命試験終了後、夫々鉛蓄電池を解体した夫々の鉛蓄電池(本発明1〜10、比較例1〜2)の劣化原因を調査したところ、比較例1〜2の劣化モードは正極の軟化であることが確認された。
なお、落下試験の結果より鉛粉に対する希硫酸の割合を3.0質量%以上、6.3質量%以下、および鉛丹の添加量を5質量%以上とすることで、特に化成効率に優れて、極板強度が高いこと、及び、寿命サイクル試験の鉛丹添加量が少ない方が寿命サイクル特性が優れていることを考慮すると、鉛丹の添加量は40質量%以下、特に5〜20質量%が好ましい。
なお、本実施例において硫酸濃度47.5%のものを使用したが、濃度がこれより高い硫酸を使用した場合は注酸量を減らし、逆に濃度が低い硫酸を使用した場合は注酸量を増やして、鉛粉に対する硫酸の割合が2.0質量%以上7.0質量%未満範囲内に入るように注酸量をコントロールすることで同様の効果を奏する。
【0035】
以上のことより、鉛粉に対する硫酸の割合が2質量%以上、7質量%未満とした正極活物質ペーストを用いることで、硫酸鉛の生成が抑制できるので、高い化成効率得ることが可能である。また、正極活物質同士および基板−正極活物質ペーストの密着性が良好な正極板を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】落下回数(横軸)と活物質の脱落率(左縦軸)の関係を示す図である。
【図2】サイクル数(横軸)と30秒目電圧(左縦軸)の関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化鉛を主成分とする鉛粉と希硫酸と鉛丹とを含む鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法において、鉛粉に対する希硫酸の割合が2.0質量%以上、7.0質量%未満であることを特徴とする鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法。
【請求項2】
前記鉛粉に対する希硫酸の割合が3.0質量%以上、6.3質量%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法。
【請求項3】
前記正極活物質ペースト中の鉛粉と鉛丹との合計量に対する鉛丹の量を5質量%以上、40質量%以下とすることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池用正極活物質ペーストの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の製造方法により製造された鉛蓄電池用正極活物質ペーストが用いられていることを特徴とする鉛蓄電池用正極板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−231014(P2009−231014A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74209(P2008−74209)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】