説明

鉛蓄電池用電極および鉛蓄電池用電極の作製方法

【課題】未化成電極を熟成後に希硫酸処理を行う電池用電極において、前記未化成電極表面に形成される硫酸鉛層の厚みのばらつきを抑制して電池性能のばらつきを小さくすると共に、電槽化成による化成処理時の電極間短絡事故を未然に防止した鉛蓄電池用電極を提供する。
【解決手段】基板へ活物質ペースト充填し未化成電極を作製し、次いで熟成工程、乾燥工程を経て前記未化成電極を希硫酸処理してなる鉛蓄電池用電極において、前記未化成電極を希硫酸処理して形成する平均硫酸鉛層の厚さを100〜300μmとすることを特徴とする鉛蓄電池用電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未化成電極を熟成後に希硫酸処理を行う電池用電極において、前記未化成電極表面に形成される硫酸鉛層の厚みのばらつきを抑制すると共に、電槽化成による化成処理時の電極間短絡事故を未然に防止した鉛蓄電池用電極に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉛蓄電池に用いられる基板は、格子形状を彫り込んだ一対の割型によって鉛合金製の格子体を鋳造(ブックモールド方式鋳造)し、この格子体に酸化鉛と金属鉛からなる鉛紛と水、希硫酸、および必要により繊維などの補強剤を混練した正極または負極の活物質ペーストを鉛合金製の格子体に充填し、その後、乾燥、熟成、乾燥を行い未化成のペースト式極板を作製するものである(以下、熟成前に行う乾燥を本願では予備乾燥と称する)。そして、熟成・乾燥工程を経て作製された未化成の正・負極板をセパレータを挟んで交互に積層することにより極板群を形成し、該極板群を電槽に収納した後、該電槽に注液口を設けた蓋を熱溶着して封口し、鉛蓄電池内に電解液である希硫酸を注液して、通電し電槽化成を行い製造される。
【0003】
近年、自動車のエンジンルームは装備の増加や無駄な空間の排除を狙ったデザインの要求から、搭載部品の小型化の要求が厳しくなり、かつ、自動車の燃費向上と排ガス量の削減から搭載部品の軽量化が求められている。また、高容量化および高出力化のニーズに対応するため、極板枚数や活物質量を増加させたり、極板群(正極板と負極板をセパレータを介して積層したもの)を高圧迫にて組み電槽内に挿入したりする方法が採られている。しかし、極板枚数を増加させ、更に極板群を高圧迫で組み電槽に挿入した場合に、従来に比べ極板同士の極板間距離が短くなるため、デンドライトショートが発生し易くなってしまっていた。更に、極板枚数や活物質量を増加させた場合、電槽内の空間体積が減少し注液性が低下するため、電解液の浸透性が低下し、極板群の端部においては電解液比重が低下し、デンドライトショートが発生する恐れがある。
【0004】
また、鉛蓄電池をPSOC状態(部分充電状態)で急速放電を繰返した場合、正極活物質の軟化による寿命低下が問題視されており、正極活物質の高密度化が行われている。前記正極活物質を高密度化する方法として、例えば、正極活物質ペーストに含まれる硫酸分を減少させて極板を作製方法が挙げられる。しかし、前記高密度化した極板は、従来の高密度化していない極板に比し注液した電解液中の硫酸分が極板に取り込まれる量が多くなり、上記同様極板群の端部においては電解液比重が低下し、デンドライトショートが発生する恐れがある。
【0005】
そこで、これらの問題を解決するため、未化成電極を作製する熟成工程の後に、活物質を充填した未化成電極を希硫酸で処理して鉛蓄電池用を電極作製する方法(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−134252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法は、熟成工程の後で未化成極板表面を希硫酸で処理することにより、未化成極板表面の硫酸鉛濃度を著しく高める、即ち未化成電極表面に硫酸鉛層を形成することで、表面の気孔を一時的に閉塞するため、このように処理した電極を電槽内にセットし、電解液を注入した際に、電解液と未化成極板の表面との反応のみならず、電解液が内部に染み込んで酸化鉛と反応する時間も遅延でき、電解液との反応を最小限に抑えて電解液濃度の急激な低下を抑制し、電槽化成による化成処理時の電極間短絡事故を未然に防止するものであるが、これを工業的に実施した場合に、電池性能にばらつきが生じることが確認された。
また、当該極板の製造を連続鋳造で行う場合には、未化成電極を1枚毎に希硫酸で処理して、その後乾燥すると言う工程となるため、設備の設置スペースが大きくなり、更には設備のコストUPに繋がっていた。
【0008】
そこで、本発明者らは上記課題に鑑み、種種検討した結果、電池性能のばらつきは、電極表面に形成される硫酸鉛層の厚さのばらつきに起因していると考えた。上記特許文献1に記載のように電解液注液後10分程度で化成をすると確かに効果はあるが、工業的に多量の蓄電池を化成しようとする場合に、電解液注液後化成するまでの時間を10分程度以内に収めることは煩わしく、通常は数十分以上と種種変化する。その結果、注液後比較的長時間放置された場合は、電極内部の活物質が溶解し表面に出てくるのではと考え、硫酸鉛層の厚さを所望の値とすることで、電池性能のばらつきを抑制することが可能ではないかと考えた。また、電解液注液後のデンドライト発生による短絡を防止するため、硫酸鉛層の厚さをある程度形成することで可能で有るのではと考えた。
本発明の目的とするところは、未化成電極を熟成後に希硫酸処理を行う電池用電極において、前記未化成電極表面に形成される硫酸鉛層の厚みのばらつきを抑制すると共に、電槽化成による化成処理時の電極間短絡事故を未然に防止した鉛蓄電池用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基板へ活物質ペースト充填し未化成電極を作製し、次いで熟成工程、乾燥工程を経て前記未化成電極を希硫酸処理してなる鉛蓄電池用電極において、前記未化成電極を希硫酸処理して形成する平均硫酸鉛層の厚さを100〜300μmとすることを特徴とする鉛蓄電池用電極である。
なお、平均硫酸鉛層の厚さが100μm未満の場合、極板間短絡事故(デンドライトショート)が発生する恐れがある。また、平均硫酸鉛層の厚さが300μm超過の場合、電池性能のばらつきと共に性能が低下する恐れがある。従って、平均硫酸鉛層の厚さを100〜300μmとすることで、硫酸鉛層の厚みのばらつきを抑制すると共に、電池性能のばらつきを抑えることが可能である。
【0010】
また、基板へ活物質ペースト充填し未化成電極を作製し、次いで熟成工程、乾燥工程を経て前記未化成電極を希硫酸処理してなる鉛蓄電池用電極の作製方法において、予め求めた未化成電極を処理する希硫酸の比重と希硫酸処理して形成する硫酸鉛層の厚さとの相関関係と、予め求めた硫酸鉛層の厚さと希硫酸処理時間との相関関係とから、硫酸鉛層の厚さを求めることを特徴とする鉛蓄電池用電極の作製方法である。
なお、予め希硫酸の比重と硫酸鉛層の厚さとの相関関係および硫酸鉛層の厚さと希硫酸処理時間との相関関係を求めておくことにより、容易に所望の希硫酸鉛層の厚さに要する希硫酸処理時間を決定することが可能である。
【0011】
また、前記希硫酸処理による硫酸鉛層の形成は、未化成電極を希硫酸に10〜40秒間浸漬することを特徴とする請求項1乃至2に記載の鉛蓄電池用電極および鉛蓄電池用電極の作製方法である。
なお、希硫酸への浸漬時間が10秒未満である場合、平均硫酸鉛層の厚みが薄いため電解液注液後に直ぐに電槽化成を行わないと、化成処理時の電極間短絡事故(デンドライトショート)が発生する恐れがあり、40秒超過の場合、硫酸鉛層の厚さのばらつき(特に極板上部が薄く下部が厚い)が大きくなり、電池性能が安定しない。従って、希硫酸処理時間(浸漬)を10〜40秒とすることで、硫酸鉛層の厚みのばらつきを抑制すると共に、電槽化成による化成処理時の電極間短絡事故を未然に防止することが可能である。
【0012】
また、前記希硫酸処理による硫酸鉛層の形成は、未化成電極の少なくとも表面に希硫酸噴霧を10〜90秒間施すことを特徴とする請求項1乃至2に記載の鉛蓄電池用電極および鉛蓄電池用電極の作製方法である。
なお、希硫酸への噴霧時間が10秒未満である場合、平均硫酸鉛層の厚みが薄いため電解液注液後に直ぐに電槽化成を行わないと、化成処理時の電極間短絡事故(デンドライトショート)が発生する恐れがあり、90秒超過の場合、硫酸鉛層の厚さのばらつき(特に極板上部が薄く下部が厚い)が大きくなり、電池性能が安定しない。従って、希硫酸処理時間(噴霧)を10〜90秒とすることで、硫酸鉛層の厚みのばらつきを抑制すると共に、電槽化成による化成処理時の電極間短絡事故を未然に防止することが可能である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の鉛蓄電池用電極は、未化成電極を希硫酸処理して形成する平均硫酸鉛層の厚さを100〜300μmとすることで、未化成電極表面の硫酸鉛層の厚みのばらつきを抑制して電池性能のばらつきを小さくすることが可能である。
また、希硫酸処理時間を、浸漬では10〜40秒、噴霧では10〜90秒とすることで、硫酸鉛層の厚みのばらつきを抑制すると共に、電解液注液後化成するまでの時間を気にせず電極間短絡を未然に防止し得、製造を簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】熟成後における未化成極板の浸漬および噴霧の希硫酸濃度と平均硫酸鉛層厚みの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明の実施形態を詳細に説明する。
鉛蓄電池に求められる効率的な放電性能、小型化、軽量化、シール型化並びに長寿命化の要求に対処するには、電槽化成における電解液の注入時に硫酸イオンの濃度を高く維持することが最も有効で、未化成極板中の酸化鉛と電解液の反応を抑制することにより達成される。
【0016】
本発明は、熟成工程の後で未化成極板表面を希硫酸で処理することにより、未化成極板表面の硫酸鉛濃度を著しく高めることができ、しかも表面の気孔を一時的に閉塞するため、このように処理した電極を電槽内にセットし、電解液を注入した際に、電解液と未化成極板の表面との反応のみならず、電解液が内部に染み込んで酸化鉛と反応する時間も遅延でき、電解液との反応を最小限に抑えて電解液濃度の急激な低下を抑制し、その結果、鉛イオンの溶解度が下がり、短絡の発生を防止することができる。即ち、基板への活物質充填工程後直ちに極板表面を濃度の高い希硫酸で処理した未化成極板の表面は三塩基性硫酸鉛や四塩基性硫酸鉛となり、表面に硫酸と反応し得る酸化鉛が残ってしまう。
【0017】
一方、本発明のように熟成後に表面を希硫酸で処理することにより、電槽化成時に電解液と反応し得る酸化鉛量を大幅に減らすことがでる。また、かかる工程後に処理することで、ごく薄い表面部分のみが溶解して極板表面の気孔を閉塞し、電解液が極板の内部へ浸透する時間を遅らせる一方、電池性能への影響も回避することができる。
【0018】
活物質充填工程と乾燥工程の間に希硫酸で処理した未化成極板を更に熟成工程後に希硫酸で処理することは、本発明の処理時間の短縮化や用いる希硫酸の比重を下げられる点で有効である。
【0019】
(実験1)
以下に、希硫酸の比重と硫酸鉛層の厚さとの相関関係の確認を行った。
【0020】
(未化成負極板の作製)
まず、Pb−Ca合金で鋳造式基板を製造した。鋳造した基板は100℃で1時間熱処理を施し時効硬化させた。そして、公知のボールミル法により酸化鉛100重量部にカーボンブラック粉末0.2重量部、硫酸バリウム粉末1.0重量部を夫々添加し、乾式混合を行った。次いで、リグニン粉末を0.3重量部加え、その後、イオン交換水を加えながら混練し、更に比重1.36の希硫酸を10重量部加えながら混練し、負極活物質ペーストを作製した。この負極活物質ペーストを前記負極基板に充填し、その後、予備乾燥を施し、雰囲気温度40℃ 、湿度95%の雰囲気中で24時間熟成し、乾燥して負極未化成板を作製した。
なお、イオン交換水の添加量は、出来上がった負極活物質ペーストのカップ密度が135g/2inとなる様に調整しながら行った。
【0021】
(未化成正極板の作製)
まず、Pb−Ca合金で鋳造式基板を製造した。鋳造した基板は100℃で1時間熱処理を施し時効硬化させた。そして、公知のボールミル法により酸化鉛100重量部にイオン交換水10重量部、更に比重1.27の希硫酸を10重量部加えながら混練し、正極活物質ペーストを作製した。この正極活物質ペーストを前記正極基板に充填し、その後、予備乾燥を施し、雰囲気温度40℃ 、湿度95%の雰囲気中で24時間熟成し、乾燥して正極未化成板を作製した。
なお、正極活物質ペーストのカップ密度は140g/2inであった。
【0022】
(希硫酸処理)
1.浸漬
前記作製した負極未化成板および正極未化成板を夫々50枚ずつ密着しない程度に極板懸垂具に互いに多少の隙間を存して懸垂して1個の束とし、比重1.00〜1.45(20℃換算)(表1参照)の希硫酸槽に垂直に30秒間浸漬し、その後60℃で1時間乾燥を行った(実験1〜10)。
この際、負極未化成板および正極未化成板は別々に希硫酸槽に投入し希硫酸処理を行った。
2.噴霧
前記作製した負極未化成板および正極未化成板を夫々50枚ずつ密着しない程度に極板懸垂具に互いに多少の隙間を存して懸垂して1個の束とし、比重1.00〜1.45(20℃換算)(表2参照)の希硫酸を負・正未化成極板の表面(表裏面)に均一に30秒間噴霧し、その後60℃で1時間乾燥を行った(実験11〜20)。
ここで、前記噴霧は、負極未化成板と正極未化成板を夫々所定数束ねて極板の束とし、前記極板の束の上部から所定時間行った。
なお、希硫酸処理の時間が60秒程度であれば、夫々の極板を希硫酸槽に浸漬する場合に比べ、噴霧する方が希硫酸の使用量を削減することが可能となり、コストの面で有利である。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
(硫酸鉛総厚み測定)
前記希硫酸処理を行った夫々の負極未化成板(実験1〜20)について、負極未化成板表面の硫酸鉛層の厚み測定を行った。前記硫酸鉛層の厚みの測定は、夫々の作製した負極未化成板の任意の点9点(極板の縦横を等間隔で9点)に関し、夫々の点をSEMを用いて断面測定を行い、各々の点の硫酸鉛層の厚みの平均値を求めた。
その結果を図1に示す。
【0026】
図1において、横軸(x軸)は希硫酸の比重、縦軸(y軸)は平均硫酸鉛層厚み、●印は希硫酸槽への未化成負極板の浸漬、▲印は希硫酸を未化成負極板へ噴霧したものを夫々示したものである。
【0027】
図1に示されるように、熟成後の未化成負極板の希硫酸処理(浸漬および噴霧)は、希硫酸濃度が増加するにつれ平均硫酸鉛層厚みが略一定の厚みで増加すると言った線形性が得られた。また、前記希硫酸処理は同一処理時間で、同一の希硫酸比重とした場合、極板を浸漬した場合に比し極板を噴霧の方が、平均硫酸鉛層厚みを薄く形成することが可能であることが分かった。
以上のことにより、希硫酸比重によって平均硫酸鉛層厚みを推定することが可能であり、また、平均硫酸鉛層厚みを薄く形成したい場合には、希硫酸処理は極板を希硫酸に浸漬するより極板に希硫酸を噴霧の方が適していることが分った。
【実施例1】
【0028】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0029】
未化成負極板および未化成正極板の作製は、実験1と同様の方法で行った。次いで、 作製した負極未化成板および正極未化成板を夫々50枚ずつ束ねて、比重1.20(20℃換算)の希硫酸槽に垂直に10〜40秒間浸漬し(希硫酸処理)、その後60℃で1時間乾燥を行った(本発明1〜7)。
この際、負極未化成板および正極未化成板は別々の希硫酸槽にて希硫酸処理を行った。
そして、夫々作製した希硫酸処理を行った未化成正極板5枚と未化成負極板6枚とをAGMセパレータ(合計10枚)を介して交互に積層し、その後、同極板同士をCOS方式で溶接して極板群とした。次いで、前記極板群をポリプロピレン製の6セルモノブロック電槽に夫々挿入し、この電槽にヒートシールにより蓋をし、前記蓋の液口から比重1.15の希硫酸電解液を注入し、10min経過後のものと、60min経過後のものを用意し電槽化成を行い、5時間率容量が10Ahの12V密閉形鉛蓄電池を夫々50個製造した。
なお、前記電解液には硫酸アルミニウム18水塩を30g/l溶解した硫酸水溶液を用い、電解液比重は化成後の上がり比重が1.32になるように調整した。
また、極板群の圧迫度は50kPaになるように調整を行った。
また、前記電槽化成は1Aで1時間通電した後、電流を4Aに上げて正極活物質の正極理論容量に対して250%になるように行った。
【0030】
(比較例)
浸漬時間を本発明規定外(浸漬時間:10秒未満および40秒超過)とした以外は、実施例1と同様に希硫酸処理を行い、その後60℃で1時間乾燥を行った。その後、実施例1と同様に希硫酸電解液を注入し、10min経過後のものと、60min経過後のものを用意し電槽化成を行い、5時間率容量が10Ahの12V密閉形鉛蓄電池を夫々50個製造した(比較例1〜5)。
(従来例)
希硫酸処理、および、その後の乾燥を行わなかった以外は実施例1と同様に未化成負極板および未化成正極板の作製を行った。その後、実施例1と同様に希硫酸電解液を注入し、10min経過後のものと、60min経過後のものを用意し電槽化成を行い、5時間率容量が10Ahの12V密閉形鉛蓄電池を夫々50個製造した。
【実施例2】
【0031】
未化成負極板および未化成正極板の作製は、実験1と同様の方法で行った。次いで、 作製した負極未化成板および正極未化成板を夫々50枚ずつ束ねて、比重1.20(20℃換算)の希硫酸を負・正未化成極板を夫々50数ずつ束ねて極板の束とし、前記極板の束の上部から均一に10〜100秒間噴霧し(希硫酸処理)、その後60℃で1時間乾燥を行った。その後、実施例1と同様に希硫酸電解液を注入し、10min経過後のものと、60min経過後のものを用意し電槽化成を行い、5時間率容量が10Ahの12V密閉形鉛蓄電池を夫々50個製造した(本発明8〜16)。
この際、負極未化成板および正極未化成板は別々に希硫酸の噴霧を行った。
【0032】
(比較例)
噴霧時間を本発明規定外(噴霧時間:10秒未満および100秒超過)とした以外は、実施例2と同様に希硫酸処理を行い、その後60℃で1時間乾燥を行った。その後、実施例1と同様に希硫酸電解液を注入し、10min経過後のものと、60min経過後のものを用意し電槽化成を行い、5時間率容量が10Ahの12V密閉形鉛蓄電池を夫々50個製造した(比較例6〜9)。
(従来例)
希硫酸処理、および、その後の乾燥を行わなかった以外は実施例1と同様に未化成負極板および未化成正極板の作製を行った。その後、実施例1と同様に希硫酸電解液を注入し、10min経過後のものと、60min経過後のものを用意し電槽化成を行い、5時間率容量が10Ahの12V密閉形鉛蓄電池を夫々50個製造した(従来例1)。
【0033】
ここで、前記希硫酸処理を行った夫々の負極未化成板(本発明1〜16、比較例1〜9)および希硫酸処理を行っていない従来例の負極未化成板について、負極未化成板表面の硫酸鉛層の厚み測定を行った。前記硫酸鉛層の厚みの測定は、夫々の作製した負極未化成板の任意の点9点(極板の縦横を等間隔で9点)に関し、夫々の点をSEMを用いて断面測定を行い、各々の点の硫酸鉛層の厚みの平均値およびばらつき(最大値と最小値の差)を求めた。
また、電解液注入後に10min経過したものと、60min経過したものと夫々25個の密閉形鉛蓄電池(本発明1〜16、比較例1〜9および従来例1)を解体して1500枚のセパレータについて短絡の有無を確認した。
更に、前記硫酸鉛層の厚みおよび短絡の有無の確認に使用した以外の夫々作製した25個(夫々合計50個)の5時間率容量が10Ahの12V密閉形鉛蓄電池の5時間率容量(本発明1〜16、比較例1〜9および従来例1)のばらつきを確認した。なお、5時間率容量試験は、放電を放電電流0.1Cで放電末期電圧を10.5Vとし、その後、充電を0.1Cで行った。
夫々の結果を、表3および4に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
表3および表4に示されるように、本発明1〜16および比較例1、比較例6は比較例2〜9に比し硫酸鉛層厚みのばらつきおよび5時間率容量のばらつきが小さいことがわかる。
また、電槽化成終了後の短絡の有無は、電解液注入後に10min経過したものでは本発明1〜15および比較例2〜9は共に短絡は確認されなかった。しかし、電解液注入後に60min経過したものでは、比較例1及び比較例6で短絡が確認され、これは硫酸鉛層厚みが薄いためにデンドライトが発生した際に、容易に異極性の極板にデンドライトが到達し短絡が発生したものと考えられる。
比較例2〜5及び比較例7〜9は本発明1〜15に比し、5時間率容量が低い値を示した。これは、化成効率が低下したためであると考えられる。
なお、表3及び表4に示されるように、希硫酸処理を浸漬とする場合に比し噴霧とすることで硫酸鉛層厚みのばらつきを小さくすることが可能であり、これは浸漬に比し噴霧とすることで硫酸鉛層厚みを薄く制御することが可能であるからであると考えられる。
【0037】
なお、本発明において希硫酸処理時間(浸漬時間や噴霧時間)によって硫酸鉛層の厚みを決定した例を示したが、例えば、前記するように希硫酸の比重と硫酸鉛層の厚さには相関があることから、予め未化成電極を処理する希硫酸の比重と希硫酸処理して形成する硫酸鉛層の厚さとの相関関係を求めておき、次いで、予め硫酸鉛層の厚さと希硫酸処理時間との相関関係求めておき、この両者から得られた一次曲線から所望の平均硫酸鉛層の厚さを求め、其れに対応する希硫酸処理時を算出し、希硫酸処理(浸漬や噴霧)を施しても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板へ活物質ペースト充填し未化成電極を作製し、次いで熟成工程、乾燥工程を経て前記未化成電極を希硫酸処理してなる鉛蓄電池用電極において、前記未化成電極を希硫酸処理して形成する平均硫酸鉛層の厚さを100〜300μmとすることを特徴とする鉛蓄電池用電極。
【請求項2】
基板へ活物質ペースト充填し未化成電極を作製し、次いで熟成工程、乾燥工程を経て前記未化成電極を希硫酸処理してなる鉛蓄電池用電極の作製方法において、予め求めた未化成電極を処理する希硫酸の比重と希硫酸処理して形成する硫酸鉛層の厚さとの相関関係と、予め求めた硫酸鉛層の厚さと希硫酸処理時間との相関関係とから、硫酸鉛層の厚さを求めることを特徴とする鉛蓄電池用電極の作製方法。
【請求項3】
基板へ活物質ペースト充填し未化成電極を作製し、次いで熟成工程、乾燥工程を経て前記未化成電極を希硫酸処理してなる鉛蓄電池用電極において、前記希硫酸処理による硫酸鉛層の形成は、未化成電極を希硫酸に10〜40秒間浸漬することを特徴とする鉛蓄電池用電極の作製方法。
【請求項4】
基板へ活物質ペースト充填し未化成電極を作製し、次いで熟成工程、乾燥工程を経て前記未化成電極を希硫酸処理してなる鉛蓄電池用電極において、前記希硫酸処理による硫酸鉛層の形成は、未化成電極の少なくとも表面に希硫酸噴霧を10〜90秒間施すことを特徴とする鉛蓄電池用電極の作製方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−277807(P2010−277807A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128507(P2009−128507)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】