説明

鉛蓄電池

【課題】化成効率を向上させるとともに、活物質粒子間の結合力の低下を抑制することで寿命性能を向上させた鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】本発明の鉛蓄電池は、正極活物質原料として、鉛粉と鉛丹との混合物を用いて作製した正極板を備えるので、鉛丹が硫酸と反応して電気伝導性の高いPbOを生成するため、化成効率が向上する。また、平均粒子径が2μm以下の鉛丹を混合するから、活物質強度が弱い部分の偏在が起こり難い。その結果、活物質全体の劣化の要因となっている活物質の局部的な軟化が起こり難いので、活物質粒子間の結合力の低下を抑制することができ、寿命性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池(以下、単に「電池」ともいう)の化成効率を向上させる方法として、従来、正極活物質原料の鉛粉に鉛丹を添加するという技術が知られている。
【0003】
鉛丹を正極活物質原料に添加すると、鉛丹が硫酸と反応して電気伝導性の高いPbOを生成するため、化成効率は向上するが、活物質粒子間の結合力が低下して、早期に寿命に至るという問題があった。
【0004】
この活物質粒子間の結合力の低下という問題を解決する方法として、鉛丹化率が70〜90質量%の低鉛丹化率鉛丹を使用する方法(例えば、特許文献1を参照)や、平均粒子径が1〜10μmのPbOと平均粒子径が4μm以上の鉛丹との混合物を使用する方法(特許文献2を参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平6−76822号公報
【特許文献2】特開平11−135111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の方法において使用される、鉛丹化率が70〜90質量%の低鉛丹化率鉛丹には、鉛蓄電池の正極活物質原料として一般的に用いられる鉛丹化率が98質量%以上の高鉛丹化率鉛丹と比較して、正極活物質粒子間の結合に重要な役割を果たす金属PbやPbOが多く含まれている。
【0006】
したがって、特許文献1に記載の方法によれば、化成効率の向上ができ、高鉛丹化率鉛丹を添加して作製された正極活物質よりも活物質粒子間の結合も強化されることから、寿命性能の向上もできるというものである。しかし、単に鉛丹化率が70〜90質量%である低鉛丹化率鉛丹の混合量を40質量%以下にするのがよいということが開示されているに過ぎず、そのメカニズムに言及されたものではない。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法により正極活物質を作製した場合にも、正極活物質粒子間の結合力が充分に強化されない。これは以下の理由によると考えられる。
【0008】
鉛粉に鉛丹を混合して作製された正極活物質においては、結合強度の強い部分(鉛粉の含まれる部分)と、結合強度の弱い部分(鉛丹の含まれる部分)とが混在した状態になっている。平均粒子径が大きい鉛丹を含有する原料から作製された活物質においては、平均粒子径の小さい鉛丹を含有する原料から作製された活物質と比べて鉛丹の分布が均一ではないため、結合強度の弱い部分が偏在し、この部分の活物質が充放電に伴って局部的に軟化し、それが活物質全体の劣化を促進させる要因となるのではないかと考えられる。
【0009】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、化成効率を向上させるとともに、寿命性能を向上させた鉛蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、微細な鉛丹を鉛粉に混合する試みがなされていないことに着目し、微細な鉛丹を鉛粉に混合することで化成効率の向上および寿命性能の向上という目的を達成できるという知見を得た。さらに、本発明者は、微細な鉛丹がジェットミル法を適用することで作製できるということも見い出した。
【0011】
すなわち、請求項1の発明は、正極活物質原料として、鉛粉と鉛丹との混合物を用いて作製した正極板を備える鉛蓄電池であって、前記鉛丹の平均粒子径が2μm以下であることを特徴とする鉛蓄電池である。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記鉛粉の平均粒子径aと前記鉛丹の平均粒子径bとの比(b/a)が、1以下であるところに特徴を有する。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記鉛丹の鉛丹化率と、前記混合物の質量に対する前記鉛丹の質量の割合で表した鉛丹混合比との積で定義される前記混合物中のPb含有率が、5質量%以上、30質量%以下であるであるところに特徴を有する。
【0014】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のものにおいて、前記鉛丹の鉛丹化率が20質量%〜80質量%であるところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、正極活物質原料として、平均粒子径が2μm以下の粒子径の小さい鉛丹を使用するから、活物質強度が弱い部分(鉛丹部分)の偏在が起こり難い。その結果、活物質の局部的な劣化によって促進される活物質全体の劣化が起こり難いので、活物質粒子間の結合力の低下を抑制することができ、寿命性能を向上させることができる。
【0016】
また、正極活物質原料として、鉛粉と鉛丹との混合物を用いて作製した正極板を備えるから、鉛丹が硫酸と反応して電気伝導性の高いPbOを生成するため、化成効率が向上する。
【0017】
本発明においては、鉛丹が原料中で均一に分散して、より活物質強度の弱い部分の偏在が起こり難くするという観点から、鉛粉の平均粒子径aと前記鉛丹の平均粒子径bとの比(b/a)は、1以下であることが好ましい。
【0018】
また、化成効率の向上と寿命性能の向上とのバランスをとるという観点から、鉛粉と鉛丹との混合物中のPb含有率(以下、鉛丹含有率ともいう)が、5質量%以上、30質量%以下であることが好ましい。
【0019】
さらに、寿命性能を向上させようとする場合には、鉛丹の鉛丹化率は20質量%〜80質量%であることが好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の鉛蓄電池は、正極活物質原料として、鉛粉と鉛丹との混合物を用いて作製した正極板を備える。
【0021】
本発明において、鉛粉としては、例えば、ボールミル法で製造した鉛粉を分級して得られる所定の平均粒子径のものを用いる。
【0022】
本発明において、鉛丹としては、例えば、前記のボールミル法で製造した鉛粉を420℃で所定の鉛丹化率に達するまで焼成した後、粉砕、分級して得られる所定の平均粒子径のものを用いることができる。また、微細な鉛丹を効率よく得られるという観点から、鉛丹をジェットミル法により粉砕するのが好ましい。
【0023】
なお、本明細書において、鉛丹化率とは、鉛丹中のPbの割合、すなわち鉛粉を焼成して鉛丹化した時の焼成物中のPbの割合(質量%)のことをいい、具体的には焼成物中のPbの質量を焼成物の質量で除した値に100を乗じた値で表される。
【0024】
また、鉛丹混合比とは、正極活物質原料中の鉛粉と鉛丹との混合物の質量に対する鉛丹の質量の割合で表される。
【0025】
そして、鉛丹含有率とは、鉛丹化率と鉛丹混合比との積で定義され、鉛粉と鉛丹との混合物中のPb含有量を示すものである。
【0026】
本発明においては、混合物中の鉛丹含有率は5質量%以上、30質量%以下のものが好ましい。鉛丹含有率が5質量%未満であると、化成効率の向上効果が発揮されず、30質量%を超えると寿命性能が低下するからである。そして、寿命性能をさらに向上させる場合にあっては、鉛丹化率が低い鉛丹が好ましく、具体的には、鉛丹の鉛丹化率が20質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0027】
本発明において使用される鉛丹の平均粒子径bは細かいものほど好ましく、具体的には、2μm以下のものが好適である。鉛丹の平均粒子径が2μmを超えると、活物質の結合強度が弱い部分が偏在することで、その部分の軟化が起こり活物質全体の劣化を促進させて早期に寿命に至るからである。
【0028】
また、本発明において使用される鉛丹の平均粒子径bと鉛粉の平均粒子径aとの比(b/a)は1以下であることが好ましい。b/aが1を超えると活物質の結合強度が弱い部分の偏在が起こりやすくなることで、その部分の軟化が起こり活物質全体の劣化を促進させて、早期に寿命に至るからである。
【0029】
本発明の鉛蓄電池用の正極板は、以下のようにして製造される。
鉛粉と平均粒子径が2μm以下の鉛丹とを混合して、これを水及び硫酸で練り合わせ、正極活物質ペーストを作製する。この正極活物質ペーストを使用した正極板を用いて公知の方法で電池を作製すると、本発明の鉛蓄電池が得られる。
【0030】
<実施例>
以下、本発明を具体的に適用した実施例について説明する。
(1)鉛粉および鉛丹の調製
鉛粉として、ボールミル法で製造した鉛粉を分級して所定の平均粒子径のものを調製し、鉛丹として、ボールミル法で製造した鉛粉を420℃で所定の鉛丹化率に達するまで焼成した後、ナノジェットマイザー(アイシンナノテクノロジー社製、品番:NJ−100)を用いて粉砕し、分級して所定の平均粒子径のものを調製した。鉛粉および鉛丹の平均粒子径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製:SALD−2200)を用い、分散媒にイソブタノールを用い超音波振動を加えて行った。ここでは、平均粒子径を粒子体積基準における50%粒子径(メジアン径)とした。
【0031】
(2)鉛蓄電池用正極板の作製
鉛粉と鉛丹とを混合したものを水及び希硫酸で練合して正極活物質ペーストを作製し、これを鉛合金格子に充填した後、熟成乾燥して未化成の正極板を作製した。比較のために、鉛粉のみを使用した正極板も作製した(試験番号17の電池の正極板として使用)。
【0032】
なお、正極板作製の際に使用した鉛粉の平均粒子径a、鉛丹の平均粒子径b、鉛丹の鉛丹化率、鉛粉と鉛丹との混合物に対する鉛丹の混合比および混合物中の鉛丹含有率の詳細は、各実施例群中において示す。
【0033】
(3)電池の作製
(2)で作製した未化成の正極板と、常法により作製した負極板とをセパレータを介して交互に積層し、電槽に挿入した後、比重1.23(20℃)の希硫酸を注液し正極活物質理論容量の180%まで充電することで化成を行い2V25Ahの液式鉛蓄電池を2個ずつ作製した。作製した電池のうち1個は化成後解体し、すべての正極板の正極活物質中のPbO量の分析に供し、他の1個は充放電サイクル試験(寿命試験)に供した。
【0034】
<電池性能評価試験>
上記の方法により作製した電池について、以下の手順で電池性能試験を行った。
(1)充放電サイクル試験(寿命試験)
電池を、温度40℃で、5Aで2時間放電し、5Aで2.5時間充電して、これを1サイクルとして10サイクルごとに容量試験(5Aで1.7Vまで放電)を行い、放電容量が15Ahを下回った時点で寿命に至ったと判定した。寿命に至ったときのサイクル数を寿命試験サイクル数とし、この値が大きいほど寿命性能が高いということを示す。
【0035】
(2)化成後のPbO量の分析試験(化成効率の評価試験)
鉛蓄電池の正極活物質は化成によってPbOや塩基性硫酸鉛からPbOに変化するため、化成後の正極活物質中のPbO量を比較することで化成効率を評価した。以下、具体的に説明する。
【0036】
まず、電槽化成後の正極活物質を水洗して硫酸を除去し、乾燥後、粉砕する。次に、粉砕した正極活物質(試料)に酢酸−酢酸アンモニウム溶液と0.1Nのチオ硫酸ナトリウム溶液とを加えて撹拌し、完全に溶解させた。
【0037】
この試料溶液に、デンプン溶液を加えて、0.1Nのヨウ素溶液を滴下して、ヨウ素デンプン反応による紫色の呈色を示した時点を終点として、溶液中に残っているチオ硫酸ナトリウムイオンを滴定した。空実験も同様に行い、滴定に使用したヨウ素溶液の量から次式を用いて化成後のPbO量(質量%)を算出した。
PbO量(質量%)=[0.01196×(b’−b)×f]/S×100
b’:空実験で滴定時に消費したヨウ素溶液の使用量(ml)
b:試料の滴定に消費したヨウ素溶液の使用量(ml)
f:ヨウ素溶液のファクター
S:試料の量(g)
PbO量が多いほど、化成効率が高いことを示し、PbO量が90質量%以上であれば、鉛丹を添加せずに作製された電池(試験番号17;PbO量は82質量%)よりも、化成効率が向上したと判断した。
【0038】
<実施例群1>
鉛丹の平均粒子径bの寿命性能への影響を調べるために、種々の平均粒子径bの鉛丹(鉛丹化率は98質量%)を種々の粒子径aの鉛粉に混合(混合比は0.2)して作製した正極板を用いて試験番号1〜16の電池を作製し、充放電サイクル試験を行い寿命性能を評価した。使用した鉛粉の平均粒子径a、鉛丹の平均粒子径b、b/aおよび試験結果を表1に示した。
さらに、表1の結果を図1および図2にグラフ化した。
【0039】
図1は、鉛丹の平均粒子径ごとの寿命性能を示したグラフであり、縦軸は寿命サイクル数、横軸は鉛粉の平均粒子径(μm)を示す。図2はb/aと寿命サイクル数との関係を鉛丹の平均粒子径ごとに示したグラフであり、縦軸は寿命サイクル数、横軸はb/aを示す。図1において◇、△、□、○はそれぞれ、鉛丹の平均粒子径が0.5μm、1μm、2μm、4μmのものを示し、図2の◇、△、□は図1と同様である。
【0040】
【表1】

【0041】
表1及び図1に示すように、平均粒子径が2μm以下の鉛丹が混合された正極板を用いた本発明の電池(試験番号5〜16)の寿命試験サイクル数は、100以上であり、平均粒子径が4μmの鉛丹が混合された正極を用いた電池(試験番号1〜4)よりも、大きかった。すなわち、本発明の電池においては、比較例1〜4の電池よりも寿命性能が向上するという結果が得られた。これは以下の理由によると考えられる。
【0042】
鉛粉に鉛丹を混合して作製された正極活物質においては、結合強度の強い部分と、結合強度の弱い部分とが混在した状態になっており、特に平均粒子径が4μm以上の鉛丹を含有する原料から作製された活物質においては、平均粒子径が2μm以下の鉛丹を含有する原料から作製された活物質と比べて、結合強度の弱い部分が偏在する。この結合強度の弱い部分の軟化が、活物質全体の劣化を促進させる要因となるのではないかと考えられる。
【0043】
実施例群1に示す電池のうち、鉛丹の平均粒子径が2μm以下でかつb/aが1以下のもの(試験番号:5,6,9〜11,13〜16)においては、b/aが2以上のもの(試験番号:2〜4,7,8,12)よりも、より良好な結果が得られた(表1および図2を参照)。このことから、鉛丹の平均粒子径bと鉛粉の平均粒子径aとの比(b/a)は1以下であることが好ましいと考えられる。
【0044】
b/aが2以上の電池が、b/aが1以下の電池より寿命性能が劣っていたのは、b/aが1を超える電池においては、鉛丹の平均粒子径bが鉛粉の平均粒子径aと比較して大きいことから、活物質の結合強度が弱い部分の偏在が起こりやすくなり、結合強度が弱い部分の軟化が起こり活物質全体の劣化を促進して、早期に寿命に至ることが原因ではないかと考えられる。
【0045】
<実施例群2>
鉛粉と鉛丹との混合物中の鉛丹含有率について検討するために、平均粒子径aが2μmの鉛粉と平均粒子径bが2μmで鉛丹化率が98質量%の鉛丹を使用し、鉛丹の混合比を変えることで表に記載の鉛丹含有率となるようにして作製した正極板を用いて電池を作製した(試験番号6、18〜21、b/a=1)。これらの電池と、試験番号17の電池(鉛丹含有率が0質量%)について、化成後の正極活物質中のPbO量の分析試験および充放電サイクル試験を行い、結果を表2に示した。
【0046】
さらに、表2の結果を図3および図4にグラフ化した。
図3は、鉛丹含有率とPbO量との関係を示したグラフであり、縦軸はPbO量(質量%)、横軸は鉛丹含有率(質量%)を示す。図4は鉛丹含有率と寿命サイクル数との関係を示したグラフであり、縦軸は寿命サイクル数、横軸は鉛丹含有率(質量%)を示す。図3および図4中×は鉛丹含有率0%のものを示す。
【0047】
【表2】

【0048】
(1)化成効率について
PbO量は、表2及び図3に示すように、鉛丹含有率が5質量%以上の電池(試験番号:6、18〜21)においては、90質量%以上であり、鉛丹を含有しない電池(試験番号17)よりも化成効率が向上した。これは、正極板に混合されている鉛丹が硫酸と反応して電気伝導性の高いPbOを生成することに起因すると考えられる。
【0049】
PbO量は、鉛丹含有率が5〜30質量%の範囲内では、鉛丹含有率が高くなるにつれて増加するが、鉛丹含有率が30質量%の電池(試験番号20)と鉛丹含有率が40質量%の電池(試験番号21)とでは同じであった。
【0050】
このことから鉛丹含有率が5〜30質量%の範囲では鉛丹含有率を高くすることによる化成効率向上効果が発揮されるが、鉛丹含有率が30質量%を超えた場合には、鉛丹含有率を高くしても、化成効率の向上には寄与しにくくなると考えられる。
【0051】
(2)寿命性能について
寿命サイクル数は、表2及び図4に示すように、鉛丹含有率が高くなるにつれて低下し、鉛丹含有率5〜30質量%の間では緩やかに低下するが、鉛丹含有率が30質量%の電池(試験番号20)と鉛丹含有率が40質量%の電池(試験番号21)とでは、鉛丹含有率が40質量%の電池(試験番号21)の寿命サイクル数の低下が大きかった。このことから、鉛丹含有率は30質量%以下であることが好ましいと考えられる。
【0052】
(3) (1)、(2)より、鉛丹含有率が、5質量%以上、30質量%以下であると、化成効率の向上と寿命性能の向上とのバランスがとれるから、好ましいと考えられる。
【0053】
<実施例群3>
鉛粉に混合する鉛丹の鉛丹化率について検討するために、平均粒子径が2μmの鉛粉を使用し、種々の鉛丹化率の鉛丹(平均粒子径は2μm)を種々の混合比で混合して作製した正極板を用いて電池を作製した(試験番号22〜34)。これらの電池について、充放電サイクル試験および化成後の正極活物質中のPbO量の分析試験を行い、結果を表3に示した。
さらに、表3の結果と表2の結果とを図5および図6にグラフ化した。
【0054】
図5は鉛丹含有率とPbO量との関係を示すグラフであり、縦軸はPbO量、横軸は鉛丹含有量(質量%)を示す。図6は鉛丹含有率と寿命サイクル数との関係を示すグラフであり、縦軸は寿命サイクル数、横軸は鉛丹含有量(質量%)を示す。図5および図6において◇、△、□、○はそれぞれ、鉛丹化率が20、50、80、98のものを示し、×は試験番号17の電池(鉛丹含有率0%)のものを示す。
【0055】
【表3】

【0056】
(1)化成効率について
表2、表3及び図5に示すように、鉛丹化率20質量%、50質量%、80質量%の鉛丹を混合した電池(試験番号22〜34の電池)においても、鉛丹化率98質量%の鉛丹を混合した電池と同様に、PbO量は90質量%以上という結果が得られ、鉛丹を含有しない電池(試験番号17)よりも化成効率が向上した。
【0057】
そして、鉛丹化率が98質量%の鉛丹を使用したときと同様に、鉛丹含有率が5〜30質量%の範囲では、鉛丹含有率が高くなるにつれ、PbO量が増加するが、鉛丹含有率が30質量%と40質量%の電池を比較すると(例えば、試験番号25と26)、PbO量が同じであった。
【0058】
このことから、鉛丹化率98質量%の鉛丹を混合した電池と同様に、鉛丹含有率が5〜30質量%の範囲では鉛丹含有率を高くすることによる化成効率向上効果が発揮されるが、鉛丹含有率が30質量%を超えた場合には、鉛丹含有率を高くしても化成効率の向上には寄与しにくくなると考えられる。
【0059】
(2)寿命性能について
寿命サイクル数は、図6に示すように、鉛丹化率20質量%、50質量%、80質量%の鉛丹を混合した電池においても、鉛丹化率98質量%の鉛丹を含有する電池と同様に、鉛丹含有率が高くなるにつれて低下し、鉛丹含有率5〜30質量%の間では緩やかに低下するが、鉛丹含有率が30質量%の電池と鉛丹含有率が40質量%の電池とでは鉛丹含有率が40質量%の電池の寿命サイクル数の低下が大きかった。
このことから、混合する鉛丹の鉛丹化率にかかわらず鉛丹含有率は30質量%以下であることが好ましいと考えられる。
【0060】
さらに、鉛丹含有率が同じものでも、鉛丹化率が20〜80質量%の鉛丹を使用した電池のほうが鉛丹化率が98質量%の鉛丹を使用した電池よりも寿命サイクル数が大きいという結果が得られた。
【0061】
このことから、さらに寿命性能を向上させようとする場合には、混合する鉛丹の鉛丹化率は20質量%〜80質量%であることが好ましいと考えられる。
【0062】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例においては、混合する鉛丹として鉛丹化率が20、50、80質量%のものを用い、鉛丹含有率が5、10、20、30、40となるように鉛粉に混合したが、鉛丹の鉛丹化率は40質量%、60質量%、70質量%のものであってもよいし鉛丹含有率は15質量%、25質量%などであってもよい。
【0063】
(2)上記実施例においてはb/aが0.125、0.25、0.5、1、2となるような平均粒子径の鉛粉と鉛丹を使用したが、b/aが0.75、0.3などであってもよい。
【0064】
(3)上記実施形態において、鉛丹としては、ボールミル法で製造した鉛粉を420℃で所定の鉛丹化率に達するまで焼成したものを用いたが、バートン法など他の方法で製造した鉛粉を焼成したものであってもよい。
【0065】
(4)上記実施形態において、焼成後の鉛丹の粉砕には、アイシンナノテクノロジー社製のナノジェットマイザーを使用したが、他の機械・装置を用いて粉砕したものであってもよいし、粉砕方法はジェットミル法以外の方法であってもよい。
【0066】
(5)上記実施形態において、試験に供した鉛蓄電池は液式のものであるが、制御弁式のものでも同様の効果が得られるので、本発明を適用することができる。
【0067】
(6)上記実施形態において、正極板は鉛粉と鉛丹とを混合して作製したが、正極活物質の脱落防止のために合成樹脂短繊維を添加してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】混合した鉛丹の平均粒子径ごとに寿命性能を示したグラフである。
【図2】b/aと寿命サイクル数との関係を鉛丹の平均粒子径ごとに示したグラフである。
【図3】鉛丹含有率とPbO量との関係を示したグラフである。
【図4】鉛丹含有率と寿命サイクル数との関係を示したグラフである。
【図5】鉛丹含有率とPbO量との関係を、混合された鉛丹の鉛丹化率ごとに示すグラフである。
【図6】鉛丹含有率と寿命サイクル数との関係を、混合された鉛丹の鉛丹化率ごとに示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質原料として、鉛粉と鉛丹との混合物を用いて作製した正極板を備える鉛蓄電池であって、前記鉛丹の平均粒子径が2μm以下であることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記鉛粉の平均粒子径aと前記鉛丹の平均粒子径bとの比(b/a)が、1以下であることを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記鉛丹の鉛丹化率と、
前記混合物の質量に対する前記鉛丹の質量の割合で表した鉛丹混合比との積で定義される前記混合物中のPb含有率が、5質量%以上、30質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記鉛丹の鉛丹化率が20質量%〜80質量%であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−243679(P2008−243679A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84320(P2007−84320)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(304021440)株式会社ジーエス・ユアサコーポレーション (461)
【Fターム(参考)】