説明

鉛蓄電池

【構成】 鉛蓄電池は正極板と、負極板と、硫酸とアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含む電解液を備え、負極板の負極活物質と正極板の正極活物質との質量比が0.6以上0.85以下で、かつ電解液中のアルミニウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.2mol/L以下、リチウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.3mol/L以下である。
【効果】 高容量で、低温高率放電性能とアイドリングストップ寿命とに優れた鉛蓄電池が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アイドリングストップ車、充電制御車等では、蓄電池へ充電する機会が制限され、その一方でアイドリングストップ後のエンジンの再起動等に見られるように、蓄電池から取り出す電力が増している。このため高容量の鉛蓄電池が必要とされている。発明者は、鉛蓄電池の正極活物質量を負極活物質量よりも増すことにより、蓄電池の5時間率容量等の容量を増すことを検討した。しかし負極活物質量と正極活物質量との質量比を0.85以下とすると、低温高率放電性能が低下すると共に、アイドリングストップの繰り返しにより負極へ多量の硫酸鉛が蓄積することを見出した。そこで、鉛蓄電池の容量を増しながら、低温高率放電性能を維持し、かつアイドリングストップの繰り返しによる硫酸鉛の蓄積を抑制することが必要になる。
【0003】
ここで関連する先行技術を示す。特許文献1(WO2007/036979)は、
・ 鉛蓄電池の電解液にアルミニウムイオンを含有させると、負極への硫酸鉛の蓄積が抑制され、
・ 鉛蓄電池の電解液にリチウムイオンを含有させると、5時間率容量が増加するとしている。
しかしながら発明者らの実験では、電解液にリチウムイオンを含有させることにより蓄電池の5時間率容量が増加することはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2007/036979
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、鉛蓄電池の5時間率容量等の容量を増しながら、低温高率放電性能を維持し、かつアイドリングストップの繰り返しによる硫酸鉛の蓄積を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、正極板と、負極板と、硫酸とアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含む電解液を備えた鉛蓄電池において、負極板の負極活物質と正極板の正極活物質との質量比が0.6以上0.85以下で、かつ電解液中のアルミニウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.2mol/L以下、リチウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.3mol/L以下であることを特徴とする。
【0007】
発明者の実験によると、負極活物質と正極活物質との質量比を0.6以上0.85以下とし、かつ電解液中のアルミニウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.2mol/L以下、リチウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.3mol/L以下とすることにより、5時間率容量等の容量が大きく、低温高率放電性能に優れ、かつ負極への硫酸鉛の蓄積量が少ない鉛蓄電池が得られる。各要素の影響を個別に検討すると、負極活物質と正極活物質との質量比を0.85以下にすることにより、蓄電池の容量が増す。この一方で、負極活物質と正極活物質との質量比が0.6を下回ると、最適濃度のアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含有する場合でも、低温高率放電性能が低下する。従って、負極活物質と正極活物質との質量比を0.6以上とする。
【0008】
適正濃度のリチウムイオンを含む場合でも、アルミニウムイオン濃度が0.02mol/L未満では負極への硫酸鉛の蓄積を僅かしか抑制できないのに対して、0.02mol/L以上で硫酸鉛の蓄積を充分に抑制できる。またアルミニウムイオン濃度が0.2mol/Lを越えると低温高率放電性能が低下する。従って、アルミニウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.2mol/L以下とする。適正濃度のアルミニウムイオンを含む場合でも、リチウムイオン濃度が0.02mol/L未満では、低温高率放電性能を僅かしか向上させることができない。これに対して、リチウムイオン濃度が0.02mol/L以上で低温高率放電性能を充分に向上させるができる。またリチウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.3mol/L以下の範囲で、低温高率放電性能が向上するとの効果が得られ、硫酸鉛の蓄積を進行させる等の弊害も見られない。従って、リチウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.3mol/L以下とする。
【0009】
好ましくは、電解液中のリチウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.2mol/L以下とする。リチウムイオン濃度が0.2mol/Lを越えると、リチウムイオン濃度を増しても低温高率放電性能の向上は僅かになる。そこでリチウムイオン濃度の上限を0.2mol/Lとすることが好ましい。
【0010】
負極活物質と正極活物質との質量比を0.7以上0.8以下とすると、表1に示すように、鉛蓄電池の5時間率容量等の容量を特に大きくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本願発明の最適実施例を示す。本願発明の実施に際しては、当業者の常識及び先行技術の開示に従い、実施例を適宜に変更できる。
【実施例】
【0012】
Pb-Ca-Sn系合金を用い、ロータリーエキスパンド法により正極格子と負極格子とを作製した。格子の組成は任意で、ロータリエキスパンド法に代えて、レシプロエキスパンド法、重力鋳造法等を用いても良い。
【0013】
正極活物質としてボールミル法で作製した鉛粉に定法に従い合成樹脂繊維を加え、水と希硫酸とでペースト化し、正極格子に充填し、熟成と乾燥とを行い、未化成の正極板とした。負極活物質として同様にボールミル法で作製した鉛粉に、定法に従い合成樹脂繊維とBaSO4とリグニンとカーボンブラックとを加え、水と希硫酸とでペースト化し、負極格子に充填し、熟成と乾燥とを行い、未化成の負極板とした。ペーストを充填する際に、負極側と正極側との活物質の質量比が、1,0.9,0.85,0.8,0.75,0.6,0.55の7段階となるように、ペースト質量を変化させて充填した。活物質の質量比が1と0.9は従来例に相当し、0.85〜0.55が従来例よりも質量比を小さくした範囲である。また活物質の質量比を変える際に、負極活物質と正極活物質の合計質量を一定にし、蓄電池の質量が変化しないようにした。なお活物質の質量は、化成後の状態で蓄電池を解体し、負極板と正極板とを水洗して硫酸を除き、次いで乾燥させた負極板と正極板から分離した活物質の質量を意味する。負極活物質と正極活物質の質量比は、極板1枚当たりの活物質の質量比ではなく、同じセル内の複数枚の負極板での合計の負極活物質の質量と、複数枚の正極板での合計の正極活物質の質量との比である。鉛粉の製造方法と製造条件は任意で、鉛粉への添加物も任意である。
【0014】
未化成の負極板をポリエチレンの多孔質セパレータで包み、未化成の負極板と未化成の正極板とを互い違いに積層した。次いで積層体の負極板の耳部をストラップで互いに接続し、正極板の耳部をストラップで互いに接続し、未化成のエレメントとした。エレメントを電槽内に直列に6組収納し、水と、0〜0.3mol/Lの範囲のアルミニウムイオンと0〜0.3mol/Lの範囲のリチウムイオンとを含有する希硫酸とを加え、定法に従った電気量の電槽化成によりQ-55タイプの鉛蓄電池とした。なお電槽化成に代えてタンク化成等を行っても良い。
【0015】
アルミニウムイオンは硫酸アルミニウムとして加え、リチウムイオンは硫酸リチウムとして加えたが、希硫酸に可溶な塩、酸化物、水酸化物等であれば、添加形態は任意である。また電解液は希硫酸とアルミニウムイオンとリチウムイオンの他に、例えば0.02mol/L以下のナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン等を含んでいても良い。各蓄電池は、活物質の質量比とアルミニウムイオン濃度とリチウムイオン濃度を異ならせた他は、同一の材料を同一の条件で処理して作製した。また電槽へ注入した電解液は、20℃で比重が1.230の希硫酸に、硫酸アルミニウムと硫酸リチウムとを溶解したものである。
【0016】
負極活物質と正極活物質の質量比、及び電解液のアルミニウムイオンとリチウムイオン含有量の組み合わせ毎に、鉛蓄電池を3個ずつ作製し、JIS D 5301:2006の9.5.2b)に規定する5時間率容量(5hR容量)を測定し、次いでJIS D 5301:2006の9.5.3b)に規定する高率放電特性試験を行った。高率放電特性試験では、-15℃の環境で所定の電流値で放電しながら、端子電圧が6Vへ低下するまでの時間を測定する。これは低温での高率放電性能を試験するものなので、低温高率放電性能の試験として行った。次いで、電池工業会の規格である、SBA S 0101:2006のアイドリングストップ寿命試験を行った。アイドリングストップ寿命試験では、45Aで59秒と300Aで1秒の放電、及び充電電圧14V(制限電流100A)での60秒の充電とから成るサイクルを行い、3600サイクル毎に40〜48時間放置する。そして300A放電時に端子電圧が7.2V未満となると寿命とする。ここではアイドリングストップ寿命試験の条件を変更し、18,000サイクル後に鉛蓄電池を解体して、負極での硫酸鉛の蓄積量を測定した。
【0017】
以上のようにして、5hR容量と低温ハイレート放電持続時間と負極への硫酸鉛の蓄積量を測定した。負極活物質と正極活物質の質量比が1:1の比較例の試料A1での性能を100%とする相対値で、3個の蓄電池の平均値により、各鉛蓄電池の性能を表1に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
表1から明らかなように、負極活物質と正極活物質との質量比を1よりも小さくすると、5hR容量が増加し、5hR容量は質量比が0.75で最大となり、0.7以上0.85以下で特に大きな5hR容量が得られる。しかしアルミニウムイオンもリチウムイオンも含まない電解液では、質量比を1未満にすることにより、低温高率放電性能とアイドリングストップ寿命性能とが低下する。これに対して、例えば各0.1mol/Lのアルミニウムイオンとリチウムイオンとを電解液に含有させると、低温高率放電性能とアイドリングストップ寿命性能とが向上する。例えば電解液がアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.1mol/L含有する場合、質量比が0.85以下0.6以上の試料での低温高率放電性能とアイドリングストップ寿命性能とを総合すると、電解液がアルミニウムイオンとリチウムイオンとを各0.1mol/L含有しかつ質量比が0.9の試料A3と同等である。従って、比較例の試料A3を基準として実施例では、低温高率放電性能とアイドリングストップ寿命性能とを維持したままで、5hR容量が増加している。
【0020】
アルミニウムイオンの濃度の影響を検討すると、試料A7のように0.01mol/Lではアイドリングストップ寿命性能の改善が不十分で、試料A8のように0.02mol/Lとするとアイドリングストップ寿命性能が著しく改善される。従って、アルミニウムイオン濃度は0.02mol/L以上とする。この一方で、試料A10のようにアルミニウムイオン濃度を0.3mol/Lとすると、低温高率放電性能が顕著に低下し、しかもアイドリングストップ寿命性能の点では頭打ちである。従って、アルミニウムイオン濃度は0.02mol/L以上0.2mol/L以下とする。
【0021】
リチウムイオンの濃度の影響を検討すると、試料A11のように0.01mol/Lでは低温高率放電性能が不十分で、試料A12のように0.02mol/Lとすると低温高率放電性能が著しく改善される。従って、リチウムイオン濃度を0.02mol/L以上とする。リチウムイオン濃度を0.02mol/Lから0.2mol/Lへと増すと低温高率放電性能が改善されるが、0.2mol/Lを超過させても蓄電池の性能はほとんど改善しない(試料A14,A15)。このためリチウムイオン濃度を0.02mol/L以上0.3mol/L以下、好ましくは0.02mol/L以上0.2mol/L以下とする。
【0022】
試料A29に見られるように、負極活物質と正極活物質との質量比を0.55まで小さくすると、各0.1mol/Lのアルミニウムイオンとリチウムイオンを含有させても、低温高率放電性能が不十分となる。これは負極活物質と正極活物質の質量比が小さ過ぎるため、正極活物質の化成性が低下したことによるものと推定できる。
【0023】
実施例では、低温高率放電性能とアイドリングストップ寿命性能とを保ちながら、鉛蓄電池の5時間率容量等の容量を増加させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、硫酸とアルミニウムイオンとリチウムイオンとを含む電解液を備えた鉛蓄電池において、
負極板の負極活物質と正極板の正極活物質との質量比が0.6以上0.85以下で、かつ電解液中のアルミニウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.2mol/L以下、リチウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.3mol/L以下であることを特徴とする、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記電解液中のリチウムイオン濃度が0.02mol/L以上0.2mol/L以下であることを特徴とする、請求項1の鉛蓄電池。
【請求項3】
負極活物質と正極活物質との質量比が0.7以上0.8以下であることを特徴とする、請求項1または2の鉛蓄電池。

【公開番号】特開2013−73716(P2013−73716A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210433(P2011−210433)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】