説明

銀ナノ粒子から低プロセス温度で高導電性構造体を形成するための新規なプロセス及び高導電性構造体

【課題】低加熱温度を用いたプロセスにより形成された銀含有ナノ粒子を含む高導電性構造体、及びその形成方法を提供する。
【解決手段】複数の銀含有ナノ粒子を含む液体組成物20を堆積させて基板上に組成物構造体24を形成する工程;前記組成物構造体24を加熱して高導電性構造体40を形成する工程;ならびに加熱工程の温度を低下させるために前記組成物構造体24に組成物薬剤30を付与する工程を含む、高導電性構造体40を形成する方法、ならびに該方法により形成される高電導性構造体40が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して導電性構造体(conductive feature)に関する。より具体的には、本発明は、銀含有ナノ粒子を含有する高導電性構造体および該高導電性構造体を低温で形成するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
銀ナノ粒子については、電子デバイスの高導電性構造体および印刷可能な(printable)導電性材料として使用ことが広く関心を集めている。これは、銀は金よりコストがはるかに低く、かつ銅よりもはるかに優れた環境安定性を有するためである。銀ナノ粒子を含有する高導電性構造体を基板上に形成するための従来の方法は2つの工程を含む。第1工程は、銀ナノ粒子を含有する液体組成物を堆積させて基板上に組成物構造体(composition feature)を形成することを含む。第2工程は、堆積された構造体を加熱して高導電性構造体を形成することを含む。
【0003】
従来のプロセスの途中、銀含有ナノ粒子を安定化するために、大きなまたはかさ高い(bulky)安定化剤を使用することがしばしばある。そのため、通常、上記第2工程において用いられる加熱温度が高くなり、加熱時間が長くなってしまい、ポリエチレンテレフタラート(PET)等のプラスチック基板を使用する場合とは相性が良くない。例えば、高温で、特に長時間加熱されると、PET基板は寸法が変形するか、または化学的に劣化することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7,737,497号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、先行技術のこれらおよびその他の問題を克服し、かつより低い加熱温度を用いたプロセスにより銀含有ナノ粒子を含む高導電性構造体を形成することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様を以下に記載する。
<1> 複数の銀含有ナノ粒子を含む液体組成物を堆積させて基板上に組成物構造体を形成する工程;
前記組成物構造体を加熱して高導電性構造体を形成する工程;ならびに
加熱工程の温度を低下させるために前記組成物構造体に組成物薬剤を付与する工程であって、前記組成物薬剤が、前記堆積工程、前記堆積工程の後であって前記加熱工程より前の工程、および前記加熱工程から選択される工程において付与される、組成物薬剤を付与する工程
を含む、高導電性構造体を形成する方法。
【0007】
<2> 前記組成物薬剤が、カルボン酸、HCl、HNO、HSO、およびHPOからなる群から選択される酸性組成物、またはNaOHおよびNHOHからなる群から選択される塩基を含む、<1>に記載の方法。
【0008】
<3> 有機アミンで安定化された複数の銀含有ナノ粒子を含む液体組成物を堆積させてフレキシブル基板上に組成物構造体を形成する工程;
前記組成物構造体を140℃以下の温度で加熱する工程;ならびに
前記組成物構造体に酸性組成物を付与して高導電性構造体を形成する工程であって、前記酸性組成物が、前記堆積工程、前記堆積工程の後であって前記加熱工程より前の工程、および前記加熱工程からなる群から選択される工程において付与される、酸性組成物を付与する工程
を含む、<1>又は<2>に記載の方法。
【0009】
<4> 有機アミンで安定化された複数の銀含有ナノ粒子を含む液体組成物を堆積させて、ポリエチレンテレフタラートを含む基板上に1つまたは複数の組成物構造体を形成する工程;
前記1つまたは複数の組成物構造体を120℃以下の温度でアニールする工程;ならびに
前記1つまたは複数の組成物構造体に酸性組成物を付与して1つまたは複数の高導電性構造体を形成する工程であって、前記酸性組成物が、前記堆積工程、前記堆積工程の後であって前記加熱工程より前の工程、および前記加熱工程からなる群から選択される工程において塗布される、酸性組成物を付与する工程、
を含む、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の方法。
【0010】
<5> 前記組成物構造体への前記酸性組成物の付与により、前記有機アミンで安定化された複数の銀含有ナノ粒子の有機アミンとのネットワーク、複合体、または塩が形成され、
前記有機アミンが、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノオクタン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ヘキシルデカンアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、およびこれらの混合物からなる群から選択される、<4>に記載の方法。
【0011】
<6> <1>〜<5>のいずれか1つに記載の方法によって形成される高導電性構造体であって、
前記高導電性構造体の厚さが50nm〜10μmであり、電気伝導率が1,000S/cm超である、高導電性構造体。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1A】本発明の種々の実施形態に係る高導電性構造体の形成方法の一例を示す図である。
【図1B】本発明の種々の実施形態に係る高導電性構造体の一例の形成を模式的に示す断面図である。
【図1C】本発明の種々の実施形態に係る高導電性構造体の別の一例の形成を模式的に示す断面図である。
【図1D】本発明の種々の実施形態に係る高導電性構造体の更に別の一例の形成を模式的に示す断面図である。
【図2】対照サンプルと本発明の種々の実施形態に係る種々の本発明の導電性サンプルとの導電率を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態では、安定化された銀含有ナノ粒子(以下、「安定化銀含有ナノ粒子」とも称する)を含む高導電性構造体を約140℃未満、場合によっては約120℃未満の低いプロセス温度で形成するための材料および方法が提供される。一実施形態では、高導電性構造体は、組成物薬剤(composition agent)で処理された組成物構造体をアニールすることで基板上に形成することができる。上記組成物薬剤としては、処理される組成物構造体に対応した、すなわち、組成物構造体の組成の種類に応じて適切なものを選択して使用してよい。
【0014】
上記組成物薬剤には、銀含有ナノ粒子を安定化するために使用される安定化剤に応じて、例えば、酸性組成物および/または塩基性組成物が含まれる。実施形態によって、如何なる特定の理論にも限定されないが、組成物薬剤は、銀含有ナノ粒子の表面で弱いネットワーク、複合体、および/または塩形態を形成している安定化剤と化学結合および/または物理的付着を形成することができ、その結果、より低い温度を用いて、例えば安定化銀含有ナノ粒子から熱により安定化剤を解離させることができるようになる。
【0015】
実施形態によっては、有機アミン類等の1種または複数種の安定化剤を銀含有ナノ粒子の表面に付着させて、安定化銀含有ナノ粒子を形成してもよい。
【0016】
安定化剤は、銀含有ナノ粒子が液体中で凝集するのを最低限に抑えるか防止し、且つ必要に応じて液体中における銀含有ナノ粒子の溶解性または分散性を付与する機能を有し得る。更に、安定化剤は熱により除去することができ、このことは、加熱またはアニールを行うような特定の条件下で安定化剤を銀含有ナノ粒子表面から解離させることができることを意味する。或る実施形態では、安定化剤がそのような温度において銀含有ナノ粒子から熱により解離することで、安定化剤を揮発または気体状態へ分解することができる。
【0017】
或る実施形態では、安定化剤は有機安定化剤であってよい。例示的な有機安定化剤としては、チオールおよびその誘導体、アミンおよびその誘導体、カルボン酸およびそのカルボン酸塩誘導体、ポリエチレングリコール類、ならびにその他の有機界面活性剤が挙げられる。実施形態によっては、有機安定化剤は、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、またはドデカンチオール等のチオール;エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、またはドデシルアミン等のアミン;1,2−エタンジチオール、1,3−プロパンジチオール、または1,4−ブタンジチオール等のジチオール;エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、または1,4−ジアミノブタン等のジアミン;チオールとジチオールとの混合物;およびアミンとジアミンとの混合物からなる群から選択することができる。銀含有ナノ粒子を安定化できるピリジン誘導体(例えば、ドデシルピリジン)および/または有機ホスフィンを含有する有機安定化剤も、本発明の実施形態における安定化剤に含まれ得る。
【0018】
種々の実施形態において、安定化剤は、例えば、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノオクタン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ヘキシルデカンアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリブチルアミン、もしくはトリヘキシルアミン等、またはその混合物を含む有機アミンであってよい。本発明の安定化銀含有ナノ粒子には、1種または複数種の安定化剤を用いてよい。
【0019】
実施形態によって、安定化剤は、化学結合および/または物理的付着により銀含有ナノ粒子と相互作用することができる。化学結合は、例えば、共有結合、水素結合、配位錯体結合、もしくはイオン結合、または種々の化学結合の組合せの形態をとり得る。物理的付着は、例えば、ファンデルワールス力もしくは双極子間相互作用、または種々の物理的付着の組合せの形態をとり得る。
【0020】
銀含有ナノ粒子の表面を安定化剤が被覆する程度は、例えば安定化剤が溶媒中で銀含有ナノ粒子を安定化する能力に応じて、例えば一部被覆から全体被覆までさまざまであり得る。安定化銀含有ナノ粒子については、安定化剤による被覆の程度は個々の銀含有ナノ粒子間でさまざまであってよい。
【0021】
種々の実施形態において、銀含有ナノ粒子の平均粒子サイズは、例えば、約100nm未満、約50nm未満、約25nm未満、または約10nm未満であってよい。本明細書において、粒子サイズは、安定化剤を除いた銀含有粒子コアの平均直径と定義することができる。
【0022】
種々の実施形態において、銀含有ナノ粒子は、銀元素または銀複合材を含んでよい。銀に加えて、銀複合材には、(i)1種または複数種のその他の金属および(ii)1種または複数種の非金属、のいずれかまたは両方が含まれ得る。好適なその他の金属の例としては、Al、Au、Pt、Pd、Cu、Co、Cr、In、およびNi、特に遷移金属、例えばAu、Pt、Pd、Cu、Cr、およびNi、ならびにその混合物が挙げられる。例示的な金属複合材としては、Au−Ag、Ag−Cu、Au−Ag−Cu、およびAu−Ag−Pdが挙げられる。金属複合材中の好適な非金属の例としては、Si、C、Ge、またはその組合せが挙げられる。
【0023】
銀複合材の種々の成分は、例えば、銀含有ナノ粒子全体の約0.01〜約99.9重量%、場合によっては約10〜約90重量%の量で存在してよい。或る実施形態では、銀複合材は、銀およびその他の金属を含む金属合金であって、銀の量が、ナノ粒子全体の例えば少なくとも約20重量%である金属合金、場合によってはナノ粒子全体の約50重量%を超える金属合金であってよい。特に断りのない限り、銀含有ナノ粒子の成分について本明細書に記載する重量百分率には安定化剤は含まれない。
【0024】
種々の実施形態で、有機アミン等の安定化剤は、ナノ粒子と安定化剤との全重量、すなわち安定化剤(有機アミン等)で安定化された銀含有ナノ粒子の全重量の、約5〜約60重量パーセント、約10〜約40重量パーセント、または約15〜約30重量パーセントの量で存在してよい。
【0025】
本明細書において、「高導電性構造体」という用語は、例えば、4探針法で測定される電気伝導率が少なくとも約0.1シーメンス/センチメートル(S/cm)、少なくとも約100S/cm、少なくとも約500S/cm、少なくとも約1,000S/cm、少なくとも約5,000S/cm、少なくとも約10,000S/cm、または少なくとも約20,000S/cmである導電性構造体を指す。
【0026】
実施形態によって、高導電性構造体の厚さは、例えば約5ナノメートル〜約5ミリメートル、場合によっては、約10ナノメートル〜約1000マイクロメートル、例えば約50ナノメートル〜約10マイクロメートル、例えば約60ナノメートル〜約5マイクロメートル、または80ナノメートル〜約1マイクロメートルであってよい。
【0027】
実施形態よって、高導電性構造体は、印刷可能な導電性材料として用いてもよく、電子デバイスに用いてもよい。例えば、高導電性構造体は、電子デバイス中の導電性電極、導電性パッド、導電性トレース、導電線、導電性トラック等の種々の用途に用いることができるが、これらに限定されるものではない。「電子デバイス」という用語は、導電性素子(conductive element)または導電性部品を必要とする薄膜トランジスタ、有機発光ダイオード、RFIDタグ、光電池(photovoltaic)、プリント回路基板、およびその他の電子デバイス等のマクロ電子デバイス、マイクロ電子デバイス、およびナノ電子デバイスを指す。
【0028】
実施形態では、本明細書に記載の低温アニールを用いることで、例えば、PET(ポリエチレンテレフタラート)等のフレキシブル基板等の上に高導電性構造体を形成することができる。本明細書において、「フレキシブル基板」という用語は、ポリマー、プラスチック、またはゴム等でできた基板を指す。「フレキシブル基板」は、例えば140℃を超える高温で、寸法の変形および/または化学的劣化を被り得る。したがって、低温プロセスにより、このような基板の寸法安定性を維持することができる。一実施形態では、大面積への適用には、約120℃以下のプロセス温度が望ましいことがある。
【0029】
図1Aは、高導電性構造体を形成するための例示的な方法100を示す。図1B〜1Dは、本発明の種々の実施形態に係る種々の例示的高導電性構造体の形成を模式的に示す断面図である。図1Aの方法100の説明を図1B〜1Dを参照して記述するが、実施形態によっては、図1Aの方法100のプロセスは図1B〜1Dに示す構成に限定されない。
【0030】
更に、以下の記載では、図1Aの方法100は一連の動作および事象として説明および記載されているが、本発明は、以下に記載されているような動作または事象の順番に限定されないことが理解されよう。例えば、一部の動作は、異なる順序で起こってもよく、且つ/または本明細書に説明且つ/若しくは記載されているる動作若しくは事象とは別の他の動作若しくは事象と同時に起こってもよい。また、本発明の1つまたは複数の態様または実施形態に係る方法を実施するためには、説明されている全ての工程を必要としなくてもよい。更に、本明細書に記載されている動作の1つまたは複数は、1つまたは複数の別々の動作および/または段階で行われてもよい。
【0031】
図1Aの方法100の工程102では、図1Bを参照すると、安定化銀含有ナノ粒子を含む液体組成物20を堆積させて基板10上に組成物構造体24を形成することができる。
【0032】
種々の実施形態において、基板10は、ガラス、ポリイミド、ポリ(エチレンナフタラート)(PEN)、またはPET等を含み得る。一実施形態では、基板10は、約140℃未満、場合によっては約120℃未満等の低温で安定な任意の基板であり得る。
【0033】
本明細書において、安定化銀含有ナノ粒子を含む液体組成物20は、水、炭化水素溶媒、アルコール、ケトン、塩素化溶媒、エステル、またはエーテル等の好適な溶媒も含んでいてよい。好適な炭化水素溶媒の例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、ドデセン、テトラデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、テルピネン、およびイソパラフィン系溶媒等の炭素数が少なくとも5〜約20の脂肪族炭化水素並びにそれらの異性体;およびトルエン、キシレン、エチルトルエン、メシチレン、トリメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、テトラヒドロナフタレン、およびエチルベンゼン等の炭素数約7〜約18の芳香族炭化水素、ならびにそれらの異性体および混合物が挙げられる。好適なアルコールとしては、少なくとも6個の炭素原子を有するものが挙げられ、例えば、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、およびヘキサデカノールが挙げられ;ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、およびデカンジオール等のジオール;ファルネソール、デデカジエノール(dedecadienol)、リナロオール、ゲラニオール、ネロール、ヘプタジエノール、テトラデセノール、ヘキサデセノール、フィトール、オレイルアルコール、デデセノール(dedecenol)、デセノール、ウンデシレニルアルコール、ノネノール、シトロネロール、オクテノール、およびヘプテノール等の不飽和二重結合を含むアルコール;およびメチルシクロヘキサノール、メントール、ジメチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキセノール、テルピネオール、ジヒドロカルベオール、イソプレゴール、クレゾール、およびトリメチルシクロヘキセノール等の不飽和二重結合を有する脂環式アルコール又は不飽和二重結合を有さない脂環式アルコール;等が挙げられる。2種類以上の溶媒を用いる場合、2種以上の溶媒は任意の好適な比率であってよい。例えば、炭化水素とアルコール溶媒とを使用する場合、その比率(炭化水素:アルコール溶媒)は約5:1〜約1:5であってよい。その他の溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ニトロベンゼン、シアノベンゼン、アセトニトリル、および/またはその混合物が挙げられる。
【0034】
一実施形態では、液体組成物20は、例えば、銀含有ナノ粒子の表面に安定化剤分子を有する安定化銀含有ナノ粒子を調製または作成し、調製した安定化銀含有ナノ粒子を適切な液体、有機溶媒、または水に(例えば超音波撹拌および/または機械的撹拌を用いて)溶解または分散させることにより調製することができる。形成された液体組成物は、電子技術用途のための導電性素子の形成に適し得る。
【0035】
種々の実施形態によって、液体組成物20中に存在する安定化された銀含有ナノ粒子の量は、例えば、全液体組成物20の約10〜約90重量%、約15〜約70重量%、または約25〜約60重量%であり得る。実施形態では、液体組成物はインクジェット可能なインク、フレキソ印刷インク、ペースト、またはゲル等の任意の好適な形態であってよい。
【0036】
図1A〜1Bを参照すると、安定化銀含有ナノ粒子の液体組成物20からの高導電性構造体または電気伝導性素子の作製は、基板上に所望により設けられるその他の1つまたは複数の層を形成する前または後の任意の好適な時点で、液体堆積技術を用いて液体組成物20を基板10上に堆積させることで行うことができる。したがって、基板10上への液体組成物20の液体堆積は、基板上または積層された材料を既に有する基板上のどちらかで起こり得る。
【0037】
「液体堆積技術」という用語は、液体コーティングまたは印刷等の液体プロセスを用いた、溶液または分散液である液体組成物を堆積させることを指す。或る実施形態において、印刷、特にインクジェット印刷を採用する場合、安定化銀含有ナノ粒子の液体組成物20をインクと呼ぶことがある。例示的な印刷技術としては、例えば、リソグラフィまたはオフセット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、ステンシル印刷、インクジェット印刷、スタンピング、マイクロコンタクトプリンティング等が挙げられる。
【0038】
図1Bに示すように、堆積または印刷された安定化銀含有ナノ粒子は、基板10上に1つまたは複数の組成物構造体24を形成し得る。種々の実施形態によって、この段階の組成物構造体24は、感知できるほどの電気伝導性を示してもよく、示さなくてもよい。
【0039】
図1Aの工程104では、図1Bを参照すると、液体組成物20から堆積された組成物構造体24に、酸性組成物等の組成物薬剤30を付与することができる。実施形態よって、組成物薬剤30の付与には、例えば、スピンコーティング、ブレードコーティング、ロッドコーティング、ディップコーティング、またはスプレーコーティング等の液体コーティングプロセスが含まれ得る。組成物薬剤30の付与には、インクジェット印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、またはマイクロコンタクトプリンティング等の印刷技術も含まれ得る。或る実施形態では、組成物薬剤30をスプレーコーティングにより塗布してよく、スプレーコーティングには、連続噴霧またはパルス噴霧が含まれ得る。
【0040】
種々の実施形態において、酸性組成物の例としては、酸を含む酸性蒸気または酸性気体等の酸性雰囲気が挙げられる。或る実施形態では、例示的な酸性組成物としては、純粋な酸または溶媒に溶解した酸を含み得る。
【0041】
或る実施形態では、酸性組成物としては、堆積された組成物構造体24の有機アミン安定化銀含有ナノ粒子と結合するものを選択することができる。例えば、例示的な酸性組成物には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、へプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、イコサン酸、エイコセン酸、エライジン酸、リノール酸、パルミトオレイン酸、シトロネル酸、ゲラン酸、ウンデセン酸、ラウリン酸、ウンデシレン酸、およびそれらの異性体等の炭素数2〜約20のカルボン酸並びにその混合物;およびHCl、HNO、HSO、およびHPO等の無機酸が含まれる。例示的な酸性組成物の形成に用いられる溶媒の例としては、水、アルコール、ケトン、エーテル等が挙げられる。実施形態によって、酸性組成物のpKaは約−11〜約5、例えば約0.5〜約5であってよい。
【0042】
或る実施形態では、高導電性構造体を形成するための堆積工程および加熱工程を含む従来のニ工程プロセスに対して、本発明のプロセスには、組成物薬剤30を組成物構造体10に付与する更なる工程104が含まれ得る。
【0043】
如何なる特定の理論にも限定されることを意図するものではないが、銀含有ナノ粒子の表面の安定化剤(例えば有機アミン)と組成物薬剤30(例えば酸性組成物)との間の化学的および/または物理的相互作用により「弱い」安定化部位が形成され得るため、加熱工程106の加熱温度が低温であっても、隣接するナノ粒子がこの弱い安定化部位を介して一緒に融合または成長することができるものと考えられる。
【0044】
上記の低温は、如何なる組成物薬剤も使用しない従来のニ工程プロセスにおいて使用される加熱温度より少なくとも約10℃低い温度であり得る。しかし、従来のプロセスおよび本発明のプロセスで形成された高導電性構造体の電気伝導率は両方とも、同じ形成システムを用いた場合、実質的に同じであり得る。
【0045】
種々の実施形態で、組成物薬剤30には、銀含有ナノ粒子上に弱い安定化部位をもたらすことができる任意の薬剤が含まれ得る。例えば、安定化銀含有ナノ粒子がカルボン酸等の酸により安定化されている場合、組成物薬剤30としては塩基が使用され得る。例えばNHOHまたはNaOH等の塩基は、例示的カルボン酸安定化剤と反応してナノ粒子上に弱い安定化部位を作り出すことができ、それにより、その後の加熱工程で、低下したまたはより低いアニール温度または加熱温度を用いて高導電性構造体を形成することができるようになる。
【0046】
図1Aの工程106において、図1Bを参照すると、基板10上の堆積された組成物構造体24は、組成物薬剤30での処理後、約140℃以下の温度で加熱またはアニールされ得る。このようにして、高導電性構造体40が基板10上に形成され得る。
【0047】
本明細書において「加熱」または「アニール」という用語は、所望の結果を生じさせるのに十分なエネルギーを材料に付与できる任意の技術、例えば熱加熱(例えばホットプレート、オーブン、およびバーナーによる)、赤外(IR)線、マイクロ波照射、またはUV照射、またはその組合せを包含する。
【0048】
堆積された組成物構造体24を例えば約140℃未満または約120℃未満の温度で加熱することにより、組成物構造体24から、それぞれが銀含有ナノ粒子を含む電気伝導性構造体40を形成させることができる。そのような加熱温度は、先に堆積させた且つ/または薬剤処理された組成物構造体20または24およびその下の基板10の特性に悪影響が生じないように選択することができる。
【0049】
加熱は、例えば1秒〜約10時間、または約10秒〜約1時間の範囲で行ってよい。加熱は、空気中で、不活性雰囲気中、例えば窒素若しくはアルゴン下で、または還元雰囲気中、例えば1〜約20体積パーセントの水素を含む窒素下で行ってよい。加熱は、通常の大気圧下で、または減圧下、例えば約1,000〜約0.01mbarで行ってもよい。或る実施形態では、加熱は、空気中にて通常の大気圧で行われる。
【0050】
工程106の加熱は複数の効果を生じ得る。加熱前には組成物構造体24は電気絶縁性であるかまたはその電気伝導率は非常に低いことがあるが、加熱することにより、アニールされた銀含有ナノ粒子を含む高導電性構造体40の電導性が向上し得る。或る実施形態では、アニールされた銀含有ナノ粒子は、合一したまたは部分的に合一した銀含有ナノ粒子となり得る。或る実施形態では、アニールされた銀含有ナノ粒子中において、銀含有ナノ粒子は電気伝導性層を形成するのに十分な粒子間接触を合一せずに達成し得ることも可能である。
【0051】
工程106の加熱は、安定化剤および/または液体(例えば液体組成物20の溶媒)を銀含有ナノ粒子から分離させ得る。ここで分離とは、安定化剤および液体がほとんど電気伝導性構造体40中に組み込まれず、存在したとしても残留量であるという意味である。或る実施形態では、そのような分離は、例えば固体または液体から気体への物質の状態変化(例えば蒸発等)の任意の様式で起こってよい。
【0052】
実施形態によって、図1Aおよび図1B中の本発明の高導電性構造体40を製造するための上記の種々の工程の追加、省略、組合せ、変更、または異なる順序での実施が可能である。例えば、基板10上に堆積させた構造体に組成物薬剤30を付与する工程104は、任意の時点で実施することができ、例えば、図1Bに示すように堆積工程102の後であって加熱工程106の前、堆積工程102中(図1C参照)、および/または加熱工程106中(図1D参照)に実施することができる。
【0053】
具体的には、図1Cに示すように、組成物薬剤30を付与する工程104は、工程102における基板10上への液体組成物20の堆積と同時に実施してもよい。次いで、加熱工程106を行って基板10の上に高導電性構造体40を形成することができる。
【0054】
別の例では、図1Dに示すように、液体組成物20を堆積させて基板10上に組成物構造体24を形成する堆積工程102の後、加熱工程106と同時に組成物薬剤30を付与する工程104を実施してよい。
【実施例】
【0055】
実施例1:組成物薬剤を含めずに加工した対照サンプル
対照サンプルおよび本発明の導電性サンプルの両方に、ヘキシルデカンアミンで安定化させた銀含有ナノ粒子を用いた。トルエン溶媒中に15wt%のヘキシルデカンアミン安定化銀含有ナノ粒子が含まれるように対照サンプルの液体組成物を調製し、例示的な基板としての複数のスライドガラス上にスピンコーティングした。塗布した材料をホットプレート上で、それぞれ約110℃、約120℃、または約140℃の各温度で約10分間アニールした。この対照サンプルの形成中では、塗布されたまたはアニールされたサンプルを処理するための組成物薬剤は用いなかった。
【0056】
形成された対照サンプルの導電率を従来の4探針法を用いて測定した。対照サンプルの導電率は、アニール温度が約110℃、約120℃、または約140℃の場合、それぞれ約4.1×10−4S/cm、4.8×10−2S/cm、または3.9×10S/cmであった。この結果は、アニールの温度が約110℃または約120℃である場合は、組成物薬剤を用いていない対照サンプルでは望ましくない導電率しか得られないことを明確に示している。例えば約3.9×10S/cmの所望の高導電率を達成するためには、少なくとも約140℃の高いアニール温度が必要であった。
【0057】
実施例2:アニール時に酢酸で処理した高導電性膜サンプル
本実施例では実施例1のプロセスおよび材料と同じものを用いた。実施例1の液体組成物を複数のスライドガラス上にスピンコーティングし、ホットプレート上で約100℃または約110℃にて約10分間アニールした。アニール中、本発明の組成物薬剤として酢酸を用い、アニールされている膜サンプルの上に空気中で噴霧した。その結果、110℃でアニールした膜サンプルの導電率は約2.37×10S/cmであり、実施例1の対照サンプルよりも10倍を超えて高かった。この方法を用いると、アニール時に例示的酢酸を付与することで、アニール温度が30℃低くなった。
【0058】
実施例3:アニール時にHClで処理した高導電性膜サンプル
実施例2と比較すると、第2の例示的な酸性組成物である塩酸(HCl)(36.5wt%)を、アニール工程中にホットプレートの側で空中に数滴滴下することで付与(例えば噴霧)した以外は、実施例2と同様にして膜サンプルを得た。得られた膜サンプルは、アニール温度が100℃の場合に約3,970S/cmの導電率を示し、110℃の場合には約5.68×10S/cmの導電率を示した。これは、プロセス温度を約100℃にまで低下させることが可能であることを示している。
【0059】
図2は、実施例1の対照サンプル205と、本発明の種々の実施形態に係る実施例2の導電性膜サンプル220および実施例3の導電性膜サンプル230との例示的な導電率の比較を示す図200である。図2に示すように、例えば約1×10S/cm等の高い導電率を得るためには、対照サンプル205では約140℃を超える加熱温度またはアニール温度が必要であるが、酢酸で処理した導電性サンプル220では約110℃という低い加熱温度しか必要とせず、HClで処理した導電性サンプル230では約105℃という低い加熱温度しか必要としない。
【0060】
実施例4:アニール前にHClで処理した高導電性膜サンプル
実施例3と同様に、HCl蒸気を用いた。実施例3と異なり、堆積させた液体組成物をアニールする前に約1〜2分間HCl蒸気を付与し、その後、アニールプロセスをホットプレート上で約110℃にて約10分間行った。次いで、導電率を測定したところ、約3.5×10S/cmであった。このことは、低いアニール温度を用いて所望の高導電率を得ることができる場合、アニールを実施する前に酸に暴露してもよいことを示している。
【0061】
実施例5:インクジェット印刷された高導電線構造体
本実施例では、実施例1〜4の液体組成物のそれぞれを噴射可能なインクへと配合し、スライドガラス上に印刷して、幅約60μmの線状構造体を含む導電性の微細構造体を形成した。印刷した組成物構造体の上に酢酸を噴霧した。次いで、酸処理された構造体を約110℃で約10分間アニールした。その結果、印刷された線は高導電性になり、酸を塗布しても、印刷された構造体に損傷はなかった。
【符号の説明】
【0062】
102 堆積工程
104 付与工程
106 加熱工程
10 基板
20 液体組成物
24 組成物構造体
30 組成物薬剤
40 導電性構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の銀含有ナノ粒子を含む液体組成物を堆積させて基板上に組成物構造体を形成する工程;
前記組成物構造体を加熱して高導電性構造体を形成する工程;ならびに
加熱工程の温度を低下させるために前記組成物構造体に組成物薬剤を付与する工程であって、前記組成物薬剤が、前記堆積工程、前記堆積工程の後であって前記加熱工程より前の工程、および前記加熱工程から選択される工程において付与される、組成物薬剤を付与する工程
を含む、高導電性構造体を形成する方法。
【請求項2】
前記組成物薬剤が、カルボン酸、HCl、HNO、HSO、およびHPOからなる群から選択される酸性組成物、またはNaOHおよびNHOHからなる群から選択される塩基を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機アミンで安定化された複数の銀含有ナノ粒子を含む液体組成物を堆積させてフレキシブル基板上に組成物構造体を形成する工程;
前記組成物構造体を140℃以下の温度で加熱する工程;ならびに
前記組成物構造体に酸性組成物を付与して高導電性構造体を形成する工程であって、前記酸性組成物が、前記堆積工程、前記堆積工程の後であって前記加熱工程より前の工程、および前記加熱工程からなる群から選択される工程において付与される、酸性組成物を付与する工程
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
有機アミンで安定化された複数の銀含有ナノ粒子を含む液体組成物を堆積させて、ポリエチレンテレフタラートを含む基板上に1つまたは複数の組成物構造体を形成する工程;
前記1つまたは複数の組成物構造体を120℃以下の温度でアニールする工程;ならびに
前記1つまたは複数の組成物構造体に酸性組成物を付与して1つまたは複数の高導電性構造体を形成する工程であって、前記酸性組成物が、前記堆積工程、前記堆積工程の後であって前記加熱工程より前の工程、および前記加熱工程からなる群から選択される工程において塗布される、酸性組成物を付与する工程、
を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物構造体への前記酸性組成物の付与により、前記有機アミンで安定化された複数の銀含有ナノ粒子の有機アミンとのネットワーク、複合体、または塩が形成され、
前記有機アミンが、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ヘキサデシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノオクタン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ヘキシルデカンアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン、プロピルブチルアミン、エチルブチルアミン、エチルペンチルアミン、プロピルペンチルアミン、ブチルペンチルアミン、トリブチルアミン、トリヘキシルアミン、およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法によって形成される高導電性構造体であって、
前記高導電性構造体の厚さが50nm〜10μmであり、電気伝導率が1,000S/cm超である、高導電性構造体。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−44709(P2011−44709A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181695(P2010−181695)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【Fターム(参考)】