説明

銀微粒子およびその製造方法

【課題】特異な構造を備えた銀微粒子を容易に製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】本発明により提供される銀微粒子の製造方法は、銀イオンを含む水溶液を用意すること、脂肪族ヒドロキシ酸金属塩を含む水溶液を用意すること、所定の種類のアミノ酸を用意し、該アミノ酸を上記脂肪族ヒドロキシ酸金属塩水溶液に添加してアミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液を調製すること、上記アミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液を、上記銀イオンを含む水溶液に添加して混合水溶液を調製すること、上記混合水溶液に還元剤を添加すること、および上記混合水溶液中に銀微粒子を析出させること、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸を用いた銀微粒子の製造方法、およびその方法により得られる銀微粒子、ならびに該微粒子を構成要素とする銀粉末材料に関する。
【背景技術】
【0002】
銀の微粒子(粉末材料)は、良好な導電性を生かした導電性材料、非線形光学効果を用いた光学材料、表面ラマン増感分光用の基材、プラズモン共鳴を利用した診断用試薬など、広い分野で利用されている。また、銀をはじめとする金属粒子は、その粒子の大きさ、形態(形状)、結晶構造等により導電性、分光特性、耐熱性、触媒活性等の種々の物性(性能)が異なり得る。このため、銀微粒子の製造に当たっては、該銀微粒子を使用目的に対して好適な物性を有し得る形態で生じさせ、その形態を長期にわたり安定的に維持し得るように製造することが好ましい。したがって、銀微粒子の機能解析を行うには、使用される試薬や反応条件などを変えることにより多様な形態の銀微粒子を製造する方法が求められている。例えば、非特許文献1〜5では、角柱状、立方体状、棒状、または六角皿形状等の形状を有する銀微粒子の製造方法が提案されている。
【0003】
ところで、近年、半導体デバイスの高集積化を実現する微細加工技術の一つとして、原子・分子レベルから機能的な高次構造を組み上げることによりデバイスを作製する方法(いわゆるボトムアッププロセス)が注目されており、特に、秩序化された高次構造を形成するのに自己組織化(セルフアセンブリ(self−assembly)ともいう。)現象を利用する方法の開発が進められている。自己組織化現象の特徴は、有限温度、有限圧力下で、系の自由エネルギーが減少する方向に原子や分子が自発的に秩序構造を形成することにある。また、「自己組織化」の概念は、もともと有機および/または生体分子が分子単位で秩序構造(典型的にはナノスケールの構造)を形成する現象から発生しているが、現在では、対象とされる範囲が有機・生体化学分野から半導体・金属を含む広域な材料分野に広がっている。このことにより、金属微粒子の自己組織化構造の構築および制御が注目され、その製造プロセスの開発および様々な機能付加を通した自己組織化デバイスの構築とその高性能化の実現に向けて、盛んに研究が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Rongchao Jin, et al., Nature, 2003, 425, p.487-490
【非特許文献2】Kimberly A. Dick, et al., Nature Materials, 2004, 3, p.380-384
【非特許文献3】P.C. Lee, et al., J. Phys. Chem., 1982, 86, p.3391-571
【非特許文献4】Prashant V. Kamat, et al., J. Phys. Chem. B, 1998, 102, p.3123-3128
【非特許文献5】L. Rivas, et al., Langmuir, 2001, 17(3), p.574-577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような技術背景に鑑み、本発明の目的は、機能的で特異な構造の銀微粒子を容易に製造し得る方法を提供することである。また、そのような構造(例えば超構造(Super−structure))の銀微粒子からなる銀粉末材料を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、自己組織化構造を有し得る新たな銀微粒子、およびその製造方法を開発するべく、ある種のアミノ酸を用いて金属微粒子を製造する方法を検討し、銀微粒子を製造したところ、上記アミノ酸に加えてクエン酸等の脂肪族ヒドロキシ酸の金属塩を添加することにより、従来では見られなかった新しい形状の立体構造(換言すればスーパーストラクチャ)を備えた銀微粒子が生成され、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明により提供される銀微粒子の製造方法は、銀イオンを含む水溶液を用意すること、脂肪族ヒドロキシ酸金属塩を含む水溶液を用意すること、所定の種類のアミノ酸を用意し、該アミノ酸を上記脂肪族ヒドロキシ酸金属塩水溶液に添加してアミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液を調製すること、上記アミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液を、上記銀イオンを含む水溶液に添加して混合水溶液を調製すること、上記混合水溶液に還元剤を添加すること、および上記混合水溶液中に上記銀微粒子を析出させること、を包含する。
本発明に係る銀微粒子の製造方法では、上記アミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とが含まれる水溶液を、銀イオンを含む水溶液(例えば硝酸銀水溶液(AgNO))に添加し、得られた混合水溶液に還元剤を加えることによって、上記銀イオンが還元されて銀微粒子を上記混合水溶液中に析出させることができる。また、上記混合水溶液に脂肪族ヒドロキシ酸金属塩が含まれていることにより、上記析出した銀微粒子の全体形状は、平面視X字状に凝集した一構成要素が複数積み上がるように階層的に析出、集合して形成されたX字型または花型形状、および/または細い角柱状の一構成要素が放射線状に広がるように析出、集合して形成された球状または半球状(すなわち、一つの態様のスーパーストラクチャ)となり得る。また、この銀微粒子(またはそれらの集合体)全体の大きさは、例えばSEM観察に基づく平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内となり得る。
したがって、本発明に係る銀微粒子の製造方法によると、従来には認められない特異な形状を有する銀微粒子(およびそれらの集合体)を得ることができる。
【0008】
ここで開示される銀微粒子の製造方法の好ましい一態様では、上記アミノ酸として、アラニンを用いる。
かかる構成の製造方法では、アラニン(CHCH(COOH)NH;例えばDL−アラニン)を用いることにより、生成される銀微粒子の核を好ましく形成することができる。また、かかるアラニンは、安価で入手可能であるとともに、炭素(C)、窒素(N)、および水素(H)元素のみからなる単純な構成であり環境への負荷も小さいので、好ましく用いることができる。
【0009】
ここで開示される銀微粒子の製造方法のより好ましい一態様では、上記脂肪族ヒドロキシ酸金属塩として、クエン酸ナトリウムを用いる。
かかる構成の製造方法によると、上記脂肪族ヒドロキシ酸金属塩としてクエン酸ナトリウム(例えばクエン酸三ナトリウム)を用いることにより、上記形状の銀微粒子をより好適に生じさせることができる。
【0010】
ここで開示される銀微粒子の製造方法の別の好ましい一態様では、上記還元剤として、金属水素化物を用いる。
かかる構成の製造方法によると、還元剤として金属水素化物(例えば水素化ホウ素ナトリウム)を用いることにより、上記形状の銀微粒子をより好適に生じさせることができるので好ましい。
【0011】
ここで開示される銀微粒子の製造方法の別の好ましい一態様では、上記混合水溶液中のアミノ酸は、上記銀イオン1モルに対して1モル〜20モルの割合で含まれている。
かかる構成の製造方法によると、上記のような組成範囲で上記アミノ酸が含まれることにより、より高い収率で上記形状の銀微粒子を効率よく得ることができる。
【0012】
以上より、ここで開示される銀微粒子の製造方法によると、上述したような特異な形状の銀微粒子およびそれらの集合体たる粉末材料を好適に製造することができる。したがって、本発明は、他の側面として、ここで開示される製造方法を用いることにより製造される銀微粒子を構成要素とする銀粉末材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】サンプル1のX線回折スペクトルである。
【図2】サンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】図2とは倍率の異なるサンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】サンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】サンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】サンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】サンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】サンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】サンプル2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図10】図9とは倍率の異なるサンプル2の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、アミノ酸を含む水溶液に脂肪族ヒドロキシ酸金属塩、銀イオンを含む水溶液および/または還元剤を添加する方法)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、生成した銀微粒子を粉末として取り出す方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0015】
本発明に係る銀微粒子の製造方法は、アミノ酸および脂肪族ヒドロキシ酸金属塩を用いて銀微粒子を製造する方法であって、平面視X字状の各構成要素が積み上がるように階層的に集合、析出したX字型または花型形状、および/または細い角柱状の構成要素が放射線状に広がるように集合、析出して球状または半球状を有する銀微粒子を製造する方法である。かかる製造方法は、所定の種類のアミノ酸を含む水溶液を用意すること、上記用意した水溶液に、脂肪族ヒドロキシ酸金属塩を添加すること、上記混合水溶液に、銀イオンを含む水溶液を添加すること、上記混合水溶液に還元剤を添加すること、および上記混合水溶液中に上記銀微粒子を析出させること、を包含することによって特徴づけられるものである。したがって、上記目的を達成し得る限りにおいて、その他の構成成分の内容や組成については、種々の基準に照らして任意に決定することができる。
【0016】
まず、銀(Ag)イオンを含む水溶液(以下、単に「Ag水溶液」という。)を用意(典型的には調製)する。ここで開示される銀微粒子の製造方法に用いられるAg源として、水系溶媒に対する溶解度が高いAgイオン化合物が適当であり、後述のアミノ酸および脂肪族ヒドロキシ酸金属塩と好適に反応し得るものが好ましい。このようなAgイオン化合物として、硝酸銀(AgNO)を好ましく用いることができる。このAgイオン化合物を所定量水に溶解させることによりAg水溶液を調製する。
【0017】
Ag水溶液の濃度としては、該Ag水溶液が添加されてなる混合水溶液(すなわちAgイオン、後述のアミノ酸および脂肪族ヒドロキシ酸金属塩が含まれている水溶液)の含有量が、Agイオン1モルに対して後述のような割合で含まれるような濃度であることが好ましい。例えばAgイオンが0.01M〜10M(より好ましくは0.05M〜5M、例えば0.1M±0.05M)となるように調製されることが好ましい。
【0018】
次に、脂肪族ヒドロキシ酸の金属塩を用意する。ここで用いられる脂肪族ヒドロキシ酸としては、種々のものを使用し得るが、1分子中に2以上のヒドロキシ基(−OH)を含むものが好ましい。例えば、クエン酸、イソクエン酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酪酸等が挙げられる。特にクエン酸が好ましい。また、これら有機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が好ましい。特に、クエン酸の金属塩が好ましい。例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウムまたはクエン酸カルシウム等、クエン酸のアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を好ましく用いることができる。特に好ましくは、クエン酸三ナトリウム(Na、典型的にはその二水和物(Na・2HO))である。このような脂肪族ヒドロキシ酸金属塩は、常温下では固体(粉末状)であるので、粉末状の脂肪族ヒドロキシ酸金属塩を水系溶媒に所定量溶解させることにより脂肪族ヒドロキシ酸金属塩を含む水溶液(以下、「脂肪族ヒドロキシ酸水溶液」という。)を調製することができる。
ここで、かかる脂肪族ヒドロキシ酸水溶液は、後述の混合水溶液(すなわちAgイオン、脂肪族ヒドロキシ酸金属塩、およびアミノ酸を含む水溶液)中で生成するAg微粒子が特異な形状を有するのに十分に足り得る適当量の脂肪族ヒドロキシ酸(厳密には脂肪族ヒドロキシ酸イオン)が存在する程度の濃度に調製されることが好ましい。すなわち、混合水溶液中に含まれるAgイオン1モルに対して0.05モル〜3モル(より好ましくは0.1モル〜1モル(例えば0.4モル±0.1モル)の脂肪族ヒドロキシ酸(例えばクエン酸イオン)が上記混合水溶液中に存在するように上記脂肪族ヒドロキシ酸水溶液を調製することが好ましい。
【0019】
次に、アミノ酸を用意(調製)する。ここで用いられるアミノ酸としては、水系溶媒に可溶であり、後述の銀イオンと容易に結合し得るものが好ましい。このようなアミノ酸として、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、グリシン、スレオニン等が挙げられる。特にアラニンが好ましい。アラニンの光学異性体についてはD体であってもL体であってもよく、両異性体が混在するDL−アラニンでもよい。アラニンは、安価で入手できるとともに、構成元素が炭素(C)、窒素(N)、および水素(H)元素のみの単純な構成であり、また生分解可能であることから環境への負荷が小さく好ましい。アラニンは典型的には常温下では固体(粉末状)であるので、上記脂肪族ヒドロキシ酸金属塩を含む水溶液に対して、粉末状のアラニンを添加することにより、該アラニンと上記脂肪族ヒドロキシ酸(例えばクエン酸)の金属塩とを含む水溶液を調製することができる。
【0020】
上記アミノ酸は、混合水溶液(すなわちAgイオン、脂肪族ヒドロキシ酸金属塩、および該アミノ酸を含む水溶液)中のAgイオン1モルに対して1モル〜20モルの割合となるような濃度に調製しておくことが好ましく、より好ましくは5モル〜15モル(例えば10モル±2モル)である。このような割合でアミノ酸が混合水溶液中に含まれるように、かかるアミノ酸を脂肪族ヒドロキシ酸水溶液に添加しておくことにより、上記混合水溶液において、Agイオンとアミノ酸とが効率よく反応し、特異な形状を有するAg微粒子を好適に生成させることができる。
【0021】
なお、上記脂肪族ヒドロキシ酸水溶液に対して、アミノ酸(例えばアラニン)を添加する際には、上記粉末状のアミノ酸を水系溶媒に所定濃度となるように溶解させてアミノ酸を含む水溶液(アミノ酸水溶液)を予め調製しておき、このアミノ酸水溶液を脂肪族ヒドロキシ酸水溶液に添加して混合してもよい。
【0022】
また、かかるアミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液を調製する際には、室温(典型的には常温とされる温度領域をいい、20℃±15℃を指すものとする。)下で上記脂肪族ヒドロキシ酸水溶液を攪拌しながらアミノ酸を添加することが好ましい。攪拌速度としては、添加されたアミノ酸が十分に脂肪族ヒドロキシ酸水溶液中に拡散して十分に溶解することができる限りにおいて特に制限されないが、例えば200rpm〜700rpmが適当であり、好ましくは300rpm〜600rpmであり、例えば450rpm±50rpmである。
【0023】
次いで、上記得られたアミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液を、上記Ag水溶液に添加し、混合および溶解させる。このようにして、Agイオン、アミノ酸、および脂肪族ヒドロキシ酸(の金属塩)を含む混合水溶液を調整することができる。ここで、該混合水溶液中に含まれる上記Agイオン、アミノ酸、および脂肪族ヒドロキシ酸の含有量については、それぞれ以下のような範囲で含まれ得ることが好ましい。すなわち、例えば、かかる混合水溶液が、Agイオン濃度が0.1Mとなるように調製されたAg水溶液10mLに対して10mLのアミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液(例えばアラニンおよびクエン酸三ナトリウムを含む水溶液)を添加することにより得られる場合には、かかる混合水溶液中に含まれるAgイオン、アラニン、およびクエン酸三ナトリウムの各存在量は、Agイオンが1×10−3モル、アラニンが1×10−3モル〜20×10−3モル、クエン酸三ナトリウムが0.05×10−3モル〜3×10−3モルとなることが好ましい。
【0024】
また、アミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液をAg水溶液に添加する際には、室温下で上記Ag水溶液を所定の速度で攪拌しながら上記アミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液を添加することが好ましい。攪拌速度としては、アミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液が十分に上記Ag水溶液中に拡散して、両水溶液が十分に混合、溶解した混合水溶液を得ることができる限りにおいて特に制限されないが、例えば200rpm〜700rpmが適当であり、好ましくは300rpm〜600rpmであり、例えば500rpm±50rpmである。
上記混合水溶液の調製後、例えば0.5時間〜5時間(より好ましくは1時間〜3時間)程度の間、該混合水溶液の攪拌を持続させることが好ましい。
【0025】
次に、上記混合水溶液に還元剤を添加する。還元剤としては、金属水素化物を用いることができる。好ましくは、水素化ホウ素化合物または水素化アルミニウム化合物であり、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAHまたはDIBAL−Hと呼ばれる。)、あるいは水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)が挙げられる。特に好ましくはNaBHである。かかる還元剤は、好ましくは水系溶媒に溶解して水溶液として上記混合水溶液に添加される。このとき、かかる還元剤は、該混合水溶液中に含まれるAgイオン1モルに対して0.1モル〜2モル(より好ましくは0.3モル〜1モル(例えば0.5モル±0.1モル)の割合で混合水溶液中に含まれるように上記還元剤水溶液を調製し、添加されることが好ましい。かかる含有量が0.1モルよりも低い場合には、金属Ag微粒子の生成に長時間を要する虞があるとともに、析出するAg微粒子の収率が低下する虞がある。また、上記含有量が2モルより大幅に高い場合には、金属Ag微粒子が生成される還元反応以外に別の副反応が起こり得るために、金属Ag微粒子の収率が低下する虞がある。
【0026】
また、このような還元剤の水溶液は、所定滴下速度(例えば、2mL/分)で上記混合水溶液に添加(滴下)されることが好ましい。このように還元剤水溶液を滴下していくと、徐々に黒色の析出物が観察される。かかる滴下の際には、上記混合水溶液を攪拌しないことが好ましい。還元剤を添加した後、例えば0.5時間〜5時間(好ましくは1時間以上、例えは1.5時間±1時間)の間にかけては、一般的な低速の攪拌速度(例えば10rpm〜100rpm)で攪拌することが好ましい。
以上のようにして、上記アミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とが共存している混合水溶液中に存在するAgイオンは上記還元剤によって還元され、金属Ag微粒子が上記混合水溶液中で析出し、沈殿物として得られる。
【0027】
次いで、黒色の沈殿物として得られた金属Ag微粒子を洗浄する。洗浄の方法については従来の洗浄方法と同様の方法を用いればよい。例えば、上記沈殿物を純水等で複数回(例えば3回〜6回)洗浄して副生成物その他塩類を除去した後に、残った残渣を乾燥する。このような工程を経ることにより、精製された金属Ag微粒子(Ag粉末材料)を得ることができる。
【0028】
以上のようにして製造された金属Ag微粒子は、SEM観察に基づく顕微鏡像によると、かかるAg微粒子は、超微細なAg粒子が凝集することにより形成された一構成要素であってある特定形状を有する一構成要素が複数集合して全体を構成する集合体のような形態(スーパーストラクチャ)として生成され得る。かかるAg微粒子の全体形状(すなわちスーパーストラクチャ形状)としては、例えば、平面視X字状に凝集した一構成要素が複数積み上がるように階層的に集合して形成されたX字型または花型形状、および/または細い角柱状の一構成要素が放射線状に広がるように集合して形成された球状または半球状となる特異的な立体形状となり得る。このことにより、かかるAg微粒子の生成機構としては、Agイオンが還元されて生じた超微細なAg粒子がアミノ酸とともに核を形成し、当該核を中心に上記超微細なAg粒子が凝集し、この凝集によってある種の特定形状を有する一構成要素(凝集体)が形成され、かかる構成要素がさらに凝集することにより特異な立体構造を有する比較的大きなサイズの金属Ag微粒子が生成され得るものと推測される。また、このAg微粒子全体の大きさ(サイズ)としては、かかるSEM観察に基づく平均粒子径が30μm〜100μmの範囲内となり得る。
【0029】
以下、本発明に関する実施例を図1〜図10を参照して説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。図1は、以下の実施例のサンプル1のX線回折スペクトルである。図2は、サンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図3は、図2とは倍率の異なるサンプル1のSEM写真である。図4〜図8は、サンプル1の互いに異なる各測定箇所を撮影したSEM写真である。図9は、サンプル2のSEM)写真である。図10は、図9とは倍率の異なるサンプル2のSEM写真である。
【0030】
<例1:金属Ag微粒子の作製>
以下のような手順で金属Ag微粒子を作製した。
まず、Ag源として、市販(シグマ アルドリッチ株式会社製)の硝酸銀(AgNO)を用意し、所定量を純水に溶解させることにより、濃度0.1MのAgNO水溶液を10mL調製した。
次に、脂肪族ヒドロキシ酸金属塩として、市販(AJAX株式会社製)のクエン酸三ナトリウムの二水和物(Na・2HO)を用意し、所定量を純粋に溶解させることにより、濃度38.8mMのNa水溶液を10mL調製した。
次に、アミノ酸として、市販(Acros Organics株式会社製)のDL−アラニン(純度99%)を用意した。このアラニンを0.01モル分(0.89g)量り取り、これを、上記Na水溶液を攪拌しながら該水溶液に添加して、アラニンを十分に溶解させた。
次いで、室温条件下で、上記アラニンを含むNa水溶液をAgNO水溶液に加えた。その後、500rpmの攪拌速度で1時間攪拌して混合水溶液を得た。
【0031】
次いで、還元剤として、市販(アジア パシフィック スペシャルティ ケミカルズ株式会社製)の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を用意し、112mMのNaBH水溶液を調製した。このNaBH水溶液5mLを、滴下速度2mL/分で上記混合水溶液に滴下した。かかる滴下に伴い、混合水溶液中に黒色の析出物が生じた。なお、この滴下は上記混合水溶液を攪拌せずに行い、完全に上記黒色析出物を沈殿させた。滴下終了後、上記還元剤添加後の混合水溶液を、一般的な低速の攪拌速度(ここでは60rpm程度)で1時間半攪拌した。
【0032】
沈殿した上記黒色析出物を純水で数回洗浄して精製した。このようにして、Agとアラニンとの配合比が1:10である金属Ag微粒子(より詳しくはAg粉末材料)を得た。これをサンプル1とする。
【0033】
次に、脂肪族ヒドロキシ酸金属塩を用いずにAg微粒子を作製した。すなわち、脂肪族ヒドロキシ酸金属塩水溶液を用意せず、粉末状のアラニンを直接Ag水溶液に添加すること以外は、上記例1に係るサンプル1の作製工程と全く同一の工程でAg微粒子を作製した。これによって得られたAg微粒子(より詳しくはAg粉末材料)をサンプル2とする。
【0034】
<例2:サンプル1のXRD測定>
上記例1において得られたサンプル1に係る金属Ag微粒子のX線回折(XRD)測定を実施した。サンプル1をそれぞれガラスプレート上に塗布し、50℃の乾燥機内で乾燥させることにより、XRD測定用のサンプル1を作製した。サンプル1におけるXRDスペクトルをピークの帰属とともに図1に示した。この結果、サンプル1に係るXRDのピークからAgの由来するピーク(すなわち、Ag(111),(200),および(220)に帰属するピーク)が検出され、サンプル1に係るAg微粒子は、金属状態(特に面心立方構造の金属結晶)のAgであることが示された。
【0035】
<例3:サンプル1および2のSEM観察>
上記サンプル1に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察を実施した。この観察結果を図2〜図8に示した。図2〜図8に示されるように、サンプル1では、平面視X字状に凝集したものが複数積み上がって形成されたようなX字型または花型(もしくは8の字型)形状の微粒子が確認された。また、細い角柱状のものが放射線状に広がるように析出、集合して形成された球状または半球状の微粒子も確認された。これらの微粒子全体の大きさ(粒径)は、図2〜図8に示されるように、平均して30μm〜100μm程度であった。なお、このSEM観察に基づくEDXによる元素分析を行ったところ、微粒子の部分からはほぼAgのみが検出された。
【0036】
一方、サンプル2に対しても上記サンプル1と同様にして、SEM観察を実施した。この観察結果を図9および図10に示した。図9および図10に示されるように、サンプル2では、平面視で星型または手裏剣のような形状であって扁平な形状の微粒子が平面に広く分散して存在していることが確認された。しかし、サンプル1の微粒子の形状のように、特異的な立体構造は認められなかった。なお、このSEM観察に基づくEDXによる元素分析を行ったところ、微粒子の部分からはほぼAgのみが検出された。
【0037】
上述のように、本実施例によると、Ag源としてのAgNO水溶液に対して、アミノ酸としてDL−アラニン、脂肪族ヒドロキシ酸金属塩としてNa、および還元剤としてNaBHを加えることにより、超微細なAg粒子がある種の特定形状を形成するように凝集してなる一構成要素を複数凝集させることで構築された特異な立体構造を有するAg微粒子および該Ag微粒子からなるAg粉末材料を得ることができた。このような特異な形態(スーパーストラクチャ)を有した金属Ag微粒子は、Agの機能解析の発展あるいは金属の自己組織化の応用に貢献し得るものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀微粒子を製造する方法であって、
銀イオンを含む水溶液を用意すること、
脂肪族ヒドロキシ酸金属塩を含む水溶液を用意すること、
所定の種類のアミノ酸を用意し、該アミノ酸を前記脂肪族ヒドロキシ酸金属塩水溶液に添加してアミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液を調製すること、
前記アミノ酸と脂肪族ヒドロキシ酸金属塩とを含む水溶液を、前記銀イオンを含む水溶液に添加して混合水溶液を調製すること、
前記混合水溶液に還元剤を添加すること、および
前記混合水溶液中に銀微粒子を析出させること、
を包含する、製造方法。
【請求項2】
前記アミノ酸として、アラニンを用いる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記脂肪族ヒドロキシ酸金属塩として、クエン酸ナトリウムを用いる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記還元剤として、金属水素化物を用いる、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記混合水溶液中のアミノ酸は、前記銀イオン1モルに対して1モル〜20モルの割合で含まれている、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法を用いて製造された銀微粒子を構成要素とする銀粉末材料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−21252(P2011−21252A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167804(P2009−167804)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(500534843)カーティン ユニバーシティ オブ テクノロジー (5)
【氏名又は名称原語表記】CURTIN UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】KENT STREET, BENTLEY WESTERN AUSTRALIA 6102 AUSTRALIA
【Fターム(参考)】