説明

銀染色を用いる電気泳動法により腎疾患等の病態を判定する方法

【課題】
尿蛋白質を電気泳動し、銀染色を行った後の濃度図から、腎糸球体障害を主とする群、腎尿細管障害を主とする群、ベンスジョーンズ蛋白質が現れる群、混合型腎障害群などを判定することを目的に、それぞれの疾患の特徴を細かく規定し腎疾患等の障害部位を特定することで診断の補助検査とする。
【解決手段】
尿蛋白質の濃度と電気泳動後の濃度図から相対移動度(Rm)、分画%、分画位置などを細かく規定したアルゴリズムにより腎糸球体障害か腎尿細管障害かベンスジョーンズ蛋白質の出現疾患もしくはそれらの混合型かを判定する方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ヒトや動物の尿中の蛋白質を電気泳動しその分析結果の特長から、疾病の種類を特定しようという分野
【背景技術】
【0002】
尿を用いる検査は、人体に苦痛を与えることなく採取できる被試験物質として受診時のスクリーニングや住民検診等で広く使われている。これらに使われている測定項目のうち尿蛋白質の分析について、試験紙による検査法では一般的に蛋白質が出現しないいわゆる陰性が健常とされている。この試験紙の測定感度は20〜30mg/dLである。
しかし特許文献1、特許文献2、特許文献3のように感度の高い銀染色法を使うと、健常人でも極少量の蛋白質が排泄されていることがわかっている。この微量蛋白質を電気泳動法により分析する方法は、芝らにより非特許文献1および非特許文献2、非特許文献3に詳しく述べられている。これによると銀染色法を用いる尿蛋白質の電気泳動像の分析から、糖尿病においては泳動像の形からおおよそ5群に分けられている。
【特許文献1】特開2002-236127号公報
【特許文献2】特開2003-215130号公報
【特許文献3】特開2005-134144号公報
【非特許文献1】生物物理化学誌vol.41、1997年、頁25-27
【非特許文献2】臨床検査vol.42、1998年、頁1106-1109
【非特許文献3】臨床病理、臨時増刊、臨時増刊第107号、平成10年、頁49−55
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明は、銀染色法を用いる高感度尿蛋白質分析法を使うことにより、従来から行われている電気泳動像の分析だけをするのではなく、腎糸球体障害群、腎尿細管障害群、ベンスジョーンズ蛋白質が現れる群、混合型腎障害群のように疾患特有の泳動像から特定のアルゴリズムを抽出して、専門医でも判定し難い腎疾患の種類を判定しようと言うものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
課題を解決するため、多くの腎生検による臨床診断を根拠にそれぞれの泳動像の特徴を明確にして専門医でなくとも、泳動像の特徴より腎生検をしなくとも腎疾患の病態を把握できる方法を発明した。
【0005】
尿は腎臓で生成され必要な栄養素例えば蛋白質などは再吸収され再利用されるのが腎臓の重要な機能の1つである。従って尿に蛋白質が出現する場合、腎機能の障害や腎疾患が予測される。その腎疾患のうち、腎糸球体障害としてはIgA腎症、膜性腎症、巣状糸球体硬化症などが知られている。また腎尿細管障害としてはファンコニー症候群、間質性腎炎などがある。
【0006】
その腎疾患の確定診断をするため、腎生検が広く行われている。腎生検は針を腎臓に向かって穿刺し、腎組織を取り出し組織染色後専門医による病理診断をする方法であり、患者にかなりの苦痛を与えるばかりか、組織の採取や病理組織標本の作製、その標本の判定に相当の費用と時間と熟練を要していた。
【0007】
さらに患者側からすると腎生検後に、肉眼的血尿、血腫の形成など出血にまつわる合併症が起こり、出血の程度が多ければ血圧低下、ショックにまで発展することがあると言われている。
【0008】
腎生検以外の検査法には、CTなどの画像診断や尿中蛋白質の定量および尿蛋白分画法がある。そのうち尿中蛋白質の定量検査には、アルブミン、トランスフェリンなどの糸球体性蛋白質の測定、レチノール結合蛋白、β2ミクログロブリン、NAGなどの尿細管性蛋白質の測定、免疫グロブリンL鎖(κ、λ)およびその他の臓器の疾患に起因する蛋白質の測定など種々の方法があるが、測定しなければならない蛋白質の濃度が薄かったりその測定する項目の種類が多くかつ、免疫測定法など高価な抗体を使うなど欠点も多く実用的ではなくあまり実施されていない。
【0009】
従来の尿蛋白分画検査は、ポンソー3Rまたはアシッドバイオレッド17による染色法があったが蛋白質の染色能が低くその上、尿中蛋白質濃度がかなり低いため、尿を数十倍に濃縮して実施しておりその濃縮時間も10時間と長く、分離された電気泳動像も濃縮の影響による分画の歪み、不鮮明さのため正確な診断が困難なことが多かった。
【0010】
本願発明は、前述特許文献1の銀染色法を用いており、その検出感度は数mg/dLとより微量で検出できることがわかっている。そして発明者らは多数の健常者や腎疾患の尿蛋白質の濃度を測定した結果、10mg/dL未満の患者には重篤な腎疾患が見られないこともわかった。そのうち腎疾患の病態が分かっている患者の尿蛋白質を電気泳動し銀染色した電気泳動像を詳しく精査した結果、疾患特有のアルゴリズムを特定することができた。
【0011】
まず実施例に示すように尿蛋白質の銀染色による電気泳動像は、個人の腎機能の差異、疾病の状況により千差万別かつ種々多様性を呈する。この多様な電気泳動像をそのまま従来型の濃度図(ザイモグラム)にした測定結果を主治医に送ってもそれがどの疾患群にあたるかを判定するにはあまりにも条件が多すぎ極めて困難であった。
【0012】
本願発明では、デンシトグラムだけではなくその濃度の差異や特定の蛋白質バンドの有無等に基づいて疾患別に4群に分類しその群特有のアルゴリズムをコンピュータにより病態解析を行った結果、それが臨床診断に非常に有用であるという結論に至った。
【0013】
図1に銀染色法による尿蛋白質4群の代表的電気泳動像の実際を示す。(1)(2)は腎糸球体障害群、(3)(4)は腎尿細管障害群、(5)(6)はベンスジョーンズ蛋白質出現群、(7)(8)は健常者群である。
【0014】
排泄される尿蛋白質の濃度は患者の病状により異なるので、綺麗な電気泳動像を得るため、電気泳動をする前に予め前述の特許文献1などの定量法で、その濃度を測定しておき、その濃度に従い電気泳動支持体へ患者尿の塗布量を一定にしている。一定量を検体塗布器(アプリケータ)で塗布するには、1回0.8μL塗布される器具を使用する場合、約4回3.2μLを目安として検体を塗布する。濃度が薄い場合は最大8回までは塗布できる。逆に濃度が濃い場合は検体を稀釈して結果的にほぼ一定量を塗布する。
従って図1において色調の変化いわゆる染色帯のそれぞれの濃さを見ても尿蛋白質の量的比を判断することは出来ない。当然これだけで腎疾患等の病態を判断することは非常に難しい。
【0015】
従って腎疾患等の病態を判断するためには、電気泳動像の濃度差だけでなく、疾患を特定する蛋白質の位置の特定および染色帯のピークの有無、その大きさなどを併せて判断し腎疾患の病態を見極めないとならない。本願発明者達は多数の実測例より、それらの特徴いわゆるアルゴリズムを世界で初めて決定し実際にそれらを応用した。
【0016】
血清蛋白質を電気浸透のないセルロースアセテート膜例えばセパラックスSP(富士フイルム社製)で電気泳動した電気泳動像は、健常人で普通5つの山が検出でき、陽極側からアルブミン、α1、α2、β、γと呼ばれている。尿中に出現する蛋白質はこの血清中の蛋白質と本質的には同じものと考えられておりその移動度はほぼ同じである。
【0017】
電気泳動法においては使用するセルロースアセテート膜や緩衝液および泳動槽の大きさ、泳動環境の湿度、温度、電圧等の差によって蛋白質の移動度にわずかな差がでることは良く知られている。そこでその泳動の条件に係わらず出現する蛋白質の位置を一定化するための方法として相対移動度(Relative Mobility=Rm)という概念が使われることがある。
【0018】
相対移動度を図2において説明する。図2は血清蛋白質の電気泳動像のザイモグラフである。アルブミン分画の頂点いわゆるピーク(9)からの垂線が基準線(10)と交差する位置B(11)をRm=1.00とし、検体塗布位置A点(12)をRm=0.00としたとき、α1、α2、β、γ分画の各山のピーク位置をRmで表わす点(13)(14)(15)(16)は{(α1、α2、β、γ分画の各ピーク位置)−A}/(B−A)・・・(1)で表わすことが出来る。
血清蛋白質と同時に電気泳動し銀染色を行った尿蛋白質の電気泳動像を濃度図で表わしたものについてもα1、α2、β、γ分画のRmの値はほぼ同じである。
【0019】
[腎糸球体障害群]
腎生検で腎糸球体障害と判定された多数の患者尿の蛋白質濃度は10mg/dL以上であり、それらを銀染色を用いるセルロースアセテート膜電気泳動法により濃度図で表わしたものについて精査した結果、β分画位置に山と谷の差が分画%で3%以上の明確な染色帯がありそのピーク位置のRmが0.49〜0.59かつアルブミン分画Rm=1.00の分画%が30〜85%の範囲にあった。従ってこれらの条件に該当する群を腎糸球体障害群とすることができた。この疾患群には、IgA腎症、膜性腎症、巣状糸球体硬化症、糖尿病性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎などが含まれた。
【0020】
[腎尿細管障害群]
腎生検で腎尿細管障害と判定された多数の患者尿の蛋白質濃度は10mg/dL以上であり、銀染色を用いるセルロースアセテート膜電気泳動像を濃度図で表わしたものについて精査した結果、β分画の陽極寄に山と谷の差が分画%で3%以上の明確な染色帯を持ちそれらのピークのRmが0.59〜0.69でかつアルブミン分画Rm=1.00の分画%が5〜49%の範囲にあった。
以上のアルゴリズムの他、この疾患群ではβ分画より陰極側の位置にもRm0.38〜0.51のあたりに独特の染色帯が現れることがあり、紛らわしい時には重要な判断材料とする事ができる。従ってこれらの条件に該当する群を腎尿細管障害群とすることができた。但し治療中の場合、治療薬によってはこのRmは変わることがある。この疾患群にはファンコニー症候群、シスチン尿症、間質性腎炎、痛風腎、薬剤性尿細管壊死、尿細管アシドーシス、カドミウム中毒などが含まれた。
【0021】
[ベンスジョーンズ蛋白質が出現する群]
免疫固定法でベンスジョーンズ蛋白質の出現が確認された多数の患者尿の蛋白質濃度は10mg/dL以上であり、患者の尿を銀染色を用いるセルロースアセテート膜電気泳動像としそれを濃度図で表わしたものについて精査した結果、Rmが0.15〜0.80に渡るグロブリン領域(αからγ分画領域)にかけ幅広い部分において、山と谷の差が分画%で10%以上の明確な染色帯があり、その染色帯の上に重なるように大きな高さの染色帯があり、その染色帯を含む全体の高さhの半分h/2の位置の幅を半値幅=θとした時、アルブミンの頂点から塗布位置の間を1.00として割り付け、それぞれのバンドを相対移動度で表すとき、θの幅をRmで表した場合θが0.2以下の値をとり、かつアルブミン分画Rm=1.00の分画%が20%以下の値を取った。
以上により、これらの条件を満たすものをベンスジョーンズ蛋白質が出現する群とすることができた。
この疾患群には、多発性骨髄腫、オリゴクローナルバンド、原発性アミロイドーシスなどが含まれた。ベンスジョーンズ蛋白質は形質細胞が腫瘍化いわゆるモノクローン化し、免疫グロブリンのL鎖が過剰生産されたものをいい、その血中濃度が上昇するため、再吸収出来きれなかった蛋白質が尿中に排泄された結果出現してきた蛋白質である。
【0022】
血液検査、尿検査を用いる健康診断で健常と診断された多数の健診者尿の蛋白質濃度は10mg/dL以下であった。その尿を銀染色を用いるセルロースアセテート膜電気泳動像を濃度図で表わしたものについて精査した結果、アルブミン分画Rm=1.00の分画%は20〜70%の範囲にあった。またα1、α2、β、γ分画も一様に出現した。
尿蛋白質の定量値について、普通住民健診などで使われている尿試験紙の感度は概ね20-30mg/dLであり、尿蛋白質陰性群にも腎症がいた事を考えれば妥当な結果であった。
健常者では腎糸球体でのアルブミンの透過性も低く、低分子量蛋白質もほとんどが尿細管で再吸収されるため、アルブミン以外でも蛋白染色帯が出現するが腎健常者群では類似した泳動像を示した。銀染色を用いるセルロースアセテート膜電気泳動法では予め尿蛋白質の濃度を先に測定して、その濃度が薄い場合は塗布るサンプル量を増やすので分画%値や波形の大きさだけをみて、その量が多い少ないなどの判定は前述のとおり出来ないことに留意する必要がある。
【0023】
腎生検で腎糸球体障害、腎尿細管障害と判定された患者および免疫固定法でベンスジョーンズ蛋白質の出現が確認された患者の内2種以上同時に罹患している患者の尿を銀染色を用いるセルロースアセテート膜電気泳動像を濃度図で表わしたものについて精査した結果、[腎糸球体障害群]、[腎尿細管障害群]、[ベンスジョーンズ蛋白質が出現する群]のそれぞれの特徴を併せ持つことを確認した。これらの疾患群はそれぞれの疾患に罹患しているので混合型腎等障害群ということにした。
【0024】
腎糸球体障害、腎尿細管障害の程度が初期の段階では、健常者群との鑑別が難しい場合がある。この場合健常者の血清蛋白質の標準波形を患者の波形にアルブミンとγグロブリンの波形を正確に重ね合わせすることにより、まずβ分画の位置を決定し、このβ分画の分画%と別途定量で求めた濃度を掛け合わせることで、β分画やその他の画分の濃度を算出することが出来る。例えば健常者と思われる検体でβ分画の位置に染色帯を認めたとしても、そのβの濃度を前述のように算出した場合、そのβの蛋白量は5mg/dL以下であった。腎糸球体障害、腎尿細管障害と健常者群との鑑別が難しい場合は以上のアルゴリズムを判定に加えることも可能である。
【発明の効果】
【0025】
腎生検により調べなければならい腎疾患の確定診断は、患者に余分な腎穿刺などの苦痛を強いたり、時間のかかる病理標本作成かつその標本の顕微鏡による専門医の診断を必要としている。そのため実際腎生検が必要とされる患者でも患者が多すぎる事から軽度な腎疾患の早期の検査実施は敬遠されてきた。多数の患者に、本願発明がスクリーニング的に実施されれば、腎疾患の早期診断および本当に腎生検をしなければならない患者を早く見つける等大きな効果が期待できる。
【0026】
腎疾患やベンスジョーンズ蛋白の検出に本願尿蛋白質分析病態解析法を適用することで、腎生検そのものを減らせることができるので医療費の低減ばかりでなく万が一の医療事故の防止につながる。
【0027】
本願発明は尿検査であるため患者に苦痛を与えないばかりか医師の腎組織採取等の侵襲的検査を回避する事ができかつ診断が簡略化される。
【0028】
腎疾患の早期診断による早期治療で人工透析開始時期を遅らせたり、病態の悪化を防ぐ事が出来るため、結果的に医療費の大幅な低減が図れる。
【0029】
尿の電気泳動像は多種多様な形態を示すので、専門医でも判定に相当の熟練と経験が必要であったが本願発明の実施により腎臓専門医でなくとも疾病群を判断できるようになる。
例えばベンスジョーンズ蛋白の検出は骨髄腫などの癌のマーカとしてよく知られているが、熟練した検査技師の目視で先ず当たりをつけてから、特異抗体を使う免疫固定法で判定していた。この最初の熟練した検査技師の目視による検出は、熟練した検査技師のいない施設では判定出来ず見逃されていた。本願発明では個人的な主観ではなく規定されたアルゴリズムの採用により検出できるので、特定の施設でなくともこの検査法を適用すればその存在がスクリーニング的に検出できることとなる。従ってこの癌種の早期発見や治療効果の確認などに活用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
望ましい形態の具体例を下記に示す。
【実施例1】
【0031】
健常なヒトの血清検体をセルロースアセテート膜電気泳動法で電気泳動し、銀染色を行い、その電気泳動像の各バンドの出現位置を相対移動度RelativeMobility=Rm)で表したものが図2である。
セルロースアセテート膜は電気浸透現象の無い富士写真フイルム社製セパラックスSPを使った。緩衝液はバルビタール緩衝液pH8.6、イオン強度0.06、電気泳動槽及び直流安定化電源装置は共に株式会社常光製を使用した。
泳動条件は電気泳動学会の標準操作法に従った。銀染色液は特許文献1の試薬を使用した。濃度図の作成は株式会社常光製のフィンガープリンターを使用した。
【0032】
図2で染色帯が無い基線はベースライン(10)と呼ばれている。(9)はアルブミン分画で、この頂点のピーク位置の垂線がベースラインと交差する点(11)をRm=1.00とした。(13)はα1分画、(14)はα2分画、(15)はβ分画、(16)はγ分画のそれぞれRmの位置である。
(12)は検体塗布位置に当たるところでこの点のRmを0.00とした。
【0033】
Rmの算出の1例。図2において塗布点(12)とアルブミンのRmの位置(11)間の距離が5.0cmであった場合、各分画の塗布点までの距離が下記の場合
a. 塗布点〜アルブミンのピーク位置までの距離 5.0cm
b. 塗布点〜α1のピーク位置までの距離 4.4cm
c. 塗布点〜α2のピーク位置までの距離 3.6cm
d. 塗布点〜βのピーク位置までの距離 2.6cm

e. 塗布点〜γのピーク位置までの距離 1.5cm

f. 塗布点 0.0cm

これらからRm値は、式(1)を使い次のように算出される。
Alb.のRm 5.0/5.0 = 1.00
α1のRm 4.4/5.0 = 0.88
α2のRm 3.6/5.0 = 0.72
β のRm 2.6/5.0 = 0.52
γ のRm 1.5/5.0 = 0.3
塗布点のRm 0.0/5.0 = 0.00
Rmはこのように表わされるが、なだらかなピークの場合、ピ一ク位置の選び方によりこの値は多少変化する。
【実施例2】
【0034】
図3は糸球体疾患患者の尿(265mg/dL)を電気泳動し蛋白質を銀染色を行ったときの濃度図である。この患者はアルブミン分画が44.1%でβが49.7%であり、そのRmは0.55であった。本願発明のアルゴリズムを用いて判定すると腎糸球体障害群と判定された。
【実施例3】
【0035】
図4は腎尿細管障害患者と診断された患者の尿(173mg/dL)を電気泳動し銀染色を行ったときの濃度図である。この患者のアルブミン分画は22.3%で、β分画より陽極側に当たるRmが0.60の位置に9.7%の大きな染色帯が見られた。本願発明のアルゴリズムを用いて判定すると腎尿細管障害群と判定された。
この疾患群に比較的多く出現するβ分画より陰極側の位置にもRm0.48の染色帯も見られ、腎尿細管障害を強く示唆している。
【実施例4】
【0036】
図5はベンスジョーンズ蛋白質80mg/dLが存在する患者尿を電気泳動し銀染色を行ったときの濃度図である。アルブミンの分画%は89.7%、そしてRm0.53の位置に先端がとがったピークがありその高さhは29mm、1/2hは14.5mm、半値幅は6.3、Rm1.0の幅は53mmであるから半値幅のRmを計算すると6.3/53=0.119となりベンスジョーンズ蛋白質が現れる群と判定された。
【実施例5】
【0037】
図6は健常血清蛋白質の銀染色法を用いた電気泳動像の濃度図(17)を実線で表しベンスジョーンズ蛋白質出現者の濃度図(18)を重ね合わせた図である。
血清蛋白質のアルブミン(19)、α1(20)、α2(21)、β(22)、γ(23)の濃度図を患者の尿の濃度図に重ねあわせると、特殊な分画の位置と量を特定がしやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】銀染色法による尿蛋白質の電気泳動像
【図2】健常血清蛋白の濃度図と相対移動度
【図3】腎糸球体障害者の濃度図
【図4】腎尿細管障害者の濃度図
【図5】ベンスジョーンズ蛋白質出現者の濃度図
【図6】健常血清蛋白質の濃度図をベンスジョーンズ蛋白質出現者の濃度図に重ね合わせた図
【符号の説明】
【0039】
(1)(2) 腎糸球体障害群の代表的な電気泳動像
(3)(4) 腎尿細管障害群の代表的な電気泳動像
(5)(6) ベンスジョーンズ蛋白質出現群の代表的な電気泳動像
(7)(8) 健常者群の代表的な電気泳動像
(9) アルブミン
(10) 基準線(ベースライン)
(11) Rm=1.00の位置
(12) 塗布位置(Rm=0.00)
(13) α1
(14) α2
(15) β
(16) γ
(17) 健常者の血清蛋白質の濃度図
(18) ベンスジョーンズ蛋白質出現者の濃度図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血清蛋白質をセルロースアセテート膜で電気泳動し、銀染色を行った電気泳動像を濃度図で表わしたものについて、アルブミン分画のピーク位置および検体塗布位置の相対移動度をそれぞれRm=1.00とRm=0.00とするとき、同時に電気泳動し銀染色を行った尿蛋白質の電気泳動像について、アルブミン、α1、α2、β、γグロブリン分画のピーク位置を相対移動度Rmで表わしかつ分画%、尿蛋白濃度値および半値幅を規定することにより腎糸球体障害群、腎尿細管障害群、ベンスジョーンズ蛋白質が現れる群、混合型腎障害群と判定する腎疾患等病態判定方法
【請求項2】
尿蛋白質10mg/dL以上を有する人の患者尿を電気泳動し、銀染色を行った電気泳動像を濃度図で表わしたものについて、β分画位置に山と谷の差が分画%で3%以上の明確な染色帯がありそのピーク位置のRmが0.49〜0.59でかつアルブミン分画Rm=1.00の分画%が30〜85%の範囲にあることをもって腎糸球体障害群と判定する請求項1の腎疾患等病態判定方法。
【請求項3】
尿蛋白質10mg/dL以上を有する人の尿を電気泳動し、銀染色を行った電気泳動像を濃度図で表わしたものについて、β分画の陽極寄に山と谷の差が分画%で3%以上の明確な染色帯を持ちそれらのピークのRmが0.59〜0.69でかつアルブミン分画Rm=1.00の分画%が5〜49%の範囲にあることをもって腎尿細管障害群とする請求項1の腎疾患等病態判定方法。
【請求項4】
尿蛋白質10mg/dL以上を有する人の尿を電気泳動し銀染色を行った電気泳動像を濃度図で表わしたものについて、Rmが0.15〜0.80であるαからγ分画領域にかけ山と谷の差が分画%で10%以上の明確な染色帯があり、その染色帯の上に重なるように大きな高さの染色帯があり、その染色帯を含む全体の高さhの半分h/2の位置の幅を半値幅θとした時、アルブミンから塗布位置の間を1.00として割り付け、θの幅をRmで表した場合θが0.2以下の値をとり、かつアルブミン分画Rm=1.00の分画%が20%以下の値をとることをもってベンスジョーンズ蛋白質が現れる群と判定する請求項1の腎疾患等病態判定方法。
【請求項5】
尿蛋白質10mg/dL以上を有する人の尿を電気泳動し銀染色を行った電気泳動像を濃度図で表わしたものについて、請求項2、請求項3、請求項4のうち同時に2項以上該当する蛋白質を認めた場合をもって混合型腎障害群と判定する請求項1の腎疾患等病態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−204465(P2009−204465A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47281(P2008−47281)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000146445)株式会社常光 (35)
【出願人】(502278965)
【出願人】(503230405)
【出願人】(502346253)
【Fターム(参考)】