説明

銀系無機抗菌剤

【課題】
本発明は、耐熱性や耐薬品性に優れ、且つ樹脂着色性が少なく加工性に優れる銀系無機抗菌剤を提供することである。
【解決手段】
下記一般式〔1〕で示される銀イオン含有のリン酸ジルコニウムにより課題が解決できることを見い出し、本発明を完成させた。
AgaNabc(H3O)dZreHff(PO43・nH2O 〔1〕
式〔1〕において、a、b、c、d、およびeは正数であり、fは0または正数であり、1.75<(e+f)<2.25、a+b+c+d+4(e+f)=9を満たす数であり、nは2以下の正数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀を担持したリン酸ジルコニウムに関するものであり、これは耐熱性、耐薬品性および加工性に優れ、且つプラスチックに配合した際の変色が少ない銀系無機抗菌剤である。
【背景技術】
【0002】
近年、リン酸ジルコニウム系無機イオン交換体は、その特徴を活かし様々な用途に利用されている。リン酸ジルコニウム系無機イオン交換体には、非晶質のものと、2次元層状構造をとる結晶質のものおよび3次元網目状構造をとる結晶質のものがある。このなかでも3次元網目状構造をとる六方晶リン酸ジルコニウムは、耐熱性、耐薬品性、耐放射線性および低熱膨張性などに優れており、放射性廃棄物の固定化、固体電解質、ガス吸着・分離剤、触媒および抗菌剤原料などに応用されている。
【0003】
これまでに様々な六方晶リン酸ジルコニウムが知られている。例えば、AXNH4(1-X)Zr2(PO43・nH2O(例えば、特許文献1参照)、AZr2(PO43・nH2O(例えば、特許文献2参照)、Hn1-nZr2(PO43・mH2O(例えば、特許文献3参照)などである。
また、ZrとPとの比が異なるリン酸ジルコニウムも知られている。例えば、Na1+4xZr2-x(PO43(例えば、非特許文献1参照)、Na1+2xMgxZr2-x(PO43(例えば、非特許文献1、2参照)、Na1+xZr2Six3-x12(例えば、非特許文献2、3参照)などである。
【0004】
これら六方晶リン酸ジルコニウムの合成法には、原料を混合後、焼成炉などを用いて1000℃以上で焼成することにより合成する焼成法、水中または水を含有した状態で原料を混合後加圧加熱して合成する水熱法、および原料を水中で混合後、常圧下で加熱して合成する湿式法などが知られている。
【0005】
これらのなかでも焼成法は、原料を調合し高温で加温するのみで、P/Zr比を適宜調整したリン酸ジルコニウムを合成することが可能である。しかし、焼成法では、この原料の均一な混合が容易ではなく、均質な組成のリン酸ジルコニウムができにくい。更に、焼成後、粒子状にするには粉砕、分級をしなければならないため、品質上および生産性の点で問題があった。また、当然のことながら、焼成法ではアンモニアを含有する結晶質リン酸ジルコニウムを合成することができない。一方、湿式法や水熱法は、均質な微粒子状リン酸ジルコニウムを得ることが可能ではあるが、P/Zr比が1.5および下記式〔4〕で示されるようなP/Zr比が2以外の結晶質リン酸ジルコニウムは知られていなかった。
NH4ZrH(PO42 〔4〕
【0006】
銀、銅、亜鉛、錫、水銀、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、砒素、アンチモン、ビスマス、バリウム、カドミウムおよびクロム等のイオンは、防かび、抗菌性および防藻性を示す金属イオン(以下、抗菌性金属イオンと略称する)として古くから知られている。特に、銀イオンは消毒作用及び殺菌作用を有する硝酸銀水溶液として広く利用されている。しかしながら、上記の防かび、抗菌性又は防藻性を示す金属イオンは、人体に有毒である場合が多く、使用方法、保存方法及び廃棄方法等において種々の制限があり、用途も限定されていた。
【0007】
防かび、抗菌性または防藻性を発揮させるには、適用対象に対して微量の抗菌性金属を作用させれば充分である。このことから、防かび、抗菌性または防藻性を具備する抗菌剤として、抗菌性金属イオンをイオン交換樹脂またはキレート樹脂などに担持させた有機系担持抗菌剤、および抗菌性金属イオンを粘土鉱物、無機イオン交換体または多孔質体に担持させた無機系抗菌剤が提案されている。
【0008】
上記各種抗菌剤において、無機系抗菌剤は有機系担持のものに比べて安全性が高いうえ、抗菌効果の持続性が長く、しかも耐熱性に優れる特長を有している。
無機系抗菌剤の一つとして、モンモリロナイトおよびゼオライトなどの粘土鉱物中のナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンと銀イオンとをイオン交換させた抗菌剤が知られている。これは粘土鉱物自体の骨格構造が耐酸性に劣るため、例えば酸性溶液中では容易に銀イオンが溶出し、抗菌効果の持続性がない。
また、銀イオンは、熱および光の暴露に対して不安定であり、すぐ金属銀に還元されてしまい、着色を起こすなど、長期間の安定性に問題があった。
【0009】
銀イオンの安定性をあげるため、ゼオライトに銀イオンとアンモニウムイオンをイオン交換により共存させて担持したものがある。しかし、このものでも着色の防止は、実用レベルに至らず、根本的な解決には至っていない。
更に、他の無機系抗菌剤として、吸着性を有する活性炭に抗菌性金属を担持させた抗菌剤がある。しかし、これらは溶解性の抗菌性金属塩を物理的に吸着または付着させているため、水分と接触させると抗菌性金属イオンが急速に溶出してしまい、抗菌効果の持続性がない。
【0010】
最近、特殊なリン酸ジルコニウム塩に抗菌性金属イオンを担持させた抗菌剤が提案されている。例えば、下記の式〔5〕のものが知られている(例えば、特許文献4参照)。
12xHyAz(PO42・nH2O 〔5〕
(式〔5〕において、M1は4価金属より選ばれる一種、M2は銀、銅、亜鉛、錫、水銀、鉛、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン、砒素、アンチモン、ビスマス、バリウム、カドミウム又はクロムより選ばれる一種、Aはアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンより選ばれる一種、nは0≦n≦6を満たす数、x、y及びzは、0<(l)×(x)<2、0<y<2、0<z<0.5及び(l)×(x)+y+z=2の各式を満たす数である。但し、lはM2の価数とする。)
この抗菌剤は化学的および物理的に安定であり、長期間、防かびおよび抗菌性を発揮する材料として知られている。しかし、ナイロンなどの合成樹脂に練り込むとき、樹脂全体が着色する場合があること、粒子の大きさにより加工性が悪く、製品として使用できないことがあった。
【0011】
【特許文献1】特開平6−48713号公報
【特許文献2】特開平5−17112号公報
【特許文献3】特開昭60ー239313号公報
【特許文献4】特開平3−83906号公報
【非特許文献1】C.JAGER、他3名、「31P and 29Si NMR Investigatios of the Structure of NASICON-Strukturtyps」、Expermentelle Technik der Physik、1988年、36巻、4/5号、p339−348
【非特許文献2】C.JAGER、他2名、「31P MAS NMR STUDY OF THE NASICON SYSTEM Na1+4yZr2-y(PO4)3」、Chemical Physics Letters、1988年、150巻、6号,p503−505
【非特許文献3】H.Y-P.HONG,「CRYSTAL STRUCTURE AND CYSTAL CHEMISTRY IN THE SISTEM Na1+xZr2SixP3-xO12」,Mat.Res.Bull.、11巻,p173−182
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、耐熱性や耐薬品性に優れ、且つ樹脂着色性が少なく加工性に優れる銀系無機抗菌剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、上記課題は、下記の(1)および(4)に記載の手段で達成された。また、好ましい実施態様である(2)および(3)と共に下記に記載する。
(1)下記式〔1〕で示される銀系無機抗菌剤である。
AgaNabc(H3O)dZreHff(PO43・nH2O 〔1〕
式〔1〕において、a、b、c、d、およびeは正数であり、fは0または正数であり、1.75<(e+f)<2.25、a+b+c+d+4(e+f)=9を満たす数であり、nは2以下の正数である。
(2)下記式〔2〕で示されるリン酸ジルコニウム銀系化合物に加水処理させて得た前記1に記載の銀系無機抗菌剤である。
AgaNabC1ZreHff(PO43 〔2〕
式〔2〕において、a、b、c1、およびeは正数であり、fは0または正数であり、1.75<(e+f)<2.25、a+b+c1+4(e+f)=9を満たす数である。
(3)下記式〔3〕で示されるリン酸ジルコニウム系化合物1モル当たり0.6b1モル〜0.99b1モルの硝酸銀を含む水溶液を用いて銀を含有させた後、これを焼成して得た前記式〔2〕で示されるリン酸ジルコニウム銀系化合物に加水処理させて得た前記1に記載の銀系無機抗菌剤である。
Nab1c1ZreHff(PO43・nH2O 〔3〕
式〔3〕において、Aはアンモニウムイオンおよび/または水素イオンであり、b1、c1、およびeは正数であり、fは0または正数であり、1.75<(e+f)<2.25、b1+c1+4(e+f)=9を満たす数である。
(4)前記1〜3のいづれか1つに記載の銀系無機抗菌剤を含有する抗菌製品である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のオキソニウム基を含む銀系無機抗菌剤は、既存のリン酸ジルコニウム系抗菌剤に比較し抗菌活性および耐変色防止性に優れるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明について説明する。なお、%は、重量%である。
本発明の銀系無機抗菌剤は、上記一般式〔1〕で示されるものである。
【0016】
式〔1〕において、aは、正数であり、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.03以上であり、そしてaは、1以下が好ましく、0.6以下がより好ましい。式〔1〕においてaが0.01未満では、抗菌性が十分発現しない恐れがあり好ましくない。
【0017】
式〔1〕において、bは、正数であり、好ましくは0.01以上である。またbは、0.6未満であり、好ましくは0.55未満であり、より好ましくは0.5以下であり、更に好ましくは0.35以下である。bの値が大きいと本発明の抗菌剤を樹脂に配合時に変色を生じやすい傾向があり、bが0.6以上では特に変色しやすいので好ましくない。
【0018】
式〔1〕において、cは、正数であり、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.05以上である。またcは、0.9未満であり、好ましくは0.8未満であり、より好ましくは0.7以下である。
【0019】
式〔1〕において、dは、正数であり、好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.05以上であり、特に好ましくは0.1以上である。またcは、0.8未満であり、好ましくは0.7未満であり、より好ましくは0.6以下である。cの値が0.01未満または0.8以上では本発明の抗菌剤を樹脂に配合時に変色を生じやすい。
【0020】
式〔1〕においてeおよびfは、1.75<(e+f)<2.25であり、eは2.20未満が好ましく、2.15未満がより好ましく、1.80以上が好ましく、1.85以上がより好ましく、1.90以上が更に好ましい。また、fは、0.2以下が好ましく、0.001以上0.15以下がより好ましく、0.005以上0.10以下がより好ましい。
e+fが1.75以下または2.25以上の場合は、式〔1〕で表される均質なリン酸ジルコニウムが得られ難いことがあるため好ましくない。
【0021】
式〔1〕においてnは、1以下が好ましく、より好ましくは0.01〜0.5であり、0.03〜0.3の範囲が更に好ましい。nが2超では、本発明の銀系無機抗菌剤に含まれる水分の絶対量が多く、加工時等に発泡や加水分解などを生じる恐れがあり好ましくない。
式〔1〕で示される銀系無機抗菌剤として下記のものが例示できる。
Ag0.05Na0.020.3(H3O)0.55Zr2Hf0.02(PO43・0.15H2
Ag0.1Na0.020.25(H3O)0.47Zr2.01Hf0.03(PO43・0.1H2
Ag0.17Na0.020.35(H3O)0.3Zr2.03Hf0.01(PO43・0.05H2
Ag0.17Na0.040.2(H3O)0.55Zr1.99Hf0.02(PO43・0.25H2
Ag0.17Na0.050.2(H3O)0.3Zr1.92Hf0.15(PO43・0.15H2
Ag0.17Na0.10.35(H3O)0.5Zr1.92Hf0.05(PO43・0.15H2
Ag0.17Na0.10.34(H3O)0.43Zr1.99(PO43・0.15H2
Ag0.45Na0.120.2(H3O)0.35Zr1.95Hf0.02(PO43・0.05H2
Ag0.55Na0.10.1(H3O)0.25Zr1.99Hf0.01(PO43・0.15H2
【0022】
本発明の銀系無機抗菌剤は、下記式〔2〕を加水処理させることで得られる上記式〔1〕に記載の銀系無機抗菌剤である。
AgaNabC1ZreHff(PO43 〔2〕
式〔2〕において、a、b、c1、eおよびfは正数であり、1.75<(e+f)<2.25、a+b+c1+4(e+f)=9を満たす数である。
【0023】
式〔2〕において、aおよびbは、式(1)のaおよびbと同じである。また、式〔2〕において、eおよびfは、式(1)のeおよびfと同じである。
【0024】
式〔2〕において、c1は、c1=c+dであり(cとdとは式(1)のものである)、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.1以上である。またc1は、1.7未満であり、好ましくは1.5未満であり、より好ましくは1.3以下である。
【0025】
式〔2〕で示されるリン酸ジルコニウム化合物への加水処理の方法は、温度220℃未満、好ましくは200℃以下において(但し、室温以上であり)、相対湿度1%以上、より好ましくは相対湿度5%以上で、好ましくは常圧下の雰囲気中に式〔2〕で示されるリン酸ジルコニウム化合物を静置または攪拌することで行うことができる。当該加水処理の時間は、10分以上が好ましく、1時間以上がより好ましくは、3時間以上が更に好ましく、30時間以下が好ましい。上記の加水処理の条件であると、本発明の物が効率よくできるので好ましい。
加水した水分は、一部は結晶水として存在するが、リン酸ジルコニウム中に含まれる水素イオンの量に応じ、水素イオンがオキソニウムイオンに変わることに用いられる。水素イオンとオキソニウムイオンの区別は、水素イオンに起因する820cm-の赤外吸収スペクトル振動ピークの減少などにより確認することが可能である。このオキソニウム基の確認については、J Materials Sci.,19,2691−5(1984)を参照のこと。
【0026】
式〔2〕で示される銀系無機抗菌剤として下記のものが例示できる。
Ag0.05Na0.020.85Zr2Hf0.02(PO43
Ag0.1Na0.020.72Zr2.01Hf0.03(PO43
Ag0.17Na0.020.65Zr2.03Hf0.01(PO43
Ag0.17Na0.040.75Zr1.99Hf0.02(PO43
Ag0.17Na0.050.5Zr1.92Hf0.15(PO43
Ag0.17Na0.10.85Zr1.92Hf0.05(PO43
Ag0.17Na0.10.77Zr1.99(PO43
Ag0.45Na0.120.55Zr1.95Hf0.02(PO43
Ag0.55Na0.10.35Zr1.99Hf0.01(PO43
【0027】
また、本発明の銀系無機抗菌剤は、下記式〔3〕で示されるリン酸ジルコニウム化合物1モル当たり0.6b1モル以上〜0.99b1モル以下の硝酸銀を含有する水溶液でイオン交換した後、焼成することで得られたに式〔2〕の銀系無機抗菌剤である。
Nab1c1ZreHff(PO43・nH2O 〔3〕
式〔3〕において、Aはアンモニウムイオンおよび/または水素イオンであり、b1、c1、eおよびfは正数であり、1.75<(e+f)<2.25、b1+c1+4(e+f)=9を満たす数である。
【0028】
式〔3〕において、eおよびfは、式(1)のeおよびfと同じである。
【0029】
式(3)において、c1は、c1=c+d(cとdとは式(1)のものである)であり、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.1以上である。またc1は、1.7未満であり、好ましくは1.5未満であり、より好ましくは1.3以下である。
【0030】
式〔3〕において、b1は、b1=a+b(aとbとは式(1)のものである)であり、好ましくは0.02以上である。
【0031】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成方法は、各種原料を水溶液中で反応させる湿式法または水熱法である。式〔3〕におけるAがアンモニウムイオンで表されるリン酸ジルコニウムの具体的合成方法には、ジルコニウム化合物、アンモニアまたはその塩、シュウ酸またはその塩、およびリン酸またはその塩など、所定量含有する水溶液を苛性ソーダまたアンモニア水でpH4以下に調整後、70℃以上の温度で加熱することで合成ができる。また、式〔3〕におけるAが水素イオンで表されるリン酸ジルコニウムの具体的合成方法には、ジルコニウム化合物、シュウ酸またはその塩、およびリン酸またはその塩など、所定量含有する水溶液を苛性ソーダでpH4以下に調整後、70℃以上の温度で加熱することで得られたリン酸ジルコニウムをさらに塩酸、硝酸または硫酸などの水溶液中で攪拌することで水素イオンを担持することで合成ができる。なお、水素イオンの担持は、硝酸銀による銀イオンの担持と同時に実施するか、銀イオンの担持後に実施することも可能である。合成後のリン酸ジルコニウムは、さらに濾別し、よく水洗後に乾燥、軽く粉砕することで白色の微粒子リン酸ジルコニウムが得られる。また、100℃超の加圧下で合成する水熱法であれば、シュウ酸またはその塩を用いずに式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムが合成可能である。
【0032】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用することができるジルコニウム化合物には、水溶性または酸可溶性のジルコニウム塩が使用可能である。例えば、硝酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩基性硫酸ジルコニウム、オキシ硫酸ジルコニウム、およびオキシ塩化ジルコニウムなどが例示され、反応性や経済性などを考慮すると好ましくはオキシ塩化ジルコニウムが好ましい。
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用することができるハフニウム化合物には、水溶性または酸可溶性のハフニウム塩であり、塩化ハフニウム、オキシ塩化ハフニウムおよびハフニウムエトキシドなどが例示され、ハフニウムを含有するジルコニウム化合物も使用できる。ジルコニウム化合物に対して含有されるハフニウム含有率は、0.1%以上〜5%以下が好ましく、0.3%以上〜4%以下がより好ましい。本発明においては、このようなハフニウムを微量含有したオキシ塩化ジルコニウムを使用することが、反応性や経済性などを考慮すると好ましい。
【0033】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるシュウ酸またはその塩としては、シュウ酸2水和物、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸水素ナトリウム、およびシュウ酸水素アンモニウムなどが例示され、好ましくはシュウ酸2水和物である。
【0034】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるアンモニアまたはその塩としては、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、アンモニア水、シュウ酸アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、およびリン酸アンモニウムなどが例示でき、好ましくは塩化アンモニウムまたはアンモニア水である。
【0035】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成原料として使用できるリン酸またはその塩としては、可溶性または酸可溶性の塩が好ましく、これらとしてリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸水素アンモニウムおよびリン酸アンモニウムなどが例示され、より好ましくはリン酸である。なお、当該リン酸の濃度としては、60%〜85%程度の濃度のものが好ましい。
【0036】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムを合成するときのリン酸またはその塩とジルコニウム化合物とのモル比率(ジルコニウム化合物を1として)は、1.3超〜2未満であり、より好ましく1.31超〜1.71未満であり、さらに好ましくは1.4超〜1.67未満であり、特に好ましくは1.5超〜1.65未満である。
即ち、式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成方法は、ジルコニウム化合物1モル当たりリン酸またはその塩のモルが1.3超〜2未満の範囲にある湿式法または水熱法である。
【0037】
また、式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムを合成するときのリン酸またはその塩とアンモニアまたはその塩とのモル比率(アンモニアまたはその塩を1として)は、0.3〜10が好ましく、更に1〜10が好ましく、特に好ましくは2〜5である。
即ち、式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成方法は、アンモニアまたはその塩を含有する湿式法または水熱法である。
【0038】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムを合成するときのリン酸またはその塩とシュウ酸またはその塩とのモル比率(シュウ酸またはその塩を1として)は、1〜6が好ましく、より好ましく1.5〜5であり、更に好ましくは1.51〜4であり、特に好ましくは1.52〜3.5である。
即ち、式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成方法は、シュウ酸またはその塩を含有する湿式法または水熱法である。ただし、水熱法の場合はシュウ酸またはその塩を含有する必要がない。
【0039】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムを合成するときの反応スラリー中の固形分濃度は、3%以上が好ましく、経済性など効率を考慮すると7%〜15%の間がより好ましい。
【0040】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成時のpHは、1以上4以下が好ましく、より好ましくは1.3〜3.5、更に好ましくは1.8〜3.0であり、特に好ましくは2.0〜3.0である。当該pHが4超であると、式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムが合成できないことがあるので好ましくない。当該pHが1未満であると式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムが合成できないことがあるので好ましくない。このpHの調整には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア水などが好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0041】
また、式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムを合成するときの合成温度は、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が更に好ましく、特に好ましくは95℃以上である。また、合成温度としては、150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。当該温度が70℃未満であると、本発明のリン酸ジルコニウムが合成できないことがあるので好ましくない。また当該温度が150℃超であるとエネルギー的に不利であることから好ましくない。
【0042】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成時には原料が均質に混合され、反応が均一に進むように攪拌することが望ましい。
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの合成時間は、合成温度により異なる。例えば、本発明のリン酸ジルコニウムの合成時間として4時間以上が好ましく、8時間〜72時間がより好ましく、10時間〜48時間が更に好ましい。
【0043】
式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムのメジアン径は、0.1〜5μmの間のものを合成することが可能である。式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムのメジアン径は、0.1〜5μmが好ましく、0.2〜3μmがより好ましく、0.3〜2μmが更に好ましい。なお、各種製品への加工性を考慮すればメジアン径のみでなく、最大粒径も重要である。このことから、式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムの最大粒径は10μm以下にすることが好ましく、8μm以下にすることが更に好ましく、6μm以下にすることが効果を発揮できることから特に好ましい。
【0044】
本発明の銀系無機抗菌剤の原料として用いることができる式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムとして、下記のものが例示できる。
Na0.07(NH4)0.85Zr2Hf0.02(PO43・0.65H2
Na0.12(NH4)0.72Zr2.01Hf0.03(PO43・0.85H2
Na0.19(NH4)0.65Zr2.03Hf0.01(PO43・0.75H2
Na0.21(NH4)0.75Zr1.99Hf0.02(PO43・0.6H2
Na0.22(NH4)0.50Zr1.92Hf0.15(PO43・0.75H2
Na0.27(NH4)0.85Zr1.92Hf0.05(PO43・0.5H2
Na0.27(NH4)0.77Zr1.99(PO43・0.25H2
Na0.57(NH4)0.55Zr1.95Hf0.02(PO43・0.35H2
Na0.65(NH4)0.35Zr1.99Hf0.01(PO43・0.4H2
Na0.070.85Zr2Hf0.02(PO43・0.65H2
Na0.120.72Zr2.01Hf0.03(PO43・0.85H2
Na0.190.65Zr2.03Hf0.01(PO43・0.75H2
Na0.210.75Zr1.99Hf0.02(PO43・0.6H2
Na0.220.5Zr1.92Hf0.15(PO43・0.75H2
Na0.270.85Zr1.92Hf0.05(PO43・0.5H2
Na0.270.77Zr1.99(PO43・0.25H2
Na0.570.55Zr1.95Hf0.02(PO43・0.35H2
Na0.650.35Zr1.99Hf0.01(PO43・0.4H2
【0045】
式〔2〕の銀系無機抗菌剤を得るには、式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムに対し銀イオン交換した後、焼成することで得られる。この銀イオン交換する方法は、リン酸ジルコニウム化合物1モル当たり0.6b1モル以上〜0.99b1モル以下、好ましくは0.7b1モル以上〜0.98b1モル以下の硝酸銀を含有する水溶液に式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムを浸漬することにより行うことができる。硝酸銀の含有量が0.6b1モル以下では樹脂に配合時の変色性が高くなるため好ましくない。一方、0.99b1モル以上では硝酸銀がイオン交換に使用されずにイオン交換液中に残存するため経済的ではない。また、当該浸漬時には、攪拌等することで均一に混合される状態をつくることが好ましい。浸漬する量は、水溶液に対し均一に混合できる濃度であればよく、そのためには式〔3〕で表されるリン酸ジルコニウムが20重量%以下が好ましい。
銀イオンを含有する水溶液の調整には、イオン交換水に硝酸銀を溶解した水溶液を使用することが好ましい。イオン交換時の水溶液の温度は、0〜100℃で可能であり、好ましくは20〜80℃である。このイオン交換は速やかに行われるので、浸漬時間は5分以内でも可能であるが、均一で高い銀イオン交換率を得るためには30分〜5時間が好ましい。浸漬を5時間以上行っても、銀イオンの交換がそれ以上進まない。
銀イオン交換終了後には、これをイオン交換水などでよく水洗後、焼成することにより、式〔2〕で示される銀系無機抗菌剤を得ることができる。
【0046】
当該焼成温度は、550℃〜1000℃が好ましく、600〜900℃がより好ましく、650〜800℃で焼成することが耐変色性向上のためには更に好ましい。また、焼成時間は、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましく、耐変色性向上のためには3時間以上が更に好ましい。この焼成時間は、48時間以下が好ましく、36時間以下が更に好ましい。また、焼成後、本発明の銀系無機抗菌剤の粒子同士が凝固していることがあるので、粉砕機を用いて凝固したものを解砕したほうが良い。
【0047】
本発明の銀系無機抗菌剤の使用形態には、特に制限がなく、用途に応じて適宜他の成分と混合させたり、他の材料と複合させることができる。例えば、粉末、粉末含有分散液、粉末含有粒子、粉末含有塗料、粉末含有繊維、粉末含有紙、粉末含有プラスチック、粉末含有フィルム、粉末含有エアーゾル等の種々の形態で用いることができ、更に必要に応じて、消臭剤、防炎剤、防食、肥料及び建材等の各種の添加剤あるいは材料と併用することもできる。
【0048】
本発明の銀系無機抗菌剤には、樹脂への練り込み加工性やその他の物性を改善するため、必要に応じて種々の添加剤を混合することもできる。具体例としては酸化亜鉛や酸化チタンなどの顔料、リン酸ジルコニウムやゼオライトなどの無機イオン交換体、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、金属石鹸などの滑剤、防湿剤および増量剤、カップリング剤、核剤、流動性改良剤、消臭剤、木粉、防黴剤、防汚剤、防錆剤、金属粉、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤などがある。
【0049】
本発明の銀系無機抗菌剤を樹脂と配合することにより抗菌性樹脂組成物を容易に得ることができる。用いることができる樹脂の種類は特に制限はなく、天然樹脂、合成樹脂、半合成樹脂のいずれであってもよく、また熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。具体的な樹脂としては成形用樹脂、繊維用樹脂、ゴム状樹脂のいずれであってもよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアセタ−ル、ポリカ−ボネイト、PBT、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタンエラストマ−、ポリエステルエラストマ−、メラミン、ユリア樹脂、四フッ化エチレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、レ−ヨン、アセテ−ト、アクリル、ポリビニルアルコ−ル、キュプラ、トリアセテ−ト、ビニリデンなどの成形用または繊維用樹脂、天然ゴム、シリコ−ンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、クロルスルホン化ポリエチレンゴム、ブタジエンゴム、合成天然ゴム、ブチルゴム、ウレタンゴムおよびアクリルゴムなどのゴム状樹脂がある。また、本発明の銀系無機抗菌剤を天然繊維の繊維と複合化させて、抗菌繊維を作製することもできる。
【0050】
本発明の銀系無機抗菌剤の抗菌性樹脂組成物における配合割合は、抗菌性樹脂組成物100重量部に対して0.03〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。0.03重量部未満であると抗菌性樹脂組成物の抗菌性が不十分である場合があり、一方、10重量部より多く配合しても抗菌効果の向上がほとんどなく非経済的な上、樹脂物性の低下が著しくなる場合がある。
【0051】
本発明の銀系無機抗菌剤を樹脂へ配合し樹脂成形品とする加工方法は、公知の方法がどれも採用できる。例えば、(1)銀系無機抗菌剤粉末と樹脂とが付着しやすくするための添着剤や抗菌剤粉末の分散性を向上させるための分散剤を使用し、ペレット状樹脂またはパウダー状樹脂をミキサーで直接混合する方法、(2)前記のようにして混合して、押し出し成形機にてペレット状に成形した後、その成形物をペレット状樹脂に配合する方法、(3)銀系無機抗菌剤をワックスを用いて高濃度のペレット状に成形後、そのペレット状成形物をペレット状樹脂に配合する方法、(4)銀系無機抗菌剤をポリオ−ルなどの高粘度の液状物に分散混合したペ−スト状組成物を調製後、このペーストをペレット状樹脂に配合する方法などがある。
【0052】
上記の抗菌性樹脂組成物の成形には、各種樹脂の特性に合わせて公知の加工技術と機械が使用可能である。即ち、適当な温度または圧力で、例えば加熱および加圧または減圧しながら混合、混入または混練りの方法によって容易に調製することができる。それらの具体的操作は常法により行えば良く、塊状、スポンジ状、フィルム状、シート状、糸状またはパイプ状或いはこれらの複合体など、種々の形態に成形加工できる。
【0053】
本発明の銀系無機抗菌剤の使用形態には特に制限はなく、樹脂成形品や高分子化合物に配合することに限定されることはない。防黴性、防藻性および抗菌性が必要とされる用途に応じて適宜他の成分と混合したり、他の材料と複合させることができる。例えば、粉末状、粉末分散液状、粒状、エアゾ−ル状、または液状などの種々の形態で用いることができる。
【0054】
○用途
本発明の銀系無機抗菌剤は、防カビ、防藻および抗菌性を必要とされる種々の分野、即ち電化製品、台所製品、繊維製品、住宅建材製品、トイレタリー製品、紙製品、玩具、皮革製品、文具およびその他の製品などとして利用することができる。
さらに具体的用途を例示すると、電化製品としては食器洗浄機、食器乾燥機、冷蔵庫、洗濯機、ポット、テレビ、パソコン、ラジカセ、カメラ、ビデオカメラ、浄水器、炊飯器、野菜カッタ−、レジスタ−、布団乾燥器、FAX、換気扇、エア−コンデショナ−などがあり、台所製品としては、食器、まな板、押し切り、トレ−、箸、給茶器、魔法瓶、包丁、おたまの柄、フライ返し、弁当箱、しゃもじ、ボ−ル、水切り篭、三角コ−ナ−、タワシいれ、ゴミ篭、水切り袋などがある。
【0055】
繊維製品としては、シャワ−カ−テン、布団綿、エアコンフィルタ−、パンスト、靴下、おしぼり、シ−ツ、布団カバー、枕、手袋、エプロン、カ−テン、オムツ、包帯、マスク、スポ−ツウェアなどがあり、住宅・建材製品としては、化粧板、壁紙、床板、窓用フィルム、取っ手、カ−ペット、マット、人工大理石、手摺、目地、タイル、ワックスなどがある。またトイレタリー製品としては、便座、浴槽、タイル、おまる、汚物いれ、トイレブラシ、風呂蓋、軽石、石鹸容器、風呂椅子、衣類篭、シャワ−、洗面台などがあり、紙製品としては、包装紙、薬包紙、薬箱、スケッチブック、カルテ、ノート、折り紙などがあり、玩具としては、人形、ぬいぐるみ、紙粘土、ブロック、パズルなどがある。
【0056】
さらに皮革製品としては、靴、鞄、ベルト、時計バンドなど、内装品、椅子、グロ−ブ、吊革などがあり、文具としては、ボ−ルペン、シャ−プペン、鉛筆、消しゴム、クレヨン、用紙、手帳、フレキシブルディスク、定規、ポストイット、ホッチキスなどがある。
その他の製品としてはインソ−ル、化粧容器、タワシ、化粧用パフ、補聴器、楽器、タバコフィルタ−、掃除用粘着紙シ−ト、吊革握り、スポンジ、キッチンタオル、カ−ド、マイク、理容用品、自販機、カミソリ、電話機、体温計、聴診器、スリッパ、衣装ケ−ス、歯ブラシ、砂場の砂、食品包装フィルム、抗菌スプレ−、塗料などがある。
【0057】
<実施例>
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
メジアン径および最大粒径は、レーザー回折式粒度分布を用いて体積基準により測定した。
ジルコニウムの量は、強酸を用いて検体を溶解後、この液をICP発光分光分析計にて測定し算出した。リンの量は、強酸を用いて検体を溶解後、この液をICP発光分光分析計にて測定し算出した。ナトリウムの量は、強酸を用いて検体を溶解後、この液を原子吸光光度計にて測定し算出した。アンモニアの量は、強酸を用いて検体を溶解後、この液をインドフェノール法にて測定し算出した。オキソニウムイオンの量は、熱分析により160〜190℃の重量減少量を測定し算出した。
【0058】
<実施例1>
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.2モルおよび塩化アンモニウム0.1モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.7に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウム化合物を合成した。
このリン酸ジルコニウムの各成分量を測定したところ、組成式は、
Na0.6(NH40.4Zr1.98Hf0.02(PO43・0.09H2
であった。
得られたリン酸ジルコニウム0.09モルに硝酸銀0.05モル(Ag/Na=0.93)を溶解したイオン交換水溶液450mlを加え、60℃で2時間攪拌することで銀を担持させた。その後よく洗浄し、120℃で乾燥したものを650℃で4時間焼成した。
このリン酸ジルコニウムの各成分量を測定したところ、組成式は、
Ag0.55Na0.050.4Zr1.98Hf0.02(PO43
であった。
この焼成後の粉末を軽く粉砕した後、相対湿度40%、温度55℃の雰囲気で6時間静置し、加水処理することで本発明の銀系無機抗菌剤を得た。この銀系無機抗菌体の各成分量を測定したところ、組成式は、
Ag0.55Na0.050.2(H3O)0.2Zr1.98Hf0.02(PO43・0.2H2
であった。そして、この銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0059】
<実施例2>
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.19モルおよび塩化アンモニウム0.10モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.7に調整後、98℃で14時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウム化合物を合成した。
このリン酸ジルコニウムの各成分量を測定したところ、組成式は、
Na0.5(NH40.8Zr1.91Hf0.015(PO43・0.11H2
であった。
得られたリン酸ジルコニウム0.09モルに硝酸銀0.035モル(Ag/Na=0.78)を溶解した1N硝酸水溶液450mlに、を加え、60℃で2時間攪拌することで銀を担持させた。その後よく洗浄し、120℃で乾燥したものを720℃で4時間焼成した。
このリン酸ジルコニウムの組成式を測定したところ、組成式は、
Ag0.39Na0.110.8Zr1.91Hf0.015(PO43
であった。この焼成後の粉末を軽く粉砕した後、相対湿度5%、温度110℃の雰囲気中で6時間静置し、加水処理することで本発明の銀系無機抗菌剤を得た。この銀系無機抗菌体の各成分量を測定したところ、組成式は、
Ag0.39Na0.110.21(H3O)0.59Zr1.91Hf0.015(PO43・0.19H2
そして、この銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0060】
<実施例3>
純水300mlに、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.195モルおよび塩化アンモニウム0.12モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液に20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.7に調整後、140℃飽和蒸気圧下で4時間攪拌した。その後、得られた沈殿物をよく洗浄し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウム化合物を合成した。
このリン酸ジルコニウムの各成分量を測定したところ、組成式は、
Na0.25(NH40.95Zr1.93Hf0.02(PO43・0.09H2
であった。
得られたリン酸ジルコニウム0.09モルに硝酸銀0.018モルを溶解したイオン交換水450mlに加え、60℃で2時間攪拌することで銀を担持させた。その後よく洗浄し、120℃で乾燥したものを700℃で4時間焼成した。
このリン酸ジルコニウムの各成分量を測定したところ、組成式は、
Ag0.18Na0.070.95Zr1.93Hf0.02(PO43
であった。この焼成後の粉末を軽く粉砕した後、相対湿度50%、温度35℃の雰囲気中で24時間攪拌することにより加水処理することで本発明の銀系無機抗菌剤を得た。この銀系無機抗菌体の各成分量を測定したところ、組成式は、
Ag0.18Na0.070.45(H3O)0.5Zr1.93Hf0.02(PO43・0.27H2
であった。そして、この銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0061】
<実施例4>
純水300mlにシュウ酸2水和物0.1モル、ハフニウム0.18%含有オキシ塩化ジルコニウム8水和物0.193モルを溶解後、攪拌しながらリン酸0.3モルを加えた。この溶液を20%水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを2.9に調整後、98℃で14時間攪拌した。得られた沈殿物をよく洗浄後、1N硝酸水溶液を用いてイオン交換し、120℃で乾燥することによりリン酸ジルコニウムを合成した。
このリン酸ジルコニウムの各成分量を測定したところ、組成式は、
Na0.270.75Zr1.97Hf0.025(PO43・0.37H2
であった。
得られたリン酸ジルコニウム0.09モルに硝酸銀0.018モル(Ag/Na=0.8)を溶解した1N硝酸水溶液450mlに、合成したを加え、60℃で2時間攪拌することで銀を担持させた。その後よく洗浄し、120℃で乾燥したものを700℃で4時間焼成した。
このリン酸ジルコニウムの各成分量を測定したところ、組成式は、
Ag0.2Na0.070.75Zr1.97Hf0.025(PO43
であった。
焼成後の粉末を軽く粉砕後、温度35℃、相対湿度50%の雰囲気中で24時間静置し、加水処理することで、本発明の銀系無機抗菌剤を得た。
この銀系無機抗菌体の各成分量を測定したところ、組成式は、
Ag0.2Na0.070.3(H3O)0.45Zr1.91Hf0.02(PO43・0.22H2
であった。そして、この銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0062】
<比較例1>
加水処理を行わない以外は、実施例3と同様の操作により比較銀系無機抗菌剤を得た。この比較銀系無機抗菌体の組成式は、
Ag0.18Na0.070.95Zr1.93Hf0.02(PO43
であった。そして、この比較銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0063】
<比較例2>
焼成を行わない以外は、実施例3と同様の操作により比較銀系無機抗菌剤を得た。この比較銀系無機抗菌体の組成式は、
Ag0.18Na0.07(NH4)0.95Zr1.93Hf0.02(PO43・0.43H2
であった。そして、この比較銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0064】
<比較例3>
硝酸銀0.015モル(Ag/Na=0.33) 溶解したイオン交換水で銀を担持させた以外は、実施例2と同様の操作により比較銀系無機抗菌剤を得た。この比較銀系無機抗菌体の組成式は、
Ag0.16Na0.340.24(H3O)0.56Zr1.91Hf0.015(PO43・0.16H2
であった。そして、この比較銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0065】
<比較例4>
市販のA型ゼオライト40gに硝酸銀1.2gを溶解したイオン交換水溶液450mlを加え、60℃で2時間攪拌することで銀を担持させた。この比較銀系無機抗菌体のメジアン径(μm)、最大粒径(μm)および大腸菌に対する最小発育阻止濃度(MIC、μg/ml)を測定し、これらの結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
<実施例5:成型加工品での評価>
実施例1で得られた銀系無機抗菌剤を宇部興産製ナイロン6樹脂に0.1%配合し、280℃で厚さ2mmのプレートを射出成型し、成形品aを得た。この成形品aと銀置換をしていない以外は実施例1と同様の操作を行い得られたリン酸ジルコニウムを0.1%配合し成形したプレートとの成形直後の色差ΔEを色彩色差計を用いて測定した結果を表2に示した。また、この射出成型プレートを90℃の0.1%食塩水に1時間浸漬後、屋外暴露したプレートの色差ΔEを色彩色差計を用いて測定した結果も表2に示した。さらに、この射出成型プレートを用いてJIS Z2801 5.2プラスチック製品などの試験方法による抗菌性試験を実施した。この得られた抗菌活性値の結果も表2に示した。
同様に、実施例2〜4および比較例1〜4で作製した銀系無機抗菌剤および比較銀系無機抗菌剤を用いて、成形品b〜dおよび比較成形品e〜hを作製した。これらの成形品についても色差および抗菌活性を測定し、これらの結果を表2に示した。
【0068】
【表2】

【0069】
<実施例6:ナイロンの紡糸試験>
ナイロン樹脂に実施例1で作製した銀系無機抗菌剤を10wt%になるように配合し、マスターバッチを作製した。そして、このマスターバッチとナイロン樹脂ペレットとを混合し、銀系無機抗菌剤が0.15wt%となるように抗菌樹脂を調製した。そして、この抗菌樹脂についてマルチフィラメント紡糸機を用いて、紡糸温度285℃で溶融紡糸し、24フィラメントの抗菌剤含有ナイロン繊維を(繊維a)を得た。同様に、実施例2〜4および比較例1〜4で作製した比較銀系無機抗菌剤を用いて、繊維b〜dおよび比較繊維e〜hを作製した。紡糸時の糸切れの有無および洗濯3回品の色差ΔEを色彩色差計を用いて測定した結果を表3に示した。また、得られた抗菌剤含有ナイロン繊維は精練後および洗濯3回後に、黄色ブドウ球菌を用いたJIS L 1902-1998の定量試験により抗菌性を評価し、その結果を表3に示した。
【0070】
【表3】

【0071】
これらの結果から、本発明の銀系無機抗菌剤は、紡糸性などの加工性に優れており、プラスチック製品に配合した際の耐変色性にも優れている。また、本発明の銀系無機抗菌剤は、既存の銀系無機抗菌剤に比べ、抗菌効果の耐久性も認められた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の新規の銀系無機抗菌剤は、均一かつ微粒子であるため加工性に優れており、しかもプラスチック製品の耐変色性および抗菌性にも優れている。従って、細い繊維や塗料などの加工性が重要と成る用途などにも適用性の高い抗菌剤として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式〔1〕で示される銀系無機抗菌剤。
AgaNabc(H3O)dZreHff(PO43・nH2O 〔1〕
式〔1〕において、a、b、c、d、およびeは正数であり、fは0または正数であり、1.75<(e+f)<2.25、a+b+c+d+4(e+f)=9を満たす数であり、nは2以下の正数である。
【請求項2】
下記式〔2〕で示されるリン酸ジルコニウム銀系化合物に加水処理させて得た請求項1に記載の銀系無機抗菌剤。
AgaNabC1ZreHff(PO43 〔2〕
式〔2〕において、a、b、c1、およびeは正数であり、fは0または正数であり、1.75<(e+f)<2.25、a+b+c1+4(e+f)=9を満たす数である。
【請求項3】
下記式〔3〕で示されるリン酸ジルコニウム系化合物1モル当たり0.6b1モル〜0.99b1モルの硝酸銀を含む水溶液を用いて銀を含有させた後、これを焼成して得た前記式〔2〕で示されるリン酸ジルコニウム銀系化合物に加水処理させて得た請求項1に記載の銀系無機抗菌剤。
Nab1c1ZreHff(PO43・nH2O 〔3〕
式〔3〕において、Aはアンモニウムイオンおよび/または水素イオンであり、b1、c1、およびeは正数であり、fは0または正数であり、1.75<(e+f)<2.25、b1+c1+4(e+f)=9を満たす数である。
【請求項4】
請求項1〜3のいづれか1つに記載の銀系無機抗菌剤を含有する抗菌製品。

【公開番号】特開2008−74781(P2008−74781A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256880(P2006−256880)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】