説明

銅の製錬方法

【課題】 溶錬炉で生じるスラグから粗銅を得ることができる銅の製錬方法を提供する。
【解決手段】 銅の製錬方法は、銅マット(10)を溶錬炉(100)に装入し酸化によって銅マットからブリスタ(30)およびスラグ(20)を生成する生成工程と、電気炉(300)において還元によってスラグ(20)からブリスタ(40)を精製する第1精製工程と、第1精製工程によって生成されたスラグ(50)の銅品位が0.8重量%を上回る場合にスラグ(50)を繰返し溶剤として溶錬炉へ投入する投入工程と、を含む。電気炉において還元によってスラグから粗銅を得ることができる。既存の溶錬炉等を用いて銅の製錬が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PS転炉を使用しない銅の製錬方法として、フラッシュコンバータ炉を用いる方法(例えば、非特許文献1参照)、MI連続製銅法(例えば、特許文献1参照)等があげられる。
【0003】
フラッシュコンバータ炉を用いる方法においては、調合および乾燥した銅精鉱を自溶炉に装入して銅マットおよびスラグに溶解・分離し、得られたマットを一旦冷却した後に粉砕してフラッシュコンバータに装入し、マットの酸化によりブリスタとスラグとに分離し、精製炉においてブリスタを酸化・還元することによって、アノード鋳造が行われる。
【0004】
MI連続製銅法においては、調合および乾燥した銅精鉱をS炉に装入して銅マットおよびスラグに溶解・分離し、得られたマットをC炉に装入し、マットの酸化によってブリスタとスラグとに分離し、ブリスタを精製炉にて酸化・還元することによって、アノード鋳造が行われる。
【0005】
自溶炉またはS炉で生じたスラグを錬かん炉またはCL炉に滞留させることによってマットを回収分離し、分離したマットをフラッシュコンバータ炉またはC炉に装入する。スラグは水砕後に販売される。また、フラッシュコンバータ炉またはC炉で生じたスラグは、水砕後に自溶炉またはS炉およびC炉へと繰り返される。
【0006】
【特許文献1】特許第3838105号広報
【非特許文献1】I.V.Kojo, M. Lahtinen, “Outokumpu blister smelting processes, clean technology standards”:Cu2007, The proceedings of the Carlos Diaz symposium on Pyrometallurgy, Vol.3, Book 2,(Toronto, Canada, 2007), pp183-190.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、フラッシュコンバータ炉またはC炉で生じるスラグは、約20%の銅を含んでいる。このスラグは、水砕後に自溶炉またはS炉およびC炉へと繰り返されて銅分が回収されていた。
【0008】
本発明は、溶錬炉で生じるスラグから粗銅を得ることができる銅の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る銅の製錬方法は、銅マットを溶錬炉に装入し酸化によって銅マットからブリスタおよびスラグを生成する生成工程と、電気炉において還元によってスラグからブリスタを精製する第1精製工程と、第1精製工程によって生成されたスラグの銅品位が0.8重量%を上回る場合にスラグを繰返し溶剤として上記溶錬炉もしくは銅精鉱を処理しマットを生成する溶錬炉へ投入する投入工程と、を含むことを特徴とするものである。本発明に係る銅の製錬方法においては、溶錬炉で生じるスラグの還元によって、粗銅を得ることができる。
【0010】
第1精製工程によって生成されたスラグの銅品位が0.8重量%以下の場合にスラグを回収する回収工程をさらに含んでいてもよい。この場合、回収したスラグを鉄鋼原料として用いることができる。
【0011】
溶錬炉で生成したブリスタと電気炉で精製したブリスタとを精製炉において粗銅に精製する第2精製工程をさらに含んでいてもよい。溶錬炉に装入される銅マットの銅品位は、65重量%〜75重量%であってもよい。溶錬炉の生成工程においてブリスタの銅品位を98重量%以上に調整してもよい。溶錬炉の生成工程において、銅品位が15重量%〜25重量%のスラグを生成してもよい。第1精製工程において、ブリスタの銅品位を92重量%〜93重量%に調整してもよい。スラグは、カルシウムフェライトスラグであってもよい。
【0012】
電気炉は、抵抗加熱式電気炉であってもよい。第1精製工程において、電気炉への還元剤の添加によってスラグを還元してもよい。還元剤は、コークス、鉄粒および銑鉄粒の少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0013】
溶錬炉は、フラッシュコンバータ炉または連続製銅炉であってもよい。この場合、既存の溶錬炉を用いることができる。それにより、コストを抑制することができる。
【0014】
自溶炉の錬かん炉を電気炉として使用してもよい。この場合、既存の溶錬炉を用いることができる。それにより、コストを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶錬炉で生じるスラグから粗銅を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0017】
(実施の形態)
図1は、銅の製錬方法の一実施形態を説明するための模式図である。まず、図1(a)に示すように、フラッシュコンバータ炉100に、銅マット10を導入するとともにエアまたは酸素富化空気を吹き込む。銅マット10は、酸化カルシウムを溶剤として含有するマットである。銅マット10の銅品位は、特に限定されるものではないが、好ましくは65重量%〜75重量%程度である。銅品位が75重量%を超えると銅マット中の鉄濃度が低くなって充分な反応熱が得られずスラグを生成できなくなるためであり、銅品位が65重量%より少ないとスラグ量が多くなり経済的に適さないためである。65重量%〜75重量%の範囲においては、フラッシュコンバータ炉およびMI炉の熱バランスの効率がよい範囲であるといえる。
【0018】
図1(b)に示すように、銅マット10の溶融酸化によって、カルシウムフェライト(FeO−CaO)スラグ20とブリスタ30とが分離生成される。カルシウムフェライトスラグ20の銅品位は、特に限定されるものではないが、好ましくは10重量%〜25重量%程度である。スラグ中銅品位が25重量%を超えると、スラグの体積が増え繰返し量が多くなり経済的に適さないためであり、10重量%より低いと、適切なスラグの溶融範囲が得られず操業に適さないためである。
【0019】
カルシウムフェライトスラグ20の酸化カルシウム含有量は、特に限定されるものではないが、好ましくは10重量%〜20重量%程度である。この範囲においては比較的良好なスラグの溶融範囲として適切な炉操業を維持できるからである。ブリスタ30の銅品位は、特に限定されるものではないが、好ましくは98重量%以上である。次の精製炉でのスラグ発生量が増え、その処理が困難になるためである。なお、カルシウムフェライトスラグ20の成分およびブリスタ30の銅品位は、フラッシュコンバータ炉100内に吹き込む酸素量、マット量の比率等によって調整することができる。
【0020】
次に、図1(c)に示すように、ブリスタ30を精製炉200に導入するとともに、カルシウムフェライトスラグ20を電気炉300に導入する。電気炉300として、例えば抵抗加熱式の電気炉を用いることができる。次に、電極からカルシウムフェライトスラグ20に電力を供給することによってカルシウムフェライトスラグ20を加熱するとともに、電気炉300内の還元度を調整する。例えば、内径9m、電極間距離3.4mの電気炉を使用した場合、タップ電圧90V〜110Vをカルシウムフェライトスラグ20に4時間〜5時間程度印加する。また、コークス、鉄粒、銑鉄粒等の添加によって、電気炉300内の還元度を調整することができる。
【0021】
ここで、カルシウムフェライトスラグの固有抵抗は比較的低いため、タップ電圧を上げると電極浸漬深さが少なくなって熔体の保持が困難になる。そこで、実用的な電圧範囲の中でタップ電圧を90V程度に設定することによって、電極浸漬深さを最も稼ぐことができる。したがって、タップ電圧は、90V程度であることが好ましい。
【0022】
カルシウムフェライトスラグ20の還元によって、銅分が沈降して分離する。それにより、図1(d)に示すように、カルシウムフェライトスラグ20からブリスタ40が精製されてスラグ50が生成される。なお、カルシウムフェライトスラグ20の還元によって、スラグ50の不純物(例えば、As、Sb、Bi、Ni,Pb等)が低減される。また、ブリスタ40の鉛含有量を増大させることができる。
【0023】
次いで、図1(e)に示すように、ブリスタ40を精製炉200に導入する。次に、精製炉200において、ブリスタ30およびブリスタ40から粗銅を精製する。以上の工程により、銅マット10から粗銅を得ることができる。なお、粗銅を電解精製する際に粗銅中のBiを共沈させるために、精製炉でPbを添加することが好ましいが、ブリスタ40の鉛含有量が多いことから、精製炉200における鉛添加を不要とすることができる。
【0024】
ここで、電気炉300内で生成されたスラグ50の銅品位が0.8重量%よりも高い場合、スラグ50は、溶錬炉100に戻され繰返し使用される。この場合、スラグ50を溶剤として用いることができるとともに、スラグ50からさらに粗銅を得ることができる。スラグ50の銅品位が1重量%以下程度であれば、該スラグを鉄鋼原料として使用することができる。本実施形態においては、銅品位が0.8重量%以下になったスラグ50は、鉄鋼原料として回収される。
【0025】
本実施形態によれば、還元によってカルシウムフェライトスラグから粗銅を得ることができる。ここで、カルシウムフェライトスラグの固有抵抗は比較的低いことから、抵抗加熱式電気炉を用いた場合にはカルシウムフェライトスラグを加熱溶融させにくいと考えられる。しかしながら、本実施形態のように還元によってカルシウムフェライトスラグの銅品位が低下することによって、電気伝導度も低下すると考えられる。したがって、電気炉内においてはカルシウムフェライトスラグの固有抵抗が増大すると考えられる。以上のことから、抵抗加熱式電気炉を用いてカルシウムフェライトスラグから粗銅を得ることができる。
【0026】
また、還元度の調整によって、カルシウムフェライトスラグの銅品位を所望の値まで低減させることができる。例えば、銅品位を0.8重量%以下に低減させることによって、カルシウムフェライトスラグを鉄鋼原料として用いることができる。また、還元度の調整によって、カルシウムフェライトスラグの鉄品位を55重量%以上に上昇させることができる。それにより、カルシウムフェライトスラグの鉄鋼原料としての品質を向上させることができる。
【0027】
また、自溶炉を本実施形態に係るフラッシュコンバータ炉100として用いれば、自溶炉に付随するシリケート(FeO−SiO)スラグ用の錬かん炉を本実施形態に係る電気炉300として用いることができる。したがって、新たな設備を設けることなく、本実施形態に係る銅の製錬方法を実施することができる。
【0028】
なお、本実施形態においては溶錬炉としてフラッシュコンバータを用いたが、それに限られない。MI連続製銅炉を溶錬炉として用いてもよい。本実施形態において、図1(a)および図1(b)の工程が生成工程に相当し、図1(d)の工程が第1精製工程に相当し、図1(e)の工程が第2精製工程に相当する。
【実施例】
【0029】
以下、上記実施形態に係る銅の製錬方法に従って、粗銅を得た。
【0030】
(実施例1)
実施例1においては、電気炉に還元剤を添加することなくカルシウムフェライトスラグを溶解した。電気炉に導入する前のカルシウムフェライトスラグの組成比を表1に示す。また、電気炉内の温度を1343℃とした。実験に使用した電気炉の内径は660mmであり、電極には黒鉛を用い、電極間距離を200mmとした。また、タップ電圧は40Vとし、保持時間は4時間とした。
【0031】
(実施例2)
実施例2においては、電気炉に還元剤としてコークスを添加してカルシウムフェライトスラグを溶解した。電気炉に導入する前のカルシウムフェライトスラグの組成比および実験炉は、実施例1と同様である。コークスの添加量は、カルシウムフェライトスラグに対して5重量%とした。電気炉内の温度を1343℃とした。タップ電圧は40Vとし、保持時間は5時間とした。
【0032】
(分析)
電気炉における溶解後のカルシウムフェライトスラグの組成を分析した。その結果を表1に示す。また、電気炉における溶解後のブリスタの組成を分析した。その結果を、酸素分圧とともに表2に示す。表2の酸素分圧に示すように、実施例1および実施例2のいずれにおいても、電気炉内が還元雰囲気になったことが確認された。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表1に示すように、実施例1,2のいずれにおいても、カルシウムフェライトスラグの銅品位が低下した。したがって、還元によってカルシウムフェライトスラグからの脱銅が可能であることが確認された。さらに、コークスを5重量%添加した場合には、スラグの銅品位が1.2重量%まで低下した。したがって、還元度を調整することによって、スラグの銅品位を調整することができることが確認された。
【0036】
また、表2に示すように、還元によってカルシウムフェライトスラグから粗銅を得ることができることが確認された。さらに、コークスを添加した場合には、鉛が多く含まれた。したがって、還元度を調整することによって、精製炉における鉛添加を不要とできることが確認された。
【0037】
さらに、表3に示すように、電気炉に導入する前のカルシウムフェライトスラグの重量及び溶解精製後のカルシウムフェライトスラグの重量を比較すると、実施例1の還元剤を添加しない場合には13%ほど減少し、実施例2の還元剤を添加した場合には29%ほど減少した。したがって、溶錬炉に繰返し投入されるスラグ重量を少なくでき、溶錬炉の燃料費等の負荷を軽減できる効果があることがわかる。なお、表3においては、溶解精製後のスラグ重量およびブリスタ重量の合計と電気炉投入時のスラグ重量とが異なっている。これは、スラグから一部の成分が揮発することがあり、また、冷却固化したスラグを炉から取り出す際に炉底、炉壁等にへばりついていた残留物が混ざることがあるからである。
【0038】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】銅の製錬方法の一実施形態を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0040】
10 銅マット
20 カルシウムフェライトスラグ
30 ブリスタ
40 ブリスタ
50 スラグ
100 フラッシュコンバータ炉
200 精製炉
300 電気炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅マットを溶錬炉に装入し、酸化によって前記銅マットからブリスタおよびスラグを生成する生成工程と、
電気炉において、還元によって前記スラグからブリスタを精製する第1精製工程と、
前記第1精製工程によって生成されたスラグの銅品位が0.8重量%を上回る場合に、前記スラグを繰返し溶剤として前記溶錬炉、もしくは銅精鉱を処理しマットを生成する溶錬炉へ投入する投入工程と、を含むことを特徴とする銅の製錬方法。
【請求項2】
前記第1精製工程によって生成されたスラグの銅品位が0.8重量%以下の場合に前記スラグを回収する回収工程をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の銅の製錬方法。
【請求項3】
前記溶錬炉で生成したブリスタと前記電気炉で精製したブリスタとを、精製炉において粗銅に精製する第2精製工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の銅の製錬方法。
【請求項4】
前記溶錬炉に装入される前記銅マットの銅品位は、65重量%〜75重量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項5】
前記溶錬炉の生成工程において、ブリスタの銅品位を98重量%以上に調整することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項6】
前記溶錬炉の生成工程において、銅品位が15重量%〜25重量%のスラグを生成することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項7】
前記第1精製工程において、前記ブリスタの銅品位を92重量%〜93重量%に調整することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項8】
前記スラグは、カルシウムフェライトスラグであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項9】
前記電気炉は、抵抗加熱式電気炉であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項10】
前記第1精製工程において、前記電気炉への還元剤の添加によって前記スラグを還元することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項11】
前記還元剤は、コークス、鉄粒および銑鉄粒の少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項10記載の銅の製錬方法。
【請求項12】
前記溶錬炉は、フラッシュコンバータ炉または連続製銅炉であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の銅の製錬方法。
【請求項13】
自溶炉の錬かん炉を前記電気炉として使用することを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の銅の製錬方法。

【図1】
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