説明

銅を含まない非アスベスト有機摩擦材料

【課題】消費者の期待を満たすと同時に、環境における銅レベルの低減に関する国内法規および/または国際法規をも満たすことができるブレーキ要素を提供することにある。
【解決手段】鉄ファイバ、アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つを含む摩擦材料を有するブレーキ要素。摩擦材料中の鉄ファイバの量は約1〜10体積%の範囲内にある。アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つの量は約1〜5体積%の範囲内にある。摩擦材料には元素銅は含まれていない。摩擦材料が摩耗しても、元素銅が環境中に放散されることはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦材料に関し、より詳しくは、銅を含まない非アスベスト有機摩擦材料に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦材料は、一般に、移動する車両または機械部品の運動エネルギを熱に変換して、車両または機械部品の運動を低下させるのに使用されている。一般に、摩擦材料は熱を吸収して、該熱を大気中に徐々に放散する。摩擦材料は、ブレーキの使用中に摩耗屑に変換され、ブレーキシステムの消耗部分であると考えることができる。
【0003】
ブレーキシステムは、快適性、耐久性およびリーズナブルなコスト等の消費者の一群の或る期待を満たさなくてはならない。これらの期待は、高くかつ安定した摩擦係数、所定限度内の振動および騒音特性、および摩擦材料およびロータ、ドラムまたはクラッチの相手面に対する低摩耗速度等のブレーキに対する一群の特定要求であると解することができる。これらの要求は、リーズナブルなコストで同時的に達成されなくてはならない。特に、性能は、極端な温度、湿度、速度および減速度について、変化する付加条件下で安定していなければならない。
【特許文献1】米国特許第4,351,421号明細書
【特許文献2】米国特許第5,073,099号明細書
【特許文献3】2003年12月30日付米国特許第6,670,408号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ブレーキシステムは消費者の期待を満たさなくてはならないと同時に、国内法規および/または国際法規をも満たさなくてはならない。多くの国の将来の立法は、環境における銅レベルの低減に関するものとなるかもしれない。このような銅レベルの1つの寄与要因として、伝統的な摩擦材料からの摩耗屑がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ブレーキ要素は、一般に、鉄ファイバ、アルミニウム、錫およびこれらの組合せのうちの1つを含む摩擦材料を有している。摩擦材料中の鉄ファイバの量は、約1〜10体積%の範囲内にある。アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つの量は、約1〜5体積%の範囲内にある。摩擦材料には、元素銅(elemental copper)が存在しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の他の適用領域は、添付図面、特許請求の範囲の記載および以下に述べる詳細な説明から明らかになるであろう。詳細な説明および特定例は、本発明の種々の実施形態を示すものであるが、図示および例示のみを目的とするものであって、本発明の範囲を限定するものではないと理解すべきである。
【0007】
本発明は、詳細な説明、特許請求の範囲の記載および添付図面から、より完全に理解されよう。
【0008】
図1には、簡単化された例示の車両用ディスクブレーキシステム10に関連して本発明が示されている。ディスクブレーキシステム10は、ロータ12と、キャリパ14と、ハブ16とを有している。ディスクブレーキシステム10は更に1対のアウトボードブレーキ要素18aおよびインボードブレーキ要素18bを有し、以下、これらのブレーキ要素18a、18bは、ブレーキ要素18またはブレーキパッド18と呼ぶ。ブレーキ要素18は、当業界で知られた方法でキャリパ14に取付けられる。ブレーキシステム10は簡単化された態様で示されていることは理解されよう。例示のディスクブレーキシステムのより詳細な説明が、本件出願人の所有する上記特許文献1に示されている(該特許文献1はその全体を本願に援用する)。
【0009】
ブレーキ要素18の各々は、構造的バッキング20および摩擦材料22を有している。摩擦材料22は、機械的緊締具および/または化学的接合を用いて構造的バッキング20に取付けられる。このような取付け方法の一例が、上記特許文献2に開示されている(該特許文献2はその全体を本願に援用する)。
【0010】
ブレーキ要素18は、ロータ12を挟圧して、ロータ12の回転を低下させ、従って車両(図示せず)を所望速度に低下させる。前述のように、ブレーキ要素18がロータ12に接触すると摩擦が生じ、この摩擦によりブレーキ要素18が加熱されかつ最終的に摩耗する。上記説明は、ドラムブレーキ構造、クラッチライニング構造および他の非車両構造(例えば機械部品の減速)にも適用できることは理解されよう。
【0011】
摩擦材料22は、例えばスラリ形態に結合され、かつ所望形状に加圧および/またはモールド成形される。摩擦材料22には、伝統的な摩擦材料に比ベて比較的多量の体積%で鉄ファイバ、アルミニウム、亜鉛、錫および/またはこれらの組合せを含めることができる。他の摩擦材料成分も考えられるが、摩擦材料22には元素銅は含まれない。鉄ファイバに代えてまたは鉄ファイバと組合せて、ファイバおよび/または粉末形態の亜鉛および/または錫を、体積%として摩擦材料22の組成に含めることができる。
【0012】
摩擦材料22の例示組成は元素銅を含まないが、銅を含む伝統的な非アスベスト有機摩擦材料に匹敵する性能および耐久性を依然として得ることができる。例示組成はまた、元素銅を含まないものとしかつ鉄ファイバ、アルミニウム、亜鉛、錫および/またはこれらの組合せの体積%を増大させることにより、環境的に優れた組成物を提供する。熱放散の目的で、伝統的な摩擦材料には多量の元素銅が使用されていることは明白である。従って、本発明は、摩擦材料の成分として元素銅を含む伝統的な摩擦材料と同等の機能を得るべく、多量の鉄ファイバ、アルミニウム、亜鉛、錫および/またはこれらの組合せを含むものであることは理解されよう。
【0013】
本発明の一実施形態では、摩擦材料22は、約1〜10体積%の鉄ファイバを含み、元素銅は含んでいない。より好ましくは、本発明は2.5体積%の鉄ファイバを含み、同様に元素銅は含まれていない。摩擦材料の鉄ファイバおよび/または他の成分の後述の好ましいパーセンテージ(%)は、最適性能特性を与える。本発明の作動可能性を維持する上で、各成分当りの全体積の正確なパーセンテージに固執する必要はないが、正確なパーセンテージからの誤差があると摩擦材料22の性能が低下することは理解されよう。
【0014】
本発明の他の実施形態では、鉄ファイバの長さは、約1/4インチ(約6.4mm)〜約1/2インチ(約13mm)の範囲内に定めることができる。鉄ファイバの太さ(幅)は、約20マイクロメートル(μm)に定めることができる。例えば、鉄ファイバの長さ対太さ比は、約80対1〜650対1の範囲内に定めることができる。本発明の作動可能性を維持する上で、鉄ファイバの正確な寸法に固執する必要はないが、正確な寸法からの誤差があると摩擦材料22の性能が低下することは理解されよう。鉄ファイバは多くの業者から商業的に入手でき、このような1つの供給業者として、Sunny Metal Inc.社(Guangzhou、中国)がある。
【0015】
本発明の他の実施形態では、上記鉄ファイバに加えてまたは鉄ファイバの代わりに、摩擦材料22に、約1〜5体積%のアルミニウム、亜鉛、錫および/またはこれらの組合せを含めることができる。より好ましくは、本発明は、1体積%のアルミニウム、亜鉛、錫および/またはこれらの組合せを含む。アルミニウム、亜鉛および/または錫は、ファイバおよび/または粉末の形態で添加できる。アルミニウム、亜鉛および/または錫の太さは、約20〜80マイクロメートルの範囲内に定めることができる。粉末形態では、アルミニウム、亜鉛および/または錫の粉末は、約0.05インチ(約1.5mmまたは約10メッシュ)の公称直径に定めることができる。アルミニウム、亜鉛および/または錫のファイバおよび/または粉末は、多くの業者から商業的に入手できることは理解されよう。
【0016】
本発明の他の実施形態では、摩擦材料22は、約4.5体積%の鉄ファイバを含んでおり、元素銅は含んでいない。他の実施形態では、摩擦材料22は約1体積%の鉄ファイバを含み、銅は実質的に含んでいない。これらの実施形態では、アルミニウム、亜鉛、錫および/またはこれらの組合せは、前述のように、ファイバおよび/または粉末の形態で摩擦材料22に添加される。本発明の種々の実施形態では、鉄ファイバ、アルミニウム、亜鉛および/または錫は、単独でまたは互いに組合せて使用でき、かつ元素銅の置換物質として機能することは理解されよう。
【0017】
下記表1には、本発明の他の実施形態を示す摩擦材料22の第一例示組成の範囲が示されている。「例示値」の欄に示された値は、摩擦材料22内の成分の好ましい値を示すものである。
【表1】

【0018】
下記表2には、本発明の他の実施形態を示す摩擦材料22の第二例示組成の範囲が示されている。「例示値」の欄に示された値は、摩擦材料についての例示値を示すものである。評および表に示す値は例示値であって、本発明の範囲を限定するものではないことを理解すべきである。
【表2】

【0019】
多くの業者が、摩擦材料22に使用するのに適した商業的に利用可能な多くの鉱物ファイバを供給していることは理解されよう。本発明の種々の実施形態において、このような1つの例示鉱物ファイバとして、Lapinus Fibres B.V.(オランダ国)から商業的に入手可能なLapinus(R)Fiberがある。
【0020】
多くの業者が、摩擦材料22に使用するのに適した商業的に入手可能な多くの金属硫化物および/または金属酸化物を供給していることは理解されよう。本発明の種々の実施形態において、例示の金属硫化物として、硫化アンチモン、硫化第二錫、二硫化モリブデンおよび硫化錫があり、これらの全ては種々の業者から入手できる。
【0021】
多くの業者が、摩擦材料22に使用するための、ラバーダスト、カシューナッツ摩擦ダスト、アルミニウムファイバおよび/または粉末、錫ファイバおよび/または粉末、および亜鉛ファイバおよび/または粉末の、商業的に入手可能な多くの形態を供給していることは理解されよう。本発明の種々の実施形態において、上記成分は種々の業者から商業的に入手できる。
【0022】
多くの業者が、摩擦材料22に使用するための、商業的に入手可能な多くのジルコニアの形態を供給していることは理解されよう。本発明の種々の実施形態において、商業的に入手可能な適当なジルコニアの1つの例示供給源として、Morgan Technical Ceramics社(Fairfield、ニュージャージ州)がある。
【0023】
多くの業者が、摩擦材料22に使用するための、商業的に入手可能な多くの磁鉄鉱粉末の形態を供給していることは理解されよう。本発明の種々の実施形態において、商業的に入手可能な適当な磁鉄鉱粉末の1つの例示供給源として、Reade Advanced Materials社(Pawtucket、ロードアイランド州)がある。
【0024】
多くの業者が、摩擦材料22に使用するための、商業的に入手可能な多くのアルミナの形態を供給していることは理解されよう。本発明の種々の実施形態において、商業的に入手可能な適当なアルミナの1つの例示供給源として、ALCOA社がある。
【0025】
多くの業者が、摩擦材料22に使用するための、商業的に入手可能な多くの重晶石の形態を供給していることは理解されよう。本発明の種々の実施形態において、商業的に入手可能な適当な重晶石の1つの例示供給源として、Cimbar Performance Minerals社(Cartersville、ジョージア州)がある。
【0026】
多くの業者が、摩擦材料22に使用するのに適した、商業的に入手可能な多くのグラファイトまたはコークスの形態を供給していることは理解されよう。本発明の種々の実施形態において、商業的に入手可能な適当なグラファイトまたはコークスの1つの例示供給源として、Asbury Carbons, Inc.社(Asbury、ニュージャージ州)がある。
【0027】
多くの業者が、摩擦材料22に使用するのに適した、商業的に入手可能な多くのアラミドファイバおよび/またはパルプを供給していることは理解されよう。本発明の種々の実施形態において、適当なアラミドファイバまたはパルプの例示供給源として、DuPont社(Richmond、バージニア州)がある。
【0028】
本発明の一実施形態において、バインダはフェノール樹脂である。摩擦材料22の成分は、フェノール樹脂による表面処理を受ける。このような表面処理を受ける成分は、摩擦材料22が製造されるときに、他の成分と容易に混合できるという長所を有する。他の実施形態では、フェノール樹脂の代わりに、シランカップリング剤を使用できる。フェノール樹脂の使用および置換に関する更なる詳細は、本件出願人の所有する上記特許文献3(該特許文献3は、その全体を本願に援用する)
【0029】
当業者ならば、本発明の広い教示が種々の形態で実施できることは上記説明から明らかであろう。従って、本発明をその特定例に関連して説明したが、本明細書および特許請求の範囲の記載を研究することにより当業者には他の変更が明らかであるため、本発明の真の範囲は特定例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のディスクブレーキシステムを示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 ディスクブレーキシステム
12 ロータ
14 キャリパ
16 ハブ
18 ブレーキ要素(ブレーキパッド)
18a アウトボードブレーキ要素
18b インボードブレーキ要素
20 構造的バッキング
22 摩擦材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄ファイバ、アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つを含む摩擦材料を有し、摩擦材料中の鉄ファイバの量は約1〜10体積%の範囲内にあり、アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つの量は約1〜5体積%の範囲内にあり、摩擦材料には元素銅が含まれていないことを特徴とするブレーキ要素。
【請求項2】
前記鉄ファイバの量は約2.5体積%であることを特徴とする請求項1記載のブレーキ要素。
【請求項3】
前記アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの前記1つの量は、約1体積%であることを特徴とする請求項1記載のブレーキ要素。
【請求項4】
鉄ファイバを含む摩擦材料を有し、該摩擦材料中の鉄ファイバの量は約1〜10体積%の範囲内にあり、摩擦材料には銅が含まれていないことを特徴とするブレーキ要素。
【請求項5】
前記摩擦材料には元素銅が含まれていないことを特徴とする請求項4記載のブレーキ要素。
【請求項6】
前記鉄ファイバの量は約2.5体積%であることを特徴とする請求項4記載のブレーキ要素。
【請求項7】
前記鉄ファイバの長さは、約1/4インチ(約6.4mm)〜約1/2インチ(約13mm)の範囲内にあることを特徴とする請求項4記載のブレーキ要素。
【請求項8】
前記鉄ファイバの太さは約20マイクロメートルであることを特徴とする請求項4記載のブレーキ要素。
【請求項9】
前記摩擦材料は、アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つを含むことを特徴とする請求項4記載のブレーキ要素。
【請求項10】
前記アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せの量は、約1〜5体積%の範囲内にあることを特徴とする請求項9記載のブレーキ要素。
【請求項11】
前記アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せの量は、約1体積%であることを特徴とする請求項10記載のブレーキ要素。
【請求項12】
前記アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つはファイバであることを特徴とする請求項9記載のブレーキ要素。
【請求項13】
前記アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つはファイバであり、各ファイバは、約1/4インチ(約6.4mm)〜約1/2インチ(約13mm)の範囲内の長さを有することを特徴とする請求項12記載のブレーキ要素。
【請求項14】
前記アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つはファイバであり、各ファイバは、約20〜80マイクロメートルの範囲内の太さを有することを特徴とする請求項12記載のブレーキ要素。
【請求項15】
前記アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つは粉末であることを特徴とする請求項9記載のブレーキ要素。
【請求項16】
前記アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つは粉末であり、該粉末の各粒子は、約0.05インチ(約1.5mm)の最大直径を有することを特徴とする請求項15記載のブレーキ要素。
【請求項17】
前記鉄ファイバの量は約4.5体積%であることを特徴とする請求項4記載のブレーキ要素。
【請求項18】
前記鉄ファイバの量は約1体積%であることを特徴とする請求項4記載のブレーキ要素。
【請求項19】
前記鉄ファイバの長さ対太さ比は、約80対1〜約650対1の範囲内にあることを特徴とする請求項4記載のブレーキ要素。
【請求項20】
元素銅を含まない摩擦材料を有することを特徴とするブレーキ要素。
【請求項21】
アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つを含む摩擦材料を有し、アルミニウム、亜鉛、錫およびこれらの組合せのうちの1つの量は約1体積%であり、摩擦材料の鉄ファイバの量は約2.5体積%でありかつ摩擦材料には元素銅が含まれていないことを特徴とするブレーキ要素。

【図1】
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【公開番号】特開2006−194441(P2006−194441A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−3314(P2006−3314)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(501117535)アケボノ・コーポレイション・ノース・アメリカ (10)
【Fターム(参考)】