説明

銅メッキシステム並びに銅メッキ方法及び電解メッキ液の製造方法

【課題】高精度の電解メッキが可能であり、電解メッキ後の電解メッキ液から銅イオンを回収して再利用し生産コストを低減する。
【解決手段】硫酸銅水溶液製造装置20と、添加剤供給装置30と、電解メッキ装置40と、電解メッキ装置40から排出される電解メッキ液から銅イオンを回収する銅イオン回収装置10と、を備え、銅イオン回収装置10は、イオン発生槽11と、イオン発生槽11を陽極室12と中間室13とに区画し水素イオン及び銅イオンを透過可能な第1隔膜14と、イオン発生槽11を中間室13と陰極室15とに区画し水素イオンを透過可能な第2隔膜16と、少なくとも陽極室12に設けられる陽極18aと、陰極室15に設けられる陰極17と、を有し、送出路13aが、少なくとも硫酸銅水溶液製造装置20、添加剤供給装置30又は電解メッキ装置40のいずれか1つ以上に銅イオンを送出するよう構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅メッキシステム並びに銅メッキ方法及び電解メッキ液の製造方法に係り、特に、高精度を要する銅メッキ等に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅メッキをおこなう際に必要な銅イオンを得るため、硫酸銅水和物を溶解した水溶液が電解メッキ液として適用されていたが、銅イオン以外の不純物が含有されていると、メッキ層の膜特性が低下してしまうという問題があった。
また、近年、アノード素材として6N(99.9999%)純度以上の銅素材を用いた高純度製品を製品化したため、鍍金浴ベース液原料としての硫酸銅に対して高い純度が要求されている。
【0003】
上述のような電解メッキ液を製造する際には、一般的に溶解性アノード法が適用されることが多く、この場合には電解メッキ液中に銅イオンを供給するにあたり、陽極に銅リン合金の塑性加工品(銅板、銅片、銅球等)を用いて銅イオンを溶出していた。
銅の硫酸銅浴溶解性アノード法を用いる場合、アノードの不動態化を遅延させたり、不均化反応による銅粉発生を抑制することを目的とし、アノード表面にブラックフィルムと呼ばれる膜を生成させる。このようなブラックフィルムは、合金銅中のリン、酸化物、水酸化物、塩化物等の複合物と考えられるが、適正な条件下で健全に生成機能する膜であるため、厳密に健全なフィルム膜を生成維持する事は困難である。このため、ブラックフィルムは、実際の工業的操業においては多少の滑落と生成を繰り返し行われるが、この際に滑落した膜が、スライム状あるいは析出粉等のパーティクルとなって電解メッキ液を汚染し、成膜面へのノジュール生成等の悪影響を及ぼすという問題があった。
【0004】
プリント配線板分野においては、銅の溶解性アノード法が盛んに用いられてきたが、新興分野であるモジュール基板分野においては、微細化要求がさらに厳しいため、滑落パーティクルに起因する不具合は無視できない問題となっている。このため、これらの分野においては、溶解性アノード法から、ブラックフィルムを成膜しない不溶解性アノード法へ移行しつつある。
しかしながら、一般的に不溶解性アノード法では、電解メッキ液中の銅が消費されても銅イオン単体の補給が出来ないうえ、陽極で生じる強力な酸化反応によって添加剤が分解あるいは変質するため、安定した長時間の操業が不可能であるという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するため、例えば、鉄イオン含有溶液を入れた溶解槽に、銅材を収容した収容体を配設した製造装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に記載の製造装置は、上述の構成により、陽極である銅材の酸化を抑制しながら、溶液中に銅イオンを供給することができ、不溶解性アノード法による長時間操業を可能とするものである。
【0006】
また、半導体デバイス分野において、ハイエンド製品の多層配線の配線材料は、AlからCuに移行されており、配線形成プロセスも、従来のRIE法からデュアルダマシン法に移行されつつあり、現在、用いられている銅デュアルダマシンプロセスでは銅の電解メッキ工程が含まれているが、現状では硫酸銅浴溶解性アノード法が主流を占めている。しかしながら、硫酸銅浴溶解性アノード法では、膜質の純度や健全性等が決して充分ではなく、特許文献1に記載の製造装置のような硫酸銅浴不溶解性アノード法の適用や、鍍金浴及び銅イオン発生材料の高純度化等が要求されている。
また、実装技術の多様化から、バンプ構造中等に銅ポストが採用され、また、MEMS分野の構造中への銅の適用が検討される等、微細鍍金分野での銅の採用は拡がりつつあり、これに伴い、鍍金浴、銅イオン供給及び発生材料の高純度化等の要求が高まっている。
【0007】
上述のような要求に鑑み、銅イオンを効率的に発生させて不純物の少ない硫酸銅を得るため、イオン発生槽を水素イオン交換膜で陽極室と陰極室とに区画し、前記陰極室において、陰極付近から水素ガスを放出するとともに、前記陽極室において、導体籠と原料銅とからなる陽極から、銅イオンを前記陽極室内に溶出する構成とされた製造方法及び製造装置が提案されている(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特開2002−206199号公報
【特許文献2】特開2003−328198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の製造装置では、電解メッキ液となる硫酸銅水溶液に鉄イオンを添加するにあたり、不純物が増加することがあった。そのため、電解メッキ液が汚染されて、電解メッキ時の成膜に影響を与えることがあった。
【0009】
また、特許文献2に記載の製造方法及び製造装置では、チタン等からなる導体籠に入れられた原料銅から銅イオンが硫酸水溶液に溶出される構成であり、導体籠の素材自体の低い電気伝導度によって抵抗が上昇するのが避けられず、籠自体から電解液への漏電流が生じる。さらに、原料銅自体の通電も籠材との接触通電となり、ここでの接触抵抗も生じるため、板片に直接通電する装置等に比べて電気抵抗が大きくなり、ジュール熱発生にエネルギーが消費されて非効率になり電力消費が高くなるとともに、銅イオンが効率よく水溶液に溶出しにくいという課題があった。
【0010】
ところで、半導体デバイス等の分野においては、より高精度な電解メッキへの要求が高まっており、そのため、一度電解メッキに用いられた後の電解メッキ液は、再利用されずに全て廃液として処理されている。すなわち、次回の電解メッキには、新しい電解メッキ液が都度用意されるが、このような方法では電解メッキ液の歩留まりが悪く、半導体デバイスの生産コストを引き上げる一因となっていた。
【0011】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたもので、電解メッキ液を汚染することなく銅イオンを簡便に効率よく供給することができ、高精度の電解メッキが可能であるとともに、電解メッキ後の電解メッキ液から銅イオンを回収して再利用し、生産コストを低減することができる銅メッキシステム並びに銅メッキ方法及び電解メッキ液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。すなわち本発明に係る銅メッキシステムは、硫酸銅水溶液を製造するための硫酸銅水溶液製造装置と、前記硫酸銅水溶液に添加剤を供給し、電解メッキ液を生成する添加剤供給装置と、前記電解メッキ液を用いて電解メッキを行う電解メッキ装置と、前記電解メッキ装置から排出される電解メッキ液から銅イオンを回収する銅イオン回収装置と、を備え、前記銅イオン回収装置は、イオン発生槽と、前記イオン発生槽を陽極室と中間室とに区画し水素イオン及び銅イオンを透過可能な第1隔膜と、前記イオン発生槽を中間室と陰極室とに区画し水素イオンを透過可能な第2隔膜と、少なくとも前記陽極室に設けられる陽極と、前記陰極室に設けられる陰極と、前記中間室に設けられて銅イオンを送出する送出路と、を有し、前記送出路が、少なくとも前記硫酸銅水溶液製造装置、前記添加剤供給装置又は前記電解メッキ装置のいずれか1つ以上に銅イオンを送出するよう構成されていることを特徴とする。また本発明は、前述の銅メッキシステムを用いた銅メッキ方法であって、前記電解メッキ装置で電解メッキに用いた、銅イオン及び添加剤を含有する硫酸銅水溶液からなる電解メッキ液を、前記陽極室へと供給し、前記陽極室から、前記銅イオン及び水素イオンを、前記第1隔膜を通して前記中間室へと抽出し、前記中間室から、前記水素イオンを、前記第2隔膜を通して前記陰極室へと抽出して、該中間室に前記銅イオンを貯留し、貯留した前記銅イオンを回収して、電解メッキに用いるための電解メッキ液に戻すことを特徴とする。
また、本発明の電解メッキ液の製造方法は、前述の銅メッキシステムの前記銅イオン回収装置を用いて、前記中間室に貯留された前記銅イオンを、硫酸水溶液又は硫酸銅水溶液に供給することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る銅メッキシステム並びに銅メッキ方法及び電解メッキ液の製造方法によれば、銅イオン回収装置のイオン発生槽が、第1、第2隔膜によって、陽極室、中間室、陰極室に区画されている。詳しくは、第1隔膜により陽極室と中間室とに区画され、第2隔膜により中間室と陰極室とに区画されている。また、陽極室には陽極が設けられ、陰極室には陰極が設けられている。イオン発生槽には、硫酸水溶液が貯留可能とされており、該硫酸水溶液を貯留した状態で、電解メッキ装置で電解メッキに使用された後の電解メッキ液を、前記陽極室へと供給する。
【0014】
ここで、前記電解メッキ液は、電解メッキに用いられなかった銅イオンや添加剤等を含有してなる硫酸銅水溶液であり、この電解メッキ液を陽極室へ供給した状態で、陽極及び陰極に電解電流を印加すると、陰極室の陰極表面近傍から水素が発生するとともに、陰極室の電気的中性を保つようにして、第1隔膜を透過可能な水素イオン及び銅イオンが中間室へと移動し、さらに中間室に移動した水素イオン及び銅イオンのうち、第2隔膜を透過可能な水素イオンのみが、陰極室へと移動する。
【0015】
このようにして、中間室には銅イオンが貯留されていくようになっている。そして、貯留された銅イオンは、中間室の送出路から少なくとも硫酸銅水溶液製造装置、添加剤供給装置又は電解メッキ装置のいずれか1つ以上に送られて、新しい電解メッキ液を生成するために流用される。すなわち、従来のように、電解メッキに使用された電解メッキ液を全て廃液として処分するのではなく、該電解メッキ液中から再利用可能な銅イオンを抽出して取り出すことにより、この抽出した銅イオンを新しい電解メッキ液の生成に用いることができるので、銅イオンの歩留まりが飛躍的に向上する。
【0016】
そして、回収した銅イオンを新しい電解メッキ液の生成に用いることにより、電解メッキ液を生成するための銅イオンの原料の純銅アノードや原料銅等の使用量が低減するので、これらの原料コストが削減される。また、これにともなって、銅イオンを生成する電解電流が低減できるので、ランニングコストが削減される。
【0017】
また、銅イオン回収装置で回収された前記銅イオンは主として二価銅イオンであり、この二価銅イオンを電解メッキ液の生成に用いることにより、純銅アノードや原料銅等の使用量を低減することができるとともに、これら純銅アノードや原料銅等の銅表面に存在する一価銅イオンが溶液中に流出するのを抑制することができる。従って、一価銅イオンによって銅の微粒子や亜酸化銅の微粒子が形成されるのを防止でき、これら微粒子が、電解メッキ液中を浮遊して電解メッキ時の成膜に影響を与えてしまうようなことがない。さらに、一価銅イオンによる添加剤の破壊が抑制される。また、電解メッキ液中の有効銅イオンの存在比率を向上させることができるので、より高精度の電解メッキが可能となる。
【0018】
また、原料銅等から銅イオンを生成するのに比べ、簡便に高純度の銅イオンを用いることができるとともに、精度の高い電解メッキ液を製造することが可能である。また、従来のように、電解メッキ液に鉄イオンを添加して銅イオンを生成するようなことなく充分な分量の銅イオンを供給することができるので、不純物を増加させず、より精度の高い安定した電解メッキ液を生成することができる。
【0019】
また本発明の銅メッキシステム並びに銅メッキ方法によれば、電解メッキ装置で電解メッキに使用された電解メッキ液を、銅イオン回収装置の陽極室に供給し、前述のようにして銅イオンを抽出して取り出し回収した後、該陽極室に残った廃液を処分するようになっている。そして、回収した銅イオンを例えば硫酸銅水溶液製造装置に供給し、電解メッキ液のベース液の硫酸銅水溶液を生成した後、この硫酸銅水溶液に添加剤供給装置から添加剤を適宜供給して電解メッキ液を生成し、電解メッキ装置に送って電解メッキに利用する。
【0020】
すなわち、この銅メッキシステムは、銅イオン回収装置、硫酸銅水溶液製造装置、添加剤供給装置及び電解メッキ装置が、銅イオンを循環可能に連結されているので、銅イオン回収装置で回収した銅イオンを、より効率よく簡便に次回以降の電解メッキの電解メッキ液に戻して、再利用することができる。
【0021】
また、銅イオン回収装置において前述のように銅イオンを抽出して残された電解メッキ液の廃液は、再利用されずに処分されている。従って、この銅メッキシステムは、前記銅イオンのみを循環させるようになっているので、前記循環によって、廃液が次回以降の電解メッキ装置の電解メッキの精度に影響を与えるようなことがなく、高品質の電解メッキを連続して行うことが可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る銅メッキシステム並びに銅メッキ方法及び電解メッキ液の製造方法によれば、電解メッキ液を汚染することなく銅イオンを簡便に効率よく供給することができ、高精度の電解メッキが可能であるとともに、電解メッキ後の電解メッキ液から銅イオンを回収して再利用し、生産コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照し、この発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る銅メッキシステムの銅イオン回収装置の概略構成を示す模式図、図2は本発明の一実施形態に係る銅メッキシステムの概略構成を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態の銅メッキシステムの銅イオン回収装置10は、イオン発生槽11と、該イオン発生槽11内部を陽極室12と中間室13とに区画する第1隔膜14と、中間室13と陰極室15とに区画する第2隔膜16と、陰極室15内に設けられ、通電されて水素ガスHを表面から放出する陰極17と、陽極室12に設けられる陽極18aと、中間室13に設けられる陽極18bと、を具備している。
【0024】
イオン発生槽11は、上面の開口した箱状とされており、その内部に所定の酸溶液が貯留されている。本実施形態において、この酸溶液は、例えば20〜220g/l(電離度を1として0.2〜2.2N)程度の硫酸HSOからなる硫酸水溶液とされている。
【0025】
第1隔膜14は、イオン発生槽11の陽極18a側に垂設されており、その端部がそれぞれイオン発生槽11の向かい合った側壁および底部に密着接続されて、イオン発生槽11内部を陽極室12及び中間室13に分離している。
この第1隔膜14は、銅イオンCu2+及び水素イオンHを選択的に透過させる、いわば半透膜のような働きをするものとされ、水分子、銅イオンCu2+及び水素イオンHを透過するが、銅イオンCu2+以外の金属イオン及び硫酸イオンSO2−等のマイナスイオンは透過しないようになっている。
【0026】
第1隔膜14は、銅イオンCu2+及び水素イオンHを選択的に透過するものであればよく、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸系の電解質膜等の陽イオン選択透過膜等を適用することができる。
【0027】
第2隔膜16は、イオン発生槽11の陰極17側に垂設されており、その端部がそれぞれイオン発生槽11の向かい合った側壁および底部に密着接続されて、イオン発生槽11内部を中間室13及び陰極室15に分離している。
この第2隔膜14は、水素イオンHを選択的に透過させる、いわば半透膜のような働きをするものとされ、水分子及び水素イオンHを透過するが、銅イオンCu2+及び硫酸イオンSO2−等のマイナスイオンは透過しないようになっている。
【0028】
第2隔膜16は、水素イオンHを選択的に透過するものであればよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン系イオン交換膜等の水素イオン選択透過膜等を適用することができる。
また、このように第1、第2隔膜14,16により区画される陽極室12、中間室13及び陰極室15の容積比率は、例えば、陽極室:中間室:陰極室が1:8:1とされており、中間室の容積比率が大きくなるように形成されている。
【0029】
陽極室12には、図示しない直流電流供給装置の陽極側に接続される不溶性の陽極18aが設けられている。陽極18aは板状をなしており、その上端の電気配線用の端子部分が酸溶液の水面に突出した状態で陽極室12に垂設されている。また陽極18aは、陽極室12内の酸に対して耐性がある、例えば、ステンレス鋼、白金、チタン、チタン(Ti)材表面に酸化イリジウム(IrO)などの白金族酸化物を被覆した構造等からなる。
また、陽極室12の底部近傍から延びるようにして、陽極室12の酸溶液を排出するための排出路12aが設けられている。
【0030】
また、中間室13にも、陽極室12の陽極18aと同様に、前記直流電流供給装置の陽極側に接続される不溶性の陽極18bが設けられている。陽極18bも板状をなしており、その上端の電気配線用の端子部分が酸溶液の水面に突出した状態で中間室13に垂設されている。また陽極18bは、中間室13内の酸に対して耐性がある、例えば、ステンレス鋼、白金、チタン、チタン(Ti)材表面にIrOなどの白金族酸化物を被覆した構造等からなる。
また、中間室13の底部近傍から延びるようにして、中間室13に貯留された銅イオンCu2+を取り出し送り出すための送出路13aが設けられている。
【0031】
陰極室15には、図示しない直流電流供給装置の陰極側に接続される陰極17が設けられている。陰極17は板状をなしており、その上端の電気配線用の端子部分が酸溶液の水面に突出した状態で陰極室15に垂設されている。また、陰極17としては、酸溶液との反応性の低いものであり、かつ、水素に対して反応性の低いものであればよく、例えば、Cu、Ti、C、Pb、チタン(Ti)材表面にIrOなどの白金族酸化物を被覆した構造等が適応可能である。
【0032】
次に、本実施形態の銅メッキシステムの銅イオン回収装置10を用いて銅イオンCu2+を回収する方法について説明する。
【0033】
銅イオンCu2+を回収する際には、先ず、イオン発生槽11内部に硫酸水溶液を満たした状態で、図1の矢印Aで示すように、陽極室12へ、電解メッキに使用された後の電解メッキ液を供給する。この電解メッキ液は、電解メッキに用いられなかった銅イオンCu2+や添加剤等を含有してなる硫酸銅水溶液であり、該電解メッキ液を陽極室12へ供給した状態で、陽極室12内には、水分子、硫酸イオンSO2−、水素イオンH、水酸イオンOH、未解離硫酸分子、銅イオンCu2+、各添加剤イオン並びに未解離分子、電解メッキ残滓等が存在しており、中間室13及び陰極室15には、水分子、硫酸イオンSO2−、水素イオンH、水酸イオンOH及び未解離硫酸分子が存在している。
【0034】
次いで、陽極18a,18b及び陰極17に前記直流電流供給装置から、2×10+2〜6×10+2A/mの電解電流を印加する。すると、陰極室15の陰極17表面近傍において、陰極室15中の水素イオンHが水素ガスHとして放出される。これにより、陰極室15の電気的中性を保つようにして、陽イオンが陰極室15に移動することとなる。
【0035】
ここで、第1隔膜14においては、該第1隔膜14を透過可能な水素イオンH及び銅イオンCu2+のみが、中間室13へと移動するようになっており、これら水素イオンH及び銅イオンCu2+以外の各種イオン、未解離分子及び電解メッキ残滓等は、陽極室12内に残される。またさらに、第2隔膜16においては、該第2隔膜16を透過可能な水素イオンHのみが陰極室15へと移動するようになっており、銅イオンCu2+は中間室13に留まる。
【0036】
このようにして、中間室13に銅イオンCu2+を貯留することができるとともに、中間室13に設ける送出路13aから、該銅イオンCu2+を含有する硫酸銅水溶液を取り出し回収して送り出すことができるようになっている。
また、銅イオンCu2+を抽出した後の陽極室12の電解メッキ液は、該陽極室12に設けられる排出路12aから排出して、廃液として処分される。
【0037】
次に、前述の銅イオン回収装置10を備えてなる銅メッキシステム60について説明する。
図2に示すように、銅メッキシステム60は、銅イオン回収装置10と、硫酸銅水溶液を製造するための硫酸銅水溶液製造装置20と、前記硫酸銅水溶液に添加剤を供給して電解メッキ液を生成するための添加剤供給装置30と、前記電解メッキ液を用いて電解メッキを行うための電解メッキ装置40と、を具備している。
【0038】
硫酸銅水溶液製造装置20としては、陽極室21と陰極室22とを備え、これら陽極室21及び陰極室22が水素イオン交換膜23によって区画されている構成のものを用いることができる。この硫酸銅水溶液製造装置20は、その陽極室21に陽極(不図示)を、陰極室22に陰極(不図示)を、夫々備えている。前記陽極としては、例えば、電源に接続される籠状の導電体からなる導体籠の内部に、原料銅を載置した構成のものを用いることができる。
【0039】
そして、これら陽極及び陰極に電気的に接続される電源の直流電流供給装置(不図示)から直流電流を印加することにより、通電された前記陰極で、陰極室22内部の水素イオンHを水素ガスHとして放出し、陰極室22内部の水素イオン濃度を低下させ、水素イオン交換膜23を介して陽極室21内の水素イオンHのみを陰極室22に移動して、陽極室21内の陽イオン濃度を低減し、その結果、前記原料銅から連続的に銅イオンCu2+を溶出するようになっている。ここで、陽極として導体籠及び原料銅を用いずに、高純度の純銅銅板(純銅アノード)を用いて銅イオンCu2+を溶出させる構成としても構わない。
【0040】
また、図2に示すように、陽極室21には、硫酸銅水溶液を攪拌するためのモータと羽根とを備えてなる攪拌手段24が設けられている。そして、この攪拌手段24で陽極室21内に攪拌流を与えることにより、界面の酸化及び拡散が活性化するため、銅イオンCu2+の溶出効率がより高まるとともに、陽極表面を平坦にエロージョンさせることができるようになっている。
【0041】
また、陽極室21内の硫酸銅水溶液の一部を取り出し、該硫酸銅水溶液の銅イオン濃度及び硫酸イオン濃度を測定して陽極室21内へ戻す濃度測定手段25が設けられている。一方、純水供給タンク26が、電磁弁26aを介して陽極室21内に純水を供給可能に設けられており、また、硫酸供給タンク27が、電磁弁27aを介して陽極室21内に硫酸を供給可能に設けられている。
【0042】
また、これら濃度測定手段25、電磁弁26a及び電磁弁27aは制御部28に電気的に接続されており、該濃度測定手段25で測定された銅イオン濃度及び硫酸イオン濃度の測定値に基づいて、電磁弁26a,27aの開閉を制御可能に構成されている。すなわち、このようにして、陽極室21の硫酸銅水溶液の濃度が、予め設定された設定値となるように、自動的に調整されるようになっている。
【0043】
添加剤供給装置30は、複数設けられる添加剤供給タンク31から各種添加剤を適宜用いて混合し、該混合後の添加剤をドーピングタンク32へと供給するように構成されている。添加剤供給装置30のドーピングタンク32は、硫酸銅水溶液を貯留可能としており、また前記添加剤が供給された硫酸銅水溶液を攪拌するための、モータと羽根とを備えてなる攪拌手段33を有している。
【0044】
電解メッキ装置40は、例えば半導体ウェハの銅配線を形成するための銅デュアルダマシンメッキ手法を用いた装置の構成とされている。
また、図2において、符号50は、硫酸銅水溶液製造装置20で製造された硫酸銅水溶液を貯留しておくための貯留タンクである。
また、符号12bは、銅イオン回収装置10の排出路12aに接続され、廃液を貯留しておくための廃液タンクを示している。
そして、銅イオン回収装置10、硫酸銅水溶液製造装置20、貯留タンク50、添加剤供給装置30及び電解メッキ装置40が、互いに銅イオンを循環可能として配管等により連結されて、銅メッキシステム60を形成している。
【0045】
次に、本実施形態の銅メッキシステム60の作用について説明する。
まず、前述のようにして、銅イオン回収装置10の中間室13に、銅イオンCu2+が抽出され貯留されると、回収された銅イオンCu2+を含有する硫酸銅水溶液は、該中間室13の送出路13aを通って、その下流側に接続される硫酸銅水溶液製造装置20の陽極室21へと送られる。
【0046】
硫酸銅水溶液製造装置20の陽極室21では、電解メッキのベース液となる硫酸銅水溶液の製造が行われている。そして、銅イオン回収装置10で回収され、硫酸銅水溶液製造装置20の陽極室21に送出された前記銅イオンCu2+は、該硫酸銅水溶液の製造に用いられるようになっている。陽極室21の硫酸銅水溶液は、濃度測定手段25によってリアルタイムに濃度を測定され、予め設定した濃度の設定値に調整された後、陽極室21からその下流側に配管等により接続される貯留タンク50へと送られて、該貯留タンク50に貯留される。
【0047】
次いで、貯留タンク50の硫酸銅水溶液は、その下流側に配管等により接続される添加剤供給装置30のドーピングタンク32へと送られる。該硫酸銅水溶液は、このドーピングタンク32において各種添加剤を供給され混合されて電解メッキ液とされ、この電解メッキ液が、その下流側に接続される電解メッキ装置40へと送られる。
【0048】
そして、前記電解メッキ液を用いて電解メッキ装置40で電解メッキが行われた後、該電解メッキ装置40から排出される電解メッキ液には、電解メッキに用いられなかった銅イオンCu2+、各種添加剤及び電解メッキ残滓等が含有された状態となっている。そして、この電解メッキ液が、その下流側に接続される銅イオン回収装置10の陽極室12へと送られるようになっている。
【0049】
以上説明したように、本実施形態の銅メッキシステム60によれば、銅イオン回収装置10は、その中間室13に銅イオンを貯留可能なように構成されている。そして、貯留された銅イオンは、硫酸銅水溶液製造装置20に送出されるとともに、新しい電解メッキ液のベース液の硫酸銅水溶液を生成するために流用される。すなわち、従来のように、電解メッキ装置40で電解メッキに使用された電解メッキ液を全て廃液として処分するのではなく、該電解メッキ液中から再利用可能な銅イオンを抽出して取り出すことにより、この回収した銅イオンを新しい電解メッキ液の生成に用いることができるので、銅イオンの歩留まりが飛躍的に向上する。
【0050】
そして、回収した銅イオンを新しい電解メッキ液の生成に用いることにより、電解メッキ液を生成するための銅イオンの原料の原料銅等の使用量が低減するので、原料コストが削減される。また、これにともなって、銅イオンを生成する電解電流が低減できるので、ランニングコストが削減される。
【0051】
また、銅イオン回収装置10で回収された前記銅イオンは主として二価銅イオンであり、この二価銅イオンを電解メッキ液の生成に用いることにより、原料銅等の使用量を低減することができるとともに、原料銅等の銅表面に存在する一価銅イオンが溶液中に流出するのを抑制することができる。従って、一価銅イオンによって銅の微粒子や亜酸化銅の微粒子が形成されるのを防止でき、これら微粒子が、電解メッキ液中を浮遊して電解メッキ時の成膜に影響を与えてしまうようなことがない。さらに、一価銅イオンによる添加剤の破壊が抑制される。また、電解メッキ液中の有効銅イオンの存在比率を向上させることができるので、より高精度の電解メッキが可能となる。
【0052】
また、原料銅等から銅イオンを生成するのに比べ、簡便に高純度の銅イオンを用いることができるとともに、精度の高い電解メッキ液を製造することが可能である。また、従来のように、電解メッキ液に鉄イオンを添加して銅イオンを生成するようなことなく充分な分量の銅イオンを銅イオン回収装置10から硫酸銅水溶液製造装置20へと供給し補充することができるので、不純物を増加させず、より精度の高い安定した電解メッキ液を生成することができる。
【0053】
また、この銅メッキシステム60は、電解メッキ装置40で電解メッキに使用された電解メッキ液を、銅イオン回収装置10の陽極室12に供給し、銅イオンを抽出して取り出し回収した後は、該陽極室12の残液を廃液として処分するようになっている。すなわち、銅イオン回収装置10の陽極室12に残された、銅イオンを殆ど含まない廃液は、排出路12aから廃液タンク12bへと送られて処分される。
【0054】
すなわち、電解メッキ液の前記廃液を再利用することはせず、銅イオンのみを循環させるようになっている。従って、前記循環によってこの廃液が次回以降の電解メッキ装置40の電解メッキの精度に影響を与えるようなことがなく、高品質の電解メッキを連続して行うことが可能である。
【0055】
そして、この銅メッキシステム60は、銅イオン回収装置10、硫酸銅水溶液製造装置20、添加剤供給装置30及び電解メッキ装置40が、銅イオンを循環可能として配管等により連結されているので、銅イオン回収装置10で回収した銅イオンを、より効率よく簡便に次回以降の電解メッキの電解メッキ液に戻し、再利用することができる。
【0056】
尚、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本実施形態では、銅イオン回収装置10は、中間室13に陽極18bを設けることとして説明したが、これを設けずに装置を構成しても構わない。すなわち、陽極としては、陽極室12に陽極18aを設けるのみとしてもよい。ただし、中間室13に陽極18bを設けることにより、銅イオンCu2+の回収効率がより向上するので好ましい。
【0057】
また、銅イオン回収装置10及び硫酸銅水溶液製造装置20を繋ぐ送出路13aに、銅イオンを含有する硫酸銅水溶液を貯留しておくためのバッファタンクを設けてもよい。また同様にして、電解メッキ装置40及び銅イオン回収装置10を繋ぐ連結部分に、電解メッキに使用された後の電解メッキ液を貯留しておくためのバッファタンクを設けてもよい。
【0058】
また、本実施形態では銅イオン回収装置10で回収した銅イオンを、硫酸銅水溶液製造装置20に送出することとして説明したが、回収した前記銅イオンが次回以降の電解メッキの電解メッキ液に戻されればよく、すなわち銅イオンを硫酸銅水溶液製造装置20以外の、添加剤供給装置30又は電解メッキ装置40に送出するようにしても構わない。さらに、硫酸銅水溶液製造装置20、添加剤供給装置30及び電解メッキ装置40の全てに送出するようにしてもよく、硫酸銅水溶液製造装置20、添加剤供給装置30又は電解メッキ装置40のうち複数を選択して送出するようにしても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の一実施形態に係る銅メッキシステムの銅イオン回収装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る銅メッキシステムの概略構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0060】
10 銅イオン回収装置
11 イオン発生槽
12 陽極室
13 中間室
13a 送出路
14 第1隔膜
15 陰極室
16 第2隔膜
17 陰極
18a,18b 陽極
20 硫酸銅水溶液製造装置
30 添加剤供給装置
40 電解メッキ装置
60 銅メッキシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸銅水溶液を製造するための硫酸銅水溶液製造装置と、
前記硫酸銅水溶液に添加剤を供給し、電解メッキ液を生成する添加剤供給装置と、
前記電解メッキ液を用いて電解メッキを行う電解メッキ装置と、
前記電解メッキ装置から排出される電解メッキ液から銅イオンを回収する銅イオン回収装置と、を備え、
前記銅イオン回収装置は、イオン発生槽と、前記イオン発生槽を陽極室と中間室とに区画し水素イオン及び銅イオンを透過可能な第1隔膜と、前記イオン発生槽を中間室と陰極室とに区画し水素イオンを透過可能な第2隔膜と、少なくとも前記陽極室に設けられる陽極と、前記陰極室に設けられる陰極と、前記中間室に設けられて銅イオンを送出する送出路と、を有し、
前記送出路が、少なくとも前記硫酸銅水溶液製造装置、前記添加剤供給装置又は前記電解メッキ装置のいずれか1つ以上に銅イオンを送出するよう構成されていることを特徴とする銅メッキシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の銅メッキシステムを用いた銅メッキ方法であって、
前記電解メッキ装置で電解メッキに用いた、銅イオン及び添加剤を含有する硫酸銅水溶液からなる電解メッキ液を、前記陽極室へと供給し、
前記陽極室から、前記銅イオン及び水素イオンを、前記第1隔膜を通して前記中間室へと抽出し、
前記中間室から、前記水素イオンを、前記第2隔膜を通して前記陰極室へと抽出して、該中間室に前記銅イオンを貯留し、
貯留した前記銅イオンを回収して、電解メッキに用いるための電解メッキ液に戻すことを特徴とする銅メッキ方法。
【請求項3】
請求項1に記載の銅メッキシステムの前記銅イオン回収装置を用いて、前記中間室に貯留された前記銅イオンを、硫酸水溶液又は硫酸銅水溶液に供給することを特徴とする電解メッキ液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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