説明

銅又は銅合金用エッチング液

【課題】塩化鉄水溶液にシュウ酸を添加したエッチング液を用いてエッチングを行い、微細な配線パターンを形成する際に、スプレー圧力の変化によって生じるエッチング速度やパターン形成可能な最狭配線ピッチの変化が少ないエッチング液を提供する。
【解決手段】塩化鉄(III)及びシュウ酸を含有するエッチング液に、エチレンジアミンにポリエチレンオキサイド鎖及びポリプロピレンオキサイド鎖が結合したブロック共重合体を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅又は銅合金用のエッチング液に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の配線パターン等を形成するための方法として、エッチング法が広く使われている。近年、電子機器の高度化、小型化に対応するため、プリント配線板にも配線パターンの微細化が求められている。
【0003】
図1は、エッチング法により得られる導体パターンの断面略図である。基材3上に銅や銅合金(以下、「銅等」と略す場合がある)で導体パターン2が設けられていて、導体パターン2上にエッチングで使用したレジストパターン1が存在している。エッチングで導体パターンを形成した場合、エッチング終了時における導体パターン2のライン幅がレジストパターン1のライン幅よりも狭くなる現象が起こり、この現象は「サイドエッチ」と呼ばれている。
【0004】
銅箔の厚みt、導体パターンのトップ幅w、導体パターンのボトム幅wによって、2・t/(w−w)で定義される値を「エッチングファクター」という。また、レジストパターンのライン幅w、導体パターンのトップ幅wによって、(w−w)で定義される値を「サイドエッチ量」という。エッチング法で微細な配線パターンを形成するためには、エッチングファクターの絶対値が大きいこと及びサイドエッチ量が少ないことが求められる。
【0005】
エッチングファクターの絶対値が大きいとは、すなわち、導体パターンのボトム幅wとトップ幅wとの差が銅箔厚みtと比較して小さいことを示す。プリント配線板においては、隣接導体パターンとの電気的絶縁を確保するために、導体パターンのトップとボトムの両方で適切なスペースが確保される必要がある。このことから、微細な配線パターンにおいては、エッチングファクターの絶対値が小さいと、トップ幅w又はボトム幅wが狭くなりすぎ、十分な電気的特性を維持することができない。そればかりか、トップ幅wが狭くなりすぎる場合には、レジストパターン1のうち、導体パターン2に下支えされていない部分の幅、すなわち、サイドエッチ量が導体パターンのトップ幅wと比較して広くなりすぎると、エッチングの最中に導体パターン2からレジストパターン1が剥離して導体パターン2が断線する等の問題も生じる。また、ボトム幅wが狭くなりすぎる場合には、基材3から導体パターン2が剥離して断線する等の問題が生じる。
【0006】
また、導体パターン間のスペース幅が同じ場合には、サイドエッチ量が多い場合の方が少ない場合に比べて、レジストパターン1のスペース幅を小さくしなければならず、求められるレジストパターンの解像度が高くなってしまう。そのため、微細な配線パターンを形成するためには、サイドエッチ量が少ないことが必要とされている。
【0007】
サイドエッチを抑制し、エッチングファクターの絶対値を大きくする技術として、銅等に吸着・反応する等によって、エッチング阻害層(バンク)を形成してエッチングを阻害する化合物、いわゆる「バンキング・エージェント」を含むエッチング液が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。その例として、チオ尿素を添加した塩化鉄(III)水溶液(例えば、特許文献1参照)、ホルムアミジンジサルファイドを添加した塩化鉄(III)水溶液(例えば、特許文献2参照)、エチレンチオ尿素を添加した塩化鉄(III)水溶液(例えば、特許文献3参照)、チオ尿素及び非イオン性又は陰イオン性の界面活性剤を添加した塩化鉄(III)水溶液(例えば、特許文献4参照)、2−アミノベンゾチアゾール化合物、ポリエチレングリコール及びポリアミン化合物を添加した塩化銅(II)水溶液(例えば、特許文献5参照)、2−アミノベンゾチアゾール化合物、ベンゾトリアゾール化合物、エタノールアミン化合物、グリコールエーテル化合物及びN−メチル−2−ピロリドン又はジメチルホルムアミドを添加した塩化銅(II)水溶液(例えば、特許文献6参照)、アミン類又はアジン類を添加した硫酸−過酸化水素水溶液(例えば、特許文献7参照)等のエッチング液、グリコールエーテル化合物、アミン類にプロピレンオキサイド又はエチレンオキサイドを付加した化合物、リン酸成分及び無機酸を添加した第二銅イオン又は第二鉄イオン水溶液(例えば、特許文献8参照)が提案されている。
【0008】
しかし、これらの技術では、銅厚18μmでL/S=25μm/25μm以下の微細パターンの形成を行うことはできなかった。これを可能とする技術として、特許文献9では、シュウ酸を添加した塩化鉄水溶液が提案されている。しかし、この技術には、スプレー法エッチングを行う際のスプレー圧力の低下によって、エッチング速度が減少したり、微細な配線パターンが形成できなくなったりするという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第2746848号明細書
【特許文献2】特公昭37−15009号公報
【特許文献3】特公昭39−27516号公報
【特許文献4】特公昭50−20950号公報
【特許文献5】特開平6−57453号公報
【特許文献6】特開2006−274291号公報
【特許文献7】特開2006−13307号公報
【特許文献8】特開2009−167459号公報
【特許文献9】国際公開第2009/091012号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】雀部俊樹、石井正人、秋山政憲、加藤凡典著、「本当に実務に役立つプリント配線板のエッチング技術」日刊工業新聞社、2009年5月30日、p73
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、塩化鉄水溶液にシュウ酸を添加したエッチング液を用いてエッチングを行い、微細な配線パターンを形成する際に、スプレー圧力の低下によって、エッチング速度が減少する、微細な配線パターンが形成できなくなるといった問題を解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、塩化鉄(III)及びシュウ酸を含有し、エチレンジアミンにポリエチレンオキサイド鎖及びポリプロピレンオキサイド鎖が結合したブロック共重合体を、シュウ酸に対し0.05質量%以上、液全体に対し0.05質量%以下含有することを特徴とする銅又は銅合金用エッチング液である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエッチング液は、シュウ酸を含有する塩化鉄水溶液のエッチング液に、エチレンジアミンにポリエチレンオキサイド鎖及びポリプロピレンオキサイド鎖が結合したブロック共重合体を添加したエッチング液である。本発明により、スプレー圧力の低下によって起こる、エッチング速度が減少する、微細な配線パターンが形成できなくなるといった現象を抑制することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】エッチングにより得られる導体パターンの断面形状を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のエッチング液は、塩化鉄(III)及びシュウ酸を含有し、エチレンジアミンにポリエチレンオキサイド鎖及びポリプロピレンオキサイド鎖が結合したブロック共重合体を、シュウ酸に対し0.05質量%以上、液全体に対し0.05質量%以下含有することを特徴とする。この共重合体を添加することで、スプレー法エッチングを行う際のスプレー圧力の低下によって起こる、エッチング速度が減少する、微細な配線パターンが形成できなくなるといった現象を抑制することができる。これは、この共重合体が、バンク表面を被覆し、スプレー圧力の低下による過剰なバンク同士の凝集を抑制するためと考えられる。
【0016】
本発明のエッチング液に含まれる塩化鉄(III)の濃度は、高すぎると微細な配線パターンのエッチングができなくなる場合があり、低すぎるとエッチング速度が遅くなって生産性が低下する場合があることから、1〜20質量%とすることが好ましく、2〜15質量%とすることがより好ましい。なお、塩化鉄(III)は通常水溶液又は六水和物として供給されるが、本発明において、塩化鉄を含む各物質の質量及び濃度は、特に断らない限り無水物としてのそれらの質量・濃度を示す。
【0017】
前記した濃度範囲内において、塩化鉄(III)が高濃度の場合、本発明のエッチング液に含まれるシュウ酸の濃度は比較的低濃度であることが好ましく、塩化鉄(III)が低濃度の場合には、シュウ酸の濃度は比較的高濃度であることが好ましい。ただし、発明のエッチング液に含まれるシュウ酸の濃度は、低すぎるとバンクが形成されず、微細な配線パターンのエッチングができなくなる場合があり、高すぎると、バンクのエッチング抑制効果が強すぎて、エッチングが進行しなくなる場合がある。そのため、本発明におけるシュウ酸の濃度は、塩化鉄(III)に対し、5〜25質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。シュウ酸濃度がこの範囲を超えた場合には、非パターン部の銅等が局所的に除去されずに残る「銅残り」が著しく発生し、導体パターン間の絶縁性が失われるショート欠陥が多発する場合がある。
【0018】
本発明のエッチング液に含まれるエチレンジアミンにポリエチレンオキサイド鎖及びポリプロピレンオキサイド鎖が結合したブロック共重合体の濃度は、低すぎると、スプレー圧力の低下によって起こる、エッチング速度が減少する、微細な配線パターンを形成できなくなるといった現象を抑制する効果が十分に発現しない。共重合体の濃度が高すぎると、微細な配線パターンのエッチングが進まなくなり、導体トップ幅の減少によって、エッチングの途中で導体からレジストが剥れる。ゆえに、共重合体の濃度は、シュウ酸に対し0.05質量%以上、液全体に対し0.05質量%以下である。シュウ酸に対し0.10質量%以上、液全体に対し0.025質量%以下であることがより好ましく、シュウ酸に対し0.15質量%以上、液全体に対し0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
【0019】
この共重合体としては、ADEKA製、商品名:TR701、TR702、TR704等を用いることができる。本発明のエッチング液においては、これらを単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明において、銅合金とは、銅を95質量%以上含む合金をいい、例として、錫、亜鉛、クロム、ジルコニウム、ニッケル等を含む銅合金が挙げられる。また、本発明の銅等のエッチング方法において、銅等の層として用いられる銅箔には、圧延銅箔、電解銅箔の他に、蒸着、スパッタ法、無電解めっき等で形成されるものが挙げられる。
【0021】
本発明において、レジストパターンの形成にフォトレジストを用いる場合には、光硬化型のネガレジストと光溶解型のポジレジストのどちらを用いてもよく、レジストの貼着は、感光性ドライフィルムを用いた場合には圧着法、液状レジストを用いた場合には塗布法、電着型レジストを用いた場合は電着法により行う。レジスト貼着後、露光用マスクを用いて露光を行い、アルカリ水溶液により、レジストの露光部、又は非露光部を溶解除去することで、レジストパターンを形成する。また、フォトレジストを用いる場合の他には、非感光性液状レジストを用いて、スクリーン印刷方式やインクジェット印刷方式によって、レジストパターンを形成する方法等が挙げられる。
【0022】
本発明のエッチング液を用いてエッチングを行う際は、スプレー法エッチングを用いることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例で詳説する。
【0024】
[実施例1]
<エッチング液の調製>
市販の40°ボーメの塩化鉄(III)水溶液(濃度37質量%)5.4kg(無水物として2.0kg)、シュウ酸二水和物0.34kg(無水物として0.30kg)、エチレンジアミンにポリエチレンオキサイド鎖及びポリプロピレンオキサイド鎖が結合したブロック共重合体(ADEKA製、商品名:TR704)1.0gに水を加え50kgとし、液全体に対し、塩化鉄(III)4質量%、シュウ酸0.60質量%、共重合体0.002質量%を含むエッチング液50kgを調製した。
【0025】
<テスト用被エッチング材>
テスト用被エッチング材として、ポリイミド絶縁基板と厚み18μmの電解銅箔(三井金属鉱業製、商品名:FQ−VLP)を積層した銅貼積層板に、厚さ10μmのネガ型ドライフィルムレジストを圧着法により貼着した後、ライン/スペースが25μm/25μmで構成されているフォトマスクを用いて、ネガ型ドライフィルムレジストに露光を行い、次いで、未露光部をアルカリ水溶液で溶解除去して、ライン/スペースが25μm/25μmのレジストパターンを形成した。
【0026】
<エッチング>
レジストパターンを形成させた積層材料に、スプレー法エッチング装置を用い、スプレー圧力を0.20、0.25、0.30MPaの各条件で、上記のエッチング液を噴射して評価用プリント配線板を作製した。隣接導体パターンの間の絶縁基板上に残っていた銅が完全に除去された時点で、エッチングを終了した。
【0027】
[実施例2〜60、比較例1〜20]
エッチング液に含まれる塩化鉄(III)、シュウ酸の濃度、エチレンジアミンにポリエチレンオキサイド鎖及びポリプロピレンオキサイド鎖が結合したブロック共重合体の種類及び濃度を表1〜5の如く変更した以外は、実施例1と同様にしてエッチングを行った。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【0032】
【表5】

【0033】
<エッチング時間測定>
各実施例及び比較例において、エッチング開始時からエッチング終了時までの時間(エッチング時間)を測定し、表1〜5に示した。なお、エッチングが途中で止まった場合をA、導体トップ幅の減少により、エッチングの途中で導体からレジストが剥離した場合をBと記載した。
【0034】
<エッチングファクター評価>
各実施例及び比較例で作製した評価用プリント配線板の各区画につき、導体パターンのトップ幅w、導体パターンのボトム幅wを測定し、エッチングファクターの絶対値を求め、表1〜5に示した。
【0035】
<サイドエッチ量評価>
各実施例及び比較例で作製した評価用プリント配線板の各区画につき、導体パターンのトップ幅wを測定し、片側サイドエッチ量を求め、表1〜5に示した。
【0036】
実施例1〜60と比較例1〜20との比較からわかるように、シュウ酸を添加した塩化鉄水溶液にエチレンジアミンにポリエチレンオキサイド鎖及びポリプロピレンオキサイド鎖が結合したブロック共重合体を、シュウ酸に対し0.05質量%以上、液全体に対し0.05質量%以下含有するエッチング液を用いてエッチングを行った場合には、スプレー圧力の低下によって起こる、エッチング速度が減少する、微細な配線パターンが形成できなくなるといった現象を抑制することができる。
【0037】
比較例19、20のように、シュウ酸を含有しないエッチング液にこの共重合体を添加してエッチングを行っても、本発明のエッチング液を用いた場合のような微細な配線パターンを形成することはできない。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のエッチング方法は、プリント配線板の製造において、微細な配線パターンの形成をエッチングで行う場合に用いることができる。
【符号の説明】
【0039】
1 レジストパターン
2 導体パターン
3 基材
導体パターンのトップ幅
導体パターンのボトム幅
レジストパターンのライン幅
t 銅箔厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化鉄(III)及びシュウ酸を含有し、エチレンジアミンにポリエチレンオキサイド鎖及びポリプロピレンオキサイド鎖が結合したブロック共重合体を、シュウ酸に対し0.05質量%以上、液全体に対し0.05質量%以下含有することを特徴とする銅又は銅合金用エッチング液。

【図1】
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【公開番号】特開2012−107286(P2012−107286A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256367(P2010−256367)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】