説明

銅合金材料

【課題】せん断加工した端面に対するせん断面の割合を小さくして、せん断加工性を向上させた銅合金材料を提供する。
【解決手段】本発明に係る銅合金材料は、0.01以上0.2質量%以下のZrと、0.001以上0.05質量%以下のPとを、Pの質量に対するZrの質量の比(Zr/P)が4以上20以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避的な不純物から形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅合金材料に関する。特に、本発明は、せん断加工性に優れた電気・電子部品用の銅合金材料に関する。
【背景技術】
【0002】
リードフレーム及びコネクタ端子等の電気・電子部品の材料として、純銅が示す導電率に近い導電率を維持しつつ、純銅の強度及び耐熱性を向上した材料であるCu−Zr合金材料が知られている。ここで、リードフレーム及びコネクタ等の電気・電子部品は、高速精密プレスを用いて打ち抜き加工により製造される。打ち抜き加工においては、電気・電子部品を形成する材料によって、製造する部品の寸法精度の得られやすさ、せん断時に生じるダレ及びバリの大きさ、並びに部品の金型の摩耗の程度に差異が生じる。
【0003】
特許文献1には、Zrを0.01から0.2重量%含有するCu−Zr合金材料において、Cu−Zr合金材料の破断強度、伸び、及び破断時の板厚絞りを所定値に規定することにより、Cu−Zr合金材料の打ち抜き加工における寸法精度の向上を図ることが記載されている。また、特許文献2には、Zrを0.01から0.1重量%含有するCu−Zr合金材料において、Cu−Zr合金材料の表面組織の結晶粒の形状及び大きさを制御することにより、打ち抜き加工等のせん断加工性を向上することが記載されている。
【特許文献1】特許第2606397号公報
【特許文献2】特許第3334172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載の銅合金材料では、せん断加工条件、又は結晶粒等の制御に工夫を施したとしても、せん断加工した端面に対するせん断面の割合をある一定値以下にすることができなかったため、せん断加工性の向上に限界があった。この課題は、後述する本発明者の知見に基づいて明らかにされたものである。
【0005】
したがって、本発明の目的は、Cu−Zr合金材料の強度及び耐熱性を維持したまま、せん断加工性を向上させた銅合金材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、0.01以上0.2質量%以下のZrと、0.001以上0.05質量%以下のPとを、Pの質量に対するZrの質量の比(Zr/P)が4以上20以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避的な不純物から形成される銅合金材料が提供される。
【0007】
また、本発明は、上記目的を達成するため、0.01以上0.2質量%以下のZrと、0.001以上0.05質量%以下のPとを、Pの質量に対するZrの質量の比(Zr/P)が4以上20以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避的な不純物から形成され、ビッカース硬さが100以上である銅合金材料が提供される。
【0008】
また、上記銅合金材料は、500℃で5分間加熱した後のビッカース硬さが100以上であってもよい。
【0009】
また、本発明は、上記目的を達成するため、0.01以上0.2質量%以下のZrと、0.001以上0.05質量%以下のPとを、Pの質量に対するZrの質量の比(Zr/P)が4以上20以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避的な不純物から形成され、平均結晶粒径が10μm以下である銅合金材料が提供される。
【0010】
また、上記銅合金材料は、500℃で5分間加熱した後の平均結晶粒径が10μm以下であってもよい。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、機械的強度及び耐熱性を向上させるZrと、ZrとZrPを形成して、せん断加工性を向上させるPとを含む銅合金材料が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の銅合金材料によれば、せん断加工した端面に対するせん断面の割合を小さくすることができるため、せん断加工性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[実施の形態]
本実施形態に係る銅合金材料は、酸素含有量が10ppm以下の銅(Cu)と、Cuに添加されてCuとの間でCu−Zr合金を形成するZrと、Zrと結合することにより主としてZrPとして表される化合物粒子を形成する微量のPとを有する。なお、本実施形態に係る銅合金材料は、Cu−Zr合金及びZrPを除く残部に、少なくともCuと不可避的な不純物を有する。
【0014】
具体的に、本実施形態に係る銅合金材料は、0.01以上0.2質量%以下のZrが添加されたCuに、0.001以上0.05質量%以下のPが更に添加されて形成される。ここで、本実施形態に係る銅合金材料は、ZrとPとの質量比(Zr/P)が4以上20以下の範囲内になるように所定量のZr及びPがCuに添加されて形成される。また、ZrとPとが反応して結合することにより生成したZrPから形成される化合物粒子は、銅合金材料中に分散して析出する。
【0015】
図1は、本実施形態に係る銅合金材料の製造工程を示す。
【0016】
[銅合金材料の製造方法]
本実施形態に係る銅合金材料は以下のように製造される。まず、酸素含有量が10ppm以下の銅(Cu)を、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下で溶解する(S100:溶解工程)。続いて、ZrのPに対する質量比が4以上20以下の範囲内になるように、溶解したCuに所定量のZr及びPを添加する(S110:添加工程)。そして、Zr及びPが添加された溶解状態のCuを、直径30mm、長さ150mmの円筒状のインゴットに鋳造する(S120:鋳造工程)。
【0017】
次に、鋳造されたインゴットを、900℃の温度において熱間で押出加工することにより、幅20mm、厚さ8mmの板状に加工して板材とする(S130:熱間圧延工程)。そして、熱間圧延工程において得られた板材を、冷間圧延により厚さ1mmの板材に加工する(S140:第1冷間圧延工程)。続いて、冷間圧延工程により得られた板材を、800℃で、1分間、中間焼鈍する(S150:第1中間焼鈍工程)。
【0018】
そして、第1中間焼鈍工程を経た板材を、冷間圧延により厚さ0.36mmの板材に加工する(S160:第2冷間圧延工程)。次に、第2冷間圧延工程で得られた板材を、650℃で、1分間、中間焼鈍する(S170:第2中間焼鈍工程)。そして、第2中間焼鈍工程を経た板材を、冷間圧延により厚さ0.25mmの板材に加工する(S180:第3冷間圧延工程)。これにより、本実施形態に係るZr及びPが添加された銅合金材料の板材が得られる。
【0019】
表1は、本実施形態に係る銅合金材料の組成と比較例に係る銅合金材料の組成とを示す。
【0020】
【表1】

【0021】
本実施形態に係る銅合金材料は、一例として表1に示すように、0.010以上0.200質量%以下のZrと、0.001以上0.050質量%以下のPと、Cu及び不可避的な不純物とから構成される。そして、本実施形態に係る銅合金材料に含まれるZrとPとの質量比(Zr/P)は、表1に示すように、4.0以上20.0以下の範囲内である。
【0022】
一方、比較例に係る銅合金材料は、表1に示すように、0.025以上0.100質量%以下のZrと、0質量%又は0.002以上0.030質量%以下のPと、Cu及び不可避的な不純物とから構成される。そして、比較例に係る銅合金材料に含まれるZrとPとの質量比(Zr/P)は、表1に示すように、2.0以上3.3以下の範囲、及び40.0である。なお、Pの質量%が0質量%である比較例に係る銅合金材料(比較例:試料No.1)は、CuとZrと不可避不純物とから構成され、Pを含まない銅合金材料である。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態に係る銅合金材料及び比較例に係る銅合金材料それぞれについてせん断試験を実施する試験装置の概要を示す。
【0024】
(せん断試験装置の構成)
せん断試験装置は、銅合金材料の板材60を所定形状の試験片62に打ち抜くパンチ10と、パンチ10を搭載するパンチ台座200及びパンチ10をパンチ台座200に固定するパンチ抑え210を有するパンチホルダ20と、板材60を搭載すると共にパンチ10の外形寸法に所定のクリアランス70を加えて形成される開口400を有するダイ40と、ダイ40を固定するダイホルダ50と、板材60をダイ40に抑え付けるストリッパプレート30とを備える。なお、板材60の打ち抜きには、万能試験機又はプレス機械等の装置にパンチホルダ20を接続して実施する。
【0025】
ここで、クリアランス70は、板材60の板厚の2%から20%に設定する。また、パンチ10の断面形状は直径が10mmの円形に形成される。そして、せん断速度は、20mm/minから100mm/minに設定する。当該せん断試験装置を用いて板材60を打ち抜くことにより、板材60には直径が約10mmの孔が形成されると共に、直径10mmの試験片62がダイホルダ50の開口500から外部に放出される。そして、打ち抜いた試験片62には、打ち抜き加工により端面が生じる。
【0026】
図3(a)は、せん断試験装置により板材から形成された試験片の部分断面図を示しており、図3(b)は、せん断試験装置により板材から形成された試験片の端面の一部を示す。
【0027】
板材60がパンチ10により打ち抜かれる場合、まず、下降したパンチ10が板材60に接触して、パンチ10の外周に沿って板材60にダレ600が形成される。そして、板材60にダレ600が形成された後、パンチ10が更に下降すると、板材60は主としてせん断すべりによって変形する。この場合において、板材60の端面には、パンチ10の下降方向に沿った縦筋模様を呈するせん断面610が形成される。
【0028】
更にパンチ10が下降してパンチ10による板材60の打ち抜きが進行すると、板材60は破断を開始する。そして、板材60の端面には、せん断面610に連続してせん断面610の表面の凹凸よりも細かい凹凸を呈する破断面620が形成される。なお、せん断面610と破断面620とは外観形状が顕著に異なるので、明確に区別できる。そして、板材60の破断面620に連続してバリ630が発生して、試験片62が打ち抜かれて打ち抜きが完了する。ここで、試験片62の端面には、板材60と同様に、ダレ長602のダレ600と、せん断長612のせん断面610と、破断長622の破断面620と、バリ長632のバリ630とが形成されている。
【0029】
ここで、板材60及び試験片62を形成する材料のせん断加工性の良否と、打ち抜きにより試験片62の端面に形成されたせん断面610及び破断面620の割合との間には密接な関係がある。具体的には、せん断加工性がよい材料は、せん断加工した端面を観察すると、せん断面610に対する破断面620の割合が大きい。一方、せん断加工性の悪い材料は、せん断加工した端面を観察すると、せん断面610に対する破断面620の割合が小さい。発明者の検討によると、打ち抜きの端面全体に占めるせん断面610の割合が50%未満であれば、一般的に満足できるせん断加工性を有する材料、すなわち、せん断加工性がよい材料であるということができる。
【0030】
そして、せん断面610の割合が大きい材料は、破断が生じ始めるまでのせん断すべりの変形量がせん断面610の割合が小さい材料よりも大きいため、ダレ600及びバリ630が、せん断面610の割合が小さい材料よりも大きくなりやすい。また、せん断面610の割合が大きい材料は、破断が生じ始めるまでに要する時間がせん断面610の割合が小さい材料よりも長いので、せん断面610の割合が大きい材料を加工する金型の摩耗も大きくなる。
【0031】
ここで、打ち抜き加工した試験片62の端面全体に占めるせん断面の割合は、一例として以下のように算出できる。まず、試験片62のパンチ10による打ち抜き方向(試験片62の厚さ方向)に沿ったダレ600の長さであるダレ長602と、せん断面610の長さであるせん断長612と、試験片62の板厚である試験片厚640とを測定する。そして、測定したダレ長602と、せん断長612と、及び試験片厚640とを用いて、((せん断長612+ダレ長602)/試験片厚640)×100として規定される数式から、試験片62の端面全体に占めるせん断面の割合(%)を算出できる。
【0032】
なお、試験片62のパンチ10による打ち抜き方向に沿って、破断面620の長さである破断長632を測定して、ダレ長602及び破断長622の合計と試験片厚640との差から、せん断長612を算出して、算出したせん断長612をせん断面の割合の算出に用いてもよい。
【0033】
表2は、本発明の実施の形態に係る銅合金材料及び比較例に係る銅合金材料それぞれの試験片の端面全体に占めるせん断面の割合を示す。
【0034】
【表2】

【0035】
更に、図4は、本発明の実施の形態に係る銅合金材料及び比較例に係る銅合金材料それぞれの試験片の端面全体に占めるせん断面の割合のグラフを示す。
【0036】
Zr/Pの値が2.0以上3.3以下の範囲内の銅合金材料においては、せん断試験によって打ち抜いた後の端面全体に占めるせん断面610の割合は25%から30%であった。また、Zr/Pの値が40.0である銅合金材料においては、せん断試験によって打ち抜いた後の端面全体に占めるせん断面610の割合は70%であった。なお、Pを含まない銅合金材料(比較例:試料No.1)においても、せん断試験によって打ち抜いた後の端面全体に占めるせん断面610の割合は70%であった。
【0037】
一方、Zr/Pの値が4.0以上20.0以下の範囲内の銅合金材料においては、せん断試験によって打ち抜いた後の端面全体に占めるせん断面610の割合は25%から40%であった。これにより、銅合金材料において一般的に満足できるせん断加工性を得るためには、銅合金材料中におけるZr/P(質量比)の値を少なくとも2.0以上20.0以下の範囲内に設定することが望ましいことが分かる。
【0038】
なお、本実施形態に係る銅合金材料(本実施例:試料No.1から11)及び比較例に係る銅合金材料(比較例:試料No.2から7)のそれぞれの中には、主としてZrPで表される化合物粒子が分散して存在する。この場合において、これらの銅合金材料をせん断加工すると、銅合金材料中の化合物粒子の周辺部にせん断加工の時の応力が集中する。そして、化合物粒子を起点としたミクロクラックが銅合金材料中に発生する。
【0039】
続いて、発生した複数のミクロクラックの成長、及び発生した複数のミクロクラックがそれぞれ結合することにより、銅合金材料の破断が進行する。これにより、ZrPから主として形成される化合物粒子が析出した銅合金材料の端面全体に占めるせん断面610の割合は、化合物粒子を含まない銅合金材料の端面全体に占めるせん断面610に比べて小さくなる。
【0040】
また、銅合金材料中におけるZr/Pの値が20.0よりも大きい場合は、Zr/Pの値が20.0の場合に比べて、銅合金材料に添加するPの量が少なくなっている。この場合、銅合金材料中のZrと反応することにより生じるZrPの量も少なくなる。そして、Zr/Pの値が20.0より大きい場合、例えば、Zr/Pの値が40.0の場合には、せん断試験後の端面全体におけるせん断面610の割合が50%よりも大きいことが示された。
【0041】
したがって、Zr/Pの値が20.0よりも大きい場合、ZrとPとの反応により生じる化合物粒子の銅合金材料中に析出する量は、せん断試験後の端面全体におけるせん断面610の割合を50%以下にすることに対しては不十分であり、良好なせん断加工性は得られないことが示された。なお、Pを含む銅合金材料をせん断加工したときの端面に生じるダレ600及びバリ630も、化合物粒子が銅合金材料中に存在しない場合に比べて化合物粒子が銅合金材料中に存在する場合の方が、小さく抑えることができる。
【0042】
表3は、本発明の実施の形態に係る銅合金材料及び比較例に係る銅合金材料それぞれの加熱前及び加熱後のビッカース硬さ試験の結果、及び加熱後の平均結晶粒径を示す。
【0043】
【表3】

【0044】
更に、図5は、本発明の実施の形態に係る銅合金材料及び比較例に係る銅合金材料それぞれの加熱後のビッカース硬さのグラフを示す。
【0045】
具体的には、500℃の塩浴中で5分間、銅合金材料を加熱する前の銅合金材料のビッカース硬さ(Hv)を加熱前のビッカース硬さとすると共に、500℃の塩浴中で5分間、銅合金材料を加熱した後の銅合金材料のビッカース硬さを加熱後のビッカース硬さとする。そして、本実施形態に係る銅合金材料及び比較例に係る銅合金材料のそれぞれについて、加熱前と加熱後とのビッカース硬さを測定した。ここで、加熱後の銅合金材料のビッカース硬さ(Hv)が100以上を維持する場合、Pを含まない銅合金材料と同等以上の耐熱性を有していると判断できる。
【0046】
Zr/Pの値が4.0以上20.0以下の範囲内の銅合金材料、及びZr/Pの値が40.0の銅合金材料においては、加熱後のビッカース硬さは106以上を示した。一方、Zr/Pの値が2.0以上3.3以下の範囲内の銅合金材料においては、加熱後のビッカース硬さは、加熱前のビッカース硬さよりも小さい100未満の値を示した。なお、Pを含まない銅合金材料(比較例:試料No.1)の場合、加熱後のビッカース硬さは112であった。
【0047】
また、Zr/Pの値が4.0以上20.0以下の範囲内の銅合金材料、及びZr/Pの値が40.0の銅合金材料においては、加熱後の平均結晶粒径が5μmであった。一方、Zr/Pの値が2.0以上3.3以下の範囲内の銅合金材料においては、加熱後の平均粒径は、20μmから30μmであった。そして、Pを含まない銅合金材料(比較例:試料No.1)の場合、加熱後の平均結晶粒径は10μmであった。なお、加熱後の銅合金材料の平均結晶粒径はそれぞれ、加熱後の銅合金材料の圧延方向に垂直な断面における金属組織を観察することにより測定した。
【0048】
銅合金材料にPを添加して、PとZrとの化合物粒子を銅合金材料中に分散析出させると、析出した化合物粒子は銅合金材料の結晶粒の成長を抑制する。これにより、Pを添加した銅合金材料中では、銅合金材料中に析出する化合物粒子の存在により、銅合金材料の微細な結晶組織を維持しやすくなる。なお、銅合金材料を500℃で5分間加熱した後、平均結晶粒径が10μm以下の範囲内にあれば、微細組織を維持する効果を期待できる。銅合金材料が係る微細組織を維持することにより、良好な機械的特性を期待できる。
【0049】
ここで、Zr/Pの値が2.0以上3.3以下の銅合金材料(比較例:試料No.2及び試料No.4から7)は、いずれもZr/Pの値が4.0以上20.0以下の銅合金材料よりもPが過剰に添加されている。この場合、銅合金材料中のZrとPとの間で化合物が形成されるので、Zr/Pの値が4.0以上20.0以下の銅合金材料中のZrよりも、Zr/Pの値が2.0以上3.3以下の銅合金材料中のZrの方が過剰に消費される。
【0050】
したがって、Zr/Pの値が2.0以上3.3以下の銅合金材料中に固溶状態で存在するZrの量は、Zr/Pの値が4.0以上20.0以下の銅合金材料中に固溶状態で存在するZrに比べて減少する。その結果、Zr/Pの値が2.0以上3.3以下の銅合金材料の耐熱性が低下して加熱後のビッカース硬さが100未満になると共に、再結晶の進行により平均結晶粒径も大きくなる。
【0051】
銅合金材料に添加したPと銅合金材料中のZrとで形成される化合物粒子を銅合金材料中に分散析出させた場合、化合物粒子の形成によって消費されるZrの割合が多くなるにつれて、Cu−Zr合金から形成される銅合金材料が本来有する耐熱性及び強度が徐々に低下する。そこで、Pを含む銅合金材料の耐熱性がPを含まない銅合金材料と同等であり、かつ、Pを含まない銅合金材料よりもせん断加工性のよいPを含む銅合金材料を形成することを目的とすると、Cuに添加するZr及びPの好ましい組成範囲は、表2及び表3、並びに図3及び図4から、Zr/Pの値が4.0以上20.0以下の範囲内であることが分かる。
【0052】
すなわち、Zr/Pの値を4.0以上20.0以下の範囲に規定する理由は、当該範囲よりPが過剰になると銅合金材料中のZrの大半がPとの化合物粒子となって消費され、固溶状態で銅合金材料中に存在するZrが減少することで銅合金材料が本来的に有する強度及び耐熱性が低下するからである。また、当該範囲よりPが少なくなると、ZrPから主として形成される化合物粒子の形成が不十分となり、銅合金材料のせん断加工性の向上に十分な効果が得られないからである。
【0053】
(実施の形態の効果)
本実施形態に係る銅合金材料によれば、Zr及びPが添加された銅合金材料中にZrPで表される化合物粒子を分散して析出させることができ、析出した化合物粒子を起点として銅合金材料の破断を進行させやすくすることができる。すなわち、本実施形態に係る銅合金材料は、せん断後の端面全体に占めるせん断面の割合が50%未満であり、せん断加工性がよい。これにより、本実施形態に係る銅合金材料には、Pを含まないCu−Zr合金材料及びZr/Pの値が20.0を超えるPを含有するCu−Zr合金材料に比べて寸法精度の良い加工を施すことができる。また、銅合金材料の破断が進行しやすくなることにより、銅合金材料と金型とが擦れ合う時間を短縮することができ、金型の摩耗を軽減することもできる。
【0054】
また、本実施形態に係る銅合金材料によれば、500℃、5分間の加熱後においても100以上のビッカース硬さを維持している。したがって、本実施形態に係る銅合金材料によれば、加熱後であっても加熱前と同等の耐熱性を更に有しているので、Cu−Zr合金の本来の強度及び耐熱性を損なうことなく、せん断加工性を向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態に係る銅合金材料は、これまでのCu−Zr合金と同様の製造工程により製造することができると共に、これまでのCu−Zr合金と同等の高導電性及び高耐熱性を有する。したがって、製造コストの上昇を伴わずにせん断加工性を向上させた銅合金材料を提供できる。
【0056】
なお、本実施形態に係る銅合金材料はせん断加工性が向上しているので、本実施形態に係る銅合金材料を用いて打ち抜き加工を実施すると、打ち抜き加工に用いる金型の寿命が延び、金型の調整及び打ち抜き条件の調整等の作業を低減することができる。したがって、本実施形態に係る銅合金材料から形成される電気・電子部品の製造コストの低減に大きな効果をもたらす。
【0057】
なお、銅合金材料のせん断加工性の向上を目的とする一方で、銅合金材料の耐熱性及び強度を必要としない用途に合っては、本実施形態に係る銅合金材料が含むPの量よりも多くのPを添加した銅合金材料を製造してもよい。
【0058】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】実施の形態に係る銅合金材料の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】実施の形態に係る銅合金材料及び比較例に係る銅合金材料それぞれについてせん断試験を実施する試験装置の概要を示す図である。
【図3】(a)は、せん断試験装置により板材から形成された試験片の部分断面図であり、(b)は、せん断試験装置により板材から形成された試験片の端面の一部を示す図である。
【図4】実施の形態に係る銅合金材料及び比較例に係る銅合金材料それぞれの試験片の端面全体に占めるせん断面の割合のグラフである。
【図5】実施の形態に係る銅合金材料及び比較例に係る銅合金材料それぞれの加熱後のビッカース硬さのグラフである。
【符号の説明】
【0060】
10 パンチ
20 パンチホルダ
30 ストリッパプレート
40 ダイ
50 ダイホルダ
60 板材
62 試験片
70 クリアランス
200 パンチ台座
210 パンチ抑え
400、500 開口
600 ダレ
602 ダレ長
610 せん断面
612 せん断長
620 破断面
622 破断長
630 バリ
632 バリ長
640 試験片厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01以上0.2質量%以下のZrと、0.001以上0.05質量%以下のPとを、前記Pの質量に対する前記Zrの質量の比(Zr/P)が4以上20以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避的な不純物から形成される銅合金材料。
【請求項2】
0.01以上0.2質量%以下のZrと、0.001以上0.05質量%以下のPとを、前記Pの質量に対する前記Zrの質量の比(Zr/P)が4以上20以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避的な不純物から形成され、ビッカース硬さが100以上である銅合金材料。
【請求項3】
500℃で5分間加熱した後のビッカース硬さが100以上である請求項2に記載の銅合金材料。
【請求項4】
0.01以上0.2質量%以下のZrと、0.001以上0.05質量%以下のPとを、前記Pの質量に対する前記Zrの質量の比(Zr/P)が4以上20以下の範囲内で含み、残部がCu及び不可避的な不純物から形成され、平均結晶粒径が10μm以下である銅合金材料。
【請求項5】
500℃で5分間加熱した後の平均結晶粒径が10μm以下である請求項4に記載の銅合金材料。
【請求項6】
機械的強度及び耐熱性を向上させるZrと、
前記ZrとZrPを形成して、せん断加工性を向上させるPとを含む銅合金材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−1850(P2009−1850A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163036(P2007−163036)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】