説明

銅箔複合体

【課題】プレス加工等のような一軸曲げと異なる過酷(複雑)な変形を行っても銅箔が割れることを防止し、加工性に優れた銅箔複合体を提供する。
【解決手段】銅箔と樹脂層とが積層された銅箔複合体であって、銅箔の厚みをt(mm)、引張歪4%における銅箔の応力をf(MPa)、樹脂層の厚みをt(mm)、引張歪4%における樹脂層の応力をf(MPa)としたとき、式1:(f×t)/(f×t)≧1を満たし、かつ、銅箔と樹脂層との180°剥離接着強度をf(N/mm)、銅箔複合体の引張歪30%における強度をF(MPa)、銅箔複合体の厚みをT(mm)としたとき、式2:1≦33f/(F×T)を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅箔と樹脂層とを積層してなる銅箔複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
銅箔と樹脂層とを積層してなる銅箔複合体は、FPC(フレキシブルプリント基板)、電磁波シールド材、RF-ID(無線ICタグ)、面状発熱体、放熱体などに応用されている。例えば、FPCの場合、ベース樹脂層の上に銅箔の回路が形成され、回路を保護するカバーレイフィルムが回路を覆っており、樹脂層/銅箔/樹脂層の積層構造となっている。
ところで、このような銅箔複合体の加工性として、MIT屈曲性に代表される折り曲げ性、IPC屈曲性に代表される高サイクル屈曲性が要求されており、折り曲げ性や屈曲性に優れる銅箔複合体が提案されている(例えば、特許文献1〜3)。例えば、FPCは携帯電話のヒンジ部などの可動部で折り曲げられたり、回路の小スペース化を図るために折り曲げて使用されるが、変形モードとしては、上記したMIT屈曲試験や、IPC屈曲試験に代表されるように一軸の曲げであり、過酷な変形モードにならないよう設計されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−100887号公報
【特許文献2】特開2009−111203号公報
【特許文献3】特開2007−207812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した銅箔複合体をプレス加工等すると、MIT屈曲試験や、IPC屈曲試験と異なる過酷(複雑)な変形モードになるため、銅箔が破断するという問題がある。そして、銅箔複合体をプレス加工することができれば、回路を含む構造体を製品形状に合わせることができるようになる。
従って、本発明の目的は、プレス加工等のような一軸曲げと異なる過酷(複雑)な変形を行っても銅箔が割れることを防止し、加工性に優れた銅箔複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、樹脂層の変形挙動を銅箔に伝え、樹脂層と同じように銅箔も変形させることで、銅箔のくびれを生じにくくして延性が向上し、銅箔の割れを防止できることを見出し、本発明に至った。つまり、樹脂層の変形挙動が銅箔に伝わるよう、樹脂層及び銅箔の特性を規定した。
すなわち、本発明の銅箔複合体は、銅箔と樹脂層とが積層された銅箔複合体であって、前記銅箔の厚みをt(mm)、引張歪4%における前記銅箔の応力をf(MPa)、前記樹脂層の厚みをt(mm)、引張歪4%における前記樹脂層の応力をf(MPa)としたとき、式1:(f×t)/(f×t)≧1を満たし、かつ、前記銅箔と前記樹脂層との180°剥離接着強度をf(N/mm)、前記銅箔複合体の引張歪30%における強度をF(MPa)、前記銅箔複合体の厚みをT(mm)としたとき、式2:1≦33f/(F×T)を満たす。
【0006】
前記樹脂層のガラス転移温度未満の温度において、前記式1及び式2が成り立つことが好ましい。
前記銅箔複合体の引張破断歪lと、前記樹脂層単体の引張破断歪Lとの比l/Lが0.7〜1であることが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プレス加工等のような一軸曲げと異なる過酷(複雑)な変形を行っても銅箔が割れることを防止し、加工性に優れた銅箔複合体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】fと(F×T)の関係を実験的に示す図である。
【図2】加工性の評価を行うカップ試験装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の銅箔複合体は、銅箔と樹脂層とが積層されて構成されている。本発明の銅箔複合体は、例えば、FPC(フレキシブルプリント基板)、電磁波シールド材、RF-ID(無線ICタグ)、面状発熱体、放熱体に適用することができるが、これらに限定される訳ではない。
【0010】
<銅箔>
銅箔の厚みtは、0.004〜0.05mm(4〜50μm)であることが好ましい。tが0.004mm(4μm)未満であると銅箔の延性が著しく低下し、銅箔複合体の加工性が向上しない場合がある。銅箔は4%以上の引張破断歪があることが好ましい。tが0.05mm(50μm)を超えると、銅箔複合体にしたときに銅箔単体の特性の影響が大きく現れ、銅箔複合体の加工性が向上しない場合がある。
銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔、メタライズによる銅箔等を用いることができるが、再結晶により加工性に優れつつ、強度(f)を低くできる圧延銅箔が好ましい。銅箔表面に接着、防錆のための処理層が形成されている場合はそれらも銅箔に含めて考える。
【0011】
<樹脂層>
樹脂層としては特に制限されず、樹脂材料を銅箔に塗布して樹脂層を形成してもよいが、銅箔に貼付可能な樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムとしては、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PI(ポリイミド)フィルム、LCP(液晶ポリマー)フィルム、PP(ポリプロピレン)フィルムが挙げられる。
樹脂フィルムと銅箔との積層方法としては、樹脂フィルムと銅箔との間に接着剤を用いてもよく、樹脂フィルムを銅箔に熱圧着してもよい。又、接着剤層の強度が低いと、銅箔複合体の加工性が向上し難いので、接着剤層の強度が樹脂層の応力(f)の1/3以上であることが好ましい。これは、本発明では、樹脂層の変形挙動を銅箔に伝え、樹脂層と同じように銅箔も変形させることで、銅箔のくびれを生じにくくして延性が向上させることを技術思想としており、接着剤層の強度が低いと接着剤層で変形が緩和してしまい、銅箔に樹脂の挙動が伝わらないからである。
なお、接着剤を用いる場合、後述する樹脂層の特性は、接着剤層と樹脂層とを合わせたものを対象とする。
【0012】
樹脂層の厚みtは、0.012〜0.12mm(12〜120μm)であることが好ましい。tが0.012mm(12μm)未満であると、(f×t)/(f×t)<1となることがある。tが0.12mm(120μm)より厚いと、樹脂層の柔軟性(フレキシブル性)が低下して剛性が高くなり過ぎ、加工性が劣化する。樹脂層は40%以上の引張破断歪があることが好ましい。
【0013】
<銅箔複合体>
上記した銅箔と樹脂層とを積層する銅箔複合体の組み合わせとしては、銅箔/樹脂層の2層構造や、樹脂層/銅箔/樹脂層、又は銅箔/樹脂層/銅箔の3層構造が挙げられる。銅箔の両側に樹脂層が存在する(樹脂層/銅箔/樹脂層)場合、全体の(f×t)の値は、2つの樹脂層のそれぞれについて計算した各(f×t)の値を加算したものとする。樹脂層の両側に銅箔が存在する(銅箔/樹脂層/銅箔)場合、全体の(f×t)の値は、2つの銅箔のそれぞれについて計算した各(f×t)の値を加算したものとする。
【0014】
<180°剥離接着強度>
銅箔はその厚みが薄いことから厚み方向にくびれを生じやすい。くびれが生じると銅箔は破断するため、延性は低下する。一方、樹脂層は、引張り時にくびれが生じ難い特徴を持つ(均一歪の領域が広い)。そのため、銅箔と樹脂層との複合体においては、樹脂層の変形挙動を銅箔に伝え、樹脂と同じように銅箔も変形させることで、銅箔にくびれが生じ難くなり、延性が向上する。このとき、銅箔と樹脂層との接着強度が低いと、銅箔に樹脂層の変形挙動を伝えることができず、延性は向上しない(剥離して銅が割れる)。
そこで、接着強度を高くすることが必要となる。接着強度としては、せん断接着力が直接的な指標と考えられるが、接着強度を高くし、せん断接着力を銅箔複合体の強度と同等レベルにすると、接着面以外の場所が破断するため測定が難しくなる。
【0015】
このようなことから、本発明では180°剥離接着強度fの値を用いる。せん断接着強度と180°剥離接着強度とは絶対値がまったく異なるが、加工性や引張伸度と、180°剥離接着強度との間に相関が見られたため、180°剥離接着強度を接着強度の指標とした。
ここで、実際には、「破断したときの強度=せん断密着力」になっていると考えられ、例えば30%以上の引張歪を必要とするような場合、「30%の流動応力≦せん断密着力」となり、50%以上の引張歪を必要とするような場合、「50%の流動応力≦せん断密着力」になると考えられる。そして、本発明者らの実験によると、引張歪が30%以上になると加工性が良好になったため、後述するように銅箔複合体の強度Fとして、引張歪30%における強度を採用することとしている。
【0016】
図1は、fと(F×T)の関係を実験的に示す図であり、後述する各実施例及び比較例のfと(F×T)の値をプロットしている。(F×T)は引張歪30%で銅箔複合体に加わる力であり、これを加工性を向上するために必要な、最低限のせん断接着強度とみなすと、fと(F×T)の絶対値が同じであれば、両者は傾き1で相関が見られることになる。
但し、図1においては、すべてのデータのfと(F×T)が同じ相関とはならず、加工性の劣る各比較例は、(F×T)に対するfの相関係数(つまり、図1の原点を通り、(F×T)に対するfの傾き)が小さく、それだけ180°剥離接着強度が劣っている。一方、各実施例の傾きは各比較例の傾きより大きいが、もっとも傾きの小さい実施例18(ちょうど歪30%で破断したもの)の傾きが1/33であったため、この値を加工性を向上するために必要な、最低限のせん断接着強度と180°剥離接着強度との間の相関係数とみなした。すなわち、せん断接着力を、180°剥離接着強度fの33倍とみなした。
なお、比較例3の場合、図1の傾きが1/33を超えたが、後述する式1:(f×t)/(f×t)が1未満となったため、加工性が劣化している。
【0017】
180°剥離接着強度は、単位幅あたりの力(N/mm)である。
銅箔複合体が3層構造であって接着面が複数存在するときは、各接着面のうち、180°剥離接着強度が最も低い値を用いる。これは、最も弱い接着面が剥離するためである。又、銅箔は通常S面、M面を有するが、S面は密着性が劣るため、銅箔のS面と樹脂との密着性が弱くなる。そのため、銅箔のS面の180°剥離接着強度を採用することが多い。
【0018】
銅箔と樹脂層との接着強度を高くする方法としては、銅箔表面(樹脂層側の面)にクロメート処理等によってCr酸化物層を設けたり、銅箔表面に粗化処理を施したり、銅箔表面にNi被覆した後にCr酸化物層を設けることが挙げられる。
Cr酸化物層の厚みは、Cr重量で5〜100μg/dmとするとよい。この厚みは、湿式分析によるクロム含有量から算出する。又、Cr酸化物層の存在は、X線光電子分光(XPS)でCrが検出できるか否かで判定することができる(Crのピークが酸化によりシフトする)。
Ni被覆量は、90〜5000μg/dmとするとよい。Ni被覆の付着量が5000μg/dm(Ni厚み56nmに相当)を超えると、銅箔(及び銅箔複合体)の延性が低下することがある。
また、銅箔と樹脂層とを積層複合させるときの圧力や温度条件を変えて接着強度を高くすることができる。樹脂層が損傷しない範囲で、積層時の圧力、温度をともに大きくした方が良い。
【0019】
<(f×t)/(f×t)>
次に、特許請求の範囲の((f×t)/(f×t))(以下、「式1」と称する)の意義について説明する。銅箔複合体は、同一の幅(寸法)の銅箔と樹脂層とが積層されているから、式1は銅箔複合体を構成する銅箔と樹脂層に加わる力の比を表している。従って、この比が1以上であることは、樹脂層側により多くの力が加わることを意味し、樹脂層側が銅箔より強度が高いことになる。そして、銅箔は破断せずに良好な加工性を示す。
一方、(f×t)/(f×t)<1になると、銅箔側により多くの力が加わってしまうので、樹脂層の変形挙動を銅箔に伝え、樹脂と同じように銅箔を変形させるという上記した作用が生じなくなる。
ここで、f及びfは、塑性変形が起きた後の同じ歪量での応力であればよいが、銅箔の引張破断歪と、樹脂層(例えばPETフィルム)の塑性変形が始まる歪とを考慮して引張歪4%の応力としている。なお、f及びf(並びにf)は、全てMD(Machine Direction)の値とする。
【0020】
<33f/(F×T)>
次に、特許請求の範囲の(33f/(F×T))(以下、「式2」と称する)の意義について説明する。上記したように、加工性を向上するために必要な、最低限の銅箔と樹脂層との接着強度を直接示すせん断接着力は、180°剥離接着強度fの約33倍であるから、33fは銅箔と樹脂層との加工性を向上するために必要な、最低限の接着強度を表している。一方、(F×T)は銅箔複合体に加わる力であるから、式2は、銅箔と樹脂層との接着強度と、銅箔複合体の引張抵抗力との比になる。そして、銅箔複合体が引張られると、銅箔と樹脂層の界面で、局所変形をしようとする銅箔と引張均一歪をしようとする樹脂とによりせん断応力が掛かる。従って、このせん断応力より接着強度が低いと銅と樹脂層が剥離してしまい、銅箔に樹脂層の変形挙動を伝えることができなくなり、銅箔の延性が向上しない。
つまり、式2の比が1未満であると、接着強度が銅箔複合体に加わる力より弱くなって銅箔と樹脂が剥離し易くなり、銅箔がプレス成形等の加工によって破断する。
式2の比が1以上であれば、銅と樹脂層とが剥離せずに樹脂層の変形挙動を銅箔に伝えることができ、銅箔の延性が向上する。なお、式2の比は高いほど好ましいが、10以上の値を実現することは通常は困難であるため、式2の上限を10とするとよい。
尚、33f/(F×T)が大きいほど加工性は向上すると考えられるが、樹脂層の引張歪lと33f/(F×T)は比例しない。これは(f×t)/(f×t)の大きさ、銅箔、樹脂層単体の延性の影響によるものであるが、33f/(F×T)≧1、(f×t)/(f×t)≧1を満たす銅箔と樹脂層の組み合わせであれば、必要とする加工性を有する複合体を得ることができる。
【0021】
ここで、銅箔複合体の強度Fとして、引張歪30%における強度を用いるのは、上記したように引張歪が30%以上になると加工性が良好になったためである。又、銅箔複合体の引張試験をしたところ、引張歪30%までは歪によって流動応力に大きな差が生じたが、30%以後では引張歪によっても流動応力に大きな差が生じなかった(多少加工硬化したが曲線の傾きはかなり小さくなった)からである。
なお、銅箔複合体の引張歪が30%未満の場合、銅箔複合体の引張強度をFとする。
【0022】
以上のように、本発明の銅箔複合体は、プレス加工等のような一軸曲げと異なる過酷(複雑)な変形を行っても銅箔が割れることを防止し、加工性に優れる。特に本発明は、プレス加工のような立体成形に適する。銅箔複合体を立体成形することで、銅箔複合体を複雑な形状にしたり、銅箔複合体の強度を向上させることができ、例えば銅箔複合体自身を各種電源回路の筐体とすることもでき、部品点数やコストの低減を図ることができる。
【0023】
<l/L>
銅箔複合体の引張破断歪lと、樹脂層単体の引張破断歪Lとの比l/Lが0.7〜1であることが好ましい。
通常、銅箔の引張破断歪より樹脂層の引張破断歪が圧倒的に高く、同様に樹脂層単体の破断歪の方が銅箔複合体の引張破断歪より圧倒的に高い。一方、上記したように本発明においては、銅箔に樹脂層の変形挙動を伝えて銅箔の延性を向上させており、それに伴って銅箔複合体の引張破断歪を樹脂層単体の引張破断歪の70〜100%まで向上させることができる。そして、比l/Lが0.7以上であると、プレス成形性がさらに向上する。
なお、銅箔複合体の引張破断歪lは、引張試験を行ったときの引張破断歪であり、樹脂層と銅箔が同時に破断したときはその値とし、銅箔が先に破断したときは銅箔が破断した時点の値とする。又、樹脂層単体の引張破断歪Lは、銅箔両面に樹脂層がある場合、両方の樹脂層のそれぞれについて引張試験を行って引張破断歪を測定し、値の大きいほうの引張破断歪をLとする。銅箔両面に樹脂層がある場合、銅箔を除去して生じた2つの樹脂層のそれぞれについて測定する。
【0024】
<樹脂層のTg>
通常、樹脂層は高温で強度が低下したり接着力が低下するため、高温では(f×t)/(f×t)≧1や、1≦33f/(F×T)を満たし難くなる。例えば、樹脂層のTg(ガラス転移温度)以上の温度では、樹脂層の強度や接着力を維持することが難しくなる場合があるが、Tg未満の温度であれば樹脂層の強度や接着力を維持し易くなる傾向にある。つまり、樹脂層のTg(ガラス転移温度)未満の温度(例えば5℃〜215℃)であれば、銅箔複合体が(f×t)/(f×t)≧1、及び1≦33f/(F×T)を満たし易くなる。なお、Tg未満の温度においても、温度が高いほうが樹脂層の強度や密着力が小さくなり、式1および式2を満たし難くなる傾向にあると考えられる(後述の実施例20−22参照)。
さらに、式1及び式2を満たす場合、樹脂層のTg未満の比較的高い温度(例えば40℃〜215℃)でも銅箔複合体の延性を維持できることが判明している。樹脂層のTg未満の比較的高い温度(例えば40℃〜215℃)でも銅箔複合体の延性を維持できると、温間プレスなどの工法においても優れた加工性を示す。又、樹脂層にとっては温度が高いほうが成形性がよい。また、プレス後に形状を跡付けるために(弾性変形で元に戻らないように)温間でプレスされることが行われるので、この点でも樹脂層のTg未満の比較的高い温度(例えば40℃〜215℃)でも銅箔複合体の延性を維持できると好ましい。
なお、銅箔複合体が接着剤層と樹脂層とを含む場合や、3層構造の銅箔複合体のように樹脂層が複数存在する場合、最もTg(ガラス転移温度)が低い樹脂層のTgを採用する。
【実施例】
【0025】
<銅箔複合体の製造>
タフピッチ銅からなるインゴットを熱間圧延し、表面切削で酸化物を取り除いた後、冷間圧延、焼鈍と酸洗を繰り返し、表1の厚みt(mm)まで薄くし、最後に焼鈍を行って加工性を確保し、ベンゾトリアゾールで防錆処理して銅箔を得た。銅箔が幅方向で均一な組織となるよう、冷間圧延時のテンション及び圧延材の幅方向の圧下条件を均一にした。次の焼鈍では幅方向で均一な温度分布となるよう複数のヒータを使用して温度管理を行い、銅の温度を測定して制御した。
さらに、得られた銅箔表面に対し表1に示す表面処理を行った後、表1に示す樹脂フィルム(樹脂層)を用い、(樹脂層のTg+50℃)以上の温度で真空プレス(プレス圧力200N/cm2)によって樹脂フィルムを積層し、表1に示す層構造の銅箔複合体を作製した。なお、銅箔の両面に樹脂フィルムを積層した場合、両面のfを測定し、fが小さい方(接着強度が弱い方)の面の銅箔の表面処理を表1に記載した。
なお、表1中、Cuは銅箔を示し、PIはポリイミドフィルム、PETはポリエチレンテレフタレートフィルムを示す。又、PI、PETのTgは、それぞれ220℃、70℃であった。
【0026】
なお、表面処理の条件は以下の通りである。
クロメート処理:クロメート浴(K2Cr2O7:0.5〜5g/L)を用い、電流密度1〜10A/dmで電解処理した。
Ni被覆+クロメート処理:Niめっき浴(Niイオン濃度:1〜30g/Lのワット浴)を用い、めっき液温度25〜60℃、電流密度0.5〜10A/dmでNiめっきを行った後、上記と同様にクロメート処理を行った。
粗化処理:処理液(Cu:10〜25g/L、H2SO4:20〜100g/L)を用い、温度20〜40℃、電流密度30〜70A/dm、電解時間1〜5秒で電解処理を行った。その後、Ni−Coめっき液(Coイオン濃度:5〜20g/L、Niイオン濃度:5〜20g/L、pH:1.0〜4.0)を用い、温度25〜60℃、電流密度:0.5〜10A/dmでNi−Coめっきを行った。
【0027】
<引張試験>
銅箔複合体から幅12.7mmの短冊状の引張試験片を複数作製した。銅箔、及び樹脂フィルムの引張試験については、積層前の銅箔単体及び樹脂フィルム単体を12.7mmの短冊状にした。
そして、引張試験機により、JIS−Z2241に従い、銅箔の圧延方向と平行な方向に引張試験した。引張試験時の試験温度を表1に示す。
<180°ピール試験>
180°ピール試験を行って、180°剥離接着強度fを測定した。まず、銅箔複合体から幅12.7mmの短冊状のピール試験片を複数作製した。試験片の銅箔面をSUS板に固定し、樹脂層を180°方向に引き剥がした。樹脂層が銅箔の両面に存在する実施例については樹脂層+銅箔をSUS板に固定し、逆側の樹脂層を180°方向に引き剥がした。銅箔が樹脂層の両面に存在する実施例については片面の銅箔を除去した後に逆面の銅箔側をSUS板に固定し、樹脂層を180°方向に引き剥がした。そのほかの条件はJIS−C5016に従った。
尚、JISの規格では銅箔層を引き剥がすことになっているが、実施例にて樹脂層を引き剥がしたのは銅箔の厚み、剛性による影響を小さくするためである。
【0028】
<加工性の評価>
図2に示すカップ試験装置10を用いて加工性の評価を行った。カップ試験装置10は、台座4とポンチ2とを備えており、台座4は円錐台状の斜面を有し、円錐台は上から下へ向かって先細りになっていて、円錐台の斜面の角度は水平面から60°をなしている。又、円錐台の下側には、直径15mmで深さ7mmの円孔が連通している。一方、ポンチ2は先端が直径14mmの半球状の円柱をなし、円錐台の円孔へポンチ2先端の半球部を挿入可能になっている。
なお、円錐台の先細った先端と、円錐台の下側の円孔の接続部分は半径(r)=3mmの丸みを付けている。
【0029】
そして、銅箔複合体を直径30mmの円板状の試験片20に打ち抜き、台座4の円錐台の斜面に銅箔複合体を載置し、試験片20の上からポンチ2を押し下げて台座4の円孔へ挿入した。これにより、試験片20がコニカルカップ状に成形された。
なお、銅箔複合体の片面にのみ樹脂層がある場合、樹脂層を上にして台座4に載置する。又、銅箔複合体の両面に樹脂層がある場合、M面と接着している樹脂層を上にして台座4に載置する。銅箔複合体の両面がCuの場合はどちらが上であってもよい。
成形後の試験片20内の銅箔の割れの有無を目視で判定し、以下の基準で加工性の評価を行った。
◎:銅箔が割れず、銅箔にシワもない
○:銅箔が割れなかったが、銅箔に若干のシワがある
×:銅箔が割れた
【0030】
得られた結果を表1、表2に示す。なお、表1の試験温度は、F、f、f、f、及び加工性の評価を行った温度を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
表1、表2から明らかなように、各実施例の場合、(f×t)/(f×t)≧1、及び1≦33f/(F×T)をともに満たし、加工性に優れたものとなった。
なお、同じ構成の銅箔積層体を用いた実施例6と実施例20とを比較すると、室温(約25℃)で引張試験を行ってF等を測定した実施例6の方が、実施例20より(f×t)/(f×t)の値が大きく、実施例20では試験温度上昇により樹脂層が弱く(fが小さく)なっていることが分かる。
【0034】
一方、銅箔に表面処理をせずに樹脂フィルムを積層した比較例1の場合、接着強度が低下し、33f/(F×T)の値が1未満となり、加工性が劣化した。
積層時のプレス圧力を100N/cm2に低減した比較例2、5の場合も接着強度が低下し、33f/(F×T)の値が1未満となり、加工性が劣化した。
樹脂フィルムの厚みを薄くした比較例3の場合、樹脂フィルムの強度が銅箔に比べて弱くなって(f×t)/(f×t)の値が1未満となり、加工性が劣化した。
樹脂フィルムと銅箔とを熱融着せずに接着剤で積層した比較例4の場合、接着強度が低下し、33f/(F×T)の値が1未満となり、加工性が劣化した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔と樹脂層とが積層された銅箔複合体であって、
前記銅箔の厚みをt(mm)、引張歪4%における前記銅箔の応力をf(MPa)、前記樹脂層の厚みをt(mm)、引張歪4%における前記樹脂層の応力をf(MPa)としたとき、式1:(f×t)/(f×t)≧1を満たし、
かつ、前記銅箔と前記樹脂層との180°剥離接着強度をf(N/mm)、前記銅箔複合体の引張歪30%における強度をF(MPa)、前記銅箔複合体の厚みをT(mm)としたとき、式2:1≦33f/(F×T)を満たすことを特徴とする銅箔複合体。
【請求項2】
前記樹脂層のガラス転移温度未満の温度において、前記式1及び式2が成り立つことを特徴とする請求項1記載の銅箔複合体。
【請求項3】
前記銅箔複合体の引張破断歪lと、前記樹脂層単体の引張破断歪Lとの比l/Lが0.7〜1であることを特徴とする請求項1又は2記載の銅箔複合体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−20528(P2012−20528A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−161029(P2010−161029)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【Fターム(参考)】