説明

銅系金属粉末

【課題】流動性に優れ、粉末冶金の原料粉として好適な銅系粉末を提供する。
【解決手段】流動性改善材として、疎水化処理されたSiOまたはAlまたはTiOまたはMgOまたはこれらの混合物が添加・混合された銅系粉末で、この流動性改善材の平均粒子径は40nm以下であり、流動性改善材の添加割合は銅系粉末に対して1.0質量%以下である。この際、疎水化処理としては、有機珪素化合物等による疎水化が適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粉末冶金の原料粉として使用される、流動性に優れた銅および銅合金、並びに銅系混合粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粉末冶金に使用される銅系粉末の中には、その形状、粒度等によっては流動性に劣る粉末がある。例えば電解銅粉は、非常に複雑な樹枝状形状のため粉末同士が絡み合い、この結果流動性が悪くなる。また、アトマイズ法で作製された、球状に近い形状の粉末であっても、粒子径が50μm以下の微粉末になってくると、粒子間の付着カが強くなってきて流動性が悪くなる。
【0003】
粉末冶金法では、粉末を成形金型に充填してプレス成形を行うが、特に近年、薄肉形状や複雑形状の部品を製造するため、金型の隙間が細く複雑な形状になってきている。このため、流動性の悪い粉末を用いた場合には、ブリッジングを起こして粉末が金型に充填されない場合がある。また、充填はできても、均一に充填されなかった場合には金型内で充填密度にばらつきが生じ、成形体強度の低下や焼結後の寸法精度の低下を引き起こす。また、金型にスムーズに粉末を充填することができないため、プレスの成形速度を低く設定する必要があり、生産性が低下する。
【0004】
これを解決するために、鉄系粉末においては下記の特許文献1〜3に示すように、有機バインダーを用いて主成分粉と副成分粉を結合して粉末を造粒することにより、流動性を改善することが提案されている。
【0005】
また、銅系粉末においては特許文献4に示すように、バインダーをコーティングさせた副成分粉と水で漏らせた主成分粉を混合・乾燥することにより、余分のバインダーを主成分の銅系粉末上に残さないように主成分粉と副成分粉とを接着させる方法、およびバインダーをきわめて少量しか使用せず、主成分粉と副成分粉とバインダー溶液とを混合後、混合物を軽く圧縮して接着を助ける方法が示されている。
【0006】
特許文献5には、鉄系造粒粉末において、流動性改善材として一次粒子の平均粒径が40nm以下のSiO等の金属酸化物を添加する方法が開示されている。
【特許文献1】特公平6-89362号公報
【特許文献2】特開平5-86403号公報
【特許文献3】特開2002-289418号公報
【特許文献4】特開平8-134502号公報
【特許文献5】特表2003-508635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に示されたような、従来鉄系粉末に適用されてきたバインダーを用いて造粒する方法を銅系粉末に適用しようとすると、銅中への炭素の固溶度がほとんどないことから、焼結時にわずかに粉末粒子表面に残ったバインダー残滓の炭素であっても著しく焼結を阻害する欠点があった。
【0008】
また、特許文献4に示された、銅系であっても焼結を阻害しにくいバインダーによる造粒粉の製造においては、バインダーでコーティングされた副成分粉を製造する工程、あるいは主成分、副成分、バインダーの混合物を圧縮する工程等の製造工程が増えるためコストが高くなる。
【0009】
一方、上記特許文献5に記載されている鉄系粉末の流動性改善に適用される、SiO等の金属酸化物を添加する方法をそのまま銅系粉末に適用しても、以下のような理由により十分な流動性を得ることができない。
【0010】
粉末の流動性に影響を及ぼす粉末同士の付着力は、一般に液架橋力、分子間力、静電気力から成り立つことが知られているが、下記の非特許文献1において述べられているように、通常の湿度雰囲気下では分子間力が最も大きく作用する。分子間力はハマカー係数に比例するが、この係数は鉄では21.2、銅では30.0となっており、銅は鉄の1.5倍の分子間力が作用する。このことは、例え同様の粒子形状、粒子径を持った粉末であっても銅粉は鉄粉に比べて流動性が悪いことを示している。
【非特許文献1】「粉体および粉末冶金」第45巻、第9号、1998年、849-853頁
【0011】
以上のように、銅系粉末においてその流動性を向上させることは、極めて困難である。しかしながら、近年の粉末冶金部品の小型化、複雑形状化、低コスト化のために、銅系においても流動性の良好な粉末が切望されるようになってきた。本発明はこのような要求に応えることが可能な銅系粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような従来の問題点を解決することを目的としてなされたものであり、銅粉末または銅合金粉末に、流動性改善材として平均粒子径40nm以下の疎水化処理されたSiOまたはAlまたはTiOまたはMgOまたはこれらの混合物が、銅系粉末に対して1.0質量%以下の量にて添加・混合された、流動性に優れた銅系粉末を提供するものである。
本発明における「銅合金」とは、銅に錫、鉛、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、ビスマス、鉄、リン、マンガン、コバルト、シリコン、チタン、バナジウム、クロム、銀から選ばれた1種または2種以上の元素が固溶した金属をいう。
【0013】
また、本発明においては、銅粉末または銅合金粉末に、副成分粉および成形潤滑剤が混合されても良い。副成分粉としては、錫、鉛、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、ビスマス、鉄、リン、マンガン、コバルト、シリコン、チタン、バナジウム、クロム、銀の粉末、あるいはこれら元素2つ以上の合金粉、あるいはこれら元素と銅との合金粉のような金属成分、黒鉛、二硫化モリブデン、硫化マンガン、フッ化カルシウムなどの固体潤滑剤、炭化物、窒化物などの硬質粒子が挙げられる。副成分粉の添加量は銅または銅合金粉と副成分粉と成形潤滑剤の合計質量の30%の量まで含むことができる。成形潤滑剤としては金属石鹸、ワックスなどが挙げられ、この添加量は銅または銅合金粉と副成分粉と成形潤滑剤の合計質量の5%の量まで含むことができる。本発明では、上記副成分粉及び/又は潤滑剤が添加される場合、銅粉末又は銅合金粉末と副成分粉と成形潤滑剤の合計質量に対して、1.0質量%以下の量で流動性改善材が添加される。
【0014】
SiOおよびAlおよびTiOおよびMgOは本来表面に親水基が存在するため親水性であるが、これに有機珪素化合物を反応させて疎水化させることができる。このように疎水化させたSiOおよびAlおよびTiOおよびMgOは、表面への水分子の吸着量が著しく減少する。親水性の粉末は外部の水分により互いに付着し、十分な流動性が得られないが、疎水化すると付着しやすい水分層を持たず流動性が改善される。
有機珪素化合物による疎水化処理は、公知の方法であって良く、例えば、平均粒子径40nm以下のSiOと、ジメチルクロロシランとを不活性なキャリアーガスと一緒に、約400℃に加熱された反応器中に供給して反応させる方法で製造されたものが市販されている。
【0015】
前述したように、銅系粉末は鉄系粉末に比べて流動性が悪く、親水性の流動性改善材では流動性改善効果が不十分であるが、疎水化処理を施すことにより少量の添加で十分な流動性改善効果が得られるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の効果としては、銅系粉末の流動性が向上することにより、薄肉形状や複雑形状の部品を製造するような場合においても、金型への粉末供給時にブリッジングを起こして粉末が金型に充填されなかったり、充填はできても均一に充填されずに金型内で充填密度にばらつきを生じ、成形体強度の低下や焼結後の寸法精度の低下を引き起こしたりすることが避けられることである。また、金型にスムーズに粉末を充填することができるため、プレスの成形速度を速く設定することができ、生産性が高くできる効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の銅粉には電解法、アトマイズ法、溶液還元法、酸化還元法など種々の製法による粉末が適用できる。合金粉としてはアトマイズ法、熱処理拡散合金化法、酸化還元法など種々の製法による粉末が適用できる。
【0018】
また、本発明の粉末を用いて製造される部品の要求品質を満たすため、これら銅粉、銅合金粉に錫、鉛、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、ビスマス、鉄、リン、マンガン、コバルト、シリコン、チタン、バナジウム、クロム、銀の粉末、あるいはこれら元素2つ以上の合金粉、あるいはこれら元素と銅との合金粉のような金属成分、黒鉛、二硫化モリブデン、硫化マンガン、フッ化カルシウムなどの固体潤滑剤、炭化物、窒化物などの硬質粒子などの副成分粉、ステアリン酸亜鉛、ワックス等の成形潤滑剤が添加されても良い。
【0019】
これらのべース粉末に、流動性改善材として平均粒子径40nm以下のSiOまたはAlまたはTiOまたはMgOが0.001〜1.0質量%添加・混合されるが、本発明で用いる流動性改善材は表面の親水基を有機珪素化合物等によって疎水化させたものでなければならない。またこの流動性改善材は40nmを超える粒径になると添加量を多くしなければ流動性改善効果が得られず、焼結を阻害したり、焼結後に残留して焼結部品の性能に悪影響が出てくるため、40nm以下にすることが望ましい。より好ましい平均粒子径は5〜35nm、特に好ましい平均粒子径は10〜25nmである。
【0020】
流動性改善材の最適な添加量はべース粉末の粒度や形状によって異なる。すなわち樹枝状の形状を呈する電解銅粉のような、非常にイレギュラーな形状の粉末の場合には、粉末の凹部に一部の流動性改善材が入り込み流動性改善に寄与しなくなるため、球状あるいは球に近い不規則形状の場合よりも添加量を多くする必要がある。また、べース粉末の粒子径が小さくなるほど、粉末同士の付着力が大きくなり流動性が低下するが、この流動性を改善するためにはより添加量を増やす必要がある。
本発明における流動性改善材の添加量は、銅粉末粒子の形状が樹枝状で、平均粒径が約30〜150μm程度の場合には銅粉末に対して0.01〜1.0質量%の範囲が最適であるが、粒子形状が樹枝状で、平均粒径が約10〜30μm程度の場合には0.3〜1.0質量%の範囲が最適である。又、銅粉末粒子の形状が不規則状で、平均粒径が約20〜100μm程度の場合には銅粉末に対して0.001〜1.0質量%の範囲が最適であるが、粒子形状が不規則状で、平均粒径が約5〜20μm程度の場合には0.1〜1.0質量%の範囲が最適である。
べース粉末と流動材の混合には通常金属粉の混合操作に用いられる、V型混合機、ダブルコーン型混合機、リボン式混合機、回転羽根式混合機、らいかい機などを用いることができる。
【0021】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
以下に記載する、べース粉末の平均粒径はレーザー回折散乱法によって測定されたメディアン径、流動性改善材の平均粒径は動的光散乱法によって測定されたメディアン径である。流動度は、JIS Z2502規格に基づき、粉末50gをφ2.63mmのオリフィスから流下させたときにかかる時間を測定して流動度とした。
表1にべース粉末として電解銅粉を用いた場合の、SiO添加による流動性改善効果を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
電解銅粉はその樹枝状の形状により粉末同士が絡み合いやすく、流動性に劣るとされているが、実施例1〜3および比較例1〜2に示すように、平均粒径が約45μm程度の電解銅粉では0.01%のSiO添加で流動性が得られるようになった。添加重を0.05%に増やすと流動性も向上するが、0.3%まで増やすと逆に低下傾向を示した。
【0024】
比較例3のように、平均粒径が大きく、SiOを添加しなくとも流動性が良好な粉末にSiOを添加すると、実施例4のように流動性がより向上した。
また、粒径の小さい電解銅粉では、実施例1〜4よりは添加量を多くする必要があるが、実施例5〜6、比較例4〜5に示すように0.3%の添加で流動性が得られた。添加量を1%まで増加させると流動性はやや低下し、2%まで増加させると流動しなくなった。
【0025】
表2にべース粉末として水アトマイズ銅粉を用いた場合の、SiO添加による流動性改善効果を示す。
【0026】
【表2】

【0027】
実施例7〜8、比較例6に示すように、平均粒径38μmの水アトマイズ銅粉では、0.0005%の添加では流動性を得ることはできなかったが、0.001%の添加では流動性が得られ、0.01%まで添加するとさらに向上した。
【0028】
平均粒径11μmの微粉になると実施例9〜11、比較例7に示すように、0.01%の添加では流動性は得られず、0.1%まで添加量を増やして流動性を得ることができた。その後0.3%まで増やすと流動性は向上したが、1.0%まで増加させると逆に低下した。
表1の実施例1〜3、表2の実施例7〜8に示すように、同等水準の平均粒径であっても、水アトマイズ粉は電解銅粉のように粉末同士が絡み合うような形状ではないために、少量のSiO添加で流動性改善効果が発現する。
【0029】
表3に、SiOの疎水化処理の有無、およびSiO粒子の粒径が流動性に及ぼす影響を示す。尚、疎水化処理をされていないSiOおよび疎水化処理がなされたSiOは、市販されているものを用いた。
【0030】
【表3】

【0031】
実施例1〜3、比較例8〜10に示すように、疎水化処理を施さないSiOを用いた場合には疎水化処理を施したSiOを用いた場合に比べ、添加量を大きく増加させる必要があった。また実施例5〜6および比較例12〜13に示すように、平均粒径約19μmの微細な電解銅粉の場合には、疎水化処理を施さないSiOを1.0%添加しても流動性を得ることはできなかった。
【0032】
このことはアトマイズ銅粉の場合も同様で、実施例9,11および比較例15〜16に示すように疎水化処理を施さないSiOを1.0%添加しても流動性を得ることはできなかった。
【0033】
また、実施例2、比較例11、実施例5、比較例14、実施例9、比較例17に示すように、疎水化処理を施したSiOであっても粒径が50nmと大きくなると流動性改善効果が小さくなった。
次に表4に代表的な銅合金である青銅についての流動性改善効果を示す。
【0034】
【表4】

【0035】
実施例12に平均粒径35.6μmの水アトマイズ青銅粉末、実施例13に平均粒径10.3μmの水アトマイズ青銅粉末への、SiO添加による流動性改善効果を示すが、同等水準の平均粒径を持つ水アトマイズ銅粉とほぼ同等の改善効果が認められた。
表5にべ一ス粉末として、銅粉末に副成分粉および潤滑剤を混合した粉末についての流動性改善効果を示す。尚、以下の表5におけるSiO添加量は、銅粉末と副成分粉と潤滑剤の合計質量に対するout%である。
【0036】
【表5】

【0037】
実施例14に電解銅粉と10%の水アトマイズ錫粉、これに成形潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.5out%添加した混合粉にSiOを0.05%添加した結果を、比較例18にSiOを添加しない場合の結果を示すが、SiOを0.05%添加した場合には流動性改善効果が見られた。
【0038】
実施例15に電解銅粉と2%の黒鉛粉末、これに成形潤滑剤としてワックス系潤滑剤であるEBS樹脂を0.5out%添加した混合粉にSiOを0.05%添加した結果を、比較例19にSiOを添加しない場合の結果を示すが、SiOを0.05%添加した場合には流動性改善効果が見られた。
表6に流動性改善材としてAl、またはTiO、MgOおよびSiOとAlとTiOとMgOとを1:1:1:1の比率で混合した混合物を用いた時の流動性改善効果を示す。尚、疎水化処理をされたSiOおよびAlおよびTiOおよびMgOは、市販されているものを用いた。
【0039】
【表6】

【0040】
実施例16〜19に示すように、いずれも流動性改善効果が得られた。
以上に述べてきたように、本発明に用いる流動性改善材は疎水化処理を施されていなければ十分な流動性改善効果が得られず、また、その平均粒径が40nmよりも大きい場合にも十分な流動性改善効果が得られない。
【0041】
流動性改善材の添加量はべース粉末の形状や粒径によって最適な添加量が存在するが、0.001%の添加量で流動性改善効果が現れ始め、添加量1%程度まで流動性改善効果がある。これ以上の添加量では逆に流動性が低下するため、流動性改善材の好ましい添加量は0.001%〜1%の範囲内である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明による銅系粉末は流動性が良く型充填性に優れた粉末として、粉末冶金の分野において利用され得るが、従来全く流動性がなかった微細な銅系粉末でも流動性が得られることから、今後電子材料用の銅粉にも適用される可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなる銅系粉末に、流動性改善材が添加、混合されたものであって、前記流動性改善材が、平均粒子径40nm以下の疎水化処理されたSiO、Al、TiO、MgO及びこれらの混合物から選ばれたものであること、及び、当該流動性改善材の銅系粉末に対する添加割合が1.0質量%以下であることを特徴とする銅系金属粉末。
【請求項2】
さらに、前記銅粉末または銅合金粉末に、錫、鉛、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、ビスマス、鉄、リン、マンガン、コバルト、シリコン、チタン、バナジウム、クロム、銀の粉末、あるいはこれら元素2つ以上の合金粉、あるいは前記元素と銅との合金粉から選ばれた金属成分、黒鉛、二硫化モリブデン及び硫化マンガン、フッ化カルシウムから選ばれた固体潤滑剤、炭化物及び窒化物から選ばれた副成分粉、及び/または、金属石鹸、ワックスから選ばれた成形潤滑剤の少なくとも1種を含み、前記流動性改善材の、前記銅系粉末と副成分粉及び/又は成形潤滑剤の合計量に対する添加割合が1.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の銅系金属粉末。
【請求項3】
前記SiO、Al、TiO、MgOが、有機珪素化合物によって疎水化処理されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅系金属粉末。