説明

銅荒引線の製造方法及びその製造設備

【課題】揮発した有機物を回収して再利用し、かつ有機物の回収作業のために銅荒引線の鋳造作業を停止する必要がないような銅荒引線の製造方法を提供する。
【解決手段】冷却還元処理室4の近傍に設置したタンク5内の有機還元剤水溶液18を冷却還元処理室4に供給して冷却並びに還元処理し、その冷却還元処理室4で揮発した有機還元剤を含むガス19を、冷却還元処理室4の近傍に設置されたガス吸収塔10の底部から流し、他方、タンク5内の有機還元剤水溶液18を取り出して冷却したのち、これをガス吸収塔10の上部から吸収液13として流し、ガス吸収塔10を上昇するガス19と接触させてガス19中の有機還元剤を吸収液13に吸収させて除去し、その有機還元剤を除去したガスをガス吸収塔10から排気し、その有機還元剤を吸収した吸収液13をタンク5に戻す方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造装置で鋳造・圧延されて形成された銅荒引線を、冷却還元処理室に通し、その冷却還元処理室内で銅荒引線を有機還元剤水溶液と接触させて冷却並びに還元処理を行う銅荒引線の製造方法及びその製造設備に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅の荒引線(銅荒引線)を製造する際には、図11に示すように、溶解炉100から流出する熔銅を、鋳造機101において先ず連続した棒状にし、さらに圧延機102にて所定の寸法の断面形状(例えば直径8乃至30mmの円状)に加工して銅荒引線103を製造する。
【0003】
圧延の際、例えば600℃以上の高温で大気に曝されるため、銅荒引線103の表面には酸化物が形成される。従って、圧延後に冷却が必要であることに加えて、表面の酸化物を除去することが必要である。
【0004】
そこで、冷却・酸化物除去ライン104において、冷却と表面の酸化物の除去が行われる。
【0005】
圧延後の冷却は、銅荒引線103を、水を主たる成分とする液体と接触させることにより行われている。この処理の過程で、銅荒引線103の温度は、例えば約600℃以上から100℃以下まで急激に低下する。
【0006】
酸化物の除去は、次のような技術を用いて化学的に行われている。例えば、特許文献1に記載されているような、イソプロピルアルコール(以下、IPAという)等の有機還元剤による酸化物の還元技術がある。
【0007】
化学反応の速度は高温ほど速いので、冷却を行う液体に酸化物の除去を行う処理剤を添加して銅荒引線103と接触させ、冷却及び酸化物除去を同時に行っている。すなわち、IPA等を含む水溶液を圧延後の銅荒引線103と接触させることで、銅荒引線103の冷却と表面の酸化物の還元を行っている。
【0008】
図12は、冷却・酸化物除去ライン104を構成する冷却還元処理室105を模式的に示した図である。図11で説明した圧延機102を出た銅荒引線103は、冷却・酸化物除去ライン104の冷却還元処理室105へと導入される。冷却還元処理室105は、配管によって液状流体(IPA等を含む水溶液)106が貯蔵されたタンク107に接続され、液状流体106が図示しない送液ポンプによって供給されると共に、処理後の液状流体106はタンク107に戻る構造となっている。
【0009】
ここで、液状流体106に含まれるIPA等の揮発性有機物が大気中に放散されることにより大気汚染を引き起こす可能性があるため、有機還元剤の回収や分解が行われている。
【0010】
例えば、特許文献2には、揮発した有機物を吸着剤を用いて捕捉し、一定量回収した後に吸着剤から有機物を離脱させ回収する方法が記載されている。この例においては、回収した有機物は純度等の条件によっては再利用することもできる。
【0011】
また、例えば、特許文献3には、揮発した有機物を、触媒を用いて分解又は燃焼したのち大気に放出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特公昭56−27596号公報
【特許文献2】特開2006−205079号公報
【特許文献3】特開2008−302277号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】大江修造監修、「気液平衡データ集」、講談社サイエンティフィク
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献2の方法では、吸着剤が捕捉できる揮発性有機物の量には上限があるという問題がある。そのため、長期的な使用の間には、吸着剤から揮発性有機化合物を離脱させる作業が不可欠であり、その作業の間は揮発性有機物を捕捉することができない。
【0015】
すなわち、離脱作業の間は銅荒引線の鋳造作業を停止しなければならず、長期に亘り連続的に銅荒引線を鋳造することはできないという問題がある。また、吸着剤から揮発性有機化合物を離脱させる際には、新たなエネルギーの投入を必要とすることも問題点の一つである。
【0016】
この問題を回避するために、新規な吸着剤に交換することが考えられるが、複数の吸着剤を保有しておくことは、生産に掛かるコストが増加するという、新たな問題を発生させる。
【0017】
特許文献3の方法では、揮発性有機物を回収して再利用することができない問題がある。そのため、揮発性有機物の放散低減に要したコストはそのまま製造コストに上乗せされてしまう。
【0018】
そこで、本発明の目的は、有機物を還元剤として用いる銅荒引線の製造方法及びその鋳造設備であって、揮発した有機物を回収して再利用し、かつ有機物の回収作業のために銅荒引線の鋳造作業を停止する必要がないような銅荒引線の製造方法及びその鋳造設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、連続鋳造装置で鋳造されて形成された銅荒引線を、冷却還元処理室に通し、その冷却還元処理室内で前記銅荒引線を有機還元剤水溶液と接触させて冷却並びに還元処理を行うに際して、前記冷却還元処理室の近傍に前記有機還元剤水溶液を貯蔵するタンクを設置し、そのタンク内の前記有機還元剤水溶液を前記冷却還元処理室に供給して冷却並びに還元処理し、その冷却還元処理室で揮発した有機還元剤を含むガスを、前記冷却還元処理室の近傍に設置されたガス吸収塔の底部から流し、他方、前記タンク内の前記有機還元剤水溶液を取り出して冷却したのち、これを前記ガス吸収塔の上部から吸収液として流し、前記ガス吸収塔を上昇する前記ガスと接触させてガス中の有機還元剤を前記吸収液に吸収させて除去し、その有機還元剤を除去したガスを前記ガス吸収塔から排気し、その有機還元剤を吸収した吸収液を前記タンクに戻す銅荒引線の製造方法である。
【0020】
請求項2の発明は、前記有機還元剤水溶液がイソプロピルアルコール水溶液であり、前記ガス吸収塔に流す前記吸収液を、前記ガス吸収塔に流される前記ガス中の有機還元剤を吸収できる温度に冷却して流す請求項1に記載の銅荒引線の製造方法である。
【0021】
請求項3の発明は、前記ガス吸収塔での前記ガスの体積流量をVG(L/min)とし、前記吸収液の体積流量をVL(L/min)としたとき、VL≧4.1VGとなるように前記吸収液の流量を調整する請求項1又は2に記載の銅荒引線の製造方法である。
【0022】
請求項4の発明は、前記吸収液と前記ガスとの温度差が15℃以上となるように前記吸収液の温度を調整する請求項1〜3のいずれかに記載の銅荒引線の製造方法である。
【0023】
請求項5の発明は、連続鋳造装置で鋳造されて形成された銅荒引線を、冷却還元処理室に通し、その冷却還元処理室内で前記銅荒引線を有機還元剤水溶液と接触させて冷却並びに還元処理を行う銅荒引線の製造設備であって、前記冷却還元処理室の近傍に設置され、前記有機還元剤水溶液を貯蔵するタンクと、前記タンク内の前記有機還元剤水溶液を前記冷却還元処理室に供給する水溶液供給手段と、前記冷却還元処理室の近傍に設置され、前記冷却還元処理室で揮発した有機還元剤を含むガスを底部から導入すると共に、内部でそのガス中の有機還元剤を除去してクリーンなガスとして上部から排出するガス吸収塔と、前記冷却還元処理室で揮発した有機還元剤を含むガスを、前記ガス吸収塔の底部から流すガス導入手段と、前記タンク内の前記有機還元剤水溶液を取り出して冷却すると共に、これを吸収液として前記ガス吸収塔の上部から流す吸収液供給手段と、前記ガス中の有機還元剤を吸収した吸収液を前記タンクに戻す回収手段とを備える銅荒引線の製造設備である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、揮発した有機物を回収して再利用し、かつ有機物の回収作業のために銅荒引線の鋳造作業を停止する必要がないような銅荒引線の製造方法及び鋳造設備を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る銅荒引線の製造設備のうち、冷却・酸化物除去ライン及びガス吸収塔を示す模式図である。
【図2】ガス吸収塔と他の機器との接続を示す図である。
【図3】IPA水溶液と平衡にある気相のIPA蒸気圧を表す図である。
【図4】ガス吸収塔内部の温度分布を示す図である。
【図5】ガス吸収塔の動作条件(ガス流量と吸収液流量)に対する、ガス吸収塔底部での吸収液温度を示す図である。
【図6】吸収液流量が20L/minのときの、ガス吸収塔内部のIPA濃度分布を示す図である。
【図7】吸収液流量が15L/minのときの、ガス吸収塔内部のIPA濃度分布を示す図である。
【図8】ガス温度70℃のときの、吸収液温度に対する回収率並びに排出率を示す図である。
【図9】第1の実施例における、ガス吸収塔とタンクや熱交換器等との接続を示す図である。
【図10】第4の実施例における、ガス温度及び吸収液温度と、回収率の関係を表す図である。
【図11】銅荒引線の製造設備を示す模式図である。
【図12】銅荒引線の製造設備のうち、冷却・酸化物除去ラインを構成する冷却還元処理室の構造を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0027】
先ず、本実施の形態に係る銅荒引線の製造設備を説明する。
【0028】
図1は、本実施の形態に係る銅荒引線の製造設備のうち、冷却・酸化物除去ライン及びガス吸収塔を示す模式図である。
【0029】
図1に示すように、銅荒引線の製造設備1は、図11と同様の連続鋳造装置で鋳造されて形成された銅荒引線2を、冷却・酸化物除去ライン3にて冷却並びに還元処理を行う設備である。
【0030】
連続鋳造装置は、銅荒引線2の材料となる銅を溶解させる溶解炉と、その溶解炉から流出する熔銅を連続した棒状に加工する鋳造機と、棒状に加工した熔銅を所定の寸法の断面形状に加工する圧延機とを備える。連続鋳造装置については、従来技術であるので説明を省く。
【0031】
冷却・酸化物除去ライン3は、連続鋳造装置で鋳造されて形成された銅荒引線2を、有機還元剤水溶液18と接触させて冷却並びに還元処理を行う冷却還元処理室4と、その冷却還元処理室4の近傍に設置され、有機還元剤水溶液18を貯蔵するタンク5とを備える。有機還元剤水溶液18としては、イソプロピルアルコール(IPA)水溶液を用いる。
【0032】
タンク5には、タンク5内の有機還元剤水溶液18を冷却還元処理室4に供給する水溶液供給手段が備えられている。水溶液供給手段は、タンク5から有機還元剤水溶液18を送液するための送液ポンプ6と、送液ポンプ6で送液された有機還元剤水溶液18を冷却還元処理室4に導くための配管7とを有する。この配管7の途中には、タンク5から送液された有機還元剤水溶液18を冷却するための熱交換器(冷却器)8が設けられ、有機還元剤水溶液18は熱交換器8で冷却されたのち、冷却還元処理室4に供給される。これにより、有機還元剤水溶液18は、還元剤としての機能だけではなく、冷却水としての機能を持つようにされる。
【0033】
冷却還元処理室4は、銅荒引線2の外径に近い内径を有する円筒状に形成され、銅荒引線2の進行方向前方側が上側、後方側が下側になるように傾いており、水溶液供給手段の配管7からの有機還元剤水溶液18は上側から供給されるようにされる。
【0034】
また、冷却還元処理室4には、タンク5から供給された有機還元剤水溶液18を用いて銅荒引線2の冷却並びに還元処理を行ったのち、その冷却並びに還元処理で銅荒引線2から熱を受け取り加熱された有機還元剤水溶液18と揮発した有機還元剤を含むガス(IPA蒸気)19をタンク5に戻す配管9が接続される(構成は図12に示したものと同じ)。この配管9は、冷却還元処理室4の下側に接続され、冷却並びに還元処理に用いた有機還元剤水溶液18を、銅との反応生成物であるアセトン及び揮発した有機還元剤と共に効率よく排出できるようにされる。
【0035】
さて、本実施の形態に係る銅荒引線の製造設備1においては、冷却還元処理室4の近傍にガス吸収塔10が設置される。このガス吸収塔10は、内部に充填剤17が挿入されて気液接触によりガス19中の有機還元剤を除去するスクラバ構造となっており、冷却還元処理室4で銅荒引線2を冷却並びに還元処理する際に、冷却還元処理室4での冷却並びに還元処理により加熱されて揮発した有機還元剤を含むガス19を底部から導入すると共に、内部でそのガス19中の有機還元剤を除去してクリーンなガスとして上部から排出するものである。つまり、有機還元剤水溶液18に含まれるIPA等の揮発性有機物が大気中に放散されることにより大気汚染を引き起こすのを防止するためのものである。
【0036】
ガス吸収塔10の底部には、揮発した有機還元剤を含むガス19を導入するガス導入手段が接続される。ガス導入手段は、配管11と、その配管11の途中に設けられ、ガス19をガス吸収塔10側へ流すための送風ファン12とからなる。
【0037】
配管11の一端は、上述のようにガス吸収塔10の底部に接続されており、他端は、有機還元剤水溶液18の蒸気の主たる放散箇所、例えばタンク5上部の気相部分に接続されている。
【0038】
また、ガス吸収塔10には、タンク5内の有機還元剤水溶液18を取り出して有機還元剤を吸収できる温度(詳しくは後述する)に冷却すると共に、これを吸収液13としてガス吸収塔10の上部から流す吸収液供給手段が接続される。吸収液供給手段は、熱交換器8通過後の配管7から分岐され、冷却された有機還元剤水溶液18をガス吸収塔10の上部に供給する配管14を有する。つまり、本実施の形態においては、吸収液供給手段での冷却と水溶液供給手段での冷却は、同じ熱交換器8を用いて行うようにしている。
【0039】
図2に示すように、ガス吸収塔10内の上部には、吸収液供給手段の配管14より供給された吸収液13をガス吸収塔10の上部から散布するためのシャワーノズル15が設けられる(図2ではシャワーノズル15を2段設けている)。
【0040】
さらに、ガス吸収塔10の底部には、シャワーノズル15から散布した吸収液13をタンク5に戻して回収するための回収手段が接続される。回収手段は、ガス吸収塔10の底部とタンク5との間を接続する配管16からなる。
【0041】
銅荒引線の製造方法を銅荒引線の製造設備1の動作と共に説明する。
【0042】
連続鋳造装置で鋳造されて形成された銅荒引線2を冷却並びに還元処理に供するべく、タンク5内の有機還元剤水溶液18は、送液ポンプ6を用いて送液され、熱交換器8によって所定の温度、例えば約40℃に制御された後、冷却・酸化物除去ライン3の冷却還元処理室4へと送られる。
【0043】
冷却還元処理室4において有機還元剤水溶液18は、銅荒引線2と接触して銅荒引線2を冷却すると共に、表面の酸化膜を還元する。このとき、有機還元剤水溶液18は、銅荒引線2より熱を受け取り、加熱される。有機還元剤水溶液18は、その後配管9を通じて再びタンク5へと戻るが、加熱されているためタンク5内の有機還元剤水溶液18の温度も上昇する。
【0044】
タンク5内の有機還元剤水溶液18の温度は、銅荒引線2の生産速度と有機還元剤水溶液18の送液速度、またタンク5内の有機還元剤水溶液容量に依存するが、例えば約70℃になることも少なくない。このように高温となったタンク5内の有機還元剤水溶液18は蒸気圧が上昇しており、この蒸気(ガス19)がガス導入手段の配管11を通ってガス吸収塔10の底部へ供給される。
【0045】
他方、吸収液供給手段の配管7を通じて冷却された有機還元剤水溶液18が吸収液13としてガス吸収塔10内のシャワーノズル15に供給されると共に、シャワーノズル15から散布される。これにより、ガス吸収塔10を上昇するガス19と吸収液13とが接触してガス19中の有機還元剤が吸収液13に吸収されて除去される。このとき、ガス19と吸収液13との十分な接触面積を確保するために、ガス吸収塔10内には充填物17を挿入しておくことが一般的に行われる。本実施形態においてもガス吸収塔10内に充填物17を挿入した。また、ガス吸収塔10でのガス19の体積流量をVG(L/min)とし、吸収液13の体積流量(以下、単に流量ともいう)をVL(L/min)としたとき、VL≧4.1VGとなるように吸収液13の流量を調整するとよく、また吸収液13とガス19との温度差が15℃以上となるように吸収液13の温度を調整するとよい(各々理由は後述する)。
【0046】
ガス19中の有機還元剤を除去後、有機還元剤が除去されたクリーンなガスはガス吸収塔10の上部から排気され、有機還元剤を吸収した吸収液13はタンク5に戻される。以上の動作により、銅荒引線の製造設備1では有機還元剤水溶液18の再利用が可能となる。また、この再利用には従来技術のように吸着した有機化合物を離脱するなどの行為は必要ないため、有機化合物の大気への放散を削減しつつ、銅荒引線2を連続的に製造することが可能となる。
【0047】
ここで、吸収液13によってガス吸収が行われる原理について説明する。
【0048】
図3は、平衡状態における、気相のIPA濃度と液相のIPA濃度の関係を表した図である。この関係は、例えば非特許文献1に記載された定数を用いて、Wilson式より求めることができる。なお、実際の生産に用いられる有機還元剤水溶液18には、銅との反応生成物であるアセトンが含まれており、IPAの平衡蒸気圧はアセトン濃度に依存する。しかしながら、その影響は小さいため、以下の説明ではアセトンの影響を無視し、IPAと水の平衡のみ考慮する。
【0049】
いま、あるIPA濃度(例えば8%)の有機還元剤水溶液18を用いて銅荒引線2の冷却、還元処理を行う場合を考える。またタンク5内の有機還元剤水溶液18の温度は、例えば70℃とする。このとき、タンク5上部の大気は前記濃度及び温度の有機還元剤水溶液18と平衡にあり、図3の曲線aよりIPAの蒸気圧は110mmHg(約146hPa)となる。この蒸気圧のIPA蒸気を含むガス19がガス吸収塔10の底部に導入される。また、吸収液13としては、タンク5内の有機還元剤水溶液18が、例えば50℃に冷却されてガス吸収塔10の上部に導入される。
【0050】
ガス吸収塔10内の上部でシャワーリングされた直後は、吸収液13中のIPA濃度は8%であるが、温度は50℃であることから気液平衡曲線は図3の曲線bのようになり、110mmHgのIPA蒸気と平衡にある液相のIPA濃度は62%である。すなわち、吸収液13のIPA濃度が62%になるまでIPAを吸収することができる。
【0051】
吸収能力を持った吸収液13がIPA蒸気を含むガス19と接触すると、IPAの一部が吸収液13に移動する。このようにして、吸収液13がガス吸収塔10の上部から底部へ移動する間に、吸収液13中のIPA濃度は増加する。
【0052】
一方、ガス19はガス吸収塔10の底部から上部に上昇する間に、ガス19中のIPAの一部が吸収液13に移動することにより、ガス19中のIPA濃度は低下し、ガス吸収塔10の上部から排出される。よって、ガス吸収塔10を用いることによりVOC(Volatile Organic Compounds)の排出量を削減することができる。
【0053】
ここで、もしタンク5内の有機還元剤水溶液18を冷却せずにガス吸収塔10の上部から導入した場合、その温度及び濃度において平衡状態にある液相のIPA濃度は8%であり、ガス19中のIPA蒸気を吸収する能力を持たない。つまり、吸収液13が吸収能力を持つことは、吸収液13が冷却することによって初めて達成されることである。
【0054】
このようにして回収したIPAを含む吸収液13を、銅荒引線の製造設備1に備えられたタンク5に導入することにより、回収したIPAを含む吸収液13は再利用することが可能である。このとき、吸収液13に含まれるIPA濃度と、タンク5内に存在していた有機還元剤水溶液18が含むIPA濃度は異なることがあるので適切にIPA濃度を調整することが望ましい。
【0055】
このように、吸収液13を冷却することによって、ガス19中のIPA蒸気の回収が可能となるという着想を得た。しかしながら、ガス吸収塔における吸収特性はガス19や吸収液13の流量や、ガス吸収塔の高さ、ガス吸収塔内の充填物によって形成される表面積などにも影響されるため、依然として目的を達成するガス吸収塔の設計基準は明確でない。
【0056】
従来の、酸やアルカリの蒸気を回収するためのガス吸収塔においては、ガスや吸収液の流量、ガス吸収塔の高さ、ガス吸収塔内の充填物の表面積などの影響を考慮した設計手順が確立されている。しかしながら、この設計手順をIPA蒸気の回収には適用することができない。その理由は以下の2点による。
【0057】
まず1点目は、被吸収成分の、気相濃度と水溶液中濃度の関係が、IPAの場合と酸やアルカリの場合とで大きく異なるためである。酸やアルカリの水溶液においては、その水溶液と平衡状態にある蒸気中の酸やアルカリの濃度は、水溶液中の酸やアルカリの濃度にほぼ比例する。すなわち、図13に対応する蒸気圧曲線は、ほぼ原点を通る直線となる。酸やアルカリのガス吸収塔の設計手順は、蒸気圧曲線が直線となるよう近似しているものが多く、直線関係から大きくはずれるIPAには適用できない。
【0058】
また2点目として、温度の影響がある。従来の酸やアルカリのガス吸収塔の設計手順は、吸収液とガスの温度を等しいとしているが、本発明におけるIPA蒸気の回収においては、温度差を設けることが必須である。さらに、従来の酸やアルカリのガス吸収塔においては、吸収に伴って発生する吸収熱による吸収液の温度上昇は考慮していない。しかし、本発明におけるIPA蒸気のガス吸収塔においては、以下の理由で吸収熱の影響が無視できない。ガス吸収塔10に導入されるガス19は、吸収液13より高温であり、かつ有機還元剤水溶液18の飽和蒸気を含む。すなわち、IPAを含むと同時に水を含んでいる。従って、吸収液13がガス19と接触すると、IPAが吸収液13に吸収されると同時に、水も吸収される。このとき、IPAの溶解熱並びに水の蒸発潜熱に相当する熱が放出されるため、吸収液13の温度は、ガス吸収塔10の上部からガス吸収塔10の底部に向かうにしたがって増加する。
【0059】
以上の状況に鑑み、本発明者らは、ガス吸収塔10内部の任意の高さにおける、気相並びに液相の温度やIPA濃度を予測できる、ガス吸収塔10の動作シミュレータを開発した。開発したシミュレータを用いて、ガス吸収塔10内部の温度分布を評価した結果が図4である。
【0060】
ここで、縦軸はガス吸収塔10内の位置、横軸は温度を表す。また、ガス吸収塔10の流路断面積を0.785m2、充填物17の比表面積を100m2/m3とした。また、図4は吸収液13のIPA濃度=8質量%、ガス流量=4m3/min、吸収液流量=20L/min、ガス温度=70℃、吸収液温度=50℃の条件における結果である。図4から分かるように、ガス吸収塔10の底部では著しく温度が上昇している。
【0061】
もし、ガス流量に比べて吸収液流量が少ないならば、単位時間に吸収液13が受け取る熱量は相対的に多くなる。ガス流量及び吸収液流量に対して、どの程度の温度にまで上昇するかを検討した結果を図5に示す。
【0062】
横軸の吸収液流量と縦軸のガス流量で表される操作条件において、ガス吸収塔10の底部における温度が何℃まで上昇するかを示している。図4と同様、吸収液13のIPA濃度=8質量%、ガス温度=70℃、吸収液温度=50℃とした。また、ガス吸収塔10の高さは0.8mとした。
【0063】
ここで斜線で示した領域Aは、ガス吸収塔10の底部ではガス温度以上に吸収液温度が上昇していることを示す。すなわち、この領域Aでは、吸収液13の平衡蒸気圧の方がガス19中のIPA蒸気圧より高くなる可能性があり、吸収液13からガス19に向けてIPA蒸気が放出される可能性がある。つまり、ガス吸収塔10が有効に機能しないことになる。
【0064】
図5で、ガス温度である70℃まで吸収液温度が上昇する条件は、ガス吸収塔10でのガス19の体積流量をVG(L/min)とし、吸収液13の体積流量をVL(L/min)としたとき、VL=3.4VGと表される。実際のガス吸収塔10においては、ガス19及び吸収液13の流量の微妙な変動に対するマージンを見込む必要があり、その変動の程度は、ガス流量、吸収液流量それぞれに対して10%程度と見積もられることから、VL≧3.4×1.1×1.1=4.1VGとすることが望ましい。
【0065】
以上のように、ガス吸収塔10でのガス19の体積流量をVG(L/min)とし、吸収液13の体積流量をVL(L/min)としたとき、VL≧4.1VGとなるように吸収液13の流量を調整するとよい。
【0066】
なお、VL≧4.1VGを満足する場合としない場合の、ガス吸収塔10内の任意の位置における吸収液13中のIPA濃度を、本発明者らが開発したシミュレータを用いて計算した結果を、図6,7に示す。
【0067】
ガス流量はいずれも4m3/minであり、吸収液流量は、図6では20L/min(VL=5VG)、図7では15L/min(VL=3.75VG)である。ガス吸収塔10の上部ではIPA濃度の変化はない。このことは、ガス19がガス吸収塔10の上部に到達する前に、IPAの吸収は完了し、平衡に達していることを示す。しかしながら、平衡に到達するガス吸収塔10の底部からの位置は、吸収液流量によって異なり、図6では0.4m、図7では0.6mであり、ガス吸収塔10の高さを低く抑えるためには吸収液流量が多いことが必要であることが判る。
【0068】
また、ガス吸収塔10の底部近傍でのIPA濃度変化には大きな差がある。ガス19中のIPA濃度分布を見ると、VL≧4.1VGを満足する図6では、ガス吸収塔10の底部から単調に減少するが、VL≧4.1VGを満足しない図7では、一旦増加した後、減少する。
【0069】
図7の結果は、ガス吸収塔10の底部では吸収液13からガス19中にIPAが放出されていることを意味し、ガス吸収塔10として機能していないことが分かる。このように、ガス流量と吸収液流量は、VL≧4.1VGを満足することが必要である。
【0070】
次に、吸収液13とガス19との温度差が15℃以上となるように吸収液13の温度を調整するとよい理由を述べる。
【0071】
図8に示すように、吸収液13の温度が低いほど、ガス19中のIPA蒸気の回収率は向上する。VOC削減や薬品の有効利用といった観点から考えると、実用上意味のある回収率の上限は50%と考えられる。これを満足する温度は図8から分かるように55℃以下である。
【0072】
図8に示した結果は、ガス流量=4m3/min、吸収液流量=20L/min、ガス温度=70℃でのものであり、ガス温度と吸収液温度の差ΔTは15℃である。ここで、望ましい吸収液温度は、ガス温度に依存するが、回収率50%を実現するΔTはガス温度によらず15℃で一定であることが、発明者らの検討の結果、明らかとなった。
【0073】
そのため、本実施形態においては、吸収液13とガス19との温度差が15℃以上となるように吸収液13の温度を調整するようにしている。
【0074】
以上要するに、本実施の形態に係る銅荒引線の製造方法によれば、揮発した有機物を除去するために吸着剤や触媒を用いておらず、有機物の回収作業のために銅荒引線2の鋳造作業を停止する必要がない。そのため、有機物の回収作業に余計なコストを掛けることなく、連続的に銅荒引線2を製造することができる。
【0075】
また、本実施の形態においては、ガス吸収塔10に流す吸収液13を、ガス吸収塔10に流されるガス19中の有機還元剤を吸収できる温度に冷却、すなわち吸収液13とガス19との温度差が15℃以上となるように吸収液13の温度を調整しているため、ガス吸収塔10を上昇するガス19中の有機還元剤(IPA)の回収率を高くすることができる。
【0076】
さらに、本実施の形態においては、ガス吸収塔10でのガス19の体積流量をVG(L/min)とし、吸収液13の体積流量をVL(L/min)としたとき、VL≧4.1VGとなるように吸収液13の流量を調整しているため、ガス吸収塔10の高さを低くしても効率的にガス19中の有機還元剤を回収することができ、ガス吸収塔10の小型化、結果的に低コスト化に貢献することができる。
【実施例】
【0077】
(第1の実施例)
図1,2に示した銅荒引線の製造設備1を用いて、タンク5から蒸発し飛散するIPA蒸気の回収を評価した。ガス吸収塔10とタンク5との配管接続の詳細は図9に示す通りである(図9では、説明のため配管14の途中にのみ熱交換器8が接続されるように描いている)。ガス吸収塔10の流路断面積を0.785m2、ガス吸収塔10内部の充填物17が挿入されている領域の高さ(以下、単にガス吸収塔10の高さという)を0.8m、充填物17の比表面積を100m2/m3とした。また、有機還元剤水溶液18のIPA濃度は5.4質量%とした。
【0078】
タンク5内の温度は、銅荒引線2の鋳造条件(鋳造速度及び冷却・酸化物除去ライン3進入時の温度)と、有機還元剤水溶液18の流量によって主に決まり、評価したときは68℃であった。このとき、タンク5上部の蒸気19の温度も68℃であったが、ガス吸収塔10に行く途中の配管11内で冷却され、ガス吸収塔10入口では58℃であった。
【0079】
一方、有機還元剤水溶液18は、タンク5から取り出された後、送液ポンプ6によって送液され、熱交換器8で冷却された後、ガス吸収塔10の上部から内部に導入される。評価時におけるガス吸収塔10に導入される直前の温度は43℃であった。
【0080】
ガス流量(VG)=4m3/min、吸収液流量(VL)=20L/minとしてガス吸収塔10の運転を開始し、ガス吸収塔10の上部から排出されるガス19の温度を一定時間ごとにモニタしたところ、運転開始から15分で安定した。このときのガス19中に含まれるIPA濃度を、ガス吸収塔10入口(底部)及びガス吸収塔10出口(上部)それぞれにおいて測定したところ、それぞれ3.0%及び1.5%であった。すなわち、ガス吸収塔10がなければ大気中に放散されている有機還元剤(IPA)のほぼ半分がガス吸収塔10によって回収できたことになる。
【0081】
以上より、銅荒引線の製造設備1によれば、有機化合物の大気への放散を削減しつつ、銅荒引線2を製造できることが分かる。
【0082】
(第2の実施例)
第1の実施例と同じ設備(銅荒引線の製造設備1)を用いて、ガス19及び吸収液13の流量並びに温度を次のように設定し、IPA蒸気回収効果を比較評価した。ガス流量は4m3/min、ガス吸収塔10入口でのガス温度は58℃、ガス吸収塔10入口での吸収液温度は43℃とした。また、吸収液流量は5,10及び20L/minの3条件で評価し、吸収液流量に対する依存性を比較した。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示すように、いずれの吸収液流量条件においても、排出されるガス19中のIPA濃度は3.0%以下と、導入されるガス19中のIPA濃度(5.9%)より低く、IPAの回収が実現できていることが確認できた。
【0085】
しかし、吸収液流量を10L/minとした実施例1では、排出されるガス19中のIPA濃度は安定せず、瞬間的に4%を超えることもあった。また、このとき、ガス吸収塔10の底部の温度は導入されたガス温度とほぼ同等まで上昇しており、回収能力の限界であることを示している。
【0086】
吸収液流量を実施例1の1.5倍とした実施例2では、排出されるガス19中のIPA濃度は2.8%にまで低減されており、またガス吸収塔10の底部の温度は導入されたガス温度よりも低い53℃まで抑えられている。
【0087】
さらに吸収液流量を2倍に増加させた実施例3では、排出されるガス19中のIPA濃度は実施例2と同じ2.8%にまで低下しており、さらにガス吸収塔10の底部の温度も50℃まで抑制されている。
【0088】
このように、ガス流量VG(m3/min)、吸収液流量VL(L/min)としたとき、吸収液流量VLが多いほど望ましいことが明らかとなった。熱交換器8に導入する冷却水の温度は、季節要因などで5℃程度の変動の可能性があるため、吸収液13の温度も5℃程度の変動を考慮しておく必要がある。
【0089】
L≧4.1VGを満足しない実施例1及び2でもIPAの回収は実現できているが、ガス吸収塔10の底部における吸収液13とガス19の温度差は5℃以下であり、マージンが少ない。VL≧4.1VGを満足する実施例3では、ガス吸収塔10の底部の温度は導入されたガス温度よりも7℃低く、吸収液13の不慮の温度上昇に対しても、導入されたガス温度以上に上昇しないように制御できる。
【0090】
(第3の実施例)
第1の実施例と同じ設備(銅荒引線の製造設備1)を用いて、ガス19及び吸収液13の流量並びに温度を次のように設定し、IPA蒸気回収効果を比較評価した。ガス吸収塔10入口でのガス温度は58℃、ガス吸収塔10入口での吸収液温度は43℃、吸収液流量は20L/minとした。また、ガス流量は4,5及び7m3/minの3条件で評価し、ガス流量に対する依存性を比較した。結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
表2に示すように、ガス流量を7m3/minとした実施例4では、排出されるガス19中のIPA濃度は3.0%であり、導入されるガス19中のIPA濃度(5.9%)より低く、IPAの回収が実現できている。しかし、ガス吸収塔10の底部の温度は、導入されたガス温度近くまで上昇している。ガス吸収塔10の底部から30cmの高さにおいても導入された吸収液温度よりは高く、平衡には達していないことから、よりガス吸収塔10の高さを高くすることが必要である。
【0093】
ガス流量を5m3/minとした実施例5では、排出されるガス19中のIPA濃度は2.8%に低下しており、回収能力の向上が期待できる。しかし、ガス吸収塔10の底部から20cmの位置の温度は導入された吸収液温度より高く、30cmの位置でようやく平衡に達している。このとき、ガス流量VG(m3/min)、吸収液流量VL(L/min)とすると、VLはVGの4倍である。
【0094】
さらにガス流量を4m3/minまで低下させた実施例6では、排出されるガス19中のIPA濃度は実施例5と同じ2.8%であり、さらにガス吸収塔10の底部から20cmの位置での温度から、この位置で平衡に到達していることが確認できた。
【0095】
このように、一定の吸収液流量に対しては、ガス流量は少ないほど望ましい。また、VL≧4.1VGを満足する実施例6では、ガス吸収塔10の底部からわずか20cmで平衡に達し、小型のガス吸収塔10でも目標性能を満足することが明らかとなった。
【0096】
以上、第2及び第3の実施例の結果より、ガス吸収塔10でのガス19の体積流量をVG(L/min)とし、吸収液13の体積流量をVL(L/min)としたとき、VL≧4.1VGとなるように吸収液13の流量を調整するとよく、また吸収液13とガス19との温度差が15℃以上となるように吸収液13の温度を調整するとよいことが分かる。
【0097】
(第4の実施例)
第1の実施例と同じ設備(銅荒引線の製造設備1)を用いて、ガス19及び吸収液13の流量並びに温度を次のように設定し、IPA蒸気回収効果を比較評価した。ガス吸収塔10入口でのガス流量は5m3/min、吸収液流量は20L/minとした。また、ガス吸収塔10入口での吸収液温度並びにガス温度を変化させ、温度に対する依存性を比較した。結果を図10に示す。
【0098】
図10から明らかなように、吸収液温度がガス温度より15℃以上低ければ、回収率は50%以上を確保できた。また、吸収液温度がガス温度より30℃以上低ければ、回収率は75%以上を実現できた。
【0099】
以上の結果より、吸収液13とガス19との温度差が15℃以上となるように吸収液13の温度を調整することで、ガス吸収塔10を上昇するガス19中の有機還元剤(IPA)の回収率を高くできることが分かる。
【符号の説明】
【0100】
1 銅荒引線の製造設備
2 銅荒引線
4 冷却還元処理室
5 タンク
10 ガス吸収塔
13 吸収液
18 有機還元剤水溶液
19 ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造装置で鋳造されて形成された銅荒引線を、冷却還元処理室に通し、その冷却還元処理室内で前記銅荒引線を有機還元剤水溶液と接触させて冷却並びに還元処理を行うに際して、前記冷却還元処理室の近傍に前記有機還元剤水溶液を貯蔵するタンクを設置し、そのタンク内の前記有機還元剤水溶液を前記冷却還元処理室に供給して冷却並びに還元処理し、その冷却還元処理室で揮発した有機還元剤を含むガスを、前記冷却還元処理室の近傍に設置されたガス吸収塔の底部から流し、他方、前記タンク内の前記有機還元剤水溶液を取り出して冷却したのち、これを前記ガス吸収塔の上部から吸収液として流し、前記ガス吸収塔を上昇する前記ガスと接触させてガス中の有機還元剤を前記吸収液に吸収させて除去し、その有機還元剤を除去したガスを前記ガス吸収塔から排気し、その有機還元剤を吸収した吸収液を前記タンクに戻すことを特徴とする銅荒引線の製造方法。
【請求項2】
前記有機還元剤水溶液がイソプロピルアルコール水溶液であり、前記ガス吸収塔に流す前記吸収液を、前記ガス吸収塔に流される前記ガス中の有機還元剤を吸収できる温度に冷却して流す請求項1に記載の銅荒引線の製造方法。
【請求項3】
前記ガス吸収塔での前記ガスの体積流量をVG(L/min)とし、前記吸収液の体積流量をVL(L/min)としたとき、VL≧4.1VGとなるように前記吸収液の流量を調整する請求項1又は2に記載の銅荒引線の製造方法。
【請求項4】
前記吸収液と前記ガスとの温度差が15℃以上となるように前記吸収液の温度を調整する請求項1〜3のいずれかに記載の銅荒引線の製造方法。
【請求項5】
連続鋳造装置で鋳造されて形成された銅荒引線を、冷却還元処理室に通し、その冷却還元処理室内で前記銅荒引線を有機還元剤水溶液と接触させて冷却並びに還元処理を行う銅荒引線の製造設備であって、
前記冷却還元処理室の近傍に設置され、前記有機還元剤水溶液を貯蔵するタンクと、
前記タンク内の前記有機還元剤水溶液を前記冷却還元処理室に供給する水溶液供給手段と、
前記冷却還元処理室の近傍に設置され、前記冷却還元処理室で揮発した有機還元剤を含むガスを底部から導入すると共に、内部でそのガス中の有機還元剤を除去してクリーンなガスとして上部から排出するガス吸収塔と、
前記冷却還元処理室で揮発した有機還元剤を含むガスを、前記ガス吸収塔の底部から流すガス導入手段と、
前記タンク内の前記有機還元剤水溶液を取り出して冷却すると共に、これを吸収液として前記ガス吸収塔の上部から流す吸収液供給手段と、
前記ガス中の有機還元剤を吸収した吸収液を前記タンクに戻す回収手段とを備えることを特徴とする銅荒引線の製造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−12295(P2011−12295A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155955(P2009−155955)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】