説明

銅薄膜形成用組成物および該組成物を用いた銅薄膜の製造方法

【課題】溶液塗布法による電子回路等の銅配線を形成するプロセスにおいて、大気中であっても、300℃程度の低温であっても、得られる銅薄膜の導電性を充分に維持することが可能な薄膜形成用組成物がない。
【解決手段】必須成分として、ギ酸銅又はその水和物、アルカノールアミン化合物及びこれらを溶解せしめる有機溶剤を含有し、アルカノールアミン化合物がギ酸銅又はその水和物1モルに対して0.5〜5モル含有される銅薄膜形成用組成物を提供する。アルカノールアミンは、好ましくはジエタノールアミンであり、有機溶剤は、好ましくは1−ブタノールである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギ酸銅、アルカノールアミン化合物を含有してなる銅薄膜形成用組成物と該組成物を基体に塗布し、加熱することによる銅薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅を電気導体とする導電層や配線を液体プロセスであるMOD法、ゾル−ゲル法、微粒子分散液塗布法によって形成する技術は、多数報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1〜4には、各種基体に水酸化銅又は有機酸銅と多価アルコールを必須成分とした混合液を塗布し、非酸化性雰囲気中で165℃以上の温度に加熱することを特徴とする銅膜形成物品の製造方法が報告されている。有機酸銅としては、ギ酸銅が開示されており、多価アルコールとしては、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンが開示されている。
【0004】
また、特許文献5には、銀微粒子と銅の有機化合物を含有する金属ペーストが報告されている。当該ペーストに使用される銅の有機化合物としては、ギ酸銅が開示されており、これと反応させてペースト化せしめるアミノ化合物としてジエタノールアミンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−168865号公報
【特許文献2】特開平1−168866号公報
【特許文献3】特開平1−168867号公報
【特許文献4】特開平1−168868号公報
【特許文献5】特開2007−35353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銅薄膜形成用組成物を使用した液体プロセスにおいて、微細な配線や薄膜を安価に製造するには、微粒子等の固相を含まない溶液タイプであること、導電性に優れた銅薄膜を与えること、低温で銅薄膜に転化できること、様々な塗布方法に対応できるように粘度調整が容易であることが望まれており、これらを充分に満たすものはない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、検討を重ねた結果、ギ酸銅とアルカノールアミンと有機溶剤からなる溶液が上記性能を満たすことを見出し本発明に到達した。
【0008】
本発明は、必須成分として、ギ酸銅又はその水和物、アルカノールアミン化合物及びこれらを溶解せしめる有機溶剤を含有し、アルカノールアミン化合物がギ酸銅又はその水和物1モルに対して0.5〜5モル含有される銅薄膜形成用組成物を提供するものである。
【0009】
また、本発明は、上記に記載の銅薄膜形成用組成物を基体上に塗布した後100〜400℃に加熱することによる銅薄膜の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固相を含まない保存安定性に優れた溶液タイプの銅薄膜形成用組成物を提供できる。当該組成を基体上に塗布し、加熱することで、充分な導電性を有する銅薄膜を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の銅薄膜形成用組成物の特徴のひとつは、銅薄膜のプレカーサとしてギ酸銅を使用することにある。ギ酸銅は、無水和物でもよく、水和していてもよい。ギ酸銅の水和物としては、四水和物が知られている。ギ酸銅の代わりに酢酸塩、β−ジケトン錯体、EDTA錯体等他の可溶性銅化合物を使用した場合には、薄膜に転化しても充分な導電性を示す薄膜は形成できない。
【0012】
本発明の銅薄膜形成用組成物中のギ酸銅又はギ酸銅水和物の含有量は、安定な溶液を与え、使用する塗布プロセスに適正な粘度を与えるように調製すればよい。ギ酸銅の含有量は、1〜50質量%が好ましく、10〜25質量%がより好ましい。
【0013】
本発明の銅薄膜形成用組成物に使用されるアルカノールアミン化合物としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、1−アミノ−1−プロパノール、2−(2−アミノエチルアミノ)エタノールが挙げられる。中でもジエタノールアミンが銅薄膜形成用組成物の粘度調節が容易で、得られる薄膜の導電性が良好であるので最も好ましい。
【0014】
本発明の銅薄膜形成用組成物中のアルカノールアミン化合物の使用量は、安定な溶液を与え、使用する塗布プロセスに適正な粘度を与えるように調製すればよい。ギ酸銅又はその水和物1モルに対して0.5〜5モルであり、1〜3モルが好ましい。
【0015】
本発明の銅薄膜形成用組成物に使用される有機溶剤は、上記のギ酸銅(又はその水和物)及びアルカノールアミン化合物を安定に溶解せしめることができればよい。当該有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ジオール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、脂肪族または脂環族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、シアノ基を有する炭化水素溶剤、その他の溶剤等が挙げられ、これらは、1種類または2種類以上混合して用いることができる。
【0016】
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、第3ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、2−ペンタノール、ネオペンタノール、第3ペンタノール、ヘキサノール、2−ヘキサノール、ヘプタノール、2−ヘプタノール、オクタノール、2―エチルヘキサノール、2−オクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、メチルシクロペンタノール、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘプタノール、ベンジルアルコール、2−メトキシエチルアルコール、2−ブトキシエチルアルコール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノール、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロパノール等が挙げられる。
【0017】
ジオール系溶剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、イソプレングリコール(3−メチル−1,3−ブタンジオール)、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、オクタンジオール(2−エチル−1,3−ヘキサンジオール)、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0018】
ケトン系溶剤としては、アセトン、エチルメチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等が挙げられる。
【0019】
エステル系溶剤としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸第2ブチル、酢酸第3ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸第3アミル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸第2ブチル、プロピオン酸第3ブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸イソアミル、プロピオン酸第3アミル、プロピオン酸フェニル、2−エチルヘキサン酸メチル、2−エチルヘキサン酸エチル、2−エチルヘキサン酸プロピル、2−エチルヘキサン酸イソプロピル、2−エチルヘキサン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、オキソブタン酸メチル、オキソブタン酸エチル、γ−ラクトン、δ−ラクトン等が挙げられる。
【0020】
エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。
【0021】
脂肪族または脂環族炭化水素系溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン、ソルベントナフサ等が挙げられる。
【0022】
芳香族炭化水素系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン、クメン、イソブチルベンゼン、シメン、テトラリンが挙げられる。
【0023】
シアノ基を有する炭化水素溶剤としては、1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等が挙げられる。
【0024】
その他の有機溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0025】
上記の有機溶剤の中でも1-ブタノールは、安価であり、溶質に対する充分な溶解性を示し、シリコン基体、金属基体、セラミックス基体、ガラス基体、樹脂基体等の様々な基体に対する塗布溶媒として良好な塗布性を示すので好ましい。また、混合溶剤を用いる場合も1−ブタノールを50質量%以上使用するものがより好ましい。
【0026】
本発明の銅薄膜形成用組成物における上記の有機溶剤の含有量は、ギ酸銅(ギ酸銅水和物の場合であってもギ酸銅で換算)100質量部に対して、20質量部〜5000質量部である。20質量部より小さいと得られる膜にクラックが発生する、塗布性が悪化する等の不具合をきたす。また5000質量部を超えると得られる膜が薄くなるので生産性が悪化する。好ましくは、250〜1000質量部である。
【0027】
本発明の銅薄膜形成用組成物には、前記のギ酸銅(又はその水和物)、アルカノールアミン化合物、有機溶剤以外に、任意の成分を本発明の効果を阻害しない範囲で含有してもよい。任意の成分としては、ゲル化防止剤、安定剤等の塗布液組成物に安定性を付与する添加剤;消泡剤、増粘剤、揺変剤、レベリング剤等の塗布液組成物の塗布性を改善する添加剤;燃焼助剤、架橋助剤等の成膜助剤が挙げられる。これらの任意の成分を使用する場合の含有量は、それぞれ10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0028】
次に本発明の銅薄膜膜の製造方法について説明する。
本発明の銅薄膜の製造方法は、上記で説明の塗布液組成物を基体上に塗布する塗布工程の後、100〜400℃に加熱する成膜工程による。必要に応じて成膜工程の前に、有機溶剤等の低沸点成分を揮発させる50〜200℃での乾燥工程を加えてもよく、成膜工程の後に薄膜の導電性を向上させる200℃〜500℃でのアニール工程を加えてもよい。
【0029】
上記の塗布工程における塗布方法としては、スピンコート法、ディップ法、スプレーコート法、ミストコート法、フローコート法、カーテンコート法、ロールコート法、ナイフコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、刷毛塗り等が挙げられる。
【0030】
必要な膜厚を得るために、上記の塗布工程から任意の工程までを複数繰り返せばよい。例えば、塗布工程から成膜工程の全ての工程を複数回繰り返してもよく、塗布工程と乾燥工程を複数回繰り返してもよい。
【0031】
上記の乾燥工程、成膜工程、アニール工程の雰囲気は、通常、還元性ガス、不活性ガスのいずれかである。還元性ガスの存在下のほうが、より導電性の優れた銅薄膜を得ることができる。還元性ガスとしては水素が挙げられ、不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、アルゴンが挙げられる。不活性ガスは還元性ガスの希釈ガスとして使用してもよい。また、各工程においてプラズマや各種放射線等の熱以外のエネルギーを印加または照射してもよい。
【実施例】
【0032】
以下、製造例、実施例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例等によって何ら制限を受けるものではない。
[実施例1]銅薄膜形成用組成物No.1〜3の製造
表1に記載の配合により、銅薄膜形成用組成物No.1〜3を得た。
【0033】
【表1】

【0034】
[比較例1]比較用組成物1〜4の製造
表2に記載の配合により、比較用組成物1〜4を得た。なお銅化合物としては、比較用組成物1には、2−エチルヘキサン酸銅(銅化合物1)、比較用組成物2には、ビス[1−(2−メトキシエトキシ)−2,2,6,6−テトラメチルヘプタン−3,5−ジオナト]銅(銅化合物2)、比較用組成物3には、ジエトキシ銅(銅化合物3)、比較用組成物4には、エデト酸銅(銅化合物4)を使用した。
【0035】
【表2】

【0036】
[実施例2および比較例2]銅薄膜の製造
上記の実施例1で得た銅薄膜形成用組成物No.1及び上記比較例1で得た比較用組成物1〜4について、ガラス基板上にキャストし、500rpmで5秒、2000rpmで15秒スピンコート法で塗布した後、アルゴン95体積%、水素5体積%の還元雰囲気中で300℃、15分加熱して、薄膜を得た。導電性はLoresta−EP MCP−T360(三菱化学社製)を用いて四探針法による体積低効率により評価した。体積抵抗率については実施例2で得た薄膜をのぞいて測定限界を超えており、測定できなかった。(表中、∞で表示)また、実施例2で得た導電性を有する薄膜について、FE−SEMを用いて膜厚を測定した。結果を表3に示す。
【0037】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須成分として、ギ酸銅又はその水和物、アルカノールアミン化合物及びこれらを溶解せしめる有機溶剤を含有し、アルカノールアミン化合物がギ酸銅又はその水和物1モルに対して0.5〜5モル含有される銅薄膜形成用組成物。
【請求項2】
有機溶剤が1−ブタノールである請求項1に記載の銅薄膜形成用組成物。
【請求項3】
アルカノールアミン化合物がジエタノールアミンである請求項1又は2に記載の銅薄膜形成用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の銅薄膜形成用組成物を基体上に塗布した後、100〜400℃に加熱することによる銅薄膜の製造方法。
【請求項5】
加熱を大気中で行なう請求項4に記載の銅薄膜の製造方法。