説明

銅複核錯体及びそれから製造される水酸基含有窒素複素環化合物

【課題】入手容易な試薬を用いて簡便かつ安価に収率良く製造でき、窒素複素環基がオキシ基に結合した配位子を有しており特異的に磁気的性質を示す銅複核錯体を提供する。その銅複核錯体から、立体選択的に製造される水酸基含有窒素複素環化合物を提供する。
【解決手段】銅複核錯体は、窒素複素環基の環上と三級窒素基とのそれらの窒素原子同士が共有結合基を介して架橋し該窒素複素環基がオキシ基に結合している対の配位子と、該対の配位子中の双方の該オキシ基を介してアルコキソ架橋している複核銅原子とを有し、該銅原子毎に、該対の配位子中の該窒素原子同士が一方ずつ配位している。水酸基含有窒素複素環化合物の製造方法は、この銅複核錯体にアンモニア水を加え、水酸基含有窒素複素環化合物を、遊離させるというものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキソ架橋した二つの複核銅原子と窒素複素環基とを有し電子部品材料としてまた医薬品や様々な有機化合物を製造する際の前駆体として用いられる銅複核錯体、及びそれから製造されるもので医薬品等の骨格を形成する原料となる水酸基含有窒素複素環化合物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遷移金属錯体は、触媒、染料、着色剤、環境に応じて変色するクロモトロピズム剤、荷電制御剤などとして、様々な用途に用いられている。その内のヒドロキソ架橋含有銅複核錯体は、興味深い配位構造を持つ多核錯体であり、触媒等として有用であり、さらに特異的な磁気的性質・電気的性質を示すことから、これまで数多くの研究がなされてきた。
【0003】
ヒドロキソ架橋した銅複核錯体として、例えば特許文献1に、二核銅錯体の二つの銅原子が酸素原子により架橋されたμ−オキソの形をとり、脂肪族環状アミン系化合物に配位している酸素還元用銅錯体触媒が記載されている。
【0004】
このような複核錯体の配位子として用いられている脂肪族環状アミン系化合物、例えばピペリジン環含有化合物のような窒素複素環化合物は、配位子のみならず、様々な有機化合物合成の始発物質としても用いられている。また、ピペリジン環含有化合物であるピペロカインは、局所麻酔薬として外科、眼科、耳鼻咽喉科の幅広い医療領域で汎用されており、さらにピペリジン環含有化合物である1-(1-フェニルシクロヘキシル)ピペリジンが精神に作用する薬物であることから、その類縁体のピペリジン環含有化合物も精神に作用する安全で有用な精神科領域医薬品候補化合物となり得る。
【0005】
このようなピペリジン環含有化合物は、非特許文献1に記載のように、ピペリジン環の窒素原子のα位炭素とγ位炭素とが酸化し易いのに対し、β位炭素が酸化し難いため、β位置換体を簡便に合成できないという問題がある。しかも、ピペリジン環を二つ含有する化合物の一方の環の窒素原子のβ位炭素のみを酸化するのは、一層困難である。
【0006】
【特許文献1】特開平11−276900号公報
【非特許文献1】ジャーナル オブ オーガノメタリック ケミストリー(Journal of Organometallic Chemistry)、2007年、第692巻、p.654−663
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、入手容易な試薬を用いて簡便かつ安価に収率良く製造でき、窒素複素環基がオキシ基に結合した配位子を有しており特異的に磁気的性質を示す銅複核錯体を提供することを目的とする。またその銅複核錯体から、立体選択的に製造される水酸基含有窒素複素環化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ヒドロキソ架橋銅複核錯体と共に生成するアルコキソ架橋銅複核錯体を用いると水酸基含有窒素複素環化合物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の銅複核錯体は、窒素複素環基の環上と三級窒素基とのそれらの窒素原子同士が共有結合基を介して架橋し該窒素複素環基がオキシ基に結合している対の配位子と、該対の配位子中の双方の該オキシ基を介してアルコキソ架橋している複核銅原子とを有し、該銅原子毎に、該対の配位子中の該窒素原子同士が一方ずつ配位していることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の銅複核錯体は、請求項1に記載されたもので、該三級窒素基が、該窒素複素環基と同種又は異種の窒素複素環基であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の銅複核錯体は、請求項1に記載されたもので、該窒素複素環基が飽和窒素複素環基であり、該共有結合基がアルキレン基であり、該オキシ基が該飽和窒素複素環基の該窒素原子のβ位に結合しており、該銅原子が2価であることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の銅複核錯体は、請求項3に記載されたもので、該飽和窒素複素環基がピペリジン環基であり、該アルキレン基が、エチレン基、プロピレン基、又はトリメチレン基であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の銅複核錯体は、請求項4に記載されたもので、下記化学式(1)
【化1】

(式(1)中、Aは過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオンから選ばれるカウンターアニオン)で表わされることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の銅複核錯体は、請求項1に記載されたもので、該対の配位子中で夫々該オキシ基に結合している炭素原子が、その一方をS配置とし、他方をR配置とすることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の銅複核錯体の製造方法は、銅(II)塩の溶液に、窒素複素環基の環上と三級窒素基とのそれらの窒素原子同士が共有結合基を介して架橋している窒素複素環化合物を加えて、その溶液から、請求項1に記載の銅複核錯体を分離することを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の銅複核錯体の製造方法は、請求項7に記載されたもので、該三級窒素基が、該窒素複素環基と同種又は異種の窒素複素環基であることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の水酸基含有窒素複素環化合物は、二つの飽和窒素複素環基の両環上のその窒素原子同士がアルキレン基を介して架橋し、一方の該飽和窒素複素環基の該窒素原子のβ位に水酸基が結合していることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の水酸基含有窒素複素環化合物は、請求項9に記載されたもので、下記化学式(2)
【化2】

で表わされることを特徴とする。
【0019】
請求項11に記載の水酸基含有窒素複素環化合物は、請求項9に記載されたもので、該β位が不斉炭素であることにより光学活性となっていることを特徴とする。
【0020】
請求項12に記載の水酸基含有窒素複素環化合物の製造方法は、銅(II)塩の溶液に、窒素複素環基の環上と三級窒素基とのそれらの窒素原子同士が共有結合基を介して架橋している窒素複素環化合物を加えて、その溶液から、請求項1に記載の銅複核錯体を分離し、それにアンモニア水を加え、該複素環化合物に水酸基が結合した水酸基含有窒素複素環化合物を、遊離させることを特徴とする。
【0021】
請求項13に記載の水酸基含有窒素複素環化合物の製造方法は、請求項12に記載されたもので、該複素環化合物がジピペラジノエタンであり、該水酸基含有窒素複素環化合物が、下記化学式(2)
【化3】

で表わされることを特徴とする。
【0022】
請求項15に記載の水酸基含有窒素複素環化合物の製造方法は、請求項12に記載されたもので、該水酸基含有窒素複素環化合物を光学分割することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の銅複核錯体は、入手可能な試薬を用いて簡便かつ安価に製造でき、特異的に磁気的性質を持つものである。
【0024】
この銅複核錯体を用いると、分子内に二つ有する窒素複素環基の一方だけ立体選択的・位置選択的に酸化して水酸基を導入した水酸基含有窒素複素環化合物が、簡便かつ効率良く安価に製造できる。
【0025】
医薬化合物は、ジアステレオ異性体や光学異性体によって、大きく薬効が変わるから、この銅複核錯体を用いて、所望の立体配置を持つ医薬化合物原料の水酸基含有窒素複素環化合物を選択的に得ることができる。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0026】
以下、本発明の実施の好ましい形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0027】
本発明の銅複核錯体は、前記化学式(1)で示されるもので、二つのピペリジノ基を有する対の配位子と、それが配位している二つの中心金属である複核銅(II)原子とにより形成されている二核二橋の多核錯体である。この配位子は、二つのピペリジノ基の両環上の窒素原子同士がエチレン基を介して架橋し、一方のピペリジノ基がβ位でオキシ基に結合したものである。対の配位子中の双方のオキシ基を介して、二つの複核銅原子にアルコキソ架橋している。一方の銅原子に、一方の配位子中の窒素原子同士が配位しており、他方の銅原子に、他方の配位子中の窒素原子同士が配位している。銅複核錯体の特異的な立体配位に起因して、その対の配位子中で夫々該オキシ基が結合している炭素が、その一方をS配置とし、他方をR配置としているので、対の配位子は、互いに鏡像異性体となっている。銅複核錯体は、それよって形成される銅複核錯カチオンと、Aのカウンターアニオンとで、錯塩を形成している。
【0028】
なお、銅複核錯体は、窒素複素環基として二つのピペリジノ基を有する配位子の例を示したが、窒素複素環基が一つであり共有結合基を介して三級窒素基に架橋している配位子であるものであってもよい。その三級窒素基が共有結合基以外に結合している基は、メチル基、エチル基、n-又はiso-プロピル基、n-,iso-又はtert-ブチル基のような炭素数1〜4のアルキル基であってもよい。銅複核錯体は、窒素複素環基が飽和の5〜8員窒素複素環基のものであってもよく、その窒素複素環基が環上の窒素原子以外の炭素原子上でメチル基、エチル基、n-又はiso-プロピル基、n-,iso-若しくはtert-ブチル基のような炭素数1〜4のアルキル基やハロゲン原子やアシル基やカルボニル基やカルボキシル基で置換されたものであってもよい。また、銅複核錯体は、共有結合基がエチレン基の例を示したが、プロピレン基、トリメチレン基のような炭素数2〜3のアルキレン基のものであってもよい。
【0029】
のカウンターアニオンは、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオンのいずれかであってもよい。
【0030】
本発明の水酸基含有窒素複素環化合物は、二つの飽和窒素複素環基の両環上の窒素原子同士がアルキレン基を介して架橋し、一方の飽和窒素複素環基の該窒素原子のβ位に水酸基が結合しているもので、この銅複核錯体の配位子を形成するものである。
【0031】
化学式(1)で示される銅複核錯体と化学式(2)で示される水酸基含有窒素複素環化合物とを例に、下記化学反応式を参照しながら説明すると、それらは、以下のようにして製造される。
【0032】
【化4】

【0033】
化学式(3)の1,2−ジピペリジノエタン(dipe)と、銅(II)塩との溶液に、アルコール例えばエタノールを加えると、化学式(4)のヒドロキソ架橋銅(II)複核錯体(Cu(μ-OH)2(dipe)2(A-)2)が析出し、濾液から化学式(1)のアルコキソ架橋銅(II)複核錯体([Cu(dipe-O)]2(A-)2)が得られる。
【0034】
このアルコキソ架橋銅(II)複核錯体([Cu(dipe-O)]2(A-)2)は、光学活性なR配置とS配置とを有する配位子(dipe-O)を同量含んでいる。このような銅複核錯体を利用した水酸基含有窒素複素環化合物の合成方法によれば、分子内に二つ存する化学的に等価なピペリジン環基のような複素環の片方だけに水酸基を立体選択的・位置選択的に、酸化して導入することができる。
【0035】
それら錯体の生成の反応機構は、必ずしも明らかでないが、銅塩と配位子になる窒素複素環化合物とで形成される特長的なものである。
【0036】
のカウンターアニオンは、出発原料として、過塩素酸銅、四臭化ホウ酸銅、硝酸銅を用いることで、自在に選択できる。
【0037】
また、銅複核錯体生成反応は、メタノール、又は2,2−ジメトキシプロパン中で行われることが好ましく、酸素雰囲気下で行わなければならない。
【0038】
アルコキソ架橋銅(II)複核錯体([Cu(dipe-O)]2(A-)2)は、その対の配位子(dipe-O)が互いに1:1の存在比の光学異性とするものであるが、それをアンモニア水でアンミン銅錯体とすると、水酸基含有窒素複素環化合物であり化学式(2)の1−ピペリジノ−2−(3−ヒドロキシピペリジノ)エタンが、ラセミ体として遊離する。光学活性カラムを用いてその水酸基含有窒素複素環化合物の光学異性体を分離したり、水酸基含有窒素複素環化合物と光学活性な酸性物質との塩を形成させてジアステレオ分割したりして、それを光学分割することができる。
【0039】
通常、1,2−ピペリジノエタンを汎用の酸化剤で酸化しても、ピペリジン環のβ位が酸化され難いこと、及び分子的に対照な二つのピペリジン環が等価であるため一方のみを選択的に酸化し難いことに起因して、短工程で一挙に1−ピペリジノ−2−(3−ヒドロキシ−ピペリジノ)エタンを得るのは困難である。しかし、アルコキソ架橋銅(II)複核錯体([Cu(dipe-O)]2(A-)2)を用いると、簡便に短工程で1−ピペリジノ−2−(3−ヒドロキシ−ピペリジノ)エタンを得ることができる。別な窒素複素環化合物の場合でも同様に、β位が酸化された水酸基含有窒素複素環化合物が得られる。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明に適用する銅複核錯体と、それを経由した水酸基含有窒素複素環化合物とを、製造した例を実施例1〜3に示す。
【0041】
(実施例1)
2,2−ジメトキシプロパン10mlに、過塩素酸銅・六水和物(Cu(ClO4)2・6H2O)の5mmolを溶かし、一晩撹拌した。その後、1,2−ジピペリジノエタン(dipe)を10mmolを添加し、充分に撹拌した。得られた溶液に、エタノール10mlを加えると、緑色溶液中に、紫色の固体生成物が析出した。これを濾別し、緑色溶液の濾液と、濾取した紫色固体生成物とを得た。
【0042】
(濾液中の錯体の同定)
濾液の緑色溶液を自然濃縮すると、緑色結晶が得られた(収率:約8%)。この結晶について、X線結晶構造解析装置4軸型X線回折計M03XHF22(マックサイエンス社製:製品名)を用いてX線構造解析を行い、Oak Ridge Thermal Ellipsoid Plot Program(ORTEP)を用いてプロットした絶対構造を、図1に示す。図1から明らかな通り、緑色結晶は、dipe配位子の片方のピペリジン環のβ位に結合するオキシ基の酸素原子によって二つの中心金属の銅(II)イオンにアルコキソ架橋した銅複核錯体であり、化学式(1)で示す本発明の銅複核錯体([Cu(dipe-O)]2(ClO4)2)であった。また、図1中、この銅複核錯体の1−ピペリジノ−2−(3−ヒドロキシ−ピペリジノ)エタンとなる二つの配位子中で夫々オキシ基が結合した炭素であるC(9)とC(16)とは、不斉炭素であり、一方のC(9)はR配置、C(16)はS配置であることが分かった。なお、図1中、カウンターイオンClO4-を省略してある。
【0043】
(析出した固体生成物中の錯体の同定)
一方、濾取した紫色生成物をベンゼン溶媒に溶かしてから、再結晶すると、青紫色結晶が得られた(収率:約72%)。同様に、X線構造解析を行い、その絶対構造を図2に示す。図2から明らかな通り、青紫色結晶は、dipeの二分子が配位し、二つの銅(II)イオンが水酸化物イオンを介してヒドロキソ架橋した銅複核錯体であり、本発明を適用外であって化学式(4)で示される銅複核錯体([Cu(dipe)OH]2(ClO4)2)であることが分かった。なお、図2中、カウンターイオンClO4-を省略してある。
【0044】
(錯体の磁気的物性評価)
次に、得られた夫々の錯体について磁化率測定装置MPMS 5S(Quantum Design社製:製品名)を用いて温度変化磁化率測定を行った。
【0045】
アルコキソ架橋銅複核錯体([Cu(dipe-O)]2(ClO4)2)の温度変化磁化率測定の結果を図3に示す。図3から明らかなようにこの錯体は反強磁性(−2J≧400cm−1)であることが分かった。
【0046】
一方、比較のために、本発明を適用外のヒドロキソ架橋銅複核錯体([Cu(dipe)OH]2(ClO4)2)の温度変化磁化率測定を行った。その結果を図4に示す。図4から明らかなように、このヒドロキソ架橋銅複核錯体は、アルコキソ架橋銅複核錯体と異なり、二つの銅原子の間には、強磁気的相互作用(g=2.07(2)、2J=118(2)cm−1)が、働いていることが分かった。
【0047】
(実施例2)
実施例1で得たアルコキソ架橋銅複核錯体([Cu(dipe-O)]2(ClO4)2)を用い、水酸基含有窒素複素環化合物を以下のようにして合成した。
【0048】
結晶である[Cu(dipe-O)]2(ClO4)2を水に溶かし、次いでアンモニア水を加えた。アンモニア水によってアンミン銅錯体を形成し、配位子が遊離するので、それをクロロホルムで抽出し、溶媒を留去し、水酸基含有窒素複素環化合物の粗生成物を得た。
【0049】
(水酸基含有窒素複素環化合物の同定)
その粗生成物について、質量分析装置JMS−700 Mstation(日本電子株式会社製;商品名)を用いて質量分析を行った。その結果、目的の1−ピペリジノ−2−(3−ヒドロキシ−ピペリジノ)エタンの分子量の理論値212から、Hイオン分を差し引いたm/z 211にピークを示した。さらにこの粗生成物について核磁気共鳴装置JNM−AL400(日本電子株式会社製:製品名)を用いて、核磁気共鳴スペクトル法により、H−NMRと13C−NMRとの測定を行った。その結果を図5及び図6に示す。各水素原子及び各炭素原子が、図5及び図6に示す通り帰属された。これらの分光学的データは、この組成物が、1−ピペリジノ−2−(3−ヒドロキシ−ピペリジノ)エタンであることを支持する。
【0050】
(実施例3)
次に化学結合型多糖系キラルカラムCHIRALPAK IC(ダイセル化学工業株式会社製:製品名)と、展開溶液としてヘキサン−ジクロロメタン混合溶媒とを用いて、その光学分割を行った。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の銅複核錯体は、強い反強磁性を示すため電子部品材料に、使用できる。また、銅複核錯体を経由して得られた1−ピペリジノ−2−(3−ヒドロキシ−ピペリジノ)エタンのような水酸基含有窒素複素環化合物は、医薬品の原料として、またキレート剤を製造する際の原料配位子として、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明を適用する銅複核錯体である[Cu(dipe-O)]2(ClO4)2のX線構造解析の結果を示す図である。
【図2】本発明を適用外の銅複核錯体である[Cu(dipe)OH]2(ClO4)2のX線構造解析の結果を示す図である。
【図3】本発明を適用する銅複核錯体である[Cu(dipe-O)]2(ClO4)2の温度変化磁化率測定結果を示す図である。
【図4】本発明を適用外の銅複核錯体である[Cu(dipe)OH]2(ClO4)2の温度変化磁化率測定結果を示す図である。
【図5】本発明を適用する水酸基含有窒素複素環化合物である1−ピペリジノ−2−(3−ヒドロキシ−ピペリジノ)エタンのH−NMR測定結果を示す図である。
【図6】本発明を適用する水酸基含有窒素複素環化合物である1−ピペリジノ−2−(3−ヒドロキシ−ピペリジノ)エタンの13C−NMR測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素複素環基の環上と三級窒素基とのそれらの窒素原子同士が共有結合基を介して架橋し該窒素複素環基がオキシ基に結合している対の配位子と、該対の配位子中の双方の該オキシ基を介してアルコキソ架橋している複核銅原子とを有し、該銅原子毎に、該対の配位子中の該窒素原子同士が一方ずつ配位していることを特徴とする銅複核錯体。
【請求項2】
該三級窒素基が、該窒素複素環基と同種又は異種の窒素複素環基であることを特徴とする請求項1に記載の銅複核錯体。
【請求項3】
該窒素複素環基が飽和窒素複素環基であり、該共有結合基がアルキレン基であり、該オキシ基が該飽和窒素複素環基の該窒素原子のβ位に結合しており、該銅原子が2価であることを特徴とする請求項1に記載の銅複核錯体。
【請求項4】
該飽和窒素複素環基がピペリジン環基であり、該アルキレン基がエチレン基、プロピレン基、又はトリメチレン基であることを特徴とする請求項3に記載の銅複核錯体。
【請求項5】
下記化学式(1)
【化1】

(式(1)中、Aは過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、硝酸イオンから選ばれるカウンターアニオン)で表わされることを特徴とする請求項4に記載の銅複核錯体。
【請求項6】
該対の配位子中で夫々該オキシ基に結合している炭素原子が、その一方をS配置とし、他方をR配置とすることを特徴とする請求項1に記載の銅複核錯体。
【請求項7】
銅(II)塩の溶液に、窒素複素環基の環上と三級窒素基とのそれらの窒素原子同士が共有結合基を介して架橋している窒素複素環化合物を加えて、その溶液から、請求項1に記載の銅複核錯体を分離することを特徴とする銅複核錯体の製造方法。
【請求項8】
該三級窒素基が、該窒素複素環基と同種又は異種の窒素複素環基であることを特徴とする請求項7に記載の銅複核錯体の製造方法。
【請求項9】
二つの飽和窒素複素環基の両環上のその窒素原子同士がアルキレン基を介して架橋し、一方の該飽和窒素複素環基の該窒素原子のβ位に水酸基が結合していることを特徴とする水酸基含有窒素複素環化合物。
【請求項10】
下記化学式(2)
【化2】

で表わされることを特徴とする請求項9に記載の水酸基含有窒素複素環化合物。
【請求項11】
該β位が不斉炭素であることにより光学活性となっていることを特徴とする請求項9に記載の水酸基含有窒素複素環化合物。
【請求項12】
銅(II)塩の溶液に、窒素複素環基の環上と三級窒素基とのそれらの窒素原子同士が共有結合基を介して架橋している窒素複素環化合物を加えて、その溶液から、請求項1に記載の銅複核錯体を分離し、それにアンモニア水を加え、該複素環化合物に水酸基が結合した水酸基含有窒素複素環化合物を、遊離させることを特徴とする水酸基含有窒素複素環化合物の製造方法。
【請求項13】
該三級窒素基が、該窒素複素環基と同種又は異種の窒素複素環基であることを特徴とする請求項12に記載の水酸基含有窒素複素環化合物の製造方法。
【請求項14】
該複素環化合物がジピペラジノエタンであり、該水酸基含有窒素複素環化合物が、下記化学式(2)
【化3】

で表わされることを特徴とする請求項12に記載の水酸基含有窒素複素環化合物の製造方法。
【請求項15】
該水酸基含有窒素複素環化合物を光学分割することを特徴とする請求項12に記載の水酸基含有窒素複素環化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−57342(P2009−57342A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227599(P2007−227599)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【特許番号】特許第4117663号(P4117663)
【特許公報発行日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(305013910)国立大学法人お茶の水女子大学 (32)
【Fターム(参考)】