説明

鋏、鉗子、それらの柄部の特徴的な構造及びその製造方法

【課題】 デザイン性、特には装飾性、さらには耐久性、強度、機能性及び操作性に優れ、かつ、軽量化も容易な鋏又は鉗子の柄部の特徴的な構造及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 色合い又は密度の異なる金属、金属及び合成樹脂といった異なる材料を積層して一体化した積層材から削り出し加工又はその他の三次元形状加工により製造される鋏10又は鉗子等の柄部3,4の特徴的な構造及びその製造方法であって、当該製法により得られた柄部3,4は、従来製法では出来得なかった個性秀でたデザイン性、とりわけ装飾性を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋏、鉗子、それらの柄部の特徴的な構造及びその製造方法に関するものであり、より詳細には、デザイン性、特には装飾性、さらには、耐久性、機能性及び操作性に優れた鋏、鉗子、それらの柄部の特徴的な構造及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鋏又は鉗子等の柄部は、打ち抜き、鍛造又は鋳造(メタルインジェクションモールディング(ミム)を含む)により製造することが一般的である。
そして、それらのデザイン性、装飾性を高めるために柄の部分を着色する実用的な方法としては、金属にメッキやコーティング塗装を施すか、材質を合成樹脂に替えて用いるという方法に限られていた。
【0003】
しかしながら、メッキやコーティング塗装による着色は、耐久性が劣っていたり、複雑な色分けが困難であるという欠点がある。
また、合成樹脂を用いる方法においても、耐久性や強度が劣るという問題や、質感、重量バランスや高級感に欠けるという欠点がある。
従って、従来の理美容鋏や鉗子等の柄部は、単一の金属材料(ステンレス鋼等)から製造され、塗装やメッキが施されていないものが一般的である(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−227704号公報
【特許文献2】特開2010−136919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、鋏又は鉗子の柄部のデザイン性や装飾性を高めるために行われるメッキやコーティング塗装による着色は、耐久性が劣っていたり、複雑な色分けが困難であること、合成樹脂を用いる方法においても、耐久性や強度が劣っていたり、質感、重量バランスや高級感に欠けるということがあり、本発明の目的は、デザイン性、特には装飾性、さらには、耐久性、強度、精度及び操作性に優れた鋏、鉗子、それらの柄部の特徴的な構造及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
さらに、本発明は、強度に優れ、かつ、軽量化を達成出来る鋏、鉗子、それらの柄部及びそれらの製造方法を提供することにある。
【0007】
また、本発明は、抗菌性等を有する金属積層材を用いることで、機能性を高めた鋏、鉗子、それらの柄部及びそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、『異なる材料を積層して一体化した積層材から削り出し加工又はその他の三次元形状加工といった、従来の加工方法では作り難い加工方法を用いることで製造された高い装飾性を有する鋏又は鉗子の柄部の特徴的な構造。』を最も主要な特徴とするものである。
ここで、前記三次元形状加工には、薬品を用いて溶かしたり、レーザー光により融かしたり、電気分解を使用したり、研磨したり、部分的に打ち抜きの手法を用いたりすること等による加工が含まれる。
【0009】
さらに、より好ましくは、鋏又は鉗子の柄部を構成する前記積層材は、色合い又は密度の異なる金属を積層して一体化したもの、又は、金属及び合成樹脂を積層して一体化したものであることを特徴とする。
【0010】
また、鋏又は鉗子の柄部を構成する前記積層材は、銅イオン又は銀イオンを生じる金属を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記構成を採用したことにより、本発明の鋏又は鉗子の柄部は、デザイン性、特には装飾性、さらには、耐久性、強度、精度及び操作性に優れたものとすることが出来る。
即ち、鋏又は鉗子等の柄部等に、異なる材料を積層して一体化した積層材を用いることにより、従来製法では出来得なかった個性秀でたデザイン性、とりわけ装飾性が、柄部を三次元状態に形成加工することによって、積層材(複層材)の持つ異なった色合い、質感の違いが意図出来難い三次元の模様となって現れ、独特なデザイン性と装飾性を発揮する特徴的な構造を備えたものとなる。
【0012】
従来の三次元加工の製法である鍛造、鋳造、主に型を用いる加工製造法では、型抜き方向による形状の制約があるため、本願発明によって得られる特徴を備えた柄部を製造することは出来ず、本発明による独自の新規な製法である、異なる材料を積層して一体化した積層材に対して削り出し加工又はその他の三次元形状加工を用いることで、新規かつ優れたデザイン性と装飾性を得ることが出来る。
【0013】
さらには、本発明は、強度に優れ、かつ、軽量化を達成出来る鋏、鉗子、それらの柄部の特徴的な構造及びその製造方法を提供することが出来る。
また、本発明は、抗菌性等を有する金属積層材又は合成樹脂材料を用いることで、機能性及び操作性を高めた鋏、鉗子、それらの柄部の特徴的な構造及びその製造方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を具体化した柄部を備えた実施例1の鋏を示す斜視図である。
【図2】本発明を具体化した鋏の柄部を製造する様子を説明するための図であって、(A)は柄部を製造する原材料となる積層材(金属ブロック)の斜視図、(B)は積層材と柄部の位置関係を示す側面図、(C)は製造された柄部の平面図である。
【図3】本発明を具体化した柄部を備えた実施例2の鋏を示し、(A)は鋏の平面図、(B)は鋏の側面図である。
【図4】本発明を具体化した鋏の柄部を製造する様子を説明するための図であって、(A)は柄部を製造する原材料となる積層材(金属ブロック)の側面図、(B)は柄部を製造する原材料となる積層材(金属ブロック)の斜視図、(C)は積層材と柄部の位置関係を示す平面図、(D)は製造された柄部の平面図である。
【図5】本発明を具体化した柄部を備えた実施例3の手術用鉗子を示す平面図である。
【図6】本発明を具体化した鋏又は鉗子の柄部を製造する原材料となる積層材を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、異なる材料を積層して一体化した積層材(複合材料)から削り出し加工又はその他の三次元形状加工(薬品を用いて溶かしたり、レーザー光により融かしたり、電気分解を使用したり、研磨したり、部分的に打ち抜きの手法を用いたりすること等による加工)により鋏又は鉗子の柄部を製造するようにしたものである。
そして、本願発明は、従来公知の加工方法(打ち抜き、鍛造又は鋳造)では作り難なかったデザイン性、特には装飾性、さらには、耐久性、強度、精度及び操作性に優れた柄部を備えた鋏又は鉗子を提供出来るものである。
【0016】
さらに、本発明は、強度に優れ、かつ、軽量化を達成出来る鋏、鉗子、それらの柄部の特徴的な構造及びその製造方法を提供することが出来る。
【0017】
また、本発明は、鋏又は鉗子の柄部を構成する前記積層材として、銅イオン又は銀イオンを生じる金属を用いることで、抗菌性を備えた鋏又は鉗子を提供することが出来る。
【実施例1】
【0018】
以下、本発明を理美容鋏の柄部に具体化した一実施例について説明する。
図1に示すように、理美容鋏10は、ステンレス鋼製(場合によってはコバルト基合金製等であってもよい。)の一対の刃体1,2及びそれらの刃体1,2に対して着脱可能に連結される柄部3,4を備えている。
【0019】
さらに、前記一対の刃体1,2は、軸部を構成する雄ねじ5及び雌ねじ6にて互いに適度に締め付けられて回動可能に軸支されるようになっている。
なお、上記の刃体1,2の基部に対して柄部3,4を噛み合わせてボルト7にて固定するようにした柄部3,4の連結部8の詳細な構造例については、本件出願人による特開2010−227704にて説明されている。
【0020】
図2に示すように、前記柄部3,4は、ステンレス鋼Sと真鍮Bを複数積層して一体化した金属積層材M1から削り出し加工及び仕上げの研磨加工によって製造されるものであり、銀色のステンレス鋼Sからなる部分と、黄色の真鍮Bからなる部分が縞模様のように柄部3,4の表面に交互に表れるようになっている。
【0021】
さらに、前記柄部3,4の指環部3a,4a及び柄部3の指掛け部3bには、複数個の透孔9を形成して独創的な装飾性を備えるようにすることで、外観デザインの向上及び柄部3,4の軽量化を図っている。
従って、柄部3,4の外観デザインを従来には存在しない複雑で美麗な独特のものとすることが出来、理美容鋏10の高級感を高めたり操作性を向上させることが出来る。
【0022】
また、柄部3,4の真鍮Bからなる部分については、銅イオンを生じるため、柄部3,4に抗菌性という機能を付与することが出来る。
なお、特に柄部3,4の連結部8については、金属を薄く精密に加工する必要があり、強度に優れたステンレス鋼Sのみからなる金属層S1から構成されている。
【0023】
上記柄部3,4を製造するには、まず図2に示すように、ステンレス鋼Sと真鍮Bを複数積層して一体化した金属積層材M1を用意する。ここで、前記金属積層材M1の一端面(図2(A)における下端面)には、強度に優れたステンレス鋼のみからなる厚めの金属層S1を設けておく。
そして、柄部3,4の連結部8に対応する部分については、この金属層S1から削り出すようにする。
【0024】
この削り出し加工により本発明を実施する場合は、複合加工機、又は、3軸、4軸、5軸マシニングセンタ等を用いると良い。これらの加工機により、金属の他、セラミックス、合成樹脂、それらを積層して一体化した積層材についても精密な削り出し加工が可能である。
【0025】
よって、本発明の鋏10の柄部3,4を製造するに際しては、金属を積層して一体化した積層材の他、金属と合成樹脂を積層して一体化した積層材を用いてもよい。
なお、本発明で使用する積層材は、成分、性質、色等が異なる材料が積層された状態で互いに接合されており、削り出された商品としての使用に耐えうるように強固に一体化されているものであればよく、加熱及び加圧等による一体化の他、接着剤による接合によって一体化している積層材であってもよい。
【実施例2】
【0026】
図3は、本発明の実施例2の鋏20を示す図であって、前記実施例1と同様に、ステンレス鋼製の一対の刃体1,2及びそれらの刃体1,2に対して着脱可能に連結される柄部23,24を備えている。
本実施例の柄部23,24には、削り出し加工及び仕上げの研磨加工によって得られる網目状の造形(複数の透孔29が形成された複雑な三次元の立体形状)が施されており、高いデザイン性及び装飾性を備えたものとなっている。
【0027】
さらに、前記一対の刃体1,2は、軸部を構成する雄ねじ5及び雌ねじ6にて互いに適度に締め付けられて回動可能に軸支されるようになっており、それらの刃体1,2の基部に対して柄部23,24の連結部8を噛み合わせてボルト7にて固定するようにしている。
【0028】
図4(A)〜(D)に示すように、前記柄部23,24は、2枚のステンレス鋼Sと一枚の真鍮Bを積層して一体化した金属積層材M2から削り出し加工によって製造されるものであり、銀色のステンレス鋼Sからなる部分と、黄色の真鍮Bからなる部分が柄部23,24の表面に美麗に表れるようになっている。
【0029】
従って、柄部23,24の外観デザインを従来には存在しない独特のものとすることが出来、理美容鋏20の高級感を高めることが出来る。
また、柄部23,24の真鍮Bからなる部分については、銅イオンを生じるため、柄部23,24に抗菌性という機能を付与することが出来る。
なお、特に柄部23,24の連結部8については、金属を薄く精密に加工する必要があり、強度に優れたステンレス鋼Sが配置されるように構成されている。
【0030】
この実施例2の鋏20の柄部23,24についても、前記実施例1の鋏10の柄部3,4と同様の複合加工機又はマシニングセンタ等の切削加工機等を用いることで積層材M2から削り出した後、仕上げの研磨加工によって製造が可能である。
【実施例3】
【0031】
図5は、本発明の実施例3の鉗子30を示す図であって、ステンレス鋼製の一対の鉗子片31,32及びそれらの鉗子片31,32を開閉操作するための柄部33,34及び軸部35を備えている。
この柄部33,34は、ステンレス鋼Sと真鍮Bを複数積層して一体化した金属積層材M3から削り出し加工によって製造されるものであり、軸部35周辺等における銀色のステンレス鋼Sからなる部分と、成分(色)の異なる2種類の真鍮B1,B2からなる部分が縞模様のように柄部33,34の表面に交互に表れるようになっている。
なお、積層材を構成する合金における銅の含有量を変更すること等によって合金の色を変更することが出来る。
【0032】
従って、柄部33,34の外観デザインを従来には存在しない高い装飾性を備えた独特のものとすることが出来るばかりか、柄部33,34の真鍮Bからなる部分については、銅イオンを生じるため、柄部33,34に抗菌性という機能を付与することが出来る。
【0033】
これらの柄部33,34についても、例えば、前記実施例1の鋏10の柄部3,4と同様の複合加工機又はマシニングセンタ等の切削加工機等を用いることで積層材から削り出した後、仕上げの研磨加工によって製造が可能である。
また、積層材としては、図6(A)及び図6(B)に示すように水平方向に合成樹脂R、セラミックス又はカーボンC、ステンレス鋼S、真鍮B等の金属といった複数の異なる材料を積層して一体化した積層材M3,M4の他、図6(C)に示すように斜め方向に異なる材料を積層して一体化した積層材M5を用いて柄部を製造してもよい。
【0034】
なお、本発明は上記各実施例の形態に限定されるものではなく、梳鋏、事務用鋏、調理用鋏等について具体化して実施したり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各部の形状、サイズ、材質、加工方法、加工装置等を適宜変更してもよい。
例えば、真鍮の代わりに銀イオンを生じる合金を積層して一体化した積層材から抗菌性を備えた柄部を製造したり、アルミニウム、チタン合金、マグネシウム合金等といった密度の低い軽金属又は合成樹脂を積層して一体化した積層材から柄部を削り出すことで柄部を軽量化するようにして実施してもよい。
【0035】
合成樹脂と金属を積層して一体化した積層材から柄部を製造すると、必要な柄部の強度と耐久性を確保しつつ柄部を軽量化出来るとともに、柄部の柔軟性を高めて腱鞘炎を防ぐ効果を得たり、着色が容易であることからデザイン性及び装飾性を高めることが出来る。さらには、合成樹脂に抗菌剤、金属粉末、石粉等各種の材料を含ませて柄部の機能を高めることが出来る。
また、磁性を有する合金を積層して一体化した積層材から柄部を製造すると、手指の血行を促進することによる疲労防止効果を期待出来る。
【0036】
なお、焼き入れを行う刃体については、本発明で用いた積層材を用いるのは適当ではないが、焼き入れを行わない刃体や鉗子片等を用いる鋏又は鉗子その他の手術用機械器具については、刃体や鉗子片等についても本発明で用いた異なる材料を積層して一体化した積層材から削り出し加工にて刃体又は鉗子片等を製造してもよい。
さらには、1)合成樹脂とステンレス鋼、2)合成樹脂と炭素繊維強化樹脂、3)合成樹脂とセラミックス等を積層して一体化した積層材から鉗子片等の手術用機械器具を削り出し加工又はその他の三次元形状加工にて製造することで、強度及び操作性に優れ、かつ、鉗子片等の軽量化を図ることが出来るばかりか、金属と人体との接触を減らすことで、アレルギー反応の軽減等を図り、医師及び患者に優しい手術用機械器具を製造することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、デザイン性、装飾性、耐久性、機能性及び重量バランス等の操作性に優れた鋏、鉗子、それらの柄部及びそれらの製造方法として、特に理美容鋏、医療機械器具の分野における産業上好適に利用することが出来る。
【符号の説明】
【0038】
1 刃体
2 刃体
3 柄部
3a 指環部
3b 指掛け部
4 柄部
4a 指環部
5 雄ねじ(軸部)
6 雌ねじ(軸部)
7 ボルト
8 連結部
9 透孔
10 鋏
20 鋏
23 柄部
24 柄部
29 透孔
30 鉗子
31 鉗子片
32 鉗子片
33 柄部
34 柄部
35 軸部
B 真鍮
B1 真鍮
B2 真鍮
C セラミックス又はカーボン(炭素繊維強化樹脂)
M 積層材(複合材料)
M1〜M5 積層材(複合材料)
R 合成樹脂
S ステンレス鋼
S1 金属層(ステンレス鋼)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる材料を積層して一体化した積層材から削り出し加工又はその他の三次元形状加工により製造された鋏又は鉗子の柄部の特徴的な構造。
【請求項2】
前記積層材は、色合い又は密度の異なる金属を積層して一体化したものである請求項1に記載の鋏又は鉗子の柄部の特徴的な構造。
【請求項3】
前記積層材は、金属及び合成樹脂を積層して一体化したものである請求項1に記載の鋏又は鉗子の柄部の特徴的な構造。
【請求項4】
前記積層材は、銅イオン又は銀イオンを生じる金属を含むものである請求項1ないし3の何れか一項に記載の鋏又は鉗子の柄部の特徴的な構造。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の柄部の特徴的な構造を備えた鋏又は鉗子。
【請求項6】
異なる材料を積層して一体化した積層材から削り出し加工又はその他の三次元形状加工により鋏又は鉗子の柄部を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−103039(P2013−103039A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250238(P2011−250238)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(390038209)足立工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】