説明

鋳型および鋳型製造方法

【課題】 鋳型の強度を確保しつつ石膏の量を減らして環境に配慮し、石膏鋳型の処分費用の削減、乾燥時間の短縮を図ることができる鋳型および鋳型製造方法を供する。
【解決手段】 石膏より融点が高く石膏の熱膨張に耐えられる強度の鋳型フレーム5が、石膏鋳型1の外周に嵌合して構成される鋳型および鋳型製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石膏を用いた鋳型およびその鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏鋳型が型面を内側にしたキャビティを有し、石膏鋳型自体が溶湯を保持しながら鋳造を行う鋳造方法については、種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開昭61−95760号公報
【0003】
同特許文献1では、鋳型内が減圧されて溶湯を吸引し内側のキャビティに充填される方法が開示されており、石膏鋳型自体が溶湯を収納保持しながら鋳造するもので、したがって、石膏鋳型は、鋳造材質に応じて必要な強度を保つためにキャビティを囲繞する石膏壁の厚みが相当程度要求される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鋳造後の石膏鋳型は、産業廃棄物として処分されるか、あるいは金属片などと分別する工程を経て耐火物の骨材として処分されるが、環境問題に対する配慮や処分費用の削減のため石膏の使用量を減らすことが要求されている。
【0005】
一方、石膏鋳型は、水に石膏を添加して攪拌して均一なスラリーにし、模型をセットした鋳枠内にこのスラリーを流し込み、スラリーが硬化した後、型抜きし、乾燥することで、製造される。
【0006】
石膏中の水分の放出と結晶を変態して安定した結晶形態とする乾燥工程は、重要であり、急速に乾燥させると脱水による収縮率が表面と内部とで異なりクラックを生じさせることがあり、また乾燥不足は鋳物の表面や内部にガスホール欠陥を発生させるなどの問題がある。
そのため、乾燥工程では長時間かけて徐々に水分を除去して乾燥させる必要があるが、石膏鋳型の厚みが大きい程、乾燥時間が必然的に長くなり作業効率がよくない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、鋳型の強度を確保しつつ石膏の量を減らして環境に配慮し、石膏鋳型の処分費用の削減、乾燥時間の短縮を図ることができる鋳型および鋳型製造方法を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本請求項1記載の発明は、石膏より融点が高く石膏の熱膨張に耐えられる強度の鋳型フレームが、石膏鋳型の外周に嵌合して構成される鋳型とした。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の鋳型において、前記鋳型フレームが、鋳物となる金属より融点が高いことを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1または請求項2記載の鋳型において、前記鋳型フレームが、金属で形成されることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1または請求項2記載の鋳型において、前記鋳型フレームが、セラミックで形成されることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1または請求項2記載の鋳型において、前記鋳型フレームが、多孔質体で形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項6記載の発明は、石膏鋳型の外周に石膏より融点が高く石膏の熱膨張に耐えられる強度の多孔質体からなる鋳型フレームを嵌合し、前記鋳型フレームと一体に嵌合された状態で前記石膏鋳型を乾燥し、鋳型を製造することを特徴とする鋳型製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の鋳型によれば、石膏より融点が高く石膏の熱膨張に耐えられる強度の鋳型フレームが、石膏鋳型の外周に嵌合されて構成されるので、鋳型フレームにより鋳型強度が確保され、石膏鋳型の内側のキャビティと外面との間の石膏壁の厚みを薄くして石膏量を削減することができる。
【0015】
石膏量を削減することで、石膏鋳型の製造時の乾燥時間の短縮を図ることができ、また鋳造後の石膏処分量も少なくし、環境に配慮し、処分費用の削減も図ることができる。
【0016】
請求項2記載の鋳型によれば、鋳型フレームが鋳物となる金属より融点が高いので、鋳造時の溶湯熱の影響を鋳型フレームが受け難く鋳型を確固として保持することができる。
【0017】
請求項3記載の鋳型によれば、鋳型フレームが金属で形成されるので、石膏鋳型を薄肉としても容易に鋳型の強度を確保することができる。
【0018】
請求項4記載の鋳型によれば、鋳型フレームがセラミックで形成されるので、石膏鋳型との熱膨張差が小さいため、鋳造時には石膏鋳型に無理な力を加えることなく鋳型強度を確保することができ、また石膏鋳型に鋳型フレームを嵌合させた状態で乾燥させることが可能である。
【0019】
請求項5記載の鋳型によれば、鋳型フレームが多孔質体で形成されるので、石膏鋳型に鋳型フレームを嵌合させた状態で乾燥させると、多孔質体の通気性とともに毛細管現象により脱水が速やかになされ、乾燥時間の更なる短縮が可能である。
【0020】
請求項6記載の鋳型製造方法によれば、石膏鋳型の外周に多孔質体からなる鋳型フレームを嵌合した状態で乾燥して鋳型を製造するので、鋳型フレームにより鋳型強度を確保して石膏鋳型を薄肉とし石膏量を減らすことができ、鋳型フレームの多孔質体の通気性とともに毛細管現象により脱水が速やかになされ、乾燥時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図6に基づいて説明する。
本実施の形態に係る石膏鋳型1を図1および図2に示す。
本石膏鋳型1は、外形が概ね直方体状をし、そのひと回り小さい略直方体状をしたキャビティ2が上方に開口して内側に形成されている。
【0022】
石膏鋳型1の下面は、長さLが410mm、幅Wが160mmの長方形をしており、4つの外側面が若干内側に傾いて四角錐をなし、下面から100mmの高さHで上面を有する。
石膏鋳型1の内側のキャビティ2は、上記石膏鋳型1の外形をひと回り小さくして上下を逆にした形状をしている。
【0023】
すなわち、石膏鋳型1におけるキャビティ2の上面開口は、410mm×160mmより若干小さい長方形をなし、4つの内側面が外側面と反対側に傾いて逆四角錐をなし、型面である底面が上面開口の長方形よりさらに小さい長方形をなしている。
この石膏鋳型1の重量は、7.4kgである。
【0024】
かかる石膏鋳型1の外側面に嵌合される長方形状の枠体である鋳型フレーム5は、鋳物となる金属より融点が高く、かつ石膏より融点が高いとともに、石膏の熱膨張に耐えられる強度の多孔質のセラミックで形成されており、図3に示すように、4つの内側面が石膏鋳型1の4つの傾斜した外側面に対応して同形の四角錐をなし、高さは100mmより若干低く、外形が直方体をなしている。
【0025】
前記石膏鋳型1は、模型をセットした鋳枠内に、石膏スラリーを流し込み、スラリーが硬化した後、型抜きして上記のような形状の石膏鋳型1を形成し、十分に乾燥させる必要があるが、この乾燥工程に入る前に多孔質のセラミックからなる前記鋳型フレーム5を、図3に示すような相対関係で嵌合する。
【0026】
石膏鋳型1の四角錐をなす外側面が、鋳型フレーム5の同じ四角錐をなす内側面に楔状に食い込み、石膏鋳型1の外周を鋳型フレーム5が締め付けるようにして石膏鋳型1と鋳型フレーム5とが嵌合する(図4,図5参照)ので、鋳型強度を容易に確保することができる。
なお、鋳型フレーム5がセラミックで形成され、石膏鋳型1との熱膨張差が小さいため、鋳造時には石膏鋳型に無理な力を加えることなく鋳型強度が高く維持される。
【0027】
鋳型フレーム5は、図4および図5に図示するように、石膏鋳型1に嵌合され、嵌合された状態で乾燥させて、本実施の形態の鋳型10が構成される。
本鋳型10は、石膏鋳型1の4つの外側面を四方から囲み、鋳型としての強度を大幅に向上させている。
【0028】
従来、この大きさのキャビティを備える石膏鋳型は、下面が450mm×200mmの長方形をなし、その大きさを図1および図2に重ねて2点鎖線で示す。
図1および図2に図示するように、従来の石膏鋳型は本石膏鋳型1よりひと回り大きく、側壁の厚さも相当厚いものであって、結局石膏も多量に使用されていた。
【0029】
これに対して本実施の形態の石膏鋳型1は、鋳型フレーム5が嵌合されているので、石膏鋳型1の外形を従来よりひと回り小さくし、側壁の厚さを薄くしても、必要な鋳型強度を確保することができる。
したがって、使用する石膏の量も少なくてすみ、鋳造後の処分についても環境に配慮し、処分費用も削減できる。
【0030】
また、石膏鋳型1の側壁が薄肉ででき石膏の使用量が少ないことは、鋳型製造時の乾燥時間を短くすることができる。
さらに、乾燥工程において、多孔質のセラミックからなる鋳型フレーム5を石膏鋳型1に嵌合した状態で乾燥するので、多孔質の鋳型フレーム5の毛細管現象が働き石膏鋳型1の表面からの脱水を促進し、急速な乾燥を行っても石膏鋳型1の表面にクラックなどを生じさせない。
【0031】
したがって、加熱により石膏鋳型1を鋳型フレーム5と一体に急速乾燥させ、鋳型製造の作業効率を向上させることができる。
実際に実施した例では、乾燥時間27時間の急速乾燥で石膏鋳型1の表面にクラックは生じることなく、この製造された石膏鋳型1を使用してアルミニウム合金の溶湯を流し込んでも鋳型強度が確保され湯漏れはなかった。
【0032】
以上の実施した例を実施例1として、同実施例1とともに、その他の実施例2,3,4,5について図6の表1に示す。
なお、図6の表2には4つの従来例1,2,3,4を比較のため示す。
【0033】
実施例2は、実施例1と同じ石膏鋳型1とセラミック製の鋳型フレーム5を使用しているが、乾燥工程において、石膏鋳型1に鋳型フレーム5を嵌合させないで27時間の急速乾燥させた後、鋳造時に鋳型フレーム5を嵌合させて鋳造を行った例である。
石膏鋳型1に湯漏れないはないが、急速乾燥時に脱水が促進されないことから表面クラックが生じている。
【0034】
実施例3は、同じ鋳型サイズ(410mm×160mm×100mm)であるが、僅かに側壁が厚く7.5kgと重量が僅かに重い石膏鋳型を、鋳型フレームを嵌合せずに、40時間かけて乾燥させており、したがって、石膏鋳型に表面クラックは生じていない。
そして、セラミックの鋳型フレームを同石膏鋳型に嵌合させて鋳造に供した場合に湯漏れも生じていない。
【0035】
実施例4は、実施例3と同じ石膏鋳型を鋳型フレームの嵌合なしに、32時間急速乾燥させた例であり、石膏鋳型に表面クラックが生じている。
ただし、鋳造時に石膏より融点が高く石膏の熱膨張に耐えられる強度の金属製(例えば、鉄製)の鋳型フレームを同石膏鋳型に嵌合させて鋳型強度を確保して鋳造に供した場合、湯漏れは生じていない。
【0036】
実施例5は、同じ鋳型サイズ(410mm×160mm×100mm)であるが、さらに側壁が厚く7.6kgと重量がより重い石膏鋳型を、鋳型フレームを嵌合せずに、40時間かけて乾燥させており、石膏鋳型に表面クラックは生じていない。
また、金属の鋳型フレームを同石膏鋳型に嵌合させて鋳造に供した場合に湯漏れも生じていない。
【0037】
以上のように、石膏鋳型に表面クラックが生じず、湯漏れもないのは、実施例1と実施例3と実施例5であり、そのうち急速乾燥して問題がなかったのは、多孔質のセラミックからなる鋳型フレームを石膏鋳型に嵌合して乾燥させた前記実施例1である。
【0038】
比較のため、図6の表2の従来例をみると、従来例1は、実施例1と同じ鋳型サイズ(410mm×160mm×100mm)であるが、重量が7.8kgとやや重い石膏鋳型を比較的早い32時間乾燥させた例であり、27時間より時間をかけて乾燥しているにもかかわらず表面クラックが生じており、鋳型フレームを嵌合することなく鋳造に供すると、湯漏れも生じている。
【0039】
従来例2は、従来例1と同じ石膏鋳型を40時間かけて乾燥させた例で、表面クラックは生じていないが、鋳型フレームを嵌合することなく鋳造に供すると、湯漏れが生じている。
従来例3は、鋳型サイズを450mm×200mm×100mmに大きくし、重量は7.8kgに維持した石膏鋳型について、32時間乾燥した例であり、表面クラックも生じ、鋳造に供した場合湯漏れも生じている。
【0040】
従来例4は、同じ鋳型サイズ(450mm×200mm×100mm)で、重量が9.6kgの壁が厚肉の石膏鋳型について、40時間かけて乾燥させた例であり、十分な時間乾燥しているので、表面クラックも生じておらず、鋳造に供しても厚肉の壁で鋳型強度が確保されて湯漏れも生じない。
このように、従来は表面クラックも、湯漏れも生じないようにするためには、鋳型サイズが大きく、重量も重い石膏鋳型を長時間かけて乾燥させなければならなかった。
【0041】
これに対して、本願発明は、実施例1,2,3,4,5にあるように、鋳型フレームを石膏鋳型に嵌合させて鋳造することで、小さい鋳型サイズで重量も軽い石膏鋳型でも鋳造に供したときに鋳型強度が確保され湯漏れを全く生じさせない。
使用する石膏の量も少なくてすむので、鋳造後の処分についても環境に配慮でき、処分費用も削減できる。
【0042】
そして、乾燥時間を長くすれば、実施例3にあるように、石膏鋳型に表面クラックを生じることはなく、さらに、多孔質の鋳型フレームを乾燥時に石膏鋳型に嵌合させておくことで、実施例1にあるように、27時間の急速乾燥を行っても、石膏鋳型に表面クラックを生じさせることがない。
加熱により石膏鋳型1を鋳型フレーム5と一体に急速乾燥させ、鋳型製造の作業効率を向上させることができる。
【0043】
実施例1では鋳型フレームに使用する多孔質体としてセラミックが使用されていたが、セラミックのほかに、多孔性金属を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本願発明の一実施の形態に係る石膏鋳型の平面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】同石膏鋳型と鋳型フレームの分解斜視図である。
【図4】石膏鋳型に鋳型フレームが嵌合した本鋳型の平面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】実施例および従来例を示した表1および表2である。
【符号の説明】
【0045】
1…石膏鋳型、2…キャビティ、5…鋳型フレーム、10…鋳型。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏より融点が高く石膏の熱膨張に耐えられる強度の鋳型フレームが、石膏鋳型の外周に嵌合して構成されることを特徴とする鋳型。
【請求項2】
前記鋳型フレームが、鋳物となる金属より融点が高いことを特徴とする請求項1記載の鋳型。
【請求項3】
前記鋳型フレームが、金属で形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の鋳型。
【請求項4】
前記鋳型フレームが、セラミックで形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の鋳型。
【請求項5】
前記鋳型フレームが、多孔質体で形成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の鋳型。
【請求項6】
石膏鋳型の外周に石膏より融点が高く石膏の熱膨張に耐えられる強度の多孔質体からなる鋳型フレームを嵌合し、
前記鋳型フレームと一体に嵌合された状態で前記石膏鋳型を乾燥し、
鋳型を製造することを特徴とする鋳型製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−247691(P2006−247691A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66858(P2005−66858)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】