説明

鋳型及び鋳型を用いた鋳造方法、並びに鋳型の設計方法

【課題】簡単な工夫により、製品キャビティに成形する鋳物製品に鋳巣が発生することを防止できる鋳型及び鋳型を用いた鋳造方法、並びに鋳型の設計方法を提供すること。
【解決手段】鋳型1は、溶湯51を充填して製品52を成形するための製品キャビティ2と、製品キャビティ2の一方側に繋がり、鋳込み口31から充填される溶湯51を製品キャビティ2へ補給するための補給キャビティ3と、製品キャビティ2の他方側に繋がり、充填される溶湯51が製品キャビティ2及び補給キャビティ3よりも先に冷却される冷却キャビティ4と、を備えている。各キャビティ2、3、4における、冷却表面積Sに対する体積Vの比であるモジュラスM(=V/S)は、製品キャビティ2のモジュラスをMp、補給キャビティ3のモジュラスをMs、冷却キャビティ4のモジュラスをMcとしたとき、Ms>Mp>Mcの関係を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯を充填して鋳物製品を成形するための鋳型及び鋳型を用いた鋳造方法、並びに鋳型の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造等の鋳造を行う際には、溶湯が凝固収縮するときに、鋳巣(成形品に生じる空洞、亀裂、縮小化等の変形)が生じることを防止するために、種々の工夫を行っている。例えば、製品設計において、製品の各部の肉厚の均一化、製品における厚肉部の除去等を図るといった工夫、鋳型内に冷却孔を設けて冷却する工夫等がなされている。
例えば、特許文献1の鋳造方法および鋳造装置においては、金型に溶湯を鋳込み、金型に接触する表面層が凝固した後、加熱・冷却手段によって一方側から他方側に向けて指向性凝固させることが開示されている。そして、複雑形状部品においては流れ凝固シミュレーション結果に基づいて、良好な指向性凝固を進行させることにより鋳造欠陥の発生を防止し、高品位の鋳物の製造を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−346728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1においては、加熱・冷却手段を別途用いる必要があり、設備が複雑化してしまう。一方、製品設計において製品の形状の変更を図ることは困難である。そのため、製品の形状を維持し、簡単な工夫によって、鋳巣の発生を防止することができる方法の開発が望まれる。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、簡単な工夫により、製品キャビティに成形する鋳物製品に鋳巣が発生することを防止することができる鋳型及び鋳型を用いた鋳造方法、並びに鋳型の設計方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、溶湯を充填して製品を成形するための製品キャビティと、
該製品キャビティの一方側に繋がり、鋳込み口から充填される溶湯を上記製品キャビティへ補給するための補給キャビティと、
上記製品キャビティの他方側に繋がり、充填される溶湯が上記製品キャビティ及び上記補給キャビティよりも先に冷却される冷却キャビティと、を備え、
上記各キャビティにおける、冷却表面積Sに対する体積Vの比であるモジュラスM(=V/S)は、上記製品キャビティのモジュラスをMp、上記補給キャビティのモジュラスをMs、上記冷却キャビティのモジュラスをMcとしたとき、Ms>Mp>Mcの関係を有していることを特徴とする鋳型にある(請求項1)。
【0007】
第2の発明は、上記鋳型を用いて鋳造を行う方法であって、
上記鋳込み口から、上記補給キャビティ、上記製品キャビティ及び上記冷却キャビティに溶湯を充填し、
上記冷却キャビティに充填された溶湯から先に凝固させ、次いで、上記製品キャビティに充填された溶湯を凝固させ、最後に、上記補給キャビティに充填された溶湯を凝固させることを特徴とする鋳造方法にある(請求項4)。
【0008】
第3の発明は、上記鋳型を設計する方法であって、
形状変化のある所定位置において上記製品キャビティを、上記補給キャビティに繋がる一方側の製品キャビティ部と、上記冷却キャビティに繋がる他方側の製品キャビティ部との2つに仕切り、
上記一方側の製品キャビティ部のモジュラスをMpa、上記他方側の製品キャビティ部のモジュラスをMpb、溶湯の材料成分によって定まる臨界固相率をfとしたとき、上記補給キャビティのモジュラスMs及び上記冷却キャビティのモジュラスMcを用い、f×Ms/Mpa≧1及びf×{Mpa/(Mpb+Mc)}≧1の関係を満たすよう、上記補給キャビティ及び上記冷却キャビティの各形状を決定することを特徴とする鋳型の設計方法にある(請求項5)。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明の鋳型においては、製品キャビティの一方側に補給キャビティを設け、製品キャビティの他方側に冷却キャビティを設けている。また、製品キャビティのモジュラスMp、補給キャビティのモジュラスMs、冷却キャビティのモジュラスMcは、Ms>Mp>Mcの関係を有している。
これにより、本発明の鋳型を用いて鋳造を行う際には、冷却キャビティに充填された溶湯から先に凝固させ、次いで、製品キャビティに充填された溶湯を凝固させ、最後に、補給キャビティに充填された溶湯を凝固させることができる。つまり、鋳型におけるキャビティの形状に工夫を行うことにより、溶湯をキャビティの一方から他方に向けて順次凝固させることができる。
【0010】
それ故、第1の発明の鋳型によれば、簡単な工夫により、製品キャビティに成形する鋳物製品に鋳巣(未充填の空洞、亀裂、縮小化等の変形)が発生することを防止することができる。
なお、上記冷却表面積Sとは、鋳型において溶湯と接触するキャビティの表面積のことをいう。
【0011】
第2の発明の鋳造方法においては、上記鋳型の発明と同様に、簡単な工夫により、製品キャビティに成形する鋳物製品に鋳巣が発生することを防止することができる。
【0012】
第3の発明の鋳型の設計方法においては、鋳物製品を成形するための鋳型を適切に設計する方法を提供する。
具体的には、第3の発明においては、製品キャビティを一方側の製品キャビティ部と他方側の製品キャビティ部との2つに仕切り、一方側の製品キャビティ部のモジュラスMpa及び他方側の製品キャビティ部のモジュラスMpbが、f×Ms/Mpa≧1及びf×{Mpa/(Mpb+Mc)}≧1の関係を満たすよう、各キャビティの形状を決定する。
【0013】
f×Ms/Mpa≧1の関係式は、一方側の製品キャビティ部のモジュラスMpaを、溶湯の充填を集中させる充填部とし、補給キャビティのモジュラスMsを、溶湯を補給する補給部として、この関係式を満たせば、一方側の製品キャビティ部に鋳巣が発生しないと考えられる関係式である。
また、f×{Mpa/(Mpb+Mc)}≧1の関係式は、他方側の製品キャビティ部のモジュラスMpbと冷却キャビティのモジュラスMcとの和を、溶湯の充填を集中させる充填部とし、一方側の製品キャビティ部のモジュラスMpaを、溶湯を補給する補給部として、この関係式を満たせば、他方側の製品キャビティ部に鋳巣が発生しないと考えられる関係式である。
【0014】
従って、上記各関係式を満たすように、一方側の製品キャビティ部、他方側の製品キャビティ部、補給キャビティ及び冷却キャビティの各形状を決定することにより、一方側の製品キャビティ部及び他方側の製品キャビティ部としての製品キャビティに成形する鋳物製品に鋳巣が発生することを防止した鋳型を製造することができる。
なお、臨界固相率fは、溶湯が固液共存状態にあるときの溶湯全体に対する固相の比率として表される値である。臨界固相率fは、溶湯の材料成分によって定まり、例えばADC12のアルミニウム合金の場合には、0.3付近となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1にかかる、鋳型における各キャビティの断面の一部を拡大して示す説明図。
【図2】実施例1にかかる、一対の鋳型部を合わせた鋳型の断面を示す説明図。
【図3】実施例1にかかる、鋳型における各キャビティの形成状態を模式的に示す説明図。
【図4】実施例1にかかる、鋳型において成形した鋳物を、図3のA−A線方向から見た断面で示す説明図。
【図5】実施例2にかかる、鋳型において成形した鋳物を示す説明図。
【図6】実施例2にかかる、鋳型における各キャビティの断面の一部を拡大して示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上述した第1〜第3の発明の鋳型及び鋳型を用いた鋳造方法、並びに鋳型の設計方法における好ましい実施の形態につき説明する。
第1の発明において、上記製品キャビティ、上記補給キャビティ及び上記冷却キャビティは、環形状に形成してあり、上記補給キャビティは、上記製品キャビティの一方側としての外周側において、該製品キャビティに対して環状に連続して繋がっており、上記冷却キャビティは、複数のフィン状キャビティ部を連ねてなるとともに、上記製品キャビティの他方側としての内周側において、該製品キャビティに対して環状に連続して繋がっていることができる(請求項2)。
この場合には、環形状の製品キャビティに対して、補給キャビティ及び冷却キャビティを適切に形成することができ、環形状の鋳物製品に鋳巣が発生することを防止することができる。
【0017】
また、上記鋳型は、一対の鋳型部を合わせた合わせ面の位置に、上記製品キャビティ、上記補給キャビティ及び上記冷却キャビティを形成してなるダイカスト用鋳型であることが好ましい(請求項3)。
この場合には、ダイカスト品としての鋳物製品に鋳巣が発生することを防止することができる。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明の鋳型及び鋳型を用いた鋳造方法、並びに鋳型の設計方法にかかる実施例につき、図面を参照して説明する。
(実施例1)
本例の鋳型1は、図1、図2に示すごとく、溶湯51を充填して製品52を成形するための製品キャビティ2と、製品キャビティ2の一方側に繋がり、鋳込み口31から充填される溶湯51を製品キャビティ2へ補給するための補給キャビティ3と、製品キャビティ2の他方側に繋がり、充填される溶湯51が製品キャビティ2及び補給キャビティ3よりも先に冷却される冷却キャビティ4と、を備えている。
各キャビティ2、3、4における、冷却表面積Sに対する体積Vの比であるモジュラスM(=V/S)は、製品キャビティ2のモジュラスをMp、補給キャビティ3のモジュラスをMs、冷却キャビティ4のモジュラスをMcとしたとき、Ms>Mp>Mcの関係を有している。
【0019】
以下に、本例の鋳型1及び鋳型1を用いた鋳造方法、並びに鋳型1の設計方法につき、図1〜図4を参照して詳説する。
図1は、鋳型1における各キャビティ2、3、4の断面の一部を拡大して示す図である。図2は、一対の鋳型部11を合わせた鋳型1の断面を示す図である。
本例の鋳型1は、アルミニウム材料を溶湯51として、製品キャビティ2に、鋳物5としてのアルミニウムダイカスト品を成形するものである。本例の鋳型1は、一対の鋳型部11を合わせた合わせ面111の位置に、製品キャビティ2、補給キャビティ3及び冷却キャビティ4を形成してなるダイカスト用鋳型である。
本例の鋳型1において成形する鋳物5は、円環形状を有するアルミニウム部品である。このアルミニウム部品を成形(鋳造)する際には、製品キャビティ2に鋳巣を生じることなく製品52を成形するために、鋳型1に補給キャビティ3及び冷却キャビティ4を形成する。
【0020】
図4は、鋳型1において成形した鋳物5を示す。製品キャビティ2には、円環状の製品52が成形され、供給キャビティ3には、成形体53が成形され、冷却キャビティ4には、成形体54が成形され、鋳込み口31には、成形体531が成形される。そして、鋳造後の鋳物5から、各成形体53、54、531を切断、切削等により除去して、製品52を形成する。
【0021】
図3は、鋳型1における各キャビティ2、3、4の形成状態を模式的に示す図である。
同図に示すごとく、本例の鋳型1においては、円環形状の製品キャビティ2に対する一方側としての外周側に、円環形状の補給キャビティ3を同心円状に形成し、円環形状の製品キャビティ2に対する他方側としての内周側に、円環形状の冷却キャビティ4を同心円状に形成している。
補給キャビティ3は、製品キャビティ2の外周側において、製品キャビティ2に対して環状に連続して繋がっている。冷却キャビティ4は、複数のフィン状キャビティ部41を連ねてなるとともに(図1参照)、製品キャビティ2の内周側において、製品キャビティ2に対して環状に連続して繋がっている。
【0022】
図1に示すごとく、補給キャビティ3は、そのモジュラスMsをできるだけ小さくするために、円形状の断面を有している。図2、図3に示すごとく、補給キャビティ3の周方向の1箇所には、溶湯51を注入するための鋳込み口31が形成されている。補給キャビティ3の体積は、製品キャビティ2の体積よりも大きくなっている。
図1に示すごとく、冷却キャビティ4は、そのモジュラスMcをできるだけ大きくするために、複数のフィン状キャビティ部41を、円環形状の製品キャビティ2の円環形状の軸方向中心位置からその軸方向の両側に向けて枝分かれ状に形成してなる。
【0023】
図1、図3に示すごとく、本例の製品52を成形する製品キャビティ2は、その代表断面形状を円環形状の周方向Cに連続して形成してなる。製品キャビティ2は、その代表断面形状において、円環形状の周方向Cに直交する径方向Rの所定位置に、形状変化としての形状絞り部21を有している。
図1に示すごとく、本例の鋳型1の設計方法においては、鋳型1を設計するにあたり、製品キャビティ2を、形状絞り部21において外周側部分と内周側部分との2つに仕切り、補給キャビティ3の大きさ・形状と、冷却キャビティ4の大きさ・形状とを決定する。すなわち、製品キャビティ2は、形状絞り部21において、補給キャビティ3に繋がる一方側としての外周側の製品キャビティ部2Aと、冷却キャビティ4に繋がる他方側としての内周側の製品キャビティ部2Bとの2つに仕切る。
同図においては、外周側の製品キャビティ部2A、内周側の製品キャビティ部2B、供給キャビティ3及び冷却キャビティ4を仕切った部分を、破線によって示す。
【0024】
そして、外周側の製品キャビティ部2AのモジュラスをMpa、内周側の製品キャビティ部2BのモジュラスをMpb、溶湯51の材料成分によって定まる臨界固相率をfとしたとき、補給キャビティ3のモジュラスMs及び冷却キャビティ4のモジュラスMcを用いて、f×Ms/Mpa≧1(関係式1)及びf×{Mpa/(Mpb+Mc)}≧1(関係式2)の関係を満たすよう、補給キャビティ3及び冷却キャビティ4の各形状を決定する。
関係式1、2は、次の鋳巣の発生を推測する基準式に基づいて定めたものである。
この基準式は、溶湯51の材料成分によって定まる内外引け分配率をε、溶湯51の材料成分によって定まる凝固収縮率をβ、溶湯51の材料成分によって定まる臨界固相率をf、溶湯51の充填を集中させる充填部をM1、溶湯51を補給する補給部をM2としたとき、鋳巣体積率δ(%)は、δ=ε×β×{1−f×(M2/M1)}として表される。
【0025】
ここで、内外引け分配率εは、溶湯51が充填されるキャビティの内部か表面部のどちらに鋳巣が発生し易いかを示す値であり、凝固収縮率βは、溶湯51が凝固する際に収縮する比率を示す値であり、臨界固相率fは、溶湯51が固液共存状態にあるときの溶湯51の全体に対する固相の比率として表される値である。
そして、鋳巣体積率δを0(%)以下にするように、f×(M2/M1)≧1の関係を満たすように、補給キャビティ3及び冷却キャビティ4の大きさ・形状を決定する。
【0026】
補給キャビティ3の大きさ・形状は、外周側の製品キャビティ部2AのモジュラスMpaを、溶湯51の充填を集中させる充填部M1とし、補給キャビティ3のモジュラスMsを、溶湯51を補給する補給部M2として、f×Ms/Mpa≧1の関係式1を満たすように決定した。この関係式1を満たせば、外周側の製品キャビティ部2Aに鋳巣が発生しないと考えられる。
一方、冷却キャビティ4の大きさ・形状は、内周側の製品キャビティ部2BのモジュラスMpbと冷却キャビティ4のモジュラスMcとの和を、溶湯51の充填を集中させる充填部M1とし、外周側の製品キャビティ部2AのモジュラスMpaを、溶湯51を補給する補給部M2として、f×{Mpa/(Mpb+Mc)}≧1の関係式2を満たすように決定した。この関係式2を満たせば、内周側の製品キャビティ部2Bに鋳巣が発生しないと考えられる。
従って、関係式1、2を満たすように、補給キャビティ3及び冷却キャビティ4の各形状を決定することにより、製品キャビティ2に成形する製品52に鋳巣が発生することを防止した鋳型1を製造することができる。
【0027】
次に、鋳型1を用いて鋳造を行う方法について説明する。
鋳物5を鍛造するに当たっては、鋳型1の鋳込み口31から、補給キャビティ3、製品キャビティ2及び冷却キャビティ4に溶湯51を充填する。このとき、鋳込み口31から鋳型1内に注入された溶湯51は、鋳込み口31に近い側に位置する補給キャビティ3、製品キャビティ2及び冷却キャビティ4から先に充填される。また、本例においては、ダイカスト鋳造を行うため、瞬間的に各キャビティ2、3、4に溶湯51が充填される。
そして、冷却キャビティ4に充填された溶湯51から先に凝固させ、次いで、内周側の製品キャビティ部2Bに充填された溶湯51を凝固させ、次いで、外周側の製品キャビティ部2Aに充填された溶湯51を凝固させ、最後に、補給キャビティ3に充填された溶湯51を凝固させる。
【0028】
このように、本例においては、鋳型1におけるキャビティ2、3、4の形状に工夫を行うことにより、溶湯51をキャビティ2、3、4の内周側から外周側に向けて順次凝固させることができる。
それ故、本例の鋳型1及び鋳型1を用いた鋳造方法によれば、簡単な工夫により、製品キャビティ2に成形する製品52に鋳巣(未充填の空洞、亀裂、縮小化等の変形)が発生することを防止することができる。
【0029】
(実施例2)
本例は、上記実施例1に示した形状とは異なる形状の製品キャビティ2を鋳型1に形成する場合についての例である。
図5に示すごとく、本例の鋳型1において成形する鋳物5は、長尺板形状のベース部56に対して複数個の突出部55を平行に突出させた形状を有する。図6に示すごとく、本例の製品キャビティ2は、ベース部56を成形するベース部用キャビティ部22Bと、複数個の突出部55をそれぞれ成形する突出部用キャビティ部22Aとから形成されている。
【0030】
本例の補給キャビティ3は、複数個の突出部用キャビティ部22Aの突出方向の一方側において、複数個の突出部用キャビティ部22Aに対して連続して繋がるよう、長尺方向Lに沿って形成している。また、複数のフィン状キャビティ部41からなる本例の冷却キャビティ4は、ベース部用キャビティ部22Bに対して長尺方向Lに連続して繋がるよう、長尺方向Lに沿って形成している。本例の鋳込み口31は、補給キャビティ3の端部に設けてある。
【0031】
補給キャビティ3の大きさ・形状は、複数の突出部用キャビティ部22AのモジュラスMpaを、溶湯51の充填を集中させる充填部M1とし、補給キャビティ3のモジュラスMsを、溶湯51を補給する補給部M2として、f×Ms/Mpa≧1の関係式1を満たすように決定した。一方、冷却キャビティ4の大きさ・形状は、ベース部用キャビティ部22BのモジュラスMpbと冷却キャビティ4のモジュラスMcとの和を、溶湯51の充填を集中させる充填部M1とし、突出部用キャビティ部22AのモジュラスMpaを、溶湯51を補給する補給部M2として、f×{Mpa/(Mpb+Mc)}≧1の関係式2を満たすように決定した。
【0032】
本例においては、鋳型1の鋳込み口31から、補給キャビティ3、製品キャビティ2及び冷却キャビティ4に溶湯51を充填し、冷却キャビティ4に充填された溶湯51から先に凝固させ、次いで、ベース部用キャビティ部22Bに充填された溶湯51を凝固させ、次いで、突出部用キャビティ部22Aに充填された溶湯51を凝固させ、最後に、補給キャビティ3に充填された溶湯51を凝固させる。
それ故、本例の鋳型1及び鋳型1を用いた鋳造方法によっても、簡単な工夫により、製品キャビティ2に成形する製品52に鋳巣が発生することを防止することができる。
本例においても、その他の構成は上記実施例1と同様であり、上記実施例1と同様の作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0033】
1 鋳型
2 製品キャビティ
2A 外周側の製品キャビティ部
2B 内周側の製品キャビティ部
3 補給キャビティ
31 鋳込み口
4 冷却キャビティ
41 フィン状キャビティ部
5 鋳物
51 溶湯
52 製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を充填して製品を成形するための製品キャビティと、
該製品キャビティの一方側に繋がり、鋳込み口から充填される溶湯を上記製品キャビティへ補給するための補給キャビティと、
上記製品キャビティの他方側に繋がり、充填される溶湯が上記製品キャビティ及び上記補給キャビティよりも先に冷却される冷却キャビティと、を備え、
上記各キャビティにおける、冷却表面積Sに対する体積Vの比であるモジュラスM(=V/S)は、上記製品キャビティのモジュラスをMp、上記補給キャビティのモジュラスをMs、上記冷却キャビティのモジュラスをMcとしたとき、Ms>Mp>Mcの関係を有していることを特徴とする鋳型。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳型において、上記製品キャビティ、上記補給キャビティ及び上記冷却キャビティは、環形状に形成してあり、
上記補給キャビティは、上記製品キャビティの一方側としての外周側において、該製品キャビティに対して環状に連続して繋がっており、
上記冷却キャビティは、複数のフィン状キャビティ部を連ねてなるとともに、上記製品キャビティの他方側としての内周側において、該製品キャビティに対して環状に連続して繋がっていることを特徴とする鋳型。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の鋳型において、該鋳型は、一対の鋳型部を合わせた合わせ面の位置に、上記製品キャビティ、上記補給キャビティ及び上記冷却キャビティを形成してなるダイカスト用鋳型であることを特徴とする鋳型。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳型を用いて鋳造を行う方法であって、
上記鋳込み口から、上記補給キャビティ、上記製品キャビティ及び上記冷却キャビティに溶湯を充填し、
上記冷却キャビティに充填された溶湯から先に凝固させ、次いで、上記製品キャビティに充填された溶湯を凝固させ、最後に、上記補給キャビティに充填された溶湯を凝固させることを特徴とする鋳造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋳型を設計する方法であって、
形状変化のある所定位置において上記製品キャビティを、上記補給キャビティに繋がる一方側の製品キャビティ部と、上記冷却キャビティに繋がる他方側の製品キャビティ部との2つに仕切り、
上記一方側の製品キャビティ部のモジュラスをMpa、上記他方側の製品キャビティ部のモジュラスをMpb、溶湯の材料成分によって定まる臨界固相率をfとしたとき、上記補給キャビティのモジュラスMs及び上記冷却キャビティのモジュラスMcを用い、f×Ms/Mpa≧1及びf×{Mpa/(Mpb+Mc)}≧1の関係を満たすよう、上記補給キャビティ及び上記冷却キャビティの各形状を決定することを特徴とする鋳型の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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