説明

鋳型製造用粘結剤組成物、鋳型製造用組成物、および鋳造用鋳型製造方法

【課題】フェノール樹脂成分と溶媒との相溶性を向上させることによって、経時安定性に優れ、製造された鋳型の強度が向上した鋳型製造用粘結剤組成物を提供すること。
【解決手段】ブタノール変性フェノール樹脂と炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有するフェノール樹脂成分(A成分)、およびポリイソシアナートを含有するポリイソシアナート溶液(B成分)からなる鋳型製造用粘結剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋳造用の鋳型を製造する際に、加熱を必要としないコールドボックスバインダーシステムに関するものである。更に詳しくは、鋳型製造用粘結剤組成物の成分であるフェノール樹脂成分と有機溶剤との相溶性の良好な鋳型製造用粘結剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋳造用鋳型を製造する方法として、側鎖に水酸基を有するフェノール樹脂を含む成分とポリイソシアナートを含む成分を使用時に混合して、さらに粒状耐火性骨材と混合して鋳型製造用組成物とし、ガス状又はエアロゾル状の触媒を接触させて硬化させるコールドボックス法と称される鋳造用鋳型製造法が、加熱を必要としないことから多用されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたポリウレタン結合剤組成物では鋳造用鋳型の熱間強度を向上させる目的で、フェノール樹脂をアルコキシ変性すること、中でもメタノール変性が有利ということが報告されている。実際には、フェノール樹脂成分としてメトキシ変性レゾール樹脂、メトキシ変性p−クレゾール−レゾール樹脂、エトキシ変性レゾール樹脂を使用し、市販樹脂に比して抗張力では差が無いが、熱間強度で好結果を示している。これらの変性レゾール樹脂類の製造方法についてもいくつか記載されているが、フェノール樹脂に比して製造工程が複雑になる点が不利である。特に二段階法による変性の場合、メタノールやエタノールでは低沸点のために反応温度に限界があり、加圧反応が必要になるという問題点がある。変性レゾール樹脂用溶媒としては、有機エステル系溶媒と炭化水素溶媒との混合溶媒が使用されているが、炭化水素溶媒についての詳細は不明である。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−111742号公報
【0004】
鋳造用鋳型製造時には通常、フェノール樹脂を含む成分とポリイソシアナートを含む成分を混合し、さらに粒状耐火性骨材と混合して鋳型製造用組成物とするが、この時に粘結剤組成物であるフェノール樹脂と溶剤との相溶性とポリイソシアナートと溶剤の相溶性が要求される。フェノール樹脂成分用の溶媒として、溶解性パラメータ(SP値)7.1〜7.9であるアルキルベンゼンを、フェノール樹脂に対して1〜20%含有させることによって、フェノール樹脂との相溶性を向上させたことが報告されている(例えば、特許文献2参照)。しかしこのアルキルベンゼンは、添加量が多くなると逆にフェノール樹脂との相溶性が低下するという問題点を有する。そのため、大量の有機エステルとSP値が大きく比較的に蒸気圧の高い芳香族炭化水素を共存させる必要があり、合計溶媒使用量が多くなり過ぎてしまう。一方、鋳型製造用組成物使用後にホッパー内に残った粘結剤被覆粒状耐火性骨材の自然硬化を防止する目的で、ポリイソシアナート化合物にあらかじめアルキル基の炭素数が9〜16のアルキルベンゼンを加えることによって、この溶媒の蒸発が遅いことを利用して効果を発揮している報告がある(例えば、特許文献3参照)。この場合もアルキル基の炭素数が1〜4のアルキルベンゼンを、相溶性の観点からフェノール樹脂用溶媒として多量に使用せざるを得なくなってしまう。
【0005】
【特許文献2】特開2000−326049公報
【特許文献3】特開2002−113549公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のようにフェノール樹脂用の溶媒検討およびポリイソシアナート化合物用の溶媒検討が行われてきたが、フェノール樹脂とポリイソシアナート化合物の双方に対して同時に相溶性が好ましいものは見出されていない。これを解決するために種々の混合溶媒が工夫されてきたが、溶媒の含有量がどうしても高くなってしまい、相溶性が改善されても製造された鋳型の強度は低下する、という問題点があった。本発明は、フェノール樹脂成分と溶媒との相溶性を向上させると共に、その溶媒がポリイソシアナート化合物、粒状耐火性骨材との相溶性にも優れているという特徴を有することによって、経時安定性に優れ、製造された鋳型の強度が向上した鋳型製造用粘結剤組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記した課題について鋭意検討した結果、フェノール樹脂成分と溶媒との相溶性を向上させるためには、溶媒の組み合わせを検討するだけにとどまらず、フェノール樹脂成分の構造についても検討を行うことにより、フェノール樹脂成分と溶媒との相溶性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、ブタノール変性フェノール樹脂と炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有するフェノール樹脂成分(A成分)、およびポリイソシアナートを含有するポリイソシアナート溶液(B成分)からなる鋳型製造用粘結剤組成物である。
【0009】
本発明のフェノール樹脂成分(A成分)では、炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼン含有量が、A成分100質量部に対して2質量部以上20質量部以下であることを特徴としている。また、フェノール樹脂成分(A成分)では、ブタノール変性フェノール樹脂におけるブトキシメチル化率(ブトキシメチル基数/フェノール核数)が、10%以上70%以下であることも特徴としている。この場合のブトキシメチル化率は、NMR分析によりブトキシメチル基数とベンゼン核数を測定することによって求めることができる。
【0010】
また本発明は、ブタノール変性フェノール樹脂と炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有するフェノール樹脂成分(A成分)、およびポリイソシアナートを含有するポリイソシアナート溶液(B成分)からなる鋳型製造用粘結剤組成物のA成分とB成分を混合し、さらに粒状耐火性骨材を混合したことを特徴とする鋳型製造用組成物である。
【0011】
さらに本発明は、ブタノール変性フェノール樹脂と炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有するフェノール樹脂成分(A成分)、およびポリイソシアナートを含有するポリイソシアナート溶液(B成分)からなる鋳型製造用粘結剤組成物のA成分とB成分を混合し、さらに粒状耐火性骨材を混合して鋳型枠内に収納して成形し、硬化させることを特徴とする鋳造用鋳型製造方法である。
【0012】
フェノール樹脂成分(A成分)用溶媒に採用した炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンは、ポリイソシアナートとの相溶性に優れているが、フェノール樹脂との相溶性が悪い。本発明でフェノール樹脂の変性にブタノールを使用しているが、このようにある程度長いアルキル基(炭素数4)を導入したことによって、炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンとの相溶性が大幅に改善された。また、鋳型製造用組成物の可使時間が延長された。
【0013】
このようにフェノール樹脂成分(A成分)内部の相溶性を改善したことによって、A成分自身の経時安定性を向上させ、さらに製造された鋳型の強度も向上させることができるのである。また、本発明のA成分に使用される炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンは、沸点および引火点が高いので、溶媒蒸気による作業環境悪化を軽減することができ、火災の危険性も軽減することができる。
【0014】
ブタノール変性フェノール樹脂は、特開昭61−111742号公報に記載されたメタノール変性法に習って製造することも可能である。一方としては、フェノール樹脂を製造した後、ブタノールで変性する2段階法がある。フェノール樹脂は前記した、特開昭61−111742号公報、特開2000−326049公報、特開2002−113549公報に記載されている方法で製造することができる。もう一法として、フェノール、ホルムアルデヒドおよびブタノールを加熱撹拌することによって、ブタノール変性フェノール樹脂を得ることができる。
【0015】
ブタノール変性フェノール樹脂の合成において使用されるブタノールとしては、n−ブタノール、イソブチルアルコール、セカンダリーブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコールが挙げられる。また、使用されるフェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、p−tert−ブチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキルフェノール、レゾルシノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等の高フェノール、さらにこれらの混合物が挙げられる。使用されるアルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、ホルマリン、パラホルムアルデヒド、ポリオキシメチレン、グリオキザール、フルフラール、およびこれらの混合物が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のブタノール変性フェノール樹脂と、炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンをフェノール樹脂成分に採用したことによって、フェノール樹脂成分と溶媒との相溶性を向上させると共に、その溶媒がポリイソシアナート化合物との相溶性にも優れていることから、フェノール樹脂成分の経時安定性に優れ、可使時間が延長され、製造された鋳型の強度が向上した鋳型製造用粘結剤組成物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のA成分に使用される炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンは、SP(溶解性パラメータ)値7.3〜7.8を有するものである。通常は異なる構造を有するものの混合物である。具体的には、アルケンL(日本石油化学株式会社製、SP値7.6)、アルケン56N(日本石油化学株式会社製、SP値7.5)、HAB#246(三菱化学株式会社製、アルキル基の炭素数10〜14、平均分子量246)等が挙げられる。
【0018】
前記したA成分には、炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンの他に、物性値の異なる溶媒をさらに添加することも可能である。これらの溶媒としては、脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素、芳香族炭化水素の炭化水素系溶媒、例えば炭素数7〜10のアルキルベンゼンの混合物、具体的にはSolvesso#100(エクソンモービル石油化学株式会社製、SP値8.6)、Solvesso#150(エクソンモービル石油化学株式会社製、SP値8.5)、IpSolA−150出光石油化学株式会社製、SP値8.7)、シェルゾールAB(シェル石油株式会社製、SP値8.7)等、二塩基酸エステル系溶媒、具体的にはDBE(デュポン社製、アジピン酸・コハク酸・グルタル酸のジメチルエステル混合物)等、有機エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。以上挙げた溶媒は単独でまたは混合して使用できる。
【0019】
前記したB成分の必須成分であるポリイソシアナートとしては、ジフェニルメタンジイソシアナート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、キシリレンジイソシアナート等が挙げられる。
【0020】
B成分においてもポリイソシアナート用溶媒を使用することが可能であり、A成分で使用可能な溶媒と同様の溶媒が、単独でまたは混合して使用できる。
【0021】
粒状耐火性骨材としては、珪砂、クロム鉄鉱砂、ジルコン砂、カンラン石砂、以上の再生砂、砂以外ではムライト砂、アルミナ砂、中空アルミナビーズ、シラスバルーン、ガラスビーズ等が挙げられる。鋳型製造用粘結剤組成物と粒状耐火性骨材との配合割合は、鋳型製造用粘結剤組成物中のフェノール樹脂の固形分1質量部に対して、粒状耐火性骨材が100〜1200質量部である。
【0022】
本発明ではA成分、B成分のいずれかまたは双方に種々の添加剤を配合して使用することができる。それらは、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等の粘着付与剤、フタル酸クロリド等の可使時間延長剤、劣化防止剤、乾燥防止剤、離型剤等である。
【0023】
本発明の鋳型製造用組成物を製造するためには、ブタノール変性フェノール樹脂と炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有するフェノール樹脂成分(A成分)と、ポリイソシアナートを含有するポリイソシアナート溶液(B成分)からなる鋳型製造用粘結剤組成物の、A成分とB成分とをよく混合し、次にこの混合物を粒状耐火性骨材に添加し、ミキサー等を使用して均一に混練することにより、鋳型製造用組成物を得ることができる。混練後の鋳型製造用組成物を、鋳型製造用型枠内に導入して成形した後、硬化させることにより所望の鋳型を製造することができる。
【0024】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0025】
[比較フェノール樹脂の合成例1]
フェノール100g、パラホルムアルデヒド52.7g(モル比1.65)およびナフテン酸亜鉛0.15gを撹拌混合し、110℃〜114℃にて3時間反応させた後、速やかに減圧下に脱水し、フェノール樹脂(樹脂固形分98%)を得た。この樹脂の重量平均分子量は1900であった。このフェノール樹脂はIR分析およびNMR分析した結果、ベンジリックエーテル基を有するフェノール樹脂であることが確認された。
【0026】
[比較A1成分の調製]
比較フェノール樹脂の合成例1で得られたベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20質量部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)30質量部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部から成る溶液を調製し、A1成分とした。A1成分は黄色透明液体であり層分離を起こしていない正常な製品であった。
【0027】
[比較A2成分の調製]
比較フェノール樹脂の合成例1で得られたベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部に対して、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20質量部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)25質量部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)5質量部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部から成る溶液を調製し、A2成分とした。A2成分は黄色液体であり、僅かに白濁を生ずるが層分離を起こしていない製品であった。
【0028】
[比較A3成分の調製]
比較フェノール樹脂の合成例1で得られたベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部に対して、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20質量部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)20質量部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)10質量部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部から成る溶液を調製し、A3成分とした。A3成分は黄色液体であり、僅かに白濁を生じ、また層分離を起した。
【実施例1】
【0029】
[フェノール樹脂の合成例2]
フェノール100g、パラホルムアルデヒド49.5g(モル比1.55)、n−ブタノール10gおよびナフテン酸亜鉛0.15gを撹拌混合し、110℃〜114℃にて3時間反応させた後、速やかに減圧化に脱水し、フェノール樹脂(樹脂固形分98%)を得た。この樹脂の重量平均分子量は1300であった。このフェノール樹脂はIR分析およびNMR分析した結果、ベンジリックエーテル基を有するフェノール樹脂であることが確認された。
【0030】
[フェノール樹脂のGPC分析]
フェノール樹脂および比較フェノール樹脂の合成例で合成されたフェノール樹脂は、次の条件でGPC分析し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
機種 :東ソー株式会社製ゲル濾過クロマトグラフィーSC−8020シリーズビルドアップシステム
カラム:G3000Hx1+G2000Hx1×2
検出器:RI検出器
移動相:テトラヒドロフラン1ml/min
カラム温度:40℃
【0031】
[フェノール樹脂のNMR分析]
フェノール樹脂および比較フェノール樹脂の合成例で合成されたフェノール樹脂は、13C−NMR分析におけるSGCMLP(SinglePulseCompleteLowPowerDecoupling)法で測定し、対象となるシグナル団について積分を行い、各炭素原子の量比を算出した。フェノール樹脂の合成例2で合成されたフェノール樹脂の13C−NMR分析チャートを[図1]に示す。
【0032】
[B成分の調製]
ポリメリックMDI(ジフェニルメタンジイソシアナート)75質量部、石油系溶剤(出光石油化学株式会社イプゾール−150)25質量部及びイソフタル酸クロリド0.5質量部から成る溶液を調製して、これをB成分とした。
【0033】
[A4成分の調製]
フェノール樹脂の合成例2で得られたベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20質量部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)25質量部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)5質量部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部から成る溶液を調製し、A4成分とした。A4成分は黄色透明液体であり、層分離を起こしていない正常な製品であった。
【0034】
[曲げ試験方法]
耐火性粒状骨材100質量部に対して前記フェノール樹脂溶液(A4成分)0.9質量部と前記ポリイソシアネート溶液(B成分)を0.9質量部の比率で添加し、品川式ミキサーで90秒間混練した。得られた粘結剤被覆砂を10×30×85曲げ試験片用金型を取り付けた浪速製作所製V−TOP330Cコールドボックス造型機のサンドマガジン内に入れ、サンドマガジンに0.29MPaの圧力をかけてブローして10×30×85曲げ試験片用金型に吹き込んだ。つぎにトリエチルアミンジェネレーターにより0.25MPaの圧力で1秒間ガッシングし、前記金型内にトリエチルアミンを透過させてキュアリングした後、0.29MPaの圧力で3秒間エアパージし、脱型して10×30×85曲げ試験片を製造し、造型直後にこの砂型の曲げ強さを測定した。
曲げ試験片の作製および曲げ強さの測定については、(1)品川式ミキサーで90秒間混練した直後の粘結剤被覆砂を用いた場合、(2)混連後1時間放置した粘結剤被覆砂を用いた場合、(3)混連後2時間放置した粘結剤被覆砂を用いた場合のそれぞれについて実施した。
結果を[表1]に示す。本発明の炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを使用したことにより、比較例にくらべて初期強度が改善され、可使時間が改善されていることがわかる。
【0035】
【表1】

【実施例2】
【0036】
[A5成分の調製]
実施例1で得られたベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部に対して、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20質量部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)15部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)15部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部から成る溶液を調製し、A5成分とした。A5成分は黄色透明液体であり、層分離を起こしていない正常な製品であった。
【0037】
[曲げ試験A5]
耐火性骨材、A5成分、及び実施例1で得られたB成分を用いて、実施例1と同様の方法を用いて曲げ試験片を作製した後、曲げ試験を実施した。結果を[表1]に示す。本発明の炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを使用したことによる、初期強度の向上および可使時間の延長が実施例1よりもさらに改善されていることがわかる。
【0038】
[比較例1]
前記した実施例1と同様の方法で、比較フェノール樹脂の合成例1で得られたフェノール樹脂を使用した比較A1成分0.9質量部と、実施例1で得られたポリイソシアネート溶液(B成分)0.9質量部の比率で添加し、品川式ミキサーで90秒間混練し粘結剤被覆砂を得た。この粘結剤被覆砂を用いて前記実施例1と同様の方法で曲げ試験片を得た後、曲げ試験を実施した。結果を表1に示す。炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有しないため、初期強度および可使時間の点で不十分であることがわかる。
【0039】
[比較例2]
前記した実施例1と同様の方法で、比較フェノール樹脂の合成例1で得られたフェノール樹脂を使用した比較A2成分0.9質量部と実施例1で得られたポリイソシアネート溶液(B成分)0.9質量部の比率で添加し、品川式ミキサーで90秒間混練し粘結剤被覆砂を得た。この粘結剤被覆砂を用いて前記実施例1と同様の方法で曲げ試験片を得た後、曲げ試験を実施した。結果を[表1]に示す。炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを使用したものの、フェノール樹脂がブタノール変性されていないため相溶性が悪く、初期強度および可使時間の点で不十分であることがわかる。
【0040】
[比較例3]
比較フェノール樹脂の合成例1で得られたフェノール樹脂を使用した比較A3成分は黄色液体であり、僅かに白濁を生じた。また層分離を起したため、曲げ試験は実施できなかった。フェノール樹脂がブタノール変性されていないため、炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼン量を増加させたところ、相溶性がかえって悪化してしまった。
【実施例3】
【0041】
[フェノール樹脂の合成例3]
フェノール100g,パラホルムアルデヒド49.5g(モル比1.55)、n−ブタノール20gおよびナフテン酸亜鉛0.15gを撹拌混合し、110℃〜114℃にて3時間反応させた後、速やかに減圧化に脱水し、フェノール樹脂(樹脂固形分98%)を得た。この樹脂の重量平均分子量は1300であった。このフェノール樹脂はIR分析およびNMR分析した結果、ベンジリックエーテル基を有するフェノール樹脂であることが確認された。13C−NMR分析チャートを〔図2〕に示す。
【0042】
[A6成分の調製]
フェノール樹脂の合成例3で得られたベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20質量部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)20質量部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)10部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部から成る溶液を調製し、A6成分とした。A6成分は黄色透明液体であり、層分離を起こしていない正常な製品であった。
【0043】
[曲げ試験A6]
耐火性骨材、A6成分、および実施例1で得られたB成分を用いて、実施例1と同様の方法を用いて曲げ試験片を作製した後、曲げ試験を実施した。結果を[表1]に示す。
【実施例4】
【0044】
[A7成分の調製]
フェノール樹脂の合成例3で得られた、ベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部に対して、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20質量部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)15質量部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)15部、および3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部から成る溶液を調製し、A7成分とした。A7成分は黄色透明液体であり、層分離を起こしていない正常な製品であった。
【0045】
[曲げ試験A7]
耐火性骨材、A7成分、および実施例1で得られたB成分を用いて、実施例1と同様の方法を用いて曲げ試験片を作製した後、曲げ試験を実施した。結果を[表1]に示す。本発明の炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを使用したことによる、初期強度の向上および可使時間の延長が実施例3よりもさらに改善されていることがわかる。
【実施例5】
【0046】
[フェノール樹脂の合成例4]
フェノール100g,パラホルムアルデヒド49.5g(モル比1.55)、n−ブタノール30gおよびナフテン酸亜鉛0.15gを撹拌混合し、110℃〜114℃にて3時間反応させた後、速やかに減圧化に脱水し、フェノール樹脂(樹脂固形分98%)を得た。この樹脂の重量平均分子量は1300であった。このフェノール樹脂はIR分析およびNMR分析した結果、ベンジリックエーテル基を有するフェノール樹脂であることが確認された。13C−NMR分析チャートを〔図3〕に示す。
【0047】
[A8成分の調製]
フェノール樹脂の合成例4で得られた、ベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50
質量部、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)20部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)10部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3部から成る溶液を調製し、A8成分とした。A8成分は黄色透明液体であり、層分離を起こしていない正常な製品であった。
【0048】
[曲げ試験A8]
耐火性骨材、A8成分、及び実施例1で得られたB成分を用いて、実施例1と同様の方法を用いて曲げ試験片を作製した後、曲げ試験を実施した。結果を[表1]に示す。本発明の炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼン使用量が同量であっても、フェノール樹脂のブタノール変性比が高くなるほど、初期強度の向上および可使時間の延長が実施例3よりもさらに改善されていることがわかる。
【実施例6】
【0049】
[A9成分の調製]
フェノール樹脂の合成例4で得られた、ベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部に対して、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)15部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)15部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3部から成る溶液を調製し、A9成分とした。A9成分は黄色透明液体であり、層分離を起こしていない正常な製品であった。
【0050】
[曲げ試験A9]
耐火性骨材、A9成分、および実施例1で得られたB成分を用いて、実施例1と同様の方法を用いて曲げ試験片を作製した後、曲げ試験を実施した。結果を[表1]に示す。本発明の炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼン含有量が多くなるほど、初期強度の向上および可使時間の延長が実施例5よりもさらに改善されていることがわかる。
【0051】
[比較A10成分の調製]
フェノール樹脂の合成例4で得られたベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部に対して、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)10部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)20部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3部から成る溶液を調製し、比較A10成分とした。
【0052】
[比較例4]
比較A10成分は黄色透明液体であるが、層分離を起したため、曲げ試験は実施できなかった。炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼン使用量が多過ぎると、フェノール樹脂がブタノール変性されていても、相溶性が低下することがわかる。
【0053】
[比較フェノール樹脂の合成例5]
フェノール100g、パラホルムアルデヒド60.6g(モル比2.0)、およびナフテン酸亜鉛0.15gを撹拌混合し、110℃〜114℃にて3時間反応させた後、速やかに減圧化に脱水し、フェノール樹脂(樹脂固形分98%)を得た。この樹脂の重量平均分子量は1300であった。このフェノール樹脂はIR分析およびNMR分析した結果、ベンジリックエーテル基を有するフェノール樹脂であることが確認された。
【0054】
[比較A11成分の調製]
比較フェノール樹脂の合成例5で得られたベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部に対して、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20質量部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)15質量部、アルキルベンゼン(日本石油化学株式会社製アルケンL)15部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3質量部から成る溶液を調製し、比較A11成分とした。
【0055】
[比較例5]
比較A11成分は層分離を起したため、曲げ試験は実施できなかった。フェノール樹脂がブタノール変性されていないため、炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンとの相溶性が悪いことがわかる。
【0056】
[比較A12成分の調製]
フェノール樹脂の合成例2で得られたベンジリックエーテル基含有フェノール樹脂50質量部に対して、二塩基酸メチルエステル混合物(デュポン社製:商品名DBE)20部、石油系溶剤(エクソンモービル石油化学株式会社製Solvesso#100)30部、及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.3部から成る溶液を調製し、比較A12成分とした。
【0057】
[比較例6]
前記した実施例1と同様の方法で、比較フェノール樹脂の合成例2で得られたフェノール樹脂を使用した比較A12成分0.9質量部と、実施例1で得られたポリイソシアネート溶液(B成分)0.9質量部の比率で添加し、品川式ミキサーで90秒間混練し粘結剤被覆砂を得た。この粘結剤被覆砂を用いて前記実施例1と同様の方法で曲げ試験片を得た後、曲げ試験を実施した。結果を[表1]に示す。炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有しないため、初期強度および可使時間の点で不十分であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
フェノール樹脂成分の経時安定性が要求される用途、可使時間の延長が要求される用途、製造された鋳型の強度が要求される用途に適している。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】合成例2で合成されたフェノール樹脂の13C−NMR分析チャートである。
【図2】合成例3で合成されたフェノール樹脂の13C−NMR分析チャートである。
【図3】合成例4で合成されたフェノール樹脂の13C−NMR分析チャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタノール変性フェノール樹脂と炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有するフェノール樹脂成分(A成分)、およびポリイソシアナートを含有するポリイソシアナート溶液(B成分)からなる鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項2】
前記したA成分中の炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼン含有量が、A成分100質量部に対して2質量部以上20質量部未満である請求項1記載の鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項3】
前記したA成分中の炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼン含有量が、A成分100質量部に対して5質量部以上15質量部以下である請求項1または請求項2記載の鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項4】
前記したA成分中のブタノール変性フェノール樹脂における、ブトキシメチル化率(ブトキシメチル基数/フェノール核数)が10%以上70%以下である、請求項1〜請求項3いずれかの項に記載の鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項5】
前記したA成分中のブタノール変性フェノール樹脂におけるブタノール変性が、n−ブタノール、イソブチルアルコール、セカンダリーブチルアルコール、ターシャリーブチルアルコールから選択される1種以上のブタノールによってなされたものである、請求項1〜4いずれかの項に記載の鋳型製造用粘結剤組成物。
【請求項6】
ブタノール変性フェノール樹脂と炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有するフェノール樹脂成分(A成分)、およびポリイソシアナートを含有するポリイソシアナート溶液(B成分)からなる鋳型製造用粘結剤組成物のA成分とB成分を混合し、さらに粒状耐火性骨材を混合したことを特徴とする鋳型製造用組成物。
【請求項7】
ブタノール変性フェノール樹脂と炭素数6〜16のアルキル基を有するアルキルベンゼンを含有するフェノール樹脂成分(A成分)、およびポリイソシアナートを含有するポリイソシアナート溶液(B成分)からなる鋳型製造用粘結剤組成物のA成分とB成分を混合し、さらに粒状耐火性骨材を混合して鋳型枠内に収納して成形し、硬化させることを特徴とする鋳造用鋳型製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−313518(P2007−313518A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−143022(P2006−143022)
【出願日】平成18年5月23日(2006.5.23)
【出願人】(507102333)アシュランドジャパン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】