説明

鋳物の凝固制御方法

【課題】冷し金の大きさを減じることなく、冷し金の抜熱速度を減じることができ、かつ、断熱材を貼り付けること無く、冷し金の抜熱速度を減じることができる鋳物の凝固制御方法を提供する。
【解決手段】冷し金を用いる鋳物の凝固制御方法において、冷やし金1の溶湯接触面の一部または全部に凹形状2を設け、凹形状2における溶湯凝固を遅らせる。凹形状2のピッチは1〜4mmであり、深さはピッチの0.5〜1.0倍であることが好ましく、また、凹形状2内に冷し金1よりも熱伝導率の低い材料を配置することが好ましく、さらに、熱伝導率の低い材料の熱伝導率が冷し金より20〜320W/(m・K)低いことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳物の凝固制御方法に関し、詳しくは、冷し金の大きさを減じることなく、冷し金の抜熱速度を減じることができ、かつ、断熱材を貼り付けること無く、冷し金の抜熱速度を減じることができる鋳物の凝固制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳物の鋳造方法には様々なものが存在しているが、鋳型材には樹脂等で硬化させた砂型や、エチルシリケートやコロイダルシリカで硬化させたセラミック型、各種耐火材を混合した石膏型、又は鋼材等の金属材料が用いられることが多い。これらの鋳造の際に、鋳物の製品部の機械特性向上や、引け巣欠陥の発生を防止する為の溶湯の指向性凝固を目的として、冷し金を用いることが多い。
【0003】
冷やし金の改良に係る技術としては、例えば、特許文献1、2には、冷し金の溶湯接触面全面を、鋳物凝固・冷却促進に活用する技術が開示されている。特許文献3には、冷し金の一部に、断熱材を貼り付けることで、熱容量が大きい冷し金を用いても、抜熱速度を任意に調整することを可能とする技術が開示されている。また、特許文献4、5には、冷し金の熱容量、抜熱速度を増加させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−275973号公報
【特許文献2】特開2004−17145号公報
【特許文献3】特開2007−144480号公報
【特許文献4】特開2006−205228号公報
【特許文献5】特開2001−179392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2、4および5に記載の手法では、鋳物の凝固・冷却を抑制したい場合には、冷し金の大きさを減少させなくてはならないという不便な点があった。また、特許文献3記載の方法では、断熱材は、鋳造の度に断熱材を準備・貼り付けなくてはならず、断熱材は使い捨てになり、製造コストの面で不利であった。このように従来の冷し金改良技術においては、冷し金の抜熱効果(溶湯からの抜熱速度および抜熱容量)を制御するに際して、何らかの問題点が存在しているのが現状であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、冷し金の大きさを減じることなく、冷し金の抜熱速度を減じることができる技術を提供することにある。また、本発明の他の目的は、使い捨ての断熱材を貼り付けること無く、冷し金の抜熱速度を減じることができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解消するために鋭意検討した結果、冷やし金を下記構成とすることにより、上記課題を解消することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の鋳物の凝固制御方法は、冷し金を用いる鋳物の凝固制御方法において、冷やし金の溶湯接触面の一部または全部に凹形状を設け、該凹形状における溶湯凝固を遅らせることを特徴とするものである。これにより、当該部位における溶湯凝固を意図的に遅らせ、製品部から押し湯側への意図的な凝固(以下、「鋳物の指向性凝固」と称する)を促進することが可能となる。
【0009】
本発明においては、前記凹形状のピッチが1〜4mmであり、深さがピッチの0.5〜1.0倍であることが好ましい。このような構成とすることで、冷やし金の熱伝導特性と溶湯の凹形状への浸入のバランスを図ることができる。また、前記凹形状内に前記冷し金よりも熱伝導率の低い材料を配置することが好ましい。これにより、鋳造時の溶湯凝固速度を調整することが可能となる。さらに、前記熱伝導率の低い材料の熱伝導率は前記冷し金より20〜320W/(m・K)低いことが好ましい。これにより、上記効果を良好に得ることができる。
【0010】
本発明の鋳物の凝固制御方法は、タイヤ成型用金型の鋳造に好適に適用することができる。本発明の鋳物の凝固制御方法を適用して鋳造されたタイヤ成型用金型は、引け巣欠陥が発生しないため、品質に優れたタイヤを製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、冷し金の大きさを減じることなく、冷し金の抜熱速度を減じることができ、かつ、断熱材を貼り付けること無く、冷し金の抜熱速度を減じることができる鋳物の凝固制御方法を提供することができる。これにより、引け巣欠陥のない鋳物、特には、タイヤ成型用金型を鋳造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る冷し金の一好適例を示す斜視図である。
【図2】冷やし金と溶湯の接触部の拡大断面図である。
【図3】(a)および(b)は、それぞれ従来法と本発明における鋳物鋳造における等凝固時間曲面を表す模式図である。
【図4】(a)〜(c)は、それぞれ本発明に係る冷し金の他の好適例を示す斜視図である。
【図5】(a)〜(d)は、それぞれ凹形状内に冷し金より熱伝導率の低い材料を配置した場合の好適例の斜視図である。
【図6】(a)および(b)は、実施例に用いた鋳枠の斜視図および片側断面図である。
【図7】実施例1に用いた鋳枠の片側断面図である。
【図8】実施例2に用いた鋳枠の片側断面図である。
【図9】比較例1に用いた鋳枠の片側断面図である。
【図10】比較例2に用いた鋳枠の片側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
本発明の鋳物の凝固制御方法は、冷し金を用いる鋳物の凝固制御方法において、冷やし金の溶湯接触面の一部または全部に凹形状を設け、該凹形状における溶湯凝固を遅らせることを特徴とするものである。図1は本発明に係る冷し金の一例の斜視図であり、冷やし金1の上部に凹形状2を有している。図2は冷し金と溶湯の接触時における断面図である。冷し金1の溶湯接触面側に、鋳造時に溶湯3が進入できない凹形状2を設けておくことで、溶湯3と冷やし金1は線接触となり、当該部位の溶湯凝固を意図的に遅らせ、鋳物の指向性凝固を促進することが可能となる。
【0014】
図3は、従来の鋳物の鋳造方法(図3(a))と、本発明の鋳物の凝固制御方法を適用した鋳造方法(図3(b))の等凝固時間曲面を表した鋳物の断面図である。ここで、等凝固時間曲面とは、鋳物の冷却過程において、同じ時間で凝固が完了する曲面をいう。図3(a)、(b)ともに鋳枠4を冷やし金とし、上型8の内面に断熱材9を貼り付けて、鋳型7を用いて鋳物を鋳造している。図3(a)に示すように、従来法の鋳枠4に金属製部材を用いて鋳造した場合、鋳枠4側の溶湯凝固が速すぎ、等凝固時間曲面5が押し湯6とつながらない閉空間を形成する場合がある。この閉空間には引け巣欠陥が発生することになる。したがって、これまでは、引け巣欠陥を抑止するためには、鋳枠上部側に断熱材を貼り付け、溶湯の凝固を遅らせるという対策が必要であった。
【0015】
しかし、本発明においては、鋳枠4として、本発明に係る冷し金1を用いることで、鋳枠4に断熱材を貼り付けることなく、鋳枠上部側の溶湯凝固を遅らせることを可能とした。その結果、等凝固時間曲面5が押し湯6とつながらない閉空間が形成されず、引け巣欠陥発生を効果的に防止することができる(図3(b))。
【0016】
また、従来の、鋳枠自体を冷し金として使用する方式の鋳造の場合では、溶湯接触面に部分的に断熱材を後貼りしなければならないという手間を有している。さらに、鋳造の都度に断熱材を廃棄するという材料コスト面でのデメリットを有している。しかしながら、本発明によれば、これらの問題も容易に解消できる。
【0017】
図1に示す冷し金1の凹形状2は、V溝が連続する構造であるが、本発明においては、図4(a)に示すように、凹形状102としてV溝が断続する構造を有する冷やし金101でもよい。また、図4(b)に示すように、凹形状202としてダイヤカット形状を有する冷やし金201や、図4(c)に示すように、凹形状302として、エンボス形状を有する冷やし金301であってもよい。さらに、冷やし金1の凹形状2が施してある部分と施されていない部分が分離し、使用時に組み立てるタイプの冷し金でもよい。
【0018】
なお、冷し金1に刻まれる凹形状2は、鋳造時に溶湯が浸入しない範囲の最大のものであることが望ましい。凹形状2は冷し金1の温度、溶湯との濡れ性、溶湯温度、溶湯の流速、鋳造完了後の溶湯圧力、溶湯材質等により適宜設定すべきものであるが、上記条件は様々に変化するため、一概には言えないが、凹形状2のピッチWは1〜4mmで、凹形状2の深さDは0.5W〜1.0Wであることが望ましい。凹形状2のピッチWが1mm未満の場合や、凹形状2の深さDが0.5W未満の場合は、冷し金の熱伝導特性を十分確保することが困難となる。一方、凹形状2のピッチWが4mmを超えた場合や、凹形状2の深さDが1.0Wを超える場合は、鋳造時に凹形状2に溶湯が浸入してしまうおそれがある。
【0019】
さらに、冷し金は基本的形状が決まっており、通常6面体(直方体)形状のものが用いられることが多い。このため、冷し金表面には6つの表面が存在する。一般的な冷し金は、これらのうちいずれかの1面を溶湯に接触させる形で用いられることが多いが、6面全てについて、その熱伝導率はほぼ等しいため、抜熱効果を微妙に調整したいときは、冷し金自体のサイズ(寸法および重量)を変化させるしか方法がなかった。
【0020】
これに対して、冷やし金の6面全てについて異なる凹形状分布(ピッチ、深さ)を付与しておけば、一つの冷し金で、その溶湯接触面を選択するたけで、6種類の抜熱条件に変化させることもできる。通常の鋳物メーカーは多種多様な冷し金を準備しなければならず、鋳造する物件ごとに多数ある冷し金を選択して使用しなければならないという煩雑さが存在しているが、本発明は、この手間を減らすことができるという効果も有している。
【0021】
また、本発明においては、凹形状内に冷し金よりも熱伝導率が低い材料を配置することが好ましい。凹形状に冷し金よりも熱伝導率の低い材料を断熱材(耐火材)として配置することで、鋳造時の溶湯凝固速度を調整することが可能となり、本発明の効果を良好に得ることができる。熱伝導率の低い材料としては、熱伝導率が冷し金より20W/(m・K)〜320W/(m・K)低いことが好ましい。上記範囲内とすることで、引け巣欠陥を良好に抑制することができる。
【0022】
図5(a)〜(d)は、凹形状内に冷し金よりも熱伝導率の低い材料を配置した場合の斜視図である。凹形状部に冷し金よりも熱伝導率の低い材料を配置する手法としては、熱伝導率の低い材料を嵌め込む方法や、塗布する方法等を挙げることができる。構造としては、例えば、図5(a)は、丸座グリの凹形状402を有し、そこに冷し金401よりも熱伝導率の低い材料を配置した構造であり、図5(b)は、丸残し座グリの凹形状502を有し、そこに冷し金501よりも熱伝導率の低い材料を配置した構造が挙げられる。また、図5(c)のように、楔溝の凹形状602を有し、そこに冷し金601よりも熱伝導率の低い材料を配置した構造や、図5(d)のように、楔格子溝の凹形状702を有し、そこに冷し金701よりも熱伝導率の低い材料を配置した構造でもよい。
【0023】
熱伝導率の低い材料としては、例えば、シリカ、アルミナ、ムライト等の各種セラミック粉末をエチルシリケートやコロイダルシリカ、水ガラスと混合した塗布できるものでもよく、物理的にはめ込むセラミックファイバー系の固形物であってもよい。なお、冷やし金は繰り返し使用できることが望ましいため、耐摩耗性の高い塗布系の材質がより好ましい。
【0024】
本発明の鋳物の凝固制御方法は、タイヤ成型用金型の鋳造に好適に適用することができる。本発明の鋳物の凝固制御方法を適用することにより、引け巣欠陥のないタイヤ成型用金型を鋳造することが可能となる。その結果、品質の良いタイヤを製造することができる。
【0025】
本発明の鋳物の凝固制御方法は、冷し金を用いる鋳物の凝固制御方法において、冷やし金の溶湯接触面の一部または全部に凹形状を設け、該凹形状における溶湯凝固を遅らせることに特徴があり、その他、鋳込み工程等の工程は既知の方法に従い適宜おこなうことができる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<鋳物の製造方法>
鋳鉄鋳枠10と、鋳鉄定盤11と、断熱スリーブ12と、断熱ボード13と、湯口14と、を有する図6(a)に示すタイプの鋳型において、鋳鉄鋳枠10および鋳鉄定盤11を冷し金として、アルミ合金リングのタイヤ金型リング鋳物を鋳造した。鋳鉄の熱伝導率は33W/(m・K)、比熱は670J/kg・K、密度は7.2g/cmである。
【0027】
また、図6(b)は図6(a)に示す鋳型の寸法を示す片側断面図であり、寸法は、D1=520mm、D2=600mm、D3=750mm、D4=100mm、W1=30mm、W2=50mm、W3=50mm、W4=50mm、H1=180mm、H2=200mmである。
【0028】
使用したアルミ合金はAC4C(Si:7%,Mg:0.4%,Fe:0.3%:残Al)であり、鋳鉄鋳枠10の予熱温度は280〜300℃、鋳鉄定盤11の予熱温度は80〜100℃とし、石膏鋳型15はノリタケジプサムG−1発泡石膏(乾燥型密度:0.7/cm)を用いた。鋳造方式は重力鋳造による一点鋳込み方式とし、鋳込み温度は680〜690℃とした。これら条件を下記表1にまとめて示す。
【0029】
(実施例1)
図7に示すように、鋳鉄鋳枠10の内面上部に幅68mmにわたり、ピッチ4mm、深さ2mmのV溝による凹形状2を設けた。
【0030】
(実施例2)
図8に示すように、鋳鉄鋳枠10の内面上部に幅68mmにわたり、ピッチ4mm、深さ2mmのV溝の凹形状2aを設けた。その下部にはピッチ4mm、深さ2mmのエンボス形状の凹形状2bを8mm間隔で設け、塗型剤16を塗布した。塗型剤16として、コロイダルシリカにアルミナ、シリカパウダーを混ぜ込んだスラリーを鋳枠の凹形状2a,2bに塗布し、乾燥させた。鋳鉄鋳枠10の内面の凹形状2a,2b以外の塗型剤は、乾燥前に拭き取り除去した。なお、塗型剤16の熱伝導率は8.4W/(m・K)、比熱は1260J/kg・K、密度は0.2g/cmである。
【0031】
(比較例1)
図9に示すように、鋳鉄鋳枠10の内面上部に凹形状を設けず、また、鋳鉄鋳枠10の内面に断熱材も貼り付けていない。
【0032】
(比較例2)
図10に示すように、鋳鉄鋳枠10の内面上部に幅70mmにわたり、3mm厚の断熱材9を貼り付けた。断熱材9の熱伝導率は、2.1W/(m・K)、比熱は1050J/kg・K、密度は0.8g/cmである。
【0033】
得られたアルミ合金のリングを目視にて観察し、引け巣欠陥の発生の有無を確認した。目視確認可能な引け巣欠陥が発生した場合を×、鋳物内部に目視確認困難な微細引け巣欠陥が発生した場合を△、鋳物表面および内部に引け巣欠陥が発生しない場合を○として評価をした。得られた結果を表2に示す。また、鋳枠または断熱材の再使用の可否についても同表中に記載した。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【0036】
表2より、本発明は従来技術と同等若しくはそれ以上の引け巣欠陥対策効果を有していることが確認された。
【符号の説明】
【0037】
1、101、201、301、401、501、601、701 冷やし金
2、102、202、302、402、502、602、702 凹形状
3 溶湯
4 鋳枠
5 等凝固時間曲面
6 押し湯
7 鋳型
8 上型
9 断熱材
10 鋳鉄鋳枠
11 鋳鉄定盤
12 断熱スリーブ
13 断熱ボード
14 湯口
15 石膏鋳型
16 塗型剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷し金を用いる鋳物の凝固制御方法において、冷やし金の溶湯接触面の一部または全部に凹形状を設け、該凹形状における溶湯凝固を遅らせることを特徴とする鋳物の凝固制御方法。
【請求項2】
前記凹形状のピッチが1〜4mmであり、深さがピッチの0.5〜1.0倍である請求項1記載の鋳物の凝固制御方法。
【請求項3】
前記凹形状内に前記冷し金よりも熱伝導率の低い材料を配置した請求項1または2記載の鋳物の凝固制御方法。
【請求項4】
前記熱伝導率の低い材料の熱伝導率が前記冷し金より20〜320W/(m・K)低い請求項3記載の鋳物の凝固制御方法。
【請求項5】
請求項1〜4のうちいずれか一項記載の鋳物の凝固制御方法を用いて鋳造されたことを特徴とするタイヤ成型用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−227965(P2010−227965A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77617(P2009−77617)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】