説明

鋳込成形装置および鋳込成形方法

【課題】成形空間内に複数の注入口から成形材料を注入した場合でも合流線が形成されることがない成形体を提供する。
【解決手段】成形型2内の成形材料が成形される成形空間3に成形材料を注入する複数の注入口61、62のうち、前記成形空間3に最も早く成形材料を注入する第一注入口61を除く他の注入口62と結合した他の注入管路53には開閉弁7が設置され、前記開閉弁7は第一注入口61から前記成形空間3を進入して前記他の注入口62から他の注入管路53方向への成形材料の進入を検知して他の注入管路53から他の注入口方向への流路を形成する開閉弁7である鋳込成形装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス成形体の成形に使用する鋳込成形装置および鋳込成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セラミックス成形体、陶磁器の成形方法には各種の方法があるが、なかでも多孔質の成形型内に水に分散したスラリー状の成形材料を流し込む圧力鋳込成形は、成形型の形状を忠実に再現した成形物を得る方法として広く用いられている。
大きな成形体を製造する場合には、成形材料の鋳込を速やかに行うために複数の注入口から成形部に成形材料を注入することが行われている。
【0003】
ところが、複数の注入口から注入された成形材料が成形空間において合流すると、成形空間へ到達する経路の違いによって成形材料の組成に微妙な変化が生じる結果、成形材料が合流した界面に相当する部分で合流線が生じ、成形体を焼成した後にも合流線に相当する部分にむらが形成されるという問題点があった。
鋳込成形において、合流線が生じることを防止するために、成形材料が排気孔近くで合流する時までにはスラリーに振動を与えるセラミックス成形体の鋳込成型方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、この鋳込方法では、成形型内の成形空間が環状に連通し、排気孔近くで合流するという特別な成形型を使用した場合に適用されるものであり、成形型の形状にかかわらず適用できるものではなかった。
【特許文献1】特開2005−153495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、セラミックス成形体、陶磁器等を、セラミックス原料を分散したスラリーを鋳込成形する際に、複数の注入口からスラリーの鋳込を行った場合に、合流線が形成されることがない、高品質の成形体を製造することができる鋳込成形装置および鋳込成形方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、成形型内の成形材料が成形される成形空間に成形材料を注入する複数の注入口のうち、前記成形空間に最も早く成形材料を注入する第一注入口を除く他の注入口と結合した他の注入管路には開閉弁が設置され、前記開閉弁は第一注入口から前記成形空間を進入して前記他の注入口から他の注入管路方向への成形材料の進入を検知して他の注入管路から他の注入口方向への流路を形成する開閉弁である鋳込成形装置である。
また、前記開放弁が前記成形空間から前記他の注入口から進入した成形材料によって前記開放弁の弁体に加わる圧力によって弁体が移動して、前記他の注入管路から前記他の注入口への流路が形成される前記の鋳込成形装置である。
【0006】
また、成形型内の成形材料が成形される成形空間に成形材料を注入する複数の注入口のうち、最も早く前記成形空間に成形材料を注入する第一注入口を除く他の注入口には、前記第一注入口から注入されて成形空間を進入して他の注入口から他の注入管路側へ成形材料の進入を検知した後に、他の注入管路から他の注入口側へ成形材料を注入させる前記の鋳込成形方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の鋳込成形装置および鋳込成形方法は、成形材料のスラリーを複数の注入口から成形型内の成形空間に注入する際に、成形空間から異なる注入口を経てスラリーが進入した後に、進入したスラリーと注入管路から供給したスラリーとを注入口に至る経路において合流させた後に注入口を通じて成形空間へスラリーを供給したので、成形された成形体には合流線は生じず、得られた成形体を焼成した場合にもむらがない成形体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、成形型の成形空間に成形材料を注入する鋳込成形において、異なる注入口から成形空間に注入された成形材料が成形型内の成形空間において合流することによって合流線が生じる点に着目し、異なる注入口から注入された成形材料の合流を注入管路から前記成形空間への注入口に至る部分において合流させることで実質的に合流線が生じない成形物を得ることが可能であることを見いだしたものである。
【0009】
以下に図面を参照して本発明を説明する。
図1は、本発明の一実施態様を説明する図であり、断面図を示している。
図1に示す鋳込成形装置1は、外形が直方体状の一対の上型2Aおよび下型2Bから構成される成形型2の4対を、成形型の上型と下型の会合する面を水平面となるように積層し、上部型押さえ板22Aと下部型押さえ板22Bによって固定されている。
成形型2の内部には成形材料を所定の形状に成形する成形空間3を有しており、成形空間3には、成形材料4が供給管5に設けた供給弁5aの動作によって、成形型の積層によって形成された供給管路51供給されて、成形空間3へと注入される。
成形空間3への注入は注入口までの距離が短い第一注入管路52を通じて成形空間3へ最初に注入する第一注入口61から成形材料4が注入される。
また、成形空間までの距離が長い他の注入管路53を通じて進入して開閉弁7へと達する。開閉弁7の他の注入管路53側の結合部に成形材料4が到達すると、開閉弁7の他の注入管路53側の結合部は弁体によって遮断されている。
【0010】
一方、第一注入口61から注入された成形材料4は、成形空間3を進行して他の注入口62から開放弁7側へと進入する。開閉弁7は、他の注入口62から進入した成形材料4の圧力等を感知して通路を遮断していた弁体を開放するので、注入管路53側から進入して開放弁7で遮断されていた成形材料4は他の注入口62を通じて開閉弁7に流入した成形材料と開放弁7内において合流して混合して後に、他の注入口62から成形空間3へと注入される。
【0011】
その結果、第一注入口61から成形空間3に注入された成形材料と他の注入口62から成形空間に注入された成形材料は、他の注入口62から成形空間に注入される前に混合されて一体のものとして成形空間内を充填することとなり成形空間内において合流線の形成を防止することができる。
【0012】
図2は、図1で示した鋳込成形装置における開閉弁の動作を説明する図であり、図1のAの部分を拡大して示す図である。
図2(A)に示すように、開閉弁7の他の注入管路53側に成形材料4が到達すると、開閉弁7の直角三角柱状弁体71の直角を形成する一方の面71aによって遮断される。直角三角柱状弁体71に対して他の注入管路53側から加わる圧力の方向には、直角三角柱状弁体の移動制限部8が設けられているために、直角三角柱状弁体71は移動することはできず、開閉弁7は閉鎖した状態を維持している。
【0013】
一方、図2(B)に示すように、他の注入口62から開閉弁7へと管路を進入した成形材料4は、直角三角柱状弁体71の直角を形成する他方の面71bに圧力を及ぼし始める。
図2(C)に示すように、前記の直角三角柱状弁体の他方の面71bに加わる圧力の方向には、移動を制限する部材を有さないので、他方の面71bに加わる圧力が大きくなると、直角三角柱状弁体71は、直角を形成する他方の面71bを直角方向に押圧する圧力によって、開閉弁7内を閉鎖位置から移動して、他の注入管路53から開放弁7内への流路を開放し、遮断されていた成形材料4は開閉弁7内に進入し、他の注入口62を通じて開閉弁7に流入した成形材料4と開放弁7内において合流して混合した後に、他の注入口62から成形空間3へと注入される。
【0014】
その結果、第一の注入口61から成形空間3に注入された成形材料と他の注入口62から成形空間に注入された成形材料は、注入口から成形空間に注入される前に混合されて一体のものとして成形空間内を充填することとなり成形空間内において合流線の形成を防止するとができる。
【0015】
図3は、本発明の他の実施形態を説明する図であり、他の開閉弁の動作を説明する図であり、図1においてAで示す部分に相当する断面図である。
図3(A)に示すように、開閉弁7には、第一弁体72と第二弁体73がそれぞれヒンジ74、75によって回動可能に取り付けられている。
第一弁体72は、他の注入管路53から開閉弁7への経路に位置しており、第二弁体73は、他の注入口62側の流路に位置している。また、第一弁体72には、第二弁体73が係合しており、第二弁体73が第一弁体72の流路の開放動作を妨げている。その結果、他の注入管路53から開閉弁7へ到達した成形材料4は、第一弁体72によって遮断されている。
【0016】
一方、図3(B)に示すように、他の注入口62を通じて開放弁7に到達した成形材料4は、第二弁体73に到達して、第二弁体73に圧力を及ぼすと、第二弁体73はヒンジ75を中心にして回動する結果、第一弁体72との係合個所が外れる。
その結果、第一弁体72は、成形材料4の圧力によってヒンジ74を中心に回動して開閉弁7に流路を形成するので第一弁体72によって遮断されていた成形材料4は開閉弁7内に進入し、他の注入口62を通じて開閉弁7に流入した成形材料4と開放弁7内において混合された後に、他の注入口62から成形空間3へと注入される。
このように、第一の注入口61から成形空間3に注入された成形材料と他の注入口62から成形空間に注入された成形材料は成形空間内で合流することはなく、開閉弁内において混合して一体のものとして成形空間内を充填することとなり成形空間内での合流線の形成を防止するとができる。
【0017】
図4は、本発明の他の実施形態を説明する図であり、他の開閉弁の動作を説明する図であり、断面図である。
図4(A)に示すように、開閉弁7には、ピストン状弁体76が装着されており、他の注入管路53に結合した開閉弁7の開口部9にはピストン状弁体の側壁面76aが位置しているので開口部9は遮断されている。このため、成形材料は他の注入管路53から開閉弁7の内部へと進入することはできない。
一方、第一注入口から注入された成形材料4は、図4(B)に示すように、成形空間3内を充填しながら進行して他の注入口62から開閉弁7内へ進入してピストン状弁体76をピストンの軸方向に押圧する。
【0018】
その結果、図4(C)に示すようにピストン状弁体76は移動してピストンの側壁面76aに位置する開口部9を通じて注入管路52と開閉弁7内とが連通することとなり、他の注入管路53を通じて供給された成形材料4は、成形空間を通じて進入した成形材料と開閉弁7内において合流、混合して一体化されて、他の注入口62から成形空間内に注入される。
【0019】
図5は、本発明の他の開閉弁の動作を説明する図であり、断面図である。
図1ないし図3は、いずれも成形空間を進んで他の注入口から開放弁内に進入した成形材料の圧力を駆動源として開閉弁が開放されるものであるのに対して、図5に示す開放弁は、動力駆動弁体を用いたものである。
図5(A)に示すように、開閉弁7は、電磁力、圧縮空気等の流体圧で駆動される動力駆動弁体77を有しており、他の注入管路53に結合した開閉弁7の開口部9は動力駆動弁体77によって遮断されており、他の注入管路53に達した成形材料は開閉弁7の内部へと進入することはできない。
【0020】
一方、開放弁7内には、成形材料4の進入を検知する成形材料検知手段10が配置されており、第一注入口から注入された成形材料4が、図5(B)および(C)に示すように、成形空間3内を充填しながら進行して他の注入口62から開閉弁7内へ進入し、成形材料検知手段10によって検知される。
成形材料検知手段10によって検知された検知信号は、開閉弁制御手段11に送られ、開閉弁制御手段11は動力駆動弁体77に駆動力を与えて開閉弁7を開放する。
その結果、他の注入管路53を通じて供給された成形材料4は、開閉弁7内において、成形空間を通じて進入した成形材料と合流、混合して、他の注入口62から成形空間内に注入されるので、合流線の発生がない成形体を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例、比較例を示し本発明を説明する。
実施例1
成形材料を図6に示す成形型を使用して成形した。成形材料は、天草撰上陶土 (個数平均粒径3.0μm)74.75質量部に、解膠剤としてケイ酸ナトリウム(和光純薬工業製)を0.25質量部添加した後、水分量25質量部の水を加えて攪拌混合を行った。得られたスラリーを用いて0.18MPaの圧力で成形型内に注入した。
【0022】
図6(A)は上型を示し、図6(B)は下型を示し、いずれも図1に示すように配置した成形型を上面から見た図を示す。
図6に示す成形型は、成形型の積み上げによって形成される供給管路51に接続した第一注入管路52および他の注入管路53を有している。また、成形空間3に対して最初に成形材料を注入する第一注入口61を除き、他の注入口62a、62b、62c、62dには、それぞれ図1〜図5で説明した開閉弁7を有している。
他の注入管路53を通じて他の注入口62a、62b、62c、62dの開閉弁7に到達した成形材料4は、開閉弁7によって進路を遮られている。
【0023】
その後、第一注入口61から成形空間3に進入して他の注入口62a、62b、62c、62dを通じて開閉弁7に到達した成形材料の作用によって開閉弁7の他の注入管路53側からの通路が開通して、他の注入管路53から供給された成形材料が、成形空間3を進入して他の注入口62a、62b、62c、62dから開閉弁7へと進入した成形材料と混合して、他の注入口62a、62b、62c、62dを通じて成形空間3内へ注入される。
【0024】
得られた成形体の質量は144.3gであり、厚さ4mmの成形体には合流線は生じず、また充填不足もなかった。
また、使用した成形型の各部の寸法を図7(A)を参照して以下に示す。単位はmmである。
各注入口の直径:3 a:160 b:160 c:110 d:25 e:60 f:30 g:40 h:80 i:30 j:20 k:15 m:18
【0025】
比較例1
成形材料の注入口を第一注入口のみとして、他の注入口からは成形材料を注入しないようにした点を除き実施例1と同様にして成形体を作製したところ、得られた成形体の質量は142.1gであった。また、図7(B)において注入口とともに示すように、充填不足部30が形成された。なお、注入口が一つであるので、合流線は形成されなかった。
【0026】
比較例2
他の注入口62a、62b、62c、62dには、開閉弁を設けなかった点を除き、実施例1と同様にして成形材料を注入したところ、他の注入口からも第一注入口とほぼ同時成形空間に注入された。得られた成形体の質量は144.2gであった。また、図7(C)において各注入口の位置とともに示すように、合流線40が形成された。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の鋳込成形装置および鋳込成形法は、成形材料のスラリーを成形型に設けた複数の注入口から成形型内の成形空間に注入する際に、成形空間に最も早く成形材料を注入する注入口とは異なる注入口へスラリーが逆流した後に、逆流したスラリーと注入管路から供給したスラリーとを注入口に至る経路において合流させた後に注入口を通じて成形空間へスラリーを供給したので、成形された成形体には合流線は生じず、得られた成形体を焼成した場合にもむらがない成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の一実施態様を説明する図である。
【図2】図2は、図1の一部を拡大して動作を説明する図である。
【図3】図3は、本発明の他の実施形態を説明する図である。
【図4】図4は、本発明の他の実施形態を説明する図である。
【図5】図5は、本発明の他の開閉弁の動作を説明する図である。
【図6】図6は、実施例において使用した成形型を説明する図である。
【図7】図7は、実施例の成形結果を説明する図である。
【符号の説明】
【0029】
1…鋳込成形装置、2…成形型、2A…上型、2B…下型、22A…上部型押さえ板、22B…下部型押さえ板、3…成形空間、30…充填不足部、4…成形材料、40…合流線、5…供給管、5a…供給弁、51…供給管路,52…第一注入管路、53…他の注入管路、61…第一注入口、62,62a、62b、62c、62d…他の注入口、7…開閉弁、71…直角三角柱状弁体、71a…直角を形成する一方の面、71b…直角を形成する他方の面、72…第一弁体、73…第二弁体、74…ヒンジ、75…ヒンジ、76…ピストン状弁体、76a…側壁面、77…動力駆動弁体、8…移動制限部、9…開口部、10…成形材料検知手段、11…開閉弁制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型内の成形材料が成形される成形空間に成形材料を注入する複数の注入口のうち、前記成形空間に最も早く成形材料を注入する第一注入口を除く他の注入口と結合した他の注入管路には開閉弁が設置され、前記開閉弁は第一注入口から前記成形空間を進入して前記他の注入口から他の注入管路方向への成形材料の進入を検知して他の注入管路から他の注入口方向への流路を形成する開閉弁であることを特徴とする鋳込成形装置。
【請求項2】
前記開放弁が前記成形空間から前記他の注入口から進入した成形材料によって前記開放弁の弁体に加わる圧力によって弁体が移動して、前記他の注入管路から前記他の注入口への流路が形成されることを特徴とする請求項1記載の鋳込成形装置。
【請求項3】
成形型内の成形材料が成形される成形空間に成形材料を注入する複数の注入口のうち、最も早く前記成形空間に成形材料を注入する第一注入口を除く他の注入口には、前記第一注入口から注入されて成形空間を進入して他の注入口から他の注入管路側へ成形材料の進入を検知した後に、他の注入管路から他の注入口側へ成形材料を注入させることを特徴とする鋳込成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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