説明

鋳造用金型のガスベント装置

【課題】中子を用いた鋳造作業において、金型から容易に取り外しが可能であり、メンテナンスを迅速かつ容易に行うことができる鋳造用金型のガスベント装置を提供する。
【解決手段】ガスベント装置10は、上型2に組み込まれ、上端側を上型2の上面に臨ませるとともに下端側をキャビティ6へ臨ませてなる筒状のガイド部材30と、ガイド部材30の内部にスライド自在に挿通し、中子Sに当接する下端部40aを有するとともに、上端部に外径よりも大径となる爪部42を有するベントパイプ40と、ガイド部材30の上端側に設置され、ベントパイプ40の上端側をスライド自在に挿通する挿通部54を有するとともにベントパイプ40に導入されたガスを排出するための排出孔56を有し、挿通されたベントパイプ56を挿脱自在に保持する保持装置53を有してなるホルダ50と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造用金型のガスベント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダヘッドなどのように、内部が複雑に入り組んだワークを鋳造する場合、樹脂製バインダで砂を結着して形成した中子を金型のキャビティ内に配置した状態で溶湯を金型に注湯し、硬化後に中子を崩壊させてワークを作製することが行われている。
このとき、高温の溶湯が中子に接することにより、樹脂製バインダが燃焼してガス化する。このガスが金型内に充満すると、溶湯がガスを巻き込んでしまい、巣孔や湯回り不良の原因となるため、例えば特許文献1に記載の鋳造用金型には、ガスを排出するためのガスベント装置が設けられている。
【0003】
ガスベント装置は、中空筒状のベントパイプなどで構成されており、例えば上型の中央部に貫通設置されている。
ベントパイプの下端部は、上型のキャビティ面から突出しており、型締め動作によって中子に当接して密着し、ガスを確実に排出するようになっている。
なお、ベントパイプは、ベントパイプの下端部が型締め動作によって中子に押されることによって、金型に対して上方に相対移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3811277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスベント装置は、ガスがヤニとなって付着することから、適当な頻度で金型から取り外し、清掃や交換などのメンテナンスを行うのが望ましい。
しかしながら、金型の周囲は、昇降装置やエジェクトピンなどが複雑に入り組んでいて比較的暗く、ガスベント装置を目視で確認し難かったり、手が入り難いといった問題から、メンテナンスが容易ではなかった。
【0006】
また、ベントパイプにヤニが付着すると、型開き時にベントパイプが自重では原位置(上型のキャビティ面から突出する位置)に復帰し難くなるため、特許文献1の鋳造用金型では、型開き動作に連動してベントパイプの上端部を押圧してベントパイプを強制的に原位置に復帰させる押圧手段を金型の上部に備えていた。そのため、金型の上部が一層複雑な構造となり、メンテナンス性の低下を招いていた。
また、押圧手段を備えることによって、メンテナンス頻度は減少するが、ベントパイプにヤニが一層付着することとなり、メンテナンスを行う際に非常に取り外し難く、メンテナンスに多大な手間を要していた。
【0007】
本発明は、これらの問題に鑑みて創案されたものであり、中子を用いた鋳造作業において、金型から容易に取り外しが可能であり、メンテナンスを迅速かつ容易に行うことができる鋳造用金型のガスベント装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る鋳造用金型のガスベント装置は、鋳造時にキャビティ内に設置された中子から発生するガスを金型外へ排出するための鋳造用金型のガスベント装置であって、前記金型に組み込まれ、上端側を前記金型の上面に臨ませるとともに下端側を前記キャビティへ臨ませてなる筒状のガイド部材と、前記ガイド部材の内部にスライド自在に挿通し、前記中子に当接する下端部を有するとともに、上端部に外径よりも大径となる爪部を有するベントパイプと、前記ガイド部材の上端側に設置され、前記ベントパイプの上端側をスライド自在に挿通する挿通部を有するとともに前記ベントパイプに導入されたガスを排出するための排出孔を有し、挿通された前記ベントパイプを挿脱自在に保持する保持手段を有してなるホルダと、を備えることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、ベントパイプが、ガイド部材の上部に設置されたホルダに、保持手段によって挿脱自在に保持されているので、型開き時に、ベントパイプをガイド部材の下方から引き抜くことによって容易に取り外すことができるとともに、ベントパイプをガイド部材の下方から挿入することによって容易に取り付けることができる。
そのため、ベントパイプの取り付け・取り外し作業を金型の周囲の入り組んだ場所で行う必要がなく、メンテナンス作業の容易化及び迅速化を図ることができる。
【0010】
また、前記ホルダは、前記挿通部と連通する複数の貫通孔を側部に有するのが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、ホルダの側部に、ベントパイプを挿通するための挿通部と連通する複数の貫通孔が形成されているので、仮に、ホルダの挿通部にガスが流入したとしても、ホルダの挿通部にガスが滞留することがない。そのため、ホルダの内周面へのヤニの付着が軽減され、ホルダのメンテナンス頻度を低減することができる。
【0012】
また、前記ホルダは、前記金型を型開きした状態において、その上端部を押圧装置によって押圧されるのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、ホルダの上端部が、型開きした状態において押圧装置に押圧されているので、ベントパイプを下方から挿入するときに、ホルダが浮き上がることがない。
また、本発明のベントパイプは下方から挿入するように構成されているので、金型の上方に押圧装置を設けても、メンテナンス作業を容易に行うことができる。
また、型開き時にホルダの上端部を押圧装置で押圧してホルダ及びベントパイプを原位置に復帰させることができるので、例えばホルダの側部に複数の貫通孔を設けることにより、ホルダの自重を小さくすることができる。
【0014】
また、前記保持手段は、磁石又はボールプランジャで構成されているのが好ましい。
【0015】
かかる構成によれば、保持手段が磁石またはボールプランジャで構成されているので、簡易な構成でベントパイプを挿脱自在に保持することができる。そのため、ガスベント装置の材料コストや製造コストを低減することができる。
【0016】
また、前記爪部は、前記ホルダ及び前記ガイド部材から前記ベントパイプを引き抜く際に、前記ホルダ及び前記ガイド部材の内周面に当接してヤニを掻き出すように構成されているのが好ましい。
【0017】
かかる構成によれば、ホルダ及びガイド部材からベントパイプを引き抜く際に、ベントパイプの上端部に設けた爪部によって、ホルダ及びガイド部材の内周面に付着したヤニを掻き出すことができるので、その後のメンテナンス作業を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金型から容易に取り外しが可能であり、メンテナンスを迅速かつ容易に行うことができる鋳造用金型のガスベント装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ガスベント装置を備えた鋳造金型装置の正面図である。
【図2】(a)は図1におけるA−A線の断面図である。(b)は(a)のB−B線の断面図である。
【図3】(a)はベントパイプの平面図、(b)はベントパイプの正面図である。
【図4】ガスベント装置の断面図であり、(a)は型締め時、(b)は型開き時、(c)はメンテナンス時、の状態をそれぞれ示している。
【図5】変形例に係るガスベント装置の断面図であり、(a)はベントパイプを取り外した状態、(b)はベントパイプを取り付けた状態、をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の番号を付し、重複する説明は省略する。
【0021】
図1に示すように、鋳造金型装置1は、例えばシリンダヘッドを鋳造するための装置であり、昇降自在な上型2と、固定型である下型3と、水平方向に移動自在な右型4、左型5、前型及び後型(図示省略)と、を備えている。これら複数の金型を型締めすることによりキャビティ6が形成される。
【0022】
キャビティ6には、複数の中子S1,S2,S3,S4(以下、まとめて「中子S」という場合がある。)が予め設置されている。中子Sは、樹脂製バインダによって砂を結着して所望の形状に形成したものである。本実施形態では、中子S1は、シリンダヘッドの上部隔壁の上方の空間を形成するものである。また、中子S2は、シリンダヘッドの上部隔壁の下方の空間を形成するものである。また、中子S3,S4は、シリンダヘッドの吸気通路と排気通路を形成するものである。
【0023】
上型2は、一対の支持枠7,7に固定されており、この支持枠7は図示しないシリンダ機構によって昇降駆動される。支持枠7は、エジェクトピン71を支持するエジェクトプレート72を有している。エジェクトプレート72は、支持枠7に対して上下にスライド自在に構成されており、支持枠7のバネ座73,73に設置されたスプリング74,74によって上方に付勢されている。支持枠7,7には、ストッパ75,75が設けられており、エジェクトプレート72の上限位置を規制している。
エジェクトピン71は、鋳造した製品を中子Sとともに鋳造金型装置1から分離する部材である。各エジェクトピン71の上端側は、エジェクトプレート72の下面に固定されている。各エジェクトピン71の下端側は、上型2に形成されたエジェクト孔(図示省略)に摺動自在に挿入されている。
エジェクトプレート72の中央部には、型開き時に、後記するホルダ50を押圧するための押圧装置78が設けられている。押圧装置78の下端部は、エジェクトプレート72の下面から下方に向かって突出している。
【0024】
鋳造金型装置1を型締めした状態において、エジェクトプレート72はストッパ75に当接しており、エジェクトピン71の下端部は中子S1に当接している。鋳造金型装置1の上方には、押圧部材76,76が設置されている。鋳造金型装置1は、型開きすると、上型2の上昇に伴いエジェクトプレート72の上部に設けたストッパ77,77が押圧部材76,76に接触し、エジェクトプレート72及びエジェクトピン71をスプリング74のバネ力に抗して押下げるようになっている。これにより、上型2の下面からエジェクトピン71の下端部が突出し、鋳造されたシリンダヘッド及び中子Sを上型2から分離することができる。
【0025】
下型3は、キャビティ6に溶湯を下方から充填するための注入孔(図示省略)を有している。また、右型4及び左型5は、中子S3,S4から発生するガスを抜くためのガスベント4a,5a及びガス通路4b,5bをそれぞれ有している。また、上型2は、中子S1からのガスを排出するためのガスベント2a,2a及びガス通路2b,2bを有している。
ガスベント2a,4a,5aは、中子S1,S3,S4の表面に直接開口している。
【0026】
さらに、上型2は、中子S2からのガスを排出するためのガスベント装置10を備えている。ガスベント装置10は、メンテナンスを容易にするために、上型2に対して着脱自在に構成されている。
ガスベント装置10は、筒状のガイド部材30と、ベントパイプ40と、ホルダ50と、を備えている。
【0027】
図2に示すように、ガイド部材30は、ベントパイプ40のスライドをガイドする部材であり、上型2に上下方向に貫通形成された取付孔21に嵌め込まれている。
ガイド部材30は、例えば円筒形状を呈しており、軸方向に貫通形成されたガイド孔31を有している。ガイド孔31の上端側は、上型2の上面に連通しており、ガイド孔31の下端側は、キャビティ6に連通している。また、ガイド孔31の上端側には、ガイド孔31よりも径の大きな大径部31aが形成されている。大径部31aには、後記するホルダ50の嵌合部52が挿入されている。また、ガイド部材30は、径方向に突出する円環状の係止部32を上端部に有している。 係止部32は、ガイド部材30を上型2に設置した状態において、取付孔21の上端部に形成された段部21aに係止される。また、ガイド部材30の下端部30aは、ガイド部材30を上型2に設置した状態において、上型2の下面(キャビティ面)から突出するとともに、中子S1の下面と面一となっている。つまり、ガイド部材30の下端部30aは、中子S1を貫通している。
【0028】
ベントパイプ40は、中子S2から発生するガスを金型外に排出するパイプである。ベントパイプ40は、ガイド部材30のガイド孔31及び後記するホルダ50の挿通部54にスライド可能に設置されている。
ベントパイプ40は、例えば円筒形状を呈する金属製部材であり、軸方向に貫通形成されたガス抜き孔41を有している。本実施形態では、ベントパイプ40は、鉄などの磁性体材料で構成されている。また、ベントパイプ40は、ガイド部材30及びホルダ50の内周面に付着したヤニを掻き出すための爪部42を上端部に有している。
【0029】
図3(a)(b)に示すように、爪部42は、ベントパイプ40の上端部を一旦絞ったあとに外側に折り返して形成されている。爪部42には、軸方向に延びる4つのスリット42aが90°間隔で設けられており、変形し易くなっている。
爪部42の径方向の寸法D1は、ベントパイプ40の外径D2よりも大きくなっている。これにより、爪部42は、ベントパイプ40をガイド部材30及びホルダ50に挿入したときに、ガイド部材30及びホルダ50の内周面に向かって付勢されることとなる。
また、爪部42の上面42bは、径方向外側に向かうほど下端側に近づくように傾斜している。これにより、ベントパイプ40をガイド孔31に挿入することが容易になる。
【0030】
図2に示すように、ベントパイプ40の下半部(下端側)43は、ガイド部材30のガイド孔31にスライド可能に挿入されている。
ベントパイプ40の下端部40aは、ベントパイプ40をガイド部材30に設置した状態において、ガイド部材30の下端部30aよりも下方に突出している。また、ベントパイプ40の下端部40aは、型締め時に中子S2の上面に当接している。
ベントパイプ40の上半部(上端側)44は、後記するホルダ50に挿入されている。
【0031】
ホルダ50は、ガイド部材30に下方から挿入されたベントパイプ40を保持する部材である。ホルダ50は、ホルダ本体51と、ガイド部材30の大径部31aに嵌合する嵌合部52と、ベントパイプ40を保持する保持装置53と、を備えている。ホルダ50は、上型2の上方からガイド部材30に取り付けられている。
【0032】
ホルダ本体51は、例えば四角筒形状(図2(b)参照)を呈する厚肉の金属製部材であり、ベントパイプ40の上半部44を挿入するための穴である挿通部54を有している。
嵌合部52は、ホルダ本体51よりも小径の円筒形状を呈しており、ホルダ本体51の下端部51aから下方に延出している。嵌合部52は、大径部31aにスライド可能に嵌め入れられている。
挿通部54は、ベントパイプ40の外径D2(図3参照)と略同径に形成されている。挿通部54は、嵌合部52の下端に開口している。
【0033】
ホルダ本体51の上端部51bには、ベントパイプ40から立ち昇るガスを排出するための孔である排気孔56が形成されている。排気孔56は、ベントパイプ40の外径よりも小径に形成されており、挿通部54と連通している。
また、ホルダ本体51の側部には、挿通部54と連通する複数の貫通孔55が形成されている。貫通孔55は、ベントパイプ40とガイド部材30との間から流出したガスがホルダ50の挿通部54に流入した場合に、そのガスを排出するための孔である。本実施形態では、貫通孔55は、ホルダ本体51の各側部に4つずつ縦列に形成されている。
【0034】
保持手段たる保持装置53は、例えば磁石で構成されており、ホルダ本体51の一の側部に設けられた4つの貫通孔55のうちの上側2つの貫通孔55の内部に設置されている。保持装置53は、ベントパイプ40を磁力によって引き付けることで、ベントパイプ40を挿脱自在に保持している。
【0035】
つづいて、ガスベント装置10の動作について図4(適宜図1、図2、図3)を参照して説明する。図4は、ガスベント装置の断面図であり、(a)は型締め時、(b)は型開き時、(c)はメンテナンス時、の状態をそれぞれ示している。
【0036】
鋳造金型装置1を用いて、例えばシリンダヘッドを鋳造する場合には、まず、鋳造金型装置1を型開きして、下型3の上に中子Sを設置するとともに、上型2の取付孔21にガスベント装置10をセットする。
【0037】
そして、図4(a)に示すように、鋳造金型装置1を型締めすると、ベントパイプ40の下端部40aが中子S2の上面に当接する。そして、その後も上型2が降下を続けることによって、ベントパイプ40及びホルダ50は上型2に対して相対的に上方に移動する。これにより、ベントパイプ40の下端部40aが中子S2の上面に確実に当接するとともに、ホルダ本体51の下端部51aが上型2(より詳しくはガイド部材30)から離間した状態となる。なお、この状態でも、ホルダ50の嵌合部52は、ガイド部材30の大径部31aに嵌入している。
【0038】
この状態で、下型3の注入孔(図示省略)からキャビティ6に溶湯を下方から充填することにより、シリンダヘッドが鋳造される。中子Sに含まれる樹脂製バインダは、溶湯の熱によって燃焼してガス化し、ガスベント装置10や、他のガスベント2a,4a,5aを通って金型外に排出される。
このとき、ベントパイプ40とガイド部材30との間を通ってガスが流出し、ホルダ50の挿通部54に流入することがあるが、ホルダ本体51の側部には複数の貫通孔55が設けられているので、これらの貫通孔55からガスが排出されるため、ヤニの付着が抑制される。
【0039】
溶湯が冷えて固化した後、図4(b)に示すように、鋳造金型装置1を型開きする。このとき、ベントパイプ40は、ホルダ50の保持装置53に保持されているので、上型2とともに上方へ移動する。
ホルダ50は、複数の貫通孔55が設けられているため自重が小さく、ホルダ50の自重だけでは原位置に復帰しない(下方に移動しない)場合がある。本実施形態では、上型2の上方に配置されているエジェクトプレート72のホルダ50に対応する位置に、押圧部材78が設置されているので、型開きすると、ホルダ本体51の上端部51bに押圧部材78が当接し、ホルダ50及びベントパイプ40が下方へ移動する。これにより、ホルダ50及びベントパイプ40が原位置に復帰した状態となる。
【0040】
鋳造作業を繰り返すうちに、ベントパイプ40やガイド部材30に付着するヤニが増加し、ベントパイプ40がスライドし難くなる。そのため、操作者は、所定の頻度でメンテナンス(清掃又は交換)を行う必要がある。
そこで、操作者は、図4(c)に示すように、ベントパイプ40の下端部40a付近を把持して下方に引き抜くことにより、ベントパイプ40を上型2から取り外す。このとき、鋳造した製品を搬出した後であれば、上型2の下方のキャビティにはなにもないので、ベントパイプ40を容易に発見して引き抜くことができる。
また、ベントパイプ40は、保持装置53である磁石によって挿脱可能にホルダ50に保持されているので、ベントパイプ40を下方に引き抜くだけで容易に取り外すことができる。
【0041】
このとき、ベントパイプ40の先端側に形成された爪部42が、挿通部54の内周面及びガイド孔31の内周面に摺動することによって、ここに付着していたヤニが掻き出される。なお、爪部42は、挿通部54及びガイド孔31よりも大径に形成されており、挿通部54の内周面及びガイド孔31の内周面に向かって付勢されているので、ヤニをしっかりと確実に掻き出すことができる。
【0042】
次に、操作者は、ベントパイプ40を抜き取った後に、ガイド部材30のガイド孔31及びホルダ50の挿通部54を、ワイヤブラシなどを用いて清掃する。このとき、ガイド部材30のガイド孔31及びホルダ50の挿通部54に付着していたヤニは、ベントパイプ40の爪部42によって予め掻き出されているので、清掃作業の負担が軽減される。
【0043】
交換及び清掃が終了したら、操作者は、ベントパイプ40を把持して、上型2の下方からガイド部材30のガイド孔31及びホルダ50の挿通部54に再び挿入する。このとき、爪部42の上面42bは、径方向外側に向かうほど下端側に近づくように傾斜しているので、ベントパイプ40をガイド孔31に容易に挿入することができる。
ホルダ50の挿通部54に挿入されたベントパイプ40は、保持装置53に保持される。保持装置53は、磁石で構成されているので、ベントパイプ40をホルダ50に保持させる際に、作業者がホルダ50に手を触れて操作する必要がない。そのため、ベントパイプ40の取り付け作業が容易になる。
以上により、メンテナンス作業が完了する。
【0044】
以上のように、本実施形態にかかるガスベント装置10によれば、ベントパイプ40が、ガイド部材30の上部に設置されたホルダ50に、磁石で構成された保持装置53によって挿脱自在に保持されているので、型開き時に、ベントパイプ40をガイド部材30の下方から引き抜くことによって容易に取り外すことができるとともに、ベントパイプ40をガイド部材30の下方から挿入することによって容易に取り付けることができる。
そのため、ベントパイプ40の取り付け・取り外し作業を金型の周囲の入り組んだ場所で行う必要がなく、また、作業者がホルダ50に手を触れて操作する必要がないので、メンテナンス作業の容易化及び迅速化を図ることができる。
【0045】
また、ホルダ50の側部には、挿通部54と連通する複数の貫通孔55が穿設されているので、仮に、挿通部54にガスが入り込んだとしても、貫通孔55からガスが排出されるため、挿通部54にヤニが付着することを軽減することができる。これにより、ホルダ50のメンテナンス頻度を低減することができる。
【0046】
また、ベントパイプ40の上端部に爪部42が設けられているので、ホルダ50及びガイド部材30からベントパイプ40を引き抜く際に、爪部42によって、挿通部54及びガイド孔31の内周面に付着したヤニを掻き出すことができるので、その後のメンテナンス作業を簡略化することができる。
【0047】
つづいて、変形例に係るガスベント装置20について、図5を参照して説明する。
図5に示すように、変形例に係るガスベント装置20は、磁石ではなくボールプランジャ60によって保持手段が構成されている点が、前記したガスベント装置10と異なっている。
【0048】
ボールプランジャ60は、ホルダ50の最も上端側の貫通孔55に取り付けられている。ボールプランジャ60は、ケース61と、ボール62と、スプリング63と、ナット64と、を備えている。
【0049】
ケース61は、一端側(挿通部54側)が開口した有底円筒形状の部材であり、外周面にねじ溝(図示省略)が形成されている。ケース61は、ホルダ50の最も上端側の貫通孔55の内周面に形成されたねじ溝に螺着している。
ボール62は、ケース61の内部に設置されている。ケース61の開口部は、ボール62の直径よりも狭くなっている。
スプリング63は、ケース61の底部とボール62との間に配置されており、ボール62を挿通部54側に向かって付勢している。これにより、ボール62の一部が、ケース61の開口部から出没するようになっている。
ナット64は、ケース61の外周面に螺着することにより、ケース61をホルダ50に固定している。
【0050】
かかる構成によれば、図5(a)に示すように、ベントパイプ40をガイド孔31及び挿通部54に挿入する前の状態において、ボールプランジャ60のボール62は、挿通部54内に突出した状態になっている。
そして、ベントパイプ40を挿通部54に挿入すると、図5(b)に示すように、ボール62がベントパイプ40の外周面に乗り上げてケース61内に没入するとともに、スプリング63の付勢力によってボール62がベントパイプ40の外周面を押圧することとなる。これにより、ベントパイプ40が挿通部54の内周面に押し付けられ、その摩擦力によってベントパイプ40がホルダ50に保持されることとなる。
また、ベントパイプ40とホルダ50との摩擦力に抗して、ベントパイプ40を下方に引っ張ることにより、ベントパイプ40をホルダ50及びガイド部材30から容易に引き抜くことができる。
このように、変形例に係るガスベント装置20では、ベントパイプ40の取り付け及び取り外しの際に、操作者がホルダ50を操作する必要がなく、ベントパイプ40のメンテナンスが容易になる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0052】
例えば、本実施形態では、ホルダ50の側部に挿通部54と連通する複数の貫通孔55を設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、貫通孔55を設けなくても良い。
【0053】
さらに、ホルダ50の自重が十分に大きく、型開き時にホルダ50及びベントパイプ40が自重によって降下して原位置に復帰するのであれば、押圧装置78を省略してもよい。
【0054】
また、本実施形態では、シリンダヘッドの鋳造を例にとって説明したが、シリンダヘッド以外のものを鋳造する場合に適用してもよいことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
1 鋳造金型装置
10 ガスベント装置
30 ガイド部材
40 ベントパイプ
42 爪部
50 ホルダ
53 保持装置(保持手段)
78 押圧装置
S 中子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造時にキャビティ内に設置された中子から発生するガスを金型外へ排出するための鋳造用金型のガスベント装置であって、
前記金型に組み込まれ、上端側を前記金型の上面に臨ませるとともに下端側を前記キャビティへ臨ませてなる筒状のガイド部材と、
前記ガイド部材の内部にスライド自在に挿通し、前記中子に当接する下端部を有するとともに、上端部に外径よりも大径となる爪部を有するベントパイプと、
前記ガイド部材の上端側に設置され、前記ベントパイプの上端側をスライド自在に挿通する挿通部を有するとともに前記ベントパイプに導入されたガスを排出するための排出孔を有し、挿通された前記ベントパイプを挿脱自在に保持する保持手段を有してなるホルダと、
を備えることを特徴とする鋳造用金型のガスベント装置。
【請求項2】
前記ホルダは、前記挿通部と連通する複数の貫通孔を側部に有することを特徴とする請求項1に記載の鋳造用金型のガスベント装置。
【請求項3】
前記ホルダは、前記金型を型開きした状態において、その上端部を押圧装置によって押圧されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋳造用金型のガスベント装置。
【請求項4】
前記保持手段は、磁石又はボールプランジャで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鋳造用金型のガスベント装置。
【請求項5】
前記爪部は、前記ホルダ及び前記ガイド部材から前記ベントパイプを引き抜く際に、前記ホルダ及び前記ガイド部材の内周面に当接してヤニを掻き出すように構成されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鋳造用金型のガスベント装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−179357(P2010−179357A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27521(P2009−27521)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】