説明

鋳造装置及び鋳造方法

【課題】プランジャスリーブに注入された溶湯に超音波振動を効率的に付加することができる鋳造装置を提供すること。
【解決手段】合金材の溶湯Xをプランジャスリーブ21に注入しダイカスト製品を製造する鋳造装置1において、超音波振動を発生する超音波振動装置100との連動によって超音波振動させるスリーブ部品(振動片23)を設け、スリーブ部品(振動片23)は、プランジャスリーブ21の一部を構成すると共に、プランジャスリーブ21への溶湯注入時に該溶湯Xに接触して超音波振動を付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
合金材の溶湯をプランジャスリーブに注入しダイカスト製品を製造する鋳造装置及び鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プランジャスリーブ内に給湯された溶湯に超音波振動を付加する鋳造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-346708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の鋳造方法にあっては、プランジャスリーブの側面側から超音波振動を加えるものであるが、固定型に固定されたプランジャスリーブの下方側面にホーンが一体になった超音波振動子を取り付けている。そのため、プランジャスリーブの軸方向に沿って流れてきた溶湯に超音波振動を付加することになり、十分な振動効果を与えることはできなかった。
すなわち、超音波振動ホーンで振動効果を付与できる範囲は、ホーン先端部の周囲だけと限定的になっている。プランジャスリーブの軸方向に沿って流れてきた溶湯に超音波振動を付加する場合では、ホーン先端部近傍を流れる溶湯にしか振動効果を与えることができず、プランジャスリーブ内の溶湯に効率的に超音波振動を付加することは難しかった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、プランジャスリーブに注入された溶湯に超音波振動を効率的に付加することができる鋳造装置及び鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、合金材の溶湯をプランジャスリーブに注入しダイカスト製品を製造する鋳造装置において、
超音波振動を発生する超音波振動装置との連動によって超音波振動させるスリーブ部品を設け、
前記スリーブ部品は、前記プランジャスリーブの一部を構成すると共に、前記プランジャスリーブへの溶湯注入時に該溶湯に接触して超音波振動を付加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の鋳造装置では、前記プランジャスリーブの一部を構成するスリーブ部品が、プランジャスリーブへの溶湯注入時に接触して超音波振動することで、プランジャスリーブに注入される時に溶湯に超音波振動を付加する。このため、溶湯がプランジャスリーブの軸方向に沿って流れてしまう前に、効果的に超音波振動を付加することができ、十分な振動効果を与えることができる。つまり、溶湯注入時にこの溶湯に接触するスリーブ部品が超音波振動することになり、プランジャスリーブ内で振動効果を効率的に与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の鋳造装置を示す全体構造図である。
【図2A】実施例1の鋳造装置の要部拡大図である。
【図2B】図2AにおけるA−A断面図である。
【図3A】実施例1における鋳造方法を示す説明図であり、(a)は溶湯汲み上げ手順を示し、(b)は溶湯搬送手順を示す。
【図3B】実施例1における鋳造方法を示す説明図であり、(c)は溶湯注入手順を示す。
【図3C】実施例1における鋳造方法を示す説明図であり、 (d)は溶湯射出手順を示し、(e)は溶湯凝固手順を示す。
【図3D】実施例1における鋳造方法を示す説明図であり、(f)は型開き手順を示し、(g)は製品離型手順を示す。
【図4】アルミニウム-シリコン合金の状態図である。
【図5】ダイカスト製品におけるデンドライトサイズと引張り強さとの関係特性を示す図である。
【図6】デンドライトの微細化状態を示す説明図であり、(a)は多数のデンドライトが生成した場合を示し、(b)は生成したデンドライトが粉砕した場合を示す。
【図7】(a)は加振停止してから完全凝固するまでの時間とデンドライトサイズとの関係特性を示す図であり、(b)はホーンからの距離とデンドライトサイズとの関係特性を示す図である。
【図8】実施例2の鋳造装置の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の鋳造装置及び鋳造方法を実施するための形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の鋳造装置を示す全体構造図である。図2は、実施例1の鋳造装置の要部拡大図である。
【0011】
実施例1の鋳造装置1は、図1に示すように、水平方向に溶湯Xを射出する横型ダイカストマシンであり、ラドル10と、射出部20と、金型30と、超音波振動装置100と、を備えている。
【0012】
ラドル10は、合金材の溶融金属である溶湯Xを、保持炉2(図3A(a)参照)から一定量汲み上げ、射出部20の給湯口21aまで運搬して注湯するものである。このラドル10は、保持炉2から溶湯Xを汲み取った後、射出部20の給湯口21aの上方まで移動し、角度を傾けて徐々に溶湯Xを射出部20内に注ぎ込むように構成されている。
【0013】
なお、合金材は、ここではアルミニウムにシリコンを含んだアルミニウム合金である。保持炉2では、シリコンを含んだアルミ合金を溶湯Xの状態で保持している。
【0014】
射出部20は、給湯口21cから注ぎ込まれた溶湯Xを金型30の中に高圧力を加えて圧入、すなわち射出するものである。この射出部20は、金型30に固定されたプランジャスリーブ21と、プランジャスリーブ21内を摺動するプランジャー22と、を有している。
【0015】
プランジャスリーブ21は、スリーブ本体21aと、このスリーブ本体21aの側面に嵌合する振動片23と、を有している。
【0016】
スリーブ本体21aは、両端が開放した中空の筒形状を呈しており、一端部が金型30に固定されると共に、この金型30から突出した他端部近傍に上方に開放した給湯口21cが形成されている。また、この給湯口21cに対向する位置に振動片23が嵌合する振動開口21bが形成されている。さらに、このスリーブ本体21aは、金型30の後述する湯道部31aに連通するように配置されている。このスリーブ本体21aは、ここでは熱間ダイス鋼のSKD61により形成されている。
【0017】
振動片23は、超音波振動装置100との連動によって超音波振動させられるスリーブ部品であり、スリーブ本体21aの外周面に沿う曲率で湾曲した板形状を呈している。そして、この振動片23は、スリーブ本体21aの振動開口21bに嵌合することで、このスリーブ本体21aと共にプランジャスリーブ21を形成する。また、振動開口21bは給湯口21cに対向する位置に形成されているので、給湯口21cから溶湯Xが注ぎ込まれた時、この溶湯Xは振動片23の内側面23aに接触する。そして、この振動片23の外面側23bには、超音波振動装置100の後述する超音波振動子101が固定されている。さらに、この振動片23と振動開口21bの間には、弾力性のあるシール材Sが設けられ、溶湯Xの漏れを防止する。この振動片23は、ここでは、例えば窒化ケイ素やサイアロン等の耐熱衝撃性の高いセラミック材によって形成されている。なお、「セラミック材」とは、金属酸化物等を主原料として高温での熱処理によって焼き固めた材料であり、一般的に金属材よりも熱伝導率が低い。例えば、スリーブ本体21aを形成する熱間ダイス鋼SKD61の熱伝導率は34W/(m・K)であり、窒化ケイ素の熱伝導率は13W/(m・K)であり、サイアロンの熱伝導率は27W/(m・K)である。
【0018】
プランジャー22は、プランジャスリーブ21に嵌合するプランジャチップ22aと、このプランジャチップ22aを摺動するプランジャロッド22bと、を有している。ここで、プランジャロッド22bは、油圧又は電動で伸縮作動する射出シリンダー22cによって駆動され、プランジャチップ22aと一体的にプランジャスリーブ21の軸方向に沿って出入りする。
【0019】
金型30は、固定型31と、可動型32と、を有し、可動型32が固定型31に近接して型締めされたときに、各型31,32の合わせ面に形成されている凹凸によりキャビティ33及びゲート34が形成される。
【0020】
固定型31は、固定盤35に固定されている。この固定盤35には、プランジャスリーブ21が挿入固定される貫通孔が形成されている。そして、固定型31には、ゲート34とプランジャスリーブ21を連通する湯道部31aが形成されている。
【0021】
可動型32は、固定盤35に対して近接離反する可動盤36に固定され、可動盤36と一体的に移動可能となっている。さらに、この可動型32には、複数の押出しピン37,…が設けられている。
【0022】
各押出しピン37は、キャビティ33に溶湯Xを射出して製造されたダイカスト製品を金型30から分離するものである。各押出しピン37は、それぞれ可動型32を貫通すると共に、先端面37aがキャビティ33内に臨んでいる。そして、各押出しピン37の基端部37bは、キャビティ33とは反対側の位置に設けられた押出し板38に固定されている。この押出し板38は、駆動機構38aによってキャビティ33に対して離接動するものであり、複数の押出しピン37,…を一斉に可動型32から出没させる。
【0023】
超音波振動装置100は、超音波振動を発生する超音波振動子101と、この超音波振動子101を制御する振動制御部102と、を備えている。そして、超音波振動子101は、振動片23の外周面に固定され、この振動片23をプランジャスリーブ21の径方向(図2では上下方向)に沿って振動させる。なお、振動片23のプランジャスリーブ21内に面した内側面23aが、超音波振動を放射する振動放射面となっている。
【0024】
さらに、ここでは、超音波振動装置100の超音波振動子101は、プランジャスリーブ21内への溶湯Xの注入開始から、この溶湯Xが固相線温度以上に保たれている間の時間を最大時間として注入終了までの間、超音波振動を発生する。このとき、振動片23は、超音波振動子101によって超音波振動させられるため、プランジャスリーブ21内への溶湯Xの射出開始から、この溶湯Xが固相線温度以上に保たれている間の時間を最大時間として、注入が終了するまでの間プランジャスリーブ21内の溶湯Xに超音波振動を付加するようになっている。すなわち、振動制御部102は、図示しない温度センサによって検出されたプランジャスリーブ21内の溶湯温度が固相線温度以下になるか、所定量の溶湯Xを注入し終わるか、どちらか早い方までを基準として、超音波振動子101が超音波振動を発生するように制御する。
【0025】
次に、実施例1の鋳造方法について説明する。
図3Aは、実施例1における鋳造方法を示す説明図であり、(a)は溶湯汲み上げ手順を示し、(b)は溶湯搬送手順を示す。図3Bは、実施例1における鋳造方法を示す説明図であり、(c)は溶湯注入手順を示す。図3Cは、実施例1における鋳造方法を示す説明図であり、 (d)は溶湯射出手順を示し、(e)は溶湯凝固手順を示す。図3Dは、実施例1における鋳造方法を示す説明図であり、(f)は型開き手順を示し、(g)は製品離型手順を示す。
【0026】
実施例1の鋳造方法では、予め金型30の可動型32を固定型31に近接させ、各型31,32の合わせ面にキャビティ33及びゲート34を形成しておく。また、保持炉2内には、合金材の溶湯Xを貯蔵しておく。
【0027】
溶湯汲み上げ手順では、図3A(a)に示すように、ラドル10を水平状態から傾けて保持炉2内に浸漬し、ラドル10内に必要な溶湯量を取り入れた後、ラドル10を傾けて水平状態に戻し、保持炉2から引上げる。
【0028】
溶湯運搬手順では、図3A(b)に示すように、溶湯汲み上げ手順で汲み上げた溶湯Xをラドル10内に保持したまま、このラドル10をプランジャスリーブ21の給湯口21a上方まで移動し、溶湯Xを運搬する。
【0029】
溶湯注入手順では、図3B(c)に示すように、ラドル10の吐出口10aを給湯口21aに合わせ、ラドル10を傾けて溶湯Xを射出部20のプランジャスリーブ21内に注ぎ込む。所定量の溶湯Xを注ぎ入れたら、ラドル10を再び傾けて水平状態に戻し、保持炉2の上方に移動させて次のショットに備える。このとき、プランジャー22は、プランジャスリーブ21の端部位置に後退している。
【0030】
一方、この注入開始と同時に超音波振動装置100の振動制御部102はONとなり、超音波振動子101を駆動する。これにより、振動片23が振動し、内側面23aから超音波振動が増幅放射される。
【0031】
このとき、振動片23が給湯口21aに対向する位置に設けられているので、この内側面23aがプランジャスリーブ21内に注入された溶湯Xに接触し、この溶湯Xに超音波振動が付加される。
【0032】
なお、この溶湯注入手順が、超音波振動を付加しながら、溶湯Xをプランジャスリーブ21に注入する加振注入工程に相当する。
【0033】
溶湯射出手順では、図3C(d)に示すように、溶湯注入手順での注湯が完了すると、即座に射出シリンダー22cによってプランジャロッド22bが駆動され、これに連結したプランジャチップ22aと共に高速で前進する。これにより、プランジャスリーブ21内の溶湯Xは、固定型31の湯道部31a、ゲート34を順に通り、キャビティ33内に射出充填される。
【0034】
溶湯凝固手順では、図3C(e)に示すように、キャビティ33内の溶湯Xが凝固してダイカスト製品Yとなるまで所定時間型締めする。
【0035】
この溶湯射出手順及び溶湯凝固手順が、注入工程で注入された溶湯Xをキャビティ33内に射出し、凝固させてダイカスト製品Yを製造するダイカスト製造工程に相当する。
【0036】
型開き手順では、図3D(f)に示すように、可動型32を固定型31から離間するように移動させ、型開きを行う。このとき、溶湯Xが凝固してできたダイカスト製品Yは、可動型32側に密着した状態で、可動型32と共に移動する。
【0037】
製品離型手順では、図3D(g)に示すように、押出し板38をキャビティ33側に移動させ、複数の押出しピン37,…は一斉に可動型32から突出する。これにより、ダイカスト製品Yは可動型から分離し、排出される。
【0038】
次に、作用を説明する。
まず、「ダイカスト製品の特性」の説明を行い、続いて、実施例1の鋳造装置における作用を、「超音波振動付加作用」、「デンドライト増加作用」、「デンドライト破砕作用」、「鋳造方法における特徴的作用」に分けて説明する。
【0039】
[ダイカスト製品の特性]
図4は、アルミニウム-シリコン合金の状態図である。図5は、ダイカスト製品におけるデンドライトサイズと引張り強さとの関係特性を示す図である。図6は、デンドライトの微細化状態を示す説明図であり、(a)は多数のデンドライトが生成した場合を示し、(b)は生成したデンドライトが粉砕した場合を示す。図7は、(a)は加振停止してから完全凝固するまでの時間とデンドライトサイズとの関係特性を示す図であり、(b)はホーンからの距離とデンドライトサイズとの関係特性を示す図である。
【0040】
図4において、Ta-C曲線は液相線であり、D-C直線は固相線である。また、アルミニウム-シリコン合金は、液相線温度以上では液相になり、固相線温度以下では固相になり、液相線温度と固相線温度の間では液相と固相が共存(固液共存相)する。
【0041】
一般的に、シリコン含有率がC点未満のアルミニウム合金からなるダイカスト製品の組織は、初晶α-Al固溶体のデンドライト結晶(以下、デンドライトという)と、共晶とで構成されている。
【0042】
シリコンの配合割合がA%のアルミニウム-シリコン合金は、図4に示す点aでは、液相線温度以上であるため液相、いわゆる溶湯Xの状態になる。このとき、デンドライト及び共晶はいずれも生成していない。
【0043】
そして、温度を下げていくと、点aは次第に下がっていき、液相線温度を下回るとデンドライトが生成し始める。そして、生成したデンドライトは、合金温度の低下と共に成長して次第に大きくなる。このとき生成する結晶はデンドライトのみである。
【0044】
さらに温度を下げ、点aが固相線温度を下回ると、α-Al結晶とSi結晶との共晶がデンドライトの間に生成する。このとき生成する結晶は共晶であり、デンドライトの成長は停止する。
【0045】
このように、アルミニウム合金では、デンドライトが最初に生成し、その後共晶が生成する。このため、最初に生成するデンドライトが微細なものであれば、その後に生成する共晶も同様に微細化する。すなわち、デンドライトの大きさが凝固後の結晶粒の大きさを決めることになる。
【0046】
ここで、ダイカスト製品では、凝固組織(鋳造組織)が微細で均一なほど製品強度や靭性等の機械的性質が高くなることが知られている。したがって、凝固後の結晶粒の大きさを決めるデンドライトが微細であるほど、機械的性質は向上する(図5参照)。
【0047】
このデンドライトを微細にするには、第一に、デンドライトの生成数を増すことにより、個々のデンドライトの成長を抑えて小さいままにすることが考えられる(図6(a)参照)。また、第二に、生成したデンドライトを破砕することにより、デンドライトサイズを縮小することが考えられる(図6(b)参照)。
【0048】
デンドライトの生成数を増加するには、デンドライト生成前ないしはデンドライトの生成中の溶湯に超音波振動を付加し、溶湯内に無数のキャビテーションを発生させる。このキャビテーションがデンドライト生成を促進させる。
【0049】
また、生成したデンドライトを破砕するには、デンドライト生成後の溶湯に超音波振動を付加し、超音波振動による振動をデンドライトに伝達する。この振動でデンドライトが破砕されて微細化する。なお、共晶が生成する固相線温度以下では、破砕したデンドライトを分散させることができないため、破砕効果を得ることはできない。
【0050】
さらに、超音波振動を付加したことによる振動効果は、永続的ではない。つまり、溶湯への超音波振動の付加を停止した後、この溶湯が完全凝固するまでの間に時間がかかると、経過時間に比例して振動効果が薄れてしまい、生成するデンドライトサイズは大きなものとなる(図7(a)参照)。
【0051】
また、溶湯内においてホーンから放出される超音波振動が伝達される範囲には限界があり、振動効果はホーンからの距離が近いほうが高くなる。つまり、ホーンからの距離が遠いほど、溶湯内に生成するデンドライトサイズは大きなものとなる(図7(b)参照)。
【0052】
[超音波振動付加作用]
実施例1の鋳造装置1では、超音波振動を発生する超音波振動装置100との連動によって超音波振動させるスリーブ部品となる振動片23を設け、この振動片23は、プランジャスリーブ21の一部を構成すると共に、プランジャスリーブ21への溶湯注入時にこの溶湯Xに接触して超音波振動を付加する。
【0053】
このため、プランジャスリーブ21に注ぎ込まれた溶湯Xは、注ぎ込まれるとほぼ同時に超音波振動が付加される。これにより、溶湯Xプランジャスリーブ1の軸方向に沿って流れる前に振動効果を与えることができる。つまり、超音波振動を伝達する超音波ホーンでは振動効果を付与できる範囲が限定的であるが、振動片23がプランジャスリーブ21への溶湯注入時にこの溶湯Xに接触することで、注入される溶湯Xに確実に超音波振動を付加することができる。
【0054】
また、プランジャスリーブ21の一部をスリーブ部品である振動片23で構成することで、プランジャスリーブ21の内側面から超音波振動が放射されることとなる。これにより、超音波振動を伝達する超音波ホーンをプランジャスリーブ21内に挿入しなくても、プランジャスリーブ21への溶湯注入時に超音波振動を付加することができる。
【0055】
特に、実施例1の鋳造装置1では、振動片23を固定型35に固定されるスリーブ本体21aから分離して設けている。このため、振動片23が固定型35に固定されないので、固定型35に固定されたスリーブ本体21aを振動させる場合よりも、確実で高い振動効果を得ることができる。
【0056】
また、溶湯Xは、注入時の勢いによってプランジャスリーブ21の内側面のうち、給湯口21aに対向する部分に衝突する。実施例1の鋳造装置1では、振動片23をプランジャスリーブ23の断面半径方向下方であって、溶湯Xを注入する給湯口21aに対向する位置に設けているので、注入時の勢いで給湯口21aに対向する部分に衝突する溶湯Xに確実に超音波振動を付加することができる。このため、効率的に振動効果を与えることができる。
【0057】
さらに、実施例1の鋳造装置1では、溶湯Xに超音波振動を付加する振動片23がセラミック材によって形成されている。セラミック材は、金属材と比較して熱伝導率が低く、溶湯Xが接触する内側面23aの温度低下が比較的ない。そのため、溶湯Xの保温効果が高く、溶湯Xがプランジャスリーブ21に接触した際に生じてしまうデンドライト量を抑制することができる。これにより、溶湯X内に十分量のキャビテーションを発生させることができ、デンドライトの生成促進を図って結晶組織を微細化することができる。なお、熱伝導率の高い金属材(例えば、スリーブ本体21aを形成する熱間ダイス鋼SKD61等)によって振動片を形成した場合では、注入した溶湯内に生じるデンドライトが多すぎて、十分な振動効果を与えることができない。
さらに、セラミック材は、一般的に金属材よりも硬いため、振動子23が超音波振動する際に生じる損耗(エロージョン)を防止することができる。また、セラミック材の中でも窒化ケイ素やサイアロンは耐熱衝撃性が高いため、高温の溶湯Xと接触して熱衝撃による破損を防止することができる。
【0058】
また、実施例1の鋳造装置1では、超音波振動子101が振動片23をプランジャスリーブ21の径方向(図2では上下方向)に沿って振動させる。このため、振動片23は、プランジャスリーブ21の径方向に沿って溶湯Xに超音波振動を付加することになり、溶湯Xとプランジャスリーブ21の内側面との接触部分に生成するデンドライト(表面チル層)を効率的に破砕することができ、結晶組織の微細化をさらに図ることができる。
[デンドライト増加作用]
実施例1の鋳造装置1では、超音波振動装置100との連動によって超音波振動させる振動片23が、プランジャスリーブ21への溶湯Xの注入と同時に振動し始める。
【0059】
すなわち、実施例1の鋳造装置1では、プランジャスリーブ21に注入され、プランジャスリーブ21内に充填しつつある溶湯Xに超音波振動を付加することになる。ここで、プランジャスリーブ21に注入される溶湯Xの温度は、液相線温度以上の値になっている。そのため、デンドライト生成直前の溶湯X中にキャビテーションを多数生成することができ、これら多数のキャビテーションを核とする多数のデンドライトの生成を促進することができる。この結果、生成するデンドライトの成長を抑えて小さいままにすることができ、結晶組織の微細化を図ることができる。
【0060】
[デンドライト破砕作用]
実施例1の鋳造装置1では、超音波振動装置100との連動によって超音波振動させる振動片23が、プランジャスリーブ21へ注入された溶湯Xが固相線温度以上に保たれている間、超音波振動を付加する。
【0061】
このため、プランジャスリーブ21に注入された溶湯Xの温度が低下し、固相線温度近傍となっても、つまり、多数のデンドライトが生成した状態であっても、振動片23から溶湯Xに超音波振動を付加することとなる。これにより、生成した多数のデンドライトに超音波振動が付加されることとなり、超音波振動が付加されたデンドライトは破砕されてさらに微細な結晶となって、結晶組織の微細化を図ることができる。
【0062】
さらに、超音波振動を付加する時間を、溶湯Xの注入開始から、溶湯温度が固相線温度以上に保たれている間を最大時間に設定すれば、デンドライトの破砕を効果的に行うことができる間、確実に超音波振動を付加することになる。このため、結晶組織の微細化を効果的に行うことができて、省エネルギーとなる。
【0063】
[鋳造方法における特徴的作用]
実施例1の鋳造方法では、上述のように、超音波振動を付加しながら、溶湯Xをプランジャスリーブ21に注入する加振注入工程に相当する、溶湯注入手順を有している。
【0064】
そのため、溶湯注入時に溶湯Xに加振することができ、プランジャスリーブ21の軸方向に沿って流れてしまう溶湯Xに効率的に振動効果を与えることができる。つまり、溶湯X内にデンドライト生成時の核となるキャビテーションを多数発生させることができ、個々のデンドライトの成長を抑制し、結晶組織の微細化を図ることができる。
【0065】
次に、効果を説明する。
実施例1の鋳造装置及び鋳造方法にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0066】
(1) 合金材の溶湯Xをプランジャスリーブ21に注入しダイカスト製品を製造する鋳造装置1において、超音波振動を発生する超音波振動装置100との連動によって超音波振動させるスリーブ部品(振動片23)を設け、前記スリーブ部品(振動片23)は、前記プランジャスリーブ21の一部を構成すると共に、前記プランジャスリーブ21への溶湯注入時に該溶湯Xに接触して超音波振動を付加する構成とした。
このため、プランジャスリーブに注入された溶湯に超音波振動を効率的に付加することができる。
【0067】
(2) 前記スリーブ部品(振動片23)は、前記プランジャスリーブ21から分離して設けた構成とした。
このため、上記(1)に記載の効果に加え、振動片23が固定されず、確実で高い振動効果を得ることができる。
【0068】
(3) 前記スリーブ部品(振動片23)は、前記プランジャスリーブ21の断面半径方向下方であって、前記溶湯Xを注入する給湯口21cに対向する位置に設けた構成とした。
このため、上記(2)に記載の効果に加え、注入時の勢いで溶湯Xをスリーブ部品である振動片23に衝突させることができ、確実に超音波振動を付加することができる。
【0069】
(4) 前記スリーブ部品(振動片23)は、セラミック材により形成した構成とした。
このため、上記(1)〜(3)に記載の効果に加え、溶湯Xがプランジャスリーブ21に接触した際に生じてしまうデンドライト量を抑制することで、溶湯X内に十分量のキャビテーションを発生させてデンドライトの生成促進を図り、結晶組織を微細化できる。
【0070】
(5) 前記スリーブ部品(振動片23)は、前記プランジャスリーブ21の径方向に沿って超音波振動を付加する構成とした。
このため、上記(1)〜(4)に記載の効果に加え、溶湯Xとプランジャスリーブ21の内側面との接触部分に生成するデンドライト(表面チル層)を効率的に破砕することができ、結晶組織の微細化をさらに図ることができる。
【0071】
(6) 前記スリーブ部品(振動片23)は、前記プランジャスリーブ21への前記溶湯Xの注入開始から、該溶湯Xが固相線温度以上に保たれている間の時間を最大時間として超音波振動を付加する構成とした。
このため、上記(1)〜(5)に記載の効果に加え、デンドライトの破砕を効果的に行うことができる間だけ超音波振動を付加することになり、結晶組織の微細化を効果的に行うことができて、省エネルギーとなる。
【0072】
(7) 合金材の溶湯Xをプランジャスリーブ21に注入しダイカスト製品を製造する鋳造方法において、超音波振動を付加しながら、前記溶湯Xをプランジャスリーブ21に注入する加振注入工程(図3B(c))と、前記加振注入工程(図3B(c))で注入された前記溶湯Xをキャビティ33内に射出し、凝固させてダイカスト製品を製造するダイカスト製造工程(図3C(d),(e))と、を有する構成とした。
このため、プランジャスリーブに注入された溶湯に超音波振動を効率的に付加することができる。
【実施例2】
【0073】
実施例2は、振動片23がプランジャスリーブ21の軸方向に沿って振動する例である。
【0074】
まず、構成を説明する。
図8は、実施例2の鋳造装置の要部拡大図である。
【0075】
この実施例2の鋳造装置における射出部20Aは、プランジャスリーブ21とプランジャー22と、を備え、プランジャスリーブ21は振動片23を有している。そして、この振動片23には、超音波振動を発生する超音波振動子101が固定されている。
【0076】
この超音波振動子101は、ここではプランジャスリーブ21の軸方向(図8では左右方向)に沿って振動するため、振動片23はプランジャスリーブ21の軸方向に沿って振動する。
【0077】
これにより、振動子23は振動時にプランジャスリーブ21の軸方向に沿って移動することになり、プランジャスリーブ21の内部に入りこんでプランジャー22のプランジャチップ22aが通過する領域に干渉することがない。すなわち、プランジャチップ22の移動を阻害しない。
【0078】
次に、効果を説明する。
実施例2の鋳造装置にあっては、上述の(1)〜(4)の効果に加え、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0079】
(8) 前記スリーブ部品(振動片23)は、前記プランジャスリーブ21の軸方向に沿って超音波振動を付加する構成とした。
このため、スリーブ部品である振動片23が振動しても、プランジャヘッド22aの移動を阻害することがない。
【0080】
以上、本発明の鋳造装置及び鋳造方法を実施例1及び実施例2に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0081】
実施例1及び実施例2では、鋳造装置を水平方向に溶湯Xを射出する横型ダイカストマシンとしたが、これに限られず、例えば鉛直方向に溶湯Xを射出する縦型ダイカストマシンであってもよい。
【0082】
また、実施例1における合金材として、アルミニウム−シリコン合金としたがこれに限られず、マグネシウム合金、亜鉛合金、銅合金等の各種ダイカスト用合金であってもよい。
【0083】
上記いずれの場合であっても、超音波振動装置との連動によって超音波振動させるスリーブ部品を設け、このスリーブ部品によって、プランジャスリーブ21の一部を構成すると共に、プランジャスリーブ21への溶湯注入時に溶湯に接触して超音波振動を付加ことで、結晶組織が微細化したダイカスト製品を製造することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 鋳造装置
2 保持炉
10 ラドル
20 射出部
21 プランジャスリーブ
21a スリーブ本体
21b 振動開口
21c 給湯口
22 プランジャー
22a プランジャチップ
22b プランジャロッド
23 振動片(スリーブ部品)
30 金型
31 固定型
32 可動型
33 キャビティ
100 超音波振動装置
101 超音波振動子
102 振動制御部
X 溶湯
Y ダイカスト製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金材の溶湯をプランジャスリーブに注入しダイカスト製品を製造する鋳造装置において、
超音波振動を発生する超音波振動装置との連動によって超音波振動させるスリーブ部品を設け、
前記スリーブ部品は、前記プランジャスリーブの一部を構成すると共に、前記プランジャスリーブへの溶湯注入時に該溶湯に接触して超音波振動を付加することを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
請求項1に記載された鋳造装置において、
前記スリーブ部品は、前記プランジャスリーブから分離して設けたことを特徴とする鋳造装置。
【請求項3】
請求項2に記載された鋳造装置において、
前記スリーブ部品は、前記プランジャスリーブの断面半径方向下方であって、前記溶湯を注入する給湯口に対向する位置に設けたことを特徴とする鋳造装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された鋳造装置において、
前記スリーブ部品は、セラミック材により形成したことを特徴とする鋳造装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された鋳造装置において、
前記スリーブ部品は、前記プランジャスリーブの径方向に沿って超音波振動を付加することを特徴とする鋳造装置。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された鋳造装置において、
前記スリーブ部品は、前記プランジャスリーブの軸方向に沿って超音波振動を付加することを特徴とする鋳造装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載された鋳造装置において、
前記スリーブ部品は、前記プランジャスリーブへの前記溶湯の注入開始から、該溶湯が固相線温度以上に保たれている間の時間を最大時間として超音波振動を付加することを特徴とする鋳造装置。
【請求項8】
合金材の溶湯をプランジャスリーブに注入しダイカスト製品を製造する鋳造方法において、
超音波振動を付加しながら、前記溶湯をプランジャスリーブに注入する加振注入工程と、
前記加振注入工程で注入された前記溶湯をキャビティ内に射出し、凝固させてダイカスト製品を製造するダイカスト製造工程と、
を有することを特徴とする鋳造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−200882(P2011−200882A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68631(P2010−68631)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)