説明

鋳造装置

【課題】溶解炉で溶融した溶湯Mを鋳型に短時間で静かに注湯し、金属組織が健全な鋳造品を製造することが可能な鋳造装置を提供すること。
【解決手段】金属を溶融して溶湯Mとするとともに前記溶湯Mを出湯するための出湯口17Aを有する溶解炉15を備え、前記溶解炉15の下方に前記溶湯Mを注湯して鋳造品とする鋳型60が配置可能とされた鋳造装置1であって、前記溶解炉15と前記鋳型60の間に水平方向に旋回可能な樋25を有し、前記樋25は、前記出湯口から出湯された溶湯Mを自由端まで導いて前記鋳型60に注湯するように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属を溶融して溶湯とするとともに溶湯を出湯するための出湯口を有する溶解炉を備え、その溶湯を鋳型に注入して鋳造品を製造する鋳造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、工業製品等を鋳造品により製造する場合、溶解炉で金属を溶融して溶湯とし、溶解炉の下方に配置した鋳型に溶湯を注湯して鋳造品を製造するような場合の鋳造装置に関して、例えば、特許文献1に記載されるような技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このように、鋳造品により工業製品等を製造する場合、溶湯を短時間で静かに鋳型に注湯し、溶湯を鋳型の隅々まで充填させて健全で均質な金属組織とすることが一般的に要求され、そのために、溶湯を鋳型に注湯する際に鋳型を移動させて溶湯を広い範囲にわたって注湯して短時間で静かに注湯することが行われている。
【特許文献1】特開2001−304767号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鋳型を移動させながら注湯する場合、鋳型に溶湯を短時間で静かに移送することは可能であるが、鋳型に移送された溶湯が台車の移動にともなって振動するために溶湯表面に振動による湯じわ等が発生して健全な金属組織の鋳造品を製造することが困難であるという問題があった。
【0005】
また、融点が低く酸化されやすい特性を有する金属材料を鋳造する場合や、品質的に小さな欠陥も許容されないような鋳造品を製造する場合、溶解及び注湯するスペースを、例えば、減圧した状態で鋳造することが必要とされる場合があり、かかる場合、溶解炉と鋳型とを相対的に移動させながら溶湯を移送することは困難であり、かかる場合においても溶湯を短時間で静かに注湯したという技術の要請がある。
【0006】
一方、鋳型に注湯された溶湯は鋳型の接触部分から熱を奪われて接触部分からしだいに凝固するため、溶湯が鋳造品として凝固する場合に鋳造品の内部が最終凝固部となって最終凝固部への溶湯の補充ができなくなり、最終凝固部に鋳巣が形成される。そのため、鋳巣の発生が抑制されて均質な鋳造品を製造可能な技術の要請がある。
【0007】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、溶解炉で溶融した溶湯を鋳型に短時間で静かに注湯し、健全な金属組織を有する鋳造品を製造することが可能な鋳造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に係る発明は、金属を溶融して溶湯とするとともに前記溶湯を出湯するための出湯口を有する溶解炉を備え、前記溶解炉の下方に前記溶湯を注湯して鋳造品とする鋳型が配置可能とされた鋳造装置であって、前記溶解炉と前記鋳型の間に水平方向に旋回可能な樋を有し、前記樋は、前記出湯口から出湯された溶湯を自由端まで導いて前記鋳型に注湯するように構成されていることを特徴とする。
【0009】
この発明に係る鋳造装置によれば、溶解炉と鋳型の間に水平方向に旋回可能な樋を有し、溶湯を出湯口から樋の自由端まで導いて鋳型に注湯するように構成されているので、溶湯を鋳型の広い範囲にわたって注湯することができる。
その結果、鋳型の移動に起因する振動がなくなり、湯じわ等の発生を抑制することができる。
鋳型を移動させることなく鋳型の広い範囲にわたって溶湯が注湯可能とされるので、注湯位置から最終充填部までの溶湯の移動距離が短くなり、湯廻りが不充分であることに起因する湯廻り不良、湯じわ等の発生を抑制することができる。
また、鋳型の局部的な加熱が抑制されるため、溶湯の部分的な凝固遅れに起因する鋳巣の発生を抑制することができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の鋳造装置であって、前記出湯口は、平面視して前記鋳型の中心からオフセットして配置されていることを特徴とする。
【0011】
この発明に係る鋳造装置によれば、出湯口が平面視して鋳型の中心からオフセットして配置されているので、樋の長さを大きく設定することが可能となり、その結果、溶湯を鋳型の広い範囲に注湯することができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に記載の鋳造装置であって、前記溶解炉の外縁は、平面視して前記鋳型の中心を露出可能に配置されることを特徴とする。
【0013】
この発明に係る鋳造装置によれば、樋の長さを充分に長くすることが可能であるため、樋の自由端の旋回軌道が鋳型の中心近傍を通過するようにして、鋳型の広い範囲にわたって注湯することが可能となり、その結果、鋳型の広い範囲に短時間で静かに注湯をすることができる。
また、平面視した鋳型の中心が溶解炉の外縁から露出されるので注湯の状態を容易に観察可能とすることができる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鋳造装置であって、前記鋳型に対して相対的に移動可能かつ前記鋳型と接触可能とされる冷却手段を備えていることを特徴とする。
【0015】
この発明に係る鋳造装置によれば、鋳型と相対的に移動可能とされるとともに鋳型と接触して鋳型を冷却する冷却手段を備えているので、鋳型への溶湯の注湯に際して適切なタイミングで冷却手段を前進させて鋳型を冷却することができる。
その結果、溶湯を鋳型に注湯する前、溶湯を鋳型に注湯しているとき、溶湯を鋳型に注湯するのが完了した後の所望のタイミングで冷却することができるので、樋により短時間で静かに注湯した後に指向性凝固等をさせることにより健全な金属組織を有する鋳造品を形成することができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鋳造装置であって、前記冷却手段は、冷却媒体が流通可能とされる冷却ジャケットからなり、
前記鋳型の下部に接触可能とされていることを特徴とする。
【0017】
この発明に係る鋳造装置によれば、冷却手段が冷却ジャケットとされるので、冷媒を冷却ジャケットの内部で流通させることにより外部と容易に分離可能とされ、注湯する際に冷媒が注湯している雰囲気にさらされることが抑制される。
その結果、冷媒の制御が容易とされ、冷却能力が大きい冷媒を用いることが可能となる。
また、注湯された溶湯が最初に凝固を開始する鋳型の下部に冷却ジャケットが接触して鋳型に保持された溶湯を冷却するため、溶湯の指向性凝固を安定して行うことが可能とされ、内部欠陥の少ない鋳造品を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明に係る鋳造装置によれば、樋を使用することにより、短時間で静かに溶湯を鋳型の広い範囲に注湯することができるので湯じわ等の発生を抑制して、健全な金属組織を有する鋳造品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図1から図9を参照し、この発明の一実施形態について説明する。
鋳造装置1は、図1から図3に示すように、鋳造装置本体10と、鋳型保持部40とを備え、鋳型保持部40は鋳型60を保持可能とされるとともに鋳造装置本体10に収納可能とされている。
【0020】
鋳造装置本体10は、支持架台11と、溶解炉15と、鋳造チャンバ20と、樋25と、出湯制御機構30を備えており、溶解炉15及び鋳造チャンバ20は支持架台11に配置され、鋳型保持部40が鋳造装置本体10の所定位置に収納された状態で溶解炉15の下方に鋳型60が配置され、溶解炉15で溶融した溶湯Mを重力により樋25を用いて移送して鋳型60に注湯するようになっている。
【0021】
支持架台11は、矩形の4つの頂点に対応する床面位置に立設するように配置された4本の支持柱11Aと、4本の支持柱11Aの上部、下部近傍、及び上部と下部の略中間の高さにて、互いに隣接して配置される2本の支持柱11Aを矩形の4つの辺に沿って連結する梁部材11Bとを備え、支持架台11の上部には溶解炉15が配置され、溶解炉15の下方には、平面視したときに、溶解炉15の外縁が鋳型60の中心を露出可能な位置となるように鋳造チャンバ20が配置されている。
【0022】
溶解炉15は、溶解チャンバ16と、金属材料又は溶融された溶湯Mを保持する溶湯保持部17と、溶湯保持部17の周囲及び上方に配置される溶解炉ヒータ18とを備え、溶湯保持部17に保持された金属材料を溶解炉ヒータ18で加熱、溶融して溶湯Mとするようになっている。
また、溶解炉15は、溶湯保持部17の底面部に形成された出湯口17Aから、溶湯Mが出湯可能とされている。
【0023】
溶解チャンバ16は、上部に材料を投入するための半円形の材料投入口16Aが形成され、材料投入口16Aには、材料投入時には材料投入口16Aを開口し、溶解チャンバ16内を、例えば、不活性ガスにより減圧又は加圧する際には材料投入口16Aを閉じて溶解チャンバ16内の減圧又は弱加圧状態を保持可能とする材料投入蓋16Cがヒンジにより取り付けられ、ヒンジを支点に回動して材料投入口16Aを開閉可能とされている。
【0024】
溶解チャンバ16の下部は鋳造チャンバ20の上部と接続されている。
また、溶解チャンバ16には、図示しない吸引用配管及び不活性ガス配管が設けられ、必要に応じて、吸引用配管からチャンバ16内の空気を吸引するとともに、不活性ガス配管を介して不活性ガスを流入させることによりガス置換ができるようになっている。
【0025】
溶湯保持部17は、平面視して溶解チャンバ16の中央部に配置され、溶湯保持部17の周囲には溶湯保持部17を囲むように溶解炉ヒータ18が設けられている。
また、溶湯保持部17は、有底円筒状に形成された炭素からなり、溶湯保持部17の底部の中心からオフセットされた中心と内周面の中間位置には出湯口17Aが配置されている。
【0026】
出湯口17Aは、溶湯保持部17の底部に溶湯保持部17の軸線方向に形成された貫通孔からなり、溶湯保持部17の内方、すなわち底部上面は下方側が縮径される円錐形状とされ円錐形状の下方側が直管状に形成されている。
また、出湯口17Aの円錐形状部分のテーパ面は、出湯制御機構30の栓部材31の栓部31Bが当接可能とされている。
【0027】
溶解炉ヒータ18は、例えば、ニクロム線等の抵抗発熱体により構成されている。
また、溶解炉15は、溶解チャンバ16内の雰囲気温度と、溶湯保持部17内の溶湯Mの温度を測定するための温度センサ(図示せず)をそれぞれ有している。
【0028】
鋳造チャンバ20は、鋳造チャンバ20の上部を構成する天板部20Aと下部を構成する底板部20Bとを有し、内部には円筒形状の鋳造室20Dが形成されている。
天板部20Aには、鋳造チャンバ20内の状況を観察可能とする観察用開口部20C及び観察用開口部20Cに接続される観察用筒体と、溶解チャンバ16の開口部16Bと流通可能に接続される天板開口部20Hが形成されている。
【0029】
底板部20Bには、鋳造チャンバ20内に鋳型60を収納するための鋳型開口部20Jが形成されており、鋳型開口部20J周囲の下面側は、平坦に形成されたシール部とされていて、鋳型60が収納されることにより鋳型開口部20Jが外気に対して気密となるように構成されている。
【0030】
鋳造チャンバ20は、天板開口部20H及び鋳型開口部20Jを封止することにより外部に対する気密が保持可能とされ、図示しない吸引用配管及び不活性ガス配管が設けられ、必要に応じて、吸引用配管から真空ポンプにより鋳造チャンバ20内の空気を吸引するとともに、不活性ガス配管を介して不活性ガスを流入させることによりガス置換ができるようになっており、鋳造室20Dを減圧又は弱加圧状態に保持することが可能とされている。
この場合、鋳造チャンバ20と溶解チャンバ16の間に仕切りを配置し、この仕切りにより鋳造チャンバ20及び溶解チャンバ16を独立させることにより、各チャンバ16、20内の雰囲気、圧力(減圧、大気圧、弱加圧)状態を別々に制御可能としてもよい。
【0031】
また、鋳造チャンバ20には、鋳造室20Dに収納された鋳型60を加熱するための加熱ヒータ21を備え、加熱ヒータ21は、鋳型60の周囲を加熱する側面用ヒータ21Aと上面を加熱する上部ヒータ21Bとから構成されている。
また、鋳造チャンバ20には、鋳造室20D内の温度を測定する温度センサ(図示せず)が設けられており、鋳型60に注湯する際の鋳型60の温度を所定温度に調整可能とされている。
【0032】
樋25は、図4に示すように、溶湯Mを垂直方向に移動させる垂直流路部25Aと、溶湯Mを斜め下方に移動させる傾斜流路部25Bとを備え、垂直流路部25A及び傾斜流路部25Bは矩形筒状とされていて、高さ方向位置が、溶解炉15と鋳型60の間となるように鋳造チャンバ20の鋳造室20D内に配置されている。
【0033】
また、樋25は、垂直流路部25Aの上部が溶湯流入口25Cとされ、傾斜流路部25Bの下流端部は溶湯流出口25Dとされ、傾斜流路部25Bの平面視して垂直流路部25Aの中央部に対応する位置の下方には、樋25を支持する支持軸25Eが配置され、樋操作部26を手動操作することにより支持軸25Eを中心に溶湯流出口25Dを自由端として水平方向に旋回可能とされている。
また、支持軸25Eは、鋳造チャンバ20の底板部20Bに形成された貫通孔(図示せず)に外部との気密が保持可能にシールされて嵌挿されている。
【0034】
樋操作部26は、支持軸25Eを挟んで樋25の溶湯流出口25Dと反対側に形成されたレバー25Fに接続されていて樋25を手動で旋回できるようになっている。
樋操作部26は、操作レバー26Aと、操作レバー26Aとレバー25Fとを連結するとともに操作レバー26Aの回動をレバー25Fに伝達して樋25を旋回させる連結部材26Bとを備え、操作レバー26Aには操作レバー26Aを手動で操作するための操作ハンドル26Cが設けられている。
【0035】
かかる構成により、樋25は、溶湯流入口25Cから流入した溶湯Mを溶湯流出口25Dまで導いて、支持軸25E廻りに樋25が旋回して溶湯流出口25Dが描く軌跡に沿って溶湯Mを流出させ、鋳型60に注湯することができるようになっており、溶湯流出口25Dは、例えば、鋳型60の一方の外周から他方の外周までの鋳型60の巾方向の両端間を移動可能とされている。
【0036】
出湯制御機構30は、出湯口17Aに接触して溶湯Mを封止する栓部材31と、駆動部32とを備え、栓部材31はロッド31Aと、ロッド31Aの先端部に略放物体状に形成された栓部31Bとを備えている。
【0037】
栓部材31は、駆動部32によってロッド31Aの長手方向に沿って上昇及び下降が可能とされており、栓部材31が上昇することにより出湯口17Aが開放されて溶湯Mが出湯可能とされ、栓部材31が下降することにより出湯口17Aが封止されて出湯が停止されるようになっている。
【0038】
駆動部32は、図1、図2に示すように、ハンドル32Aと、ハンドル32Aと連動して回転するピニオン32Bと、ピニオン32Bの回転により直動するラック32Cと、ラック32Cと栓部材31とを連結する連結部32Dとを備えており、ハンドル32Aを手動で回転させることにより栓部材31が昇降するようになっている。
【0039】
鋳型保持部40は、運搬台車41と、昇降ジャッキ42と、鋳型架台45と、冷却ジャケット50と、鋳型昇降機構55とを備えており、運搬台車41の上面に配置された昇降ジャッキ42により鋳型架台45を昇降することにより、鋳型架台45の上部に載置された鋳型60を鋳造チャンバ20の鋳型開口部20Jを介して鋳造チャンバ20内に収納可能とされている。
【0040】
運搬台車41は、鋳型60を運搬可能とする車輪を有しており、鋳造装置本体10に収納された場合に鋳造装置本体10との位置を所定位置とするための図示しない位置決め手段と、当該位置で停止させるための図示しないストッパとを備えている。
【0041】
鋳型架台45は、図6に示すように、第1の支持部材46と、第1の支持部材46の上部に配置された第2の支持部材47とを備え、第2の支持部材47の上部には冷却ジャケット50が保持されており、第2の支持部材47には鋳型60を鋳造チャンバ20内に収納した状態で昇降可能とする鋳型昇降機構55が設けられている。
また、第1の支持部材46の上部には、鋳型開口部20Jの周囲下面のシール部と接触することにより鋳型開口部20Jを封止可能とする板リング状に形成されたシール部材46Sが配置されている。
【0042】
冷却ジャケット50は、鋳造チャンバ20の鋳造室20D内に配置されており、上面が冷却部50Aとされ、鋳型昇降機構55に載置された鋳型60が下降して鋳型60の下面が冷却ジャケット50の冷却部50Aと接触することにより鋳型60の下面から吸熱可能とされている。
【0043】
冷却ジャケット50は、両端部が閉塞された円筒形状の金属製筐体とされ、例えば、図5の横断面図に示すような構造とされている。
冷却ジャケット50の下面側には、冷却媒体が流入可能とされる流入口51Aと、吸熱して加熱された冷媒が排出される排出口51Bとが隣接して形成され、流入口51Aから流入した冷媒(例えば、水)が冷却ジャケット50内を遠回りした後に排出口51Bから排出されるように流路が形成されている。
【0044】
冷却ジャケット50は、中心部に柱部52Aが形成されており、流入口51Aと排出口51Bとの間には、柱部52Aから冷却ジャケット50の内周壁部に向かってに延在する仕切壁部52Bが形成され、流入口51Aと排出口51Bの仕切壁部52Bと反対側の周方向には、冷却ジャケット50の内周から径方向内方に延在する第1のフィン53Aと、柱部52Aから径方向外方に延在する第2のフィン53Bとが形成され、第1のフィン53A及び第2のフィン53Bは交互に配置されている。
【0045】
第1のフィン53Aの内周側と第2のフィン53Bの外周側には、冷媒が流通可能な流路が形成され、流入口51Aから流入した冷媒が冷却ジャケット50内を径方向にジグザグに移動しつつ、流入口51Aから排出口51Bに向かって周方向に移動して、冷却ジャケット50の下面を均一に冷却するようになっている。
【0046】
鋳型昇降機構55は、第2の支持部材47に接続され、支持軸部56と、支持軸部56廻りに回動自在とされる円板形状の板カム57と、カムフォロア58とを備え、板カム57は支持軸部56廻りに回動自在とされている。
【0047】
支持軸部56は、第2の支持部材47の下部に下側に向かって立設されており、板カム57の中央部に形成された貫通孔に支持軸部56が嵌挿されており、ハンドル57Hを操作して支持軸部56廻りに板カム57を回動させることができるようになっている。
【0048】
また、板カム57には、板カム57を第2の支持部材47に固定するための固定部材57Sが設けられるとともに、板カム57が回動された場合に固定部材57Sの軸部が収納される周方向に沿った長孔57Lが形成されており、固定部材57Sを締め付けることにより回動された板カム57をその位置に固定されるように構成されている。
【0049】
板カム57は、図7に示すように、外周側に周方向に延在する複数(例えば、4対)の傾斜面57Aが形成されており、この傾斜面57Aは板カム57が回動することにより高さ方向に変位し傾斜面57Aに当接するカムフォロア58の軸部58Bを上下方向に移動させるようになっている。
【0050】
カムフォロア58は、下側の先端部に接触部58Aを構成するボール部材が配置されるとともに、図8に示すように、板カム57が回動して傾斜面57Aが矢印T1方向に変位することによりカムフォロア58が下降し、傾斜面57Aが矢印T2方向に変位することによりカムフォロア58が上昇し、カムフォロア58の昇降に連動して鋳型載置板59及び鋳型60が昇降するようになっている。
鋳型60は、下降して鋳型60の下面が鋳型載置板59を介して冷却ジャケット50の冷却部50Aと接触するようになっている。
【0051】
鋳型60は、同心状に配置される複数の円筒状の鋳造品を形成するためのものであり、図9に示すように、外枠部材61と、形状壁部を構成する円筒部材62とを備えている。
外枠部材61は、例えば、有底円筒状に形成された金属からなり、一方側の面(上面)に円筒部材62を容易かつ正確に配置するための同心円状の凹部が形成されている。
また、外枠部材61を構成する金属は、溶湯Mに対して充分に高い融点とされている。
【0052】
円筒部材62は、それぞれの円筒部材62は外枠部材61の配置用凹部に配置可能とされる例えば、カーボンにより形成されており、それぞれの円筒部材62の外径及び内径は、それぞれの円筒部材62を凹部に配置した場合に、径方向に隣接する円筒部材62との間に鋳造品を製造する際に溶湯Mを注湯するためのキャビティ64が形成されるように構成されている。
【0053】
外枠部材61の中央に配置される円筒部材62は、ボルト63により外枠部材61に固定され、最外側の形状壁部を構成する円筒部材62の外周は外枠部材61の内周壁と略接するようになっている。
また、それぞれの円筒部材62には、外周壁部及び内周壁部に鋳造品を取り出すための抜勾配が必要に応じて形成されている。
【0054】
次に、鋳造装置1による鋳造品の製造方法について説明する。
(1)まず、溶解炉15の材料投入蓋16Cを開いて、溶湯保持部17に、例えば、鉛のインゴットと錫のインゴットとからなる金属材料をハンダが生成される比率で投入し、材料投入蓋16Cを閉じる。
(2)次に、鋳型保持部40を鋳造装置本体10の所定位置に配置する。
(3)鋳型保持部40が鋳造装置本体10の所定の位置に配置されたら、昇降ジャッキ42により鋳型架台45を上昇して鋳型60を鋳造チャンバ20内に収納し、鋳型架台45に形成されたシール部材46Sを鋳造チャンバ20のシール部に当接させて鋳型開口部20Jを封止する。
(4)次いで、図示しない減圧ポンプによりチャンバ20内の空気を吸引し、チャンバ20内を減圧するとともに不活性ガスに置換し、加熱ヒータ21により鋳型60を所定温度になるまで加熱する。
この実施の形態においては、鋳造チャンバ20及び溶解チャンバ16をともに減圧状態で鋳造するものとするが、鋳造チャンバ20、溶解チャンバ16の雰囲気(不活性ガス、空気等)及び圧力(減圧、大気圧、弱加圧)状態等は、任意に選択することが可能である。
(5)溶解炉15の電源をONにして溶解炉ヒータ18に通電し、溶湯保持部17内のインゴットを加熱、溶融して、ハンダの溶湯Mとする。
(6)ハンダの溶湯M及び鋳型60が所定温度に到達したら、出湯制御機構30のハンドル32Aを操作して栓部材31を上昇させ、栓部31Bを出湯口17Aから離間させてハンダ溶湯Mを出湯する。
(7)出湯口17Aから出湯された溶湯Mは、溶湯流入口25Cから樋25に流入し垂直流路部25A及び傾斜流路部25Bを経由して溶湯流出口25Dに導かれる。
(8)溶湯流出口25Dから溶湯Mが流出し鋳型60への注湯が開始される。
(9)鋳型60への注湯が開始されたら、操作ハンドル26Cを操作して溶湯流出口25Dの軌跡が鋳型60の一つの外周部から中心部を経由して他方の外周部まで移動するように樋25を回動させる。
(10)溶湯流出口25Dから流出させた溶湯Mは、鋳型60のキャビティ64に略均一に注湯される。
(11)溶湯Mがキャビティ64に充填されたら、鋳型昇降機構55のハンドル56Hを操作して板カム57を矢印T1方向に回動し、鋳型載置板59に載置された鋳型60を下降させる。
(12)鋳型60が下降すると、鋳型載置板59を介して鋳型60の下面が冷却ジャケット50の冷却部50Aと接触し、鋳型60に保持された溶湯Mの熱が冷却ジャケット50に吸熱されて鋳型60内の溶湯Mが鋳型60の下方から冷却されて、鋳型60の下方から指向性凝固する。
(13)溶湯Mが冷却、凝固されて鋳造品が形成されたら、鋳造チャンバ20内の減圧状態を解除して昇降ジャッキ42により鋳型60を下降させ、鋳造チャンバ20から取り出す。
(14)鋳型60が下降したら、鋳型保持部40を鋳造装置本体10から移動させて鋳造品を鋳型60から取り出す。
【0055】
上記実施の形態に係る鋳造装置1によれば、溶解炉15と鋳型60の間に水平方向に旋回可能な樋25が配置され、樋25により溶湯Mを出湯口17Aから樋25の溶湯流出口25Dまで導いて鋳型60のキャビティ64に注湯するように構成されているので、溶湯Mを鋳型60の広い範囲にわたって注湯することができる。
その結果、注湯に際して、鋳型60の移動させることが必要とされないので、鋳型60に注湯された溶湯Mが揺れることがなく、溶湯Mが静止された状態で凝固するので鋳造品に湯じわ等が発生するのを抑制することができる。
【0056】
また、鋳型60の広い範囲に溶湯Mを注湯することにより、鋳型60の細かな形状の最終充填部まで溶湯Mを充分に充填することができ、湯廻りの不充分に起因する湯廻り不良等の発生を抑制することができる。
【0057】
樋25を旋回させて、溶湯流出口25Dの軌跡を鋳型60の一方の外周部から他方の外周部まで移動させながら溶湯Mを出湯させるので、溶湯Mが鋳型60の一箇所に集中して注湯されることが抑制され、その結果、鋳型60が局所的に過熱されることによる鋳巣の発生を抑制することができる。
【0058】
樋25及び冷却ジャケット50の冷却部50Aが、鋳造室20D内に配置されているので、鋳型60への注湯及び冷却を減圧状態にて行って、健全な金属組織の鋳造品を容易に鋳造することができる。
【0059】
また、鋳型60に注湯された溶湯Mが鋳型60の下方から冷却されて下方から指向性凝固するため、健全な金属組織を有する鋳造品を製造することができる。
また、指向性凝固により鋳巣等の内部欠陥の発生が抑制されるので鋳造品の品質を向上させることができる。
【0060】
また、短時間で鋳型60への注湯を完了することが可能であるため、キャビティ64の細部まで充分に溶湯Mが充填可能とされ、早いタイミングに冷却ジャケット50による鋳型60の冷却を開始することができる。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることができる。
上記実施の形態においては、樋25の自由端である溶湯流出口25Dの軌跡が、鋳型60の略中心を通過する場合について説明したが、溶湯流出口25Dの軌跡が鋳型60の中心以外を通過するように設定することも可能である。
【0062】
また、平面視した鋳型60の中心が溶解炉15の外周から露出するように構成された場合について説明したが、溶解炉15と鋳型60とのオフセット量については自在に設定することができる。
【0063】
また、上記実施の形態においては、樋25が、鋳造室20D内に配置されていて減圧状態等にて鋳造可能な場合について説明したが、大気圧又は弱加圧状態にて鋳造してもよいし、また、鋳造装置1にこのような減圧、弱加圧状態等での鋳造を可能とする構成を備えさせるかどうかは任意に設定可能であるし、鋳造室20Dを備えない構成とすることも可能である。
【0064】
また、上記実施形態においては、冷却ジャケット50が鋳型60の下部に接触して鋳型60が冷却される場合について説明したが、冷却ジャケット50を接触させる部位を鋳型60の下部以外としてもよい。
また、鋳型60が冷却ジャケット50により冷却可能な場合について説明したが、鋳造装置1を、冷却ジャケット等の冷却手段を備えない構成としてもよい。
【0065】
また、鋳型60を冷却ジャケット50により冷却する場合に、鋳型60が鋳型昇降機構55によって下降されて冷却ジャケット50の冷却部50Aと接触、冷却される場合について説明したが、冷却ジャケット50を上昇させる構成としてもよい。
また、鋳型昇降機構55が板カム57により構成される場合について説明したが、板カム57に代えて、例えば、シリンダ等のアクチュエータやモータ等の駆動源により鋳型60と冷却ジャケット50とが接触可能な構成としてもよい。
【0066】
また、鋳型60が加熱ヒータ21により加熱可能な場合について説明したが、加熱ヒータ21の設置及び配置については自在に設定可能である。
【0067】
また、出湯口17Aが、溶湯保持部17の中心と内周壁の略中間に配置される場合について説明したが、出湯口17Aを溶湯保持部17の中心部又は内周壁側に形成してもよいし、溶湯保持部17の側壁部に形成してもよい。
【0068】
また、上記実施形態においては、鋳型60が、同心状に配置可能とされる円筒状の鋳造品を形成する場合について説明したが、鋳型60及び鋳造品の形態については上記以外のもととすることが可能である。
また、ハンダの溶湯Mを用いて鋳造する場合について説明したが、溶湯Mをハンダ以外の材質とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る一実施の形態を示す図であって、鋳造装置の平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る鋳造装置を正面から見た場合の概略縦断面図を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る鋳造装置を側面から見た場合の概略縦断面図を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る樋を示す図であり、(A)は正面から見た詳細縦断面図であり、(B)は樋の作用を説明する平面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る冷却ジャケットの横断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る鋳型架台を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る板カムを下方から平面視した図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る鋳型昇降機構の作用を説明する図であり、図7におけるVIII−VIII視した図である。
【図9】本発明の一実施形態に係る鋳型を説明する図であり、(A)は平面図を、(B)は(A)にけるIX−IX縦断面図である。
【符号の説明】
【0070】
M 溶湯
1 鋳造装置
15 溶解炉
17A 出湯口
25 樋
25D 溶湯流出口(自由端)
60 鋳型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を溶融して溶湯とするとともに前記溶湯を出湯するための出湯口を有する溶解炉を備え、
前記溶解炉の下方に前記溶湯を注湯して鋳造品とする鋳型が配置可能とされた鋳造装置であって、
前記溶解炉と前記鋳型の間に水平方向に旋回可能な樋を有し、
前記樋は、前記出湯口から出湯された溶湯を自由端まで導いて前記鋳型に注湯するように構成されていることを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳造装置であって、
前記出湯口は、
平面視して前記鋳型の中心からオフセットして配置されていることを特徴とする鋳造装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鋳造装置であって、
前記溶解炉の外縁は、
平面視して前記鋳型の中心を露出可能に配置されることを特徴とする鋳造装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鋳造装置であって、
前記鋳型に対して相対的に移動可能かつ前記鋳型と接触可能とされる冷却手段を備えていることを特徴とする鋳造装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鋳造装置であって、
前記冷却手段は、冷却媒体が流通可能とされる冷却ジャケットからなり、
前記鋳型の下部に接触可能とされていることを特徴とする鋳造装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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