説明

鋼の連続鋳造方法および連続鋳造設備

【課題】クレーターエンド形状が幅方向の両端部で延びたときにも、中心偏析やセンターポロシティの少ない内部品質の良好な鋳片を得ることができる鋼の連続鋳造方法および連続鋳造設備を提供すること。
【解決手段】鋳片の凝固末期に、鋳片を挟持するロールの開度を徐々に狭めて、鋳片を軽圧下しつつ引き抜く軽圧下帯を配置した連続鋳造設備を用いて鋳片を連続鋳造するにあたり、軽圧下帯の上流側部分に、幅方向中央部のロール径が両端部のロール径よりも大きい凸ロールを配置し、鋳片が軽圧下帯に達する前に鋳片表面の幅方向温度分布を測定し、幅方向中央位置の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、前記凸ロールにより板厚中央部を中心とした軽圧下を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼を凝固させつつ引き抜き、連続的に鋳片を製造する鋼の連続鋳造方法および連続鋳造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を凝固させつつ引き抜いて連続的に鋳造する鋼の連続鋳造方法は、歩留まりが良好で生産性が高いという大きな利点を有しており、溶鋼から直接スラブ、ブルーム、ビレット等の最終鋳片を連続的に製造できる鋳造方法として広く実施されている。
【0003】
しかし、鋼を連続鋳造した場合は、鋳片厚み中心部にC、P、S等の元素が偏析(濃化)する問題があった。
【0004】
このような鋼を連続鋳造する際に生じる中心偏析を改善する技術として、凝固末期の凝固収縮による溶鋼流動に伴って引き起こされる偏析に対し、凝固末期のロール間隔を制御し、未凝固鋳片を軽圧下することによって偏析を改善する技術が知られている。
【0005】
例えば特許文献1には、連続鋳造によって鋳片を鋳造するに際して、モールドと鋳片の液相線クレーターエンドとの間の凝固シェルに(凝固の中期に)、積極的にバルジング力を作用させて、鋳片内未凝固層の厚さを増大させ、次いで液相線クレーターエンドと固相線クレーターエンドとの間の鋳片に(凝固末期に)圧下を加え中心偏析を低減する技術が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、連続鋳造中に圧下ロールにて、鋳片を厚み方向に加圧する方法において、該圧下ロールとして少なくとも1個のクラウンロールを設けて、該鋳片の中央部およびその近傍を圧下する軽圧下鋳造技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、鋳片の幅中央をバルジングさせたあと、この部分を圧下する第1の圧下段階と、これに引き続いて鋳片両端部近傍の凝固が完了する前に、幅両端部近傍のロール径が幅中央部のロール径よりも大きいロールを用いて鋳片両端部を圧下する鋳造技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭60−6254号公報
【特許文献2】特開昭60−162560号公報
【特許文献3】特開2001−334353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された中心偏析の低減技術では、軽圧下前の鋳片にバルジング力を作用させて、鋳片内未凝固層、すなわち鋳片の幅方向中央部の厚さを増大させている。しかしながら、厚みを増大させると凝固シェルが破け溶鋼がこぼれる、いわゆる「ブレークアウト」が発生する懸念があり、厚みを増大できる量には限界がある。このため、厚み増大後の軽圧下において、厚みを増大させた部分以外の部分も軽圧下する必要が生じることが多く、軽圧下荷重の増大を招いてしまう。その結果、所定の軽圧下が行えず、中心偏析があまり改善されない場合も多い。また、この軽圧下技術は、クレーターエンド形状が幅方向でほぼ平坦な場合に対応した技術であり、クレーターエンド形状が幅方向の両端で長くなる形状に変化したときに対応することは困難である。
【0010】
特許文献2に記載された連続鋳造方法においては、凸クラウンを有するロールを用いて鋳片の幅中央部を圧下する技術であり、軽圧下荷重の増大を招くことなく効率的に圧下を行う技術である。しかしながら、凸ロールで圧下しているので、圧下後の鋳片には幅方向に厚み分布が付与されることになり、この厚み分布に起因して鋳造後の鋳片に反りが生じる場合がある。また、後工程である圧延では、鋳片が矩形断面であることを前提に圧延パススケジュールを決めているので、圧延の平面形状が悪く歩留まりが低下する問題が生じる場合もある。また、この軽圧下技術も、クレーターエンド形状が幅方向でほぼ平坦な場合に対応した技術であり、クレーターエンド形状が幅方向の両端で長くなる形状に変化したときに対応することは困難である。
【0011】
特許文献3に記載された連続鋳造方法は、鋳片の幅方向で最終凝固位置となりやすい鋳片幅両端部を確実に圧下し、中心偏析やポロシティを改善する技術であるが、鋳片両端部を圧下するための特殊な形状のロールを必要とし、この特殊形状ロールによる圧下はこの場合にしか使えないという問題がある。また圧下された鋳片には幅方向の厚み分布が生じることになり、特許文献2と同様に、後工程の圧延で不具合が生じる場合がある。さらに幅方向中央部をバルジングさせる必要があるため、バルジング条件を間違えるとバルジング時に上述したブレークアウトが起こる可能性もある。
【0012】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、クレーターエンド形状が幅方向の両端部で延びたときにも、中心偏析やセンターポロシティの少ない内部品質の良好な鋳片を得ることができる鋼の連続鋳造方法および連続鋳造設備を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、鋳造中の鋳片の幅方向温度分布を幾度も測定し、鋳片温度の幅方向のばらつき具合について調査を繰り返した。その結果、通常は鋳片の幅方向で概略等しい温度分布であるが、何かの要因で幅方向中央部の温度が大きく低下する場合があることを確認した。そしてこのように幅方向中央部の温度が大きく低下したときには、鋳片の幅方向両端部の中心偏析やポロシティが悪化することも確認した。このような幅方向両端部の中心偏析やポロシティを改善すべくさらに検討した結果、幅方向中央部の温度低下を感知した際に、その部分を凸ロールにより軽圧下帯の上流側部分で積極的に圧下してやることが有効であることを見出した。
【0014】
本発明はこれらの知見を基にさらに検討を加えて完成されたものであり、以下の(1)〜(6)を提供する。
【0015】
(1)鋳型内に溶鋼を注入し、鋳型内で表面が凝固して形成された鋳片を、複数本のロールに案内させながら凝固させ、鋳片の凝固末期に、鋳片を挟持するロールの開度を徐々に狭めて、鋳片を軽圧下しつつ引き抜く軽圧下帯を配置した連続鋳造設備を用いて鋳片を連続鋳造する鋼の連続鋳造方法であって、前記軽圧下帯の上流側部分に、幅方向中央部のロール径が両端部のロール径よりも大きい凸ロールを配置し、鋳片が前記軽圧下帯に達する前に鋳片表面の幅方向温度分布を測定し、幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、前記凸ロールにより鋳片の幅方向中央部を中心とした軽圧下を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【0016】
(2)上記(1)において鋳片表面の幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、その温度差に応じて、前記凸ロールによる軽圧下量を制御することを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【0017】
(3)上記(1)または(2)において、鋳片表面の幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、前記凸ロールにより幅方向中央部を中心とした軽圧下を行った後、幅方向の径が等しいロールで幅方向両端部を中心とした軽圧下を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【0018】
(4)鋳型内に溶鋼を注入し、鋳型内で表面が凝固して形成された鋳片を、複数本のロールに案内させながら凝固させつつ引き抜く鋼の連続鋳造設備であって、鋳片の凝固末期部分に配置され、鋳片を挟持するロールの開度を徐々に狭めて、鋳片を軽圧下しつつ引き抜く軽圧下帯と、鋳片が前記軽圧下帯に達する前に鋳片表面の幅方向温度分布を測定する温度計とを具備し、前記軽圧下帯は、上流側部分に、幅方向中央部のロール径が両端部のロール径よりも大きい凸ロールを有し、鋳片の幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、前記凸ロールにより鋳片の幅方向中央部を中心とした軽圧下を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造設備。
【0019】
(5)上記(4)において、幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、その温度差に応じて、前記凸ロールによる軽圧下量を制御する制御装置をさらに具備することを特徴とする鋼の連続鋳造設備。
【0020】
(6)上記(4)または(5)において、前記軽圧下帯は、上流側部分に配置され、幅方向中央部のロール径が両端部のロール径よりも大きい凸ロールを有する第1の軽圧下セグメントと、前記第1の軽圧下セグメントの下流側部分に配置され、幅方向の径が等しいロールにより軽圧下を行う一または複数の第2の軽圧下セグメントとを有し、幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、前記第1の軽圧下セグメントにおいて前記凸ロールにより鋳片の幅方向中央部を中心とした軽圧下を行った後、第2の軽圧下セグメントで鋳片の幅方向両端部を中心とした軽圧下を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造設備。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、幅方向中央位置の温度が幅方向両端部の温度よりも低い場合に、その温度差に応じて、前記第1の軽圧下セグメントの前記凸ロールにより軽圧下量を制御しつつ軽圧下を行うので、クレーターエンドの位置が上流側にシフトした鋳片の幅方向中央部を最初に積極的に軽圧下することができ、その後に通常の軽圧下を行うことにより、鋳片の軽圧下を鋳片の幅方向で適正に行うことができる。このため、軽圧下不足による中心偏析の悪化や、センターポロシティの増大を防ぐことができ、内部品質の良好な鋳片を得ることができる。また、軽圧下後の鋳片はほぼ矩形断面となるので、鋳片の反りなども生じず、後工程の圧延も従来と同様に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る鋼の連続鋳造設備を示す概略構成図である。
【図2】図1の連続鋳造設備に用いられる軽圧下セグメントを示す概略図である。
【図3】図1の連続鋳造設備における軽圧下帯最上流側の軽圧下セグメントの上ロールとして用いられるロール形状を示す模式図である。
【図4】鋳片幅方向の表面温度分布の例を示す図である。
【図5】幅方向の表面温度測定偏差と上流側セグメントの軽圧下量との関係を示す図である。
【図6】図1の連続鋳造設備における軽圧下帯最上流側の軽圧下セグメントで軽圧下された鋳片の断面形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る鋼の連続鋳造設備を示す概略構成図である。この連続鋳造設備1は、溶鋼を貯留するタンディッシュ3と、タンディッシュ3内の溶湯が注入される鋳型5と、鋳型5内で溶湯が冷却されて表面が凝固された状態の鋳片7を下方に導くとともに鋳片7を二次冷却する湾曲帯20と、鋳片7の最終凝固を行う水平帯21とを有している。
【0024】
湾曲帯20から水平帯21に移る位置には鋳片7表面の幅方向の温度分布を測定するための温度計25が設置されている。
【0025】
湾曲帯20は、鋳片7を保持して下方に導くための複数対の案内ロール9を有し、案内ロール9により鋳片7が下方に導かれる間に鋳片7に冷却水11がスプレーされて二次冷却が行われ、鋳片7の凝固厚みが次第に増加していく。
【0026】
水平帯21には、軽圧下ロールが複数対配置された軽圧下帯22が設けられており、軽圧下帯22では、ロール開度を徐々に狭めて、鋳片7を軽圧下しつつ引き抜くようになっている。
【0027】
この連続鋳造設備1において、水平帯21に設けられたロールは、複数対ずつ一つのフレームに支持されセグメントと呼ばれる装置を構成している。そして、これらセグメントが複数配置されている。
【0028】
具体的には、水平帯21において、鋳片7を軽圧下可能に構成された3つの軽圧下セグメントA、B1、B2が鋳造方向に沿って上流側から順に配置されており、これら3つの軽圧下セグメントA、B1、B2により軽圧下帯22が構成されている。これらのうち、軽圧下セグメントAは鋳片の幅方向中央部を積極的に軽圧下するための第1の軽圧下セグメントを構成し、軽圧下セグメントB1、B2は、通常の軽圧下を行う第2の軽圧下セグメントを構成する。なお、第2の軽圧下セグメントは2つに限らず1つでも3つ以上であってもよい。
【0029】
軽圧下セグメントB1、B2は、図2に示すように、鋳片7を上下から挟むようにフレーム15に支持された状態で配置された8対の軽圧下ロール13を有している(図1では便宜上3対のみ図示)。これら軽圧下ロール13の上ロールを支持するフレームには、4つの油圧シリンダー17(上流側および下流側1つずつの2つのみ図示;実際には上流側および下流側において左右2箇所ずつ設けられる)が設けられ、これら油圧シリンダー17によりロール間の距離を調節して所定の圧下設定で鋳片7を軽圧下可能となっている。そして、鋳造中にセグメント単位で圧下設定を変更することができるようになっている。なお、軽圧下ロール13は、幅方向で直径が等しいロールとなっている。
【0030】
軽圧下帯22の最上流側部分を構成する軽圧下セグメントAは、上ロールとして図3に示すような、幅方向で直径の異なり、中央の径が大きい凸ロールである軽圧下ロール13′が組み込まれている。この軽圧下ロール13′は、両端から幅方向1/8長さのa、dまでは小径であり、これらa、dから幅方向1/4長さのb、cまで拡径されており、中央部であるb〜c間は大径の凸部となっている。一方、下ロールとしては幅方向で径が等しい軽圧下ロール13が組み込まれている。他の構成は軽圧下セグメントB1、B2と同じであり、8対の軽圧下ロールを有している。
【0031】
なお、軽圧下セグメントA、B1、B2の軽圧下ロールの数は、8対に限らない。一般にセグメントのロール数としては6〜8対が多いが、それ以外であってもよい。
【0032】
温度計25が取得した温度データは制御装置30に送られ、制御装置30は、鋳片7の幅方向中央位置の温度と幅方向両端部の温度との差に応じて、軽圧下セグメントAの油圧シリンダー17に指令を送り、軽圧下セグメントAのロール間隔を調整して凸ロールである軽圧下ロール13′による鋳片7の軽圧下量を制御する。
【0033】
具体的には、図4に示すように、横軸に鋳片の幅方向位置をとり縦軸に温度(℃)をとった場合に、通常は波線で示すように幅方向でほとんど差がない鋳片幅方向温度が、何かの要因で実線で示すように幅方向中央部に過冷却現象が生じ、幅方向両端部に対しΔTの温度差が生じるようになって、このΔTが所定値を超えた場合に、過冷却が生じていると判断する。そして、図5に示すような温度変化ΔT(℃)と圧下量ΔR(mm)との関係に基づいて軽圧下セグメントAにおける圧下量ΔRを決定する。図5では、ΔTがΔT0を超えた場合に、過冷却が生じていると判断して圧下を開始し、ΔTがΔT1のときに軽圧下セグメントAにおける圧下量がΔR1になるようにしている。この図5のような関係を予め制御装置30に持たせておく。例えばΔT0=50℃、ΔT1=150℃、ΔR1=2mmのように設定しておけば、ΔTが50℃を超えた際に、過冷却温度1℃あたり2/(150−50)mmの圧下量で鋳片7が軽圧下されるように制御される。
【0034】
次に、以上のように構成された鋼の連続鋳造設備において実際に連続鋳造する際の動作について説明する。
タンディッシュ3に貯留された溶湯が鋳型5に注入され、注入された溶湯は鋳型5表面により冷却されて表面が凝固された状態の鋳片7となる。鋳片7は、湾曲帯20において、案内ロール9により下方に導かれるとともに、冷却水11をスプレーされて二次冷却され、これにより鋳片7の凝固厚みが次第に増加していく。
【0035】
そして、湾曲帯20に続く水平帯21に至った凝固末期の鋳片を、軽圧下帯22においてロールの開度を徐々に狭めて、軽圧下しつつ引き抜く。これにより完全に凝固した鋳片7が得られる。
【0036】
従来は、軽圧下帯に、上述した軽圧下セグメントB1、B2のような通常の構成の軽圧下セグメントのみを設けて鋳片7を軽圧下していた。しかしながら、通常は幅方向で温度がほぼ均一である鋳片7が、何かの要因で幅方向中央部の温度が大きく低下する場合があり、その場合に、鋳片7の幅方向両端部の中心偏析の悪化やポロシティの増大が生じることが判明した。
【0037】
そこで、本実施形態では、軽圧下帯22の直前の、湾曲帯20から水平帯21に移る位置に鋳片7の幅方向の表面温度分布を測定するための温度計25を設け、軽圧下帯22の最上流側部分に図3に示すような凸ロールである軽圧下ロール13′を上ロールとして用いた軽圧下セグメントAを設けて、温度計25で計測された温度分布が、図4に示す鋳片幅方向中央部の温度の低下量ΔTが所定値を超えた際に、軽圧下セグメントAにおいて所定の軽圧下量で鋳片7を積極的に圧下するように油圧シリンダー17によりロール開度を調節する。このとき、軽圧下セグメントAでは、凸ロールにより主に鋳片7の幅方向中央部が圧下されるので、鋳片7の断面形状は、図6に示すように、幅方向中央部が凹んだ形状となる。したがって、次の軽圧下セグメントB1、B2においては、鋳片7の幅方向両端部の圧下が中心に行われ、軽圧下帯22を通過した時点では、幅方向で厚みがほぼ均一な断面矩形状の鋳片となる。
【0038】
鋳片の幅方向中央部付近の表面温度が他の部分よりも低くなる過冷却現象は、二次冷却の上流側での流下水や滞留水が影響するといわれているが、その発生原因が完全には解明されておらず、対策も確立されていないのが実情である。いずれにしても、現実に、鋳造の途中で何らかの要因で過冷却が発生したり、解消したりすることがあり、この過冷却が発生する幅方向の位置としては幅中央部付近である場合が多い。このような過冷却が発生すると、過冷却が発生した幅方向位置(幅方向中央部)におけるクレーターエンド位置は通常よりも上流側になる。すなわち、クレーターエンド形状が幅方向の両端部で延びたものとなる。このような状態で通常の軽圧下を行っても軽圧下不足となって、幅方向端部で中央偏析やポロシティの悪化を招く。したがって、過冷却が発生した幅方向中央部については、通常よりも上流側で軽圧下を行うことが適切であり、そのために本発明では鋳片の幅方向中央部を凸ロールで軽圧下するのである。また、過冷却が発生したときは通常よりも鋳片の平均温度が低下し、所定の軽圧下を行うための軽圧下荷重が増大するが、軽圧下帯22の上流側部分の軽圧下セグメントAでは凸ロールで幅中央部付近のみを圧下し、下流側部分の軽圧下セグメントB1、B2では通常のロールで中央が凹んだ鋳片の両端部近傍を中心に圧下するので、軽圧下荷重の増大を防ぎ所定の軽圧下量の確保も容易になる。
【0039】
このように本実施形態によれば、鋳片の幅方向温度分布に応じて、鋳片の軽圧下を鋳片の幅方向で適正に行うことができるので、軽圧下不足による中心偏析の悪化や、センターポロシティの増大を防ぐことができ、内部品質の良好な鋳片を得ることができるのである。
【実施例】
【0040】
図1に示した連続鋳造設備を用いて、炭素含有量が0.05mass%、マンガン含有量が1.3mass%である炭素鋼の鋳造を行った。このときのスラブ(鋳片)厚は250mm、スラブ幅は2000mmとした。本鋼種の鋳造条件では、通常、クレーターエンドは軽圧下帯における軽圧下セグメントB1またはB2にクレーターエンドが位置するので、軽圧下セグメントB1、B2でそれぞれ2mmずつの軽圧下を行うように基準の軽圧下条件を定めている。なお、軽圧下セグメントは8組のロールがあるため、ロール一組あたり0.25mmの圧下量となる。
【0041】
実際の鋳造に際しては、本鋳片の軽圧下前の幅方向温度分布は、初期は図4の破線のように幅方向で概略平坦であったが、鋳造途中で図4の実線のように幅中央の温度が低くなる過冷却現象が発生した。具体的には、鋳片幅方向の左端部(鋳片の幅方向左端から1/8(250mm)の位置)の温度が920℃、右端部(左端から7/8(1750mm)の位置)の温度が940℃、中央位置(左端から1000mmの位置)の温度が最低で800℃となった。
【0042】
そこで本発明例においては、軽圧下セグメントAの上ロールとして、図3に示す形状の凸ロールであって、aを左端から1/8(250mm)、bを左端から1/4(500mm)、cを左端から3/4(1500mm)、dを左端から7/8(1750mm)としたものを用い、図5に示すように、ΔT0=50℃、ΔT1=150℃、ΔR1=2mmとし、これに適合するように軽圧下セグメントAの圧下設定を変更して軽圧下を行って、図6に示すような幅方向中央部が凹んだ形状の鋳片とした。上述したように、鋳片幅方向の左端部の温度が920℃、右端部の温度が940℃であって平均値が930℃であり、中央部温度の温度が最低で800℃であるから、鋳造途中でΔTは最大130℃となり、セグメントAでの圧下量は1.6mmとなった。その後の軽圧下セグメントB1、B2においては、このような幅方向中央部が凹んだ鋳片の両端部をロール一組あたり0.25mmずつ圧下するようにした。これに対し比較例では、軽圧下セグメントAでの軽圧下は実施せず、従来どおり軽圧下セグメントB1、B2のみの圧下を上記本発明例と同じ条件で行った。
【0043】
以上のような本発明例および比較例の条件で鋳造された鋳片における幅方向の中心偏析やポロシティの分布を調査した。その結果、本発明例では、幅方向の全範囲について中心偏析がきわめて少なくポロシティのない内部品質の良好な鋳片が得られたのに対し、比較例では,特に幅方向の両端部で軽圧下の不足と見られる中心偏析やポロシティが多く見られた。これは、比較例ではセグメントB1、B2で鋳片の幅方向両端以外に中央位置も同時に軽圧下しようとしているので、軽圧下荷重の増大を招いて所定の軽圧下が行えなかったためと考えられる。かくして本発明の効果が実証された。
【符号の説明】
【0044】
1;連続鋳造設備
3;タンディッシュ
5;鋳型
7;鋳片
9;案内ロール
11;冷却水
13;軽圧下ロール
13′;軽圧下ロール(凸ロール)
17;油圧シリンダー
20;湾曲帯
21;水平帯
22;軽圧下帯
25;温度計
30;制御装置
A,B1,B2;軽圧下セグメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型内に溶鋼を注入し、鋳型内で表面が凝固して形成された鋳片を、複数本のロールに案内させながら凝固させ、鋳片の凝固末期に、鋳片を挟持するロールの開度を徐々に狭めて、鋳片を軽圧下しつつ引き抜く軽圧下帯を配置した連続鋳造設備を用いて鋳片を連続鋳造する鋼の連続鋳造方法であって、
前記軽圧下帯の上流側部分に、幅方向中央部のロール径が両端部のロール径よりも大きい凸ロールを配置し、鋳片が前記軽圧下帯に達する前に鋳片表面の幅方向温度分布を測定し、幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、前記凸ロールにより鋳片の幅方向中央部を中心とした軽圧下を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
鋳片表面の幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、その温度差に応じて、前記凸ロールによる軽圧下量を制御することを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項3】
鋳片表面の幅方向中央位置の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、前記凸ロールにより板厚中央部を中心とした軽圧下を行った後、幅方向の径が等しいロールで板厚幅方向を中心とした軽圧下を行うことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鋼の連続鋳造方法。
【請求項4】
鋳型内に溶鋼を注入し、鋳型内で表面が凝固して形成された鋳片を、複数本のロールに案内させながら凝固させつつ引き抜く鋼の連続鋳造設備であって、
鋳片の凝固末期部分に配置され、鋳片を挟持するロールの開度を徐々に狭めて、鋳片を軽圧下しつつ引き抜く軽圧下帯と、
鋳片が前記軽圧下帯に達する前に鋳片表面の幅方向温度分布を測定する温度計とを具備し、
前記軽圧下帯は、上流側部分に幅方向中央部のロール径が両端部のロール径よりも大きい凸ロールを有し、
幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、前記凸ロールにより鋳片の幅方向中央部を中心とした軽圧下を行うことを特徴とする鋼の連続鋳造設備。
【請求項5】
幅方向中央位置の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、その温度差に応じて、前記凸ロールによる軽圧下量を制御する制御装置をさらに具備することを特徴とする請求項4に記載の鋼の連続鋳造設備。
【請求項6】
前記軽圧下帯は、上流側部分に配置され、幅方向中央部のロール径が両端部のロール径よりも大きい凸ロールを有する第1の軽圧下セグメントと、前記第1の軽圧下セグメントの下流側部分に配置され、幅方向の径が等しいロールにより軽圧下を行う一または複数の第2の軽圧下セグメントとを有し、
幅方向中央部の温度が幅方向両端部の温度よりも所定温度低い場合に、前記第1の軽圧下セグメントにおいて前記凸ロールにより鋳片の幅方向中央部を中心とした軽圧下を行った後、第2の軽圧下セグメントで鋳片の幅方向両端部を中心とした軽圧下を行うことを特徴とする請求項4または請求項5に記載の鋼の連続鋳造設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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