説明

鋼の連続鋳造方法

【課題】 アルミナなどの浸漬ノズル内壁への付着を防止するべく、タンディッシュから鋳型への溶鋼流出孔内を流下する溶鋼中にArガス及び窒素ガスを吹き込んで溶鋼を連続鋳造するにあたり、アルミナなどの非金属介在物の付着が発生したならば、この非金属介在物の付着を、鋳型内溶鋼の湯面変動を増大させることなく動的に防止する。
【解決手段】 タンディッシュ1から鋳型2への溶鋼流出孔11を流下する溶鋼中にArガス及び窒素ガスを吹き込みながら溶鋼17を連続鋳造する、鋼の連続鋳造方法において、Arガスの吹き込み流量は一定値とし、前記溶鋼流出孔を構成する浸漬ノズル9でのノズル詰まり傾向が発生したときは、窒素ガスの吹き込み流量をノズル詰まりの発生していない鋳造時期よりも増大し、ノズル詰まり傾向が解消したときは、窒素ガスの吹き込み流量をノズル詰まりの発生していない鋳造時期と同等になるように減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼の連続鋳造方法に関し、詳しくは、タンディッシュから鋳型に溶鋼を供給する浸漬ノズルでのアルミナ(Al23)やチタニア(TiO2)などの非金属介在物によるノズル詰まりを抑制し、且つ、前記非金属介在物を洗浄するべく、タンディッシュから鋳型への溶鋼流出孔に吹き込まれる不活性ガスに起因する気泡欠陥の少ない鋳片を鋳造するための連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造においては、タンディッシュ内に滞留する溶鋼を、タンディッシュの底部に設けた浸漬ノズルを通して鋳型へ注入している。このとき、タンディッシュ内の溶鋼にアルミナなどの非金属介在物が含まれている場合には、この非金属介在物が浸漬ノズルの内壁面に付着・堆積し、浸漬ノズルの詰まりが発生する。浸漬ノズルが閉塞すると、鋳造作業上及び鋳片品質上で様々な問題が発生する。例えば、鋳型内溶鋼の流動パターンが変化して、溶鋼流による凝固シェルの洗浄効果が低下し、鋳片表層下に非金属介在物やガス気泡が捕捉されて、鋳片の品質が低下する。この問題は、特に、鋳型内溶鋼の電磁攪拌設備を備えていない連続鋳造機で著しく、致命的な欠陥を生じる原因となる。
【0003】
そこで、浸漬ノズル内壁での非金属介在物の付着・堆積を防止するために、Arガスや窒素ガスなどの不活性ガスを、タンディッシュから鋳型への溶鋼流出孔内を流下する溶鋼中に吹き込み、不活性ガスによって浸漬ノズルの内壁を洗浄し、非金属介在物の付着・堆積を防止する方法が実施されてきた。
【0004】
吹き込む不活性ガスのうち、窒素ガスは溶鋼に可溶であるので、鋳片の表層部に気泡性欠陥として残存することはないが、鋼の窒素含有量が増加し、鋼としての材料特性を損なう恐れがあり、窒素ガスの吹き込み量は限られる。一方、Arガスは鋼の成分に影響しないので、鋼の材料特性を劣化することはないが、高価であり、且つ、凝固シェルに捕捉されて気泡性欠陥を鋳片にもたらす恐れがある。また、Arガスの流量を増加すると、鋳型内溶鋼湯面の変動量が大きくなり、モールドパウダーの巻き込みを起こすという問題も発生する。
【0005】
これらのことから、Arガスと窒素ガスとの吹き込み流量のバランスをとったり、吹き込み位置を変えたりするなどして、両者の短所を補った吹き込み方法が提案され実施されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、溶鋼トンあたり4NL以下に制限したArガスと窒素ガスとの混合ガスを吹き込む方法が提案され、特許文献2には、タンディッシュの上ノズルにそれぞれ個別にガス吹き込みが可能な上下2段のガス吹き込み部を設け、上段のガス吹き込み部からは溶鋼に可溶なガスまたは溶鋼に可溶なガスとArガスとの混合ガスを、下段のガス吹き込み部からはArガスを吹き込む方法が提案され、特許文献3には、Arガスと溶鋼に可溶なガスとの混合ガスを吹き込む際に、鋳型の断面積によってArガス流量を決定し、溶鋼注入量(スループット)によって全体のガス流量を決定する方法が提案され、特許文献4には、上ノズルに上下2段のガス吹き込み部を設け、上段のガス吹き込み部からはArガスを、下段のガス吹き込み部からは窒素ガスとArガスとの混合ガスを吹き込む方法が提案されている。
【0007】
ところで、特許文献1〜4の方法では、吹き込みガス流量が一定値に制御されており、実際の操業では、このように制御すると、次第に浸漬ノズルの内壁にアルミナが付着し成長することが発生する。
【0008】
この問題を解決するために、特許文献5は、タンディッシュから鋳型への溶鋼流出孔内を流下する溶鋼中にArガスなどの不活性ガスを吹き込むにあたり、不活性ガスの背圧または流量を鋳造中に増減させながら吹き込む方法を提案している。特許文献5によれば、浸漬ノズルにおけるアルミナ付着の主たる原因は、浸漬ノズル内の溶鋼の偏流などによって生ずる浸漬ノズル内での淀みであり、鋳造中に不活性ガスの背圧或いは流量を強制的に且つ頻繁に増減させることで、浸漬ノズル内の溶鋼の流れが乱れ、これにより淀みが解消されてアルミナ付着が抑制されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−38747号公報
【特許文献2】特開平11−57958号公報
【特許文献3】特開2005−305489号公報
【特許文献4】特開2009−66603号公報
【特許文献5】特開2007−237246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献5にも以下の問題点がある。
【0011】
即ち、特許文献5は、不活性ガスの背圧または流量を鋳造中に増減させるとはいえ、ノズル詰まりの発生の如何に拘らず増減させており、基本的には一定の条件で不活性ガスを吹き込む技術であって、ノズル詰まりの兆候が見られたときに、それを打ち消す方向に制御する技術ではない。つまり、実際にノズル詰まりの兆候が見られたときに、それを動的に解消する技術ではない、換言すれば、ダイナミックな対処技術ではないという問題点がある。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、アルミナなどの非金属介在物の浸漬ノズル内壁への付着を防止するべく、タンディッシュから鋳型への溶鋼流出孔内を流下する溶鋼中にArガス及び窒素ガスを吹き込んで溶鋼を連続鋳造するにあたり、アルミナなどの非金属介在物の付着が発生したならば、この非金属介在物の付着を、鋳型内溶鋼の湯面変動を増大させることなく動的に防止することのできる、鋼の連続鋳造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための第1の発明に係る鋼の連続鋳造方法は、タンディッシュから鋳型への溶鋼流出孔を流下する溶鋼中にArガス及び窒素ガスを吹き込みながら溶鋼を連続鋳造する、鋼の連続鋳造方法において、Arガスの吹き込み流量は一定値とし、前記溶鋼流出孔を構成する浸漬ノズルでのノズル詰まり傾向が発生したときは、窒素ガスの吹き込み流量をノズル詰まりの発生していない鋳造時期よりも増大し、ノズル詰まり傾向が解消したときは、窒素ガスの吹き込み流量をノズル詰まりの発生していない鋳造時期と同等になるように減少することを特徴とする。
【0014】
第2の発明に係る鋼の連続鋳造方法は、第1の発明において、窒素ガスの吹き込み流量を、ノズル詰まりの発生していない鋳造時期及びノズル詰まり傾向が発生した鋳造時期ともに、周期的に増減させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Arガス及び窒素ガスをノズル詰まり防止のための洗浄用ガスとしてタンディッシュから鋳型への溶鋼流出孔内を流下する溶鋼中に吹き込んで連続鋳造する際に、浸漬ノズルにノズル詰まり傾向が発生したときには、溶鋼流出孔内に吹き込む窒素ガス流量を増加させるので、洗浄効果が強化され、浸漬ノズル内壁に付着した非金属介在物が洗浄除去され、ノズル詰まりが解消される。この場合に、溶鋼に可溶な窒素ガスのみを増加させるので、窒素ガスは鋳型内で溶鋼中に溶解してしまい、鋳型内溶鋼湯面の変動量は増大せず、鋳型内溶鋼湯面の変動が大きくなると発生するモールドパウダーの巻き込みや鋳片表層部の気泡欠陥などの他の欠陥を誘発しない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施する際に用いたスラブ連続鋳造機のタンディッシュ及び鋳型の部位の概略図である。
【図2】上ノズルからArガス及び窒素ガスを吹き込んで、本発明を実施する際に用いる上ノズルの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明に係る連続鋳造方法を実施する際に用いたスラブ連続鋳造機のタンディッシュ及び鋳型の部位の概略図である。
【0018】
図1において、相対する鋳型長辺13と、鋳型長辺13の内側に内装された、相対する鋳型短辺14と、により構成される鋳型2の上方所定位置に、外殻を鉄皮15で覆われ、内部を耐火物16で施行されたタンディッシュ1が配置されている。このタンディッシュ1の底部には、耐火物16に嵌合する上ノズル3が設置され、そして、上ノズル3の下面に接して、上部固定板5、摺動板6、下部固定板7及び整流ノズル8からなるスライディングノズル4が配置され、更に、スライディングノズル4の下面に接して、その下部に一対の吐出孔10を有する浸漬ノズル9が配置され、タンディッシュ1から鋳型2への溶鋼流出孔11が形成されている。
【0019】
浸漬ノズル9は、下部に設置される吐出孔10が鋳型内の溶鋼17に埋没するようにその先端が溶鋼17中に浸漬されて使用される。摺動板6は、往復型アクチュエーター12と接続されており、往復型アクチュエーター12の作動により、上部固定板5と下部固定板7との間をこれらの固定板と接触したまま移動し、摺動板6と上部固定板5及び下部固定板7とで形成する開口部面積を調整することにより溶鋼流出孔11を通過する溶鋼量が制御される。尚、図1の例は、スライディングノズル4として、上部固定板5、摺動板6、下部固定板7を有する3層型のものを示すが、下部固定板7を有さず、摺動板6の直下に整流ノズル8を配置した、いわゆる2層型のスライディングノズルであっても構わない。また、摺動板6の摺動方向も、図示のように鋳型長辺13に平行な方向ではなく、鋳型短辺14に平行な方向であっても良い。
【0020】
本発明では、タンディッシュ1から鋳型2への溶鋼流出孔11を流下する溶鋼17に、浸漬ノズル9の内壁面へのアルミナなどの非金属介在物の付着・堆積を防止するために、Arガス及び窒素ガスを吹き込むことを必須とするが、吹き込む位置は、溶鋼流出孔11を構成する、上ノズル3、上部固定板5、摺動板6、下部固定板7、整流ノズル8、浸漬ノズル9の何れの部位であっても構わず、また、これらの2箇所以上の部位としてもよく、また更にArガス及び窒素ガスの吹き込み位置をそれぞれこれらの部位に分けることも可能である。また、Arガスと窒素ガスとの混合ガスを吹き込んでも、Arガス及び窒素ガスをそれぞれ個別に吹き込んでも、どちらでも構わない。吹き込み部位には、ポーラス煉瓦を配置し、このポーラス煉瓦から吹き込むことが一般的であるが、浸漬ノズル9から吹き込む場合には、浸漬ノズル9の壁壁に空間部であるスリット(図示せず)を設け、浸漬ノズル9の側壁耐火物の気孔を介して吹き込むようにしてもよい。
【0021】
本実施形態では、上ノズル3からArガス及び窒素ガスを吹き込む例を説明する。図2に、上ノズルからArガス及び窒素ガスを吹き込んで、本発明を実施する際に用いる上ノズルの概略図を示す。
【0022】
上ノズル3は、図2に示すように、上段ガス吹き込み部3a、下段ガス吹き込み部3b、及び、上段ガス吹き込み部3aと下段ガス吹き込み部3bとを取り囲む本体部3eの3つの部分で構成され、その外周には鉄皮3fが配置されている。上段ガス吹き込み部3a及び下段ガス吹き込み部3bは、アルミナ質のポーラス煉瓦で形成され、本体部3eは、比較的緻密なアルミナ質で形成されている。図2では、上段ガス吹き込み部3a及び下段ガス吹き込み部3bが本体部3eと明確に区別できるように表示しているが、実際には明確な境界はなく、本体部3eを形成するアルミナ質煉瓦と、上段ガス吹き込み部3a及び下段ガス吹き込み部3bを形成するアルミナ質ポーラス煉瓦とが、徐々にその配合比率を変えるようにして形成されている。つまり、一体的に形成されている。
【0023】
鉄皮3fを貫通して2本のガス導入管3c,3dが配置されていて、ガス導入管3cは上段ガス吹き込み部3aに開口し、ガス導入管3dは下段ガス吹き込み部3bに開口している。即ち、ガス導入管3cから供給されるガスは上段ガス吹き込み部3aを介して溶鋼流出孔11の内部に吹き込まれ、一方、ガス導入管3dから供給されるガスは下段ガス吹き込み部3bを介して溶鋼流出孔11の内部に吹き込まれるように構成されている。上ノズル3の外周に配置される鉄皮3fは、上ノズル3の強度を確保する目的もあるが、吹き込まれるガスが上ノズル3の外周面から流出することを防止している。従って、ガス導入管3c,3dから供給されたガスは、確実に溶鋼流出孔11の内部に吹き込まれるようになっている。ガス導入管3c,3dはそれぞれ独立したガス供給装置に接続しており、それぞれ独立してガス供給量が制御されるようになっている。
【0024】
上段ガス吹き込み部3aから、Arガス、窒素ガス、Arガスと窒素ガスとの混合ガスの何れかを、下段ガス吹き込み部3bから、Arガス、窒素ガス、Arガスと窒素ガスとの混合ガスの何れかを吹き込み、上下段を合わせた全体でArガスと窒素ガスとが吹き込まれるようにすればよい。
【0025】
このように構成されるスラブ連続鋳造機を用い、以下のようにして本発明の連続鋳造方法を実施する。
【0026】
転炉または電気炉などの一次精錬炉若しくはRH真空脱ガス装置などの二次精錬炉で溶製されたアルミキルド鋼の溶鋼17を、取鍋(図示せず)からタンディッシュ1に注入し、タンディッシュ1に滞留する溶鋼量が所定量になったなら、摺動板6を開き、溶鋼流出孔11を介して溶鋼17を鋳型2に注入する。溶鋼17は、吐出孔10から、鋳型短辺14に向かう吐出流18となって鋳型内に注入される。鋳型内に注入された溶鋼17は鋳型2により冷却され、凝固シェル21を形成する。そして、鋳型内に所定量の溶鋼17が注入されたなら、吐出孔10を鋳型内の溶鋼17に浸漬した状態で、鋳型2の下方に設置したピンチロール(図示せず)を駆動して、外殻を凝固シェル21とし、内部に未凝固の溶鋼17を有する鋳片の引き抜きを開始する。引き抜き開始後は溶鋼湯面19の位置を鋳型内のほぼ一定位置に制御しながら鋳片引き抜き速度を増速し、その速度を維持して鋳造を継続する。その際に、鋳型内の溶鋼湯面19の上にはモールドパウダー20を添加する。モールドパウダー20は溶融して、溶鋼17の酸化防止や凝固シェル21と鋳型2との間隙に流れ込み潤滑剤としての効果を発揮する。また、鋳型内に溶鋼17を注入した後は鋳型2を上下に周期的に振動させる、いわゆるオシレーションを行なって、凝固シェル21と鋳型2との焼き付きを防止するとともに、鋳片の引き抜きに際しての、鋳型壁面と凝固シェル間の摩擦を低減する。
【0027】
この鋳造中、例えば、上ノズル3の上段ガス吹き込み部3aからは溶鋼17に可溶な窒素ガスを、また、下段ガス吹き込み部3bからは溶鋼17に不溶なArガスを、溶鋼流出孔11を流下する溶鋼中に吹き込む。勿論、この逆であってもよい。
【0028】
ガス吹き込み流量は、溶鋼17の鋳型2への注入量(スループット)に応じて設定すればよく、例えば、浸漬ノズル9でアルミナによるノズル詰まりが生じていない定常鋳造時期には、Arガスは、5.0ないし6.5NL/分程度の一定値、窒素ガスは、2.0ないし3.0NL/分程度の一定値或いはこの範囲内で周期的に増減させる。窒素ガスの吹き込み流量を周期的に増減させることで、溶鋼流出孔11を流下する溶鋼17の流れが乱れ、これによりアルミナ付着がより一層抑制される。窒素ガスの吹き込み流量の増減の周期は1〜30秒間隔とすればよい。また、周期的でなく、不規則に増減させてもよい。
【0029】
この鋳造中に、浸漬ノズル9の内壁面にてアルミナによる「ノズル詰まり傾向」が発生したならば、窒素ガスの吹き込み流量を、上記のアルミナによるノズル詰まりを生じていない定常鋳造時期に比較して増加させ、浸漬ノズル9の内壁面に付着したアルミナを強制的に洗浄し、アルミナによるノズル詰まりを解消する。ノズル詰まりが解消したなら、窒素ガスの吹き込み流量を、定常鋳造時期の吹き込み流量に戻す。
【0030】
ノズル詰まり傾向が発生した鋳造時期の窒素ガス流量は、3.0ないし4.0NL/分とすれば十分である。但し、ノズル詰まりの発生していない鋳造時期に比較して1.0NL/分程度は多くなるように流量調整することが好ましい。この、ノズル詰まり傾向が発生した鋳造時期の窒素ガスの吹き込み方法は、定常鋳造時期と同様に、一定値とするか或いは前記範囲内で周期的に増減させる。
【0031】
浸漬ノズル9の内壁面での「ノズル詰まり傾向」の発生有無を判定する手段の1つとして、スライディングノズル4の開度(固定板5,7と摺動板6とが重なり合い、開口した範囲の長さ)の変化に基づき行うことができる。鋼の連続鋳造では、一定の鋳造速度つまり鋳型2への溶鋼17の注入量を一定とするのが原則であり、通常、スライディングノズル4の開度は一定となる。しかし、浸漬ノズル9の内壁面、つまり溶鋼流出孔11でノズル詰まりが発生すると、溶鋼流出孔11の断面積が減少し、所定の溶鋼注入量を確保しようとして、スライディングノズル4の開度が必然的に大きくなる。即ち、浸漬ノズル9の内壁面でノズル詰まりが発生すると、先ず、溶鋼注入量が低下して鋳型内の溶鋼湯面19の位置が降下し、これを検知した鋳型内湯面制御装置がスライディングノズル4の開度を大きくするように往復型アクチュエーター12に信号を送信する。これにより、復型アクチュエーター12が作動してスライディングノズル4の開度を大きくすることで、鋳型内の溶鋼湯面19の位置が所定の一定位置に制御される。
【0032】
このスライディングノズル4の開度を常時監視し、ノズル詰まり傾向を把握する。つまり、スライディングノズル4の開度が、それ以前に比較して相対的に大きくなってきたならば、ノズル詰まり傾向と判定する。但し、スライディングノズル4の開度に変化が生じるまでに、鋳型内湯面制御装置の安定性のために、多少の時間遅れが発生することもあり、スライディングノズル4の開度に変化が見られたときには、アルミナ付着が相当進んでいる場合も有り得る。このようになってから付着したアルミナを洗浄・除去しようとすると、窒素ガスの吹き込み流量を長期間にわたって増加しなければならず、その間、溶鋼中の窒素濃度が増加する。この鋼の窒素含有量の増加による材料特性を損なわないためにも、迅速に洗浄・除去することが望ましい。
【0033】
アルミナ付着に対してより迅速に対処するには、鋳型内湯面制御装置の渦流式センサーなどによる溶鋼湯面19の位置の検出データを監視し、鋳型内溶鋼湯面19の位置の降下を直接検出して、これに基づいて、ノズル詰まり傾向を判定することが好ましい。このようにすることで、ノズル詰まりの初期段階で窒素ガスの吹き込み流量を増加することができ、ノズル詰まりを迅速に解消することが可能となる。
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、Arガス及び窒素ガスをノズル詰まり防止のための洗浄用ガスとしてタンディッシュ1から鋳型2への溶鋼流出孔11を流下する溶鋼中に吹き込んで連続鋳造する際に、ノズル詰まり傾向が発生したときには、溶鋼流出孔内に吹き込む窒素ガス流量を増加させるので、洗浄効果が強化され、浸漬ノズル9の内壁などの溶鋼流出孔11に付着した非金属介在物が洗浄除去され、ノズル詰まりが解消される。この場合に、溶鋼17に可溶な窒素ガスのみを増加させるので、窒素ガスは鋳型内で溶鋼中に溶解して鋳型内の溶鋼湯面19の変動量は増大せず、溶鋼湯面19の変動が大きくなると発生するモールドパウダー20の巻き込みや鋳片表層部の気泡欠陥などの他の欠陥をも防止することができる。
【0035】
尚、スラブ連続鋳造機には、垂直型、垂直曲げ型、湾曲型の3つの型式が存在するが、何れの型式であっても本発明を適用することができる。また、本発明は、鋳型2に鋳型内溶鋼の流動制御を行うための電磁攪拌装置の設置されていない連続鋳造機で特に効果を発揮するが、電磁攪拌装置の設置されている連続鋳造機であっても、本発明を適用することができる。また更に、上記説明は非金属介在物がアルミナの場合を例として説明したが、脱酸剤としてチタンを使用した際に生成される酸化チタン(チタニア)も浸漬ノズル9の内壁に付着することから、非金属介在物が酸化チタンの場合も本発明を適用することができる。
【実施例1】
【0036】
図2に示す上ノズルが設置されたスラブ連続鋳造機を用いて本発明を実施した。タンディッシュの容量は40トンであり、厚みが250mm、幅が750〜1700mmの極低炭素鋼のスラブ鋳片を1.6m/分の鋳造速度で鋳造した。
【0037】
本発明例では、ノズル詰まりの発生していない定常鋳造時期は、上ノズルの下段ガス吹き込み部から鋳型への溶鋼注入量に応じて5.0〜6.5NL/分の範囲の一定流量のArガスを吹き込み、上ノズルの上段ガス吹き込み部からは、溶鋼注入量に拘わらず2.5NL/分の窒素ガスを吹き込んだ。また、鋳造中、鋳型内の溶鋼湯面位置を検出する渦流式センサーの検出データに基づいてノズル詰まり傾向を判定し、ノズル詰まり傾向と判定した場合には、上ノズルの上段ガス吹き込み部からの窒素ガス吹き込み流量を3.5NL/分に増加し、一方、ノズル詰まりが解消されたことをスライディングノズルの開度に基づいて判定し、前記処置によってノズル詰まりが解消したと判定した場合には、上ノズルの上段ガス吹き込み部からの窒素ガス吹き込み流量を2.5NL/分に戻すことを実施した。
【0038】
また、比較のために、ノズル詰まりの発生の如何に拘わらず、上ノズルの下段ガス吹き込み部から6.0NL/分のArガスを吹き込み、上ノズルの上段ガス吹き込み部から2.0NL/分のArガスを吹き込む操業(比較例1)、及び、ノズル詰まりの発生の如何に拘わらず、上ノズルの下段ガス吹き込み部から4.0NL/分のArガスを吹き込み、上ノズルの上段ガス吹き込み部から最小0.5NL/分、最大7.1NL/分の窒素ガスを周期的に変化させて吹き込む操業(比較例2)も実施した。
【0039】
その結果、本発明例では、鋳型内の溶鋼湯面レベルの変動量は最大で8.2mmであり、1つの浸漬ノズルあたり平均で4.0チャージの連続鋳造が可能であった。これに対して、比較例1では、鋳型内の溶鋼湯面レベルの変動量は最大で9.5mmであり、1つの浸漬ノズルあたり平均で3.79チャージの連続鋳造が可能であり、比較例2では、鋳型内の溶鋼湯面レベルの変動量は最大で5.6mmであり、1つの浸漬ノズルあたり平均で3.0チャージの連続鋳造が可能であった。
【0040】
このように、本発明を適用することで、アルミナ詰まりを抑制することが可能となり、1つの浸漬ノズルあたりの鋳造可能なチャージ数を増加することが実現できた。
【符号の説明】
【0041】
1 タンディッシュ
2 鋳型
3 上ノズル
3a 上段ガス吹き込み部
3b 下段ガス吹き込み部
3c ガス導入管
3d ガス導入管
3e 本体部
3f 鉄皮
4 スライディングノズル
5 上部固定板
6 摺動板
7 下部固定板
8 整流ノズル
9 浸漬ノズル
10 吐出孔
11 溶鋼流出孔
12 往復型アクチュエーター
13 鋳型長辺
14 鋳型短辺
15 鉄皮
16 耐火物
17 溶鋼
18 吐出流
19 溶鋼湯面
20 モールドパウダー
21 凝固シェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンディッシュから鋳型への溶鋼流出孔を流下する溶鋼中にArガス及び窒素ガスを吹き込みながら溶鋼を連続鋳造する、鋼の連続鋳造方法において、Arガスの吹き込み流量は一定値とし、前記溶鋼流出孔を構成する浸漬ノズルでのノズル詰まり傾向が発生したときは、窒素ガスの吹き込み流量をノズル詰まりの発生していない鋳造時期よりも増大し、ノズル詰まり傾向が解消したときは、窒素ガスの吹き込み流量をノズル詰まりの発生していない鋳造時期と同等になるように減少することを特徴とする、鋼の連続鋳造方法。
【請求項2】
窒素ガスの吹き込み流量を、ノズル詰まりの発生していない鋳造時期及びノズル詰まり傾向が発生した鋳造時期ともに、周期的に増減させることを特徴とする、請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−110561(P2011−110561A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266891(P2009−266891)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】