説明

鋼材用吊具および吊上げ方法

【課題】被吊り上げ物の鋼材とハッカとの接触面に生じる微細な疵を低減し、この疵が引っ掛かり、もしくは、ハッカが回転し過ぎて鋼材からハッカを離脱させることができないトラブルを防止することにより、荷役作業能率を向上させることができる鋼材用吊具および吊上げ方法を提供する。
【解決手段】クレーンの巻き上げフックに係合される吊りビームに複数対の吊りワイヤ2が連結され、該吊りワイヤの下端に、鋼材を吊り上げるハッカ3が連結されてなる鋼材用吊具であって、前記ハッカの先端部の鋼材との接触面に、ビッカース硬度(HV)400以上の硬質部材5を着脱自在に取付け、もしくは、ハッカの上部に過回転防止突起を有し、該過回転防止突起は、ハッカ回転中心となる爪基部を通る線であって、ハッカを吊上げる吊り軸が移動する溝の下端に形成された鍵部の内側における接線と平行な線より突出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼材荷役に係り、特にリフティングマグネットを使用することなくハッカ(hook of fine point)によって吊り上げ・下ろしが行われる荷役に用いられる鋼材用吊具および吊上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板などの鋼材をクレーンにより荷役する場合、クレーンの巻き上げフックに対して、リフティングマグネットを付けるか、あるいは複数対のハッカを備える吊具を付けて作業している。
【0003】
この鋼材荷役の際に使用される複数対のハッカを備える吊具については、従来から種々の提案がなされており、例えば、特開平10−167654号公報(下記特許文献1)には、各吊りワイヤの下端部がハッカに対し上下方向に移動可能に連結され、吊り下げ中の鋼材が定置された直後の吊りビームの下げ・上げ操作に伴い吊りワイヤが一時的に緊張を解かれるのに応動して、吊りワイヤの下端部を移動させ、ハッカ先端部の鋼材下面に対する作用点よりも鋼材内側寄りの上方位置に設けた玉掛け・荷役用力点から、それよりも下方で前記作用点よりも鋼材外側寄りの上方位置に設けた玉外し用力点に位置替えさせる吊り位置切替え手段を、各吊りワイヤと各ハッカとの連結部に設け、吊りワイヤの下端部が玉掛け・荷役用力点から玉外し用力点に移動し、吊り上げ操作により吊りワイヤを緊張することによって、ハッカに鋼材のエッジ部下面により挟持されているハッカ先端部を引き抜かせる方向の回転モーメントを付与することにより、被吊り上げ物の鋼材からハッカを遠隔操作によって自動的に離脱させる鋼材用荷役吊具が記載されている。
【0004】
しかし、ハッカを備える従来の吊具は、鋼材の剪断時に鋼材端面に発するバリであるシアーバリや、鋼材から離脱するハッカ同士の衝突による微細な疵が生じ、この疵が引っ掛って鋼材からハッカを離脱させることができない場合があり、ハッカを叩いて抜き取る作業が避けられなく、これは安全上問題が生じ易い作業であるうえ、ハッカ外し作業に相当な時間がかかるため荷役作業能率が低下するという問題があった。また、従来のハッカは二本爪タイプのため、厚板のように平面形状の製品にしか適用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−167654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような問題点を解決し、被吊り上げ物の鋼材とハッカとの接触面に生じる微細な疵を低減し、この疵が引っ掛かり、もしくは、ハッカが回転し過ぎて鋼材からハッカを離脱させることができないトラブルを防止すること、および、平面形状以外の鋼管や形鋼にも適用することにより、荷役作業能率を向上させることができる鋼材用吊具および吊上げ方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、ハッカの構造について鋭意検討の結果、ハッ カの先端部の鋼材との接触面に、硬質部材を着脱自在に取付けたものであり、その要 旨とするところは、特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)クレーンの巻き上げフックに係合される吊りビームに複数対の吊りワイヤが連結され、該吊りワイヤの下端に、鋼材を吊り上げるハッカが連結されてなる鋼材用吊具であって、前記ハッカの先端部の鋼材との接触面に、ビッカース硬度(HV)400以上の硬質部材を着脱自在に取付けたことを特徴とすることを特徴とする鋼材用吊具。
(2)クレーンの巻き上げフックに係合される吊りビームに複数対の吊りワイヤが連結され、該吊りワイヤの下端に、鋼材を吊り上げるハッカが連結されてなる鋼材用吊具であって、前記ハッカの上部に過回転防止突起を有し、該過回転防止突起は、ハッカ回転中心となる爪基部を通る線であって、ハッカを吊上げる吊り軸が移動する溝の下端に形成された鍵部の内側における接線と平行な線より突出していることを特徴とする鋼材用吊具。
(3)前記ハッカの先端部に対向する位置にズレ落ち防止突起を有し、該ズレ落ち防止突起の下面とハッカの先端部の上面との距離Hは40mm以上であることを特徴とする請求項2に記載の鋼材用吊具。
(4)前記各ハッカは、鋼材を支持する1本の爪を有することを特徴とする(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の鋼材用吊具。
【0008】
(5)前記ハッカと硬質部材とは、ボルト、または、かしめピンからなる結合手段により結合されていることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の鋼材用吊具。
(6)前記硬質部材の端面を斜めに削除した逃げ部を設けたことを特徴とする(1)乃至(5)のいずれか一項に記載の鋼材用吊具。
(7)(1)乃至(6)のいずれか一項に記載の鋼材用吊具を使用して鋼材を吊り上げることを特徴とする鋼材の吊上げ方法。
<作用>
【0009】
(1)の発明によれば、ハッカの先端部の鋼材との接触面に、硬質部材を着脱自在に取付けたので、被吊り上げ物の鋼材とハッカとの接触面に生じる微細な疵を低減し、この疵が引っ掛かり、もしくは、ハッカが回転し過ぎて鋼材からハッカを離脱させることができないトラブルを防止することができる。
(2)の発明によれば、ハッカの上部に過回転防止突起を有し、該過回転防止突起は、ハッカ回転中心となる爪基部を通る線であって、ハッカを吊上げる吊り軸が移動する溝の下端に形成された鍵部の内側における接線と平行な線より突出しているので、ハッカを吊上げる吊り軸が溝の上方に移動して鋼材からハッカを離脱させることができないトラブルを防止することができる。
(3)の発明によれば、前記ハッカの先端部に対向する位置にズレ落ち防止突起を有しているので、ハッカの下に鋼材がない状態でも、バランサーで持ち上げなくてもハッカのズレ落ちを防止することができるので、荷役作業時間を短縮できる。
(4)の発明によれば、鋼材を支持する1本の爪を有するので、ハッカを軽量化することができるうえ、加工コストが安価で、かつ、ハンドリングが容易である。
【0010】
(5)の発明によれば、ハッカと硬質部材とは、ボルト、または、かしめピンからなる結合手段により結合されているので、硬質部材が欠けた場合でも簡単に取り替えることができる。
(6)の発明によれば、前記硬質部材の端面を斜めに削除した逃げ部を設けたので、鋼材を吊り上げる爪同士の衝突による変形や欠損を防止することができる。
(7)の発明によれば、(1)乃至(6)のいずれか一項に記載の鋼材用吊具を使用して鋼材を吊り上げることにより、被吊り上げ物の鋼材とハッカとの接触面に生じる微細な疵を低減し、この疵が引っ掛って鋼材からハッカを離脱させることができないトラブルを防止することができる鋼材の吊上げ方法を実現することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被吊り上げ物の鋼材とハッカとの接触面に生じる微細な疵を低減し、この疵が引っ掛って鋼材からハッカを離脱させることができないトラブルを防止することにより、荷役作業能率を向上させることができる鋼材用吊具および吊上げ方法を提供することができるなど、産業上有用な著しい効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を適用する鋼材用吊具の全体図である。
【図2】本発明の鋼材用吊具の第1の実施形態を例示する図である。
【図3】本発明の鋼材用吊具に用いる硬質部材の実施形態を例示する図である。
【図4】本発明の鋼材用吊具の第2の実施形態を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施形態を、添付図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は、本発明を適用する鋼材用吊具の全体図であり、図2は、本発明の鋼材用吊具の第1の実施形態を例示する図、図3は、本発明の鋼材用吊具に用いる硬質部材の実施形態を例示する図である。図1及び図2において、1は吊りビーム、2は吊りワイヤ、2´はバランサー、3はハッカ、4は鋼材、5は硬質部材、6は吊り軸を示す。
【0014】
図1に示すように、本発明を適用する鋼材用吊具は、クレーンの巻き上げフック(図示せず)に係合される吊りビーム1と、この吊りビーム1に鋼材4の吊り荷重に対応して連結された複数対の吊りワイヤ2と、各吊りワイヤ2の下端に連結されたハッカ3とを備える。本発明において、鋼材とは、板厚6mm以上の鋼板、鋼管、形鋼等の鉄鋼製品をいう。
【0015】
上記ハッカ3は、ハッカ本体と、ワイヤ連結具とを要素部材に備える。ハッカ本体は、爪状のハッカ先端部を下端部に有しており、定間隔を存し左右に対称関係に併設してもよいが、図2に示すように、鋼材4を支持する1本の爪を有することにより、ハッカを軽量化することができるうえ、平面形状以外の鋼管や形鋼にも適用でき、加工コストが安価で、かつ、ハンドリングが容易である。
【0016】
ハッカ3を備える従来の吊具は、鋼材4の剪断時に鋼材4の端面に発するバリであるシアーバリや、鋼材4から離脱するハッカ同士の衝突による微細な疵が生じ、この疵が引っ掛って鋼材からハッカ3を離脱させることができない場合があり、ハッカ3を叩いて抜き取る作業が避けられなく、これは安全上問題が生じ易い作業であるうえ、ハッカ外し作業に相当な時間がかかるため荷役作業能率が低下するという問題があった。
【0017】
そこで、本発明者等は、ハッカ3の構造について鋭意検討の結果、ハッカ3の先端部の鋼材4との接触面に、ビッカース硬度(HV)400以上の硬質部材5を着脱自在に取付けることにより、被吊り上げ物の鋼材とハッカとの接触面に生じる微細な疵を低減し、この疵が引っ掛って鋼材からハッカを離脱させることができないトラブルを防止することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
本発明においては、ハッカ3の硬度は通常用いられているビッカース硬度(HV)200〜300とすればよく、硬質部材5のビッカース硬度(HV)を400以上範囲とする理由は、400未満ではハッカの離脱成功率の向上効果が十分でないからである。なお、硬質部材5の硬度の上限は、加工性および経済性の観点から、ビッカース硬度(HV)500以下とすることが好ましい。
【0019】
図3は、本発明の鋼材用吊具に用いる硬質部材3の実施形態を例示する図であり、図3(a)は斜視図、図3(b)は側面図、図3(c)は正面図を示す。
図3(a)、(b)に示すように、硬質部材3の端面を斜めに削除した逃げ部を設けたので、鋼材を吊上げる爪同士の衝突による変形や欠損を防止することができる。
【0020】
また、硬質部材5には、図3(a), (b)に示すように、ボルト穴もしくは、ピン穴等を設け、ハッカ3と硬質部材5をボルト、または、かしめピン等を用いて結合することにより、硬質部材が欠けた場合でも簡単に取り替えることができる。
【0021】
図4は、本発明の鋼材用吊具の第2の実施形態を例示する図である。図4において、3はハッカ、6は吊り軸、7は溝、8は鍵部の内側における接線、9は過回転防止突起、Dは過回転防止突起高さ、10はズレ落ち防止突起、11はハッカ回転中心(爪基部)、12は鍵部の内側における接線と平行な線、Hはズレ落ち防止突起高さを示す。
【0022】
図4に示すように、ハッカ3には、吊り軸6がスライドして移動する溝7が設けられており、溝7の下端には鍵部が形成されており、吊り軸6が溝7の下方に移動することにより、ハッカ3は図4に示す矢印方向に回転して、鋼材から離脱することができる。
【0023】
しかし、ハッカ3が回転し過ぎると、吊り軸6が溝7の上方に移動して元の位置に戻ってしまい、鋼材からハッカ3を離脱させることができないトラブルが発生する場合があった。
【0024】
そこで、ハッカ3の上部に過回転防止突起9を有し、該過回転防止突起9は、ハッカ回転中心11となる爪基部を通る線12であって、ハッカ3を吊上げる吊り軸6が移動する溝7の下端に形成された鍵部の内側における接線8と平行な線12より突出することにより、ハッカ3と同時に矢印方向に回転する接線8が水平より右下がりとなるようにハッカ3の回転を制限するので、ハッカ3を吊上げる吊り軸6が溝7の上方に移動して元の位置に戻って、鋼材からハッカ3を離脱させることができないトラブルを防止することができる。
【0025】
本発明においては、前記過回転防止突起高さDは問わないが、80〜120mmとすることが好ましい。過回転防止突起高さDが80mm未満では、ハッカ3が回転し過ぎて、吊り軸6が溝7の上方に移動して元の位置に戻ってしまい、鋼材からハッカ3を離脱させることができない危険性があり、また、過回転防止突起高さDが120mmを超えると鋼材を吊上げる作業に支障が生じるからである。
【0026】
また、ハッカ3の下に鋼材がない状態では、ハッカ3がズレ落ちる場合があるため、バランサーで持ち上げる必要があった。
【0027】
そこで、図4に示すように、ハッカ3の先端部に対向する位置にズレ落ち防止突起10を設けることにより、ハッカ3の下に鋼材がない状態でも、バランサーで持ち上げなくてもハッカのズレ落ちを防止することができるので、荷役作業時間を短縮できる。
【0028】
このズレ落ち防止突起10の下面とハッカ3の先端部の上面との距離Hは40mm以上であればハッカ3のズレ落ち防止効果を発揮できるが100mmを越えると吊り軸6が鍵部に入らない可能性があるため100mm以下とすることが好ましい。また、本発明においては、ズレ落ち防止突起10の材質は問わないが、鋼材を傷つけないためには、ゴムやアクリル樹脂を用いることが好ましい。
【0029】
なお、この第2の実施形態単独で、鋼材からハッカ3を離脱させることができないトラブルを防止することができるが、前述の第1の実施形態における硬質部材5を組み合わせて用いることにより、さらに効果的である。
【実施例】
【0030】
図1〜図2に示す本願発明の鋼材用吊具について下記の条件で実施した結果、従来のハッカはハッカの離脱成功率は70%、ハッカの先端部の鋼材との接触面に図3に示す硬質部材を用いた場合のハッカの離脱成功率は100%であり、本発明の効果が確認された。
【0031】
<実施条件>
・ハッカ本体ビッカース硬度(HV):254〜286(SCM440)
・硬質部材のビッカース硬度(HV):412〜423(SCM440)
・硬質部材のサイズ:L70mm×W60mm×H21mm
・ハッカ吊り点数:12点
・吊上げ回数:33回
なお、ハッカ3の上部に過回転防止突起高さ:D100mmの過回転防止突起9を有し、該過回転防止突起9は、ハッカ回転中心11となる爪基部を通る線で12であって、ハッカ3を吊上げる吊り軸6が移動する溝7の下端に形成された鍵部の内側における接線8と平行な線12より突出させ、ハッカ3の先端部に対向するズレ落ち防止突起10を設け、このズレ落ち防止突起10の下面とハッカ3の先端部の上面との距離Hは80mmとした。
【符号の説明】
【0032】
1 吊りビーム
2 吊りワイヤ
2´バランサー
3 ハッカ
4 鋼材
5 硬質部材
6 吊り軸
7 溝
8 鍵部の内側における接線
9 過回転防止突起
D 過回転防止突起高さ
10 ズレ落ち防止突起
11 ハッカ回転中心(爪基部)
12 鍵部の内側における接線と平行な線
H ズレ落ち防止突起高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレーンの巻き上げフックに係合される吊りビームに複数対の吊りワイヤが連結され、該吊りワイヤの下端に、鋼材を吊り上げるハッカが連結されてなる鋼材用吊具であって、前記ハッカの先端部の鋼材との接触面に、ビッカース硬度(HV)400以上の硬質部材を着脱自在に取付けたことを特徴とする鋼材用吊具。
【請求項2】
クレーンの巻き上げフックに係合される吊りビームに複数対の吊りワイヤが連結され、該吊りワイヤの下端に、鋼材を吊り上げるハッカが連結されてなる鋼材用吊具であって、前記ハッカの上部に過回転防止突起を有し、該過回転防止突起は、ハッカ回転中心となる爪基部を通る線であって、ハッカを吊上げる吊り軸が移動する溝の下端に形成された鍵部の内側における接線と平行な線より突出していることを特徴とする鋼材用吊具。
【請求項3】
前記ハッカの先端部に対向する位置にズレ落ち防止突起を有し、該ズレ落ち防止突起の下面とハッカの先端部の上面との距離Hは40mm以上であることを特徴とする請求項2に記載の鋼材用吊具。
【請求項4】
前記各ハッカは、鋼材を支持する1本の爪を有することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の鋼材用吊具。
【請求項5】
前記ハッカと硬質部材とは、ボルト、または、かしめピンからなる結合手段により結合されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の鋼材用吊具。
【請求項6】
前記硬質部材の端面を斜めに削除した逃げ部を設けたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の鋼材用吊具。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の鋼材用吊具を使用して鋼材を吊り上げることを特徴とする鋼材の吊上げ方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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