説明

鋼板コンクリート構造の構造部材

【課題】施工性および経済性に優れた有効適切な鋼板コンクリート構造の構造部材を提供する。
【解決手段】外殻鋼板1の内面に多数の孔2aを形成した孔あき鋼板からなる補強リブ2を軸方向に沿って溶接し、接合するべき双方の外殻鋼板の少なくともいずれか一方の外殻鋼板における補強リブを該外殻鋼板の端部から突出せしめて、双方の外殻鋼板の端部どうしを突き合わせるとともに双方の補強リブどうしを双方の孔の位置を合致させた状態で重ね合わせ、その状態で双方の外殻鋼板内にコンクリートを充填して双方の補強リブどうしを該コンクリートを介して応力伝達可能に接合する。双方の補強リブを重ね合わせて合致させた双方の孔内に貫通鉄筋を挿通させても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外殻鋼板内にコンクリートを充填して形成される鋼板コンクリート構造の構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、鋼板コンクリート構造(SC構造)は,構造部材の外殻となる鋼板を型枠としてその外殻鋼板の内部にコンクリートを充填し、外殻鋼板の内面に植設した多数のスタッドボルトを介して外殻鋼板とコンクリートとを構造的に一体化する構造であって、大断面の頑強な構造部材を効率的に施工できることからたとえば特許文献1に示されるような原子力施設における建屋の構造形式として普及しつつある。
【0003】
一般に鋼板コンクリート構造を柱梁フレームに適用する場合、地震時荷重の大きさや部材のせん断スパン比によってはたとえば柱脚部に生じる曲げモーメントが特に過大となるので、断面検定において許容応力度を満足させるために構造部材全体の断面を充分に大きくするか、外殻鋼板の厚さを増厚するなどの対策が必要となる。
【0004】
一方、鋼板コンクリート構造の鋼板厚さについては「鋼板コンクリート構造耐震設計技術指針/建物・構築物編(JEAG4618:日本電気協会電気技術指針)」において、溶接施工性及び脆性破断の可能性を考慮して最大厚さを40mmとしている。そのため、断面検定において部材仮定断面での必要鋼板厚さが40mmを超える場合には、鋼板厚さが40mm以下で許容応力度を満足するように部材断面積をさらに増大させる必要が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3309290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように鋼板コンクリート構造においては鋼板の厚さを最大でも40mmとすることが限界であることから、鋼板所要厚さが40mm以上となる場合には構造部材全体の断面を本来必要とされる断面よりも拡大しなければならず、そのことが設計上での難点ともなっている。
【0007】
また、一般に鋼板コンクリート構造では鋼板とコンクリートとを構造的に確実に一体化するために鋼板の内面に多数のスタッドボルトを植設する必要があり、そのために多大の手間と費用を必要とすることから、従来の鋼板コンクリート構造はその点でも改善の余地があるとされている。
【0008】
上記事情に鑑み、本発明は鋼板の所要厚を40mm以下に制限しつつ構造部材に要求される許容応力度を満足し得て部材断面を必要以上に拡大することがなく、しかも施工性および経済性に優れた有効適切な鋼板コンクリート構造の構造部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は中空の閉鎖断面とした外殻鋼板の端部どうしを突き合わせて接合することによりそれら外殻鋼板どうしを軸方向に連結し、それら外殻鋼板の内部にコンクリートを充填して形成する鋼板コンクリート構造の構造部材であって、前記外殻鋼板の内面に多数の孔を形成した孔あき鋼板からなる補強リブを軸方向に沿って溶接し、接合するべき双方の外殻鋼板の少なくともいずれか一方の外殻鋼板における前記補強リブを該外殻鋼板の端部から突出せしめて、双方の外殻鋼板の端部どうしを突き合わせることにより一方の外殻鋼板から突出している補強リブの突出部を他方の外殻鋼板内に挿入するとともに該突出部を他方の外殻鋼板内に溶接した他方の補強リブに対して双方の孔の位置を合致させた状態で重ね合わせ、その状態で双方の外殻鋼板内にコンクリートを充填することにより双方の補強リブどうしを該コンクリートを介して応力伝達可能に接合してなることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、双方の補強リブを重ね合わせて合致させた双方の孔内に貫通鉄筋を挿通させることも考えられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の構造部材は外殻鋼板の内面に補強リブを設けることにより、外殻鋼板厚さを40mm以下に制限しつつ必要最小限の断面で許容応力度を支障なく満足できるし、スタッボルトの所要本数を大幅に軽減ないし省略することができる。
しかも、孔あき鋼板からなる補強リブどうしを重ね継手の形態で接合することにより、補強リブどうしを直接的に溶接接合したり高力ボルト接合する場合のような煩雑かつ面倒な作業を必要とせず、したがって鋼板コンクリート構造による構造部材の施工性と経済性を大きく改善することができる。
【0012】
特に、重ね合わせた補強リブの孔内に貫通鉄筋を貫通させることにより、応力伝達効果をより高めることができて重ね長さを短縮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の構造部材の実施形態を示すもので、外殻鋼板どうしを接合する前後の状態を示す斜視図(一部透視図)である。
【図2】同、接合部の平断面図および立断面図である。
【図3】同、補強リブどうしの重ね合わせ状態を示す拡大図である。
【図4】同、他の例を示す図である。
【図5】本発明の基礎となった構造部材の概要を示すもので、外殻鋼板どうしおよび補強リブどうしを溶接接合した状態を示す斜視図(一部透視図)である。
【図6】同、接合部の平断面図および立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を説明するに先立ち、本発明の基礎となった先行技術について図5〜図6を参照して説明する。
これは本出願人が先に「鋼板コンクリート構造(特願2009−221785)」として提案したもので、外殻鋼板1の内面に複数(図示例では外殻鋼板1の各面にそれぞれ3枚ずつ全12枚)の補強リブ2を溶接してその補強リブ2を外殻鋼板1の一部として断面評価することにより、外殻鋼板1の厚さを40mm以内に抑制しつつそれを有効に補強して部材断面を必要以上に拡大することなく許容応力度を満足するような性能を確保できるものである。
【0015】
この場合、外殻鋼板1内に充填されるコンクリート3に対して補強リブ2を確実に一体化させる必要があり、そのためには補強リブ2にスタッドボルトや補助リブ鋼板等の係合手段を設けてコンクリートに対して確実に係合させることが考えられるが、特に図5に示すように補強リブ2として孔あき鋼板を用いることにより補強リブ2に形成されている多数の孔2aが自ずと係合手段として機能するものとなり、したがってスタッドボルトや補助リブ鋼板等の格別の係合手段を設ける必要はないし、従来一般の鋼板コンクリート構造の場合には外殻鋼板1の内面に多数設置する必要があるスタッドボルトの所要本数を大幅に削減ないし省略することも可能なものである。
【0016】
以上のことから、上記の鋼板コンクリート構造は十分に有効であって今後の普及が期待されているが、以下の点で若干の改良の余地を残している。
すなわち、柱や梁等の長尺の構造部材に鋼板コンクリート構造を適用する場合、たとえば図6に示すように鋼板コンクリート構造の柱を施工する場合には、所定長さの外殻鋼板1の端部どうしを突き合わせてその外周部どうしを全周にわたって溶接して軸方向に接合したうえでその内部全体にコンクリート3を充填することが一般的であるが、その場合において上記のように外殻鋼板1内に補強リブ2を設ける場合には、接合するべき双方の外殻鋼板1の内面に予め補強リブ2をそれぞれ溶接しておいて、双方の外殻鋼板1の端部どうしを突き合わせると同時に双方の補強リブ2どうしも突き合わせるようにしておき、それら補強リブ2の端部どうしも同様に溶接することになる。
【0017】
そのため、外殻鋼板1内において補強リブ2どうしを溶接するための溶接作業が必要となるばかりでなく、外殻鋼板1どうしを溶接するための溶接線と補強リブ2どうしを溶接するための溶接線とが交差するので溶接作業が繁雑になるし高度の施工品質管理も必要とならざるを得ない。
また、外殻鋼板1どうしや補強リブ2どうしを溶接接合することに代えて高力ボルト接合することも考えられなくはないが、その場合には接合部に多数の添え板や多数のボルトが錯綜して相互に干渉してしまうから、施工性の点では溶接による場合と大差はない。
【0018】
そこで本発明は、補強リブ1どうしの接合手法に改良を加えることにより、外殻鋼板1の内面に補強リブ2を設ける場合における外殻鋼板1どうしの接合作業を大幅に簡略化かつ合理化することを可能としたものであり、以下に本発明の実施形態を図1〜図4を参照して説明する。
【0019】
本実施形態は、上述したように外殻鋼板1の内面に補強リブ2を設ける場合において、接合するべき双方の外殻鋼板1における双方の補強リブ2どうしを直接的に溶接接合したり高力ボルト接合することに代えて、補強リブ2として孔あき鋼板を用いてそれをいわば重ね継手の手法により接合することを主眼とする。
【0020】
すなわち、本実施形態においては、図1に示すように補強リブ2として多数の孔2aを形成している帯板状の孔あき鋼板を用いてその補強リブ2を接合するべき双方の外殻鋼板1の内面に軸方向に沿って所定位置に所定間隔で予め溶接しておくのであるが、(a)に示すように一方(図示例では下側)の外殻鋼板1に設ける補強リブ2はその先端部(上端部)を外殻鋼板1の端部(上端部)よりも所定寸法(重ね継手として機能するに十分な重ね長さに相当する寸法)だけ上方に突出せしめておく。
【0021】
また、その外殻鋼板1に対して接合するべき他方(図示例では上側)の外殻鋼板1に設ける補強リブ2は突出させることなく単にこの外殻鋼板1の内部に設置しておけば良いが、図1(b)および図2に示すように双方の外殻鋼板1の端部どうしを突き合わせた状態では一方の補強リブ2の突出部が他方の補強リブ2に対して自ずと重ね合わされるようにしておく。
そのためには、一方の外殻鋼板1に対する補強リブ2の設置位置に対して、他方の外殻鋼板1に対する補強リブ2の設置位置を、補強リブ2の厚さ寸法相当分だけずらしておけば良い。換言すれば、双方の補強リブ2どうしを重ね合わせることで双方の外殻鋼板1の軸線が自ずと合致するように双方の補強リブ2の位置を予め設定しておけば良い。それにより、双方の補強リブ2は外殻鋼板1の建方時におけるエレクションピースとしても機能するものとなるから、他に格別のエレクションピースを設ける必要はなくそれを省略することも可能である。
【0022】
さらに、双方の補強リブ2どうしが重ね合わせられた状態においては、図3に示すように双方の補強リブ2に形成されている孔2aの位置が自ずと合致するように各孔2aの径と位置と間隔とを相互に関連づけて設定しておく。
【0023】
そのようにして外殻鋼板1の端部どうしを突き合わせるとともに補強リブ2どうしを重ね合わせた後、外殻鋼板1の端部どうしを全周にわたって溶接し、しかる後に外殻鋼板1内全体にコンクリート3を充填して構造部材を施工すれば、双方の補強リブ2どうしが重ね継手の形態でコンクリート3を介して構造的に接合される。
つまり、通常のように双方の補強リブ2どうしを溶接接合あるいは高力ボルト接合等の手法によって直接的に接合せずとも、それらを単に重ね合わせるだけで、双方の補強リブ2どうしがその周囲に充填されるコンクリート3の付着力と双方の孔2a内に入り込んだコンクリート3のせん断耐力によって応力伝達可能な状態で強固に接合される。
【0024】
したがって本発明の構造部材は、図5〜図6に示したものと同様に外殻鋼板1内に補強リブ3を設けることによって外殻鋼板1の厚さを40mm以下に制限しつつ必要最小限の断面積で許容応力度を満足し得るものとでき、またスタッドボルトの所要本数を大幅に軽減ないし省略できることはもとより、補強リブ2どうしを直接的に溶接接合したり高力ボルト接合する場合のような煩雑かつ面倒な作業を必要とせずに外殻鋼板1どうしを接合するだけで良いから、鋼板コンクリート構造の構造物の施工に際してその施工性と経済性を大きく改善することができる。
【0025】
なお、双方の補強リブ2を重ね合わせたうえで、たとえば図4に示すように全てあるいは一部の孔2a内に貫通鉄筋4を配筋すれば、応力伝達効果をより高めることができて重ね長さを短縮することが可能となる。
また、上述したように双方の補強リブ2どうしは密着状態で重ね合わせることが好ましく、それによりエレクションピースの機能をもたせることもできるが、必ずしもそうすることはなく、補強リブ2どうしを密着状態で重ね合わせずとも所望の接合強度が確保できる場合(つまり、いわゆるあき重ね継手として機能し得る場合)には、双方の補強リブ2どうしを若干の隙間を確保した状態で重ね合わせることも許容される。
【0026】
いずれにしても、補強リブ2どうしの重ね長さは、重ね継手ないしあき重ね継手として有効に機能して所望の応力伝達効果が得られるように設定すれば良く、補強リブ2の断面形状や設置本数、設置間隔、コンクリート3の強度はもとより、補強リブ2に形成する孔2aの大きさやそれらの間隔も考慮して最適に設定すれば良い。
【0027】
そして、必要であれば上記実施形態のように下側の外殻鋼板1における補強リブ2を上方に突出させるばかりでなく、図4に鎖線で示しているように上側の外殻鋼板1に設ける補強リブ2の下端部も下方に突出させてその先端部(下端部)を下側の外殻鋼板1内において下側の補強リブ2に対して重ね合わせることでも良い。
勿論、上記実施形態のように下側の外殻鋼板1に設ける補強リブ2の上端部を上方に突出させることに代えて、全体の天地を逆にして上側の外殻鋼板1に設ける補強リブ2の下端部を下方に突出させ、下側の外殻鋼板1の補強リブ2は突出させずにおいても同様である。
【0028】
さらに、上記実施形態は鋼板コンクリート構造の柱への適用例であるが、本発明は柱に限らず梁その他の構造部材に対しても同様に適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0029】
1 外殻鋼板
2 補強リブ(孔あき鋼板)
2a 孔
3 コンクリート
4 貫通鉄筋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の閉鎖断面とした外殻鋼板の端部どうしを突き合わせて接合することによりそれら外殻鋼板どうしを軸方向に連結し、それら外殻鋼板の内部にコンクリートを充填して形成する鋼板コンクリート構造の構造部材であって、
前記外殻鋼板の内面に多数の孔を形成した孔あき鋼板からなる補強リブを軸方向に沿って溶接し、
接合するべき双方の外殻鋼板の少なくともいずれか一方の外殻鋼板における前記補強リブを該外殻鋼板の端部から突出せしめて、双方の外殻鋼板の端部どうしを突き合わせることにより一方の外殻鋼板から突出している補強リブの突出部を他方の外殻鋼板内に挿入するとともに該突出部を他方の外殻鋼板内に溶接した他方の補強リブに対して双方の孔の位置を合致させた状態で重ね合わせ、
その状態で双方の外殻鋼板内にコンクリートを充填することにより双方の補強リブどうしを該コンクリートを介して応力伝達可能に接合してなることを特徴とする鋼板コンクリート構造の構造部材。
【請求項2】
請求項1記載の鋼板コンクリート構造の構造部材であって、
双方の補強リブを重ね合わせて合致させた双方の孔内に貫通鉄筋を挿通したことを特徴とする鋼板コンクリート構造の構造部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−117328(P2012−117328A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269707(P2010−269707)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】