説明

鋼板巻き立ての橋脚補強工法

【課題】施工期間が短い河川内での橋脚の補強を短期間で完了することができ、上空の制限を受ける施工においても鋼矢板の圧入による仮締め切り工法の施工が支障なく行える鋼板巻き立ての橋脚補強工法を提供する。
【解決手段】橋脚1の外面にアンカーボルトを植立て、巻立てに使用する補強鋼板4と同じ材質の鋼板を用いた先行プレート23を、前記アンカーボルトで橋脚1の外面に取付け、仮締め切り工21と橋脚1の対向面間に配置した切梁22の橋脚側端部を前記先行プレート23に結合することで、仮締め切り工21にかかる外圧を切梁22を介して橋脚1で支持し、この状態で前記仮締め切り工21内の土砂を掘削した後、橋脚1の外面にこの外面を覆うように補強鋼板4を巻立てて耐震補強を施し、先行プレート23を残すことで補強鋼板4の一部とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設橋脚に補強鋼板を巻立てて耐震補強を施すための鋼板巻き立ての橋脚補強工法、更に詳しくは、河川内の上空制限を受ける現場においても支障なく短期間で施工することができる、仮締め切り工を用いた橋脚補強工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設橋脚の耐震補強工事は、以下に列挙する工法が一般的である。
【0003】
[鋼板巻立て補強工法]
図18(a)のように、橋脚1におけるフーチング2の上に起立する脚部3の周囲を補強鋼板4で覆うように巻立て、脚部3と補強鋼板4の隙間に樹脂や無収縮モルタル等の充填材を注入する工法。
【0004】
[RC巻立て補強工法]
図18(b)のように、橋脚1における脚部3の周囲を鉄筋コンクリート5で巻立てることで補強する工法。
【0005】
[炭素繊維シート補強工法]
図18(a)と同様に、橋脚1における脚部3の周囲に炭素繊維シートを接着して覆うことにより補強する工法。
【0006】
既設橋脚の耐震補強を施工するに際して、上記した各工法の選定は、現場の施工条件や橋脚形状により決定することになる。
【0007】
例えば、路下の建築限界、河川の阻害率による制限を受ける場合は、図18(b)のように、厚さが200〜500mm程度と大きくなるRC巻立て補強工法は適さないため、図18(a)のように、厚さが13〜39mm程度に仕上がる補強鋼板4の巻立て補強工法や、厚さが1〜10mm程度に仕上がる炭素繊維シート補強工法が採用される。
【0008】
更に、現場周辺の状況により補強鋼板4の取付けが、機械の据え付けスペース等により不可能な場合には、炭素繊維シート補強工法が採用される。
【0009】
既設橋脚の耐震補強工事を行なう場合、現場の橋脚1の状況としては、(1)フーチング及び橋脚が地上に露出している場合、図19(a)のように、(2)フーチング2及び橋部3の一部が地中に埋設されている場合、図19(b)のように、(3)フーチング2及び脚部3の一部が地中に埋設されている場合で、河川や海に近接若しくは河川や海に埋設されている場合、(4)フーチング及び橋脚の一部が水中に浸漬している場合を挙げることができる。
【0010】
既設橋脚の耐震補強工事は、上記(1)〜(4)の何れかの条件下で行うことになるが、上記(1)のケースを除いて(2)〜(4)のケースでは、土や水を橋脚回りから完全に取り除く必要がある。
【0011】
上記(2)と(3)のケースでは、一般的にボーリング調査を現場で行い、掘削深さ、湧水があるかないか、地盤の堅さ、地質により掘削方法が決定される。この掘削方法には、オープン掘削(大型土のうを併用する場合もある)や、仮締め切り工法(H杭横矢板、H杭、鋼矢板、鋼管杭を使用)などがある。
【0012】
この仮締め切り工法は、杭打ち機械を用いて鋼矢板や杭を地中に打設して仮締め切り工を構築し、仮締め切り工内の土砂をバックフォーのような掘削機械で除去し、橋脚と仮締め切り工の対向面間に切梁を設けて鋼矢板や杭にかかる土圧や水圧を支持し、橋脚の補強後に仮締め切り工内に土砂を戻し、切梁と仮締め切り工を撤去するものである。
【0013】
上記杭打ち機械を用いて鋼矢板や杭を地中に打設する従来の仮締め切り工法は、クレーンやバックフォーのブームの先端部分にバイブロハンマーを取付けて鋼矢板や杭を打ち込む方法や、サイレントパイラーと呼ばれる圧入機を用い、この圧入機で先行して打ち込んだ鋼矢板や杭を掴んで新たな鋼矢板や杭を打つ方法が採用されている。
【0014】
一般的に、掘削深さが深く、湧水があり、オープン掘削ができない条件の場合は、仮締め切り工法が採用され、また、上記(4)のケースにおいても、仮締め切り工法で施工する場合が多いが、経済性、施工性、工期の短縮を考えて、最近では鋼製函体工法などを採用する場合が多くなってきている。
【0015】
ここで、この発明の施工対象となる河川内の橋脚は、阻害率の制限を受けることがあり、上記したように、RC巻き立て補強工法は適さないため、鋼板巻立て補強工法か炭素繊維シート補強工法の採用となる。
【0016】
また、湧水、河川の水、海水等がある場合など、オープン掘削ができない場合は、仮締め切り工法が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
ところで、仮締め切り工が必要で、鋼矢板自立式工法(定着長さを大きくとる必要があり、工期、工費が多大にかかる)での施工が不可能な場合、鋼矢板や杭にかかる土圧や水圧により支保工が必要となり、橋脚躯体により切梁と呼ばれる支保工を介して鋼矢板や杭を支えることになるが、切梁は施工完了後に仮締め切り工内に土や水を入れ戻し、土圧や水圧が矢板にかからないようになるまで撤去することができない。
【0018】
そのため、従来の仮締め切り工法を用いて鋼板巻立て補強工法を実施した場合、切梁が橋脚に接している部分が後施工となったり、切梁の盛り替え作業が発生したりすることで、工程が大幅に伸びて施工費も増大するという問題がある。
【0019】
また、河川内の施工は、通常渇水期(11月〜5月程度)に施工する必要があり、工期が短いことになるが、仮締め切り工が必要で、なおかつ切梁支保工が必要な場合の仮締め切り工法は、施工規模にもよるが、工期の厳守が難しいという問題がある。
【0020】
更に、上記した河川内の橋脚や湧水、河川の水、海水等がある場合の橋脚に対する耐震補強の施工には、図18や図19で示したように、橋脚1の上部に鋼桁やPC桁6があるので上空の制限を受けるため、仮締め切り工法の施工に制限があり、このため、従来のサイレントパイラー工法は、N値が小さい場合には有効であるが、N値が大きい場合は不向きであり、例えば、5cm以上の転石がある場合、ウォータジェット併用工法でも鋼矢板を圧入できないこともある。
【0021】
そこで、この発明の課題は、上記のような問題点を解決するため、施工期間が短い河川内での橋脚の補強を短期間で完了することができ、工程と施工費の削減が可能となり、しかも、上空の制限を受ける施工においても鋼矢板の圧入による仮締め切り工法の施工が支障なく行える鋼板巻き立ての橋脚補強工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記のような課題を解決するため、この発明は、橋脚の外側を仮締め切り工で囲み、この橋脚の外面周囲を補強鋼板で巻立て、前記橋脚と補強鋼板の隙間に充填材を注入する鋼板巻き立ての橋脚補強工法において、橋脚の外面に対して、この橋脚と仮締め切り工の間に配置する切梁の該当位置に複数本のアンカーボルトを植立て、このアンカーボルトを用いて橋脚の外面に、巻立てに使用する補強鋼板と同じ材質の鋼板を用いた先行プレートを配置し、前記仮締め切り工と橋脚の対向面間に配置した切梁の橋脚側端部を前記先行プレート又はアンカーボルトに結合することで、仮締め切り工にかかる外圧を切梁を介して橋脚で支持し、この状態で前記仮締め切り工内の土砂を掘削した後、橋脚の外面にこの外面を覆うように補強鋼板を巻立て、この補強鋼板の巻立て時に、前記先行プレートと干渉する位置関係にある補強鋼板は、この先行プレートに嵌まり合う切り欠を設けたものを用い、前記橋脚に巻立てた各補強鋼板及び切り欠に収まる先行プレートを溶接により一体化した状態で、橋脚と補強鋼板の隙間に充填材を注入し、この後、仮締め切り工内への土砂の埋め戻し工程と、先行プレートと仮締め切り工からの切梁の撤去工程及び仮締め切り工の抜き取り工程を行うようにしたものである。
【0023】
上記先行プレートは、アンカーボルトに対する取付け孔をボルト軸径よりも大径に設定することで、アンカーボルトに対する位置調整可能とし、水平及び垂直の位置調整後の先行プレートを、アンカーボルトに螺合したナットの締め付けで橋脚に固定するようにしたものである。
【0024】
上記橋脚に対して植立てるアンカーボルトは、橋脚に設けたアンカー孔に対して挿入したアンカーボルトを、このアンカー孔に充填した樹脂の硬化によって固定し、切梁の撤去後に、このアンカーボルトをねじの緩み方向に回動させてアンカー孔から抜き取るようにすることができる。
【0025】
また、上記先行プレートは、橋脚との対向面に、充填材の注入用の隙間を確保するための裏当金が設けられているようにすることができる。
【0026】
更に、鋼板巻き立ての橋脚補強工法において、橋脚の外側を囲むように鋼矢板を圧入して仮締め切り工を施工する場合に、鋼矢板の圧入にバイブロハンマー機能を有する杭打機を用いるようにしてもよい。
【0027】
ここで、河川内の橋脚に対して最初に行う上記仮締め切り工の施工は、バイブロハンマー機能を有する杭打機を用い、鋼矢板を幅方向に接続しながら橋脚を囲むように圧入して構築し、この仮締め切り工内の土砂をバックフォーのような掘削機械で除去し、フーチングから上の橋脚を露出させ、この橋脚の外面で仮締め切り工との間に配置する切梁の該当位置に、複数本のアンカーボルトを所定の配置で植立てる。
【0028】
上記先行プレートは、補強鋼板と同じ鋼板を用いて角形に形成され、アンカーボルトの本数に等しい数と配置の取付け孔が設けられ、この先行プレートはアンカーボルトに取付け孔を挿通することで橋脚の外面に配置され、橋脚の外面に巻き立てる補強鋼板は、切り欠を先行プレートに嵌め合わせ、切り欠の周辺を裏当金で支持した状態で、補強鋼板相互を溶接により固定するとともに、補強鋼板と先行プレートは、嵌り合い部分を溶接することによって固定化する。
【0029】
橋脚の外面に巻き立てる補強鋼板の橋脚との対向面にも、適宜の位置に上記裏当金と同じ厚みの間隔保持部材を設けておき、橋脚に対して固定した補強鋼板及び先行プレートと橋脚との間に、裏当金及び間隔保持部材で確保した空間に充填材を注入することになる。
【0030】
また、上記先行プレートの外面に、アンカーボルトに結合する切梁結合金具を溶接により固定することができ、この場合、切梁の一端側をアンカーボルトを利用して切梁結合金具と連結し、他端側で仮締め切り工を支持することにより、鋼矢板にかかる土圧や水圧は、切梁支保工から切梁結合金具及び先行プレートを介して橋脚で直接支持することになる。
【0031】
なお、上記先行プレートの橋脚との対向面には、切梁結合金具の溶接位置に裏当金と同じ厚みの受板と、各アンカーボルトの位置に裏当金と同じ厚みの補強板やワッシャを配置し、圧力を受けた先行プレートに変形が生じることのないようにしている。
【発明の効果】
【0032】
この発明によると、橋脚の外面に対してアンカーボルトで先行プレートを配置し、仮締め切り工と橋脚の対向面間に配置した切梁の橋脚側端部を前記先行プレート又はアンカーボルトに結合し、この状態で橋脚の外面にこの外面を覆うように補強鋼板を巻立て、各補強鋼板及び切り欠に収まる先行プレートを溶接により一体化した状態で、橋脚と補強鋼板の隙間に充填材を注入するようにしたので、仮締め切り工法を採用した補強鋼板の巻き立て施工において、切梁が橋脚に接している部分をアンカーボルトと先行プレートで先に施工することができ、先行プレートが補強鋼板の一部となることで、補強鋼板の巻き立て時の後施工が不要になり、鋼板巻き立てによる橋脚補強の工程を短縮化して工期の厳守が可能になり、しかも、施工費の節減を図ることができる。
【0033】
また、先行プレートの取付け孔をアンカーボルトのボルト軸径よりも大径に設定したので、アンカーボルトに対して面方向の位置調整が可能となり、橋脚への先行プレートの取付けが支障なく行えるだけでなく補強鋼板に設けた切り欠とこの先行プレートの嵌め合わせ作業が容易にできることになる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明に係る鋼板巻き立ての橋脚補強工法を示す施工途中の状態を示す縦断正面図
【図2】同上の横断平面図
【図3】同上の縦断側面図
【図4】センターホールバイブロハンマー工法を用いた仮締め切り工法の施工状態を示す縦断正面図
【図5】この発明の鋼板巻き立ての橋脚補強工法に採用する切梁取付け構造の基本的なタイプの種類を概略的に示し、(a)は第1のタイプの切梁取付け構造を示す斜視図、(b)は第2のタイプの切梁取付け構造を示す分解斜視図
【図6】(a)は第2のタイプの切梁取付け構造の他の例を示す分解斜視図、(b)は第3のタイプの切梁取付け構造を示す分解斜視図
【図7】各タイプの切梁取付け構造を用いた施工時において、橋脚に対する先行プレートの固定及び先行プレートと切梁の結合に採用する先行プレート取付け方法の異なったタイプを概略的に示し、(a)は第1の先行プレート取付け方法を示す縦断側面図、(b)は第2の先行プレート取付け方法を示す縦断側面図、(c)は第3の先行プレート取付け方法を示す縦断側面図
【図8】第1のタイプの切梁取付け構造と、コンクリートアンカー方式の第3の先行プレート取付け方法を用いた鋼板巻き立ての橋脚補強工法の具体的な例を示し、橋脚と先行プレート、補強鋼板及び切梁の関係の分解斜視図
【図9】同上の橋脚と先行プレート及び切梁の結合状態を示す縦断側面図
【図10】(a)は同上における橋脚にアンカーボルトで先行プレートと切梁結合金具を取付けた状態を示す縦断側面図、(b)は橋脚に固定した先行プレートを示す拡大した縦断面図、(c)は(a)の正面図
【図11】第1のタイプの切梁取付け構造と、コンクリートアンカー方式である第3の先行プレート取付け方法をアレンジして用いた鋼板巻き立ての橋脚補強工法の具体的な例を示し、橋脚と先行プレート及び切梁を結合した状態の縦断側面図
【図12】図11の橋脚と先行プレート及びスペースボックスの結合部分を拡大した縦断側面図
【図13】先行プレート及びスペースボックスの分解した斜視図
【図14】脚部に対するアンカーボルトの固定方法を示し、(a)は脚部に設けたアンカー孔とアンカーボルトを取付けたテンプレートの分解斜視図、(b)はアンカーボルトを取付けたテンプレートの要部を拡大した側面図
【図15】脚部に対するアンカーボルトの固定方法を示し、(a)は脚部にアンカーボルトを植設した状態の斜視図、(b)は要部を拡大した縦断側面図
【図16】先行プレートに対してスペースボックスを直接重ねて固定した例の結合部分を示す拡大縦断側面図
【図17】アンカーボルトの固定方法を、引き抜き荷重が加わるような条件の部材の固定に利用した例を示す縦断側面図
【図18】(a)は橋脚に対する鋼板巻立て補強工法の正面図、(b)は橋脚に対するRC巻立て補強工法の正面図
【図19】(a)はフーチングと橋脚の一部が埋まった例の橋脚を示す縦断側面図、(b)はフーチングと橋脚の一部が埋まり、かつ、河川や海の水に浸漬した例の橋脚を示す縦断側面図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0036】
図19(a)と(b)は、鋼板巻き立てによる橋脚補強工法の対象となるコンクリート製の既設橋脚の一例を示し、橋脚1はフーチング2及び脚部3の一部が地中に埋設されている場合や、フーチング2及び脚部3の一部が地中に埋設されている場合で、河川や海に近接若しくはフーチング2及び脚部3の一部が水中に浸漬している。
【0037】
河川内にある橋脚1の耐震補強工事の場合、阻害率の制限を受けることがあるため、この発明では、図18(a)で示した鋼板巻立て補強工法を用い、土や水を橋脚1の回りから完全に取り除く必要があるので、土砂の掘削方法として仮締め切り工法を採用する。
【0038】
ここで、仮締め切り工法の施工は、橋脚1上に鋼桁やPC桁6があるので、上空の制限を受けることになり、このような条件下でH杭、鋼矢板、鋼管杭などの打ち込みや引き抜きが行えるよう、仮締め切り工法の施工には、無振動の油圧圧入によるサイレントパイラー工法やセンターホールバイブロハンマー工法を採用する。
【0039】
前者のサイレントパイラー工法は、ベースマシンのブーム先端に取付けた圧入機で鋼矢板や杭の上端部をクランプし、鋼矢板や杭を無振動で油圧圧入するため、地盤のN値が小さい場合には有効であるが、N値が大きい場合には不向きであり、ウォータジェットを併用した工法でも、5cm以上の転石がある場合、鋼矢板や杭を圧入できないこともある。
【0040】
後者のセンターホールバイブロハンマー工法(CHV工法)は、図4に示すように、ベースマシン11のブーム12の先端に取付けたバイブロハンマー13が筒状に形成され、貫通する鋼矢板や杭aをチャック装置で固定すると共に、起振機による振動とベースマシン11での圧入力や引き抜き力を加えることで、鋼矢板や杭aを圧入したり引き抜くようになっており、地盤のN値が大きい場合でも、バイブロ機能を有効に活用して鋼矢板や杭aを効率よく打ち込むことが可能である。
【0041】
また、ウォータジェットを併用すれば、40cm程度の転石がある場合でも、これを退避させることで鋼矢板や杭を圧入することが可能である。
【0042】
上記橋脚1に対する耐震補強工事である鋼板巻立て補強工法は、橋脚1の脚部3の周囲を巻立てるための多数枚の補強鋼板4を、予め工場で所定の大きさと形状に加工し、これを現場に搬入し、隣接する各補強鋼板4の周縁を互いに溶接して組立てることにより、脚部3の周囲を巻立てることになるが、この補強鋼板巻立て作業に際しては、橋脚1の外側に前もって構築された仮締め切り工21内の土砂を掘削機械で除去して橋脚1の周囲を露出させる必要がある。
【0043】
この場合、図1乃至図3のように、橋脚1と仮締め切り工21の対向面間に切梁22を設けて鋼矢板や杭aにかかる土圧や水圧を支持しなければならず、この発明は、橋脚1に対する切梁22の取付け部分に、補強鋼板4の巻き立てに対して部分的な後施工を不要にする切梁取付け構造が採用されている。
【0044】
図5と図6は、この発明の鋼板巻き立ての橋脚補強工法に採用する切梁取付け構造の基本的なタイプの種類を概略的に示し、何れのタイプも、脚部の外面で、この脚部と仮締め切り工の間に配置する切梁の該当位置に後述する複数本のアンカーボルトを所定の配置で植立て、このアンカーボルトに、巻立てに使用する補強鋼板と同じ材質の鋼板を用いた先行プレートを取付け、先行プレートと仮締め切り工の対向面間に切梁を設けて鋼矢板や杭にかかる土圧や水圧を脚部3で支持し、この状態で脚部の外面に補強鋼板4を巻立てる点で共通している。
【0045】
図5(a)に示す第1のタイプの切梁取付け構造は、橋脚1の切梁設置位置に後述するアンカーボルトを用いて先行プレート23を取付け、この先行プレート23と仮締め切り工の対向面間に、前記アンカーボルトを利用して切梁22を設置し、脚部3の外面に補強鋼板を巻立てて溶接により固定する場合に、先行プレート23と隣接する上下の補強鋼板に、先行プレート23に丁度嵌り合う切欠き24を設けた切欠き補強鋼板4aを用い、切欠き24を前記先行プレート23に嵌めた切欠き補強鋼板4aを脚部の外面に設置するようにしたものである。
【0046】
図5(b)に示す第2のタイプの切梁取付け構造は、脚部の切梁設置位置にアンカーボルトを用いて先行プレート23を取付け、この先行プレート23と仮締め切り工の対向面間に切梁22を設置し、脚部の外面に補強鋼板を巻立てる場合に、先行プレート23と隣接する上下の補強鋼板に、先行プレート23よりも大きな切欠き24aを設けた切欠き補強鋼板4aを用い、切欠き補強鋼板4aを脚部の外面に設置した後、先行プレート23と切欠き24aの間に生じた隙間に、補強鋼板4と同じ鋼板を用いて隙間を塞ぐ形状と大きさに加工した調整プレート23aを設置して溶接固定するようにしたものである。
【0047】
図5(b)のように、前記先行プレート23が角形の場合、切欠き補強鋼板4aの切欠き24aも角形とし、コ字状に形成した調整プレート23aで先行プレート23と切欠き24aの間に生じた隙間を閉鎖し、また、図6(a)のように、前記先行プレート23を円形にした場合、切欠き補強鋼板4aの切欠き24aを円形とし、半円の円弧状に形成した調整プレート23aで先行プレート23と切欠き24aの間に生じた隙間を閉鎖するようにすればよい。
【0048】
図6(b)に示す第3のタイプの切梁取付け構造は、仮締め切り工の支持を維持しながら先行プレート23の位置調整等が容易に行えるようにするため、上記第1のタイプを用いた簡易切梁盛替方式を示し、切梁22の先端に設けた横梁25の両端前面に切梁仮受け26を突設し、前記横梁25の前面中央にジャッキ27を設けた構造になっている。
【0049】
この第3のタイプの切梁取付け構造は、脚部の切梁設置位置にアンカーボルトを用いて先行プレート23を取付け、この先行プレート23と仮締め切り工の対向面間に切梁22を設置し、ジャッキ27を加圧して先行プレート23と仮締め切り工の間で切梁22を緊張させ、橋脚から浮いた切梁仮受け26の先端にライナー28をセットし、この後、ジャッキ27を開放して先行プレート23をフリーな状態にして切梁22の反力を切梁仮受け26で受け、下段補強鋼板4を脚部の外面に設置し、先行プレート23を調整固定後、ジャッキ27を再加圧し、切梁仮受け26を脚部から開放した状態で上段の切欠き補強鋼板4aを脚部の外面に設置するようにしたものである。なお、図6(b)では、上段の切欠き補強鋼板4aに設けた切り欠き24が先行プレート23に丁度嵌る大きさになっている例を示している。
【0050】
図7(a)乃至(c)は、上記のような各タイプの切梁取付け構造を用いた施工時において、橋脚1に対する先行プレート23の固定及び先行プレート23と切梁22の結合に採用する先行プレート取付け方法の異なったタイプを概略的に示している。
【0051】
図7(a)に示す第1の先行プレート取付け方法は、コンクリートアンカー方式であり、脚部3の切梁設置位置に複数のコンクリートアンカー29を打ち込み、このコンクリートアンカー29と一致する配置でボルト孔30を設けた先行プレート23を四隅の仮止めボルト31で脚部3の所定位置にセットし、先行プレート23のボルト孔30の周りをシール材32でシールしてコンクリートアンカー29への樹脂の進入を防止する。なお、上記仮止めボルト31も、脚部3にコンクリートアンカーを打ち込み、先行プレート23の仮止めボルト孔からコンクリートアンカーにねじ込む構造である。
【0052】
切梁22の先端を先行プレート23に養生材33を挟んで当接させ、切梁22の先端フランジ22aに設けたボルト孔と先行プレート23のボルト孔30に挿通した固定用のアンカーボルト34をコンクリートアンカー29にねじ込んで切梁22を固定し、補強鋼板4の巻着後における切梁22の撤去時にアンカーボルト34を緩めて抜き取り、ボルト孔30と仮止めボルト孔及びコンクリートアンカー29を埋め込み処理するようにしたものである。
【0053】
図7(b)に示す第2の先行プレート取付け方法は、切断アンカーボルト方式であり、脚部3の切梁設置位置に設けた複数のアンカー孔35に樹脂36を充填してこのアンカー孔35に切断アンカーボルト37を挿入し、樹脂36の硬化で切断アンカーボルト37を固定化して植立てた状態で、先行プレート23に設けたボルト孔30を切断アンカーボルト37に挿入し、この先行プレート23のボルト孔30の周りをシール材32でシールし、切梁22の先端フランジ22aに設けたボルト孔を切断アンカーボルト37に挿入し、切梁22の先端を養生材33を挟んで先行プレート23に当接させ、切断アンカーボルト37に螺合したナット38の締め付けで切梁22を固定し、補強鋼板の巻着後における切梁22の撤去時に切断アンカーボルト37にトルクをかけ、この切断アンカーボルト37を先行プレート23の表面の部分から切断除去し、ボルト孔30を埋め込み処理するようにしたものである。
【0054】
図7(c)に示す第3の先行プレート取付け方法は、切梁22の取付けにスペースボックスを使用する方式であり、脚部3の切梁設置位置に設けた複数のアンカー孔35に樹脂36を充填し、このアンカー孔35に前記樹脂36と剥離性のよい樹脂で表面処理を施した全ねじのアンカーボルト39を挿入し、樹脂36の硬化でアンカーボルト39を固定して植立てた状態で、先行プレート23に設けたボルト孔30をアンカーボルト39に挿入し、この先行プレート23を脚部3の外面に重ね、先行プレート23のボルト孔30の周りをシール材32でシールし、スペースボックス40に設けたボルト孔をアンカーボルト39に挿入し、スペースボックス40の先端を養生材33を挟んで先行プレート23に当接させ、アンカーボルト39に螺合したナット41の締め付けでスペースボックス40を固定し、このスペースボックス40に切梁22の先端を接続し、補強鋼板の巻着後における切梁22の撤去時に、アンカーボルト39を緩み方向に回動させ、充填した樹脂36と表面処理との剥離性を利用してアンカー孔35から抜き取り、ボルト孔30及びアンカー孔35を埋め込み処理するようにしたものである。
【0055】
ここで、上記アンカー孔35に充填する樹脂36としては、エポキシ樹脂やアクリル樹脂を使用し、また、アンカーボルト39の表面に塗布する樹脂は、エポキシ樹脂やアクリル樹脂に対して付着力が弱く剥離性のよいシリコン系樹脂や油性物を用いるようにする。なお、アンカーボルト39は外周にねじが形成されているので、樹脂がねじと結合し、アンカー孔30に充填した樹脂36の硬化によって、必要な耐引抜強度が得られることになる。
【0056】
図8乃至図10は、上述した第1のタイプの切梁取付け構造と、コンクリートアンカー方式の第3の先行プレート取付け方法を用いた、鋼板巻き立ての橋脚補強工法の具体的な例を示している。
【0057】
図8乃至図10に示すように、橋脚1における脚部3の外面に対して、この脚部3と仮締め切り工21の間に配置する切梁22の該当位置に複数のアンカー孔35を所定の配置で設け、内部に樹脂36を充填したアンカー孔35にアンカーボルト39を挿入し、樹脂36の硬化によってアンカーボルト39を固定して植立て、このアンカーボルト39に、橋脚の巻立てに使用する補強鋼板4と同じ材質の鋼板を用いた先行プレート23をボルト孔30の挿入によって取付け、アンカーボルト39にねじ込んだナット41の締め付けにより、先行プレート23を脚部3の外面に固定し、前記仮締め切り工21と脚部3の対向面間に配置した切梁22の橋脚側端部を、前記アンカーボルト39とスペースボックス40で先行プレート23の外面に取付けることで、仮締め切り工21にかかる外圧を切梁22を介して橋脚1で支持するようになっている。
【0058】
上記先行プレート23は、例えば、補強鋼板4と同じ10mmの厚みの鋼板を用い、500mm角の大きさの矩形状に形成され、外面の周縁は溶接のために開先形状になっており、上記アンカーボルト39の配置に合わせて複数のボルト孔30が設けられ、このボルト孔30は、アンカーボルト39のボルト軸径よりも大径に設定されているので、アンカーボルト39に対して面方向の移動が可能となり、アンカーボルト39の配置誤差を吸収すると共に、脚部3に対して固定するときの水平及び垂直出しが精度よく行えるようになっている。
【0059】
上記のように、先行プレート23をアンカーボルト39で橋脚1に取付けると、橋脚1の脚部3に巻立てる補強鋼板4は前記先行プレート23と位置的に干渉する部分が生じるが、この先行プレート23と干渉する位置関係にある補強鋼板は先行プレート23の上下に位置するように補強鋼板4の配置を予め設計し、この上下の補強鋼板には、図10(c)のように、前記先行プレート23に嵌まり合う切り欠24が予め設けられた切り欠補強鋼板4aを使用することになる。
【0060】
実際には、図1と図10(c)のように、橋脚1の脚部3に巻立てる上下の切り欠補強鋼板4aが先行プレート23を挟んで突き合わされるように配置を設計し、下位切り欠補強鋼板4aの上縁に設けたコ字状の切り欠24と上位切り欠補強鋼板4aの下縁に設けたコ字状の切り欠24が先行プレート23に上下から嵌り合うようにしている。
【0061】
この場合、先行プレート23は、アンカーボルト39に対して面方向の位置調整が可能となっているので、水平と垂直出しが精度よく行え、上下の切り欠補強鋼板4aに設けた切り欠24と先行プレート23の嵌め合わせ作業が容易となり、また、必要ならば、ナット41を緩めておいて切り欠24との嵌め合わせ完了後にナット41を締め付け、先行プレート23を脚部3の外面に固定化することも可能になる。
【0062】
上記脚部3の外周面に巻き立てる補強鋼板4には、脚部3との対向する内面の適宜の位置に、間隔保持部材(図示省略)を設けておき、前記内面と脚部3の外面間に、例えば4mm程度の充填材注入隙間42を形成するように巻き立て、上記先行プレート23の内面で周囲の位置に同様の間隔保持部材43を設けておき、先行プレート23と脚部3の外面間にも同様の充填材注入隙間44を形成するようにしている。
【0063】
上記先行プレート23と脚部3の間の充填材注入隙間44の確保は、図10(b)と(c)のように、先行プレート23の内面四周囲に沿って、厚みが4mmの間隔保持部材43として裏当金を一部が外周に突出するよう予め枠状に溶接しておけばよく、上記充填材注入隙間42、44へのエポキシ樹脂や無収縮モルタル等の充填材の注入方法としては、図示省略したが、例えば、補強鋼板4や先行プレート23の適宜位置に小さな貫通孔を設け、注入具を用いてこの貫通孔から注入隙間42、44へ充填材を注入した後、貫通孔を閉鎖することによって行うことができる。なお、補強鋼板4の内面に設ける間隔保持部材と上記間隔保持部材43は、当然ながら同じ厚みに設定されている。
【0064】
上記スペースボックス40は、先行プレート23よりも一回り小さな角形で前面側に重ねる矩形プレート45と、この矩形プレート45の先行プレート23との対向面側で四隅の位置に固定した四本の脚部材46を有し、矩形プレート45には、先行プレート23のボルト孔30と同じ条件のボルト挿通孔47が設けられ、アンカーボルト39に矩形プレート45を取付けた状態で、四本の脚部材46の先端を先行プレート23の外面に当接させて溶接固定するようにする。
【0065】
なお、上記先行プレート23の脚部3との対向面には、図10(b)のように、スペースボックス40の脚部材46を溶接する位置に間隔保持部材43と同じ厚みの受板48と、各アンカーボルト39の貫通位置に間隔保持部材43と同じ厚みのワッシャ又は補強プレート49を配置し、切梁22によって圧力を受けた先行プレート23に変形が生じることのないようにしている。
【0066】
図8と図9のように、上記切梁22の橋脚側の端部には、ジャッキ50を介して角筒台であるスペースボックス40がボルト、ナット51で取付けられ、このスペースボックス40の先端板に設けた取付け孔をアンカーボルト39に挿通し、スペースボックス40の矩形プレート45に先端板を重ね、アンカーボルト39に螺合した両側のナット41の締め付けによって、アンカーボルト39及びスペースボックス40と結合し、切梁22をジャッキ50によって橋脚1と仮締め切り工21の間で緊張させることにより、鋼矢板にかかる土圧や水圧をスペースボックス40及び先行プレート23を介して橋脚1で直接支持するようになっている。
【0067】
次に、上記補強鋼板巻き立ての橋脚補強工法を施工順に従って説明する。
【0068】
耐震補強しようとする橋脚1の現場において、周囲地盤に対してボーリング調査を現場で行い、図1乃至図3のように、この調査結果に基づいて橋脚1を囲むように、上記センターホールバイブロハンマー工法を用いて仮締め切り工21を施工し、また、工場では、前記橋脚1の脚部3に巻き立てるための補強鋼板4と先行プレート23を製作してこれを現場に搬入する。
【0069】
現場において、上記仮締め切り工21内の土砂を掘削機を用いて排土し、橋脚1の脚部3の全長を露出させた状態で、この脚部3の外面で切梁22を取付けんとする位置に複数のアンカー孔35を所定の配置で設け、内部に樹脂36を充填したアンカー孔35にアンカーボルト39を挿入し、樹脂36の硬化によってアンカーボルト39を固定して植立て、脚部3の外面に突出するこのアンカーボルト39に、ボルト孔30を挿入することで先行プレート23を取付け、この先行プレート23の水平、垂直出しを行った状態で、アンカーボルト39に螺合したナット41を締め付け、脚部3の外面に先行プレート23を固定する。
【0070】
次に、矩形プレート45をアンカーボルト39に取付け、その脚部材46の先端を先行プレート23の外面四隅に溶接して固定し、続いて、スペースボックス40を前記矩形プレート45及びアンカーボルト39に固定し、橋脚1と仮締め切り工21の対向面間に配置した切梁22の一方端部をスペースボックス40に固定し、切梁22の他方端部を仮締め切り工21に固定する。
【0071】
上記矩形プレート45及びアンカーボルト39に対する切梁22の固定は、スペースボックス40の端板に設けたボルト孔をアンカーボルト39に挿入し、スペースボックス40の矩形プレート45と重ねた部分をアンカーボルト39に螺合した両側のナット41で挟むことで固定化する。
【0072】
上記のように、先行プレート23と矩形プレート45の間に脚部材46で間隔を確保することで、ナット41の調整や矩形プレート45に対するスペースボックス40の結合作業が支障なく行えることになる。
【0073】
上記のように、切梁22を配置することにより、仮締め切り工21の鋼矢板や杭aにかかる土圧や水圧は、切梁22による支保工からスペースボックス40とアンカーボルト39及び先行プレート23を介して橋脚1の脚部3に直接伝わって支持されることになる。
【0074】
上記仮締め切り工21内の土砂を掘削した後、橋脚1における脚部3の表面の下地処理を行い、現場に搬入した補強鋼板4を下から順番に取付けていく。このとき、隣接する各補強鋼板4は周囲の全長を溶接により接続し、切梁22の取付け部分に該当する補強鋼板4には、予め切り欠き24を加工した切り欠補強鋼板4aを用い、先に取付けてある先行プレート23に切り欠き24を嵌め合わせることによって取付ける。
【0075】
上記先行プレート23のボルト孔30は、アンカーボルト39よりも少し大径に形成してあるので、アンカーボルト39の配置誤差を吸収することができ、先行プレート23の固定が位置的に精度よく行え、切り欠24の嵌め合わせが支障なく行えることになり、橋脚1に固定化した先行プレート23の周囲と切り欠補強鋼板4aを溶接により固定一体化する。
【0076】
また、上記した補強鋼板4及び先行プレート23の取付けにおいて、橋脚1における脚部3の外面と補強鋼板4の内面間及び先行プレート23と脚部3の間に、充填材注入隙間42、44を形成するようにし、この充填材注入隙間42、44を補強鋼板4や先行プレート23に設けた小さな貫通孔(図示省略)から充填材を注入することで埋め、充填材注入後に貫通孔を閉鎖する。
【0077】
なお、先行プレート23に設けたボルト孔30は、アンカーボルト39よりも大径になっているので、充填材を注入する前にアンカーボルト39との間に生じる隙間をシール材で埋める処理を施すことで、充填材が外部に漏れるのを防ぐようにすればよい。
【0078】
充填材注入後に、補強鋼板4の外面に対する防錆等の塗装作業が完了すると、仮締め切り工21内への土砂の埋め戻しと、ナット41を緩めて切梁22の取外しを行い、埋め戻しが終わると、上記センターホールバイブロハンマー工法を用いて仮締め切り工21の鋼矢板や杭aを抜き取ることで撤去して工事を完了する。
【0079】
なお、先行プレート23の外面も防錆等の塗装処理を施すことになるが、これに先立ち、スペースボックス40は脚部材46を溶断することで先行プレート23から取外すようにし、また、アンカーボルト39は緩めて撤去し、ボルト孔30とアンカー孔35の部分はシール材で処理するようにすればよい。
【0080】
また、図1は、補強鋼板4を巻き立てた橋脚1の下部において、両側面の補強鋼板4から脚部3を貫通させたPCロッド52を緊張させ、プレストレスを導入することにより、耐震強度の向上を図るようにした例を示している。
【0081】
次に、図11乃至図13は、上述した第1のタイプの切梁取付け構造と、コンクリートアンカー方式である第3の先行プレート取付け方法をアレンジして用いた、鋼板巻き立ての橋脚補強工法の具体的な例を示している。なお、図7乃至図10の橋脚補強工法と共通する部材については同一符号を付すことによって説明に代える。
【0082】
図13に示すように、例えば、700mm角の大きさに形成された先行プレート23の中間部分に所定間隔で2個一組となり、四方に枠状の配置となるボルト孔30が設けられ、この先行プレート23の背面でボルト孔30の部分は、ボルト孔30よりも大きな孔を有する薄い補強プレート49で補強されている。この先行プレート23は、その表面を工場で上塗りまで仕上げておくようにする。
【0083】
切梁22の先端にボルトで延長状に結合するスペースボックス40は、鋼板を用いて例えば300mm角で長さが500mmの筒状に形成され、後端板に切梁22との結合ボルトの挿通孔54が設けられ、このスペースボックス40の外部四面で、先端寄りの位置に、各面毎に両側で2個一組となる補強部材55が取り付けられている。
【0084】
この補強部材55は、スペースボックス40の外面に重ねる背板56の外面両側にリブ57を設け、先端部に外方に直角の配置で突出する座板58を設けて形成され、スペースボックス40に設けた前後一対の取付け孔59と、背板56に設けた前後一対のボルト孔60をボルト、ナット61を用い、スペースボックス40の各外面に一対の補強部材55を並べて固定し、前記座板58に先行プレート23のボルト孔30と一致するボルト孔62が設けられている。
【0085】
脚部3に切梁22を取付ける位置に、上記先行プレート23のボルト孔30と数及び配置が一致するアンカー孔35を穿設し、樹脂36を充填したこのアンカー孔35に挿入固定することによって脚部3の外面に複数のアンカーボルト39を突出するように植設する。
【0086】
上記アンカー孔35は、アンカーボルト39の外径よりも少し大径となり、その内部にエポキシ樹脂又はアクリル樹脂等の樹脂36を充填し、全ねじタイプを用いたアンカーボルト39の前記アンカー孔35に挿入する部分の外周面に、前記樹脂36に対して剥離性のよいシリコン樹脂や油性物を塗布しておき、このアンカーボルト39を前記アンカー孔35に挿入することにより、樹脂36の硬化によってアンカーボルト39を固定化すると共に、切梁の撤去後に、前記シリコン樹脂や油性物の剥離性を利用して、アンカー孔35からアンカーボルト39を抜き取ることができるようにしている。
【0087】
図14と図15は、脚部3に設けた複数のアンカー孔35に対してアンカーボルト39を同時に精度よく植設する方法を示し、先行プレート23よりも一回り小さい枠状のテンプレート63と仮止めボルト64を用いている。
【0088】
上記テンプレート63に、上記アンカー孔35と等しい数と配置の貫通孔65及び四隅の位置に仮止めボルト64の挿通孔66を設け、各貫通孔65にアンカーボルト39を挿通した状態で、テンプレート63の両面からアンカーボルト39に螺合したナット67でテンプレート63を挟んで締め付け、図14(b)のように、テンプレート63にアンカーボルト39を固定する。
【0089】
なお、脚部3には、複数のアンカー孔35と共に、テンプレート63に設けた仮止めボルト64の挿通孔66と対応する位置に、仮止めボルト64をねじ込むアンカー68を打ち込んでおくようにする。
【0090】
このようにしてテンプレート63に固定した各アンカーボルト39は、脚部3に設けたアンカー孔35に対して等しい配置となり、各アンカー孔35に樹脂36を注入した状態で、各アンカーボルト39のテンプレート63の一面側へ突出する部分をアンカー孔35に挿入し、この状態で四隅の挿通孔66から仮止めボルト64をアンカー68にねじ込み、テンプレート63の位置決めを行って樹脂36の硬化を待つ。
【0091】
樹脂36が硬化すれば、仮止めボルト64を取り除くと共に、ナット67を緩めてアンカーボルト39からテンプレート63を取外せば、図15のように、脚部3の外面に複数のアンカーボルト39が突出する植設状態となり、各アンカー孔35をアンカーボルト39よりも大径に形成しても、テンプレート63が定規となり、複数本のアンカーボルト39を精度よく植設することができる。
【0092】
次に、上記した鋼板巻き立ての橋脚補強工法を施工順にしたがって説明する。
【0093】
耐震補強しようとする橋脚1の現場において、仮締め切り工21を施工し、また、工場では、前記橋脚1の脚部3に巻き立てるための補強鋼板4と先行プレート23を製作してこれを現場に搬入する。
【0094】
現場において、上記仮締め切り工21内の土砂を掘削機を用いて排土し、橋脚1の脚部3の全長を露出させた状態で、この脚部3の外面で切梁22を取付けんとする位置にアンカー孔35を所定の配置で穿設し、各アンカー孔35内に樹脂36を充填し、図14と図15で示した方法を用い、外面にシリコン樹脂等を塗布した全ねじのアンカーボルト39を挿入して植え込み、樹脂36の硬化によってアンカーボルト39を脚部3に固定化する。
【0095】
次に、脚部3の外面に突出するこのアンカーボルト39に各ボルト孔30を挿入することで先行プレート23を取付け、このアンカーボルト39にナット41を螺合し、脚部3の外面に当接させた先行プレート23に対してこのナット41を離れた位置にしておく。
【0096】
外面に補強部材55をボルト、ナット61で固定したスペースボックス40をアンカーボルト39に臨ませ、補強部材55の座板58に設けたボルト孔62をアンカーボルト39に挿入し、アンカーボルト39に螺合したナット41と先のナット41で座板58を締め付けることにより、図11と図12のように、スペースボックス40を先行プレート23から離した状態でアンカーボルト39に固定する。
【0097】
このように、先行プレート23とスペースボックス40の間に隙間を設けるようにすると、養生材が不要になると共に、先行プレート23の表面を傷めることがないという利点があり、しかも、アンカーボルト39とボルト孔30の回りにシールを施す作業が支障なく行えるとことになる。
【0098】
図16は、上記アンカーボルト39に対するスペースボックス40の固定において、上記先行ナット41の使用を省くことで、スペースボックス40の先端及び補強部材55の座板58を先行プレート23の表面に直接重ねて取付け、仮締め切り工21の鋼矢板や杭aにかかる土圧や水圧を、切梁22からスペースボックス40と先行プレート23を介して橋脚1の脚部3に伝えることにより、荷重支持能力を向上させるようにしたものである。
【0099】
上記スペースボックス40に切梁22を連結することにより、仮締め切り工21の鋼矢板や杭aにかかる土圧や水圧は、切梁22による支保工からスペースボックス40とアンカーボルト39又は先行プレート23を介して橋脚1の脚部3に直接伝わって支持されることになる。
【0100】
上記仮締め切り工21内の土砂を掘削した後、橋脚1における脚部3の表面の下地処理を行い、現場に搬入した補強鋼板4を下から順番に取付けていく。このとき、隣接する各補強鋼板4は周囲の全長を溶接により接続し、切梁22の取付け部分に該当する補強鋼板4には、予め切り欠き24を加工した切り欠補強鋼板4aを用い、先に配置してある先行プレート23に切り欠き24を嵌め合わせることによって取付ける。
【0101】
上記先行プレート23のボルト孔30は、アンカーボルト39よりも少し大径に形成され、アンカーボルト39は精度よく植設されているので、切り欠24の嵌め合わせ時における先行プレート23の位置調整が可能となり、切り欠24と先行プレート23の嵌め合わせ作業が支障なく行えることになり、このようにして嵌め合わせが終わると、橋脚1に重ねた先行プレート23と切り欠き補強鋼板4aの切り欠きの周囲を溶接して固定一体化する。
【0102】
また、上記のようにして、橋脚1における脚部3の外面に補強鋼板4及び先行プレート23を取付けると、ボルト孔30とアンカーボルト39との回りをシール材32で埋めた後、前記脚部3の外面と補強鋼板4の内面間及び先行プレート23と脚部3の間に形成された充填材注入隙間42、44に対して、補強鋼板4や先行プレート23に設けた小さな貫通孔(図示省略)から充填材を注入することで埋め、充填材注入後に貫通孔を閉鎖する。
【0103】
上記ボルト孔30とアンカーボルト39との回りをシール材32で埋める場合、図11と図12のように、先行プレート23とスペースボックス40の間に隙間を確保した例では、この隙間からそのままボルト孔30とアンカーボルト39との回りをシール材32で埋めることができる。
【0104】
また、図16のように、先行プレート23にスペースボックス40の先端を直接重ねた例では、スペースボックス40に対する補強部材55の固定ボルト、ナット61を取外し、かつ、アンカーボルト39に螺締めしたナット41を緩めることで一つの補強部材55を取外し、この補強部材55を取外したアンカーボルト39のボルト孔30を露出させ、このボルト孔30をシール材32で埋め、この後、取外した補強部材55を取外し時とは逆の手順でアンカーボルト39とスペースボックス40に固定し、これを各補強部材55ごとに繰り返すことにより切梁22による支保工を維持したまま、ボルト孔30とアンカーボルト39との回りをシール材32で埋めるようにすればよい。
【0105】
充填材注入後に、補強鋼板4と先行プレート23の外面に対する防錆等の塗装作業が完了すると、仮締め切り工21内への土砂の埋め戻しと切梁22及びスペースボックス40の取外しを行う。この取外しは、鋼矢板や杭aとスペースボックス40の間から切梁22を取外し、この後、ナット41を緩めることでアンカーボルト39からスペースボックス40を抜き取って撤去する。
【0106】
更に、埋め戻しが終わると、上記センターホールバイブロハンマー工法を用いて仮締め切り工21の鋼矢板や杭aを抜き取ることで撤去して工事を完了する。
【0107】
なお、スペースボックス40を撤去すると、先行プレート23の外面にアンカーボルト39が突出しているが、このアンカーボルト39はアンカー孔35に充填した樹脂36とシリコン樹脂等の剥離性を利用し、ダブルナットを用いて緩み方向に回すことでアンカー孔35から抜き取って撤去し、ボルト孔30からアンカー孔35の部分は、無収縮モルタルあるいはポリマーセメントなどで埋めるように処理すればよい。
【0108】
また、この発明の鋼板巻き立ての橋脚補強工法は、具体的な実施例として、第1のタイプの切梁取付け構造と、コンクリートアンカー方式の第3の先行プレート取付け方法を用いた工法と、第1のタイプの切梁取付け構造と、コンクリートアンカー方式である第3の先行プレート取付け方法をアレンジして用いた工法を説明したが、図5と図6で示した切梁取付け構造の基本的なタイプの種類と、図7(a)乃至(c)で示した種類の先行プレート取付け方法を、施工条件に応じて任意に組み合わせることで施工することは自由に行える。
【0109】
ここで、図17は、脚部3に対する先行プレート23の取付けに採用したアンカーボルト39の固定方法を、引き抜き荷重が加わるような条件の部材71の固定に利用した例を示している。この部材71としては、高所作業における安全用ワイヤーや命綱72等をコンクリート製の構造物躯体73に取付ける金物であり、取付けプレート74の表面に設けたリブ75にワイヤーや命綱72等の連結孔76が設けられ、前記取付けプレート74を構造物躯体73に植設した複数のアンカーボルト39と、これに螺合したナット41で固定するようになっている。
【0110】
このような部材71は、作業終了後に撤去することが必要であるが、この発明のアンカーボルト39の固定方法は、アンカー孔35に充填した樹脂36の硬化によって固定したアンカーボルト39は、予め塗布したシリコン樹脂等の剥離性により回転させることで抜き取ることができるので、必要済み後に部材71の取外しが可能になり、上記部材71の固定に適している。
【0111】
また、部材71を固定するアンカーボルト39には、図17に矢印で示すように、下部に接続した安全用ワイヤーや命綱72等に荷重が加わると、取付けプレート74の下端を支点とする引き抜き力が加わることになる。
【0112】
従って、アンカーボルト39の耐引抜強度を向上させるため、このアンカーボルト39に機械ねじのようなねじの山と谷の差が大きなものを用いるようにすればよい。
【0113】
上記のように、この発明の鋼板巻き立ての橋脚補強工法は、橋脚1の外面で切梁22の取付け位置に予め先行プレート23を配置し、この先行プレート23と仮締め切り工21の間に切梁22を配置し、その後、橋脚1に対する補強鋼板4の巻き立てを行うと、補強鋼板4の巻き立て完了後において、切梁22の取外し部分に先行プレート23がそのまま残り、この先行プレート23が補強鋼板4の巻き立ての一部を構成することになるので、橋脚1の切梁取付け位置に対する後処理加工を省くことができ、これにより、施工期間が短い河川内での橋脚1の耐震補強を短期間で完了することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 橋脚
2 フーチング
3 脚部
4 補強鋼板
4a 切欠き補強鋼板
21 仮締め切り工
22 切梁
23 先行プレート
24 切欠き
25 横梁
26 切梁仮受け
27 ジャッキ
28 ライナー
29 コンクリートアンカー
30 ボルト孔
31 仮止めボルト
32 シール材
33 養生材
34 アンカーボルト
35 アンカー孔
36 樹脂
37 切断アンカーボルト
38 ナット
39 アンカーボルト
40 スペースボックス
41 ナット
42 充填材注入隙間
43 間隔保持部材
44 充填材注入隙間
45 矩形プレート
46 脚部材
47 ボルト挿通孔
48 受板
49 ワッシャや補強プレート
50 ジャッキ
51 ボルト、ナット
52 PCロッド
54 挿通孔
55 補強部材
56 背板
57 リブ
58 座板
59 取付け孔
60 ボルト孔
61 ボルト、ナット
62 ボルト孔
63 テンプレート
64 仮止めボルト
65 貫通孔
66 挿通孔
67 ナット
68 アンカー
71 部材
72 安全用ワイヤーや命綱
73 構造物躯体
74 取付けプレート
75 リブ
76 連結孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋脚の外側を仮締め切り工で囲み、この橋脚の外面周囲を補強鋼板で巻立て、前記橋脚と補強鋼板の隙間に充填材を注入する鋼板巻き立ての橋脚補強工法において、
橋脚の外面に対して、この橋脚と仮締め切り工の間に配置する切梁の該当位置に複数本のアンカーボルトを植立て、
このアンカーボルトを用いて橋脚の外面に、巻立てに使用する補強鋼板と同じ材質の鋼板を用いた先行プレートを配置し、
前記仮締め切り工と橋脚の対向面間に配置した切梁の橋脚側端部を前記先行プレート又はアンカーボルトに結合することで、仮締め切り工にかかる外圧を切梁を介して橋脚で支持し、
この状態で前記仮締め切り工内の土砂を掘削した後、橋脚の外面にこの外面を覆うように補強鋼板を巻立て、
この補強鋼板の巻立て時に、前記先行プレートと干渉する位置関係にある補強鋼板は、この先行プレートに嵌まり合う切り欠を設けたものを用い、
前記橋脚に巻立てた各補強鋼板及び切り欠に収まる先行プレートを溶接により一体化した状態で、橋脚と補強鋼板の隙間に充填材を注入し、
この後、仮締め切り工内への土砂の埋め戻し工程と、先行プレートと仮締め切り工からの切梁の撤去工程及び仮締め切り工の抜き取り工程を行うようにしたことを特徴とする鋼板巻き立ての橋脚補強工法。
【請求項2】
上記先行プレートは、アンカーボルトに対する取付け孔をボルト軸径よりも大径に設定することで、アンカーボルトに対する位置調整可能とし、水平及び垂直の位置調整後の先行プレートを、アンカーボルトに螺合したナットの締め付けで橋脚に固定するようにすることを特徴とする請求項1に記載の鋼板巻き立ての橋脚補強工法。
【請求項3】
上記橋脚に対して植立てるアンカーボルトは、橋脚に設けたアンカー孔に対して挿入したアンカーボルトを、このアンカー孔に充填した樹脂の硬化によって固定し、切梁の撤去後に、このアンカーボルトをねじの緩み方向に回動させてアンカー孔から抜き取ることを特徴とする請求項1又は2に記載の鋼板巻き立ての橋脚補強工法。
【請求項4】
上記先行プレートは、橋脚との対向面に、充填材の注入用の隙間を確保するための裏当金が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の鋼板巻き立ての橋脚補強工法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の鋼板巻き立ての橋脚補強工法において、橋脚の外側を囲むように鋼矢板を圧入して仮締め切り工を施工する場合に、鋼矢板の圧入にバイブロハンマー機能を有する杭打機を用いることを特徴とする鋼板巻き立ての橋脚補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−270584(P2010−270584A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276580(P2009−276580)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000142492)駒井鉄工株式会社 (6)
【出願人】(391002122)調和工業株式会社 (43)
【Fターム(参考)】