説明

鋼板用冷間圧延油および冷間圧延方法

【課題】ギヤ油が混入した場合における潤滑性、乳化性および乳化安定性に優れ、かつ、優れた耐オイルステイン性とギヤ油分離性を有する、鋼板用冷間圧延油および冷間圧延方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る鋼板用冷間圧延油は、鉱油と、全体質量に対して5〜30mass%であり、脂肪酸と2価以上のアルコールとから合成され水酸基価が100以上300以下の合成エステルと、全体質量に対して3〜10mass%であるアミン系乳化剤と、全体質量に対して1.0〜5.0mass%である脂肪族または芳香族カルボン酸或いは脂肪族または芳香族カルボン酸誘導体と、全体質量に対して0.1〜5.0mass%である油溶性アルケニルコハク酸或いはアルケニルコハク酸誘導体の1種以上と、を必須成分として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Siを含有する鋼板、特に電磁鋼板の冷間圧延時に使用するエマルション型の冷間圧延油で、高温での乳化性および潤滑性に優れ、かつ、優れた耐オイルステイン性を有することを特徴とする冷間圧延油と冷間圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の冷間圧延には、一般的に潤滑と冷却を目的としてエマルションタイプの圧延油が用いられる。通常は循環方式で繰り返し使用されるため、冷間圧延油には潤滑性以外にも乳化安定性や潤滑安定性、熱安定性、さらには鋼板の耐蝕性やミルクリーン性、耐オイルステイン性といった様々な特性が高度にバランスすることが要求されている。
【0003】
例えば、乳化安定性や潤滑安定性が損なわれると、冷間圧延中に潤滑不足の部分と潤滑過多の部分が生じる恐れがあり、結果的に冷間圧延後の鋼板が形状不良となったり、オイルステインが発生すると、鋼板表面の色調変化によりその後の焼鈍時に周囲と温度差が生じて形状不良となったり、鋼板表面に模様となって残存したりする。
【0004】
さらに、圧延油の熱安定性が劣っていると、循環して繰り返し使用する際に酸化劣化してスラッジが鋼板に付着したり、圧延時の潤滑性が低下するために生産性が低下したりする。
【0005】
特に電磁鋼板のようなSiを含有する鋼板においては、鋼板の硬度が高くなるとともに、圧延荷重が高くなる傾向が顕著で、脆性も劣位であることから、いわゆる難圧延材と呼ばれている。
【0006】
このような難圧延材を冷間圧延するためには、一般の鋼材を圧延するよりも小径の圧延ロールを用いることで圧延性を高めるのが一般的であり、ゼンジミアミル等の多段ロールなどが難圧延材の冷間圧延に良く用いられている。
【0007】
近年、圧延材表面に対する要求品質がより厳格化されてきており、商品価値を低下させる形状不良やオイルステインが発生しない圧延油が強く要求されている。さらには、品質の安定性や歩留まり向上のために、従来より優れた潤滑性や乳化安定性を持つ圧延油が強く求められている。
【0008】
すなわち電磁鋼板のような小径の圧延ロールを用いた冷間圧延では、ロールのベアリングやロール駆動用ギヤに使用するギヤ油が圧延用油に混入する場合がある。
【0009】
すなわち、これまでは圧延材に対する要求品質や歩留りがそれほど高くなかったために少量混入するギヤ油については余り考慮されることは無く、圧延油のみの性能向上が行われてきた。
【0010】
ところが、圧延材に対する形状やオイルステインなどの品質、潤滑速度や歩留りといった生産性の要求レベルが高くなることにより、ギヤ油の混入を考慮した圧延油を用いることで、電磁鋼板の冷間圧延における潤滑性、乳化安定性、熱安定性、耐オイルステイン性を向上させることが必要である。
【0011】
さらに、混入したギヤ油は分離できないと、圧延油中のギヤ油比率が上昇することで、潤滑性や乳化性に悪影響を及ぼすことから、すみやかに浮上分離することが必要である。
【0012】
例えば、特許文献1では、基油と特定のカチオン性乳化剤と特定のノニオン性高分子化合物と高級脂肪族アルコールを含有する冷間圧延油が開示されており、電磁鋼板などの冷間圧延する際に、チャタリングなどの異常現象を防止するものである。しかしながら、電磁鋼板の場合オイルステインに対する抑制作用がないため、局部的な変色が懸念され、また小径ロールによる圧延を前提としていない。
【0013】
また、特許文献2では、特定動粘度の基油と特定HLB値を持つノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤を含むステンレス鋼板用水溶性冷間圧延油剤ついての技術が開示されている。この場合も、圧延機のロール径に関する記載はあるものの、ステンレス鋼板用であるため電磁鋼板特有のオイルステインについての抑制効果が無く、またそのような記述も無い。
【0014】
更に、特許文献3では、基油にメルカプトイミダゾール基を有する化合物、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリマー、脂肪酸、アルカノールアミン、酸化防止剤を特定量配合してなるアルミニウムまたはアルミニウム合金用圧延油が開示されている。この場合、素材がアルミニウムまたはアルミニウム合金で、かつ熱間圧延ということもあり、鋼板に対する潤滑性、耐オイルステイン性は考慮されていない。
【0015】
また、特許文献4には、特定動粘度および特定範囲の流動点と粘度指数を持つ基油と、特定分子量のエチレンαオレフィン共重合体とジアルキルジチオリン酸亜鉛、硫化油脂、特定全塩基価のカルシウムスルホネートをそれぞれ特定量含有するギヤ油組成物についての技術が開示されている。しかしながら当然単独使用が前提であり、エマルションタイプの冷間圧延油に混合した後の特性については何ら開示が無く、またそのような記述も無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平11−124592号公報
【特許文献2】特開2000−26878号公報
【特許文献3】特開平11−106777号公報
【特許文献4】特開平11−323370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、ギヤ油が混入した場合における潤滑性、乳化性および乳化安定性に優れ、かつ、優れた耐オイルステイン性とギヤ油分離性を有する、鋼板用冷間圧延油および冷間圧延方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
(1)鉱油と、全体質量に対して5〜30mass%であり、脂肪酸と2価以上のアルコールとから合成され水酸基価が100以上300以下の合成エステルと、全体質量に対して3〜10mass%であるアミン系乳化剤と、全体質量に対して1.0〜5.0mass%である脂肪族または芳香族カルボン酸或いは脂肪族または芳香族カルボン酸誘導体と、全体質量に対して0.1〜5.0mass%である油溶性アルケニルコハク酸或いはアルケニルコハク酸誘導体の1種以上と、を必須成分として含有することを特徴とする鋼板用冷間圧延油。
(2)(1)に記載の冷間圧延油を希釈したエマルションに、抗乳化性が25分以下のギヤ油の混入量が0.1〜5.0mass%になるよう調整したものを循環方式で使用する冷間圧延方法。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の冷間圧延油は、潤滑性だけでなく、乳化性、乳化安定性が良好で、かつ特に優れた耐オイルステイン性とギヤ油分離性を有している。そのため、本発明の冷間圧延油を適用した冷間圧延方法により、優れた圧延材の表面品質を得ることができる。
【0020】
本発明の冷間圧延油および冷間圧延方法は、例えば、Siを含有する鋼板、特に電磁鋼板用に適合するものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明の実施形態で使用する鋼板は、Siを含有するものが適当であり、一般に電磁鋼板と称される鋼板を使用する。Siの添加量は、例えば、0.6mass%以上7.0mass%未満が適当である。さらには0.8mass%〜3.5mass%が好適であり、さらに好適には2.0mass%〜3.25mass%の範囲である。その他の添加元素としては、例えば、AlやMnが適当である。Alは、例えば0.1mass%以上3.0mass%未満が好適であり、Mnは、例えば0.01mass%以上1.0mass%未満が好適である。その他典型元素は、例えば、合計で0.01mass%以下が適当で、さらに好適には0.002mass%以下である。
【0023】
本発明の実施形態で使用する冷間圧延油としては、鉱油をベース油とする。鉱油にはパラフィン系あるいはナフテン系などがあるが、いずれも使用可能である。具体的には、マシン油、スピンドル油、ダービー油などである。
【0024】
本発明の実施形態で使用する合成エステルは、例えば、脂肪酸と2価以上のアルコールのエステル化物で、特にアルコールの水酸基を部分エステル化する際に水酸基価を100以上に保持したものである。脂肪酸としては、例えば、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、クロトン酸、ウンデシレン酸、ラウロレイン酸、リンデル酸、ツズ酸、フィゼテリン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、エルカ酸、さらには不飽和結合を複数持つリノール酸、ヒラゴ酸、エレオステアリン酸、リノレン酸、モノクチ酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸等の不飽和脂肪酸などが使用可能である。
【0025】
本発明の実施形態に係る合成エステルに使用する2価以上のアルコールは、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコールであり、これらの中から選択された1種又は2種以上の混合物でもよい。
【0026】
本発明の実施形態で使用する合成エステルは、上記脂肪酸と多価アルコールから構成され、かつ水酸基価が100以上300以下である特徴を持つ。ここでいう水酸基価とは、JIS K 0070で規定される試験方法で求められ、分子中の水酸基の存在量を規定するものであり、合成エステルの構造が判明しているのであれば計算値でも使用可能である。
【0027】
水酸基価は、合成エステル分子中のフリーの水酸基の存在量を示しており、本願発明者らは、水酸基価が100から300の範囲に規定された合成エステルを配合することで極めて好適な圧延油特性が得られることを見出した。水酸基が100未満の合成エステルでは鋼板表面に対する親和性が劣り、300超では親油性が低いために、いずれにしても防錆効果が劣るためである。
【0028】
次に、本発明の実施形態で使用するアミン系乳化剤としては、一般的な脂肪族のモノアミン化合物やポリアミン化合物およびアルコール性アミンが使用可能である。具体的には、モノアミンとしてはラウリルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、モノアミン化合物としてはN−アミノプロピルデシルアミン、N−アミノミリスチルアミン、N−アミノプロピルベヘニルアミンなどである。さらに、ポリアミンとしては、例えば、N−ラウリルジプロピレントリアミン、N−ステアリルジプロピレントリアミン、N−ミリスチルトリプロピレンテトラミン、N−ステアリルトリプロピレンテトラミンなどが挙げられる。直鎖脂肪族アミン化合物の場合、炭素数が8〜20のものが特に好適である。さらに、ポリアミン化合物にエチレンオキシドやプロピレンオキシドを付加せしめたものや、それら混合物を使用することも可能である。付加するエチレンオキシド鎖は好適には炭素数30〜100のものである。アルコール性アミンとは、一級アミンと一級アルコールとしての両方の特性を持つものであり、具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミンなどである。
【0029】
本発明の実施形態で使用する脂肪族または芳香族カルボン酸あるいは脂肪族または芳香族カルボン酸誘導体とは、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪族カルボン酸が好適であるが、誘導体化するに当たっての付加反応点として用いるために二重結合を持つオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪族カルボン酸、部分エステル化のための反応点としてサビニン酸、イプロール酸、ヤラピノール酸、リシノール酸、リカン酸などの水酸基、さらにはマロン酸、コハク酸等の脂肪族二カルボン酸などのようにカルボン酸以外の官能基を持つ脂肪酸を用いても良い。また、芳香族カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、サリチル酸、メリト酸などが使用可能で、その誘導体としては、アルキル化、アルケニル化、アミン塩化、部分アミド化、部分エステル化、無水化し、油溶性にしたもの等が挙げられる。本発明の実施形態では、これらを1種または2種以上混合して使用してもよい。
【0030】
本発明の実施形態で使用するアルケニルコハク酸或いはアルケニルコハク酸の誘導体とは、冷間圧延油の使用時に油相側に留まり鋼板に吸着しての発錆やオイルステイン防止に効果を発現する有機化合物である。具体的には、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸無水物、アルケニルコハク酸エステルなどである。
【0031】
アミン系乳化剤の含有量は、3.0〜10.0mass%であることが必要である。3.0mass%未満では、高温時の乳化安定性が不十分であるため好ましくない。一方、10.0mass%を越えてしまうと効果が飽和してしまい経済的ではなく、さらにはギヤ油が乳化し過ぎて潤滑性が劣化する恐れがある。アミン系乳化剤の含有量は、好ましくは4.0〜6.0mass%である。
【0032】
次に、合成エステル含有量は、5.0〜30.0mass%であることが必要である。5.0mass%未満では潤滑性効果が不十分であるため好ましくなく、30.0mass%超では耐オイルステイン性が劣化するからである。合成エステル含有量は、さらに好ましくは8.0〜20mass%である。
【0033】
次に、脂肪族または芳香族カルボン酸あるいは脂肪族または芳香族カルボン酸誘導体の含有量は、1.0〜5.0mass%であることが必要である。1.0mass%未満では、乳化安定性が劣り、5.0mass%超では耐オイルステイン性が劣化するからである。脂肪族または芳香族カルボン酸あるいは脂肪族または芳香族カルボン酸誘導体の含有量は、さらに好ましくは1.5〜3.0mass%である。
【0034】
次に、油溶性アルケニルコハク酸或いはアルケニルコハク酸誘導体の含有量は、0.1〜5.0mass%であることが必要である。0.1mass%未満では添加効果が無く、耐オイルステイン性が低下し、5.0mass%超添加しても効果が飽和し経済的でない。油溶性アルケニルコハク酸或いはアルケニルコハク酸誘導体の含有量は、さらに好ましくは0.5〜3.0mass%である。
【0035】
また、本発明の実施形態において、本発明の実施形態に係る鋼板用冷間圧延油とともに使用するギヤ油は、抗乳化性が25分以下である必要がある。抗乳化性が25分超ではクーラント中に存在するギヤ油が分離できなくなり圧延性が劣化したり、形状不良となったりする恐れがあるためである。
【0036】
抗乳化性は、JIS K 2520に準じて82℃にて1500回転で5分間攪拌して乳化せしめたものが水相と油相に分離するまでの時間で測定する。
【0037】
本発明の実施形態に係る冷間圧延方法では、本発明の実施形態に係る鋼板用冷間圧延油を脱イオン水等の溶媒に対して例えば0.5〜15.0mass%の濃度となるように希釈したエマルションを調整し、上述のギヤ油を、エマルションに対して0.1〜5.0mass%となるように混入量を調整したものを、循環方式で使用する。
【0038】
鋼板用冷間圧延油の希釈濃度が0.5mass%未満の場合、圧延性が低下して好ましくなく、希釈濃度が15.0mass%超の場合、潤滑過多となり好ましくない。また、エマルションに混入するギヤ油の濃度が0.1mass%未満に維持するには、コスト高となって好ましくなく、5.0mass%超の場合、潤滑過多となって好ましくない。
【0039】
なお、本発明の冷間圧延油は、本発明の効果が損なわれない範囲内であれば、必要に応じて油脂、油性向上剤、極圧添加剤、酸化防止剤、防腐剤等の各種添加剤を添加することができる。
【0040】
本発明において、Siを含有する電磁鋼板などを小径ロールにて冷圧延する際に、潤滑性、耐オイルステイン性が向上するメカニズムは詳細には明らかではないが、電磁鋼板の場合、圧延時に発生する熱量が極めて多く、さらに生成する新生面に形成される酸化膜が含有するSiやAlなどの合金成分により一般の鋼板とは異なる性状を呈すると考えられている。したがって、一般的な圧延油では乳化安定性の劣化が速やかに進行し、従って潤滑性が劣位で、オイルステインの発生を抑制することができず、本願が開示する特定物質を特定量配合することで安定した圧延が可能になると考えられる。
【実施例】
【0041】
以下に本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0042】
[乳化性および乳化安定性試験方法]
(1)試験用エマルションの調製
表1の組成で示される供試圧延油(No.1〜20)を調製し、以下の条件でエマルションを建浴した。
【0043】
圧延油濃度 :3mass%
建浴量 :1L
使用水 :脱イオン水
浴温度 :60℃
攪拌条件 :ホモミキサー5500rpm×15min
鉄粉混入量 :エマルションに対し、0ppm(乳化性)および1000ppm(乳化安定性)添加
ギヤ油混入量:エマルションに対し、3.0mass%
【0044】
[乳化性および乳化安定性]
乳化性は攪拌直後のエマルションの平均体積粒径で評価し、乳化安定性は鉄粉添加時の平均体積粒径の変化率で評価した。なお、平均体積粒径は、ベックマンコールター社のコールターカウンター装置を用いて、JIS R6002に記載の電気抵抗試験方法に則って測定した。
【0045】
乳化性
○ :平均粒径6μm以下
△ :平均粒径6〜12μm
× :平均粒径12μm超
【0046】
変化率=(鉄粉添加時の平均体積粒径−無添加時の平均体積粒径)/無添加時の平均体積粒径
◎ :0.1未満
○ :0.1〜0.2
△ :0.2〜0.4
△〜×:0.4〜0.6
× :0.6以上
【0047】
[潤滑性および耐オイルステイン性試験方法]
乳化性および乳化安定性試験で調製したエマルションについて、潤滑性および耐オイルステイン性を評価した。
【0048】
(2)供試板の調製
3.0mass%Si、0.3mass%Alを含有する電磁鋼板(厚み1.2mm、幅30mm、長さ100mm)を上記試験用エマルションに浸漬し、次いで鋼板上にエマルションを1ml滴下して、以下の条件で圧延した。圧延された鋼板は、耐オイルステイン性試験用供試板とした。
【0049】
ロール :100mmφブライトロール
圧延速度:10m/min
圧下率 :5パス圧延、全圧下率50%
【0050】
この時の圧延荷重を用いて潤滑性を評価した。
○ :最大圧延荷重350N以下
△ :最大圧延荷重350〜400N
× :最大圧延荷重400N超
【0051】
(3)耐オイルステイン性試験用試料調製およびオイルステイン促進
上記の圧延された鋼板を30mm×100mmに切断し、表面に上記エマルションを0.3ml滴下して、4枚重ねにする。次いで、4枚重ねされた試験片をアルミホイルで全体を2重巻きにして、4隅をダブルクリップで挟み込む。これを110℃の環境下で16h放置した。
【0052】
(4)耐オイルステイン性評価基準
上記試験後の鋼板表面を溶剤(ジエチルエーテル)で拭取り、試験片上のオイルステインについて、以下の評価基準に基づき目視評価した。
【0053】
◎ :オイルステインがほとんど見られない。
○ :ごく僅かにオイルステインが見られる。
△ :オイルステインがやや目立つ。
△〜×:オイルステインが目立つ
× :オイルステインが著しく目立つ。
【0054】
[ギヤ油の分離性]
表1に示す圧延油で作製した試験用エマルション400mlに、ギヤ油1またはギヤ油2を20g添加した後、5500rpmで15分間攪拌した後メスシリンダーに移し、20分間静置しエマルション溶液の上側に浮上する油相の量を測定して分離性を評価した。
【0055】
◎ :ほぼ完全に分離
○ :明らかに油相が見られる
△ :油相と水相の境目ははっきりしないが浮上はしている
△〜×:エマルションが上層と下層で色調で分離できる
× :分離していない
【0056】
本発明の実施例1〜9および比較例1〜11の試験結果について、表2に示す。なお、◎と○を合格とした。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
表1に示す成分は以下のものを使用した。
油1:ナフテン系鉱油
油2:パラフィン系鉱油
E1(合成エステル1):オレイン酸トリメチロールプロパンエステル(水酸基価257)
E2(合成エステル2):オレイン酸ソルビタンエステル(水酸基価201)
E3(合成エステル3):リノール酸ポリグリセリド(水酸基価115)
E4(合成エステル4):パルミチン酸グリセリド(水酸基価87)
E5(合成エステル5):トリイソステアリン酸ジグリセリド(水酸基価310)
A1(アミン系界面活性剤1):トリエタノールアミン
A2(アミン系界面活性剤2):N−アミノプロピルベヘニルアミン
A3(アミン系界面活性剤3):ポリアミンエチレンオキシド付加物
C1(カルボン酸1):オレイン酸
C2(カルボン酸2):アルケニル化リノール酸
C3(カルボン酸3):アルキル化マロン酸
T1(アルケニルコハク酸):アルケニルコハク酸
ギヤ油1:鉱油ベースギヤ油(抗乳化性20分)
ギヤ油2:鉱油ベースギヤ油(抗乳化性30分)
【0060】
本発明の冷間圧延油を適用した実施例1〜9では、いずれも耐オイルステイン性が良好であった。一方、比較例1、2(合成エステルの水酸基価上下限外れ)では、乳化安定性および耐オイルステイン性をはじめとして、十分な特性が得られなかった。比較例3(アミン系界面活性剤下限外れ)では乳化安定性が、比較例4(アミン系界面活性剤上限外れ)では潤滑性が、比較例5(カルボン酸下限外れ)では乳化安定性が、比較例6(カルボン酸上限外れ)では耐オイルステイン性が、比較例7(アルケニルコハク酸無添加)と比較例8(アルケニルコハク酸添加量下限外れ)では耐オイルステイン性が、比較例9(合成エステル添加量下限外れ)では特に潤滑性が、比較例10(合成エステル添加量上限外れ)では耐オイルステイン性が、比較例11(ギヤ油の抗乳化性外れ)ではギヤ油の分離性が、それぞれ得られなかった。なお、比較例3,4、6、9でも、ギヤ油の分離性は十分ではなかった。
【0061】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油と、
全体質量に対して5〜30mass%であり、脂肪酸と2価以上のアルコールとから合成され水酸基価が100以上300以下の合成エステルと、
全体質量に対して3〜10mass%であるアミン系乳化剤と、
全体質量に対して1.0〜5.0mass%である脂肪族または芳香族カルボン酸或いは脂肪族または芳香族カルボン酸誘導体と、
全体質量に対して0.1〜5.0mass%である油溶性アルケニルコハク酸或いはアルケニルコハク酸誘導体の1種以上と、
を必須成分として含有することを特徴とする、鋼板用冷間圧延油。

【請求項2】
請求項1に記載の冷間圧延油を希釈したエマルションに、抗乳化性が25分以下のギヤ油の混入量が0.1〜5.0mass%になるよう調整したものを循環方式で使用する、冷間圧延方法。



【公開番号】特開2010−248329(P2010−248329A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97930(P2009−97930)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000229597)日本パーカライジング株式会社 (198)
【Fターム(参考)】