説明

鋼構造体のさび除去方法

【課題】非常に高い吐出圧力の高圧水を必要とせず、鋼構造体のさびを除去する作業速度が大きく、小さなピットあるいは孔中に存在するさびを除去する方法を提供する。
【解決手段】鋼構造体に発生したさびを、高圧水を鋼構造体に噴射して除去するさび除去方法であって、高圧水に、振動子または振動子から繋がる部品の直接的な加振により、周波数が1.0kHz〜200kHzの脈動を与えることを特徴とする鋼構造体のさび除去方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁、プラント、船舶など鋼構造体のさび除去方法に関わり、特に、層状さびなどの厚いさびを効率的に除去する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁、プラント、船舶など鋼構造体は、長年にわたり風雨に曝されたり、海に隣接した立地である場合は塩害を被るなど、その使用環境に応じた腐食を起こす。鋼材の腐食は美観を損ねるのみならず、鋼材の肉厚が減じることにより構造体自体としての強度が初期の値を維持できなくなるため、鋼構造体を適切に維持管理することが必要である。近年では、より腐食速度の小さい耐候性鋼などの耐食低合金鋼がこれら鋼構造体の部材として用いられるようになっている。しかしながら、耐候性鋼であっても建設後の様々な理由により環境変化が生じた場合、想定以上に腐食速度が上昇し、結果として層状さび、うろこさびなど厚いさびが発生することがある。このように、鋼構造体の腐食速度が大きく、厚いさびが発生する場合は、新たに塗装などの補修を行い、それ以降の腐食速度を低減する必要がある。そのためには大面積に発生したさびを塗装が可能なほど十分に除去することが必要となる。しかしながら、厚いさびの除去作業は困難であり、特に耐候性鋼などの耐食低合金上に発生するさびは緻密で密着性が高いため、その除去が極めて困難である。
【0003】
一般に、固着さびの除去にはブラスト法が用いられる。ところが、ブラスト法は粉塵を撒き散らすため環境への負荷が大きいという問題がある。また、ブラスト法では小さなピットあるいは孔中に存在するさびの除去は困難である。特許文献1には、金属回転盤の研削面の一部または全部に20個/cm以上の密度となるようモース硬度9を超える硬質粒子が蝋付け接合された回転研削工具を用いることにより、固着さびを除去する方法が示されている。この方法により安価に固着さびを除去可能であるが、小さなピットあるいは孔中に存在するさびの除去はできず、接合部などの凹凸のある部位のさびの除去は困難である。
【0004】
特許文献2には、ウォーターブラストにより鋼構造体表層の腐食生成物やさびなどを除去する技術が示されているが、通常の水を使用する場合は、その水の圧力範囲が10〜300MPa、好ましくは150〜300MPaとしており、非常に高圧の水を使用するためポンプが大型化してしまい設備コストが高くなる。また、研掃材を用いる場合は、より低圧で十分な効果が得られるものの、鋼材表面に研掃材が残留するため均一な塗装を阻害するという問題がある。
【0005】
鋼構造体の腐食速度が大きく、厚いさびが発生する場合は、さびを除去して新たに塗装などを行う必要がある。しかしながら、特許文献1に示されるがごとく、厚いさびの除去作業は困難である。
【0006】
特許文献2に示されるがごとく、高圧水を鋼構造体に噴射することにより、さびを除去できる。また、塩害の多い地区において生成したさびは塩分が多量に付着しているため、さびを除去して塗装する前には、水洗などにより塩分を除去あるいは無害化する必要があるが、高圧水の噴射によりさびを除去すると、塩分を除去する効果がある。
【0007】
したがって、高圧水の噴射により、鋼構造体上に生成する厚いさびを除去して新たに塗装を施す場合、さびを除去する作業速度とそのコストが課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−307701号公報
【特許文献2】特開2001−46957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決し、非常に高い吐出圧力の高圧水を必要とせず、鋼構造体のさびを除去する作業速度が大きく、小さなピットあるいは孔中に存在するさびをも除去する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、
(1)鋼構造体に発生したさびを、高圧水を該鋼構造体に噴射して除去するさび除去方法であって、前記高圧水に、振動子または前記振動子から繋がる部品の加振により、周波数が1.0kHz〜200kHzの脈動を与えることを特徴とする鋼構造体のさび除去方法。
(2)前記高圧水の圧力が5MPa〜150MPaの範囲であることを特徴とする(1)に記載の鋼構造体のさび除去方法。
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、迅速な作業により、小さなピットあるいは孔中に存在するさびをも除去することが可能であり、その工業的意義は大きい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
先ず、本発明の技術思想について説明する。
【0013】
層状さびなどの厚い固着さびは非常に硬く、しかも鋼材に密着しているため、高圧水の噴射により除去するには、高圧水が鋼構造体へ衝突する際の衝撃力が十分に大きいことが必要である。従来から、高圧水の衝撃力の強化策として、噴射する水の高圧化や流量の増加がなされてきた。しかしながら、噴射する水の高圧化や流量の増加のためには、大型で高価なポンプを必要とするため設備コストが増加する。
【0014】
ノズルから噴出した高圧水は、ノズルからの距離に応じて連続流から液滴流に変化する。このノズルから出た直後の連続流領域の噴流は、平均圧力が高く標準偏差が小さい等の特長により、石材やコンクリート等を切断する際に用いられている。また、ノズルからの距離が100〜600mm程度の範囲である液滴流領域では、平均圧力が一定で比較的広範囲に広がり、液滴が衝撃的に鋼片等の被噴射体に当たる。高速水粒が液滴化して鋼片に衝突する際には、ウォーターハンマー効果により衝撃力が増加するため、連続流が衝突する場合より数倍以上の衝撃力となることが知られている。
【0015】
本発明者らは、数多くの実験を重ね、振動子により高圧水に高周波の脈動を付与することで、噴射された高圧水流の液滴化が促進され、ノズルからの距離が10〜400mmの範囲で均一に液滴化すること、さらに噴射される高圧水の吐出圧力や流量が一定の場合でも、脈動周波数を高くするほどさび除去能力が高くなることを見出した。
【0016】
高圧水に脈動を付与する方法は、大別して機械式と振動式の2つの方法がある。機械式では、高圧水の噴出口近くで水路を開閉する方法や、ピストン等を用いて配管やノズル内チャンバーの容積を変化させて脈動を与える方法がある。しかしながら、機械的な稼動により高圧水に上記のような高周波数の脈動を与える方法では、稼動部の耐久性に問題がある。一方、振動子により高圧水に脈動を与える方法では、機械的な稼動部が存在しないため耐久性が高い。さらに、機械式より容易に高周波の脈動を付与することが可能であるため、高圧水の液滴化が促進されてさび除去能力が向上する。特に、脈動の周波数が1.0kHz以上になると液滴化が均一に促進されると共に、高圧水の噴流エネルギーに高周波振動のエネルギーが付与されることにより、さらにさび除去能力が向上する。
【0017】
以下に、本発明における各条件の限定理由について説明する。
【0018】
高圧水の脈動の振動数を1.0kHz〜200kHzとしたのは、1.0kHz未満の脈動では高圧水の液滴化が十分ではなく、また、高周波振動のエネルギーも小さいため脈動の効果が十分に得られないからであり、200kHz以下としたのは、大面積の鋼構造体上に生成する固着さびを迅速に除去するのに必要な圧力及び流量の高圧水に、それ以上の周波数の脈動を付与することは現状の技術レベルでは困難だからである。さび除去能力の向上と振動子の耐久性向上の観点からは、高圧水の脈動の振動数は、10kHz〜50kHzの範囲がより好ましい。
【0019】
また、ノズルからの吐出圧力を5MPa〜150MPaとしたのは、吐出圧力が5MPa未満では、圧力が小さ過ぎるために、高圧水が液滴となるノズルと鋼構造体の距離が10〜400mmの範囲で脈動を付与してもさびを十分早く除去できない可能性があるためであり、150MPa以上の高圧水を噴射するには、設備が大型化してコストが上昇する問題があるためである。設備コストの観点からは、吐出圧力は5MPa〜70MPaの範囲であることがより好ましい。
【実施例1】
【0020】
以下に、本発明の実施例について説明するが、実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0021】
さび除去試験には、塩水散布を半年間行って厚さが約2mmの層状さびが生成された縦300mm、横600mmの耐候性鋼(JISG3114S)を試験材として用い、円形の穴から高圧水を噴射する1本のノズルから、上記試験材に高圧水を噴射してさびを除去した。上記ノズル先端から試験材までの距離が150mmであり、高圧水が試験材に垂直に照射されるようにノズルを固定し、直交するXおよびYの2方向に稼動するステージに固定された試験材を、高圧水の噴射領域を移動させながらさび除去試験を行った。高圧水の噴射により約15mmの幅のさびが除去されるため、X方向にステージを駆動させて高圧水の噴射によりさびを除去した後に、Y方向に15mm移動させ、再びX方向にステージを駆動させることを繰り返して試験材の全面のさびを除去した。X方向の駆動速度は、高圧水を照射した領域でISO8501−1Sa2.5相当の表面を得ることができる最大速度とした。高圧水への加振は、定格容量が2kVAで固有振動数が0.5kHz、2kHz、20kHzおよび100kHzの振動子を用いた。各高圧水の噴射条件において、各ノズルからの吐出圧力は10MPaおよび100MPaで、ノズル1本あたり30L/minである高圧水を噴射した。高圧水噴射条件が異なる各方法はさび除去速度で評価し、さび除去速度の評価は、ISO8501−1Sa2.5相当の表面を得るための作業時間を1m当たりで表した。さらに、比較例として、脈動なしで実験を行った。また、従来法の基準例として、特許文献1に示されている回転研削工具を用いて、表層のさびをISO8501−1Sa2.5相当の表面を得るまで除去した。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示すように、通常のウォーターブラストである脈動無しや、噴射する高圧水の脈動の周波数が本発明の範囲外である0.5kHzの場合に比べて、本発明の範囲である脈動の周波数が1.0kHz〜200kHzの範囲である場合、高圧水の液滴化が促進されて衝突の衝撃力が増加し、さび除去能力が著しく強化されて、さび除去に要する時間が短くなることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、各種金属による構造体のさび除去に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造体に発生したさびを、高圧水を該鋼構造体に噴射して除去するさび除去方法であって、
前記高圧水に、振動子または前記振動子から繋がる部品の加振により、周波数が1.0kHz〜200kHzの脈動を与えることを特徴とする鋼構造体のさび除去方法。
【請求項2】
前記高圧水の圧力が5MPa〜150MPaの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の鋼構造体のさび除去方法。

【公開番号】特開2010−247058(P2010−247058A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98567(P2009−98567)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】