鋼構造物の接合方法
【課題】特殊な高力ボルトを使用することなく汎用の高力ボルトを片面からの操作で接合部の孔に挿入して片面から締結できるようにする。
【解決手段】断面ボックス形状の弦材2の外面に当て板4を重ねるように配置して、弦材2に当て板4を接合するときに、弦材2の板材2aに、当て板4に設けた接合用のボルト挿通孔24を多数外側から形成すると共に、所要位置に拡大孔25を設ける。1つのボルト挿通孔24を通して弦材2内へ入れた引込み吊り具26Aの紐状部材を、外側から拡大孔25を通して弦材2内へ入れた治具引出し具26Bにより拡大孔25から引き出し、キャップ付き高力ボルト27を係止具に係止させる。引込み吊り具26Aを弦材2内から引き出すことによりキャップ付き高力ボルト27をボルト挿通孔24に内側から挿入させる。これにナット31を螺合させて締結させる。
【解決手段】断面ボックス形状の弦材2の外面に当て板4を重ねるように配置して、弦材2に当て板4を接合するときに、弦材2の板材2aに、当て板4に設けた接合用のボルト挿通孔24を多数外側から形成すると共に、所要位置に拡大孔25を設ける。1つのボルト挿通孔24を通して弦材2内へ入れた引込み吊り具26Aの紐状部材を、外側から拡大孔25を通して弦材2内へ入れた治具引出し具26Bにより拡大孔25から引き出し、キャップ付き高力ボルト27を係止具に係止させる。引込み吊り具26Aを弦材2内から引き出すことによりキャップ付き高力ボルト27をボルト挿通孔24に内側から挿入させる。これにナット31を螺合させて締結させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、トラス梁の弦材の如き箱形断面を有する鋼構造物の外側面に当て板をして補強するときに当て板の接合を片面から施工するような場合に用いる鋼構造物の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁等に用いられているトラス構造の梁は、図7に示す如く、上部の弦材1と、下部の弦材2と腹材3とから構成されている。
【0003】
近年、橋梁等の建造物の耐震性が問題とされ、耐震性向上を図る構造とすることが求められ、そのための補強工事が施されてきている。
【0004】
上記図7に示すようなトラス梁のうち、下部の弦材2についてみると、図7のC部拡大である図8、及び該図8のD−D断面である図9に示す如く、弦材2は、断面形状がボックス形状としてあり、図示してあるように、4つの各面の外側に当て板4をし、この当て板4を多数のボルト(主として高力ボルト)5で取り付けて補強することが行われている。
【0005】
上記ボックス断面形状の弦材2の補強を行う場合に、ボックス形の弦材2の内側に作業員が入るスペースがあれば、当て板4に予め設けてあるボルト挿通孔に合わせて現場で弦材2にボルト挿通孔を穿設した後、ボックスの内側にいる作業員がボルト5を弦材2のボルト挿通孔、当て板4のボルト挿通孔の順に通して、該ボルト5の先端を当て板4の外側へ突出させると、当て板4の外側にいる別の作業員がそのボルト5に座金を介してナットを螺合させて当て板4をボルト止めし、補強を行わせることが可能である。
【0006】
しかしながら、上記弦材2の内側に人が入れないような狭い状況の場合には、ボックスの内側からボルト5を外向きに通すことができないため、当て板4を弦材2の外側にボルト止めして補強を行う場合、当て板4のボルト挿通孔と弦材2のボルト挿通孔に外側からボルト5を挿入して弦材2の内側に係止させ、しかる後、当て板4の外側でナットを締め付けるという片面施工となる。
【0007】
このような片面施工の補強工事に用いられるようなボルトとしては、次のようなワンサイドボルトが提案されている。
【0008】
図10(イ)(ロ)は従来のワンサイドボルトの一例による片面施工方法を示すもので、角パイプ状の鋼管からなる鉄骨柱6とH型鋼からなる鉄骨梁7との接合部に、長孔8が設けてある。係止ボルト9は、上記長孔8に挿入できるようにボルト頭10を上記長孔8に対応する扁平形状とした構成としてある。係止ボルト9を、鉄骨梁7側からボルト頭10を長孔8に通して鉄骨柱6内に挿入させた後、該係止ボルト9を90度回転させて、長孔8が設けてある接合部にボルト頭10を係止させるようにし、しかる後、係止ボルト9に鉄骨梁7側からナット11を螺合させて締め付けることにより、鉄骨柱6と鉄骨梁7との接合部をボルト止めするようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0009】
図11(イ)(ロ)は従来の別のワンサイドボルトによる片面施工方法を示すもので、ヘッド部13aを有する軸部13b、螺子部13c、縮径部13d、ピンテール13eからなるコアピン(ボルト部材)13と、そのコアピン13に被嵌されるバルブスリーブ(拡径スリーブ)14、グリップスリーブ15、シェアワッシャー16及びベアリングワッシャー17と、コアピン13の螺子部13cに螺合するナット部材18とで構成されるワンサイドボルト12を用いるものである。図11(イ)に示す如く、コンクリート19に沿って取り付けられている板部材20に、別の板部材21を当てて補強する場合に、先ず、板部材20と21に形成された孔部22から、コンクリート19に形成された拡径された穴部23に、板部材21の外側から上記ワンサイドボルト12をヘッド部13aを先にして挿入する。次に、図11(ロ)に示す如く、専用の電動工具を使用して、外側からナット部材18を締結する。これによりコアピン13が引き上げられてバルブスリーブ14が、拡径された穴部23内で変形し、裏側の板部材20の裏面側にバルブ頭14aが形成され、更に締め付けが進むと、バルブ頭14aが裏側の板部材20に当り締め付け力が増すことから、シェアワッシャー16が剪断されて軸力導入が開始され、所定の軸力が出たところで縮径部13dからピンテール13eが破断され締結が完了するようにしたものである(たとえば、特許文献2参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平5−287807号公報
【特許文献2】特許第3840474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、図10に示すような片面施工に用いられているワンサイドボルトの場合は、係止ボルト9が高力ボルトではなく、締付力が弱く、図7乃至図8に示すような鋼構造物としての弦材の補強に用いるボルトとしては適用できないものである。
【0012】
又、接合部に長孔をあけなければならず、長孔をあけるのに多大な工数がかかること、係止ボルトのボルト頭を扁平させるという特殊なものであるため、製作費が嵩むこと、等の問題がある。
【0013】
一方、図11(イ)(ロ)に示すバルブスリーブ14を備えたワンサイドボルトの場合は、特殊なボルトとなるため、製作に多くの手数と費用を要するという問題のほかに、ナット部材による締結時に、バルブスリーブ14を変形させてバルブ頭14aを形成させるようにするものであるため、1次締めしてから100%の本締めをするという手順をとることができず、いきなり本締めとなるものである。そのため、古い板部材20に新しい板部材21を締め付けるとき、この2つの板部材20,21同士の肌隙きがあると、或る間
隔を置いた2個所で締め付けを行うときに、一方を本締めした後、他方を本締めするとき当該一方の締付部が緩んでくるという所定の軸力が入らないという問題があり、板部材同士の肌が合うように加工を施す必要がある。又、現場で古い板部材20に孔部を外側からドリル等で形成した場合に、板部材20の裏面側にバリが残ることがあり、このバリが残ると、バルブスリーブ14が変形してバルブ頭14aを形成し、このバルブ頭14aが板部材20の裏面に係止するときにバリのために密着できないことになり、所定の軸力が入らないこと、ナット部材18の締結に専用の電動工具が必要であること、バルブスリーブ14を変形させるものであるため、締結完了までに多くの時間を要すること、バルブスリーブ14が変形してバルブ頭14aが形成されるが、このバルブ頭14aは地金が剥き出しになることから、防錆上問題となること、等の問題がある。
【0014】
そこで、本発明は、かかる従来提案されているようなワンサイドボルトを用いているような種々の問題をなくすため、特殊ボルトとすることなく容易に接合部の内側から外側へボルトを挿入できて、1次締め→本締めの手順で締め付けることができ、且つバリの影響も受けることがなく、締付時間を短縮できるようなボルトを使用した鋼構造物の接合方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部を、片面からボルトを挿通させてボルト接合する鋼構造物の接合方法において、上記鋼構造物を構成する板材に、鋼製の板材を重ねて、両板材に複数のボルト挿通孔を穿設すると共に、両板材接合部の任意の位置に高力ボルトの頭部が通る大きさの拡大孔を設け、ボルト挿入用治具の引込み吊り具を上記適宜のボルト挿通孔に片面側から反対面側に挿入した後、上記ボルト挿入用治具の治具引出し具を片面側から上記拡大孔に通して上記引込み吊り具を拡大孔より片面側に引き出し、次いで、該引込み吊り具先端の係止具に、キャップ付き高力ボルトを連結支持させて該キャップ付き高力ボルトを拡大孔より挿入し、上記引込み吊り具をボルト挿通孔より片面側に引き出すことにより上記キャップ付き高力ボルトを上記ボルト挿通孔に裏側より挿入させて片面側から高力ボルトにナットを螺合させるようにして両板材の接合部を接合するようにし、最後に、上記拡大孔を閉塞するようにする鋼構造物の接合方法とする。
【0016】
又、上記方法において、鋼構造物を構成する板材を、断面がボックス形状をなす各面の板材とし、該各板材に鋼製の板材を重ね合わせて、各面の板材同士の接合部に複数のボルト挿通孔を設けると共に、1つの側面に拡大孔を設け、各面のボルト挿通孔に、ボルト挿入用治具を用いてキャップ付き高力ボルトをボックスの内側から挿入させるようにする方法とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1)鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部を、片面からボルトを挿通させてボルト接合する鋼構造物の接合方法において、上記鋼構造物を構成する板材に、鋼製の板材を重ねて、両板材に複数のボルト挿通孔を穿設すると共に、両板材接合部の任意の位置に高力ボルトの頭部が通る大きさの拡大孔を設け、ボルト挿入用治具の引込み吊り具を上記適宜のボルト挿通孔に片面側から反対面側に挿入した後、上記ボルト挿入用治具の治具引出し具を片面側から上記拡大孔に通して上記引込み吊り具を拡大孔より片面側に引き出し、次いで、該引込み吊り具先端の係止具に、キャップ付き高力ボルトを連結支持させて該キャップ付き高力ボルトを拡大孔より挿入し、上記引込み吊り具をボルト挿通孔より片面側に引き出すことにより上記キャップ付き高力ボルトを上記ボルト挿通孔に裏側より挿入させて片面側から高力ボルトにナットを螺合させるようにして両板材の接合部を接合するようにし、最後に、上記拡大孔を閉塞するようにするので、従来のような特殊な高力ボルトを使用する必要がなく、汎用の高力ボルトを使用して簡単に接合部の接合ができる。
(2)汎用の高力ボルトをそのまま使用して片面施工できるので、1次締めをしてから本締めをすることができて、接合部の板材同士に多少の肌隙きがあっても問題なく接合できると共に、短時間に締め付けることができる。
(3)又、高力ボルトのボルト頭を、接合部のボルト挿通孔の裏面側に押し当てるようにできるので、ボルト挿通孔を外側から形成するときに内側にバリが発生しても、ボルト挿通孔と高力ボルトの軸部との間でバリを吸収できることから、バリの影響を小さくすることができる。
(4)高力ボルトの頭は予め防錆処理をしておくことができるので、防錆上問題が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1乃至図5は、本発明の鋼構造物の接合方法の実施の一形態を示すもので、図7及び図9に示したトラス梁の補強対象となる鋼構造物としての弦材2の各面の板材2aに鋼製の板材としての当て板4を当ててボルト接合し補強するようにしてある場合と同様に、鋼構造物としてのボックス形状の弦材2の各面の板材2aに鋼製の当て板4を当て、ワンサイドから当て板4を弦材2の板材に接合して補強するものに適用するようにした場合を示す。
【0020】
すなわち、図1(イ)(ロ)に示す如く、断面がボックス形状をなし且つ内部空間に人が入り込めない大きさとしてある鋼構造物としての弦材2の各面の板材外側面に、予めボルトの頭より小さい複数個のボルト挿通孔24とボルトの頭より大きい拡大孔25が設けてある補強用の鋼製4板材としての当て板4を、弦材2の長手方向に沿わせて配置し仮止めする。
【0021】
次に、上記当て板4に設けてあるボルト挿通孔24を利用して弦材2の板材2aにドリル等で外側からボルト挿通孔24を穿設すると共に、拡大孔25に合わせて弦材2の一側面の板材2aに拡大孔25を穿設する。この拡大孔25は弦材2の長手方向に所要間隔を隔てて設けてあればよい。又、拡大孔25は、ボルト挿通孔24の1つを拡径して形成してもよく、図1(イ)(ロ)のように別途新規に設けるようにしてもよい。
【0022】
上記のように、弦材2の各外側面に当て板4が当てられて、ボルト挿通孔24と拡大孔25が設けられると、次に、ボルト挿入用治具26を用いてキャップ付き高力ボルト27を上記拡大孔25を通して弦材2の内部へ引き入れた後、キャップ付き高力ボルト27を1つのボルト挿通孔24に弦材2の内側から挿入させ、ボルト28の頭部28aを弦材2のボルト挿通孔24の裏面側に係止させるようにする。
【0023】
このようにして、当て板4の外側へ突出させられたキャップ付き高力ボルト27に外側から座金30、ナット31を取り付けるようにする。
【0024】
詳述すると、上記ボルト挿入用治具26は、図2に一例を示す如く、引込み吊り具26Aと、治具引出し具26Bとからなる構成としてある。引込み吊り具26Aは、所定の弾性を有する鋼線26aと、該鋼線26aの先端に結着して先端部にフック状の係止具26cを有する紐状部材26bとからなる構成としてあり、弦材2の外側からボルト挿通孔24に通して弦材2の内側へ挿入して紐状部材26bを拡大孔25の近傍に位置させることができるようにしてある。又、上記治具引出し具26Bは、先端の引掛け部26dを上記引込み吊り具26Aの紐状部材26bに引掛けて該紐状部材26b先端の係止部26cを弦材2の外側へ引き出すようにした構成としてあり、該治具引出し具26Bの先端に紐状部材26bを引掛けて、該紐状部材26bとともに係止具26cを拡大孔25から外側へ引き出すことにより、キャップ付き高力ボルト27のキャップ29を上記係止具26cに弦材2の外側で係止させて支持させることができるようにする。
【0025】
上記キャップ付き高力ボルト27は、汎用の高力ボルト28の先端側のチップ28bにキャップ29の筒状部29aを嵌着させた構成としてあり、キャップ29の外径は、その外側をナット31が余裕をもって嵌挿できるよう高力ボルト28のねじ付軸部の外径より小さいものとしてあり、該キャップ29の端部に設けられた引掛け孔32に上記係止具26cを掛けることにより、引込み吊り具26Aに吊り下げ支持されるようにしてある。
【0026】
上記キャップ29の筒状部29aの内径寸法D1と、高力ボルト28のチップ28bの凸状部の外径寸法D2と、該チップ28bの凹状部の外径寸法D3との関係は、D2>D1>D3となるようにしてあり、高力ボルト28のチップ28bにキャップ29の筒状部29aが十分な締付力で嵌着されるようにしてある。
【0027】
今、図1(イ)(ロ)に示す如く、現場にて弦材2に当て板4が当てられ且つ弦材2にボルト挿通孔24が設けられた状態において、本発明の鋼構造物の接合方法を実施しようとする場合は、先ず、最初に弦材2に当て板4を接合しようとする個所のボルト挿通孔24より鋼線26aと紐状部材26bとからなる引込み吊り具26Aを鋼線26aを把持した状態で弦材2内に挿入し、紐状部材26bが拡大孔25の近くへ達するように鋼線26aを操作する。
【0028】
次に、弦材2の外側から拡大孔25を通して弦材2内に挿入させた治具引出し具26Bの先端の引掛け部26dを上記紐状部材26bに引掛けて、該治具引出し具26Bにより紐状部材26bの先端部を拡大孔25から引き出す。次いで、拡大孔25から引き出された紐状部材26bの先端部の係止具26cに、高力ボルト28の先端にキャップ29が取り付けられた状態のキャップ付き高力ボルト27の該キャップ29先端の係止孔32を係止させると、上記引出し吊り具26Aの鋼線26aを片手で引きながら反対側の手でキャップ付き高力ボルト27を拡大孔25から弦材2内へ入れる。これにより弦材2の内部では引込み吊り具26Aにキャップ付き高力ボルト27が吊られた状態になる。
【0029】
この状態で鋼線26aをボルト挿通孔24より引き出すようにして、紐状部材26bも上記ボルト挿通孔24より引き出し、キャップ付き高力ボルト27のキャップ29側を先ずボルト挿通孔24に弦材2の内側(裏面側)から挿入させて、図1(ロ)に示す如くボルト挿通孔24にキャップ付き高力ボルト27を挿通させる。しかる後、たとえば、予め引込み吊り具26Aに嵌めておいた座金30とナット31を高力ボルト28に取り付け、該ナット31で締め付けるようにする。
【0030】
以後、上記と同様な操作を繰り返して拡大孔25から引き込ませたキャップ付き高力ボルト27を、別のボルト挿通孔24に内側より挿入させて先端側を弦材2の外側へ突出させるようにし、座金30とナット31で高力ボルト28を締め付けるようにする。
【0031】
上記において、キャップ付き高力ボルト27を各ボルト挿通孔24に内側から挿入してナット31で外側から締結させるようにするとき、各高力ボルト28の頭部28aの内側が各ボルト挿通孔24の内側(裏面側)に押し付けられるようにして締結させられるので、現場で弦材2にボルト挿通孔24を設けるときに、該ボルト挿通孔24の内側(裏面側)にバリが生じたとしても、このバリは高力ボルト28の締結時にボルト挿通孔24と高力ボルト軸部との隙間で吸収されるので、バリによる影響を小さくすることができる。
【0032】
又、各ボルト挿通孔24に高力ボルト28を通してナット31で締結することから、1次締め→本締めの手順での締結を行わせることができる。これにより、弦材2の外側面と補強用当て板4の内側面との間に多少の肌隙きがあっても支障なく、十分な締結を行わせることが可能となる。
【0033】
上記のようにして、すべてのボルト挿通孔24にキャップ付き高力ボルト27をボルト挿入用治具26を用いて挿入してナット31で締結することにより、弦材2への当て板4のすべての接合が終ると、最後に、拡大孔25の閉塞作業を行う。
【0034】
上記拡大孔25の閉塞作業は、該拡大孔25に対応する外径を有する樹脂製等の栓体を拡大孔25に嵌め込み、雨水等が漏れて弦材2内部へ浸入することがないように閉塞させるようにしてもよい。
【0035】
又、別の方法として、図4、図5に示す如く、高力ボルト又は六角ボルト(図の場合は高力ボルトとした場合を示している)33に斜めに嵌合できると共に水平状態でも嵌合できるようにした特殊な形状の孔34aを有すると共に、上記ボルト33に対して斜めにしたときに拡大孔25を通過できる大きさとしてあるほぼ楕円形状の座金34を用いるようにする。
【0036】
上記座金34を用いて拡大孔25を塞ぐ場合は、たとえば、上記拡大孔25の内径よりも小さい外径の頭部35を有する高力ボルト33に、座金34を嵌めて、図5に実線で示す如く座金34を斜めにした状態のまま該座金34と高力ボルト33を、拡大孔25に外側から弦材2の内側へ挿入する。斜めにした座金34がすべて拡大孔25より内側に挿入されると、次に、高力ボルト33を弦材2の外側へ引くようにする。これにより拡大孔25より内側に持ち込まれた座金34は弦材2の板材2aに沿わされるように姿勢が変えられる。これにより座金34は拡大孔25の内側(裏面側)に引掛かる。更に、高力ボルト33を外側へ引くことにより、図5に二点鎖線で示す如く座金34は弦材2の内側面に係止されることになる。この状態で、図5に二点鎖線で示す如く、通常の座金36を通した後、ナット37を高力ボルト33に螺合させ、このナット37を締めると、拡大孔25を内側の特殊な座金34と外側の座金36により気密性を保って閉塞することができる。
【0037】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、たとえば、引込み吊り具26Aで吊ったキャップ付き高力ボルト27をボルト挿通孔24に内側から挿入させたとき、上記引込み吊り具26Aに嵌めて用意しておいた座金30、ナット31をボルトに取り付けるようにする場合を示したが、キャップ付き高力ボルト27を吊った状態でボルト挿通孔24に内側から挿入したときに、キャップ29が嵌着させてあるチップ28aのところにある凹部を、クリップで一旦保持して、キャップ付き高力ボルト27の落下防止を図るようにしてから、座金30を嵌め、ナット31を螺合させるようにしてもよいこと、鋼構造物としてボックス形状の弦材について説明したが、鋼板同士の接合面に手を入れることができない状態で片面からボルト接合を行うものには、すべて適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得るようにしてもよいこと、等は勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の鋼構造物の接合方法の実施の一形態を示すもので、(イ)はキャップ付き高力ボルトを引き込む前の状態を示す概要図、(ロ)はキャップ付き高力ボルトを引き込んでボルト挿通孔に挿入した状態を示す概要図である。
【図2】図1(イ)に示したボルト挿入治具を示す概要図である。
【図3】キャップ付き高力ボルトについて示すもので、(イ)はキャップ付き高力ボルトの拡大側面図、(ロ)はキャップの側面図、(ハ)はボルトのチップの端面図である。
【図4】本発明において最後に拡大孔を閉塞するときに用いる座金を示すもので、(イ)は平面図、(ロ)は(イ)のA−A切断側面図である。
【図5】図4に示す座金を用いて拡大孔を閉塞する状態を示す切断側面図である。
【図6】図5のB−B矢視図である。
【図7】橋梁等で用いられているトラス梁の概略図である。
【図8】図7のC部の拡大図である。
【図9】図8のD−D拡大断面図である。
【図10】従来の鉄骨柱と鉄骨梁の接合部をワンサイドボルトで締結するようにした例を示すもので、(イ)はボルトを長孔に挿入した状態を示す図、(ロ)はボルトを90度回転させてナットで締結する状態を示す図である。
【図11】従来の別のワンサイドボルトにより板部材に板部材を接合する例を示すもので、(イ)は締結前の状態図、(ロ)は締結後の状態図である。
【符号の説明】
【0039】
2 弦材
2a 板材
4 当て板(板材)
24 ボルト挿通孔
25 拡大孔
26 ボルト挿入用治具
26A 引込み吊り具
26B 治具引出し具
26a 鋼線
26b 紐状部材
26c 係止具
27 キャップ付き高力ボルト
28 高力ボルト
29 キャップ
31 ナット
33 ボルト
34 座金
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば、トラス梁の弦材の如き箱形断面を有する鋼構造物の外側面に当て板をして補強するときに当て板の接合を片面から施工するような場合に用いる鋼構造物の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁等に用いられているトラス構造の梁は、図7に示す如く、上部の弦材1と、下部の弦材2と腹材3とから構成されている。
【0003】
近年、橋梁等の建造物の耐震性が問題とされ、耐震性向上を図る構造とすることが求められ、そのための補強工事が施されてきている。
【0004】
上記図7に示すようなトラス梁のうち、下部の弦材2についてみると、図7のC部拡大である図8、及び該図8のD−D断面である図9に示す如く、弦材2は、断面形状がボックス形状としてあり、図示してあるように、4つの各面の外側に当て板4をし、この当て板4を多数のボルト(主として高力ボルト)5で取り付けて補強することが行われている。
【0005】
上記ボックス断面形状の弦材2の補強を行う場合に、ボックス形の弦材2の内側に作業員が入るスペースがあれば、当て板4に予め設けてあるボルト挿通孔に合わせて現場で弦材2にボルト挿通孔を穿設した後、ボックスの内側にいる作業員がボルト5を弦材2のボルト挿通孔、当て板4のボルト挿通孔の順に通して、該ボルト5の先端を当て板4の外側へ突出させると、当て板4の外側にいる別の作業員がそのボルト5に座金を介してナットを螺合させて当て板4をボルト止めし、補強を行わせることが可能である。
【0006】
しかしながら、上記弦材2の内側に人が入れないような狭い状況の場合には、ボックスの内側からボルト5を外向きに通すことができないため、当て板4を弦材2の外側にボルト止めして補強を行う場合、当て板4のボルト挿通孔と弦材2のボルト挿通孔に外側からボルト5を挿入して弦材2の内側に係止させ、しかる後、当て板4の外側でナットを締め付けるという片面施工となる。
【0007】
このような片面施工の補強工事に用いられるようなボルトとしては、次のようなワンサイドボルトが提案されている。
【0008】
図10(イ)(ロ)は従来のワンサイドボルトの一例による片面施工方法を示すもので、角パイプ状の鋼管からなる鉄骨柱6とH型鋼からなる鉄骨梁7との接合部に、長孔8が設けてある。係止ボルト9は、上記長孔8に挿入できるようにボルト頭10を上記長孔8に対応する扁平形状とした構成としてある。係止ボルト9を、鉄骨梁7側からボルト頭10を長孔8に通して鉄骨柱6内に挿入させた後、該係止ボルト9を90度回転させて、長孔8が設けてある接合部にボルト頭10を係止させるようにし、しかる後、係止ボルト9に鉄骨梁7側からナット11を螺合させて締め付けることにより、鉄骨柱6と鉄骨梁7との接合部をボルト止めするようにしてある(たとえば、特許文献1参照)。
【0009】
図11(イ)(ロ)は従来の別のワンサイドボルトによる片面施工方法を示すもので、ヘッド部13aを有する軸部13b、螺子部13c、縮径部13d、ピンテール13eからなるコアピン(ボルト部材)13と、そのコアピン13に被嵌されるバルブスリーブ(拡径スリーブ)14、グリップスリーブ15、シェアワッシャー16及びベアリングワッシャー17と、コアピン13の螺子部13cに螺合するナット部材18とで構成されるワンサイドボルト12を用いるものである。図11(イ)に示す如く、コンクリート19に沿って取り付けられている板部材20に、別の板部材21を当てて補強する場合に、先ず、板部材20と21に形成された孔部22から、コンクリート19に形成された拡径された穴部23に、板部材21の外側から上記ワンサイドボルト12をヘッド部13aを先にして挿入する。次に、図11(ロ)に示す如く、専用の電動工具を使用して、外側からナット部材18を締結する。これによりコアピン13が引き上げられてバルブスリーブ14が、拡径された穴部23内で変形し、裏側の板部材20の裏面側にバルブ頭14aが形成され、更に締め付けが進むと、バルブ頭14aが裏側の板部材20に当り締め付け力が増すことから、シェアワッシャー16が剪断されて軸力導入が開始され、所定の軸力が出たところで縮径部13dからピンテール13eが破断され締結が完了するようにしたものである(たとえば、特許文献2参照)。
【0010】
【特許文献1】特開平5−287807号公報
【特許文献2】特許第3840474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、図10に示すような片面施工に用いられているワンサイドボルトの場合は、係止ボルト9が高力ボルトではなく、締付力が弱く、図7乃至図8に示すような鋼構造物としての弦材の補強に用いるボルトとしては適用できないものである。
【0012】
又、接合部に長孔をあけなければならず、長孔をあけるのに多大な工数がかかること、係止ボルトのボルト頭を扁平させるという特殊なものであるため、製作費が嵩むこと、等の問題がある。
【0013】
一方、図11(イ)(ロ)に示すバルブスリーブ14を備えたワンサイドボルトの場合は、特殊なボルトとなるため、製作に多くの手数と費用を要するという問題のほかに、ナット部材による締結時に、バルブスリーブ14を変形させてバルブ頭14aを形成させるようにするものであるため、1次締めしてから100%の本締めをするという手順をとることができず、いきなり本締めとなるものである。そのため、古い板部材20に新しい板部材21を締め付けるとき、この2つの板部材20,21同士の肌隙きがあると、或る間
隔を置いた2個所で締め付けを行うときに、一方を本締めした後、他方を本締めするとき当該一方の締付部が緩んでくるという所定の軸力が入らないという問題があり、板部材同士の肌が合うように加工を施す必要がある。又、現場で古い板部材20に孔部を外側からドリル等で形成した場合に、板部材20の裏面側にバリが残ることがあり、このバリが残ると、バルブスリーブ14が変形してバルブ頭14aを形成し、このバルブ頭14aが板部材20の裏面に係止するときにバリのために密着できないことになり、所定の軸力が入らないこと、ナット部材18の締結に専用の電動工具が必要であること、バルブスリーブ14を変形させるものであるため、締結完了までに多くの時間を要すること、バルブスリーブ14が変形してバルブ頭14aが形成されるが、このバルブ頭14aは地金が剥き出しになることから、防錆上問題となること、等の問題がある。
【0014】
そこで、本発明は、かかる従来提案されているようなワンサイドボルトを用いているような種々の問題をなくすため、特殊ボルトとすることなく容易に接合部の内側から外側へボルトを挿入できて、1次締め→本締めの手順で締め付けることができ、且つバリの影響も受けることがなく、締付時間を短縮できるようなボルトを使用した鋼構造物の接合方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するために、鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部を、片面からボルトを挿通させてボルト接合する鋼構造物の接合方法において、上記鋼構造物を構成する板材に、鋼製の板材を重ねて、両板材に複数のボルト挿通孔を穿設すると共に、両板材接合部の任意の位置に高力ボルトの頭部が通る大きさの拡大孔を設け、ボルト挿入用治具の引込み吊り具を上記適宜のボルト挿通孔に片面側から反対面側に挿入した後、上記ボルト挿入用治具の治具引出し具を片面側から上記拡大孔に通して上記引込み吊り具を拡大孔より片面側に引き出し、次いで、該引込み吊り具先端の係止具に、キャップ付き高力ボルトを連結支持させて該キャップ付き高力ボルトを拡大孔より挿入し、上記引込み吊り具をボルト挿通孔より片面側に引き出すことにより上記キャップ付き高力ボルトを上記ボルト挿通孔に裏側より挿入させて片面側から高力ボルトにナットを螺合させるようにして両板材の接合部を接合するようにし、最後に、上記拡大孔を閉塞するようにする鋼構造物の接合方法とする。
【0016】
又、上記方法において、鋼構造物を構成する板材を、断面がボックス形状をなす各面の板材とし、該各板材に鋼製の板材を重ね合わせて、各面の板材同士の接合部に複数のボルト挿通孔を設けると共に、1つの側面に拡大孔を設け、各面のボルト挿通孔に、ボルト挿入用治具を用いてキャップ付き高力ボルトをボックスの内側から挿入させるようにする方法とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の如き優れた効果を発揮する。
(1)鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部を、片面からボルトを挿通させてボルト接合する鋼構造物の接合方法において、上記鋼構造物を構成する板材に、鋼製の板材を重ねて、両板材に複数のボルト挿通孔を穿設すると共に、両板材接合部の任意の位置に高力ボルトの頭部が通る大きさの拡大孔を設け、ボルト挿入用治具の引込み吊り具を上記適宜のボルト挿通孔に片面側から反対面側に挿入した後、上記ボルト挿入用治具の治具引出し具を片面側から上記拡大孔に通して上記引込み吊り具を拡大孔より片面側に引き出し、次いで、該引込み吊り具先端の係止具に、キャップ付き高力ボルトを連結支持させて該キャップ付き高力ボルトを拡大孔より挿入し、上記引込み吊り具をボルト挿通孔より片面側に引き出すことにより上記キャップ付き高力ボルトを上記ボルト挿通孔に裏側より挿入させて片面側から高力ボルトにナットを螺合させるようにして両板材の接合部を接合するようにし、最後に、上記拡大孔を閉塞するようにするので、従来のような特殊な高力ボルトを使用する必要がなく、汎用の高力ボルトを使用して簡単に接合部の接合ができる。
(2)汎用の高力ボルトをそのまま使用して片面施工できるので、1次締めをしてから本締めをすることができて、接合部の板材同士に多少の肌隙きがあっても問題なく接合できると共に、短時間に締め付けることができる。
(3)又、高力ボルトのボルト頭を、接合部のボルト挿通孔の裏面側に押し当てるようにできるので、ボルト挿通孔を外側から形成するときに内側にバリが発生しても、ボルト挿通孔と高力ボルトの軸部との間でバリを吸収できることから、バリの影響を小さくすることができる。
(4)高力ボルトの頭は予め防錆処理をしておくことができるので、防錆上問題が少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面を参照して説明する。
【0019】
図1乃至図5は、本発明の鋼構造物の接合方法の実施の一形態を示すもので、図7及び図9に示したトラス梁の補強対象となる鋼構造物としての弦材2の各面の板材2aに鋼製の板材としての当て板4を当ててボルト接合し補強するようにしてある場合と同様に、鋼構造物としてのボックス形状の弦材2の各面の板材2aに鋼製の当て板4を当て、ワンサイドから当て板4を弦材2の板材に接合して補強するものに適用するようにした場合を示す。
【0020】
すなわち、図1(イ)(ロ)に示す如く、断面がボックス形状をなし且つ内部空間に人が入り込めない大きさとしてある鋼構造物としての弦材2の各面の板材外側面に、予めボルトの頭より小さい複数個のボルト挿通孔24とボルトの頭より大きい拡大孔25が設けてある補強用の鋼製4板材としての当て板4を、弦材2の長手方向に沿わせて配置し仮止めする。
【0021】
次に、上記当て板4に設けてあるボルト挿通孔24を利用して弦材2の板材2aにドリル等で外側からボルト挿通孔24を穿設すると共に、拡大孔25に合わせて弦材2の一側面の板材2aに拡大孔25を穿設する。この拡大孔25は弦材2の長手方向に所要間隔を隔てて設けてあればよい。又、拡大孔25は、ボルト挿通孔24の1つを拡径して形成してもよく、図1(イ)(ロ)のように別途新規に設けるようにしてもよい。
【0022】
上記のように、弦材2の各外側面に当て板4が当てられて、ボルト挿通孔24と拡大孔25が設けられると、次に、ボルト挿入用治具26を用いてキャップ付き高力ボルト27を上記拡大孔25を通して弦材2の内部へ引き入れた後、キャップ付き高力ボルト27を1つのボルト挿通孔24に弦材2の内側から挿入させ、ボルト28の頭部28aを弦材2のボルト挿通孔24の裏面側に係止させるようにする。
【0023】
このようにして、当て板4の外側へ突出させられたキャップ付き高力ボルト27に外側から座金30、ナット31を取り付けるようにする。
【0024】
詳述すると、上記ボルト挿入用治具26は、図2に一例を示す如く、引込み吊り具26Aと、治具引出し具26Bとからなる構成としてある。引込み吊り具26Aは、所定の弾性を有する鋼線26aと、該鋼線26aの先端に結着して先端部にフック状の係止具26cを有する紐状部材26bとからなる構成としてあり、弦材2の外側からボルト挿通孔24に通して弦材2の内側へ挿入して紐状部材26bを拡大孔25の近傍に位置させることができるようにしてある。又、上記治具引出し具26Bは、先端の引掛け部26dを上記引込み吊り具26Aの紐状部材26bに引掛けて該紐状部材26b先端の係止部26cを弦材2の外側へ引き出すようにした構成としてあり、該治具引出し具26Bの先端に紐状部材26bを引掛けて、該紐状部材26bとともに係止具26cを拡大孔25から外側へ引き出すことにより、キャップ付き高力ボルト27のキャップ29を上記係止具26cに弦材2の外側で係止させて支持させることができるようにする。
【0025】
上記キャップ付き高力ボルト27は、汎用の高力ボルト28の先端側のチップ28bにキャップ29の筒状部29aを嵌着させた構成としてあり、キャップ29の外径は、その外側をナット31が余裕をもって嵌挿できるよう高力ボルト28のねじ付軸部の外径より小さいものとしてあり、該キャップ29の端部に設けられた引掛け孔32に上記係止具26cを掛けることにより、引込み吊り具26Aに吊り下げ支持されるようにしてある。
【0026】
上記キャップ29の筒状部29aの内径寸法D1と、高力ボルト28のチップ28bの凸状部の外径寸法D2と、該チップ28bの凹状部の外径寸法D3との関係は、D2>D1>D3となるようにしてあり、高力ボルト28のチップ28bにキャップ29の筒状部29aが十分な締付力で嵌着されるようにしてある。
【0027】
今、図1(イ)(ロ)に示す如く、現場にて弦材2に当て板4が当てられ且つ弦材2にボルト挿通孔24が設けられた状態において、本発明の鋼構造物の接合方法を実施しようとする場合は、先ず、最初に弦材2に当て板4を接合しようとする個所のボルト挿通孔24より鋼線26aと紐状部材26bとからなる引込み吊り具26Aを鋼線26aを把持した状態で弦材2内に挿入し、紐状部材26bが拡大孔25の近くへ達するように鋼線26aを操作する。
【0028】
次に、弦材2の外側から拡大孔25を通して弦材2内に挿入させた治具引出し具26Bの先端の引掛け部26dを上記紐状部材26bに引掛けて、該治具引出し具26Bにより紐状部材26bの先端部を拡大孔25から引き出す。次いで、拡大孔25から引き出された紐状部材26bの先端部の係止具26cに、高力ボルト28の先端にキャップ29が取り付けられた状態のキャップ付き高力ボルト27の該キャップ29先端の係止孔32を係止させると、上記引出し吊り具26Aの鋼線26aを片手で引きながら反対側の手でキャップ付き高力ボルト27を拡大孔25から弦材2内へ入れる。これにより弦材2の内部では引込み吊り具26Aにキャップ付き高力ボルト27が吊られた状態になる。
【0029】
この状態で鋼線26aをボルト挿通孔24より引き出すようにして、紐状部材26bも上記ボルト挿通孔24より引き出し、キャップ付き高力ボルト27のキャップ29側を先ずボルト挿通孔24に弦材2の内側(裏面側)から挿入させて、図1(ロ)に示す如くボルト挿通孔24にキャップ付き高力ボルト27を挿通させる。しかる後、たとえば、予め引込み吊り具26Aに嵌めておいた座金30とナット31を高力ボルト28に取り付け、該ナット31で締め付けるようにする。
【0030】
以後、上記と同様な操作を繰り返して拡大孔25から引き込ませたキャップ付き高力ボルト27を、別のボルト挿通孔24に内側より挿入させて先端側を弦材2の外側へ突出させるようにし、座金30とナット31で高力ボルト28を締め付けるようにする。
【0031】
上記において、キャップ付き高力ボルト27を各ボルト挿通孔24に内側から挿入してナット31で外側から締結させるようにするとき、各高力ボルト28の頭部28aの内側が各ボルト挿通孔24の内側(裏面側)に押し付けられるようにして締結させられるので、現場で弦材2にボルト挿通孔24を設けるときに、該ボルト挿通孔24の内側(裏面側)にバリが生じたとしても、このバリは高力ボルト28の締結時にボルト挿通孔24と高力ボルト軸部との隙間で吸収されるので、バリによる影響を小さくすることができる。
【0032】
又、各ボルト挿通孔24に高力ボルト28を通してナット31で締結することから、1次締め→本締めの手順での締結を行わせることができる。これにより、弦材2の外側面と補強用当て板4の内側面との間に多少の肌隙きがあっても支障なく、十分な締結を行わせることが可能となる。
【0033】
上記のようにして、すべてのボルト挿通孔24にキャップ付き高力ボルト27をボルト挿入用治具26を用いて挿入してナット31で締結することにより、弦材2への当て板4のすべての接合が終ると、最後に、拡大孔25の閉塞作業を行う。
【0034】
上記拡大孔25の閉塞作業は、該拡大孔25に対応する外径を有する樹脂製等の栓体を拡大孔25に嵌め込み、雨水等が漏れて弦材2内部へ浸入することがないように閉塞させるようにしてもよい。
【0035】
又、別の方法として、図4、図5に示す如く、高力ボルト又は六角ボルト(図の場合は高力ボルトとした場合を示している)33に斜めに嵌合できると共に水平状態でも嵌合できるようにした特殊な形状の孔34aを有すると共に、上記ボルト33に対して斜めにしたときに拡大孔25を通過できる大きさとしてあるほぼ楕円形状の座金34を用いるようにする。
【0036】
上記座金34を用いて拡大孔25を塞ぐ場合は、たとえば、上記拡大孔25の内径よりも小さい外径の頭部35を有する高力ボルト33に、座金34を嵌めて、図5に実線で示す如く座金34を斜めにした状態のまま該座金34と高力ボルト33を、拡大孔25に外側から弦材2の内側へ挿入する。斜めにした座金34がすべて拡大孔25より内側に挿入されると、次に、高力ボルト33を弦材2の外側へ引くようにする。これにより拡大孔25より内側に持ち込まれた座金34は弦材2の板材2aに沿わされるように姿勢が変えられる。これにより座金34は拡大孔25の内側(裏面側)に引掛かる。更に、高力ボルト33を外側へ引くことにより、図5に二点鎖線で示す如く座金34は弦材2の内側面に係止されることになる。この状態で、図5に二点鎖線で示す如く、通常の座金36を通した後、ナット37を高力ボルト33に螺合させ、このナット37を締めると、拡大孔25を内側の特殊な座金34と外側の座金36により気密性を保って閉塞することができる。
【0037】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、たとえば、引込み吊り具26Aで吊ったキャップ付き高力ボルト27をボルト挿通孔24に内側から挿入させたとき、上記引込み吊り具26Aに嵌めて用意しておいた座金30、ナット31をボルトに取り付けるようにする場合を示したが、キャップ付き高力ボルト27を吊った状態でボルト挿通孔24に内側から挿入したときに、キャップ29が嵌着させてあるチップ28aのところにある凹部を、クリップで一旦保持して、キャップ付き高力ボルト27の落下防止を図るようにしてから、座金30を嵌め、ナット31を螺合させるようにしてもよいこと、鋼構造物としてボックス形状の弦材について説明したが、鋼板同士の接合面に手を入れることができない状態で片面からボルト接合を行うものには、すべて適用できること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得るようにしてもよいこと、等は勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の鋼構造物の接合方法の実施の一形態を示すもので、(イ)はキャップ付き高力ボルトを引き込む前の状態を示す概要図、(ロ)はキャップ付き高力ボルトを引き込んでボルト挿通孔に挿入した状態を示す概要図である。
【図2】図1(イ)に示したボルト挿入治具を示す概要図である。
【図3】キャップ付き高力ボルトについて示すもので、(イ)はキャップ付き高力ボルトの拡大側面図、(ロ)はキャップの側面図、(ハ)はボルトのチップの端面図である。
【図4】本発明において最後に拡大孔を閉塞するときに用いる座金を示すもので、(イ)は平面図、(ロ)は(イ)のA−A切断側面図である。
【図5】図4に示す座金を用いて拡大孔を閉塞する状態を示す切断側面図である。
【図6】図5のB−B矢視図である。
【図7】橋梁等で用いられているトラス梁の概略図である。
【図8】図7のC部の拡大図である。
【図9】図8のD−D拡大断面図である。
【図10】従来の鉄骨柱と鉄骨梁の接合部をワンサイドボルトで締結するようにした例を示すもので、(イ)はボルトを長孔に挿入した状態を示す図、(ロ)はボルトを90度回転させてナットで締結する状態を示す図である。
【図11】従来の別のワンサイドボルトにより板部材に板部材を接合する例を示すもので、(イ)は締結前の状態図、(ロ)は締結後の状態図である。
【符号の説明】
【0039】
2 弦材
2a 板材
4 当て板(板材)
24 ボルト挿通孔
25 拡大孔
26 ボルト挿入用治具
26A 引込み吊り具
26B 治具引出し具
26a 鋼線
26b 紐状部材
26c 係止具
27 キャップ付き高力ボルト
28 高力ボルト
29 キャップ
31 ナット
33 ボルト
34 座金
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部を、片面からボルトを挿通させてボルト接合する鋼構造物の接合方法において、上記鋼構造物を構成する板材に、鋼製の板材を重ねて、両板材に複数のボルト挿通孔を穿設すると共に、両板材接合部の任意の位置に高力ボルトの頭部が通る大きさの拡大孔を設け、ボルト挿入用治具の引込み吊り具を上記適宜のボルト挿通孔に片面側から反対面側に挿入した後、上記ボルト挿入用治具の治具引出し具を片面側から上記拡大孔に通して上記引込み吊り具を拡大孔より片面側に引き出し、次いで、該引込み吊り具先端の係止具に、キャップ付き高力ボルトを連結支持させて該キャップ付き高力ボルトを拡大孔より挿入し、上記引込み吊り具をボルト挿通孔より片面側に引き出すことにより上記キャップ付き高力ボルトを上記ボルト挿通孔に裏側より挿入させて片面側から高力ボルトにナットを螺合させるようにして両板材の接合部を接合するようにし、最後に、上記拡大孔を閉塞することを特徴とする鋼構造物の接合方法。
【請求項2】
鋼構造物を構成する板材を、断面がボックス形状をなす各面の板材とし、該各板材に鋼製の板材を重ね合わせて、各面の板材同士の接合部に複数のボルト挿通孔を設けると共に、1つの側面に拡大孔を設け、各面のボルト挿通孔に、ボルト挿入用治具を用いてキャップ付き高力ボルトをボックスの内側から挿入させるようにする請求項1記載の鋼構造物の接合方法。
【請求項1】
鋼構造物を構成する板材に鋼製の板材を重ねて接合する接合部を、片面からボルトを挿通させてボルト接合する鋼構造物の接合方法において、上記鋼構造物を構成する板材に、鋼製の板材を重ねて、両板材に複数のボルト挿通孔を穿設すると共に、両板材接合部の任意の位置に高力ボルトの頭部が通る大きさの拡大孔を設け、ボルト挿入用治具の引込み吊り具を上記適宜のボルト挿通孔に片面側から反対面側に挿入した後、上記ボルト挿入用治具の治具引出し具を片面側から上記拡大孔に通して上記引込み吊り具を拡大孔より片面側に引き出し、次いで、該引込み吊り具先端の係止具に、キャップ付き高力ボルトを連結支持させて該キャップ付き高力ボルトを拡大孔より挿入し、上記引込み吊り具をボルト挿通孔より片面側に引き出すことにより上記キャップ付き高力ボルトを上記ボルト挿通孔に裏側より挿入させて片面側から高力ボルトにナットを螺合させるようにして両板材の接合部を接合するようにし、最後に、上記拡大孔を閉塞することを特徴とする鋼構造物の接合方法。
【請求項2】
鋼構造物を構成する板材を、断面がボックス形状をなす各面の板材とし、該各板材に鋼製の板材を重ね合わせて、各面の板材同士の接合部に複数のボルト挿通孔を設けると共に、1つの側面に拡大孔を設け、各面のボルト挿通孔に、ボルト挿入用治具を用いてキャップ付き高力ボルトをボックスの内側から挿入させるようにする請求項1記載の鋼構造物の接合方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−47943(P2010−47943A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212143(P2008−212143)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]