説明

鋼管のプレス加工方法

【課題】高い潤滑特性を得ることができ、加工油やポリエチレンシートを使用することなく、効率的なプレス作業を実現することができる鋼管のプレス加工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
旋削加工及びサンドブラスト処理が施された金型の表面に、ダイアモンドライクカーボンからなる膜厚3〜10μmのコーティングを施した摩擦係数0.1〜0.3の金型を用いて、溶融亜鉛メッキ鋼管の管端を冷間プレスして拡管または縮管し、好ましくは、前記旋削加工が施された金型の表面粗さは、最大高さRzがダイアモンドライクカーボンの膜厚の0.4〜1.0倍とすることを特徴とする鋼管のプレス加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管のプレス加工方法に関する。具体的には、例えば街灯、信号などに用いる円形鋼管を使用した鋼管ポールに用いる鋼管のプレス加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、従来の鋼管のプレス加工方法を例示する図である。従来の方法では、成型品(製品)に無処理の鋼管1aを用い、この鋼管1aの内側に、例えば鉱物系で添加剤無しの加工油2を塗布し、ポリエチレンシート3を緩衝材として挟み込む。金型4には、例えば鉱物系で添加剤無しの加工油5aを塗布し、十分な潤滑作用を得る。プレス加工は鋼管側を固定し、テーパー構造を持った金型4を鋼管内部に挿入して行きながら押し広げて、拡管加工する。
【0003】
このとき、緩衝材として挟んだポリエチレンシート3により、鋼管1aと金型4とのメタルタッチを抑制することができ、低荷重でプレス加工を行うことができる。プレス完了後は、鋼管1aと金型4を専用のエジェクターにて引き離し、加工油2、5a、ポリエチレンシート3の除去を行う。その後、金型に付着した鋼管1の黒皮、加工油、ポリエチレンシートの切れ端を丁寧に拭き取って金型4を清浄にし、次の製品の加工へと移る。なお、鋼管1aを縮管する場合には、金型4を凹状のものを使用する。
【0004】
しかし、この従来の鋼管のプレス加工方法は下記のような問題点があった。まず、加工油の塗布、ポリエチレンシートの挿入、金型清掃等に時間がかかり、1本当たりの作業時間が長い。また、鉱物系のプレス加工油を用いるので、設備内および設備周辺が汚く、異臭が発生する。また、製品の鋼管直径が小さいため、加工油が鋼管内部に溜まって凝着するため、製品に付着した油を取り除くのが困難でである。また、厳しい加工条件の場合には、ポリエチレンシートが切れてしまい、メタルタッチが生じて成型荷重が著しく上昇する原因となる。
【0005】
固体潤滑性を有する金型などの工具に関しては従来から種々の提案があり、例えば、特開2009−167488号公報(下記特許文献1)には、Cr及びAl、Si、Y、Bから選択される一種以上の元素と、C、Nから選択される一種以上の元素とによって構成される単層または2種類以上の積層化合物皮膜の上に、当該積層化合物皮膜の構成元素であるCr及びAl、Si、Y、Bから選択される一種以上の元素の酸化物被膜によって構成される固体潤滑性や非親和性を有する複合耐摩耗性硬質皮膜及び皮膜付き物品が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたような、固体潤滑性を有する金型を使用するだけでは高い潤滑特性を得ることができず加工油やポリエチレンシートの使用を避けることができないため、プレス作業に長時間かかるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−167488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述のような従来技術の問題点を解決し、高い潤滑特性を得ることができ、加工油やポリエチレンシートを使用することなく、効率的なプレス作業を実現することができる鋼管のプレス加工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題を解決するために、鋭意検討の結果なされたものであり、その要旨とするところは特許請求の範囲に記載した通りの下記内容である。
(1)旋削加工及びサンドブラスト処理が施された金型の表面に、ダイアモンドライクカーボンからなる膜厚3〜10μmのコーティングを施した摩擦係数0.1〜0.3の金型を用いて、溶融亜鉛メッキ鋼管の管端を冷間プレスして拡管または縮管することを特徴とする鋼管のプレス加工方法。
(2)前記旋削加工が施された金型の表面粗さは、最大高さRzがダイアモンドライクカーボンの膜厚の0.4〜1.0倍とすることを特徴とする(1)に記載の鋼管のプレス加工方法。
【0010】
<作用>
(1)の発明の鋼管のプレス加工方法によれば、ダイアモンドライクカーボン処理を施した摩擦係数0.1〜0.3の金型を用いて、溶融亜鉛メッキ鋼管の管端を冷間プレスして拡管または縮管するため、高い潤滑特性を得ることができ、加工油やポリエチレンシートを使用することなく、効率的なプレス作業を実現することができる鋼管のプレス加工方法を提供することができる。
(2)の発明の鋼管のプレス加工方法によれば、旋削加工が施された金型の表面粗さを、最大高さRzをダイアモンドライクカーボンの膜厚の0.4〜1.0倍とすることにより、金型表面とダイアモンドライクカーボン膜との密着力を高めることができるので、加工中にダイアモンドライクカーボン膜が金型から剥離することを防止できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い潤滑特性を得ることができ、加工油やポリエチレンシートを使用することなく、効率的なプレス作業を実現することができるうえ、金型表面とダイアモンドライクカーボン膜との密着力を高めることができるので、加工中にダイアモンドライクカーボン膜が金型から剥離することを防止できる鋼管のプレス加工方法を提供することができ、産業上有用な著しい効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の鋼管のプレス加工方法を例示する図である。
【図2】本発明の鋼管のプレス加工方法の実施形態を例示する図である。
【図3】本発明の鋼管のプレス加工方法に用いる金型の表面性状を例示する図である。
【図4】本発明の鋼管のプレス加工方法に用いる金型の表面性状を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明を実施するための形態について、図2を用いて詳細に説明する。図1は、従来の鋼管のプレス加工方法を例示する図である。図2において、1a は鋼管、1b は溶融亜鉛メッキ鋼管、4は金型、5bはダイアモンドライクカーボン皮膜を示す。
【0014】
本発明の鋼管のプレス加工方法では、成型品(製品)に溶融亜鉛メッキ鋼管1bを用いる。溶融亜鉛メッキ鋼管1bは、鋼管を高温で溶けた亜鉛の中に浸漬して付着させる方法、もしくは、めっき槽に鋼管を浸けて、電気を介して亜鉛をめっきする方法によりメッキした鋼管をいう。また、金型4の表面にはダイアモンドライクカーボン(Diamond Like Carbon:以下DLCと云う)によるコーティング処理が施してある。ここに、DLC処理とは、CVD、PVD、レーザーなどを用いて金型の表面にアモルファス構造のカーボン皮膜を形成する処理をいう。
【0015】
プレス加工は、従来方法と同様に鋼管側を固定し、テーパー構造を持った金型4を鋼管内部に挿入して行きながら押し広げて、拡管加工する。金型の寸法および構造は従来のものと同様でよい。
【0016】
本発明においては、加工油(潤滑剤)及びポリエチレンシート(緩衝材)は全く用いる必要がなく、黒皮の鋼管より摩擦係数の低い溶融亜鉛メッキ鋼管1bと、摩擦係数が0.1〜0.3と低いダイアモンドライクコーティング処理を施した金型を採用することにより、固体潤滑作用を利用した低荷重での成型を実現することができる。
【0017】
プレス完了後は、鋼管1bと金型4を専用のエジェクターにて引き離し、鋼管1bと金型4を軽く乾拭きし、次の製品の加工へと移る。なお、鋼管1bを縮管する場合には、金型4を凹状のものを使用する。
【0018】
この方法により、下記のような効果を奏する。まず、従来のような加工油やポリエチレンシートを使用しないため、加工油の塗布やポリエチレンシートの挿入作業が不要なのでプレス作業時間を著しく短縮することができるうえ、加工後の清掃作業も軽減できるため、設備内や設備周辺を清浄に保つことができる。また、溶融亜鉛メッキ後にプレス加工を行うことができるため、作業工程の変更により、従来と比較して作業工数を著しく削減することができる。
【0019】
本発明の特徴は、固体潤滑作用の特性を利用して金属接触時の摺動性の良さを生かすことを前提としている点にある。この方法で更に他の規格においても十分な信頼性が得られれば鋼管と金型の間に起こりうるトラブルのほとんどを解決することができる。
【0020】
図3及び図4は、本発明の鋼管のプレス加工方法に用いる金型の表面性状を例示する図である。
【0021】
本発明において、優れた摩擦・摩耗特性を有するDLC皮膜の性能を発揮させるためには、加工中に金型から膜が剥離しないように十分な密着力を得るための工夫が必要である。
【0022】
DLC皮膜の密着力を高める手段には、金型の表面性状を改質する方法と、DLC皮膜のコーティング時に金型とDLC皮膜との間に中間層を形成したり、膜構造を工夫する等の方法がある。
【0023】
本発明において前者の金型の表面性状について独自の工夫を行った。旋削による金型の加工において、送りピッチは、0.05〜0.1mm/revの範囲として切削インサートの刃先R
ならびに切り込み深さの調整により、図3(a)に示すようなRz(最大高さ)2μm程度の仕上げ面を形成し、熱処理によってHRC60程度の硬さに仕上げる。なお、この後に窒化等の表面硬化処理を併用することも可能である。その後、サンドブラスト処理により図3(b)に示すような、旋削時の送りピッチの規則性が認められない程度まで表面に凹凸を形成する。この処理により得られる表面粗さRzは、旋削加工によるRzと同等程度にとどめる必要がある。
【0024】
また、ここで示したRzの値は、コーティングするDLC膜厚の0.4〜1.0倍の範囲が適性である。Rzの値をDLC膜厚の0.4倍以上とするのは、DLC皮膜と接触する金型の表面積を大きくすることによって、DLC皮膜と金型との密着力を確保するためである。一方、Rzの値をDLC膜厚の1.0倍以下とするのは、DLC膜厚の1.0倍を越えるとDLC皮膜と金型との密着力が向上しなくなるうえ、加工荷重が増大するからである。このような関係のもとにDLCコーティングされた金型の断面を図4(a)に模式的に示す。金型表面の凹凸の存在は摩擦係数が増大し、加工荷重の増大をまねく、しかしながら硬質材料であるDLC皮膜の凸部は微小チッピングにより数十回程度の加工により図4(b)に示すような平滑化が生じる。いわゆる当たりが出ることで加工荷重は20〜30%低減された状態で安定して加工を続けることが可能になる。
【0025】
コーティング膜厚と金型の表面粗さ(Rz)の関係は、DLC皮膜が定常的な摩耗により摩滅して、図4(b)中の破線に示すように全面的な平滑面が得られた揚合においても下地基板が露出しないような条件を満たすことが望ましい。溶融亜鉛メッキ鋼管の管端を冷間プレスして拡管または縮管する際の潤滑特性を得ることができるDLCのコーティング膜厚範囲は3〜10μmであり、望ましくは4〜6μmである。
【0026】
なお、本発明においてコーティング可能なDLC皮膜は、前述した表面性状の工夫により加工中に金型から剥離しない密着力が得られるならば、合成方法、膜構造、添加成分についての制約は無い。
【実施例】
【0027】
図2に示す本発明の鋼管のプレス加工を下記条件で実施した。
<実施条件>
・溶融亜鉛メッキ鋼管 :STK400(JIS G3444)
HDZ55(JIS H8641)
・鋼管端部の外径D :190.7mm、板厚:5.3mm
・金型 :SKD11(JIS G4404)
・DLCコーティング:ta-C、a-C
【0028】
金型4は、SKD11の円形材を金型寸法に旋削加工後、熱処理を施して、表面硬度HRC60以上とし、旋削加工が施された金型の表面粗さは、最大高さRzがダイアモンドライクカーボンの膜厚の0.4〜1.0倍とした。DLC皮膜5bは、研削面に60〜90μmのグリーンカーボランダム粒子によるサンドブラスト処理を施し、RFプラズマCVD装置でシリコン添加した厚み3〜10μmの多層構造のDLC皮膜を生成した。
【0029】
溶融亜鉛メッキ鋼管1bは、前処理として、脱脂、酸洗、フラックス処理を行い、450℃程度の溶融亜鉛浴に鋼管を浸漬して、鋼管表面に亜鉛を付着させた後、60〜70℃程度の水に浸漬して冷却し、その後空冷した。
【0030】
上記の条件により実施した結果、高い潤滑特性を得ることができ、加工油やポリエチレンシートを使用することなく、効率的なプレス作業を実現することができることがが確認された。
【符号の説明】
【0031】
1a 鋼管
1b 溶融亜鉛メッキ鋼管
2 加工油(鉱物系、添加剤無し)
3 ポリエチレンシート
4 金型
5a加工油
5b ダイアモンドライクカーボン(DLC)皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
旋削加工及びサンドブラスト処理が施された金型の表面に、ダイアモンドライクカーボンからなる膜厚3〜10μmのコーティングを施した摩擦係数0.1〜0.3の金型を用いて、溶融亜鉛メッキ鋼管の管端を冷間プレスして拡管または縮管することを特徴とする鋼管のプレス加工方法。
【請求項2】
前記旋削加工が施された金型の表面粗さは、最大高さRzがダイアモンドライクカーボンの膜厚の0.4〜1.0倍とすることを特徴とする請求項1に記載の鋼管のプレス加工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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