説明

鋼管型サポートとその支持方法

【課題】軽量化を図って作業効率・安全性を確保し、強固さも得ることができる鋼管型サポートとその支持方法球を提供する。
【解決手段】円形基台とこの円形基台を収納する内径の大きさの外管とこの外管の内部に収納される内管とから構成し、外管は内側にネジを切り、内管は外管の内部のネジと螺合するネジを外側に切り、ネジの直上側面に開口部を有し、最上部を上部プレートで覆って成る鋼管型サポートを仮受杭と仮受構造物の間に設置し、開口部を介して油圧ジャッキを鋼管型サポート内部に設置し、加圧することで外管と内管とを持ち上げ、持ち上がった量だけ外管を廻して下方向に下げて締め付け、その後、油圧ジャッキの荷重を開放し、油圧ジャッキを撤去し、鋼管型サポートのみに仮受構造物の荷重を伝達させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物のアンダーピニング工事や免震工事における建物の支持のための装置とそれを用いた支持方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
〈従来のアンダーピニング工事〉
構造物(建物)を構築するに当っては、図8(1)のように、地中に多数の基礎杭42、42を先端が岩盤等の支持層に達するまで打ち込み、その上に基礎を設けて構造物40を作るのであるが、これらの基礎杭42が支持層に達していなかった場合は基礎杭42の先端が支持層上に安定するまで沈下するので構造物40も基礎杭42と共に沈下することとなる。
このように沈下した構造物40を元の状態に戻すには、従来は次のようにしていた。
まず、図8(2)に示すように構造物40の基礎下面に当る部分の土を掘り出して基礎杭42の上部を露出させて作業員が作業できる空間を確保する。
次に、図8(3)に示すように構造物40の基礎下面に当っている基礎杭42、42の上端部分を切除する。
これら切除された基礎杭42、42の上面にプレート22を図8(4)に示すように設置して、基礎杭42とプレート22の間を溶接・固定する。
そして、図9(5)に示すように、構造物40とプレート22との間に安全ナット付ジャッキ90を挿入する。安全ナット付ジャッキ90は対象物に接して押し上げる当接部90aとこの当接部90aを上下させるストローク部90bとストローク部90bを駆動する油圧機構を内蔵する本体90hとを備えた通常のジャッキに加えて、ストローク部90bの外周にネジを切ってかつこのネジに螺合するナット部90nを備えて成る。
次に、ジャッキ90でストローク部90bを図8(6)に示すように上昇させ、構造物40を押し上げ、所要の高さに達したら押し上げをストップする。
この状態で油圧機構を解除して油圧力を開放するとストローク部90bが下降するので、これを阻止するため図8(7)に示すようにナット部90nを回して下方まで下げると鉛直荷重を機械的に保持することができる。。
最後に、掘った土を元に戻してジャッキ90ごと埋め(埋殺し)れば、沈下した構造物40を元の状態に戻す工事は終了する。
【0003】
〈従来のアンダーピニング工事の欠点〉
ところが、安全ナット付き油圧ジャッキ90は安全ナットと油圧ジャッキが一体となっているため、重量が非常に重く、人間の手で持ち運んだり、設置することが困難であった。
さらに、ジャッキ90が埋殺しされるので極めて不経済であった。
【0004】
〈従来の免震工事とその欠点〉
既存の建物の免震工事においても、従来工法は上記アンダーピニング工事と同じように行われている。すなわち、構造物40の基礎下面に当る部分の土を掘り出して基礎杭42の上部を露出させて構造物40を支持し、免震装置を取り付ける基礎下免震が多く行われている。基礎下を掘削して構造物40を支える際、安全ナット付ジャッキが使用されることが多い。
このように、支持を必要とする工事は大半が構造物の基礎下での作業であり、空間の狭い所が多く、重機(通常、250kg〜300kg)を使用しての作業が困難であった。
そのため、極小の機械を使って人力で設置する必要があるので作業時間がかかり、かつ、はさまれ事故の危険性があった。
また、ジャッキのみで構造物を受けることから、構造物下の空間が大きい場合は高さ調整部材をジャッキと構造物の間に挿む必要があり、地震時等には不安定な構造となった。
【0005】
〈本出願人の先行発明〉
上述の従来工法はジャッキが埋殺しされるので極めて不経済であるという観点から、本出願人は特許文献1記載のような先行発明をしている。
これによれば、油圧シリンダ部分とネジ部分を別体に作り、しかもネジ部分が油圧シリンダ部分を取りまく受台に形成したのでその高さを上昇高さに近づけることができ、かつコンクリート打ちに当っては受台だけを埋没すればよいことに着目し、この受台のネジ部分は油圧シリンダにより押し上げられた構造物を単に下降しないように支えるだけのものであるから、ネジ構造も極めて簡単なものにできたのである。
しかしながら、特許文献1記載の工法は、4本の直管を矩形配置するため安定性に欠ける欠点があった。したがって安定性を良くするには高さを高くできないという制約があった。
さらに、4本の直管のそれぞれのナットを下げるので作業性が良くなかった。 また、下部台板と4本の直管と上部台板とが既に一体になった受け台として使用するので重量が重くなり作業性が悪かった。
【特許文献1】特開昭62−182323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、重量の安全ナット付きジャッキおよびを特許文献1記載の受け台を使用しないことにより軽量化を図って作業効率・安全性を確保し、しかも安全ナット付きジャッキを使用したと同じような強固さを得ることができる鋼管型サポートとその支持方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、請求項1記載の鋼管型サポートの発明は、円形基台と、該円形基台を収納する内径の大きさの外管と、該外管の内部に収納される内管と、から成る鋼管型サポートであって、前記外管は内側にネジを切り、前記内管は前記外管の内部のネジと螺合するネジを外側に切り、該ネジの直上側面に開口部を有し、かつ最上部を上部プレートで覆っていることを特徴とする。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の鋼管型サポートにおいて、前記外管が外側にリブプレートを長さ方向に複数本備えていることを特徴とする。
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の鋼管型サポートにおいて、前記円形基台が円形プレートと該円形プレートの下方に溶接された十字プレートから構成されていることを特徴とする。
【0008】
請求項4記載の鋼管型サポートによる支持方法の発明は、請求項1〜3のいずれか1項記載の鋼管型サポートを杭と構造物の間に設置し、前記鋼管型サポート内部に前記開口部を介して油圧ジャッキを設置し、該油圧ジャッキを加圧することで前記鋼管型サポートの外管と内管とを持ち上げ、持ち上がった量だけ前記外管を廻して下方向に下げて締め付け、その後前記油圧ジャッキの荷重を開放し、前記油圧ジャッキを前記開口部を介して撤去し、前記鋼管型サポートのみに構造物の荷重を伝達させ支持を行うことを特徴とする。
また、請求項5記載の発明は、請求項4記載の鋼管型サポートによる支持方法において、前記油圧ジャッキを設置する前に、プレートを1枚以上前記円形基台の上に載置することを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項4または5記載の鋼管型サポートによる支持方法において、前記鋼管型サポートと前記構造物との間に無収縮モルタルを充填することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記構成により、本発明は従来の安全ナット付きジャッキによる支持方法に比べて、以下の効果を有するようになる。
(1)鋼管サポート部と油圧ジャッキ部が分離しており、かつ、油圧ジャッキは脱着型のため、本体自体が軽量化できる。
また、鋼管サポート部も3つに分離できるので施工時は容易に持ち運びができる。したがって作業能率がよい。怪我をする恐れも少ない。
(2)油圧ジャッキを取り外すことできるため、支持したままコンクリートに埋め込みができる。
(3)鋼管型サポート10は必要な能力に応じたサイズに製作できる。
(4)鋼管全体で受ける構造のため、水平力に対し抵抗力が大きい。
(5)安全ナット付きジャッキに比べ、大幅なコストダウンが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を基に説明する。
〈本発明に係る鋼管型サポートの構成〉
図1は本発明に係る鋼管型サポートの主要部を構成する分解斜視図である。 図1において、本発明に係る鋼管型サポート10は次のような基台11と外管12と内管13とから成る。
〈基台11の構成〉
基台11は円形プレート11aとこの円形プレート11aの下方に溶接された十字プレート11bから構成されている。基台11は水平荷重がかかった際の鋼管型サポートの滑り止め及び浮き上がり防止するために使用されるもので、杭側の下部プレート22(後述)に溶接・固定される。
〈外管12の構成〉
外管12は、内部に若干の隙間をおいて基台11の円形プレート11aを収納する内径の大きさの鋼管12aであって、その内側にネジ12cを切り、外側にリブプレート12bが長さ方向に複数本形成した外管である。このリブプレート12bは鋼管12aを回転させる際にここを持って回転させ易くするためのものである。
〈内管13の構成〉
内管13は、外管12の内部のネジと螺合するネジ13cを外側に下半分程度切った鋼管であって、そのネジ13cの直上側面に開口部13bを有し、最上部を覆う上部プレート13aとからなっている。開口部13bの大きさは、開口部13bよりその内側にプレート50(後述。図3)や油圧ジャッキ60(後述。図3)を出し入れできる大きさとなっている。
【0011】
〈鋼管型サポートの使用方法〉
この鋼管型サポート10は杭と構造物の間に設置し、鋼管型サポート内部に油圧ジャッキを設置し、これを加圧することで、鋼管型サポート全体が持ち上がり、持ち上がった量だけ外管を廻して下方向に下げ締め付け、その後油圧ジャッキの荷重を開放し、鋼管型サポートに荷重を伝達させ支持を行うものである。
以下に、鋼管型サポートの使用方法について図2〜図6に基づいて詳しく説明する。図2〜図4は本発明に係る鋼管型サポートの使用方法を説明する図で、鋼管型サポートについては断面図で示している。図5および図6は図2〜図4で説明する使用方法の一状態に対応する正面図である。
【0012】
1)図2(1)で、まず、杭21上に下部プレート22を設置し溶接する。ここまでの手順は図8で説明した従来工法であるので説明を省略する。そして、この下部プレート22上に基台11の十字プレート11bを設置し溶接する。
2)図2(2)で、内管13を収納した外管12を基台11に被せて、下部プレート22の上に載置する。この状態で既存構造体40と内管13の上部プレート13aとには隙間がある。図5の(5−2)はこの状態の鋼管型サポート10の正面図であり、内管13は外管12の内部ネジと全部螺合して最下部に下りており、開口部13bが外管12から露出しているのが判る。
3)図2(3)で、既存構造体40と上部プレート13aとの隙間に無収縮モルタル30を充填する。図5の(5−3)はこの状態の鋼管型サポート10の正面図を示している。ここで無収縮モルタル30を充填するのは、既存構造体40の下面が凸凹の場合に凸凹を均し、上部プレート13aに均等に接触させるためである。
4)図2(4)で、開口部13b(図1、図5(5−4))から1枚目のプレート50を鋼管型サポート10の内部に挿入して、基台11の円形プレート11aの上に載置する。これは使用するジャッキのストロークが長いもの(すなわち、大型のもの)を使用しなくてもよいようにゲタを履かせるためである。図5の(5−4)はこの状態の鋼管型サポート10の正面図を示している。
5)図3(5)では、複数枚(図では5枚)のプレート50を挿入して、開口部13bの下端程度まで積み重ねた状態が示されている。これらのプレート50の最上部にジャッキ60を乗せて使用するので、ジャッキ60のストロークはこの位置から構造体40を所望の高さまで達する長さものでよく、従来工法と比べて小型のジャッキでよいこととなる。
6)図3(6)で、開口部13b(図1、図5(5−4))からジャッキ60を挿入して、最上段のプレート50の上に置く。図5の(5−6)はこの状態の鋼管型サポート10の正面図を示している。
【0013】
7)図3(7)で、ジャッキ60を加力するとジャッキ60の当接部60aが上部プレート13aに接する。図6の(6−7)はこの状態の鋼管型サポート10の正面図を示している。
8)図3(8)で、ジャッキ60をさらに加力するとジャッキ60の当接部60aが上部プレート13a毎上に持ち上げ、さらに既存構造体40を図でT1(例えば数ミリ)上に持ち上げる。図6の(6−8)はこの状態の鋼管型サポート10の正面図を示している。
9)図4(9)で上方に持ち上げられた外管12を回して内管13に沿って下げて下部プレート22に接触するまで回す。図6の(6−9)はこの状態の鋼管型サポート10の正面図を示している。
10)図4(10)でジャッキ60の油圧機構を開放して、当接部60aを上部プレート13aから離間させる。
11)図4(11)でジャッキ60を撤去する。
12)図4(12)で複数のプレート50を撤去し完了する。図6の(6−12)はこの状態の鋼管型サポート10の正面図を示している。
【0014】
以上の方法によれば、既存構造体40は最終的に基台11と外管12と内管13だけで支持されることとなり、ジャッキ60は不要なので撤去され、その後、既存構造体40の下まで土を戻しても高価なジャッキ60は埋め殺しとはならない。
【0015】
〈鋼管型サポートの特長〉
鋼管型サポート10は図9の安全ナット付きジャッキ90による支持方法に比べ、以下の特長を有する。
(1)鋼管サポート部と油圧ジャッキ部が分離しており、かつ、油圧ジャッキは脱着型のため、本体自体が軽量化できる。また、鋼管サポート部も3つに分離できるので施工時は容易に持ち運びができる。したがって作業能率がよい。怪我をする恐れも少ない。
(2)油圧ジャッキを取り外すことできるため、支持したままコンクリートに埋め込みができる。
(3)鋼管型サポート10は必要な能力に応じたサイズに製作できる。
(4)鋼管全体で受ける構造のため、水平力に対し抵抗力が大きい。
(5)安全ナット付きジャッキに比べ、大幅なコストダウンが可能となる。
【0016】
〈鋼管型サポートを使った免震工事〉
次に、本発明に係る鋼管型サポートを使った免震工事について、図7に基づいて説明する。図7の(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
図において、21は仮受杭、40は既存構造体、41は建物柱、42は既存の杭で、10が本発明に係る鋼管型サポート、Mが免震装置である。
図から判るように、既存構造体40の交差する位置(図7a)の建物柱41に近い各既存構造体40の下に仮受杭21を2〜4カ所設け(図では4カ所)、その上に本発明に係る鋼管型サポート10を置いてそれぞれの部位にて図4−12の建物の仮受けをさせる。図4−12の建物の仮受けが完了した後に、その中央部の建物柱41下の基礎フーチング(図b)の下の既存の柱42の上に免震装置Mを設置する。その後、鋼管型サポート10を撤去することで、免震工事は終了する。
このようにすることで、本発明では従来の重量の安全ナット付きジャッキを使用しないので、安全にかつ作業効率良く免震工事ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る鋼管型サポートの主要部を構成する分解斜視図である。
【図2】本発明に係る鋼管型サポートの使用方法を説明する1/3部分であり、鋼管型サポートについては断面図で示している。
【図3】本発明に係る鋼管型サポートの使用方法を説明する2/3部分であり、鋼管型サポートについては断面図で示している。
【図4】本発明に係る鋼管型サポートの使用方法を説明する3/3部分であり、鋼管型サポートについては断面図で示している。
【図5】図2〜図3で説明する使用方法の一状態に対応する正面図である。
【図6】図3〜図4で説明する使用方法の一状態に対応する正面図である。
【図7】本発明に係る鋼管型サポートを使った免震工事を説明する図で、(a)は平面図、(b)は縦断面図である。
【図8】従来の工法を説明する図の前半部分である。
【図9】従来の工法を説明する図の後半部分である。
【符号の説明】
【0018】
10 鋼管型サポート
11 基台
11a 円形プレート
11b 十字プレート
12 外管
12a 鋼管
12b リブプレート
12c ネジ
13 内管
13a 上部プレート
13b 開口部
13c ネジ
21 仮受杭(基礎杭)
22 下部プレート
30 無収縮モルタル
40 既存構造体
41 建物柱
42 既存の杭
50 挿入用プレート
60 油圧ジャッキ
60a 当接部
M 免震装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円形基台と、該円形基台を収納する内径の大きさの外管と、該外管の内部に収納される内管と、から成る鋼管型サポートであって、
前記外管は内側にネジを切り、前記内管は前記外管の内部のネジと螺合するネジを外側に切り、該ネジの直上側面に開口部を有し、かつ最上部を上部プレートで覆っていることを特徴とする鋼管型サポート。
【請求項2】
前記外管は外側にリブプレートを長さ方向に複数本備えていることを特徴とする請求項1記載の鋼管型サポート。
【請求項3】
前記円形基台は円形プレートと該円形プレートの下方に溶接された十字プレートとから構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の鋼管型サポート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の鋼管型サポートを杭と構造物の間に設置し、前記鋼管型サポート内部に前記開口部を介して油圧ジャッキを設置し、該油圧ジャッキを加圧することで前記鋼管型サポートの外管と内管とを持ち上げ、持ち上がった量だけ前記外管を廻して下方向に下げて締め付け、その後前記油圧ジャッキの荷重を開放し、前記油圧ジャッキを前記開口部を介して撤去し、前記鋼管型サポートのみに構造物の荷重を伝達させ支持を行うことを特徴とする鋼管型サポートによる支持方法。
【請求項5】
前記油圧ジャッキを設置する前に、プレートを1枚以上前記円形基台の上に載置することを特徴とする請求項4記載の鋼管型サポートによる支持方法。
【請求項6】
前記鋼管型サポートと前記構造物との間に無収縮モルタルを充填することを特徴とする請求項4または5記載の鋼管型サポートによる支持方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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